AM00:15 都内、某焼肉食べ放題店
「こら美味いこら美味いっ!!」
「あ、先生ずるいっ! それは拙者の骨付きカルビでござったのに・・・・っ!!」
「やかましいっ、そんなんだからお前は資格試験に落ちるんじゃっ!」
「全然理屈がわからんでござるっ!!」
「すんませ―んっ、牛タン2皿追加〜〜。」
「ご飯もお代わりでござる〜〜。」
同時にお皿と茶碗を店員に向かって突き出す横島とシロに、タバコをふかす百合子は深くため息をついた。
「まあ、なんとなくあんたらが師弟関係ってことは納得できるけど・・・・」
タバコを灰皿に押し付けると、百合子は窓からぼんやり外を眺めた。
「・・・・・な―んか忘れてる気がするわねえ・・・・」
きつねレポート
火鳥風月 −4番−
『ぐぎゃおおおぉ――――っ!!』
黒い霧の立ち込める中、羽ばたきと共に炎を撒き散らす巨大な火の鳥は、時折放電する霊波に翻弄されながらも鳴き続けた。 口から何度も火を吐くも、それは霧の中に散らばっていく。
『くわっきゃ―――っ!!』
暴れるように飛びながら、火の鳥は見えない空に向かって声をとどろかせた。
ぴゅりりりりり・・・・・・っ!!
かすかに発光する魔法陣の上に立つおキヌとリンは、横に並んで笛を吹いていた。 音色にあわせ、魔法陣の光が広がったり、縮まったりと波打つ。
「4隻とも目標の射程圏内に入りましたっ!」
「現状を維持してそのまま待機っ! ネクロマンサーの効果が最大限になった瞬間を狙いますっ! 共振波レベルは!?」
「プラス8.3マイトっ!! ミス氷室の周期に最大2.7のぶれがありますが・・・・!?」
「こちらで修正なさいっ! 拮抗状態を崩したら突破されるってわかってるでしょう!!」
腕組みをして立っていた美智恵はしっかりと結んだ口をさらに固くした。
「美神隊長。」
西条が美智恵の後にそっと歩み寄る。 目で周りをざっと確認し、そっと耳打ちする。
「事務所と連絡が取れません。 張っていた家の連中が、何者かに殺害されたという報告も・・・・」
「・・・・・令子とひのめは・・・?」
「それが・・・・」
「大丈夫、2人共私の娘だもの。」
と、ブリッジに入ってきた艦長に美智恵と西条はばっと敬礼する。
「上のほうからお達しがきましたぞ。 娘さんの行方がわからなくなったそうで・・・・」
「勝気な娘達ですから・・・・きっと駄菓子屋に買い食いにでも行ったのでしょう。」
「そう願いたいですよ。」
「・・・・・・」
艦長は苦笑してふいと顔を背ける。 美智恵は何も言わず、甲板で笛を鳴らすおキヌとリンを見下ろした。 ぴゅりゅるるるるる・・・・ 額から垂れる汗がおキヌの鼻筋をつたった。
(・・・・朱雀様・・・・火の鳥様・・・・・どうしてそんなに悲しんでらっしゃるのですか・・・・?)
ぴゅりゅるるるる・・・・・
(・・・・どうか・・・・どうかお声をお聞かせください・・・・・あなたは何をしようとしているのですか・・・・・?)
ぴゅりりりり・・・・・
(土地を治めてきたあなたが、何故大地を火で埋め尽くそうというのです・・・・・・同じ神や、人を襲おうというのです・・・・・・・)
ぴりゅるるるる・・・・・
(どうか怒りをお静め下さい・・・・・あなた様の痛みを、私に教えてください・・・・・)
『・・・・ぬな・・・・』
「!?」
笛を吹き続けながらもおキヌは目を見開いた。 霧がかる海には何も見えない。 隣のリンに顔を向けると、リンもおキヌの目を見返して頷いた。 おキヌはまた空に向かって目を閉じる。
(・・・・・・朱雀様・・・・火の神様・・・・・)
『・・・・死ぬな・・・我が子よ・・・・』
ぴりりりり・・・・
(・・・・・・子供・・・・あなた様の子が、どうしたんです・・・・!?)
『・・・・死ぬな・・・・死んではならん・・・・』
おキヌの額からさらに汗が噴き出してきた。 眉がぐっと寄る。
(あなた様の子に何かあったのですね・・・・・その為に悲しんでおいでなのですね・・・・)
『・・・・命がいる・・・・強い命が・・・・ わしにはもう力がない・・・・』
ぴりゅりりりり・・・・
(命・・・・子を助けるために、誰かの命を・・・・・!?)
『毒・・・・人間の毒か・・・・!? 何故だっ、何故我らだけがこうも一方的に死なねばならん・・・・・っ!』
ぴりり・・・・ おキヌの口から笛が離れた。 リンが驚いておキヌを見上げる。
「っ!? 霊波共振波が出力下がりましたっ!! プラス5を割ります・・・!!」
「おキヌちゃん・・・っ!?」
ばんと窓に張り付く美智恵はブリッジから駆け下りようとした。
「結界が限界ですミズ美神っ、このままでは突破されます・・・・っ!!」
「ミサイル発射だっ、カウントスタートしろっ!!」
「艦長っ!?」
足を止める美智恵は艦長に掴みかかった。
「まだ早すぎますっ、今の状態では・・」
「カウント開始だっ!」
「イ、イエス!!」
部下の確認を受け、艦長は美智恵に顔を向けた。
「タイムアウトです。 あの鳥を日本にあげるわけにはいかない。」
「今回の作戦全ての権限は私にあるはずですっ! カウントを止めなさいっ!!」
「カウントは続けろっ!!」
怒鳴る艦長の声に美智恵はたじろぐ。 艦長は目を見開いて見てくる美智恵を見返す。
「・・・・・これが私の仕事なんです。」
「そうでしょう・・・・そうでしょうね・・・・」
「あなたは、あわよくばネクロマンサーのみであの鳥を鎮めるつもりだったのでしょう・・・・」
「・・・・・・」
美智恵は唇を噛み締める。
「共振波がレッドライを割りましたっ!」
「ミサイル発射5秒前っ!」
「なんとしても当てろっ!」
「・・・2、1、発射っ!!」
どどしゅっ!!
「――――っ!!」
座り込んでいたおキヌはその轟音に顔を挙げた。 光が白い煙をふいていくつも霧の中に飛び込んでいく。
「逃げて・・・逃げて――――――っ!!」
一瞬白い光が霧を振り払って広がり、それに続いて赤い光が広がる。 どごおおおおおんんっ!! 振動に艦は揺れ、甲板で倒れこむおキヌをリンが支えた。
「・・・・氷室さん・・・っ!!」
「・・・・・・」
顔を伏せたままのおキヌに、リンは手を伸ばそうとしたがそれはおキヌに届く前に止まった。
「うっ・・・くっ・・・・ううう・・・・っ!!」
拳を握り締め、おキヌは笛を甲板に叩きつけた。 ばきんっと笛が砕け、破片がころころと転がっていく。
「・・・・・ っ!?」
そんなおキヌを黙ってみていたリンは、まだ赤い空にばっと顔を向けた。 と、いきなりおキヌに覆い被さるようにして甲板に倒れこむ。
「伏せなさいっ!」
「っ!?」
ごおおおおおおおおお・・・・・っ!! 巨大な火の鳥が、焼ける体で艦に突っ込んできた。 2人のいる甲板の上を通り過ぎ、ブリッジに体当たりをしてぶち抜くと、そのまま空に飛び上がっていく。
「隊長さんっ! 西条さん・・・・っ!!」
爆発し、火の手を上げるブリッジのあった場所におキヌは悲鳴を上げた。 立ち上がろうとして、背中の焼け爛れたリンが倒れ込んでいるのが目に入る。
「リ、リンさん・・・っ!?」
真っ赤に焼け爛れる背中にヒーリングを当てながら、おキヌは慌ててリンを抱き起こした。
「・・・・あの神様の怒り・・・・これほどまでに深いのですね・・・・」
「しゃべらないでくださいっ! ヒーリング弱くて・・・・誰かっ、誰か来て――――っ!!」
ぼろぼろ涙を零すおキヌにリンは笑って見せた。
「駄目ですよ・・・・ネクロマンサーが笛を捨てては・・・・」
「しゃべっちゃ駄目ですよぉ―・・・・・!」
どんっとまた爆発が起こる中、クルーがおキヌ達に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですかっ!?」
「リンさんが怪我をしてるんですっ、なんとかしてあげてくださいっ!!」
「救援を呼びましたっ、ボートで脱出しますっ! おいっ、医療班とタンカをっ!!」
クルーは叫びながらまた走っていく。
「おキヌさん、これを・・・」
「えっ・・・」
震える手を挙げ、リンは自分の握っているネクロマンサーの笛をおキヌに差し出した。
「古いものですけど・・・・よかったら使ってちょうだい。」
「やめてくださいっ、こんな・・・・お別れみたいな・・・・・」
「・・・・おキヌさん・・・あなたと会えてよかったわ・・・・・自分に孫ができたみたいだったわ・・・・」
優しく笑い、リンは指先でおキヌの髪を撫でる。
「うううう〜〜・・・・っ!!」
唸るように声を絞り出すおキヌは、ぽろぽろぽろぽろ涙を零した。 すっとリンの目が閉じ、落ちる腕をおキヌは受け止めて握った。
「氷室さん・・・・ っ!?」
先ほどのクルーが数人でタンカを持ってきた中、おキヌは笛を握ったまま、リンを抱きしめて泣きじゃくっていた。
「・・・・・急いでください。 この艦だけでなく、他の3隻も沈みかけています。」
「・・・・あの火の鳥は・・・・?」
顔を上げずに聞くおキヌにクルーは唇を噛み締めた。
「・・・・生きてます。 あのまま日本へ・・・・陸からの対空ミサイルでは、迎撃は無理でしょう・・・・」
リンがタンカに乗せられ、おキヌはクルー達に案内されながら甲板を走る。
「美神隊長は無事なんですかっ!?」
涙の跡を拭きながらおキヌは聞いた。
「Gメンの方はなんとか御無事です。」
「なんとか鳥に追いつけませんか!? 私・・・・私あの鳥のところへ行かないと・・・っ!!」
「無理ですよっ!! この状況じゃ我々が助かるかどうかも怪しんですっ!!」
縄梯子などで海面のゴムボートに下りる人込みの中、おキヌは火の鳥の飛んでいった空を見上げた。
(ひのめちゃん・・・・・タマモちゃん・・・・・っ!!)
東京都内
うううう――――――っ!!
「何だぁ?」
「サイレン・・・・? 聞いた事ねえぞこんなの。」
サイレンはビルに反響し、通りという通り、駅という駅、全ての建物、家にぶつかって更に響いた。
「なんだいこれは?」
「せ、先生・・・・東京にはこういう習慣があったでござるか?」
「ないわいあほっ! ちょっとあそこで・・・」
言うなり早足になる横島に、百合子とシロは続く。 駅ビルの巨大テレビを見上げる人だかりに混じった3人は、スーツ姿のアナウンサーが数枚の紙を持って映っているのを見上げた。
『緊急のニュースをお伝えいたします。 ただいま内閣管理庁から発表があり、未確認の巨大な火の鳥が関東地方を目指して接近中・・・・関東地方全域に非常事態宣言を出し、避難命令が下されました・・・・っ!! じゅ、住民の皆さんは速やかに非難をお願いしますっ!! てゆ――か私は逃げるっ!! 逃げるぞ〜〜〜っ!!』
『あぁっ、こら貴様――っ!!』
がっぴ―――っというマイク音が響き、あわくってキャスターが画面から走り去った。 ざわめく人だかりの中、百合子は口をあんぐり開けている横島の耳を引っ張った。
「ちょっと忠夫、何よこれは?」
「さ、さあ・・・・」
と、モニターの画面が変わり、海の上を羽ばたく巨大な火の鳥を映した。 ばらばらというヘリの音がテレビから流れる。
『こちら日本海上でヘリコプターからの映像です!! こ、これが問題の怪鳥ですっ!! ごらんいただけるでしょうか・・・・推定60メートルはある火の精霊と専門家は言っています!! 政府はオカルトGメンと自衛隊による除霊作戦を実行しつつも失敗したとありますっ!! この事実を隠しつつも、我々市民に・・』
「「「「「あ・・・」」」」」」
画面に向かってしゃべっているアナウンサーの向こうから、巨大な火の鳥がまっすぐに迫ってきた。
『こんな失態が許されていいので・・・・・え、何? 後・・・・・おおっ!!!?』
アナウンサーが火の鳥の方へ顔を向けたときには、既に画面は真っ赤な火の鳥の炎で埋まった。
『ぎゃ――――っ!? ぴっ、ががっが―――――・・・・・・・』
画像が大きく跳ね、ざ――っと真っ黒になる・・・・
「に、逃げろ―――っ!!」
「地方へ・・・田舎へ帰る〜〜〜〜っ!!」
「ひ――――っ!!」
パニックなる人込みに横島達はもみくちゃにされた。
「ど、ど―するでござる先生っ!?」
「ど―したもこ―したもあるか―――っ! とりあえず美神さんに相談じゃ―――っ!!」
「こら忠夫っ! あんたGSならあれくらいパパパ―っとやっつけられないのかいっ!?」
「そ―でござるっ!! 明日太郎とかをやっつけたんでござろうっ!?」
「ええ――っい簡単に言うな簡単に・・・っ!! それに明日太郎じゃなくてアシュタロスじゃ!!」
人込みに押されながらもお互いの服を掴んで離れないようにしていた横島達は、ビルの壁によって人の流れから離れる。
「と、とにかく連絡を・・・・お袋、事務所に頼むっ!!」
「こんなパニックじゃ携帯も混乱しそうだけど・・・」
言いつつもバッグから携帯を出した百合子はボタンを叩いて耳に当てる。
「・・・・・? 駄目、つながらないわ・・・・」
「っ!! もしや、今朝隊長がおキヌ殿を連れ出したのはあの火の鳥退治のためでござろうか・・・・・!?」
「なっ・・・本当かお袋っ!?」
シロの言葉に横島は百合子に掴みかかった。
「え、ええ・・・・そうね。 多分、チロちゃんの言う通りよ。」
「くっそ〜〜〜・・・・なんで美神さんは俺らに何も言ってくれんかったんだ!! なんとか事務所に行かねえと・・・・」
ちらっと顔を見てきた横島に百合子は笑った。
「何してるんだい、さっさと行きな。」
「いや、けど母さんをっ・・・」
「母さんをだれだと思ってるの? あっちじゃ時々会社にくるゲリラと渡り合ってるのよ? このくらいの騒ぎは日常茶飯事・・・・あんたは気にせず行きなさい。」
「――――すまんっ! よしシロ、俺を担いで事務所まで走れっ! 人込みが邪魔だから建物の上を突っ走れっ!!」
「オッスでござるっ!! ではお母様っ、近々またっ!!」
ぴょいと飛び乗る横島を背負い、シロは百合子に会釈する。
「2人共、しっかりね。」
ぴょんと飛び跳ねたシロは、人込みの何人かの頭を踏みつけ跳ねていく。 そして駅の屋根を跳び越え百合子の視界から消えた。
「はあ・・・・で、どうしようかしら・・・・? 公共機関はパンクだろうし、後何時間の猶予があるんだか・・・・いっそこの騒ぎに乗じて金目のものでも・・・・いやいや・・・・」
呟くそばから道路では車が数人の人を巻き込んでぶつかり、クラクションと悲鳴が静まらずにいる。
「んん〜・・・・・ お?」
腕組みして目線を落とした百合子は、横島が落としていった見鬼君がぴこぴこ腕を振っているのを見つけた。
「・・・・・何これ?」
すっと拾い上げると、くる〜りと回転したそれは一定の方角に止まって腕を発光させつつ振る。
「こっちに行けっての・・・・?」
『ふ・・・っははははっ! もろいな人間ってのは。 なんでこんな奴らが偉そうに増えやがったのか理解できねえぜ。』
サンシャインビルの天辺で口を裂いて笑う大きな狼は、通りに溢れ帰る人込みや煙、火の手に前足をばんばん叩いて更に笑った。
『よう、お前もそう思わねえかガキ?』
足元には、毛布に包まったままのひのめが涙目で狼を睨みつけていた。
「うう〜〜〜・・・・っ!」
『はんっ、ガキでもさすがは美神令子の妹だな。』
「わんわっ、め〜〜・・・!!」
うすら笑うフェイ・ウーにひのめは小さな手を振った。 手のひらにじじっと霊波が集まり、次の瞬間狼の顔でぼかんっと炎があふれかえる。 が、ぷすぷすあがる黒煙の中から黒い狼は笑ったままの顔を突き出した。
『いい度胸だ・・・』
どかっ!
「あぐっ・・・ うううわあああああんん〜〜〜・・・・・っ!!」
蹴飛ばされ、ひのめはコンクリートを転がりうつ伏せのまま泣き出した。 その様子を見て喜んでいる狼は、空にばたばたと数機のヘリが飛んできたのに顔をしかめた。
『うるせ―な―・・・・』
4つ足を開いて踏ん張ったフェイ・ウーは、ぐばっと霊波をヘリに向かって吐き出した。 真っ直ぐ伸びたそれは1機のヘリのテイルローターを引き千切り、空中で回転したヘリは別のヘリを巻き込んで地上に落下した。 どががんっ・・・!!
『ひゃははははっ!』
狼は転げて笑い出す。
「おい、何やってる。」
『暇つぶしだ暇つぶし。』
金髪のタマモを腰に抱えて現れた青髪の男に狼は体を起こす。
『あん・・・・?』
歩み寄ってくる青髪にフェイ・ウーは目を細める。
「どうした? 九尾の狐は確保した。」
『・・・・どうかな。』
狼の笑みから漏れる言葉が終わる前に、青髪に抱えられるままになっていたタマモはかっと目を開いた。 青髪の腰を蹴飛ばすと床に転がるひのめに一足飛びで近づく。
『甘いね・・・っ!!』
飛び跳ねるフェイ・ウーが、ひのめに届く前にタマモの腕を踏ん付け、反対側の足で背中をも踏みつけ背後から圧し掛かる体勢になった。 タマモの手はひのめから30cmというところまでしか届かなかった。
「・・・・・くっ!」
『情けない姿だな・・・・タマモっ!!』
「フェイ・・・・・貴様・・・っ!!」
振り返って睨むタマモの後頭部をフェイ・ウーは踏みつける。
『そんな醜い姿で俺を見るんじゃねえよっ!! 人間の顔なんざ吐き気がするっ!! なんでお前がそんな姿で生きていられるか知りたくもねえが、てめえには死なれちゃこまるんだよっ!!』
「ぐっ・・・・オンキリキリサンソワカ・・・・っ!!」
『っ!?』
ばっと金髪の髪の束が溢れ伸び、視界を金色に埋め尽くされたフェイ・ウーはとっさにひのめを咥えて飛び退いた。
『お前だって死ぬ気はないって言ったろうが!?』
長く伸びる9つの髪の束が丸く球体を模してまとまり、ばんっと弾けたそこから9人の人型のタマモが飛び出した。
「分身っ!? フェイっ!!」
『亜須磨っ! このガキ頼むっ!!』
狼は首をぶるんっと振って青髪にひのめを投げ渡すとタマモの集団に突っ込む。
『手前・・・・馬鹿にしてやがるのか・・・・っ!!』
タマモの1つを食い破ったフェイ・ウーは、別のタマモが撃った銃弾を毛皮で弾き飛ばす。 そのまま5mは離れているそのタマモに爪を振るうと、霊波の刃がタマモを斬り消した。 と、反対側から飛び掛った2人が伸ばした爪を狼の横っ腹に叩き付ける。
『ふん・・・・っ!』
体をふるって2人のタマモを吹き飛ばし、フェイ・ウーは口から霊気を吐き出した。 タマモは飛んで交わす。
『くだらねえ・・・・・うわおおおおおおおおおおおおおおんんっ!!!』
「「「「「「!?」」」」」」
狼は空に向かって雄叫びをあげた。 狼の周りに円を描くように霊波が溢れ、どんっとそれが広がると屋上にいた数人のタマモを全てかき消した。
『亜須磨、影だっ!!』
「知ってるさ・・・っ!」
言うな否や、影の中から爪を突き出してきたタマモの腕を青髪は掴む。
「・・・ちっ!」
上半身を影の中から出した状態で腕を掴まれたタマモを、亜須磨は引っ張り出してそのままの勢いで投げ飛ばす。 くるっと空中で回転するタマモだが、ひのめを抱える亜須磨に体を向けて着地をするとがくっと膝をついた。
「・・・・・」
そんなタマモに亜須磨は目を細める。
『なんだよ・・・・・てめえどういうつもりだ!!』
息を切らして額に汗を浮かべるタマモの姿に狼は床をえぐる。
『本気でやってみろタマモっ! てめえがその気になりゃこんな毒溜りみてえな町、小一時間で焼き尽くせるだろうがっ!!』
「・・・・ったく、相変らずぎゃ―ぎゃ―うるさい男ね・・・」
肩で呼吸するタマモはフェイ・ウーを一瞥しながらもすぐに亜須磨を睨む。
「その赤ん坊を放しなさい・・・っ!!」
ぐっと立ち上がるタマモに亜須磨はすっと手を突き出した。
「よせ。 お前は今戦えるような体じゃなんだろう。」
『なんだと・・・!?』
「うるさいっ!!」
フェイ・ウーが目を見開いた時には、既にタマモは亜須磨に爪を伸ばして飛び掛っていた。
「無茶苦茶するなっ! 腹の中の赤ん坊みたいにお前も死ぬつもりかっ!?」
『な・・・っ!?』
「ひのめを放せと言っているだろうが――――っ!!」
手のひらにかざされたお札でタマモの爪が弾かれる。 宙でバランスを崩すタマモに亜須磨は封魔札を数枚ばら撒いた。 ばぢっと霊波で札が連なり、タマモは立ち尽くした状態で霊波に縛り上げられる。
「ぐっ・・・この・・・・っ!!」
転がるタマモに亜須磨の腕の中のひのめが手を振り回した。
「タマっ・・・・タマモ〜・・・・っ!」
「くそ・・・っ!」
タマモは亜須磨を睨み上げる。
「分かっているんだろう、お前にまで毒がまわるぞ!?」
「お前らの知ったことかっ!」
「悪いがお前に死なれると困る奴が多いんだ。 そういうチャクラの存在なんだよお前は!!」
「――――っ!!!」
ごろごろっと床を転がって亜須磨から離れると、霊波で縛られた状態のままタマモは飛び起きる。
「散っ!!」
髪の束を振り回し、封魔札と霊波を引き千切った。 と、横からフェイ・ウーがタマモに体当たりして押し倒した。
『おいっ! さっきの言葉は本当かっ!?』
「ちっ・・・・何がだ・・・・!?」
タマモは起きようともがくが黒い狼は足で手足を押さえつけた。
『赤ん坊・・・・赤ん坊だと・・・・? 誰と交わりやがったこの女狐が〜〜〜〜〜〜っ!!』
前足でタマモの顔を何度も殴り、フェイ・ウーはその大きな口でタマモの頭をくわえ込んだ。
『人間かっ!? それともあの人狼野郎かっ!?』
「・・・はんっ、あんたにゃ関係ないでしょ。」
『てめえ・・・っ!!』
黒い狼はうすら笑うタマモに頭を噛み砕こうとした。
「おい、馬鹿なことするな。」
『・・・・・』
亜須磨にびっと目の前にお札をかざされ、フェイ・ウーはそっとタマモの頭から口を離す。 と、ばしゅっと変化が解け、タマモは狐の姿に戻った。 呼吸の荒いまま横たわっているタマモを見、亜須磨は空を見上げる。
「時間がない。 俺は予定通り北へ行くから、このガキを持ってお前は西へ行け。 せいぜい鳥さんの目を引き付けろよ。」
『ちっ・・・・ったく、仕事だからな。』
狼は狐を見下ろす。
『亜須磨・・・・本当に、こいつの腹にガキがいるのか?』
「ああ・・・・既に死産だがな。 よほど赤ん坊を助けたかったんだろう、チャクラを全部駆使したようだが・・・・」
『・・・・・けっ、俺以外の野郎なんかと交わるからだっ!』
「なんだ嫉妬か? そ―いうのは仕事の後にしてくれ。 ほれ。」
亜須磨は暴れるひのめをフェイ・ウーに投げつける。
「急げよ? 鳥の動きも早そう・・・・お?」
『ん・・・?』
空を見上げた亜須磨に狼もつられた。
太陽の下を黒い影が横切り、底から黒い影が落下してくる。
「このくそ狼――――っ!!」
「『美神令子!?』」
じゃがっと伸びた神通棍が振り下ろされ、亜須磨は狐を抱え、狼はひのめを抱えて左右に飛び退いた。 ががっと床を切り裂いた後、美神は右手で神通棍、左手に拳銃を構えてそれぞれに突きつける。
「返してもらうわよ・・・・・・家の妹と、ついでに居候もね・・・!!」
『しつこいな・・・・』
「あんたが美神令子か・・・・生きている内に会えるとは光栄だな。」
ため息混じりの狼と笑う亜須磨を、美神は交互に見る。
「あんた達・・・・まさか霊峰院の関係者かしら・・・・?」
『さすが美神令子、知ってたか。』
「俗に言う、アンチ・ゴーストスイーパー・・・・・神や妖怪、精霊達が作った人間から守る為の組織・・・・私らの中じゃ特A級のお尋ね者よ。」
「お前も、俺達の間じゃ超特A級のブラックリストだがな。」
「そりゃ光栄ね。」
亜須磨にウィンクして見せると、美神はぐったりしている狐に目をやる。
「タマモまで鳥に食わせる気・・・・?」
「こいつを保護するのが仕事だ。 お前の妹は目くらましに囮にさせてもらう。」
「・・・・・悪いけどこの辺りは結界で封じさせてもらったわ、都内から逃げられると思わないでよっ!!」
「何っ!?」
『ちっ、行け亜須磨っ!! この女は俺が殺すっ!!』
「逃がすかっ!」
どんどんっ! ビルから飛び降りていく亜須磨に発砲するも、亜須磨は美神の視界から消えた。 と、背後から飛び掛ってくる黒い狼に、美神は神通棍と拳銃を突きつける。
『美神―――っ!!』
「極楽に・・・いかせてあげるわっ!!」
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【次回予告】
横島 「ちょっと待てっ! なにかかなり重要な問題発言があったぞ!?」
シロ 「きいい〜〜〜っ、先生いつの間に女狐などと〜〜〜!!」
横島 「知らん、俺は知らんぞっ!!」
おキヌ「横島さん見損ないましたっ!」
百合子「忠夫も所詮は父さんの子か・・・」
美智恵「若いっていいわね〜。」
エミ 「ま、いつかはこうなると思ったわけ。」
冥子 「横島君〜、いけないと思うわ〜。」
愛子 「青春にも限度ってものがあると思うわよ?」
小鳩 「よ、横島さん不潔です・・・」
マリア「既成事実・ですか?」
美神 「とりあえず減給・・・・と。」
パピリオ「子供はルシオラちゃんかな〜?」
美神 「次回、『火鳥風月 −5番−』」
横島 「俺は無実だというのに!!」
美神 「はいはい。」