「せ、先生文珠〜〜〜〜っ!!!」 
「言われんでも使うわいっ!!!」 
『壁』 
『壁』 
『壁』 
『壁』 
ばしゅっ どががががががが・・・・・っ!!! トラックと鳥の間に霊波の壁が現れるが、突っ込んできた鳥の嘴はそれを貫いた。 
「「「「「ひいいいいいいいっ!!!」」」」」 
『ぐわっぎゃお―――――――っ!!』 
壁に爪をも立て、鳥は嘴をねじ込んで穴を大きくしようと暴れる。 がりがりばちがりっ!! 
「けっ、結界が持たんっ!?」 
「・・・・・っ!」 
百合子は巨大な火の鳥から抱えているひのめを見る。 
(この子・・・・・この子が狙われているの・・・・っ!?) 
「に、逃げろ―――っ!!」 
「いや―――っ!!」 
トラックから飛び降りて逃げていく人が方々へ散っていく。  
「先生先生先生ど――――――――するでござるっ!?」 
「いっや〜〜〜〜美神さ〜〜〜〜〜〜んっ!!!」 


きつねレポート

 火鳥風月 −7番− 


「!」 
ひのめをしっかりと抱き、百合子はトラックの荷台から飛び降りた。 
「母さんっ!?」 
「お母様っ・・・・どちらへ行かれるんですこんな時に・・・・っ!?」 
身を乗り出す横島とシロを百合子は走りながら振り返る。 
「忠夫っ、お前はその人達を守りなさいっ!!」 
「馬鹿っ! 何言ってるかわかんねえ・・」 
『くきゃ――――っ!!』 
百合子の走っていくほうへ首を向ける鳥は、結界から嘴を引き抜いてばうっと羽ばたきあがる。 
「なんだ・・・・どういうことなんだっ!?」 
「あの鳥、お母様を狙っているでござるか!?」 
羽ばたきで起こる風に身を低くしながら、横島とシロは鳥を見上げる。 
「お袋じゃない・・・・ひのめちゃんかっ!?」 
「先生っ、拙者はお母様を・・・・っ!!」 
「シロ・・・・・すまん、頼むっ!!」 
シロの頭をなで、横島は百合子を追って走り出すシロは見送るとトラックから飛び降りる。 
「ちっきしょ―――、こんなん相手にど―すりゃいいんだ・・・・・死んだら恨むぞ美神さん・・・っ!!」 
ばしゅっと手に文珠を出し、横島はそれを鳥に向かって投げつけた。 
「喰らえっ!」 
『凍』 
じゅ・・・・っ! 投げつけた文珠は鳥の翼の熱風で蒸発する。 
「はれ・・・・?」 
『くわ――――――っ!!』 
羽ばたきでビルを倒壊させて瓦礫をばら撒く鳥は、百合子達が走っていったほうへ急降下した。 ずずんっと地が揺れる。 
「く、くっそ〜〜〜〜っ!!」 
横島はあわくって走り出した。 
「だりゃっ!!」 
霊波刀で瓦礫をはらったシロは百合子を瓦礫の下から引っ張り出した。 
「大丈夫でござるかお母様っ!?」 
「あ、ありがとうチロちゃ・・・・チロちゃんっ!?」 
白い髪を真っ赤に染めたシロは頭から出る血をを押さえる。 
「あの鳥は拙者が引き受けますゆえ、お母様はひのめ殿を連れて早く!」 
「で、でも・・・」 
『ぐわおおおおおおっ!!』 
「「!?」」 
瓦礫の下から巨体を現す鳥は潰れていない右目でひのめを見下ろす。 
『そいつか・・・・火の力・・・・・そのガキを寄越せ人間っ!!』 
「させ・・」 
「・・るか―――っ!!」 
両手に霊波刀を出したシロと、同じく両手に霊波刀を出して走ってきた横島はばしっと両手を重ね合わせる。 長く伸びる2つの霊波刀が嘴を突き出す鳥の頭を殴り飛ばす。 
『がはっ・・・!?』 
ずずんっと巨体が倒れこむ。 
「母さんっ!」 
「忠夫っ!?」 
駆けつけた横島は百合子を抱き起こす。 
「シロ、お前は逃げろっ!!」 
「嫌でござるっ! どのみち逃げる手段などないでござるよ!!!」 
「そうじゃないっ! お前は囮になって逃げて俺達は生き残るから・・」 
「あお―――ん先生の人でなし―――っ!!」 
「喧嘩してる場合じゃないでしょ―――っ!!」 
横島とシロを突き飛ばす百合子はひのめを抱えて立ち上がる。 
「GSならなんとかしなさいっ!!」 
がごんっ! 起き上がる鳥の口から炎がほとばしる。 
『火の力・・・・・寄越せ―――――っ!!』 
「「「わ――――っ!?」」」 
どんっ! 青い閃光が鳥に直撃し、鳥の体がばりっと霊波で硬直する。 
「!?」 
「あ・・・」 
「美神さんっ!!」 
カオスフライヤーに乗って構えているライフルを背負った美神は、降下して横島達のところに着地する。 
「横島君っ、シロも・・・・っ!?」 
「ど――いうことっすか美神さんっ!?」 
「詳しい状況が知りたいでござるっ!!」
「ええ――いやかましいっ!!」  
飛びついてくる横島とシロを蹴り飛ばし、美神は百合子からひのめを抱き上げる。 
「お母さん、ひのめをありがとうございました。」 
「いいえ。 これくらお安い御用ですよ。」 
優しく笑う百合子に頭を下げ、美神はひのめを抱えてカオスフライヤーに跨る。 
「横島君っ、シロっ! お母さんを連れて逃げなさいっ!!」 
「えっ・・・・でも美神さんは・・・・っ!?」 
上昇するカオスフライヤーに横島は慌てて立ち上がる。 
「所長命令よ!! さっさと行きなさいっ!!」 
「みっ、美神さ―――んっ!!」 
「美神殿―――――っ!!」 
ぐおあんっ!! 空を走るカオスフライヤーを追おうとする横島とシロだが、ぶわっと巻き起こる風に転がる。 
『逃がさん・・・・・っ!!』 
羽ばたきあがる鳥は、カオスフライヤーを追って飛んだ。 
「美神さん・・・・っ!!」 
体を起こす横島は、唇を噛んだ。 
「先生・・・・どうするでござる・・・・?」 
百合子の肩を担いで歩いてくるシロに横島は拳を握る。 
「・・・・きっと美神さんに考えがあるんだ。 俺達は言われた通りに・・・」 
「・・・・・・本当は怖いだけでは?」 
「ばっ、おま・・・・・なぁ――に言ってんだそんな訳ねえだろぉ・・・・!?」 
「声が裏返ってるでござるっ!!」 
「ばっきゃろ――っ! 危ない場所には行くなって地球の歩き方にも書いてあるだろ!?」 
「関東地方など地元でござらんか〜〜〜っ!!」 

「!? 来たかっ!」 
空を見上げた美神は、落下してくる無数の物体を目にする。 遥か上空から降ってきたそれらは、地に激突して中身をぶちまけた。 無数の破魔札や精霊石が飛び散り、そしてミサイルが地に突き刺さる。 
『ぐぁああああっ!!』 
「つっ・・・!!」 
吐き出された炎を回転して避ける美神は、追いつかれた鳥の翼で弾かれた。 
「ひのめ・・・っ!!」 
カオスフライヤーから放り出された美神は、ひのめを抱えたまま民家の屋根を突き破って落下した。
「ぐっ・・・・この・・・・っ!!」 
外に転がり出た美神は、翼をはためかせて地に足をつける鳥を見上げる。 
『・・・・・霊能者か・・・?』 
「GSよ・・・・」 
美神は左眼の潰れている鳥を睨みあげる。 左手でひのめを抱え、右手のライフルを鳥に向ける。 
(精霊石を込める暇がない・・・・!?) 
「この子は渡さないわ・・・・っ!!」 
『わしは娘を助けねばならん・・・・・その為にはそいつが必要なのだ――――っ!!』 
「――っ!!」 
がっと迫る嘴に美神はひのめを抱え込んで背を向けた。 どしっ!! 
『ぐばはぁ・・・・!!』 
「!?」 
顔を上げた美神は、鳥の腹を食い破って飛び出してくる狐を見た。 鮮血と共に鳥は仰向けに倒れこみ、転がり出た狐は人型になって美神に駆け寄った。 
「タマモっ!」 
「美神さんっ、ひのめはっ!?」 
「無事よ!! 急いで結界の外へ・・・っ!!」 
「そ―したいとこだけど・・」 
『貴っ様〜〜〜〜〜〜っ!!!』 
巨体を転がして起き上がる鳥にタマモは片腕のまま美神の前に立つ。 数十メートルの長い後髪が美神とひのめを覆い隠すように広がる。 
『狐の分際でよくもわしを・・・・っ!!』 
ぐっと反り返る鳥は、口の周りで炎を膨らませる。 
「まずいっ、この結界内は爆発物の宝庫なのよ!? あんな炎を地上に吐かれたら・・」 
「有爆・・・っ!?」 
「結界ごと私らも吹っ飛ぶわ・・・・っ!!」 
ぎりっと歯を喰いしばるタマモは左手に炎を膨らませる。 
「やるしかない・・・・っ!! 美神さんっ!!」 
「出力差が大きすぎるわよ・・・・っ!!」 
両耳から精霊石を千切った美神は不敵に笑った。 
『小童共が――――――っ!!』 
吐き出される業火に、タマモと美神は炎と精霊石を突き出す。 
「「押し返せ―――――っ!!」」 
精霊石を通して炎が膨れ上がる。 激突する2つの炎だが、タマモと美神の炎は鳥の炎に飲み込まれ、かき消される。 
「くそっ!」 
「ぐ・・・っ!!」 
2人はとっさに目を閉じる。 がかっ!! 
『何・・・っ!?』 
「「!?」」 
鳥の声にタマモと美神は目を開いて言葉を詰まらせた。 
「うわああああああああんんっ!!」 
2人を包む赤い結界が炎をさえぎり、宙に浮くひのめが全身から霊波の光を溢れさせていた。 
「ひ、ひのめ・・・っ!?」 
「ひのめ―――っ!!」 
「ああああああああああああんっ!!」 
大きくなる結界に鳥が押しのけられる。 
『ぐっ・・・・これが人間のチャクラか・・・・っ!?』 
弾き飛ばされ、空に舞い上がった鳥は羽ばたき、ひのめを睨み下ろす。 
『いい・・・・いいぞ・・・・・狐とガキ・・・・この2つで、わしの娘は生き永らえることができるわ―――――っ!!』 
大きく息を吸い込む鳥は、再び口周りの炎溢れさせる。 
「来るっ!? どうする・・・・・っ!!」 
「止めろ火の神よ――――っ!! ここで撃ったら、アタシもあんたも皆死ぬんだぞ――――――っ!!」 
空に吼えるタマモの声が木霊する。 
『かあああっ!!』 
ごばうっ!! 吐き出される巨大な炎にタマモはそれに向かって跳んだ。 結界から飛び出し、9つの髪をいっぱいに広げ、炎と結界の間に立ち塞がった。 
「タマモ――っ!!」 
どうっ 炎に包まれ、タマモの体は飲み込まれた。 9つの髪が結界を覆うが、それも炎に包み込まれる。 炎が地上に届き、散らばっている1つの精霊石を弾いた瞬間、地上は光に包まれた。 
『!?』 
爆発が爆発を誘発し、それは一瞬で巨大な光となった。 遠く離れた箇所に突き刺された5本の神通棍が線で連なり、外側を円で結んで巨大な魔法陣が光る。 どごおおおおおおおおおおおおおんっ!!! 

「!? 光・・・・・?」 
ヘリの向かう先、山脈の向こうに、空を白くする光を美智恵は見た。 
「先生・・・」 
「大丈夫・・・・大丈夫よ・・・・」 
西条の言葉に、美智恵は頷くようにして両手を重ね合わせる。 
「――――っ!」 
目を閉じ、笛を抱いて座っていたおキヌははっと目を開く。 
「・・・・・消える・・・何かが・・・消えてしまう・・・・っ!!」 

「・・・・・・?」 
目を開いた狐は、片方しかない前足で体を起こそうとした。 9つの尾は全て千切れ、付け根に1メートルもないいくつかが残っているだけだった。 
「・・・・あ・・・・・あああっ・・・・・!!」 
何もなくなった瓦礫の荒野が広がる中、狐はひのめを抱えるようにして横たわっている美神を見つけた。 這いながら近づいた狐は、鼻先で美神の手を突付く。 
「美神さん・・・・美神・・・・っ!! ひのめ・・・・っ!!」 
狐は叫ぶが、美神とひのめは動かなかった。 
「こんな・・・・・こんな事って・・・・・・っ!!」 
がっ がらがらんっ 
「――――っ!?」 
瓦礫が転がり、鳥は体中の羽をむしられている状態で体を起こした。 
『くそ――――――っ!! 人間が・・・・・人間がどこまでもわしの邪魔をするのかっ!!』 
「このっ・・・この馬鹿鳥野郎〜〜〜〜〜っ!!」 
血と共に唸り声を漏らし、狐は体を鳥に向ける。 
『――――っ!? ガキのほうは死んだのか・・・・くっ、せめて狐っ、お前だけでも・・・・っ!!』
「・・・・・子供が死んだんだぞ・・・・それを守ろうとする姉も死んだんだぞ・・・・っ!?」 
3本の足で狐は立ち上がった。 
「あんたが神だろうと何だろうと・・・・・っ!!」 
翼を地に叩きつけて這ってくる鳥に、涙を流す狐は天を仰ぐ。 
「アタシは・・・・アタシはぁ・・・・っ!!」 
涙が溢れ続け、狐はぐっと目を閉じる。 
「もう・・・・たくさんだ・・・・・こんなこと、もうたくさんなのよ――――――っ!!」 
巨体を引きずってくる鳥に向かって狐は跳んだ。 
「消えてなくなれ―――っ!!」 
咽元に喰らいつく狐を鳥は翼で叩き落とした。  
『死だと!? 貴様が何年生きたと言うのだっ!!』  
転がる狐を鳥は持ち上げた足で踏み潰す。 
『わしが何百何千という年を生きてきたと思っているっ!? 命を守り育むわしは、そいつらによって全てを奪われたのだっ!! それが貴様ごとき小娘に何がわかるっ!?』 
下半身の千切れた狐は転がりながらも鳥を睨みあげる。
『その上わしの子までも奪おうなど断じて許さんっ!! 貴様ごときに説教されるいわれなどないわ――――っ!!』 
嘴を突き出し、再び鳥は狐を飲み込んだ。 暗い中に放り込まれた狐はぐっと目を閉じ、歯を喰いしばった。  
(ちくしょう・・・・・ちくしょう・・・・美神さん・・・・ひのめ・・・・フェイ・・・・っ!!)
涙が溢れるが、暗い中で転がる狐の体に上下はなかった。 
(ごめん・・・・助けられなかった・・・・・・・ごめん・・・・生んであげられなかった・・・・九尾の狐が身篭るなんて・・・・・) 
狐はなくなった下半身のあった場所に前足を伸ばす。 
(・・・・・?) 
暗闇の中、狐は小さな光に照らし出され目を開いた。 青白い小さな光は、狐の顔を優しく包み込む。
(・・・・そう・・・・あんただったんだ・・・・・・あんたがアタシの子・・・・) 
光に狐の顔が緩む。 
(ごめん・・・・ごめんね・・・・あんたを、なんとか生かしてあげたかったけど・・・・・) 
光の強さが呼応し、膨らんだり縮んだりする。 
(・・・慰めてくれるの・・・・? 優しい子・・・・・駄目な母親で・・・ごめんね・・・・) 
光は狐に近づき、狐の体を光の中に入れた。 
(・・・父さん・・・? ごめん・・・・アタシわからない・・・・ほんとに・・・わからないの・・・・)
光りの中に狐の体が溶け込んでいく。 狐は目を閉じた。 
(え・・・・知ってるの・・・? アタシが忘れてるだけ・・・・・? ・・・そう・・・そうなんだ・・・・ごめん・・・やっぱり思い出せない・・・・ このまま・・・・あんたと一緒にアタシも行くわ・・・・・疲れちゃった・・・・え・・・・? 生きろって・・・・嫌・・・・自分の子さえ助けられないのに、アタシはもうたくさん・・・・九尾の狐なんて、来世のアタシに任せるわ・・・・・) 
途端、ばしっと光が弾ける。 再び暗い中に放り出された狐は前足を伸ばして光を追おうと暴れる。 
「何!? 嫌だっ、アタシはもうっ・・・・!!」 
ぐんっと後に急速に引っ張られる狐の体はみるみる光から遠ざかる。 
「銃の呪いっ!? 嫌だっ!! アタシはっ、もうあんな世界に戻りたくない・・・・・っ!!」 
身を振って暴れようとする狐だったが、その目には暗闇の外への白い光が広がった。 

『ぐっ!? ・・・・・・ごはぁっ!!』 
全身の羽が千切れ、血を流しながらもその巨体を海の方へ引きずっていた鳥は咽を膨らませた。 吐き出す白い塊は地を跳ねる。 
『・・・お、おのれ・・・・っ!!』 
全身の真っ白になった狐が4つの足で地を踏みしめた。 9つの真っ白な尾が風に揺れる。 
『かああああっ!!』 
狐に向かって鳥は炎を吐き出した。 ごうっと赤いそれに包まれるが、弾き飛ばされた炎の中から人型のタマモが立ち上がる。 
『な・・・に・・・・!?』 
鳥は身を引いた。 
「アタシは・・・・・アタシはぁ・・・・っ!!」 
真っ白な髪が揺らめく。 ぐっと閉じているタマモの目は振るえ、握られている拳は痙攣するかのように引き締められる。 
「っ!!」 
タマモが目を開いた瞬間、9つの白いそれは各々が生きているかのごとくうねって伸びた。 がんがんがんがんがんがんがんがんがんっ!! 
『・・・・・くっ、何を・・・っ!?』 
大地に突き刺さる白いそれは光りだし、地から9つのそれを通して光がタマモに流れ込んでいく。 
『こ、小娘がぁ―――――っ!!』 
「アタシだって・・・」 
タマモが体の前に突き出す両手に銀色の銃が現れた。 砕けているそれは、髪から流れ込んできた光りの中で形を作り出す。 上から押しかかるように嘴を突き出す鳥に、タマモは白く発光する銃を突き上げた。 
「アタシだって母親だ―――――――っ!!!!」 
どんっ!! 
『っ!! ―――――かっ・・・!?』 
一瞬動きの止まった鳥の咽元を白い閃光が貫いた。 それは後頭部から突きぬけ、青い空を突き破るように真っ直ぐに飛んでいった。 鳥の巨体が後にゆっくりと傾く。 ずずずんっ!! 
「・・・・・」 
真っ白な髪が大地から引き抜かれていく。 タマモは手にしているCR−117を見、倒れ込んだ鳥の頭の方に歩き出した。 地を覆う翼を飛び越え、真っ赤な液体を滝のように零す鳥の頭の前に来る。 
「―――っ!」 
仰向けに頭を落としている鳥の目から血ではない液体が流れていた。 白く長い髪を空で揺らめかせながら、タマモは鳥を見つめた。 
「・・・・・何を泣く・・・?」 
『娘よ・・・・・わしの子よ・・・・・・』 
涙と血が混ざり、流れてくるそれはタマモの足元まで届いた。 
「・・・・死んだの・・・・?」 
『わしは・・・・・わしは何をしておったのだ・・・・? わしはただ、娘を生かしてやりたかっただけだ・・・・・・』 
「・・・・・わかる。 わかるよ・・・・あんたの気持ち。」 
細い目で見つめてくるタマモに、鳥は大きな瞳をぎょろっとタマモに向けた。 
「アタシだって・・・・・この子が助かるなら、何だってしたわよ・・・・・」 
タマモはうつむきながらお腹を押さえる。 
『貴様・・・・・子を宿していたのか・・・・』 
「相手が誰かも思い出せない子でも・・・・・・できることなら生んであげたかった・・・・」 
『・・・・・貴様も人間の毒にやられているのか・・・・はっ、はははははっ!!』 
大きな瞳をぐっと閉じ、鳥は笑った。 
『そ、そんな奴を食わせたら・・・・娘も死んだな・・・・』 
「火の神・・・・ っ!!」 
ばらばらという機械音にタマモはそらを見上げた。 数機のヘリが上空を旋回している。 ぴりゅりゅりゅりゅりゅ・・・・ 
「・・・おキヌちゃん・・・・?」 
『狐よ・・・・』 
「!?」 
再び目を開いた鳥にタマモは顔を向ける。 
『頼みがある・・・・・わしと、わしの娘を人間の手に渡さないでくれ・・・・死んでなお、人間の手に辱しめられたくはない・・・・』 
「っ!! 勝手なこと言ってんじゃないわよっ!! あんた・・・・あんたが美神さんもひのめもフェイも殺したんじゃないかっ!!」 
『そうだな・・・・わしは神失格だ・・・・・』 
「――――っ!!」 
ばっとタマモは銃を鳥に突きつけた。 銃を構える腕が震える。 
「・・・・・くそっ!!」  
タマモは銃を地に叩きつけた。 
『すまない・・・・狐よ・・・・』 
鳥はゆっくりと目を閉じる。 
「あんたは許せない・・・・・だから・・・さっさと消えてよ・・・・っ!!」 
『ああ・・・』 
風が吹き、鳥の体はすっと灰色に染まった。 ぱさぱさ崩れる体が風で塵となって飛ばされていく。 
『・・・・いずれ、わしらは全て滅びるのだろうな・・・・』 
「・・・・・」 
鳥の言葉にタマモはうつむいたまま答えない。 灰となる鳥の塵が風で舞い、タマモの白い髪を揺らして空に上っていく。 
『我らが滅びれば、人間もまたいずれ滅びる・・・・・滑稽だな、人間のすることは・・・・』 
「・・・・ええ・・・まったくよ・・・」 
『ふふっ・・・・人間共が滅びた世界か・・・・・見てみたいものだな・・・・』 
ばさっと鳥の頭が崩れた。 強い風が巻き上がり、それは渦を巻いて空に飛び散る。 
「・・・・アタシが見てやるわよ・・・・・全ての命が消えたって・・・・・アタシは生まれ、死に、そして生まれるんだから・・・・」 
銃を拾い、空に突きつけ、タマモは両手でそれを握る。 
「・・・・眠りなさい・・・・空の向こうで・・・」 
どんっ! どんっ! どん・・・・・っ!! 銃声が空に木霊した。 

上空のヘリの中、ドアを開けて笛を吹き続けるおキヌは白い閃光が空に3回伸びるのを見た。 その軌道を取り巻くように灰色の粉が空に上っていき、そして広がっていく。 
「・・・・・・」 
ぴりゅりゅりゅりゅりゅりゅ・・・・・・っ!! おキヌはそれを見ながらも笛を吹き続ける。 
「これが東京・・・・」 
廃墟になった町に西条は息を飲む。 
「鳥は・・・・下は見えないのっ!?」 
双眼鏡を覗く美智恵だったが、巻き上がる無数の灰が霧となって眼科の景色をぼやけさせる。 
「・・・・・」 
ネクロマンサーの笛の音につられるように、鳥の灰は無数に広がった。 風に乗り、そして廃墟となった町に広がっていく。 
「・・・・・ん・・・」 
空から降る灰に当てられ、美神はゆっくりと目を開いた。  
「・・・・生きてる・・・・」 
「姉―・・・・おっきおっきぃ〜・・・」 
すすだらけの顔を触ってくるひのめに、美神は笑ってみせる。 
「ああ・・・ひのめ・・・・!!」 
にこにこ顔にひのめを抱き寄せ、美神は自分の顔に擦りつけた。 
『・・・・・?』 
狼は瓦礫の上で寝ている自分の体をゆすり起こす。 
『お、俺は・・・・・』 
「よう。」 
『亜須磨・・・』 
歩み寄ってきた青髪に狼は立ち上がった。 
『俺・・・・・死んだはずなんだが・・・・』 
「俺もだよ。」 
『鳥は・・・・タマモは・・・・?』 
フェイ・ウーの言葉に、亜須磨はずっと先で白い9つの尾がうねっているのを指差した。 
『・・・・・白くなりやがったのか・・・・』 
「らしいな・・・・」 
狼は2、3歩白いいくつもの髪がうねる先に足を進めた。 
『・・・・・・』 
「この灰、あの鳥のものだろう・・・・・『火の鳥は永遠の命を・・・』ってやつか・・・?」 
『・・・・けっ、くだらねえ・・・・!! 帰るぞ亜須磨っ!』 
反転する狼は歩き出す。 
「彼女に会っていかないのか?」 
『あいつは今、誰にも会いたくねえだろう・・・・』 
「・・・・」 
振り返らない狼の言葉に、亜須磨は白い尾を振り返る。 が、すぐに狼を追って歩き出した。 
「火の鳥・・・・命を育む神の鳥か・・・・」 
白く長い髪を揺らし、タマモは空から降る雪のような灰を見上げていた。 
「っ!!」 
と、とっさに自分のお腹に手を伸ばした。 
「・・・・・ああぁ・・・っ!!」 
両手でそっとお腹を押さえるタマモの目から、つっと涙が零れ落ちた。 

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【次回予告】 

タマモ「次回、『火鳥風月 −8番 狐の歌−』 ま―見たけりゃど―ぞ。」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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