2ヵ月後 










きつねレポート

 火鳥風月 −8番 狐の歌− 


美神除霊事務所 

シロと横島はソファーの上でうなだれながらテレビを見ていた。 モニターに中には美智恵と西条が映し出されている。 
『では、一連の火の鳥騒ぎの原因は我々人間の側にあったと・・・・?』 
司会者の言葉に美智恵は頷く。 
『世界GS教会の元我々が火雷山を調査したデータの通り、付近の発電所、工場のから流出した化学物質、加えて川の汚染具合からも、土地神を我々が追い詰めていたのです。』 
『しかし土地神は人間を守るのが仕事なのでは? 行事や奉納は毎年行われていたのですし・・・』 
今度は西条にカメラが向けられ、モニターに西条が出る。 
『そういった人間本意の解釈があの火の鳥を苦しめていたのです。 神族というのもと違い、彼らは元々我々と同じ、この世界で生まれた存在なのです。』 
『しかし、開発をするなと言うのは無理があるでしょう。 経済格差の面からも、同じ人間が貧困で苦しむのを見捨てろとおっしゃるのですか?』 
『そうは言いません。 ですから、我々はGメンとして火の鳥に対処すべく除霊活動を行いました。 可能なら火の鳥を除霊するつもりで対応をしたのはご存知でしょう?』 
『矛盾してません? 土地神を追い詰めるな・・・・でも開発も必要だ・・・・・美神さんはどうしろとお考えなのです?』 
うすら笑うような表情の司会者に美智恵は目を閉じる。 
『それは私の知るところではありません。 ですが、土地神が滅びればいずれその土地も衰退します・・・・・何故自分達の土地が衰退するか、人間は知っておく義務があると考えます。』 
『ふ〜っむ・・・西条さんはどう考えます・・・?』 
『僕ら人間は今でこそ地球上のあらゆる場所に生活していますが、数百年前では神や怪しの方がずっと多かったのです。 皆さんの記憶に新しいアシュタロスの騒ぎなどはいわば別世界からの事件ですが、今回のケースは同じ世界に住む物同士の事です。』 
『共存共栄を目指すべきだと・・・・?』 
『ははっ、それこそ人間の勝手に作ったご都合主義の言葉ですよ。 彼らは人間が滅んでも生きていけますが、彼らが滅びればいずれ僕ら人間は滅びるでしょう。 僕らは彼らに対しての敬意と感謝・・・・・そして畏敬の念を持つ事を忘れてしまったのです。』 
『けど、あなた方はそれを退治する仕事なのでしょう・・・・?』 
と、今度は美智恵が画面に出る。 
『私達は彼らとコンタクトし、心を通わす事ができる・・・・・・それがGSであり、私達の仕事だと考えます。』 
ばりばりせんべいをかじるシロと横島は揃ってお茶をすすった。 
「土地の神ね〜・・・・」 
「拙者なんとなくわかるでござるよ・・・・人狼も、結局は人間に合わせないといけないでござるからなぁ・・・・」  
「ふ〜ん・・・・お前も大変だなぁ・・・・」 
「って、そんな人事みたいに言わないでくだされっ!!」 
「人事じゃ馬鹿たれっ! 暑っ苦しいから引っ付くな〜〜〜っ!!」 
横島は首にしがみ付いてくるシロを引っぺがす。 
「こうなったら種族を超えた愛で人間と人狼に永遠の絆を〜〜〜〜〜っ!!!」 
「そ―いう危ない発言はもう少し大人になってからにしろ――――っ!!」 
2人がもみくちゃに転がっていると、ドアが開いて雪之丞が入ってきた。 
「何やってんだお前ら・・・・?」 
『すみません、お見苦しいところを・・・』 
ソファーごと引っくり返る横島とシロに雪之丞は笑った。 
「いいさ。 人口幽霊1号・・・・だったか? お前も生き返れたんだってな・・・・よかったな。」  
『はい、ありがとうございます。』 
「おおっ、雪之丞か久しぶりだな。」 
シロに髪を引っ張られながらもスリーパーホールドをきめる横島は雪之丞に顔を向けた。 
「おう、飯を貰いに来たぜ。」 
「お〜ま〜え〜な〜・・・・・ったく美神さんもおキヌちゃんもいない時にのこのこと・・・・」 
「そ―いや狐は? 事務所の綺麗どころは皆いないのか?」 
「拙者がいるでござるっ!!」 
「3人は何か中国に行っちまったぞ。」 
「しゃ―ね―な―・・・・・狼娘の肉料理で我慢すっか。」 
「ぐっ・・・・なんてふてぶてしい奴でござるかっ!!」 
横島の腕から飛び退いてシロは尻尾を逆立てた。 
「先生っ、こんな奴追い返すでござるっ!!」 
「んだとぉ〜・・・? 親友を追い返すわけねえだろ!!」 
「弟子の方が大事でござるよな先生っ!?」 
「どっちもいらんっ!! なんで綺麗な姉ちゃんがここにおらんのじゃ〜〜〜〜〜〜っ!!!」 

中国某所 某国営病院の一室 

「・・・・そう、火の鳥様の山に行ってきたのですか・・・・」
ベッドの上で座っているリンは窓の外の空を見上げていた。 
「はい、美神さんは、もう少し調べてみたいからって、まだ山に・・・・」 
椅子に座っているおキヌもリンにならって空を見上げる。 
「火の神様が亡くなって・・・・・その体の灰が空から風に乗って広がっていくのを、私ずっと見てました・・・・」 
「ええ・・・・・私も見ましたよ。」 
おキヌの方に顔を向けず、リンは空を見上げたまま微笑んだ。 
「空から降ってきたあれは・・・・そう・・・・まるで雪のようでした。 青空に降る命の雪・・・・・私もそれに命をもらいましから・・・・」 
「私・・・・ずっと笛を吹いていたんです・・・・ずっと・・・ずっと吹いていました・・・・」 
リンはゆっくりとおキヌに顔を向けた。 
「もう・・・・神様の声は聞こえませんでしたけど・・・・・あの無数の灰が、私を包んでくれて・・・・・それで、笛を吹き続けてくれって、お願いされたように思えたんです・・・」 
「そう・・・・」 
そっと手を伸ばし、リンはおキヌの手にそれを重ねた。 
「頑張りましたね、おキヌさん。」 
「・・・・・私、いつも思うんです。 自分は、本当に役に立てているのかなって・・・・・」 
おキヌはリンの重ねてくれた手を見つめる。 
「笛を吹いている時・・・・あの空に舞った灰と、自分が1つになれた気がしました。 私・・・・」 
「・・・・それでいいんです。 いいんですよ・・・」 
顔を挙げたおキヌに、リンは優しく笑った。 

火雷山 

巨大な洞窟の入口には『立ち入り禁止』の看板と鉄線が引かれていた。 その暗い穴は何処までも深い闇を覗かせている。 そこより数十メートル上の山の斜面に、タマモと美神は立っていた。 タマモの金色の髪が風にはためくのを美神は横目に見る。 
「・・・・・皮肉な話よね・・・・あの火の鳥、あれだけ人間を憎んでいたのに・・・・」 
美神の言葉にタマモは細いままの目で雲の海を眺めていた。 青い空の下に、何処までも続く白い雲の草原が続く。 そして所々に山頂が顔をのぞかせていた。 
「火の鳥は命の鳥、か・・・・・おかげで私もひのめも助かったわけだけどね・・・・・ それだけじゃない、あの火の鳥騒ぎで亡くなった人間も、神様も、皆が生き返った・・・・」 
「・・・・・・」 
「あの雪みたいな灰が、風とおキヌちゃんの笛でこっちの大陸まで飛んだってママの仮説も、どこまで本当かは信じられないけどね―。 けど、こっちで亡くなった人も、皆生き返ってる。」 
「・・・・結局・・・」 
「・・・・・?」 
口を開くタマモに美神は目をやった。 
「結局・・・・・助からなかったのはあの火の鳥の親子だけ・・・・・」 
「・・・・ま、都内は大震災を食らった並の被害をもらってるけどね―。 この私としたことが、うっかり報奨金を匿名で寄付しちゃったわよ。 あははははっ!」 
腕を振っておどけて見せる美神の声に振り返りながらも、タマモは笑った。 
「・・・・・ありがとう、美神さん。」 
「・・・・・」 
そのタマモの顔に、美神はほっと息をついた。 
「今更この山になんの用があったの・・・? あんたが鳥と約束したっていう雛鳥はもう火葬したんでしょ? その後Gメンが徹底的に山には手を入れてるし、何も残ってないわよ?」 
タマモはまた雲の海に目を戻す。 
「ここで会う約束なの・・・・・美神さんにも、いてもらいたくて・・・・」 
「約束・・・・?」 
からっという石の転がる音に美神は下を見下ろした。 山の斜面を何かが登ってくる。 
「―――っ!? あいつら・・・・」 
ざっざっと地を蹴ってかけてくる黒い大きな狼と、それに跨る青髪の男はばっと飛び跳ねてタマモと美神の前に着地した。 
「久しぶり、お2人さん。」
『よう。』 
軽く手を挙げてそれに応えるタマモだが美神は身構えた。 
「なっ、なんであんたらが・・・・っ!?」 
『そうかまえるなよ・・・・俺だって無闇にお前なんかと会いたかねえんだ。』 
けっと唾を吐き捨てるフェイ・ウーを亜須磨がなだめた。 
「よせフェイ。 お互い一度は死んで生き返った身だろ? 争うつもりはない。」 
「・・・・タマモ?」 
いぶかしむ美神は、腕は下ろしたが体は狼と亜須磨に向けたままタマモに歩み寄る。 
「こっそり会ったら、美神さん気にするんじゃないかと思ったから、こ―やっていてもらってるのよ。」 
「そりゃ―あんた・・・・」 
「あんたらも元気そうね。」 
タマモの言葉にフェイ・ウーは苦笑する。 
『元気なわけあるかよ・・・・お前が死ななかったからよかったようなものの、俺達は危く処罰されるところだったんだぜ・・・・?』 
「悪かったわね。」 
情けなく首を振った狼にタマモは歯を見せる。  
「あんたら霊峰院にも、減給とかあるわけ・・・?」 
腕組みをしている美神に亜須磨が笑う。 
「ま―人間のシステムとは違うが、似たようなのはある。」 
『で、今日はなんだ? ようやくこっちに来る決心でもついたのか?』 
「馬鹿、そんなんじゃない。」 
「ちょ、ちょっとタマモっ・・・・あんたアンチ・スイーパーに勧誘されてるの・・・っ!?」 
美神は目を丸くしてタマモに掴みかかった。 
「ん―ま―ちょくちょく。」 
「ちょくちょくって・・・・」 
「大丈夫よ。 行く時はあんたに挨拶くらいはしていくから・・・・」 
ウィンクしてくるタマモに美神は頭を押さえた。 
「まったく・・・・あんたって子は・・・・」 
くるっと背を向け、美神は山を下り始めた。 
「先に宿に戻っとくから、早めに帰ってきなさいよ・・・・!!」 
ぷらぷら手を振って雲の下に見えなくなっていく美神を、3人は見送った。 
「体はなんともないようだが・・・・?」 
亜須磨は改めてタマモの全身を見回す。 
「ま―ね。」 
『白くなった影響は?』 
「別に特には・・・・・普段は元の色にしてるけど、毛並みはすっかり雪山使用になっちゃったわ。」 
タマモは金色の髪をなぶって見せた。
『・・・・で、肝心の用件は? お前のガキはどうした?』 
ぎょろっとした目を向けてくる狼に、タマモはお腹にそっと両手を当てた。 
「―――っ!!」 
「「!?」」 
青白い光の球がゆっくりと引き出され、両手に乗せた青い光の球をタマモは胸の前に持ち上げる。 
「・・・・これが、アタシの子・・・・」 
「・・・・やはり自分の腹には戻してなかったのか・・・・」 
亜須磨の言葉にタマモは頷く。 
「あの時・・・・・火の鳥の灰を浴びて、アタシの中でこの子も命を取り戻したの・・・・ けど、そのままアタシの中にいても、またこの子は死んでしまうから・・・・」 
「だから命を抜き取ったのか・・・・? お前との全てのつながりを無くすことになるんだぞ?」 
「・・・・・」 
タマモは目を閉じ、そっと胸に光を抱きしめた。 
「この子には普通に生きて欲しいの・・・・ただの狐として、九尾の狐とは何の関係もなく、普通に・・・・・」 
タマモは光を亜須磨に差し出した。 
「だから、この子を転生させてあげて・・・・・あんたにならできるんでしょ?」  
『おい・・・っ!!』 
狼は鼻でタマモを小突く。 
『いいのかそれでっ!?』 
「・・・・・いい。 どのみち、こうしないとこの子はまた死んじゃうから・・・・」 
『それは・・・・・そうなのかもしれないが・・・・っ!!』 
「・・・・・ありがとう、フェイ。」 
タマモは狼の顔に手を触れると、亜須磨に押し付けるように光差し出す。 
「できるんでしょ?」 
亜須磨はタマモの目を真っ直ぐに見返す。 
「できはする・・・・・が、お前は2度とこいつには会えなくなる・・・・・それでいいんだな。」 
「・・・・・お願い。」 
「わかった。」 
手を出し、亜須磨は光を手に取った。 タマモの手から光が離れる。  
「じゃ、お願い。」 
光を亜須磨が両手に持つと、タマモはわき目も振らずに山を下りだした。 
『・・・・・』 
雲の下に行ってしまうタマモにフェイ・ウーは口を開くが、声は出なかった。 
「・・・・送ってってやれよ。」 
『・・・・しかし・・・』 
光を手にして亜須磨は狼を小突く。 
「ほれ、さっさと行けっ!」 
『お、おう・・・!!』 
亜須磨に足蹴にされ、狼はタマモを追って走り出した。 狼は霧のように広がる雲の中を走る。 
『っ!』 
歩くタマモが振り返り、狼はタマモの前に回り込む。 
「・・・・何?」 
『・・・・・送る・・・』 
「別にいい。」 
『うるせえなぁ・・・・さっさと行くぞ。』 
タマモの前を勝手に歩き出す狼に、タマモも黙って歩き出した。 
『・・・・・・』 
「・・・・・・」 
『・・・・・』 
「・・・・・」 
『・・・・』 
「・・・・」 
白い世界を、狼とタマモは黙って歩き続けた。 
『なあ・・・・』 
「・・・・何?」 
『また・・・・人間の町で暮らすのか・・・・?』 
「・・・・さあ・・・」 
狼は振り返らず、歩きながら口を動かす。 
『・・・・・こっちに来ないか・・・?』 
「・・・・そのうちね・・・」 
『・・・・前にもそう言ったぞ・・・・』 
「そう・・・・?」 
『ああ・・・・・そう言った・・・』 
「・・・・そう・・・・」 
狼は歩きながら目線を地に落とした。 
『なあ・・・・』 
「・・・・何?」 
『俺は・・・・・・』 
「・・・・・」
『・・・・俺は・・・お前に惚れてる・・・』 
「・・・・前にも聞いた・・・」 
『別に、お前が子持ちだろうとなんだろうと・・・・俺は・・・・・』 
「・・・・うるさい・・・」 
『・・・・・』 
「・・・・・」 
『・・・・』 
「・・・・」 
風向きが変わり、霧に鼻をくすぐられた狼は足を止め、振り返った。 真っ白な毛並みと、長い9つの白い尾を伸ばす狐がそこにいた。 
『・・・・前より綺麗になったな・・・』 
「・・・・・」 
狐は目を閉じ、ゆっくりとそれを開く。 
「・・・・人間は、自分と同じ姿をしてない奴を余り受け入れたがらない。 だから、アタシの本当の姿を好いてくれる奴もそういない・・・・」 
『・・・・・俺は違う。』 
狼は体を狐に向けた。 
「そう・・・・・あんたはアタシの元の姿を好きだと言ってくれた・・・・・『化けるな』・・・・そう言ってくれた・・・・」 
たすたすと地を踏みしめ、狐は狼に歩み寄った。 鼻先が届くまで近づき、狼の目を見つめる。 
「・・・・・嬉しかった。」  
『・・・・・・』  
狼は笑い、目を閉じた。  
『お前の旦那も、俺みたいないい男だったんだろうな・・・・』  
狼は数歩歩き、狐から顔を背ける。  
『会ってみてえな・・・・そいつに・・・・まだ生きてるんだろう・・・・?』  
狼の言葉に、狐は霧の空に顔を挙げる。 
「・・・・そうね・・・・生きてるんじゃないかな・・・・・こんな世界じゃない、別のどこかで・・・・・」 
『・・・・そうか。』 
再び狐の方へ歩み寄ると、狼は狐に顔を摺り寄せた。 
『・・・・・そいつが羨ましい・・・』 
「・・・・馬鹿・・・・・もう行きなさいよ。 もう、見送りは充分よ。」 
狐も目を閉じ、狼に鼻を摺り寄せる。  
『ああ・・・・・』 
顔を離し、狼はとんとんっと狐から飛び退いた。 
『・・・・・またなっ!』 
霧の中へと走り去る狼に、狐は笑って尾を揺らした。 

数日後 都内の某喫茶店 

「嬉しいわ、ようやくこうやってあなたとゆっくりお茶ができるわね。」 
窓際のテーブルに座る百合子は、向かいの席のタマモがアイスコーヒーのグラスにミルクを入れるのを見つめていた。 
「そんなに嬉しいもん・・・?」 
「ええ、もちろんよ! 今日は私に奢らせてね!!」 
「いいけど・・・・」 
じゅるじゅるストローでコーヒーをすするタマモは窓の外に目を流した。 そのタマモ達の席よりずっと奥のテーブルで、帽子とサングラスをつけた2人がテーブルに座っていた。 
「ちょっとシロちゃん押さないでっ!!」 
「よく見えないんでござるよ〜〜!!」 
おキヌとシロが押し合いへし合いしながらタマモと百合子を盗み見ていた。 
「ふっ、狐め・・・・拙者に内緒でお母様に取り入ろうなど100年早いっ!!」 
「100年経ったらお母さんは生きてないと思うけどな〜・・・」 
不敵に笑うシロにおキヌは苦笑した。 
「「あっ!」」 
と、シロとおキヌが覗く中で、タマモはタバコを咥えて指先に出した炎で火をつけた。 
「な、なにぃ〜〜〜!? タマモの奴いつの間にタバコなどっ!?」 
「タ、タマモちゃん不良〜〜〜・・・・っ!!」 
はふっと煙を吐くタマモを、百合子は黙って見つめる。 
「・・・・・あまりお薦めはしないわよ? 狐のことはわからないけど、体にいいものじゃないわ。」 
言いつつも、百合子もライターで自分のタバコに火をつける。 
「・・・・ねえ・・・・子供が生まれるって、どんな感じ・・・・?」 
「・・・・・?」 
灰皿にタバコを引っ掛けたまま、タマモは窓から外を眺める。 
「・・・・そうね・・・・子供を生むのは痛くてつらいわ・・・・・けど・・・」 
「けど・・・・?」 
タマモが目を向けてきたのを、百合子は真っ直ぐに見返す。 
「・・・・・嬉しいものよ。 そして女は、子供を持ってまた強くなれるわ。」 
「はっ・・・・あんたを見てると、なんとなくわかるわ・・・・」 
タマモは笑い、百合子もそれに笑い返した。 
「子供でも欲しいの?」 
「まさか・・・・」 
テーブルに肘をつき、顔を突き出してくる百合子にタマモはタバコを咥える。 
「わかった、まずは結婚よね。 家の忠夫なんてどう? いいように尻に敷けるわよぉ・・・?」 
百合子はにやにや笑って言う。 
「・・・・遠慮しとく。」 
苦笑するタマモは百合子の顔をそっと押し戻した。 
「そう? 残念。」 
肩をすくめて見せる百合子にタマモはまた笑う。 と、つっとタマモの右目からそれが流れ落ちたのを、百合子は見た。 次に左目から・・・・また右目からと、涙が溢れだす。 
「・・・・・あれ・・・?」 
頬を押さえ、指先についたそれをタマモは見つめた。 
「ど、どうしたのタマモさん・・・?」 
慌てる百合子に、奥の席から覗き見ているおキヌとシロも目を丸くした。 
「なんとっ! 女狐が泣いてるでござるよおキヌ殿っ!!」 
「タ、タマモちゃん・・・!?」 
両手の指先で頬を触るタマモは、濡れる指先を見つめる。 
「・・・・・アタシ、泣いてるの・・・・?」 
「大丈夫タマモさん!? どこか悪いの!?」 
「・・・・・」 
百合子を無視し、タマモは立ち上がった。 
「ま、待ってタマモさんっ!」 
ふらふら出口から出て行くタマモを、百合子はレジにお札を置いて慌てて追いかけ出した。 外に出るが、タマモの姿はなく百合子は走り出した。 町中を走り回り、そして橋の上、柵に寄りかかって川の先を眺めているタマモを見つけ、百合子は駆け寄った。  
「タマモさんっ!?」 
「・・・・・」 
駆け寄り、息を切らす百合子にタマモは顔を向けることはなかった。 
「どうしたんです急に・・・・」 
「・・・・・」 
風になびく髪を押さえる百合子は、タマモの頬に残る涙の跡を見つめる。 
「・・・・アタシ・・・」 
「?」 
川の先を見つめながら、タマモはぼそぼそ口を動かした。 
「・・・・・本当は手放したくなかった・・・・・ずっと一緒にいて、自分の手で育てたかった・・・・」 
「タマモ・・・さん・・・・?」 
口ごもる百合子の前で、タマモは柵に拳を叩き付ける。 
「でもああするしかなかった・・・!! ああしないと・・・・あの子は生きられない・・・・アタシの中に・・・・アタシのお腹に戻ったらまた死んじゃうのよぉ・・・・・っ!!」 
「・・・・・」 
「相手の顔なんかどうでもいいっ!! アタシはっ、アタシは自分であの子を産んであげたかったっ!! あの子の母親に・・・・なってあげたかった・・・っ!!」 
ぐっと閉じられたタマモの目から涙がまた溢れ出した。 両拳を何度も柵に叩き付ける。 
(ああ・・・そうか・・・・この子は・・・・) 
泣きじゃくるタマモを、百合子は後からそっと抱き寄せた。  
「泣きなさい・・・・誰も見てないから、思いっきり泣いていいわ・・・・」 
タマモの頭を胸に抱え、百合子はタマモの金髪を撫でながら囁いた。  
「うっ・・・・くっ・・・・・ううううううう〜〜〜・・・・・・・・・っ!! うあああああああ・・・・・・・っ!!」 
百合子に体重を預け、タマモは声を出して唸った。 

数日後 美神除霊事務所 

「タマモちゃん? タマモちゃ―ん・・・?」 
おキヌは屋根裏部屋に上がったが、そこには誰もいなかった。 
「おっかしいな―、どっか行っちゃたのかなぁ・・・?」 
階段を下り、部屋に戻ったおキヌはテーブルにどんぶりを並べるシロと横島に歩み寄った。 
「タマモは?」 
「部屋にいないんですよ・・・・せっかく狐うどんの出前をとったのに・・・」 
「ど―せまたどっかに拾い食いにでも行ったんでござろう。 拙者が代わりに頂いておくでござるよ。」 
「馬鹿っ、代わりに喰うのは俺じゃっ!!」 
「なっ・・・ずるいでござるぞ先生っ!!」 
いがみ合う横島とシロを無視し、おキヌはため息混じりに椅子に座った。 と、ドアが開いてバックを下げた美神が入ってくる。 
「ただいま〜。」 
「あ、お帰りなさい美神さん。 早かったですね。」 
「うん、ま―ね―。 何、ちょうどお昼?」 
互いの顔を引っ張り合う横島とシロに苦笑しながら美神はテーブルに歩み寄った。 
「はい、出前とったんですけど・・・・タマモちゃんの分、食べます?」 
「そ―ね、もらおうかしら? 今日は帰ってこないだろうし。」 
「「「え?」」」 
美神は椅子に座って箸を手に取った。 
「タマモちゃん、またどっかに行っちゃったんですか?」 
「ん? ああ、はいこれ。」 
美神は胸のポケットから出した2つ折りの小さな紙切れをおキヌに渡した。 
「何すか?」 
「タマモの置手紙でござるか?」 
紙を広げるおキヌの後から横島とシロが覗き込む。 
「え〜っと・・・・・『飽きたんで、しばらくぶらぶらしてきます。 冷蔵庫の油揚げは、決して食べるべからず』・・・・・」 
「・・・・それだけかい。」 
「あの狐は・・・・」 
目でもう1度その文を追い、おキヌは笑った。  
「そっか・・・・じゃあ、またどこかのお土産楽しみにできますね。」 
「そうね。」 
おキヌの言葉に、美神は笑った。 

某空港のロビー 

「びへっくしゅんっ!!」 
「大丈夫・・・?」 
「んあ・・・・」 
指先で鼻を擦るタマモに、赤毛をポニーテールにした女は笑った。 
「無理に付き合ってくれなくてもいいのよ? 1ヶ月は日本に戻って来ないし。」 
「うるさいな―・・・・珍しくアタシから手を貸してあげるって言ってるのが気に喰わないわけ?」 
「そんなことないよ。」 
ベンチにふんぞり返って足を投げ出すタマモに由宇は笑った。 
「何かあったの相棒君?」 
「別に・・・・」 
「ふ〜ん・・・・」 
ふいと顔をそらすタマモに、由宇は手を伸ばしてタマモの金髪をかき上げた。 
「白髪ってのも似合うと思うけどな・・・・」  
「っ!! 知ってたの・・・?」 
「へっへ〜ん、私の情報網を甘く見ないでよね。」 
「ったく・・・・まあいいか。」 
ぺしっと額を押さえると、タマモの髪は一瞬で金から白に変わった。 
「おお――、カッコいいじゃない。」 
「ど―も。」  
顔を輝かせて由宇はタマモの白くなった後髪を引っ張る。  
「力も上がったみたいだし・・・・・よっしゃっ! これで思う存分こき使えるわねっ!!」 
「おいこらっ!」 
ぴょいと足を振って立ち上がる由宇に、タマモも立ち上がる。 
「ほら時間だ。 行くよタマモ。」 
「やれやれ・・・」 
バッグを担ぐ由宇に、ため息混じりに白髪をかき上げ、タマモは歩き出した。 

thank you very much for reading 
                see you someday 


【ごあいさつ】 
ヒカリ「あ―あ―、終わっちゃったねタマモ。」 
タマモ「あんたここで何してんのよ?」 
ヒカリ「いいじゃない、私も出演したんだよ。」 
タマモ「名前が違うでしょうに。 この変な竜の骨でも被ってなさい。」 
ヒカリ「え―、それけっこう重たいんだよ?」 
タマモ「あんたが被ってたんでしょうが!」
ヒカリ「そんなことより、このシリーズはこれで終わりなの?」 
タマモ「さあ?」 
ヒカリ「私のほうもやりかけがあるんだよね〜・・・・」 
タマモ「そ―だっけ?」 
ヒカリ「そうだよ。」 
タマモ「まあ、機会があればまた紹介できるでしょ。」 
ヒカリ「だ、そうです。 それじゃあタマモ、ご挨拶。」 
タマモ「ん――・・・ま―・・・・またどっかで会いましょう。」 


【あとがき】 
とりあえず、こんな形で「きつねレポート」を終了させていただきます。 やり残したことは多々あります。 が、原作に習い、いつでも復活することは可能ですからまた書くかもしれません。 
今回の火鳥風月を反省しますね。 5話に絞りきれずに長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか? 楽しんでいただければ幸いです。 今回のテーマは「お母さん」。 子供を持つと言うことと、タマモや火の鳥の存在立場から話を作ってみました。 タマモの記憶にないというお相手は、GS試験編で私のつくったオリジナルの人造妖怪烏、ハルとしています。 が、ハルの存在は消えてしまい、それに伴ってタマモの記憶からハルも消えています。 だから相手が誰かわからないというタマモの言葉は本当なのです。 九尾の狐に子供がつくれるかどうかは私にはわかりません。 作中で「人間の毒」と言っているのは単純に化学物質とかいう汚染物のみではなく、人間社会全体の「空気」のことを指します。 機械的社会といいましょうか、そういう社会の空気の中では、昔から生きている存在は生きられないのではと考えました。 耐性も様々でしょうが、タマモにもそういう毒が回っているのでしょう。 続いて今回のゲストキャラ。 

『フェイ・ウー』 
狼の妖怪で、元々は大陸から渡ってきたものの子孫。 シロなどの人狼と違って人型を模すことはありません。 タマモとは元々知り合いで、何度かプロポーズをしたとか・・・ 彼は極端に人間嫌いでありますが、それがタマモの本来の姿を好きになる一端にもなります。 タマモにとって、それは悪い気はしないでしょう。 フェイはGSに対抗すべく組織された霊峰院(アンチ・GS)に所属、基本的にはGSを邪魔し、狩るのがお仕事。 この霊峰院は決して全ての怪しを取りまとめているわけではなく、力のないものがGSに対して結成した組織であります。 それなりに世界的組織であり、戒律などはかなり厳しい組織です。 が、その存在は人間にはあまり知られておりません。 九尾の狐は霊峰院としてはなんとしても手に入れたい存在だったのですが、タマモはGSになるつもりがないのと同様にこちらに入るつもりもありませんでした。 今回、九尾の狐を守る為にフェイは亜須磨と共に派遣され、ひのめを囮にしてタマモを保護しようとしたのです。 

『亜須磨』 
人間の霊能者であり、ヒーリングをはじめ薬つくりなどをする霊医。 本来は人間を狩る霊峰院に人間の彼が所属するのは、やはり彼も人間の・・・・GSのやり方などに気に入らないものがあるからでしょう。 シロやピートという怪しがGSになれるように、人間がアンチ・GSに所属する事もできないことはないようです。 もちろん、周囲の目はきついでしょうが。 が、彼はフェイほど人間を憎むわけでもなく、医者としてからか時には人間をも助けます。 本質的には誰でも助けるのでしょう。 人間嫌いのフェイが彼と一緒にいるのも、彼のそういうところが気に入っているからかもしれません。 

『リン・カイエイ』 
おキヌちゃんの先輩として登場させたネクロマンサー。 タマモ達と直接関わりませんでしたが、おキヌちゃん側の目線に必要なキャラとして登場です。 おキヌちゃんには、シロと同様とにかくたくさんの経験を積んで、立派なGSになって欲しいと私は思いますね。 彼女は、その元幽霊という体質から理屈ではなく体でネクロマンサーという特技を覚えてしまっています。 ですから、やっぱりちゃんとしたネクロマンサーについて勉強するのがいいかな―と思います。 ほんと、ネクロマンサーって難しい仕事だと思いますよ・・・・ 

『火の鳥』 
今回の騒ぎの大元、いわゆる敵キャラです。 彼女は土地神というその土地に根ざした古い神様ですが、別に人間を特に贔屓したり、差別したりせず、全てに精気を与える存在だったのでしょう。 それが、人間の毒に体を蝕まれ、後継者をもその毒で死にかかることとなれば、我が子を救うために何でもするのだろうと考えました。 既に彼女にとって、人間、妖怪、神、他の命がどうなろうとどうでもよかったのでしょう。 ただ単に、子供に生きて欲しかった・・・・その辺りでは、既にお腹の中で死んでしまっている子を持つタマモと対象となる存在としました。 タマモとの戦闘中、彼女は自分の娘の死を感知し、タマモの銃弾を受けて死んでしまいます。 結局、彼女のような存在は今の世界では生きられないのかもしれません。 人間は自分達と同じ姿を保てるものしか受け入れない性質がありますから、ピートやシロ、タマモといった人間を真似る生き物以外、認めないのかもしれません。 それはとても悲しい事であり、人間はいつか自滅するんだろうということを表しているのかもしれません。 

『加津佐かんな』 
名前だけ出た少女。 以前、雪之丞、マリア、タマモが助けた逃避行の少女。 レポート22話「紅いクルス」参照。 

『水沢由宇』 
ラストにタマモと空港にいた霊能者。 タマモを相棒に違法オカルト現象を扱う何でも屋さん。 彼女についてはやり残した事が多いのですが、機会があればまたいずれ。 レポート24話「赤い尻尾の誘い」参照。 

『犬井クロ』 
こちらも今回は名前だけの登場。 シロと同じく人狼であり、タマモとは知り合い。 現在はGSの資格をとっているが、アンチ・GSからも勧誘された事もあり、フェイとも知り合いの様子。 ちなみに雪之丞、由宇もアンチ・GSの存在は知っており、勧誘されたとかされてないとか・・・? レポート12話「尾も黒い話」、15話〜19話「牙と思いの幻影」、26話〜30話「学園祭ヘブン」参照。
火の鳥死滅後、その灰は世界中に飛び散って(そうは言っても日本、アジア圏までですが)、火の鳥騒ぎで死んだ全てものが生き返ります。 火の鳥は命の鳥・・・・・それがいいことだとは私は思いませんし、彼らも望んで持っている力ではないのでしょう。 火の鳥が罪の意識を感じて全てを生き返らせたなどと言うことはないでしょうし、そう考えるのは人間だけでしょう。 そうだとしたらお笑いです。 最後にタマモの子供の事を。 元々いないはずの存在となった父親です。 存在そのものがあやふやな事もあるのでしょうが、彼女のお腹に宿った命は火の鳥のように人間の毒にやられてしまいました。 火の鳥は生む事まではできましたが、まだ若いタマモにはそこまでの力はありません。 生き返ったとしても、またタマモのお腹に戻れば彼女の体内に溜まっている毒でまた死んでしまう・・・・・それを嫌がったタマモは子供を元の体に戻すことなく、子供の命を亜須磨に託します。 「転生させて欲しい」と。 彼女の子ではなくなることをも承知したのですが、やっぱり自分で生んであげたかったのでしょう。 このシリーズ中、初めてタマモに思いっきり泣いてもらいました。 それでも、また元の生活に戻ってくれるのが彼女だろうと私は思いますし、それぐらいタフでないと九尾の狐などやってられないでしょう。 そういう彼女はカッコいいと思いますし、それが彼女の魅力かな―と考えます。 彼女じゃないと、今回のような話はできませんでしたしね。 
きつねレポート全体を振り返りましては、いろいろ楽しくやらせていただきました。 できることならまだまだ書きたい話はたくさんありますが、ここらで一区切りとさせていただきます。 投稿にあたりまして、今までずっとお世話になりました管理人の深沢様、感想を下さった多くの方々、きつねレポートを読んでくださった方々に、心からお礼を言わせてください。 本当にありがとうございました。 

きつねレポートで、少しでも皆様が楽しんでいただけますよう 
そしてまた、いつかどこかで皆様に会えますよう、願いを込めて。  by狐の尾 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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