タマモと錫杖を持った男が、黄色い三日月を見上げて座っていた。
「・・・・ねえ、なんで人間の姿を借りるの?」
「・・・・・」
「まあ、アタシも人のことは言えないけどね。」
「・・・・きみは、何でその姿を借りている・・・?」
「・・・・慣れ、かな。 山の中だけじゃ生きにくいからね。」
「まあ・・・・そうだよな・・・」
「あんたは・・・・?」
「・・・・・」
「・・・・ハル?」
「・・・タマモ。」
「何?」
「僕は・・・・人間が嫌いだ。」
「・・・そう。」
「でも・・」
きつねレポート
回る剣の切っ先
「ハル!」
ベットから上半身をはね起こしたタマモは、窓から差し込む日差しに我に返る。
「・・・・・・」
「それは誰のことでござる?」
覗き込むシロの顔が窓の日差しをさえぎる。
「・・・・何でもないわ。」
「ほ〜う。」
「・・・・・」
「で、いったいどこの男でござる〜?」
ばきっ
「いって〜・・・何するでござるか!?」
「うるさい。」
「あれ、シロちゃん、タマモちゃんは?」
「どっか行ったでござる!」
赤く腫れた鼻を押さえながら、シロは椅子に座った。
「もう、また喧嘩したの?」
「拙者は何もしてないでござる、なのにあの狐が・・・!」
「まあまあ、朝ご飯でも食べて、機嫌治して、ね?」
「そうそう聞いてくだされおキヌ殿! タマモのやつ、どうやら男がいるらしいでござるよ〜!?」
「ええっ!? それほんと!?」
「ほんとほんと! 実はさっき・・・」
「じゃあ先生、行ってきます。」
「ああ、頑張りなさい。」
唐巣に見送られて教会を出たピートは、踏み出したばかりの足を止めた。
「・・・・誰だい、きみは?」
「・・・・・」
目の前に立っている男は、ズボンにジャケットを羽織って、手に錫杖を持っていた。
「・・・・お前、人間の血が混じっているな?」
「だったら何だ?」
「ピート君、どうした?」
唐巣が中から出てきた。
「先生・・・」
「何だねきみは?」
「知る必要はないさ。」
「先生さがって・・・!」
錫杖型の刀を引き抜いて切りかかった男は、その刀が抜ききられる前にピートの体を切り裂いた。
「じゃあシロちゃん、私学校行くから、お仕事頑張ってね。」
「行ってらっしゃいでござる!」
2階の窓から手を振るシロにおキヌも手を振り返すと走っていった。
ぶろろろろろ・・・
「ん?」
美神は道路の真ん中に立っている男にブレーキを踏む。 きききっ
「ちょっとあんた! ここは車道・・」
しゃらん・・・ 男は錫杖の刀を抜いた。
「こいつ・・・」
がこがこっ! ぎゃきききっ 美神はコブラをバックさせると、男から距離を取った。
「・・・・・」
「・・・・・」
ぶをんっ! コブラが男に向かって突っ込んだ。 美神は半立ちになり、左手をハンドルに残したまま右手で神通棍を伸ばす。 男は飛び上がって美神に刀を振り下ろした。
「!」
「ちっ!」
ずばっ!
「くっ!」
ぶおおおおんっ・・・・ 男はコブラの上を飛び越す形になって着地した。 振り向くと、赤い車が小さく走り去って行くのが目に映る。
「・・・・まあいい、いずれ殺す。」
男は刀についた血をひゅんっと振り払い、鞘に収めた。
き〜んこ〜んか〜んこ〜ん・・・
「何だ? ピートの奴今日休みか?」
「そうみたいね。」
愛子と横島が話している時、タイガーが教室に駆け込んできた。
「ふ〜〜、何とか間に合ったみたいじゃのう。」
「おっす、タイガー。」
「横島さん、愛子さんも、おはようですじゃ。」
「おはよう。」
「あれ、ピートさんは?」
「来てないぞ、多分今日は休みだな。」
「み、美神殿!? その傷はいったい・・・!?」
ソファーにどっと座り込んだ美神の右肩口を、シロは包帯で縛る。
「抜かったわ・・・・いいシロ、時間がないからよく聞いて。」
「はい。」
「敵は多分GSを狙ってるわ、まず間違いないと思う。」
「獲物は霊刀でござるな?」
「ええ・・・っく・・・錫杖型の仕込み刀みたいだけど、大きさは十分、それにっぐ・・・・刃に毒が塗ってあるわ。」
「じゃあこの傷・・・」
美神の傷口から見える肌がわずかに緑色になっているのが、シロの目に映った。
「私は多分すぐには戦えないわ。 あんたは今すぐ横島君の学校に行って横島君とピートとタイガーと合流しなさい。」
「おキヌ殿は・・・?」
「・・・・おキヌちゃん達には悪いけど、あいつは雑魚の溜まり場は狙わないわ。 今は戦力を分散させないことを優先したいし、4人でかたまって一緒にいなさい。 4人でなら多分何とかなるでしょうけど、私はエミや先生に連絡をとるから・・・・早く行きなさい!」
「は、はい!」
シロは窓から飛び出した。
「くそっ・・・・いいざまね・・・まったく・・・・」
美神はソファーに倒れこんだ。
『オーナー!? 美神オーナー!?』
「!?」
「!?」
「!?」
横島と愛子とタイガーは立ち上がって窓から校庭を見下ろす。
「何だ3人とも、今は授業中だぞ?」
「・・・・・」
錫杖を持った男が歩みを止め、窓の横島達を見上げた。
「誰あれ・・・・人間じゃないわ。」
「どうやらわしらに用があるようですのう、横島さん。」
「マジかよ・・・・」
「ど、どうするの?」
「よし、逃げるぞ!!」
「お供しましけえ!!」
「ちょとあれ・・・!?」
「なっ・・・・シロか!?」
ずざざざざ・・・・!
足を踏ん張って歩みを止めたシロは、錫杖を持った男が振り返ったのを見た。
「こいつでござるか・・・!?」
「・・・・貴様、妖怪か。」
「拙者は人狼族、犬塚シロ! お前が美神殿をやったのか!?」
「・・・・誰だそれは?」
「とぼけるな! お前のそれから、美神殿の血の臭いがするでござる!」
「ああ、なら俺の切った奴だろうな。」
「なぜ罪もない者を切るでござる!? これ以上は拙者が許さん!!」
「・・・・貴様、なぜ人間の味方をする?」
「お前がしていることは悪いことだ、そんなこともわからんかっ!?」
シロは霊波刀を放って突っ込んだ。
「・・・・・ならばお前も殺す。」
どすっ
「! シ、シロ!?」
校舎から出てきた横島とタイガーは、突き上げられた刀に腹を貫かれているシロを見た。シロの体は宙に掲げられ、男はそれを投げ捨てた。
「てんめえ―――――!!」
「横島さん待つんじゃ―――!」
タイガーの腕を振り払って走りこむ横島に、男は刀を構えた。
『爆』
どこおおおおおんっ
「ふんっ!」
粉塵をなぎ払った男に横島は右腕を振り下ろす。
『剣』
がきんっ! ぎゃりんんっ・・・! 横島は弾き返され、着地する。
「何なんだてめえはっ!?」
「お前らと話すことは何もない。」
「横島さん! シロさんはまだ無事です!」
タイガーの声に、横島は視線を男からずらすことなく叫ぶ。
「タイガー、シロを病院へ! 頼む!」
「任せんしゃい!」
「・・・・・無駄なことだ。」
「ぬかせ! シロの仇じゃ――!」
飛びかかって振り下ろされた横島の剣を、男は横に切り払った。 ずしゃっ!
「げっ!?」
横島の目が飛び散る剣の破片に行く。
「じゃあな。」
左に振り払われていた男の刀が、再び横島に向かった。
「っう・・・」
どきゅうんっ! がんっ!
「なっ・・・!?」
「タマモか!?」
塀の上から銃を構えたままタマモが跳んだ。 弾き飛ばされた刀に、男の体が硬直する。 どんどんっ!
「っちいいっ!」
男は飛びのくと、弾かれた刀に向かって跳んだ。
「横島、生きてる?」
「お、おう。」
タマモは横島の前に立つと男に銃口を向けた。
「・・・・・貴様・・・」
「! その刀は・・・・」
「喰らえ!」
「待って・・・!」
「な・・・!」
横島の文珠がタマモの右手で叩き落とされる。
「ちっ!」
男は飛んで塀の向こうに消えた。
「!」
「逃がすか!」
走り出すタマモに、横島も続いた
「おい、あいつを知ってんのか?」
「知らない。」
「じゃあ何で邪魔した!? あいつはシロを・・・!」
「あいつに聞きたいことがあるのよ! 邪魔しないで!」
「・・・・・」
「くそっ、あの男・・・妙な術を使いやがる。」
体の各所に火傷を負った男は、錫杖を杖に走っていた。
「見つけたぞ!」
「!?」
振り向いた男に、横島は文珠を投げつける。
『爆』
どかああああああんんっ!
「ぐっ・・・・!」
吹き飛ばされる男は、転がりながら立ち上がり刀を抜いた。
「待てって言ったでしょうが!?」
「うるせえっ! こいつは・・・」
「アタシの邪魔するな―っ!」
ばきっ
「なっ・・・!?」
タマモは横島を殴り飛ばした。
「寝てろっ!」
横島の頭に霊波を叩き込む。
「ぐお〜〜〜〜〜〜・・・う〜ん、令子と呼んでいいですね・・・・? むにゃむにゃ・・・」
「!?」
どきゅん がんっ!
「ちっ!」
切りかかろうとする男の足元に銃弾を撃ち込み、男の進行を阻む。
「貴様も人間をかばうのか・・・!?」
「そんなつもりはないわ、こいつは顔見知りなだけよ。 あんたに聞きたいことがあるわ。」
「・・・?」
「あんた、ハルを知ってるんじゃないの?」
「何・・・お前は何だ?」
「狐よ。 ハルは、今どこにいるの・・・?」
「・・・そうか、お前がタマモとか言う狐か。」
「答えて。」
「・・・・今は知らん。」
「そう・・・・・聞くまでもないけど、何で霊能者を襲う?」
「仕返しだ。」
「やっぱり・・・・あんた、キリコとか言う鬼ね。 人間を主食としてたって言う・・・」
「俺達ははめられたんだよ、人間どもにな!」
「そう・・・」
「そいつも霊能者だ、俺は殺したい!」
「あんたの邪魔する気はないけど、アタシの見知った奴に手出しはさせないわ!」
刀と拳銃が構え直される。
ぶろろろろ・・・・
「!?」
「ちっ!」
車に気を取られたタマモに、キリコは反転して民家の屋根に飛びのった。
「あっ・・・・くそ!」
きききっ
「タマモ、無事!?」
「美神さん!?」
「早く乗るワケ!」
「アタシはいいから、横島を回収しといて。」
「やられたのかい!?」
「寝てるだけ。」
車から降りた唐巣が横島を担ぎ上げる。
「急ぐわよ!? 早くあいつを捕まえないと、こっちの戦力がなくなるわ!」
「・・・・・」
ぶろろろろろ――・・・
エミの運転するワゴンの中で、美神は右腕に注射を打ち込んだ。
「っく・・・」
「大丈夫かい美神君?」
「もっと強い痛み止めが欲しいわね。」
「今は無理をしてはいけない、少し休むんだ。」
「ええ・・・」
「タマモ君、敵のことを何かわかったかい?」
「鬼の変化ね。 仕返しだってさ。」
「そうか・・・・・何とか話しを出来ないかとも思ったが・・・」
「・・・・・」
「おっさん、レーダーは追尾できてるワケ!?」
「あ、ああ。 北上してくれたまえ。」
「OK!」
「・・・・復讐か、手ごわいだろうな。」
「シロもやられたんでしょ?」
「ええ。」
「ピートにシロか・・・・・接近戦が出来る2人がやられたのはちょっと痛いわね。」
「ふんっ! ピートに手を出した馬鹿は、私がぶっ殺すワケ!」
「まったく・・・・ほれ、あんたもいいかげん起きなさい!」
美神は横島の頭をごんごん叩く。
「う〜ん・・・・・はっ!? こっここは!?」
「今あいつを追ってるわ。 あんたも少しは・・」
「タマモ――――!! てめえどういうつもりだ!?」
「ちょっ、落ち着きたまえ!」
「どうしたのよ!?」
「こいつ、あのやろうをかばいやがって!」
「何!?」
「そうなのタマモ!?」
「・・・・・」
「答えろよっ!」
「いいから落ち着け!」
どばきっ
「タマモ、あんたあいつを知ってるの?」
「知り合いの知り合い。」
「・・・・・・・」
がらっ
「ちょっと美神君!?」
「馬鹿っ! 走行中に何ドア開けてるワケ!?」
「・・・・行きなさい。」
「・・・・・」
「あんたは別に人間の味方である必要はないわ。 思ったまま、やりたいようにしなさい。」
「・・・・・」
「私達はGSだから、あいつを除霊しなければならないわ。 仲間もやられてるし、ね。 これ以上は・・・・」
「・・・・・」
「それになにより、『この私』に喧嘩を売った以上、ただじゃすまさないからね!」
「・・・ふっ。」
「ふふふん?」
にっと笑う美神に、タマモも笑い返した。
「ほら、いいから行け。」
「そうするわ。」
立ち上がったタマモに、横島が手を伸ばした。
「タマモ!」
「・・・・・何?」
「さっきは・・・・すまん。」
「・・・・美神さん。」
「何?」
「アタシはまだ、あいつを殺したくない。」
「・・・・行きなさい。」
タマモは振り返らずに飛び降りた。
白井総合病院
「こりゃいかん、すぐにオペの準備を!」
「はい!」
がらがらがら・・・
「・・・・・」
走るストレッチャーの上で、シロの目がゆっくり開く。
「――――――!!」
「ちょっときみ!?」
がしゃあんっ! 転がり落ちたシロはお腹を押さえながら廊下を走り出す。
「待ちたまえ! そんな体じゃ・・・・待たんかコラ―――ッ!!」
ざっ!
「!?」
「待って、戦う気はないわ。」
橋の下の影に隠れていたキリコは、両手を挙げて見せるタマモに刀を下ろした。
「・・・・・何だ、まだ俺に用か? ハルのことは知らんぞ。」
「いいから、ちょっと座ってなさい。」
タマモは焼け爛れているキリコの肌に手をかざし、霊波を放つ。
「・・・・・っく!」
「力を抜きなさい。 アタシじゃ完治は出来ない。」
「・・・・・・俺に何の用だ? お前は人間の世界でうまくやっているんだろうが。 どういうつもり・・」
「あんたこそ、今更人間に喧嘩売ってどうする気なのよ?」
「俺達はもともと人間を食ってきたんだ、それをして何が悪い?」
「何十年も食べるのを止めてたあんた達が・・・?」
「はんっ・・・・あいつよけいな事までしゃべりやがって。」
「・・・・・」
「ああそうだよ、俺達はここ何十年と人間なんか食っちゃいねえよ。」
「・・・・・」
「だがその分、寿命も縮んだし体力もなくなった。 それでも俺達は静かに暮らしていたんだ! ・・・・・人間と決めたからな。」
「・・・・・」
「だが最近1人の奴が人間を襲って食ってしまった。 どうにも我慢が出来なかったんだろう・・・・1度味を締めたあいつは次々に襲い出した。 で、人間の霊能者に祓われちまった・・・」
「・・・・・」
「だが人間はそれで納得しなかった。 同族の俺達の・・・・村は焼き払われた。」
「・・・・・」
「俺達は確かに取り決めを破ったことになる・・・・だが皆じゃなかった! それが・・・・!」
タマモはそっとキリコを抱きしめた。
「・・・・俺達は、俺達は生きていけないんだ・・・・・人間と・・・」
タマモの胸に埋められたキリコの頬を、涙が伝った。
「わかるよ・・・・・少し・・・」
「口惜しいんだ・・・・俺は・・・・・人間が・・・・人間ばかりいるこんな世界が・・・!」
「アタシだって、そう思うわよ・・・・」
「うっ、くううううううう・・・」
「でもあんただってわかってるでしょう・・・? アタシ達みたいなのは、人間を敵にしたら生きてけないって。」
「わかってるさそんなこと! じゃあ俺は、俺達はどうすりゃいいんだよ!?」
「・・・・それは・・・・ !?」
立ち上がるタマモに、キリコも顔を上げる。
「拙者は難しいことはわからんでござる・・・・」
「・・・シロ。」
「だが、拙者は人間はそう悪い奴だとは思えん! 人間だっていい奴はいるでござるっ!!」
「っく・・・・」
立ち上がるキリコの前にタマモは立った。
「タマモ! お前は・・・お前だってそんなことぐらいわかってるでござろうが!?」
「・・・・・妖怪だって、いろいろいるのよ。」
「それは知ってるでござる!」
「あんたがわかってるつもりでも! ・・・・人間はわかってないのよ・・・!」
「先生や美神殿達が、わかってないはずあるものか!」
「俺達の村を焼いたのはっ! GSとか言う人間の霊能者だっ!!」
「!?」
「・・・・・」
「お前にわかるかっ・・・!?」
「・・・・それでも、関係ない人間を・・」
「俺達だって関係なかった!! 俺達はやってなかったんだっ!!」
「だからって・・・他の人間を巻き込むのは間違ってるでござる―――っ!!」
「!? キリコ行って!」
「っく・・・」
霊波刀を繰り出して突っ込んでくるシロに、タマモは立ちふさがった。
「タマモ、何で!?」
どかっ
「づっ・・・」
ばっしゃああああん・・・ 激突した2人は川の中に転がり落ちた。
きききっ
「何!?」
がらっ
「見つけたわよこの鬼野郎っ!」
「ピートをいたぶってくれた礼をするワケ!」
「もう逃げ場はない、観念するんだ!」
「往生しやがれっ!」
土手の上で、車から降りた美神、エミ、唐巣、横島がキリコを取り囲んだ。
「人間が・・・っ!」
刀を抜くキリコに、エミ、唐巣、横島が封魔札を構える。
「喧嘩を売った相手が悪かったわね。」
「結っ・・」
「・・界!!」
「喰らえっ!」
『重』
どかっ
「なっ・・・!?」
「タマモ!?」
ずんっ
「ぐがっ・・・・!」
キリコを突き飛ばしたタマモは、足元に浮かび上がった魔法陣に叩き付けられた。
「ちいっ!」
キリコは跳び上がってワゴンの向こうに着地、走り出す。
「追うんだ美神君!」
「わかったわ! タマモを押さえといて!」
走り出す美神の後姿を見ながら、タマモは上から押さえつけられる力にはむかって顔を上げる。
「・・・キリ・・・コ・・!」
「唐巣神父! 早く美神さんを追わないと!」
「わかってる、だが、今は・・・」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
タマモが体を持ち上げ始める。
「おたくは、いいかげん諦めるワケ!」
「すまんタマモ、これでおとなしくしてくれっ!」
『加』
ずしゃっ
「・・・・・・・!!!」
わずかに持ち上がっていたタマモの体が再び地面に押さえつけられ、地面にめり込む顔に表情が見えなくなる。
「・・・・・・・っ!!!!」
「し、神父、これ以上はタマモが・・・」
「う、うむ。 だが・・・」
うつ伏せに押さえつけられるタマモの体は、わずかに痙攣するように震えていた。
「・・・・・」
『 でもあんただってわかってるでしょう・・・? アタシ達みたいなのは、
人間を敵にしたら生きてけないって。
わかってるさそんなこと! じゃあ俺は、俺達はどうすりゃいいんだよ!? 』
ずばしゅっ!!
「なっ・・・!」
「何これ!?」
短かった9つの金色の髪が天を突き刺すように長く伸びた。 封魔札をかざす手が押し返される。
「まだ毛代わりの時期じゃねえだろうに・・・」
「気ぃ抜くんじゃない! 破られるわ!」
「こ、これはもう押さえられないっ・・・!」
ばちばちちっ!
「うっ・・」
「しまっ・・・」
結界を弾き飛ばす衝撃に、3人は弾き飛ばされる。
「このっ!」
素早く立ち上がり、跳び上がって行こうとするタマモにエミはブーメランを投げつけるも弾き返された。
「ぐっ・・・横島君、行くんだっ!」
「は、はい!」
「撒いたか・・・」
「残念賞。」
「!?」
橋の反対側に立ちふさがる美神に、キリコは刀を構える。
「くっそおおお・・・」
ふぁんふぁんふぁんふぁん・・・・ サイレンが橋を包囲するように迫って来るのが聞こえた。
「諦めなさい。 こっちの増援がもうすぐ着くわ。 それに、手負いのあんたなら、私1人でも十分よ。」
じゃきんっ 左腕の神通棍が伸びる。
「このGS美神令子が、極楽に叩き込んでやるわ・・・!!」
「人間があっ!」
タマモは橋の上のキリコと美神を目にする。
「―――見つけたっ!」
かん きん ぎゃりんっ
「ちいっ!」
ずばっ 神通棍が真っ二つになる。
「死ね・・・!!」
「甘い!」
美神は破魔札をキリコの右手に投げつける。 ばしっ
「くっ・・」
刀が手から離れる。
「吸印っ!!」
どきゅうんっ
「なっ!?」
銃弾が吸魔護符を突き破り、穴を開ける。
「!」
「!? 逃がすか! 精霊石っ!!」
「キリコ!」
爆発する前にタマモはキリコに跳びついた。 どかあああああんっ
「ああ―――っ!」
タマモとキリコは橋の外に吹き飛ばされた。 だぼおんっ
「タマモ!」
右肩を押さえる美神は、広がり続ける波紋を見つめていた。
「タマモ―――っ!!」
「令子ちゃんっ! 大丈夫か!?」
西条が警官達と走ってきた。
「西条さん・・・」
「例の鬼は・・・!?」
「川に落ちたんだけど・・・・下流を捜査してみて。」
「わかった。」
少し上流
ざばああ・・・
「このっ・・・」
タマモはキリコの体を引き上げると、茂みの中に引っ張りいれた。
「しっかりしなさい!」
「・・・っう、ぶはっ、げほごほっ!」
「ったく、世話の焼ける・・・・」
「はあ、はあ・・・・何で助ける・・・お前は、人間と生きてんじゃねえのかよ・・・?」
「人間と馴れ合ってるつもりはないわ。 アタシは、アタシの気に入った奴と気ままに生きていたいだけよ。」
「・・・・ふっ、ハルが気に入るわけだな・・・」
「・・・・・」
「俺達のこと、どれだけ知ってるんだ・・・・?」
「修行中に知り合ったんでしょ・・・? そのぐらいね。」
「はっ、それだけかよ・・・ぐはっ・・・!!」
「ちょっと・・・!」
「もういい・・・あんたに会えてよかったよ・・・」
「何言ってんのよ! 戦うんならちゃんと最後までやりなさいっ!!」
「お、お前みたいに人に化けれる奴も、そう多くはない・・・・俺達鬼も、普通は変化はできないからな・・・」
「それは、そうだけど・・・」
「生き残れる奴も、限りがあるんだろうな・・・俺達は初めから、範囲外だったんだ。」
「そんなの関係ないでしょうっ!? 人間がいるせいで生きられないなら全部殺せばいいじゃない!!」
「は、はは・・・無理言うなよ・・・」
「ちょっと・・・!」
「あ、あんたは・・・・・死ぬなよ・・・・」
「・・・キリコ・・・・?」
「・・・・・」
「・・・・・・・何で・・・何でよ・・・・・うああああああああああっ!!!」
河川敷にタマモの声が響いた。
「先生! あれ・・・」
「タマモ!」
土手の斜面に横になって寝転がっているタマモに、横島とシロが駆け寄った。
「なっ・・・タマモお前、その髪はどうしたでござる・・・!?」
「タマモ、あいつはどうした?」
「・・・・・」
「タマモ! 先生の質問に答えるでござ・・」
「シロ!」
「でも先せ・・・ !?」
「・・・・・」
「タマモ・・・・泣いて・・」
「タマモ、俺達先に帰るからな。」
「・・・・・」
「行くぞ、シロ。」
「は、はい・・・」
「・・・・・」
沈む夕日が染める川を、タマモは静かに涙を流して見つめていた。 赤く染まった川にはじかれた光が、タマモの体と髪を赤く染めていった。
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【次回予告】
タマモ「神様の修行場・・・?」
美神 「そ。 シロが試験前にどうしても行きたいって言うから。」
タマモ「ふ〜ん。」
美神 「横島君をお目付け役につけるけど、あんたも行ってくんない?」
タマモ「アタシ神様とかって嫌い何だけど。」
美神 「大丈夫よ、たいした神じゃないから。」
横島 「・・・怒られますよ?」
タマモ「あんたが行けばいいじゃん。」
美神 「あんな山奥のどん詰まり、好き好んで行きたかないわよ。」
タマモ「アタシにしたって行く理由がないわ。」
美神 「わかった、じゃあ、特別手当をつけるから。」
タマモ「どんくらい?」
美神 「こんくらい。」
タマモ「・・・・ま、いっか。」
横島 「お、おい・・・いくら貰ったんだ?」
美神 「次回、『道場破りのススメ』」
シロ 「拙者の話しじゃないんでござるか?」
おキヌ「わ、私の出番は・・・?」