タマモと錫杖を持った男が、黄色い三日月を見上げて座っていた。 
「・・・・ねえ、なんで人間の姿を借りるの?」 
「・・・・・」 
「まあ、アタシも人のことは言えないけどね。」 
「・・・・きみは、何でその姿を借りている・・・?」 
「・・・・慣れ、かな。 山の中だけじゃ生きにくいからね。」 
「まあ・・・・そうだよな・・・」 
「あんたは・・・・?」 
「・・・・・」 
「・・・・ハル?」 
「・・・タマモ。」 
「何?」 
「僕は・・・・人間が嫌いだ。」 
「・・・そう。」 
「でも・・」 


きつねレポート

回る剣の切っ先


「ハル!」 
ベットから上半身をはね起こしたタマモは、窓から差し込む日差しに我に返る。 
「・・・・・・」 
「それは誰のことでござる?」 
覗き込むシロの顔が窓の日差しをさえぎる。 
「・・・・何でもないわ。」 
「ほ〜う。」 
「・・・・・」 
「で、いったいどこの男でござる〜?」 
ばきっ 
「いって〜・・・何するでござるか!?」 
「うるさい。」 

「あれ、シロちゃん、タマモちゃんは?」 
「どっか行ったでござる!」 
赤く腫れた鼻を押さえながら、シロは椅子に座った。 
「もう、また喧嘩したの?」 
「拙者は何もしてないでござる、なのにあの狐が・・・!」 
「まあまあ、朝ご飯でも食べて、機嫌治して、ね?」 
「そうそう聞いてくだされおキヌ殿! タマモのやつ、どうやら男がいるらしいでござるよ〜!?」 
「ええっ!? それほんと!?」 
「ほんとほんと! 実はさっき・・・」 

「じゃあ先生、行ってきます。」 
「ああ、頑張りなさい。」 
唐巣に見送られて教会を出たピートは、踏み出したばかりの足を止めた。 
「・・・・誰だい、きみは?」 
「・・・・・」 
目の前に立っている男は、ズボンにジャケットを羽織って、手に錫杖を持っていた。 
「・・・・お前、人間の血が混じっているな?」 
「だったら何だ?」 
「ピート君、どうした?」 
唐巣が中から出てきた。 
「先生・・・」 
「何だねきみは?」 
「知る必要はないさ。」 
「先生さがって・・・!」 
錫杖型の刀を引き抜いて切りかかった男は、その刀が抜ききられる前にピートの体を切り裂いた。 

「じゃあシロちゃん、私学校行くから、お仕事頑張ってね。」 
「行ってらっしゃいでござる!」 
2階の窓から手を振るシロにおキヌも手を振り返すと走っていった。 

ぶろろろろろ・・・ 
「ん?」 
美神は道路の真ん中に立っている男にブレーキを踏む。 きききっ 
「ちょっとあんた! ここは車道・・」 
しゃらん・・・ 男は錫杖の刀を抜いた。 
「こいつ・・・」 
がこがこっ! ぎゃきききっ 美神はコブラをバックさせると、男から距離を取った。 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
ぶをんっ! コブラが男に向かって突っ込んだ。 美神は半立ちになり、左手をハンドルに残したまま右手で神通棍を伸ばす。 男は飛び上がって美神に刀を振り下ろした。 
「!」 
「ちっ!」 
ずばっ! 
「くっ!」 
ぶおおおおんっ・・・・ 男はコブラの上を飛び越す形になって着地した。 振り向くと、赤い車が小さく走り去って行くのが目に映る。 
「・・・・まあいい、いずれ殺す。」 
男は刀についた血をひゅんっと振り払い、鞘に収めた。 

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん・・・ 
「何だ? ピートの奴今日休みか?」 
「そうみたいね。」 
愛子と横島が話している時、タイガーが教室に駆け込んできた。 
「ふ〜〜、何とか間に合ったみたいじゃのう。」 
「おっす、タイガー。」 
「横島さん、愛子さんも、おはようですじゃ。」 
「おはよう。」 
「あれ、ピートさんは?」 
「来てないぞ、多分今日は休みだな。」 

「み、美神殿!? その傷はいったい・・・!?」 
ソファーにどっと座り込んだ美神の右肩口を、シロは包帯で縛る。 
「抜かったわ・・・・いいシロ、時間がないからよく聞いて。」 
「はい。」 
「敵は多分GSを狙ってるわ、まず間違いないと思う。」 
「獲物は霊刀でござるな?」 
「ええ・・・っく・・・錫杖型の仕込み刀みたいだけど、大きさは十分、それにっぐ・・・・刃に毒が塗ってあるわ。」 
「じゃあこの傷・・・」 
美神の傷口から見える肌がわずかに緑色になっているのが、シロの目に映った。 
「私は多分すぐには戦えないわ。 あんたは今すぐ横島君の学校に行って横島君とピートとタイガーと合流しなさい。」 
「おキヌ殿は・・・?」 
「・・・・おキヌちゃん達には悪いけど、あいつは雑魚の溜まり場は狙わないわ。 今は戦力を分散させないことを優先したいし、4人でかたまって一緒にいなさい。 4人でなら多分何とかなるでしょうけど、私はエミや先生に連絡をとるから・・・・早く行きなさい!」 
「は、はい!」 
シロは窓から飛び出した。 
「くそっ・・・・いいざまね・・・まったく・・・・」 
美神はソファーに倒れこんだ。 
『オーナー!? 美神オーナー!?』 

「!?」
「!?」
「!?」 
横島と愛子とタイガーは立ち上がって窓から校庭を見下ろす。 
「何だ3人とも、今は授業中だぞ?」 
「・・・・・」 
錫杖を持った男が歩みを止め、窓の横島達を見上げた。 
「誰あれ・・・・人間じゃないわ。」 
「どうやらわしらに用があるようですのう、横島さん。」 
「マジかよ・・・・」 
「ど、どうするの?」 
「よし、逃げるぞ!!」
「お供しましけえ!!」 
「ちょとあれ・・・!?」
「なっ・・・・シロか!?」 

ずざざざざ・・・・! 
足を踏ん張って歩みを止めたシロは、錫杖を持った男が振り返ったのを見た。 
「こいつでござるか・・・!?」 
「・・・・貴様、妖怪か。」 
「拙者は人狼族、犬塚シロ! お前が美神殿をやったのか!?」 
「・・・・誰だそれは?」 
「とぼけるな! お前のそれから、美神殿の血の臭いがするでござる!」 
「ああ、なら俺の切った奴だろうな。」 
「なぜ罪もない者を切るでござる!? これ以上は拙者が許さん!!」 
「・・・・貴様、なぜ人間の味方をする?」 
「お前がしていることは悪いことだ、そんなこともわからんかっ!?」 
シロは霊波刀を放って突っ込んだ。 
「・・・・・ならばお前も殺す。」 
どすっ 

「! シ、シロ!?」 
校舎から出てきた横島とタイガーは、突き上げられた刀に腹を貫かれているシロを見た。シロの体は宙に掲げられ、男はそれを投げ捨てた。 
「てんめえ―――――!!」 
「横島さん待つんじゃ―――!」 
タイガーの腕を振り払って走りこむ横島に、男は刀を構えた。 
『爆』 
どこおおおおおんっ 
「ふんっ!」 
粉塵をなぎ払った男に横島は右腕を振り下ろす。 
『剣』 
がきんっ! ぎゃりんんっ・・・! 横島は弾き返され、着地する。 
「何なんだてめえはっ!?」 
「お前らと話すことは何もない。」 
「横島さん! シロさんはまだ無事です!」 
タイガーの声に、横島は視線を男からずらすことなく叫ぶ。 
「タイガー、シロを病院へ! 頼む!」 
「任せんしゃい!」 
「・・・・・無駄なことだ。」 
「ぬかせ! シロの仇じゃ――!」 
飛びかかって振り下ろされた横島の剣を、男は横に切り払った。 ずしゃっ! 
「げっ!?」 
横島の目が飛び散る剣の破片に行く。 
「じゃあな。」 
左に振り払われていた男の刀が、再び横島に向かった。 
「っう・・・」 
どきゅうんっ! がんっ! 
「なっ・・・!?」 
「タマモか!?」 
塀の上から銃を構えたままタマモが跳んだ。 弾き飛ばされた刀に、男の体が硬直する。 どんどんっ! 
「っちいいっ!」 
男は飛びのくと、弾かれた刀に向かって跳んだ。 
「横島、生きてる?」 
「お、おう。」 
タマモは横島の前に立つと男に銃口を向けた。 
「・・・・・貴様・・・」 
「! その刀は・・・・」 
「喰らえ!」 
「待って・・・!」 
「な・・・!」 
横島の文珠がタマモの右手で叩き落とされる。 
「ちっ!」 
男は飛んで塀の向こうに消えた。 
「!」 
「逃がすか!」 
走り出すタマモに、横島も続いた 
「おい、あいつを知ってんのか?」 
「知らない。」 
「じゃあ何で邪魔した!? あいつはシロを・・・!」 
「あいつに聞きたいことがあるのよ! 邪魔しないで!」 
「・・・・・」 

「くそっ、あの男・・・妙な術を使いやがる。」 
体の各所に火傷を負った男は、錫杖を杖に走っていた。 
「見つけたぞ!」 
「!?」 
振り向いた男に、横島は文珠を投げつける。 
『爆』 
どかああああああんんっ! 
「ぐっ・・・・!」 
吹き飛ばされる男は、転がりながら立ち上がり刀を抜いた。 
「待てって言ったでしょうが!?」 
「うるせえっ! こいつは・・・」 
「アタシの邪魔するな―っ!」 
ばきっ 
「なっ・・・!?」 
タマモは横島を殴り飛ばした。 
「寝てろっ!」 
横島の頭に霊波を叩き込む。 
「ぐお〜〜〜〜〜〜・・・う〜ん、令子と呼んでいいですね・・・・? むにゃむにゃ・・・」 
「!?」 
どきゅん がんっ! 
「ちっ!」 
切りかかろうとする男の足元に銃弾を撃ち込み、男の進行を阻む。 
「貴様も人間をかばうのか・・・!?」 
「そんなつもりはないわ、こいつは顔見知りなだけよ。 あんたに聞きたいことがあるわ。」 
「・・・?」 
「あんた、ハルを知ってるんじゃないの?」 
「何・・・お前は何だ?」 
「狐よ。 ハルは、今どこにいるの・・・?」 
「・・・そうか、お前がタマモとか言う狐か。」 
「答えて。」 
「・・・・今は知らん。」 
「そう・・・・・聞くまでもないけど、何で霊能者を襲う?」 
「仕返しだ。」 
「やっぱり・・・・あんた、キリコとか言う鬼ね。 人間を主食としてたって言う・・・」 
「俺達ははめられたんだよ、人間どもにな!」 
「そう・・・」 
「そいつも霊能者だ、俺は殺したい!」 
「あんたの邪魔する気はないけど、アタシの見知った奴に手出しはさせないわ!」 
刀と拳銃が構え直される。 
ぶろろろろ・・・・
「!?」 
「ちっ!」 
車に気を取られたタマモに、キリコは反転して民家の屋根に飛びのった。 
「あっ・・・・くそ!」 
きききっ 
「タマモ、無事!?」 
「美神さん!?」 
「早く乗るワケ!」 
「アタシはいいから、横島を回収しといて。」 
「やられたのかい!?」 
「寝てるだけ。」 
車から降りた唐巣が横島を担ぎ上げる。 
「急ぐわよ!? 早くあいつを捕まえないと、こっちの戦力がなくなるわ!」 
「・・・・・」 

ぶろろろろろ――・・・ 
エミの運転するワゴンの中で、美神は右腕に注射を打ち込んだ。 
「っく・・・」 
「大丈夫かい美神君?」 
「もっと強い痛み止めが欲しいわね。」 
「今は無理をしてはいけない、少し休むんだ。」 
「ええ・・・」 
「タマモ君、敵のことを何かわかったかい?」 
「鬼の変化ね。 仕返しだってさ。」 
「そうか・・・・・何とか話しを出来ないかとも思ったが・・・」 
「・・・・・」 
「おっさん、レーダーは追尾できてるワケ!?」 
「あ、ああ。 北上してくれたまえ。」 
「OK!」 
「・・・・復讐か、手ごわいだろうな。」 
「シロもやられたんでしょ?」 
「ええ。」 
「ピートにシロか・・・・・接近戦が出来る2人がやられたのはちょっと痛いわね。」 
「ふんっ! ピートに手を出した馬鹿は、私がぶっ殺すワケ!」 
「まったく・・・・ほれ、あんたもいいかげん起きなさい!」 
美神は横島の頭をごんごん叩く。 
「う〜ん・・・・・はっ!? こっここは!?」 
「今あいつを追ってるわ。 あんたも少しは・・」 
「タマモ――――!! てめえどういうつもりだ!?」 
「ちょっ、落ち着きたまえ!」 
「どうしたのよ!?」 
「こいつ、あのやろうをかばいやがって!」 
「何!?」 
「そうなのタマモ!?」 
「・・・・・」 
「答えろ