とある山奥の一流ホテル、そのレストランの勝手口に一人のグラマーな女性がやってきた。 手馴れた雰囲気でドアを開けて中に入っていく様子からして、わりと日常的な行為のようだった。 『コック長さんっ! 今日はどれくらいあるんだい?』 「おお、クララさんか。 悪いなぁ〜、今日は少ししか残飯は出てないんだ。 一応、少し食材も入れといたけど、これで足りるかな〜?」 『う〜ん、うちの子たちも頭数が多いからね〜。 食べ盛りなうえに、冬場で山には食べ物がないし、 最近、言葉を覚えてきたもんだから、うるさいんだよね〜 あ〜あ、また買い置きの大豆を食べさせるとなると、まずいって文句言われるのか〜 あっ、でも、コック長さん、これだけでもいいおかずになって助かるよっ! 今夜もうちの店に来てくれるんだろっ!? サービスするからねっ!』 チュッ! コック長に投げキッスをして、残飯の入った袋をかかえて出て行くクララ。 食人鬼女グーラーの仮の名前である。 頭数の多い子供たちとは、須狩が大量生産しようとしていたヒンズー・バリの魔鳥、ガルーダの ヒヨコたちのことであり、現在はグーラーが養っていた。 でも、あまりにも沢山いて、あまりにもよく食べるので、いちいち山でエサを探していられなくて、 レストランの残飯をわけてもらったり、スナックのママとして働いたりして、エサ代を稼いでいるグーラー。 たしかに大変なことは大変だったけど、グーラー本人にとってみれば、酒場で働くこと自体は 天職のようなもんだし、数は多いけど、子供を育てることなど縁がないと思っていただけに、 結構充実した日々が過せていた。 あと、ここでは自分が魔物だということを、みんなが知っていて認めてくれていることも、気に入っていた…。 トゥルルルル…… トゥルルルル…… 「はいっ、美神除霊事務所です。 えっ? あっ、はい。 横島は、こちらで働いておりますが… はい、いま代わります。 少々、お待ち下さい。」 保留ボタンを押して受話器を置いたおキヌちゃん。 「横島さん、お電話なんですけど…」 「えっ? 俺っ? 誰からっ?」 「なんでも、ゼーゼマンっていう人からなんですけど…」 いきなり口を挟む令子っ! 「なにぃっ!? ゼーゼマンってったら、会員制の超一流ホテルチェーンのオーナーじゃないのっ! なんで、横島に直接電話がかかるのよっ!?」 「えっ? 俺、そんな人、知らないっスよ〜 なんかの間違いじゃないっスか?」 「じゃあ、あんた電話に出るなっ! 私が代わりに出てあげるっ!」 「へ〜い…」 コホンッ! のどの調子を整えて、受話器を握る令子。 「わたくし、美神除霊事務所の所長、美神令子ですが…」 『マイダーリンっ! 会いに来て〜っ!』 「え゛っ!?」 『あんたはっ!?』 ピキピキピキッ! 令子の険悪な雰囲気が、事務所を凍らせるっ! わけもわからず、緊張する横島とおキヌ… 「あんたっ! その声からして、グーラーねっ!?」 ピキピキピキッ! 今度はおキヌちゃんまで険悪な雰囲気に… わけがわかって、なおさら緊張する横島… 『あら、あんたは横島に美神って呼ばれていた女…』 「そんなことより、あんた、なんで横島に電話なんかするのよっ!? それに、ゼーゼマンなんて人の名前を使って、なにしようっていうのよっ!?」 『しょ〜がないね〜、横島と話がしたかったけど、あんた、代わってくれそうもないしね。 ゼーゼマンさんは、あたしが働いている店のオーナーで、電話したのは、仕事を依頼するためだよ。』 「妖怪のあんたが仕事の依頼?」 『ああ、そうだよ。 悪いかい? まあ、スポンサーは、ゼーゼマンさんだけどさっ。』 「むぅ…、ウソじゃなさそうね… あの館の跡地に、ゼーゼマンがホテルを建てたって話は知ってるし…。 で、どんな仕事の依頼なの? うちは仕事を選ばせてもらってるのよっ!?」 『うちの子供たち…、ガルーダのことなんだけどね、7羽が自分たちだけで外に出ちゃって 迷子になって困ってるんだ。 一緒に捜してもらいたくてさっ。』 「外出って…。 どこか遠くに行っちゃったってこと?」 『残った連中に聞いてみたら、美味しいエサが食べたくて、自分でエサを探しに行ったらしいんだ。 うちの子たちの主食は、ヘビだからね。 でもまだあいつら、自分でエサを探せるほど育ってないんで、やばいんだよ。 この冬山じゃヘビなんか冬眠しちゃってるし、熱帯の生き物だから寒さで凍えちゃうよっ。 これって、あんたらの責任でもあるんだろ? なんのアフターケアーもせずに、須狩から金だけ持っていきやがって…』 「うっ…。 よ、妖怪のことは、妖怪に任せればいいと思って…」 『須狩は、妖怪だってゆ〜のかい?』 「わ、わかったわよっ。 引き受けたっていいわ。 じゃあ、スポンサーのゼーゼマン氏に代わってくれるっ?」 『ああ、ちゃんと、横島も連れてくるんだよっ?』 グーラーに代わって電話口に出るゼーゼマン氏 「うちのクララが、失礼なものの言い方をしまして、すみません。」 「へっ? クララ?」 「あっ、はい。 こちらでは、彼女のことを『横島クララ』と呼んでおりまして…」 「そ、そうなんですか…。 ところで、ゼーゼマンさん、1つ確認しておきたいんですが、 グーラー…、その、クララに脅されて、スポンサーをやるってわけじゃないんでしょ〜ね。 あとから、脅迫されたせいだから支払うつもりは無い、なんて言われたくないですから。」 「とんでもないっ! 彼女やガルちゃん… 失礼、ガルーダたちは、私たちの命の恩人なのですっ! 以前、アシュタロスが地球を支配しようとしたとき、この近辺でも魔物が多数復活してしまったのです。 例の、須狩たちのいた館の跡地ですから、しかたないのですが… その魔物たちが、当ホテルを襲撃しようとしたのですが、彼女がガルちゃん…、その…、 ガルーダたちを指揮して私たちを守ってくれたのですっ!」 「ふ〜ん、何も縁のない、あなたたちをですか?」 「あっ、いえ。 ガルちゃんが、当レストランの残飯をいつもあさりにきていて、コックたちが 可愛がっていたんです。 それがきっかけでクララさんと知り合いになり、残飯をガルちゃんに 与えるようになっていたのです。」 「ガルーダの食事が縁で、ですか。」 「魔物を退治してくれて、彼女も魔物だってことがわかったんですが、私たちにとっては 神様と同じなのです。 ですから、彼女が冬場の住まいとエサ代を稼ぐための仕事を 欲しがってると聞きまして、住み込みで当ホテル内のスナックで働いてもらうことにしたのです。」 「わかりましたわ。 私としては、お金を払っていただけることさえわかれば、結構です。 そちらでヘリコプターを手配していただければ、すぐにでも捜索に加わりますわよ。」 「おおっ! ありがとうございますっ! 私も、ガルちゃんのことが心配で、心配でっ!」 受話器を置いて、深いため息をついた令子… 「ガルちゃんかぁ〜〜。 たしかに、魔鳥ガルーダを凍死させるのは忍びないけど… でも、あのグーラーが横島クララとか言われて、いい扱いを受けてるのは、しゃくにさわるわねっ! それに…」 ジロッ! 冷たい視線を横島に浴びせる令子… 「横島っ! あんた、グーラーに誘惑されても、変な気、起こすんじゃないよっ!?」 「そ、そ、そんなこと、しませんってば…」 その言葉が当てにならないことは、百も承知の令子ではあった… バラバラバラ… バラバラ… ヘリコプターでゼーゼマンのホテルに向かうGSたち… 眼下に広がる森の木々は薄っすらと雪化粧をまとっていた…。 「うぅ〜〜、この森の中でガルーダを捜すんスかぁ〜? 寒そうだなぁ〜〜」 「頑張ってねっ! 横島クンっ!」 「えっ? それって、美神さんは捜しに行かないってことですか…?」 「あたりまえじゃないの。 私は、ホテルで待機して、捜索隊に指示を出す役目よ。 おキヌちゃんもホテルに残って、捜してきたガルーダの手当てを担当してもらうわ。 凍死寸前だと思うから、結構、大変な仕事になりそうね。」 「まあ、そうですが…」 「あと、シロとタマモっ! あんたたちも、しっかり捜索するのよっ! あんたら、天然の毛皮を持ってんだから、これくらいの寒さ、どおってことないでしょっ?」 「くぅ〜〜ん」 「きゅ〜ん…」 定員オーバーになるため、ケモノ形態でヘリコプターに乗せられた二人… バラバラバラ… ホテルのヘリポートに着陸する令子たちを乗せたヘリ。 出迎えに来ているゼーゼマン氏とグーラー、ガルーダたち。 ガルちゃんたちは、サッカーボールぐらいの大きさに成長していた。 『マイダーリン〜〜っ!』 ヘリから降りてきた横島に抱き付こうとするグーラー キンッ!! そのグーラーの行く手を阻む、令子の神通棍っ! 「グーラー、仕事に私情を挟まないでもらえるっ? 横島クンは、これからお仕事なの。 あんたのせいで、役立たずにされたら困るんでねっ!」 凄みをきかせて、グーラーを睨み付ける令子っ! 『命の恩人に、親愛の情を示すことの、どこが悪い?』 「横島には、それだけでも煩悩を暴走させてしまう恐れが有ってねっ!」 バチバチバチッ! はなっから、険悪な雰囲気… この様子を見ていたガルーダたちが、動き出すっ! 『あの女、ママの敵っ!』 『ママの敵っ!』 『敵っ!』 『敵っ!』 ピヨピヨピヨッ! ピヨピヨーーッ! 令子に襲いかかるガルーダたちっ! 「わっ!? な、なによっ! |