タイム・トゥ・セイ・グッバイ

著者:葉梨らいす


  
   
解説 美神令子と芦優太郎との謎の失踪後、事件前後にアシュタロスの気配を察知したヒャクメはアシュタロスの陰謀として、GS本部に対策を要請、それを受けてGS本部はICPOと合同捜査本部を設置、事件に関する緘口令を敷き、美神智恵子の指揮の元、二人の捜索にあたらせ、再び予想されるアシュタロスの反撃に対し、西条氏を現場指揮に任命し、再来に備えていた。しかし、そのあと、極短い時間、美神令子の気配が弱く感じられて以降も、アシュタロスによる再度の侵攻は無く、やがて妨害霊波は完全に消滅、それと時を同じくして霊界チャンネルも回復、神魔族の霊力供給も再開され始めたが、同時にそれまで行動を控えていた悪霊、妖怪の動きが一気に湧き上がり、各GS事務所には依頼で飽和状態となった。事態の深刻さをいち早く察知した美神美智恵は、どさくさに紛れて、美神令子の名義で横島忠夫をプロのGSとして認証させ、その日から、早速仕事に当たらせ、横島、ルシオラ、パビリオ、おキヌの四人は、その日も21時を回るまでに8件目の依頼をこなしていた。
おキヌ拡声器で)「あなたは完全に包囲されているのよ!バカなことはやめて!」
「うるさいっ!ここは俺のステージ〜だ!」(ガシャアン!)
(ざっ)
「誰だ!」
パビリオ「近所迷惑考えず、騒音をまき散らし、よいコの睡眠時間をけずるとは言語道断!このパビリオの正義の一撃を受けるがいいでちゅ!」
横島「ま、待てパビリオ!まだ準備が終わっとらんだろーが!」
パビリオ「ヨコシマ!はなすでちゅ!正義の破壊光線を〜〜」
横島「分かった!秘密兵器はおまえにまかせるから!なっ!」
「おまえらっ!俺の歌を聞け―――っ!」(ジャンジャカジャジャ〜〜ン♪)
横島「ル、ルシオラ!秘密兵器の準備は!」
ルシオラ「終わったわ!パビリオ!これを!」(しゅるるる!)(木槌が飛んでいく)
パビリオ(ぱしっ!)「よーし、パビリオにおまかせでちゅ!」(のど○慢の鐘の声〜〜)
「この広い世界のあらゆるものの中で〜〜」
(カーン♪)
「そ、その音だけは聞きたくなかった――――っ!ああっ!恥ずかしさで胸が張り裂けそーだっ!」
横島「吸印!」(バシュッ!)
パビリオ「正義は必ず勝つ!でちゅ!」(びっ)
ルシオラ「これで今日の仕事は終りね。」
パビリオ「も〜くたくたでちゅ。パビリオは関係ないのに何で駆り出されてるんでちゅか?」
ルシオラ「文句言わないの。アシュ様がまた攻めてきた時に、バラバラでは余計に危険なのよ。それに私たちにも責任の一端はあるわ。」
パビリオ「ぶ〜、面白くないでちゅ――。」
横島「俺には心底楽しんでいるよーにしか見えんが……。」
  
  ルシオラの運転する車、ライトが夜の闇を裂いている。 後部座席のパビリオと横島は眠っている。
 沈黙
  
おキヌ「…………あの、」
ルシオラ「え?何?」
おキヌ「あ、あの、その、あっ、ルシオラさん運転お上手ですね?」
ルシオラ「そう?じゃ、免許とってみようかしら。」
おキヌ「え???」
  
  再び沈黙――――赤信号を素通りする。
  
おキヌ「(サ―――――ッ)あ、あの、明日からは、運転手さんをお願いしませんか?」
ルシオラ「そうね、連日の仕事で疲れているのはみんな同じだし。万が一事故を起こしたら私たちとヨコシマはともかく、おキヌちゃんは大変だし―――、それがいいわね。」
おキヌ『お願い、早く事務所について〜〜。』
   
  翌朝、自転車で出勤する横島クン、黒い乗用車を見つける
  事務所に走り込んで来る横島クン
   
横島(バンッ!)「隊長!美神さんのこと、何か分かったんですか?」
美智恵「今、そのことをみんなに話そうとしてたんだけど、捜査本部は…、各地の霊界チャンネルの完全回復を受けて、美神令子、芦優太郎の両名の捜索を打ち切り、公式的に死亡したとする事に決定したわ。」
横島「そんな!」
美智恵「横島クン、分かってちょうだい。でも、ヒャクメ様の霊視の結果、二人とも、現世に確認できないのよ。」
横島「でも…、アシュタロスが進入してきたときだって、全然気付いてなかったし!」
ヒャクメ(グサッ!)
パビリオ「そういえば私たちの霊圧も千マイトって勝手に勘違いして喜んでたのもこのひとでちゅね―――。」
ヒャクメ(グサッ!)
ルシオラ「あっ、そういえば美神さんを暗殺するために潜伏してた暗殺部隊にもアシュ様が手を出すまで気付いてませんでしたね。」
ヒャクメ(グサッ!)
ヒャクメ「ど、どーせ私なんか……。私なんか……。」
おキヌ「そ、そんなに言ったら! ヒャクメ様だってがんばったのに!!」
ヒャクメ「お、おキヌちゃん……」
おキヌ「あ、でも…、太平洋沖の作戦で、横島さんの関係者が全員、変装だってこと気付いてませんでしたよね……。 あっ!」
   
ヒャクメ「……どうせ、どうせ、私は役立たずの下っぱ神族ですよ……。クスン。」
おキヌ「ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
美智恵「ヒャクメ様は、アシュタロスの妨害霊波の中で霊視していたのよ。だから――――」
ヒャクメ「そ、そうですよねッ!!さすが隊長さん!!」
美智恵「そんな、役立たずとか、下っぱ神族とか、100の感覚器官はハリコの虎か?とか、そんなこと………。」
ヒャクメガーン ガーン ガーン
おキヌ「ああっ!!あ、あのっ!!ヒャクメ様?」
ヒャクメ「いーのよおキヌちゃん……。全部ホントのコトなんだから……。」
横島「隊長、ワザとやってんじゃねーのか!?」
ルシオラ「わ、私もそんな気がする……。」
美智恵「それに…私も、令子の気配が消えるのを感じたわ。一時は覚悟してたことだし、きっと仕方ないことなのよ……。」
全員「………。」
美智恵「それで、私も、指揮官の任を解かれたわ。後のことは西条君に任せることにして、元の時空に戻ることになったの。それで、横島クンに文殊で雷を出して欲しいんだけど…」
横島「…………。」
   
 事務所前の庭
   
小竜姫「…断っておきますが、この時間移動は、神魔族最上層部の特別許可のもと行われます!本当なら、これ以上の時空の混乱はもう絶対に避けたいんです。今回の事件でのあなたの功績を特に認めての最後の時間移動ですからね!?」
美智恵「……ご心配なく!過去に戻った私は、関係者との連絡は一切絶ちます。表向きは死んだこととして――――今日が来るまで五年間、行方をくらませて沈黙―――――約束は守ります。」
おキヌ「でも、五年も…、美神さんとも会えないままなんて……」
美智恵「おキヌちゃん……。 そんなに心配しないで。それにちゃんと隠れ場所はあるんだし。心の整理もつけたいしね。じゃ、行くわね。みんな、ありがとう……。」
小竜姫(バシュッ!)
全員「…………。」
横島「あれ?じゃぁ、隊長は今どこに?まさか…」
美智恵「みんなーっ、ごめんねー」(ひょこっ)
横島「た、隊長!?」
美智恵「私としても知らせたいのはヤマヤマだったんだけどね―――――なにぶんここまでの流れを先にみちゃってたことでもあるし――――!?五年も待つ私だってつらかったのよ――――時間移動してきた自分からも何度もかくれたりして―――――だから、ね?」
横島「平和な五年でやけに軽くなった気がするな。」
美智恵「それで今日は――――」
ヒャクメ「ちょっと待ってください!隊長さん!あの、かすかだけど美神さんの気配が!」
全員「え?……何――――っっ!!!!」
おキヌ「どこ?どこなんですかっ!?ヒャクメ様!」
西条「令子ちゃんが?」
横島「それでっ!美神さんはどこだよっ!」
パビリオ「やっぱり節穴でちゅね…。」
ヒャクメ「あっあの、それが…隊長さんの…」
横島「ど、どーゆーことだよっ!まさか隊長が美神さん?え?あ?も――何が何だかワケが分からんっ!!」
ルシオラ「落ち着きなさいっ!!」
ヒャクメ「お、おめでたですっ!」
美智恵「ふふ、実はそうなのよ―――。」
全員「……………、え―――――っ!!」
   
  事務所の中
   
小竜姫「つまり、美神さんは、時空転移して、再び美神智恵子の娘として転生していたわけですね。」
美智恵「おそらくは……ね。」
横島「あの女、自分の妹に転生してたとは……。ものスゴい執念だな……。」
美智恵「そうね。ホント、あの子らしいわね……」
おキヌ「ところで、隊長さんは、今までどこにいたんですか?」
美智恵「実はね――、うちのダンナの所にいたのよ。あの人、ジャングルの奥地で、フィールドワークが多いから。二人ともあちこち飛びまわってて、夫婦生活はないも同然だったから。しばらくはいいかなって。」
全員「―――――。」
小竜姫「とにかく、この転生のことは、事が事ですので、私たちだけの秘密に。時が来たら、何か解決法が見つかるかもしれませんので、その時まで。」
ワルキューレ「そうだな、またこいつらの面倒ゴトに巻き込まれるのはゴメンだしな。」
小竜姫「ええ、よろしくお願いします。」
ワルキューレ「それじゃ、私もそろそろ戻ることにする。また会おう!」(バシュッ!)
ジーク「……横島!」
横島「はいっっ!!?」
ジーク「今回はご苦労だった!…また会おう!」 (バシュッ!)
美智恵「それじゃ、西条クン、病院までお願いね。」
   
  うみほたる
   
横島「なんか、色んなことが立て続けに起こって――――しっかし、美神さんが美神さんの妹か……。死に別れとゆーか……生き別れとゆーか……!悲しいのか嬉しいのかももーよくわからん…!」
おキヌ「そうですね。でも私、何だか少しほっとしました。妹か……、きっと美神さんに似てかわいいでしょうね。」
ルシオラ「そうね。でも美神さんの中のエネルギー結晶はそのままだったわ。となると、一瞬感じたあの気配は何だったの?」
横島「でも、アシュタロスの気配も消えたし、妨害霊波も消えたんだろ?それに―――」
ルシオラ「(微笑)……そうね。」
おキヌ「そうですよ!とりあえず一段落就いたら、隊長さんにお祝いしてあげましょう!!」
横島「いや、まてよ、美神さんがまた子供から始めるということは……?」
ルシオラ「?」
横島「美人の隊長から生まれた美神さんが美人なのだから、その妹もいずれ当然…!!となれば――――」
ルシオラ「どーせそんなコト考えてるだろうと思ってたわよ!」(ガンッ!)
横島「ああっ!また声に出してしまった!」
パビリオ「これがホントの子煩悩でちゅね。」(やれやれ)
   
END  
   

※この作品は、葉梨らいすさんによる C-WWW への投稿作品です。
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