my graduation

著者:KAN


   「ふうっ・・・。明日でいよいよ高校ともお別れかあ・・・。」
  (なんだか卒業するのに8年くらいかかったような・・・?)
  いつになくセンチな気分にひたっている青年の名前は横島忠夫。歳は今年で(やっと?)18になった。
  (俺・・これからどうするんだろう。やっぱり今の仕事をつづけるのかなあ・・・。)
  彼は今時めづらしい苦学生などというものをやっている。一応、親からの仕送りはあるのだがかなりきりつめられている。
  当然バイトをしているのだが、そのバイト先の雇い主というのが世界一というくらいのがめつさ、守銭奴というほどのものではないのだが、
  お金に物凄い執着しているので、彼のバイト料というものは超薄給なのである。その薄給ぶりといったらやはり世界一というくらいで、  そのためにやっとのことで生活しているのである。
  (やっぱり時給あげてもらわんとなあ・・・。このままでは飢え死にしてしまう。)
  当たり前のことを当たり前のように考えていると電話の呼び鈴がなった。
  ジリリリリリン・・ガチャッ
   「はい、横島っすけど。」
   「忠夫かい?」
   「なんだ、おふくろかあ」
  電話の主は彼の母親、百合子である。彼女は今、夫である大樹、つまり横島の父親の赴任先であるナルニアに居る。帰国は来年の予定。
   「あんた、母さんに向かってなんだとはなにさ!」
   「そんなことより何の用だよ。」
   「あんた明日は卒業式でしょ?母さんは行かなくても良いのかい?」
   「い、いいよ、恥ずかしいから」
   「恥ずかしい・・?母さんがかい・・・・?」
   「ちちち、違うって!断じてそのようなことは。」
   「ならいいけどね。それからあんた、卒業したあとはどうするつもりなんだい?やっぱりGS(ゴーストスイーパー)になるのかい?」
   「ああ、そのつもりだけど・・?」
   「あんたがそんな仕事にねえ・・。我が息子ながら信じられないよ!」
   「大きなお世話だ!」
   「あとそれから、・・・。」
   「なんだよ、まだあるのかよ?」
   「あんたもこれからは立派な社会人になるんだから、しっかり”自立”して”自分”で生活するんだよ。」
   「えっ・・?ということは・・。」
   「そう、仕送りはもう無し!」
   「なにーーーっ!ち、ちょっと待ってくれよ母さん!これ以上収入が減ると死んでしまうやないか!」
   「何言ってんだい!GSってのは儲かる仕事なんだろ?だったら問題ないじゃないかい。」
   「そ、それはそうだけど俺の場合はまだ見習というか、助手というか・・・」
   「まっ、頑張りなさいよ!それじゃっ!」
   「こらーーっ!オバハン!まだ話は・・・・。」
  ツーツーツー。
   「チッ、きりやがったか・・。」
  (しっかし困ったことになったぞ・・。唯一のまとまった収入が途絶えてしまった。こうなったら時給をあげてもらうしかてはない。しかし、あの女がそんなことしてくれるだろうか・・・?・・・・無理だ・・・あの女に限って時給を上げるなんてこと天変地異が起こってもしてくれないだろう。
  だがそんなこと言ってる場合やない!こっちは命がかかっとるんじゃ!何としてでもあげさせなくては!それに、本気で頼んだらあの人だって・・。
  俺だって役に立ってきてるんだから大丈夫だよな・・・?)
  などと都合のいいように考えていた。
   「もう、寝よっ。」


  そして次の日・・・卒業式を終え校内は当然のように騒々しくなっていた。みんなで写真を撮ったり、寄せ書きをしたり、ムカツク先公を殺したり・・
  まあこれはないことを願うが、こういうことは卒業式のきまりごとのようになっている。
  横島の教室では・・・
   ”ピートくーん” ”ピート先パーーイ!”
   「ちくしょう!ちくしょう!なんでピートばっかり・・。なんだかとってもちくしょう!」
  ガンガンガンガン!横島はピートのワラ人形を突いている。
  ピート・・本名ピエトロ・ド・ブラドーは超美形のバンパイアハーフである。なんとあの有名なドラキュラ伯爵の遠縁にあたるらしい。横島とは何度も悪魔と戦った仲でもある。普段はそうでもないのだが、こと女のことになるといつもこうである。
  つまり横島はモテないのである。この表現は必ずしも的を得てはいないが一般的にはそうなる。
   「ハアハアッ・・。苦しい!」
   ”キャー、ピートくん大丈夫?”
   「あっ、くっそー!」
   「横島さん・・。そんなんじゃ甘いですけえのー」
  突然現れた2メートルはあるかというほどの男は、横島から杭をぶん取り力まかせにワラ人形を突いた。
   「グハーっ!」・・・バタリ・・・
   ”ピートくーーーん!”
   「フハハハハーーー!ざまあみさらせ!おいタイガーっ!おれにもやらせろっ!」
   ”ちょっとあんたたちー!”
   横島&タイガー「ひいーーーーーーーー!」
   ”今度やったら唯じゃおかないからね!”
   横島&タイガー「ハイ」・・・・・パタム・・・・横島たちは女性徒たちにボコにされた。
   「横島さん。大丈夫ですか?」
   「うるせー、俺に話しかけんな!ハっ!美形サマはよーございますなー。モテモテで」
   「何言ってるんですか。それを言うなら僕より横島さんの方が・・・・。」
   「ああーっ!俺がどうしたって?」
   「いえ・・。そんな事より横島さん、これからどうなさるつもりなんですか?もし決めていらっしゃらいなら僕とGメン(ICPO超常犯罪課)の試験、一緒に受けません?」
   「Gメン?遠慮しとくよ、俺の頭じゃ絶対無理だしな。それにあいつとだけは一緒に仕事したくないしな!」
   「ハハ・・。そうですか。」
   「そおそお、あっ!俺こんなことしてる場合じゃなかった。んじゃなピート!おまえなら絶対入れるさ」
   そう言うと横島はいそいで校門を出ていった。
  (さあ、早く帰って事務所に行かないとな。)横島は昨夜考えていたことを頭に巡らせながら足早にアパートに向かった。
  ・・・と、突然見知った顔が現れた。
   「よお!久しぶりだな。」
  男は黒のスーツにネクタイをしており、頭にはハットを被っている。普通の人なら少しひいてしまうような格好だが、横島にとっては慣れた  ものだった。
   「なあーんだ。雪ノ丞か。」
   「なんだとはごあいさつだな。せっかくダチが会いに来てやったっていうのに・・。」
   「会いに・・・?フっ、よく言うぜ!本当は俺に飯をたかりにきたんだろう。」
   「さすがライバル!よくわかってるじゃねえか。」
  雪ノ丞とはGS資格取得試験以来の知り合いである。雪ノ丞はその時から彼をライバル視していたのだが、(当時はもちろん勘違い)
  今にして思えば、彼だけが横島の才能を見抜いていたのだ。
   「だが、今日はそれだけじゃないぜ!実は話があって来たんだ。」
   「・・・金ならねえぞ。」
  横島は嫌そうに言った。
   「そうじゃねえって!・・まあここじゃなんだ。早いとこおまえん家に行こうぜ。実は腹が減ってしにそうなんだ。もう3日何も食ってねえよー。」
   「・・やれやれ・・・・。」
  
 
   バクバクっ・・ズズズズー。ゴキュゴキュ、ごっくん。
   「おい!雪ノ丞、お前俺に話があってきたんじゃなかったのか?」
   「ハアハへ・・、ズルズルズル。ハハハヘッヘハヒフハハヘヒフッヘフーヒャハイカ?(まあ待て、腹が減っては戦はできぬっていうじゃねえか?)」
   「何言ってんだかわかんねえよ。俺は忙しいんだ。」
  ズゾゾゾゾゾー、ごっくん。
   「ふう・・、食った食った。さて、話って言うのはな、仕事の事だ。おめえこれからのこと考えてるのか?」
   「いや、まあ今まで通りでいこうかと・・・。」
   「だったらよ、俺と組まねえか?」「・・・?・・・」
   「だからよ、俺と一緒に仕事しねえかっていってるんだよ。」
   「いや、俺は今の事務所で・・・」
   「でもよ、いいのかこんな暮らしで・・・。GSってのは儲かる仕事なんだぜ!」
   「お前が言っても説得力ないぞ。」
   「なに言ってやがる、おれに金がないのはなあ、“モグリ”だからだよ!おめえは免許持ってるんだろう?だったら大丈夫だって、俺だって資格もういっぺんとりにいくしよ。俺達二人で組んで出たら間違いなく儲かるぜ。お前んとこの旦那より名前だって売れるさ!」
   「ううーん。でもあの人を敵に回すのはちょっと・・・。」
   「それによっ、お前のことも認めてくれるようになるんじゃないか?」
   「・・・・えっ・・?」
  横島の心は揺らいだ。彼にとってその女は果てしなく無理目の女で、彼女が彼のものになるなどということは、アリが恐竜に勝つくらい  ありえないことなのである。そんな女が彼を認めてくれるなどという話に、彼は心弾ませた。
  (あの人が俺を認める・・・?そんなこと考えもしなかった。ということは、当然しかるべき関係になって、こーんなことや、あーんなことも・・。)
   「グフッ、グフフフフ・・。」
  妄想の世界に行ってしまっている横島に、雪ノ丞は声をかけて正気に戻した。
   「はっ、俺は一体何を・・・。」
   「どうやら決まった様だな!」
   「ち、ちょっと待ってくれ!少し考えさせてくれないか?」
   「ああ、だがあんまり待てねえぞ」
   「・・・・わかった・・。」
 
 
   ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・
  横島は電車に揺られながら考えていた。
  (そうだよな、雪ノ丞の言う通りこのまま続けてもあの女が俺のもんに成る筈ないもんなあ。でも、ほんとの所はあそこで働いていたいんだよなあ・・。うーーん・・。そうだ!こうしよう・・、もし俺の給料をあげてくれるなら断ろう。そして、上げてくれなかったら雪ノ丞についていこう。それにあの人だってやさしいところもあるんだ。きっとあげてくれる・・・・たらいいなあ・・。)
  不安を残しつつ、目的地は近づいていった。
 
 
   ここは東京のとある一等地にある事務所。所有者の名は美神令子。GS業界では超有名で、その実力は世界でもトップクラスである。さらに、外見も、非の打ち所のないまさに世の男の憧れの女性なのである。・・・ただし性格をのぞいてだが。
  そんな女の容姿に騙されてこき使われているのが、横島忠夫なのである。
   「今日、確か横島さんの卒業式でしたよね?。」
  美神と話している女の子の名前は、氷室キヌ、通称おキヌちゃん。彼女は複雑な事情の持ち主で、なんと2年前まで300年もある事情から幽霊をしていたのである。こちらは、美神とは違い美人というよりかわいいといった感じで、性格もいいのである。なんと、横島に好意を持っている女性の中の一人なのである。
   「そうだったっけ?」
   「そうですよ!美神さん。そういえば横島さん高校でたらどうするつもりなんでしょうね?やっぱりここに毎日くることになるのかなあ?」
   「さあね!・・でもそうなったら毎日あの馬鹿の顔を見なきゃならなくなるわね。」
   「またまたあ、本当は嬉しいくせに・・。」
   「そっ、そそっ、そんなわけないじゃない!いやあねーおキヌちゃん。」
   「そうですか・・。私は嬉しいけどなあ。」
   「いい?おキヌちゃん。あんたが誰を好きになろうと構わないけど、横島君だけは考え直しなさい。」
   「どうしてですか?」
   「だって、あいつ馬鹿だし、将来性ゼロじゃん?」
   「そ、そこまで言わなくても・・・。」
  その時、部屋のドアが開いた。
   「誰が、馬鹿で将来性ゼロですって・・(怒)」
   「よ、横島さん!?」
   「あら、いたの?」
   「いましたよっ!」
  横島の顔は強張っている。
   「ホーーッホッホッホ!何怒ってるのよ、私は真実を述べただけじゃない?」
   「(こ、この女ーっ!。(怒))」
  おキヌは、二人を仲裁するように話し始めた。
   「まあまあ、・・・。それより横島さん、確か今日はお休みじゃありませんでした?」
   「そうそう、美神さん!実は美神さんにお話があって来たんです。」
   「なーに?まっ、あんたのことだからどーせ『卒業祝いに一発ーーー!』とかでしょ?!」
   「違いますよ!今日は真面目な話です。」
   「そ、そう」
   「あっ、それじゃあ私、お茶いれてきますね。」
  おキヌはキッチンに行くために部屋を出た。
   「で?話って?」
   「実はですね、俺、仕送りがもうなくなっちゃうんですよ。」
   「それがこの私となんの関係があるっていうの?」
   「だからですね、このままだと俺は生活できないんですよ。」
   「ふむふむ、それで?・・・(ジロリ)」
   「そ、それでですね、すーはーすーはーっ(言え!言うんだ横島忠夫!ここで怯んだら負けだ!頑張れ俺!)
   お、俺の給料を上げてください!最低でも時給千円!!この条件を飲んでくれなきゃ俺、ここを辞めます!!!」
   「じゃ、辞めれば?・・・(ニッコリ)」
   「(ガーーン)・・・・・。ちょ、ちょっと待ってくださいよ!なんでなんすか、なんでなんすか?俺、役にたってるっしょ?!
   ちょっとぐらい上げてくれたって・・・・」
   「あのねえ、家には飼い犬が二匹もいんのよ!?だから、これ以上あんたに出すお金はないってわけ、おわかり?」
   「・・・・(ぼそっ)、美神さんにとって俺の存在はその程度だったんすね?」
   「ん?なんか言った?」
   「い、いえなんでも・・・。」
   「あれ?!もう帰るの?せっかくおキヌちゃんがお茶入れてくれてるってのに・・。」
   「待たせてる奴がいるもんで。」
   「そ、そう・・」
   「それじゃあ失礼します・・・・(グスッ)」
  ガチャ
   「お茶入りましたよ!あれ?横島さん、もう帰っちゃうんですか?」
   「・・・・・・・・・。」
   「横島・・・・・さん?」
  バタンッ
   「み、美神さん!?一体何したんですか?」
   「なにって・・・、別に何もしてないわよ。」
   「で、でも、横島さん、なんだか泣いていたような・・・・?」
   「あいつが?!そんなはずあるわけないじゃない。」
   「本当ですって!・・・・美神さん、横島さんと何を話してたんですか?」
   「えっとね、あいつが給料上げてくれなきゃ辞めるって・・・」
   「それで、美神さんは何て答えたんですか?」
   「もちろん、断ったわ。」
   「・・・えっ!?ど、どど、どうして断っちゃったんですか?横島さん、辞めちゃったんですか?!」
   「なにいってんの、あいつが辞めるわけないじゃない。いつものことでしょ?」
   「でっ、でも、もしホントに辞めちゃったら・・・・・・。」
   「大丈ー夫だって、考えすぎよ、おキヌちゃん。」
   「・・・・だといいですけど。」
 
 
   とぼとぼとぼ・・
  横島の足取りは重かった。自宅までの距離は電車で二駅といったところだが、今の彼にははるか遠いように感じられた。
  (ちくしょー!ちくしょーーう!!さんざん尽くしてきたのに、この仕打ち・・・・・。見返しちゃる!絶対、見返しちゃるーー!!)
 
 
   「ただいまー!おい、雪ノ丞、おれ、お前と組むことにしたからな・・・・・・?」
   「うーーん、なーーにママ。・・・むにゃむにゃ、スースー。」
   「こ、こいつ・・おい!起きろ!てめえは何ひとんちでくつろぎくっさっとんねん!」
  横島は雪ノ丞の頭をポカリと叩いた。
   「う、うーーん、お、横島じゃねえか!なんだ?いつ帰ったんだ?」
  雪ノ丞は、寝ぼけた顔で答えた。
   「ついさっきだよ!」
   「さすがだな!この俺に気配を感じさせないとは・・・!。さすが俺の見込んだ男だ!!」
   「・・・・(さっきまで寝てたくせに)・・・」
   「それより、考えてくれたのか?」
   「・・ああ、お前とやることにするよ!」
   「・・・そうか!おめえならそう言ってくれると思ってたぜ。んじゃ、膳は急げだ!早速、荷支度しろよ。」
   「え?ここから通えないのか?」
   「あったりめえだろ!?こんなボロアパートにはもうおさらばさ!さっさとしろよ、出発は明日だからな。」
   「明日かぁ・・。えらく急だな・・。(あっ、そういえば明日はバイトの日だ・・・いや!俺はもう辞めたんだ!関係ない!見てろよ、ぜってー見返しちゃる!)」
  
  
   チュンチュンチュン・・・・・
   「ふわーあ、なんだもう朝か。・・・おい!起きろ横島!!」
   「うーーん、うーーん、あ?やめて美神さん!!それだけは!・・・」
   「おい!!起きろって!」
   「うーーん、・・・・・・・は!?なんだ、夢か・・・・」
   「おい、急いで支度しろよ、もう出るからな。」
   「なんだよ・・・、そんなにいそがなくたって・・・。」
   「なにいってんだよ?飛行機に乗り遅れちまうだろう!」
   「・・は?」
   「ほら、急げって!」
   「・・・あ、ああ・・・。」
  横島は、僅かに戸惑いを感じたが、雪ノ丞の勢いにはなんだか逆らえなかった。
   「よっしゃ!!いくぜ!」
   「(一体何処にいくんだ?)」
   「へい!タクシー!」
   “どちらまで?”
   「成田空港までいってくれ。」
   “わかりました”
   「ほらよ!これがおめえのチケットと、あとパスポ−トだ・」
   「(成田?パスポート?・・・どうなってるんだ?)・・・おい!雪ノ丞!一体何処いこうってんだ?」
   「あ?何言ってんだ!昨日ちゃんと言っといただろう?!」
   「・・え?!」
   
  
   ところ変わってこちらは、美神除霊事務所。
   「・・横島さん、遅いですね・・・。」
   「そんなのいつものことじゃない?」
   「・・でも・・。」
   「それより、横島め!社会人一日目にして、いきなり遅刻とは!・・・・これは、厳しくお灸を据える必要があるわね・・。」
   「・・・ははは。」
  おキヌは苦笑した。
   「そんなことより、あの馬鹿はほっといて仕事に行くわよ、おキヌちゃん!」
   「は、はい!?」
  
  
   一方、成田に着いた横島たちはというと・・・・
   「うわあああ!!いやだーーーー!!!」
  ズルズルズル・・・・、横島は襟をつかまれ引きずられていた。
   「香港に行くなんてきいてねえぞーーー!!」
   「何いまさら言ってやがる!!・・まあ、行き先言ってなかった俺もワリイがよ。でもよ、おめえだって、納得して俺と行くことにしたんだろう?」
   「そ、それはそうだけど・・・だけど、日本から離れるなんておれはいやじゃーー!」
   「何言ってんだよ!お前はあの美神令子に認めてもらいたいんじゃねえのかよ!」
   「べ、別に日本でも良いじゃねえかよ!」
   「日本なんかに居たら、すぐに見つかっちまうじゃねえか!!」
   「(たとえ地の果てでも見つかると思うが・・・・)」
  美神の性格をよく知っての考えである。
   「別に、俺はいいんだぜ!?来なくても・・・。その代わりちゃーーンとおいていけよ、チケット代・・。」
   「くっそーー!!俺がそんな金持ってるわけないじゃねえか・・・!?」
   「(にやり)」
  雪ノ丞は不適な笑みを浮かべた。 
「は!?しまったーー!こ、こいつ・・(図りやがったな・・)」
   「ん?どうした、払えねえのか?・・だったらくるしかねえな!」
   「(こんなん詐欺じゃーー!!助けてーー!美神さーーん!!おキヌちゃーーーん!)」
  
  
   「・・・はっ!み、美神さん!!今、横島さんの声しませんでした?」
   「んなわきゃないでしょ?!それより、早くこいつら片付けるわよ!」
   「は、はい!」
   「・・この世に未練があるのは勝手だけど、ちょっと悪さが過ぎたようね!この、ゴーストスイーパー美神令子が、極楽に・・逝かせてあげるわ!『吸引』!!」
  美神の手の御札に悪霊が吸いこまれる。
   “ぐわああああ!!”
   「ふう、一丁あがり!!」
   「今回はてこずりましたね、・・・横島さんがいないから・・」
   「何いってんの?あのバカが居ようと居まいと大して変わらないわ・・・。まあ、強いて言うなら、荷物もちがいないことね!」
   「・・・・・・・・。」
   「ほ、ほらおキヌちゃん!帰るわよ、・・・あいつ、きてるかもしれないしね。」
   「・・・はい。」
  
  
   そのころ、そのバカはというと・・・・・
   「スッチャーデスさーーん!!こっちきてーー!」
   “きゃあーーー”
  スチュワーデスをナンパしていた。
   「・・フッ、どうやら気に入ってもらえたようだな。」
    
   「ただいまー!」
   「おかえりでござるー!」
  出てきたのはシロ、人狼の子供である。歳は人間にして中学生くらいだろうか。実はこの少女、横島の弟子なのである。
  どうしてそうなったかは、コミックス18,9を参考。
   「あ!シロ!!あんたどこにいってたのよ!?仕事手伝わせようと思ってたのに・・。」
   「それはゴメンでござる!実は拙者、ちょっと散歩に出てたんでござるよ。」
   「・・横島君と一緒に?」
   「違うでござる、今日は横島先生がいなかったから、タマモと一緒だったでござる。」
   「・・あら?あんた達、いつからそんなに仲良くなったの?」
   「ち、違うでござる!あいつが『油揚げが食べたい』、とかいって泣いて頼むから仕方なく・・・。」
   「誰が泣いて頼んだって・・?・・。」
  現れた少女は、不愉快そうな顔をしている。束ねた九つの髪が怒りで逆立っていた。
   「タ、タマモ、起きてたでござるか!?」
   「あんたがうるさいからから、目が覚めちゃったのよ!・・・それより、泣いて頼んだのはあんたの方でしょ!?
   『油揚げ食べさせてやるから、いっしょにいってほしいでござる!』とかいってさ!。」
   「そ、そうでござったかな・・。でも、ちゃーんと食べさせてやったでござろう?」
   「・・・確かにね!でも、そのためになにも大阪まで行くことないじゃない?!おかげでこっちはくたくたよ!!」
   「なるほど、あそこがおおさかでござったか。」
   「なーにが、『なるほど』、よ・・・・。まあでも、きつねうどんが食べれたから良いけどね!ちょっと味が薄かったけど・・・」
   「なーに!?あんた達、大阪までいってたの!?」
   「そうでござる!あ、それからこれ、お土産のたこ焼きでござる!」
  シロは満面の笑みで言った。
   「・・・・・呆れてものもいえないわ。」
   「えへへー、誉められたでござる!」
   「・・誉めたんじゃないと思うけど・・・。」
  妖狐の少女はやれやれといった顔をしている。美神も呆れていたが思い出したように話し始めた。
   「そんなことより、横島君来なかった?」
  人狼の少女は、不思議そうに答えた。
   「さっきも言ったでござるが、拙者横島先生には、会っておらんでござる。帰ってきた時も、ここには居なかったでござるよ。」
   「タマモ、あんたは見なかった?」
   「あたしも、知らないけど・・?」
   「先生がどうかしたんでござるか?」
  シロはなんだかわからない、といった顔で質問した。今まで黙って聞いていたおキヌが答えた。その表情は暗い。
   「・・・・横島さんが、ここを辞めちゃったかもしれないの。」
   「へ?!・・ま、まさか先生が辞めるなんて、そんな事あるわけないでござる!」
  シロは驚いた顔で答えた。
   「や、やあねえ。そんなことないっていってるでしょ!?おキヌちゃん。」
   「で、でも、無断で休むなんて・・・・、も、もしかしたらなんかあったのかも・・・。」
  おキヌは心配そうに言った。そんな様子をつまらなさそうに見ていたタマモが口を開いて言った。
   「・・・横島のアパートに行ってみれば良いじゃない。」
  タマモの提案に、真っ先に答えたのはシロだった。
   「・・拙者が行ってくるでござる!」
   「ま、待って!私も行くわ。シロちゃん!」
  続いておキヌが答えた。
   「ま、待ちなさい!わかったわよ、私も行くわ!車があったほうがいいでしょ?」
   「は、はい!ありがとうございます!美神さん。」
   「まったく、心配ないって言ってるのに・・・。世話が焼けるわね!」
   「すいません・・・。でも、美神さんも横島さんのことが気になるんでしょ?」
  おキヌは少し笑いながら尋ねた。
   「な、なななななな何言ってるのよ、どうしてこの私が横島のことなんか気にしなくちゃならないのよ!」
  美神は、顔を真っ赤にして答えた。
   「ふふふ、素直じゃないんだから。」
   「わ、私はただおキヌちゃんが夜道で襲われるんじゃないかと・・・」
   「はいはい、そういうことにしておきますよ。」
  
  
   ドンドンドン!美神は乱暴にドアをノックした。
   「横島君?!いるんでしょ?でてきなさい!」
  シーン・・・返事はない。
   「横島さん、いないみたいですね。」
  おキヌは心配そうに言った。
   「た、多分コンビニかどっかにいってるのよ。」
   「そ、そうでしょうか・・。」
  おキヌの表情は暗い。
   「シ、シロ!横島君の匂いで何処に居るのかわからないの?!」
   「そ、それが・・・、」
  シロはなんだかわからないといった表情だ。
   「横島先生の匂いを感じないでござる!」
   「な、なんですって?!」
 
  
  そのころ・・・・
   キーーン、ゴゴゴゴゴゴ
   「ああ、ついに来てしまった・・・。」
  横島たちは香港に到着していた。
   「すっかり暗くなっちまったな。どうだ?これから俺達の仕事の前途を祝して、飯でも食いにいかねえか?」
  雪ノ丞は、機嫌よく言った。
   「そうだな・・・、腹も減ったし・・・。」
  横島は呆然と答えた。もはや、日本には戻れないことを彼は悟っていたからである。
   「・・・・・・・・・。」
   「ん、どうした?浮かない顔して。」
   「・・いや、なんでもねえよ。それより、もちろんお前の奢りだろうな?」
  横島は何か吹っ切れた様子で言った。
   「もちろんよ!」
   「高いもん食わせろよ!」
   「ああ、わかってるよ。・・・ふふ、ようやくらしくなってきたな。」
   「あ、なんだって?」
   「いいや、なんでもねえよ!・・・はりきっていこうぜ!相棒!!」
   「・・?お、おう!」


   ところ戻って、日本の美神達は・・・・
   「匂いがないってことは、・・・・も、もしかして横島さん、し、死んじゃったとか?!」
  おキヌは今にも泣き出しそうだ。
   「だ、大丈夫でござるよ!そうと決まったわけではないでござる!」
   「どういうこと?」
  美神はシロに詰め寄って言った。
   「せ、拙者は、先生の霊波を追跡したのでござるが・・・・それが、・・」
   「それがどうしたの?!」
  美神の表情は険しい。
   「そ、それが、途中までで、拙者の能力では追跡できなかったのでござる。」
   「・・つまり、横島君はシロの鼻でも追跡できないくらい遠くに行っちゃったか、あるいは・・・・マジで死んじゃったのか、そのどっちかっていうことね?!」
   「そ、そんなあ。」
  おキヌはついに泣き出した。その時、聞いたことのある声が耳に入った。
   「どうかしたんですか?」
  声の主は、入浴グッズを持った女性だった。
   「小鳩ちゃん!?」
  小鳩はきょとんとした顔で美神達を見た。本名、花戸小鳩はまたまた横島の関係者で、ある事情で横島と結婚したこともある。
   「どうかしたんですか?みなさんおそろいで。」
  小鳩は再度尋ねた。
   「あ、あの、横島さん何処に行ったか知りません?」
  おキヌは涙を拭いて尋ねた。
   「横島さんですか・・・?さあ、・・・・あ、そういえば!」
   「なに?何か知ってるの?」
   「関係ないかもしれませんけど、今朝早くに出かけたようでしたよ。それに、誰かと一緒だったような・・・?
  ただ、直接会ったわけではないのではっきりとはわかりませんが・・・私はてっきり美神さんだとばかりおもっていましたから・・。」
   「ということは、美神さん!」
  おキヌの顔に、笑みがこぼれた。
   「・・ええ、そうね。これで死んだというのはなくなったわね。」
   「でもそうすると、横島さん、何処行っちゃったんでしょうね?」
   「・・・・小鳩ちゃん、他に気づいたことはない?たとえば、一緒に居た奴の性別とか・・・」
   「・・・・・・たしか、男の人の声だったような・・。それも、一度聞いたことのある声でした。」
  美神は少し考えると、突然車に向かいだした。
   「帰るわよ、おキヌちゃん、シロ。」
   「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!美神さん。」
  おキヌ達は、あわてて美神の後を追った。
   「あ、あの、横島さんに何かあったんですか?」
  小鳩は慌てて尋ねた。
   「すいません、今度説明しますから・・」
  そうおキヌが答えるやいなや美神は、車を出した。

  
   ブロロロロロー
  美神は事務所に向かって車を飛ばした。
   「ひいいい!お、おキヌどの何とかならんでござるか。このままでは、先生に会う前に死んでしまうでござるよ!!」
   「み、美神さん!スピード落としてください!!し、死んじゃう。」
  おキヌは必死に訴えたが、そんな要求を聞くような女ではない。おかまいなく、自慢のコブラをアクセル全開で飛ばす。
   「美神さん、横島さんのこと何かわかったんですか?」
  おキヌは少しでもスピ−ドを落とさせようと美神に話しかけた。
   「その話は事務所に戻ってからね!そんなことより口開けてると舌噛むわよ!」
  美神は、右足の踏み込みを緩めるつもりはなうようだ。
  ファンファンファンファン
   「あのー美神さん、なんか後ろからサイレンが聞こえるんですけど・・・・」
   “そこのコブラ!!止まりなさい!”
   「うっさいわねー。仕方ない、こーなったら・・・まくるわよ!!」
  美神はプロ顔まけの腕で警察の追跡を振り切る!
   「あぁ!!す、すごいでござる!!もう見えなくなってしまったでござる。」
   「(横島さんを見つける前に警察につかまっちゃうかも・・・)」


  キキキイーーバタム
  美神達は無事、警察を振り切って事務所に到着した。
   「ただいまー」
   「おかえりー」
  待っていたタマモが出迎えた。
   「横島君から何か連絡あった?」
   「んーん、ないよ」
   「・・・そう。」
   「あ、あの、美神さん。何かわかったんでしょ?」
  おキヌは美神に尋ねた。
   「・・まあね、前にもこんなことがあったから・・。」
   「前にもこんなことがあったんですか?」
   「そういや、その時まだおキヌちゃん帰ってきてなかったわね。」
   「・・わたしが、生き返った頃のことですね。」
   「ええ、たしかあの時は横島君、明神山に修行に行ってたのよね・・・。その時・・・一緒に行った奴が居たわね・・・、多分そいつと今回も一緒のような気がすんのよね。」
   「そ、それで、その時一緒だった人って誰です?」
  おキヌはじらす美神に詰め寄る。
   「それは・・・」
   「それは?」
   「・・・・忘れちゃった。」
   「美・神・さん」
  おキヌの顔が美神に迫る。美神は怒るおキヌに圧倒されながら言った。
   「ちょ、ちょちょちょっとまってね、い、今思い出すから!ええっと、たしか・・・ピートだったかな?」
   「ピートさんですね?」
   「いや、タイガーだったような・・・」
  美神は、考えられるすべての男の名をあげていった。
   「いったいだれなんですか!」
   「・・・・わかんない、どうでもいい奴だったのは覚えてるんだけど・・・。」
   「・・・・・・・・。」


   「は、ハックション!!」
  雪ノ丞はくしゃみと同時に口の中のものを勢いよく吐き出した。目の前で食事をしていた横島はもろにその被害にあった。
   「て、てめえ!汚ねえじゃねえか。」
  横島は顔を拭きながら言った。 
   「・・・フッ、誰かが噂してやがる。」
   「どーせ、ろくな噂じゃないだろうな。」
   「なに言ってやがる、きっと俺に惚れてる女どもが・・・・し、しまったー!」
  雪ノ丞は慌てて席を立った。
   「ど、どうしたんだよ?便所か?」
   「ち、ちがう。弓に、弓に連絡いれんの忘れてた!い、急いでしないと・・。ちょ、ちょっと行ってくる!」
  そういうと、雪ノ丞は携帯電話をもって店の外にでていった。
   「(なんだ、未だ付き合っていたのか・・・。いいよな、・・・・・俺も電話しとこうかな?そういや何も言わずに出てきたからな。・・・美神さん・・・はやめとこ。やっぱり、おキヌちゃんかな。)」
  横島は、店の公衆電話の所に行った。
   「ええっと、おキヌちゃんの携帯の番号は・・・・・」


   「美神さん!まだ思い出せませんか。」
   「ちょ、ちょっと待って。もうここまででかかってるんだけど」
  美神は、もどかしそうに辺りをうろうろしながら考えている。おキヌ、そんな様子をじれったそうに見ていた。
   Prrrrrrrr、Prrrrrrr
  その時おキヌの携帯が鳴った。
   「・・・もしもし」
   『もしもし、おキヌちゃん?おれ、横島。』
   「横島さん?!横島さんなんですね!心配してたんですよ。一体今どちらに?」
   『・・・ごめん、今は言えないんだ。』
   「え?!ど、どうしてですか?」
   『そ、それは・・。』
    『おい、横島。そんな所で何してんだ?』
   『あ!と、とにかく、そういうことだから。・・・また、連絡するよ。』
   「ちょ、ちょっとまってください!いま美神さんに替わりますから・・・・。」
   ブチッ、ツーツーツー
   「なーに、いまの電話もしかして横島君?」
   「は、はい。そうですけど・・・」
  おキヌは何か考えているようだ。それに気付いた美神はおキヌに尋ねた。
   「・・・どうかした?」
   「・・・さっきの横島さんの電話の途中で、誰かが呼んでたんですよ。その声、たしか聞いたことあるような声だったんですけど・・・、思い出せないんですよね・・・。」
   「・・・そう。」
  美神は親指の爪を噛んだ。おキヌはその様子を見て美神の心中を察して元気付けるように言った。
   「だ、大丈夫ですよ。それに横島さん、また連絡するって言ってましたよ。」
   「ふ、ふーん、そうなの。よかったじゃない。死んでなくって。」
   「ふふっ、(素直じゃないんだから)」
   「な、なによおキヌちゃん、気持ち悪いわねえ。」
   「べーつに!なんでもありません。ふふっ。」
   「そんなことよりもう今日は解散!また明日ね!おキヌちゃん。」
   「はい、おやすみなさい。美神さん。」


次の日・・・香港の横島たちは作戦会議を開いていた。
   「さて、今から俺達はここで商売を始めるわけだが、はっきり言って俺達は名が知られていない・・・。
   そこで、考えられる作戦なんだが・・・・」
   「ふんふん。」                
  横島は雪ノ丞の話を真剣に聞いている。
   「・・・・・実はまだ考えていないんだよな。」
   「・・・・・真面目に聞いた俺がバカだった。」
  がっくりしている横島をよそ目に雪ノ丞は話を続けた。 
   「まあそう言うな。そこで横島、お前、なんかいい案出せ。」
   「うーん、そう言われてもなあ・・・。そうだ!前に使った手なんだが・・・。」
   「ふむふむ。」


   「ワォーーン、ワォーーン!!」
   「ああもう、うるさいわねえ!黙らないと餌やらないわよ!」
  シロの遠吠えを止めさせようと美神は強硬手段に出た。餌のこととなるとさすがにシロも黙らざるをえなかった。
   「だって、だって、横島先生が・・・・・。」
  シロは半べそをかいている。
   「まったく、おキヌちゃんもシロもあんな奴の何処が良いんだか・・。」
   「美神殿は先生のこときにならないのでござるか?」
   「あ、あったりまえじゃない!あのバカが何処で何をしてようと・・・・私には関係ないわ。」
   「冷たいでござる。」
   「な、なによ。そ、そんなことより仕事に行くわよ!きょうはおキヌちゃんもいないからあんたたちにも手伝ってもらうわよ。」
   「・・・わたしは、油揚げさえもらえたらかまわないけど。」
  あいかわらず、タマモはクールに振舞っている。
   「拙者は、いかないでござる!!仕事なら二人で行けばいいでござる。拙者はここで先生の帰りをまつでござる。」
  シロはその場に座り込んでしまった。
   「・・・わかったわよ、今日の仕事はキャンセル!みんなで横島君を探しに行くわよ。」
   「ほんとでござるか?!」
   「ええ、このままだと仕事にならないしね。・・・ほら!わかったらさっさといくわよ。」
   「・・行くって何処にでござるか?」
   「うーーん、とりあえず、あんた達が横島君の匂いを追跡するってのはどう?」
「え・・、私も行くの?!」
  あまり気の乗らない事はしないことにしているタマモだったが、『油揚げ』につられて参加することになった。
  こうして、横島探索隊が結成され目標物の捜査が始まった。


    一方、おキヌはというと・・・
   「ほんとに、横島さんは香港にいるんですね?」
   「ええ、ほんとうよ。」
  おキヌと喋っている女性の名は弓かおり、同じ学校のクラスメートである。彼女は、雪ノ丞と付き合っており横島と一緒に居ることを聞いていたのである。
   「それでね、氷室さん。私と一緒に香港に遊びに行きませんこと?べ、別に深い意味はないんだけど・・・、ほ・・ほら、もうすぐ春休みですし・・。」
   「うーん、行きたいですけど仕事のこともあるし・・。」
   「でも横島さんに会いたいんでしょ?だったら行くべきよ!」
   「わ、わかりました。美神さんにお休みを何とかもらっておきます。」
   「さすが氷室さん。じゃ、旅行の手配は私がしておきますから・・・」
   「ふふ、弓さんなんだか楽しそうですね!やっぱり、雪ノ丞さんに会えるから?」
   「な、ななな何をおっしゃっているのかしら。わ、私はただ旅行に行くのが楽しみだなと・・」
   「はいはい、わかりました。それじゃ、また後で連絡しますから。」
  そう言うと、おキヌは事務所に向かった。


    そのころ、美神たちはというと空港の来ていた。
   「くんくんくん、やっぱり横島先生は海を越えてっ何処かに行ってしまったでござるよ。まだ微かににおいが続いているでござる!」
   「あんたはどう?」
  美神はタマモにも確認を取ろうとたずねた。
   「シロの言う通りね。横島は、海外に居る!でも私達の能力じゃここまでね。」
   「そんだけわかれば十分よ。んじゃ帰りましょうか、ここに居ても仕方ないし・・。」
   「何か手はあるの?」
  タマモの質問に美神は「帰ってからね。」というと、車に乗り込み事務所に向かった。


   同時刻、香港の横島たちはというと・・・
   「よろしくお願いしまーす!!」
  ティッシュを配っていた。
   「おい!本当にこんなんで大丈夫なんだろうな!」
  雪ノ丞は不満そうに言った。
   「大丈夫だって!」
   「でもよ、このイラストなんとかなんねえか?」
   「いいじゃねえか、これで。」
   「でも、これじゃ詐欺だぜ。」
  問題のイラストには、美神令子が、そして『日本最強のゴーストスイーパー美神令子の助手香港に支店をオープン!!』と書かれている。
   「人聞きの悪い事言うなよ。よーく見てみろ、ここんとこにちゃんと小さく『助手』って書いてあるだろが。」
   「気付くか!!だいたい、なんだこれは!どうして、美神令子の名なんだ?普通俺達の名をいれるんじゃないか?」
   「まあ聞けよ、美神さんの名は売れてるから便利じゃねえか。それに、うそは言っていない。」
   「それはそうだが。でも、俺は助手じゃねえぞ。」
   「お前はまだ資格もってねえじゃねえか。だから、手っ取り早く仕事をもらうのにはこれがいいんだよ。」
  なるほどと雪ノ丞も納得し、ティッシュを配り続ける二人であった。


「美神殿、何をしているのでござるか?」
   「ん?今成田空港のコンピュータにアクセスして乗客リストを出してるの。」
  事務所に戻った美神は横島の行き先を調べるためにパソコンを操作している。シロとタマモは都会暮らしに慣れたとはいえ、まだまだわからないものがたくさんあり、美神の作業をただ眺めていた。
   「そのぱそこんとやらで、横島先生の行き先がわかるんでござるか?」
   「ええ、・・・ちょっと待ってね・・・・・・あった!・・ヨコシマタダオ・・行き先はっと・・・香港ね。ふふふ、ま、私にかかればちょろいもんよ!」
   「なんだかわからないけど、居場所がわかったのね!それで、今からその、ホンコンってところにいくの?」
  タマモは、現代の技術に感心しつつ美神に訊いた。美神の答えは、おキヌの帰宅を待ってから決めるとのことになった。
   「ま、あせんなくても居場所はわかってるんだし・・。」
   「拙者、早く先生に会いたいでござる!!おキヌ殿、はやく帰ってこないかな。」
  シロは辺りをチョロチョロしながら、おキヌの帰りを今か今かと待った。
   「ただいまー。」
  おキヌが帰ってきた。シロは急いで玄関に行きおキヌをひっぱてきた。
   「どうしたのシロちゃん?そんなにあわてて・・。」
   「横島先生の居場所がわかったデござるよ!」
   「なーんだ、それなら私もわかりましたよ。」
   「え、どうしてわかったの?」
  美神は、驚いたように尋ねた。
   「あ、あの、弓さんに訊いたんですよ。なんでも、雪ノ丞さんと一緒だとか・・。」
   「そ、そうなの。」
   「なんだかよくわからないけど、おキヌちゃんもわかったのね・・・・でもそれじゃあ私達がしたことって無駄だったってことかしら? 仕事キャンセルして、空港までいって、パソコンまで使って調べて・・・。」
  タマモはしらっと言ってはいけない事を言った。
   「え、仕事キャンセルしちゃったんですか?!確か今日の仕事の報酬って、すごくよかったような・・・。」
  おキヌの言葉により、部屋に冷たい空気が流れた。美神はただ呆然と椅子に座っていた。
   「ま、まあよかったでござる!先生の居場所がわかって。それで、何時ホンコンとやらに行くのでござるか?」
   「あ、それだったら私達と一緒に行きません?ちょうどもうすぐ春休みで弓さんと一緒に行くことになったんですよ。
   いまから、弓さんに連絡するんですけど、どうします?」
   「そうね、お願いするわ。」
  美神はなんだか、気が抜けたようだ。仕事をキャンセルしたことが、相当ショックだったようだ。
   Prrrrrr、Prrrrrrr
  『はい、もしもし』
  「あ、弓さんですか。」
  『ああ、氷室さん。さっきの件どうだった?』
  「そのことですけどね、美神さん達も行くことになったからチケットあと三枚追加お願いできます?」
  『み、美神おねえさまもいらっしゃるの?!もちろん、OKでございますわよ。』
  「それじゃ、お願いしますね。」
  『ええ、任せておきなさい!それじゃ氷室さん、また。』
  「はい、」

   「いいですって、美神さん。」
   「そう。」
   「おキヌ殿!何時、先生に会いに行くんでござるか?拙者、今すぐ行きたいでござるよ!!」
   「まだよ、もうちょっと待ってねシロちゃん。」
   「うーー、早く先生と散歩に行きたいでござるよ!」
  残念そうにしているシロを見て、タマモは気になっていたことを訊いてみた。
   「ねえシロ、あんたの散歩好きなのはわかるんだけど、どうしていつも横島と一緒になの?別に誰だっていいじゃない。」
  タマモの質問にピクリと反応する女が二人。
   「そ、それは・・・先生と一緒だとなんだか楽しいんでござるよ。それにこう、なんか胸が熱くなるって言うか・・。」
   「ふーん、じゃ、今度私も横島と散歩に行ってみようかな!」
   「駄目よ!!」
   「駄目!!」
   「駄目でござる!!」
  三人は同時に叫んだ。
   「なによ、たかが散歩くらいで三人して叫ばなくても・・・。」
   「な、何言ってるのよ!私は言ってないでしょ?!」
  美神は少し顔を赤らめて言った。
   「と、とにかく駄目でござる!それに先生はお前なんかとは絶対一緒に行かないでござるよ!」
   「ふーん、でもこの前私、横島と一緒に出かけたわよ。」
  タマモは、シロの反応を見てからかうように言った。
   「ど、何処に出ござるか?!」
   「東京デジャブーランド。」
   「なにー!あ、わかったでござる!お前この前の散歩に行った時のことを根に持って・・・、それでそのような嘘を・・。」
   「残念、ほんとだもんねー!」
   「・・・・・・・。」
  三人は唖然としていた。そんな彼女らを見てますます面白がってタマモは話を続けた。
   「たのしかったなあ、色んな物に一緒に乗って・・・。」
   「・・・・・・・。」
   「(ぷぷぷ、あーおっかしい!ほんとは、私の幻術で横島を操っていたんだけど・・・面白いからもっとからかっちゃえ!)
   あ、そうそう帰りにいいところにいったわね。」
   「いいところって何処でござる?」
   「子供は、知らなくていいと・こ・ろ!(ただのうどん屋だけどね。)」
  ピキッピキキキ!!美神とおキヌの顔は怒りに満ちていた。
   「(あのトンチキ!見つけたら殺す!!)」
   「おキヌ殿、いいところって何処でござるか?」
  もはやシロの質問など届かなくなっていたおキヌは、ただ黙っているだけであった。その心中はもちろん穏やかではない。


   「う・・・、なんか寒気がする。」
   「おいおい、大丈夫か?!この忙しいときにお前が抜けるときついんだが・・・。」
   「ああ、なんでもないよ、平気だから。(しかしなんかいやなよかんがするんだよなあ)」
   「おい!ボーっとしてる暇はねえぞ。」
   「おう、わかってるよ。」
  横島の作戦はズバリ的中し、事務所には依頼の電話が鳴りっぱなしだった。
   「それにしても、こんだけ忙しいとやっぱり二人じゃきついよな。誰か雇わないと・・・。」
   「ああ、それだったら心配すんな!さしあたり手伝ってくれる奴がきてくれるからよ!」
   「ほんとか?!もちろん女だろうな?」
  横島は胸を膨らませて言った。
   「ああ、しかもお前も知ってる奴さ!」
   「・・・あ、わかった。おまえ弓さんを呼んだんだろ?!」
   「ぎく!よくわかったな。」
   「でも、弓さん一人じゃ足りないんじゃないか?」
   「その辺は大丈夫、弓の奴が他に助っ人を連れてくるって言ってたから。」
   「ということは女だな。いやあ楽しみだな!!女の子に囲まれて仕事するなんて・・。ああ、早く来ないかな!」
  しかしこの時、横島は知る由もなかった!これから来る女達のことを・・・・そして、自分にされる仕打ちを。


   そして、美神達の出発の日がきた。
   「ねえ、氷室さん。おねえさまはどうしてあんなに機嫌が悪そうなの?」
  ただならぬ空気を発している美神の方を見ながら弓は尋ねた。
   「さあ、どうしてでしょう。」
  おキヌの表情も怖い。弓はいったいどうしたのかとシロとタマモに尋ねてみるが返ってきた答えではいまいちつかめないところもあり、
  それ以上聞くのをやめた。さまざまな思惑を秘め、飛行機は騒音を立てて横島達のいる所へ飛び立っていった。


   「おい、横島!喜べ、今日来るらしいぞ。」
   「ほんとか?!」
   「ああ、しかもいっしょにくるって奴らは驚いたことに・・・・」
   「ふっふっふ、ついにきたかこの日が・・・。いよいよ念願のオフィスラブの夢が叶うときが来た!!思えば前の事務所は女の子ばかりだったけど、そういうのは無理だったもんなあ。ああ、神様今日という日を私に与えていただいたことに感謝します!」
  横島は目をキラキラさせながら、天を仰いでいる。 
   「聞いちゃいねえな・・。ま、あとからでもいいか。」
   

   「ふんふんふん。」
   「えらくご機嫌だな、横島。」
  横島たちは、空港まで出迎えにきていた。事務所で待っていられない横島の提案だ。雪ノ丞は、そう言うことが嫌いなのだが横島の勢いに負け、車を出したのであった。
   「当たり前じゃねえか。ふふふ、きっと弓さんの知り合いだから美人ぞろいに違いない!ああ、もどかしい!早く僕の前に姿を現してておくれ、マイスイートハニー!」 
   「(言わねえ方がいいかな、だれが来るってこと・・)」
  横島の様子を見て、本当の事を言い出せなかった雪の丞であった。 
  そして、
   「お、出てきたぞ。あれじゃねえか?」
  雪ノ丞が真っ先に先頭に立っていた女性を見て気付いた。
   「あ、ほんとだあれは弓さんだな!ということはその後ろにいるのが・・・・・・・ん?あ、あれは・・。」
  見知った女の子が猛然と横島の方に走ってくる。
   「せんせーい!!」
  走ってきた勢いで横島に飛びつき、そのまま押し倒して顔を嘗め回る。
   「し、シロ?!」
   「会いたかったでござる!!」
  横島は呆気に取られながらも、すぐに現状をを理解した。
   「(ちょ、ちょっとまてよ?シロがここに居るってことは、・・・つまり・・・あんまり考えたくないけど・・・・)」
  横島はシロの背後に立っている人物に気付いた。
   「ひい!!」
  そこには、殺気に満ちた女が二人いた。
   「ははーん、そういうことでしたの。」
  弓はこの場の状況を察知し、雪ノ丞をつれて立ち去った。
   「おい!何処行くんだよ、あいつ等はどうするんだ?」
   「ばかね、あなたあの場にこのままいたら巻き添えを受けますわよ。」
   「ああ、なるほどね。(悪い横島!死ぬんじゃねえぞ。)」
 

   「で、こんな所でなにしてるの?よ・こ・し・ま・くん」
  美神は、ニッコリして言った。
   「え、ゆ、雪ノ丞と事務所を・・。」
   「ふーん、そうなの。」
   「勝手に休んだこと怒ってるんですか?!俺、ちゃんと辞めるって言ったでしょ。あ、もしかして俺のこと連れ戻しに来てくれたとか・・?」
  美神とおキヌにとって、もはやそんな事はどうでもよかった。あるのはただひとつ、タマモとのことであった。
   「横島さん、タマモちゃんとデデデ、デートしたってホントですか?」
   「ん、ああ確かにそうだけどあんとき俺、操られてたからなあ。んで、気付いたらタマモと一緒だったんだ。だから、正確にはデートってもんじゃなかったよ。」
   「じゃ、じゃあ、デジャブーランドの帰りに何処にいったんですか?」
  おキヌは、一番気になっていたことを訊いてみた。
   「ああ、なんか急に行きたくなってさ、タマモも好きみたいだし。なかなかいいところだったから今度みんなでいかない?」
  一瞬、その場の空気が固まった。そして、
   「横島さんって、最低!!」
  横島の答えにおキヌはビンタをかまし、その場を走り去った。そして美神にも当然しばき倒された。
   「な・・なぜ・・・・・・?!。がくっ」
  わけのわからぬまま地に伏している横島にタマモはゴメンと一言言うと美神の後を追いかけていった。
   「大丈夫でござるか?!先生。」 
   「うう、シロ、お前だけだよ・・。」
  横島の顔をぺろぺろなめるシロだったが、そのシロも飯の誘いには勝てないらしく、美神につられていってしまった。
       
   
   「はて?そういえば、拙者達はなぜここに来たのでござったか・・・?」
   「そういえばなんでだっけ?おキヌちゃんは覚えてる?」
   「うーん、どうしてでしたっけ?」
   「ま、思い出せないならたいしたことじゃないわね!」
   「(たいしたこともないのに、香港までわざわざ来るわけないじゃない)」
  タマモはそう思いつつ口に出すのはやめた。
   「(横島にはちゃんと会えたんだし・・・。ま、いいかな。)」
  ひどく無責任な結論をタマモが出していた頃、
   「どちくしょー!!女なんて、女なんて!だいっ嫌いだーー!!!」
   横島の叫びが香港の夕焼けの空にむなしく響き渡るのであった。



                    お・わ・り  

※この作品は、KANさんによる C-WWW への投稿作品です。
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