forever young


  「なんだか騒がしいな。またあのアホが何かやってるのか」
 事務所に入ってきた西条が階上の喧噪に顔をしかめながら階段を昇る。
  「いい加減にあんなアホとは縁を切らないかな、令子ちゃんも先生も・・・」
 不機嫌に呟く。

 認めたくないがあの戦いで一番成長したのは横島であるし、馬鹿にスケベは変わらない筈なのに妙に周りの女性に受けが良くなった。この間のバレンタインでも見知らぬ娘からのチョコが下駄箱に数個入っていたらしく、機嫌の悪い令子とオキヌは、横島にチョコの数を自慢に訪れた西条に菓子はおろかお茶すら出してくれなかった。
  『騙されてる、どこがいいんだあんなアホの・・・』
 不機嫌に愚痴ると、さも可笑しそうな美智江の笑みも不機嫌を助長する。
  『いいんじゃないの。横島君がもてるようになれば、それこそ令子以外とくっつく可能性が高くなるから、ひょうたんからボタ餅ってことで待っていればいいんだもん。まあ、男としてはプライドが許さないでしょうけどね』
 クスクスクスとの笑いが彼のプライドを傷つけていた。前の宣言通りに闇夜を狙おうかと考える。例の通り魔の時に、ドサクサまぎれに一思いにやっておけばと本気考えておけばと思う西条だった。


  「騒がしいな!また横島君が何かやったのか」
 勢いドアを開けて、何か分からないが、騒ぎの責任の所在を彼に転嫁しようと画策する。しかし、誰もその言葉に反応をしてはくれなかった。
  「ん?」
 何か異常な事態を予想したが、美神の事務所は普段とさして変わった事は無い。所長机脇の美神親子とオキヌに冥子、それに流血しているアホ。西条は喧嘩の事情を知らなかったが、シロにタマモは相討ちで部屋の隅に延びている。

  「どうしたんですか?令子ちゃん、先生」
 普段と変わっているのは、見慣れぬ年若い女性が二人いることだけだった。
  (あれっ、冥子ちゃんの親戚かな)
 一人は冥子に姿形のみならず雰囲気もソックリであったのでそう判断した。
  (それにしても、まだ若くて可愛いのに藍染めの着物にたくし上げた髪型とはえらく渋いな)
 もう一人は初めてであるが、こちらもまだ高校生程なのに、キャリアウーマンのようにキリリとしたス−ツ姿も勇ましい美少女。
  (なんだ、危ない女性らなのかな?)
 心中失礼な事を考える西条。しかし、その判断も可笑しくは無かっただろう。無論格好が年にソグワナイ物であるだけの判断材料では無い。二人は手鏡に、姿見の前で盛んに黄色い声を上げていた。
  「きゃー、若いわ 若いわ、青春が戻ってきたようね」
 二人してそんな事を叫んでは、己の体を触ったり肌のハリを確かめていた。
  (若いって、精々高校生なんだからあたりまえだろうに・・・・)

  「ああ、西条君」
 ようやく西条の登場に気がついた美智江が惚けたような言葉を出す。
  「ああ、先生分かりましたよ、例の文字の事が」
 取り敢えず黄色い声の二人は美神らに任せ、言われていた仕事を思い返した。プリントアウトされた書類を令子に渡して、聞きたがるオキヌには口答で説明してやる。
 あの文殊の文字は神話時代に作られていた若返り呪文の表記を示していた。過去を司る女神ウ○ド(仮名)の呪術。一度使えば実年齢の半分まで一気に体が若返り、それから普通に加齢していく。まあ、ありていにいえば不老長寿の呪術であろう。

  「まあ、横島君の作った物に上級神クラスの力がある理由はありませんから、どうせバッタ物ですから使わないほうがいいですよ・・・・て、聞いてるみんな」
 西条の台詞には誰も答えなかった。

  「これが・・・そうなの」
 美智江は自分の手の平に乗った文殊をジット見つめていた。
  (なるほど!夢の中の令子が老けたんで、それを元に戻そうとしたって訳ね)
 結論を得られた美智江の耳には冥子の母の声が聞こえた。

  「おほほほほ、これならもう一花咲かせられわ〜〜〜。若くして冥子産んだから、やりたいこと随分我慢したのよ〜。亭主も冥子ももう手間は掛からないからね〜」
 唖然としている娘を無視して話を進める母。
  「もっとお仕事も出来るわね〜〜〜。そうすればミスターじぱんぐが終わった後の新連載はきっと『ゴーストスイーパー 六道冥子の母 極楽大作戦』になるのよね〜。いえ!六道家の財力を持ってしてみせますわ〜〜〜おほほほほほほほ」
 ハイになって、頭の論理が飛んだ冥子の母の言葉であったが、一部刺激的なキーワードがあった。

 美智江が文殊を見ながら呟く。
  「ミスターじぱんぐの後の新連載・・・・・」
 ニッと笑う美智江が、霊力を込めて文殊を握ろうとした・・・が。
  パッ
  「ん・・・・・」
 それを美神がかすめ取った。その息は荒い。なにか余程の切羽詰った事情があるようだ。

  「・・・・・・・・・・・・・どうしたの〜。令子ちゃん」
 口調は大人しいが、アシュタロスで見せた非常の母よりもっと迫力を称えている。
蚊帳の外の西条も壁まで後ずさる程。横島とオキヌはシロとタマモを抱えてドア向こうに既に避難している。
  「ママ。ママはコレを使っちゃいけないっていってたじゃないの」
  「でもお二人共にちゃんと効用があるようだから、あたしが使ってもいいようだと思わない、れ い こ ちゃん」
 最後の間延びしたあたりがえも言えぬ迫力が漂う。
  「れいこちゃん、ママが若くて嬉しいって言ってくれてたじゃないの」
  「それも程度ものでしょう。冥子母娘見てると、娘より若い母親は子供としては困るわ」
 後ずさる美神にズイと近ずく美智江。
  「まあ〜、それは追々解決するとして、取り敢えずその文殊を返してくれないかしらね〜、れいこちゃん」
 竜虎合い打つ迫力と霊気に事務所が雷動する。
  「ママ・・・あたしは36巻の屈辱を忘れていないわよ」
 すっかし名前だけの主役に成り下がった長い数週間を思い出した唇を噛む美神。
  「これで若返って、あの時と同じように『ゴーストスイーパー 美神美智江 極楽大作戦』を始めようと思ってるんじゃないでしょうね・・・・」
 フッと息を着いて視線を外す美智江。
  「さあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 その惚け方でありありと分かる。
  「いいじゃないの今更タイトルがすこ〜し変わるぐらい。大体一応あなたが主役だと思っている人も多いようだけど、某サイトに載ってたコラムによれば本当に主役は横島くんだったのは周知の事実でしょう。今更自分が主役だとこだわってもしかたないでしょう」
 グヌヌと唇を噛む。
  「う うーさいわねママ。確かに、それは原作者も似たようなこといっていたようだったわよ。だから、なんとしてもタイトルだけは渡すワケはいかないわ」
  「往生際が悪いわよ」
  「おかげであのコラム見てからこの筆者も、主役で無いのにタイトル名になる→ヒーローでも無いのに悪役がタイトル名になるのと同じ→ならばGS美神 イコール 宇○猿人ゴリだったのか!!って、三段飛び論法を一人で勝手に組み上げて笑ってたんだから。」
 懐かしい二頭身キャラで『なぜなぜ ナデシコ』張りに説明する美神だった。

  「あの美神さんそんなにマイナーな事を言われても誰もわかんないと思いますよ」
 オキヌがドアの向こうから水をさす。
  「ねえ、横島さんもそう思いませんか?」
 しかし横島は答えなかった。腕組みをして思案顔。
  「?」
 オキヌの視線に答えて口を開く。
  「そういえばパロディで『宇○犬人ブル』ってのがあったよな」
 流石に転けるオキヌ。永○豪先生の不朽の名作『あば○り一家』に出てきたキャラだ。
  「ブルの作った怪獣とは友達になりたかったんだが・・・・」
  「よ 横島さん。この小説、多分世界でも二三人しか見てないんですから、『○宙犬人ブル』は『宇○猿人ゴリ』より余っ程分からないと思いますよ」
  「そうかな?このサイトに来るような連中だからみんな多分オタクだろう。大丈夫なんじゃないか」
  「そう云えばそうですね。オタクですよね。世間の常識はからっきし無いのに、知らなくていいことばかり知っているオタクですからね」
  「そうさ、あの連中ときたらピー(検閲)がピー(検閲)を着ているだけの存在でピー(検閲)だからな」
  「そういえばそうですね。あの連中ときたらピー(検閲)でピー(検閲)ピー(検閲) ピー(検閲)ピー(検閲)」
  「ああ、ソコ!ピーピーと五月蠅〜い。そんな話はお盆近い頃の東京ビッ○サイトででもやんなさい」
 プルプルと顔を青くして、美神の提案に首を振る二人。
 こんな話をコ○ケの最中にすれば、恨みの怨念で幾らGSといえども取り殺される。何しろ、さしもの美神も同人誌を買えなかったオタクの怨念の除霊だけは断っているぐらいなのだから・・・・。

        再び閑話休題、話を戻します。

 にらみ合ったままに緊迫する美神親子。先に口を開いたのは美智江の方だった。
  「話合いじゃ決着付かないみたいね、そう思えない令子」
  「そうみたいね、ママ」
 二人が神通昆を手にする。
  「以前からどっちが本当に強いか試して見たかったけれども、こんな形で決着つけるようになるとはね、ママ!!。でも、ママも現役離れて長いんでしょう、もういい年なんだから無理はしないほうがいいわよ」
 いいつつ昆からは光が溢れ出す。
  「まだまだ尻の青い小娘には負けないわよ」
 美智江の昆からも光が溢れ出す。バチバチのプラズマスパークが事務所を包んだ。
 その日、長くに命を長らえていた由緒正しい人口生命一号は全壊した。


  キーン カーン バキ ドカーン
 瓦解した残骸の跡地で神通昆が打ち合わされる音が響く。例え建物の一つや二つ程度の倒壊で、この親子の壮絶な戦いは終わらなかった。
  「そろそろ日が暮れますけど・・・・・いつまでこの戦い続くんでしょうか?」
  「やっぱり、どちらかがコト切れるまでじゃないの・・・・」
 可愛そうな人口生命一号の瓦礫に腰を下ろして腕組みしている横島。
  「(タラッ)止めたほうがいいんじゃないですか」
  「冷たいようだけど、俺は断固遠慮する。オキヌちゃんやるかい?西条の二の舞は御免だからな」
 ブンブンと頭が取れそうな程に首を振るオキヌ。
 命知らずに母子の間に飛び込み、止めようとした西条はすでのこの場にはいない。先程救急車で運ばれて行った。もしかして、今頃はこの世からもいなくなっているかもしれない。
  「(ダラダラ)いいえ。わたしもまだ若い身空なもので・・・・・・」
 力なく笑うしか出来ない二人だった。

  「ん?あっちも凄いことになってるようでござるな」
 シロの言葉に、二人も美神親子とは他の方向を見る。
  「やるわよ〜。絶対次の主役はわたしよ〜、おほほほほほほほほほほほほほっ。ミスターじぱんぐの後だからタイトルは『ゴーストスイーパー ミセス六道は101回目のビューテイフルライフを見た』とかになるかもね〜。おほほほほほっ」
 当たったドラマのタイトルを無理矢理こじ付ける六道母であった。その足下に縋り付く人影が・・・。
  「あ〜ん。お母様〜〜。式神返してくださ〜い」
 泣きすがる娘を無視して都合の良い未来に意識を飛ばす六道母だった。

  「アッチも呪われた一族だな」
 横島の結論に頷くシロだったが、その脇のタマモが呟く。
  「横島も人の事いえないんじゃないか?」
 タマモの心ない一言に、胸に大きな杭がグサリと突き刺さる。
  「言うな!!忘れたいんだから」
 横島が忘れたいといったもう一組の方をチラリとみるオキヌ。

  「ほほほほほほほ!これで人生やりなおせるわよ。浮気ばっかりの駄目亭主も、馬鹿息子の事もぜ〜んぶ忘れて、人生やり直してやるわ〜。ああ!尻軽亭主に出会う前の薔薇色の人生再びよ〜 ほほほほほほほほほほ」
 当然横島の母百合子だ。そしてその足に縋り付く人影が・・・・。
  「ああ!!若く美しい百合子さ〜ん!!僕を捨てないで〜〜〜〜〜〜」
 横島の父、大樹が本当に捨てられそうな予感に涙を流して縋り付いていた。


  「・・・・オキヌちゃん、シロ、散歩に行かない。この場にいると気持ちが荒みそうだ」
 横島の言葉に汗を垂らしつつ頷くオキヌとシロ。
  「そ そうですね」
  「そそそ そうでござるな」
 即答する二人。
  「あたしも行くよ」
 タマモも続く。
  「珍しいでござるな。いつも面倒くさいって申すのに」
  「あたしも心が荒むのは嫌だもん」
 暮れ始めた町を野次馬を掻き分けて消えていく横島達の背中には、いつまでも母娘の壮絶な戦いの音が響いていた。

 母娘の決着は?それはミスターじぱんぐが終わった後に明らかにされ・・・・ない





  めでたし めでたし


※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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