それまで、当たり前のように過ごしてきた環境がいきなり変わった。
俺は美神さんの助手を辞め、今はおキヌちゃんの誘いで美神さんの師匠・・・唐巣神父の手伝いをしている。
おキヌちゃんが俺を誘った理由はよくわからないが、あのタンカのせいかもしれん。
唐巣神父の下にいるのはおキヌちゃんほど霊力の高い幽霊は、GSの元で保護されなければいけないそうだ。
そして、美神さんは新たな保護役として唐巣神父を選んだ。そして、俺もそこで働く事になった。
時給は、美神さんのところで働いていたときよりもいい。唐巣神父の手伝いで、少しづつPSI(超能力)を扱えるようにもなってきている。
でも・・・そんな事は問題じゃなかった。日々にメリハリがなくなっている。
生きがい・・・というかそんなもの。
早い話が、美神さんのチチとケツが拝めんのではしょうがない!!
今、俺は帰宅途中・・・・雨か・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・いいかげん、しっかりしよう。
そうだよ、改めて雇ってもらいに行こう。
いや、雇ってもらえるまでは頼みつづける!
そう、それに強くならなきゃいけないな!
美神さんの鼻を明かせるし!!!
そうすれば・・・そうすれば!!


『やっぱり貴方がいてよかったわ、横島クン!』

『いやなに、美神さんのためッスから!!』

『ああ、横島クン!最高だわッ!!!』


な〜んちゃって!!!


偶然手に入れた・・・あの薬が発端になった『超能力』・・。
ちょっとは訓練してみるかぁ〜!?


「なんか、すっきりしたな。」

調子全開。
そろそろ公園、普段ならたくさんの人間がいるが、今は雨。
きっと誰も・・・ん?あれは・・・・・・?











GS!!極楽浄土大作戦!?
第4話 変化















雨が降りしきる公園の中、木にもたれている女性・・・。
しかも、美人・・・・・紅いショートの頭髪が濡れていて魅力的だ。
我慢できん!!

「ねーちゃん!!あんたごっつぅ美人や!!デートしにいこ!!・・・・・あれ?」

何の反応もない・・・・いや、荒い息遣いだけが聞こえてくる。

「う・・・・・・・・。」

急に重くなった。気絶したのか・・・・・・・?
よく見るとコートのしたは、赤い体毛に覆われている。
胸元には『封魔』とかかれた護符。
ちょっと待て、俺。少し考えろ。
・・・・・・そういうことか。
このねーちゃんは、GSかなんかに退治されかかってた・・・・と。

「ぎゃあああああ、魔族やああああ!!・・・・・・・・・・・・・。」

いや、・・・・・・・・助けちゃる。美人だから。









簡単に部屋を片付け、部屋にあるものの目覚ましと服以外の全て――それらは全てゴミなんだけど――をゴミ袋へ突っ込む。
下を雑巾がけして、換気。来客用の布団を出して、こいつを寝かせる。

「ああ、部屋の片付けなんて・・・・しばらくぶりだな。」

この札剥がれるか・・?お、すこし剥がれた・・・。
・・・・・・・・これ以上は無理っぽいな。
ん?目が覚めたのか??
ちぃ!!いろいろ試してみたかったのに!!






目を開けると、布団の中だった。
かたわらには男が座っていた。
たしか、私に抱きついてきたヤツじゃん。

「なんで、私をココに?」

私が人間じゃないことくらいは、格好で解るはずだ。

「・・・あんたが美人だったから。」

この男・・・何を言っている?

「美人も何も、私は魔族じゃん。」

そんな事を言い出す人間を初めて見た。

「でも、あんたイイ女だし!!!」

そんな理由で、私を助けたのか?・・・・・変な人間だ。

「名前は?」

おもしろいじゃん、悪くない気分。

「私はハーピー。」

「ハーピーか、いい名前や〜!!・・・あ、そうだ、その札少ししか剥がせなかった。悪いな。」

胸元を見てみると、札が少し剥がれている。

「剥がれてたら、お前はもう生きてないよ。」

「・・・忘れてたぁぁぁぁ!!」

「・・・本当に変なヤツじゃん、お前。名前は?」

「俺は横島忠夫。よく覚えておいてくれ、マイハニー!!!!!!」

急に飛び掛ってくる。何を・・・・・・え?
次の瞬間、強く抱きしめられた。・・・・・多分、生まれて初めて。
悪い気は・・・・・しない。・・・・暖かい。
ズキン!!胸部から全身に走る痛み。

「つぅ!!」

男・・・・横島が飛び退く。
済まなそうに横島が口を開いた。

「わ・・・悪い・・・!つい、忘れてた・・・・・。美人と見ると抱きついてしまう癖が・・・。」

本当に、魔族でも関係ないみたいじゃん、こいつは。

「なぁ、大丈夫か?痛むのか??」

心配そうに覗き込んでくる。
そういえば、誰かに優しくされたのも、初めて。
殺し屋として育てられた私は、周りからは道具・・・駒として見られていた。
生まれた時から、そうだった。だから、それは当然だとも思っていた。
今、気付いた。『私を使う者』でも『私に殺される者』でもないヤツに会うのは初めてじゃん。

「いや・・・悪い気分じゃない。」

「そっか。そりゃ、よかった。」








「いや・・・悪い気分じゃない。」

そう言ったハーピーはとてもおだやかで、思わず見惚れた。
まぁ、やっぱり美人には魔族も人間も関係ないワケで。・・・・・怪我してるから抱きつけないってのが悲しい。
治ったら、いの一番に抱きついちゃうぞ、俺!

「そっか。そりゃ、よかった。」

もう、遅い時間だな。そろそろ眠るか。

「少し埃っぽくなるけど我慢してくれ。」

「え?ああ・・。」

俺の布団を敷く。・・・・来客用の布団との差は歴然。圧倒的な汚さを誇ってる。
今度、洗濯くらいはしよう。
寝るか・・・・・・。

「じゃ、電気消すぞ。」

・・・・・・・生殺し状態で眠れるのか?俺!!

「・・・ああ。」

・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
やっぱり眠れん!!むぅ・・・・・・。

「・・・・・・・なぁ、横島。」

隣で寝ているハーピーが声をかけてきた。
どうしたんだ?怪我をしているわけでもなさそうだが・・・。

「怖く・・・・ないのか?私はもう、多くの人間をあやめているんだぞ?」

ああ、そう言う事か。

「あんたは今、護符で妖力が封じられてるんだから大丈夫だろ?」

「・・さっき・・・もし、これを取れてたらどうだった?」

それについては不覚だった!・・・でも、恩を仇で返すようにゃあみえないしな。

「恩を仇で返すようなヤツには見えなかったんだよ。・・・・・・美人だったし!!それに俺もGSの助手だ。逃げるくらい出来る。」

「美人?それが関係あるのか?」

「・・・・俺にとっちゃ大事な事だ!!」

男の魔族だったら、ヤだけどな。いやマジで。男の魔族・・・死にたくないし、嬉しくないしな。
・・・・でも、本当にそんな状況になったら俺はどうする?

「・・・私は・・・殺し屋なんだぞ・・?」

――それなのに、怖くないのか?
   なんで、自分を助けるのか?
そう、無言の内に言っているように聞こえた。
きのせいか?

「大丈夫だって。・・・・ココにいていい。」

うむ、オイシイ思いもしたいからな。

「・・・・・・・・・・。ありがとう・・・・・・・・・・・。」

「ああ。」

どういたしまして。・・・さ、寝よう。
・・・・抱きつきたくてたまらないし。










感謝。いままで、何かに感謝した事はあったか?
殺し屋として育てられ、それだけに殉じて生きてきた自分。
訓練され、命じられ、殺す・・・・・・。

『大丈夫だって。・・・・ココにいていい。』

自分は殺し屋で、横島の同族を数え切れないほど殺めているのに・・・・。
いいのか?・・・・許すって言うのか?
それにお前は、GSの助手・・・・・・・。







なぁ、横島。私はあんたを信じていいの?


















朝起きると横島はもう居らず、新聞のチラシに書置きがしてあった。

『バイト・・・GSの助手なんだけど、いってくる。具合が直るまで寝てろ。・・・・おかゆは作っといた。なに食べるのか解らなかったんだ。』

昨日より、まともに体が動く。
おかゆ・・・か。食べてみよう。
ビニールを剥がし、用意してあった蓮華ですくって口に入れてみる。
かき卵入りのそれは、ちょうどいい塩加減だった。
・・・・結構いけるじゃん。
ゆっくりと咀嚼して、味わいながら飲み込んでいく。



・・・・・美味しかった。
もう、半分冷たくなっていたけど、なんだかあったかいじゃん。
立ち上がって、食べ終わった食器を持ち上げる。

「動ける・・・・・結構マシになってるじゃん!」

食器を流し台に置く。・・・・・汚いじゃん、この部屋。
ま、居座っている礼に片付けぐらいしてやるじゃん。










「・・・・最近、君にやってもらった『実験』で解った事は、君は超能力を扱えるのは確かだが・・・・『ESP』つまり超感覚方面ではなく『PK』精神動力方面の能力者であると言う事だ。・・・・まぁ、薬の作用で手に入れた能力にしては強力ではある。」

唐巣神父の言葉に、俺は頷いた。
PKの能力にも多数種類があるのだ。
どれを使えてどれを使えないのか、調べなきゃいけない。
基本的なものとしては、サイコキネシス(念動力)、パイロキネシス(念発火能力)、クライオキネシス(念冷却能力)、レヴィテーション(空中浮揚)、テレポーテーション(遠隔移動)・・・・他にも上げればキリはないがまぁこんなところだ。・・・・とは唐巣神父の弁なんだけど。

「横島さんは今日、仕事が来るまで何をやるんですか、唐巣さん?」

「昨日までいろいろ試してみた実験で、『PK』を扱える事がわかったんだから、これを強化した方がいい。」

「そうですね!頑張ってください、横島さん!!」

確かに・・・今までの実験はとても情けない結果に終わっている。
サイコキネシスは、そこそこの強さはあっても狙いは定まらないし、パイロキネシスとクライオキネシスは使い分けが出来ない。
レヴィテーションは数ミリしか浮き上がらず、テレポーテーションは20cmも進めない。
我ながら情けない結果なので、練習する気は満々だ。

「おう!!」

おキヌちゃんに返事を返し、とりあえずはサイコキネシスを扱う訓練をはじめる。

「横島君、今回はあくまでもコントロールが目的だ。念動力で、糸を蝶結びにするんだ。」

・・・・また難題を・・・・・。そうだ、要はこの頭痛の中でどれだけ集中できるようになるかなのだ。
たしかに、神父のいう方法は集中力がつきそうだ。

「解りました・・・。・・・・・・むむむ・・・・・・。」

俺が集中をはじめ、頭痛がひどくなり始めてきたときに、声が聞こえた。
小さな小さな声。

「横島さん・・・がんばって・・・・!」

おキヌちゃんは俺の横でただじっとその様子を見守っていた。
なんか少し嬉しかった。
一回・・・・・二回・・・・・三回・・・・四回・・・・・・・・五回・・・・六回・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・もう何回失敗しているんだ?相当な回数だって事に間違いはなさそうだ・・・。
いや、これだけでもう夕方になってるし・・・・・・。

「出来た!」

「横島さん!!やったんですね!うわぁ、凄い!!」

どうやらおキヌちゃんはずっと隣にいてくれていたらしい。
しかし、やっと何かコツをつかめた気がする。
こつこつと、誰かが――とは言っても神父しかないと思うが――歩いてくる。

「おお、できたようだね。・・・よし、今日はもう休みなさい。君は、昼頃からもうずっと集中しっぱなしで疲れているだろうからね。」

唐巣神父は人のいい笑みを浮かべて言った。
そういえば、俺にしては尋常じゃない集中力だった。
集中しすぎると痛みも感じなくなるようで、たった今になって頭が痛いことに気がついた。

「それとも夕飯でも食べていくかい?」

それもいいんだけどな・・・、何しろ家には来客中だ。残念だけど帰るしかない・・・・。

「いえ、いいッス。また今度ご馳走にな