GS美神 ひかり

第一話 依頼


アシュタロス事件から約25年

7月12日 PM10:23 神奈川県厚木市某廃ビル5F

 右手の霊波刀を横に振り払いながら、ヒカリは後ろから迫ってくるもう1つのそれを感じとっていた。
 左手がベルトの神通棍に伸び、足首をひねらせながら左回転で霊波刀と神通棍をフルパワーで叩きつける。
 一瞬目の前をおおった1メートルもあろうかという巨大な人の顔は、何かを訴えるような悲痛な顔に見えた。
 が、それはまるで雲か煙のように引き裂かれた。
 耳を塞ぎたくなるような絶叫が暗闇にこだまする。
 振り切った勢いで360度回転したヒカリは、右上と左前方から迫る計5鬼のそれから距離をとるため、後ろに飛びのきながら3枚の破魔札を投げつける。
 ピルルルル
 小さな振動とともにポケットの携帯が相棒からの合図を伝える。
 準備は整った。
 ヒカリはもう一枚破魔札を取り出し、ぽいと軽く投げると霊波刀でその札を切り裂いた。
 霊波刀の霊力に反応して、あふれんばかりの閃光があたり一面に広がる。
 霊達には目くらましになるはずだ。
 しかしヒカリにそれを確かめる暇はなく、くるりと背を向けると一目散にエスカレーターに向かって走りだしていた。

7月13日 AM01:46 同廃ビル入り口前

「反応は?」 
ヒカリは見鬼君を持ったタマモに聞いた。 除霊剤はもうほとんど薄れていた。 はたして全てを除霊できたのか、ヒカリは少し不安だった。
「だいじょうぶみたい。アタシも何も感じないしね。」
「OK、じゃ、お仕事終了ね。」
「はい、お疲れさん。」
 タマモは缶コーヒーを差し出した。
 ヒカリは束ねていた髪をくずしながら受け取った。
 ひんやりとした心地よい感触が伝わってくる。
 あふっと大きなあくびをするヒカリを見て、タマモは笑った。

AM01:55 ???

 その男は窓の外を眺めていた。
 褐色の肌に、灰色がかった白い髪は窓からのわずかな光でも白く燃えるように光っていた。
「アリマトが届くのにどのくらいかかる?」
白髪の男は後ろから歩いてくる男に聞いた。
「さっきシンから連絡が入った。 あと2、3日ぐらいだろ。」 
「女王さんは?」
「あいかわらず強気。 予定は延びるだろうがこっちに来るってさ。」
「・・・・・」
白髪の男はまだ窓の外に目を向けたままだった。
「俺は予定どうりに名古屋に行くよ。 準備もあるしな。」
「・・・なあテル。」 
「ん?」 
「お前、この国をどう思う?」
「機械しかないね、異教の文化の塊みたいだと思ってる。」
「そうか?」
「山も森も見たが味気ない。 ありゃ人の手で作ったものだ、俺たちの国のとは明らかに違うぜ。」
「その割には楽しそうだが・・・?」
「好奇心ってやつさ。」
「まあいい、アリマトを頼むぞ。 ミリア達にもよろしく言っとけ。」
「そっちこそ、いつまでも横島にこだわってんじゃないぞ。」

AM02:02 オカルトGメン日本支部3F休憩所自販機前(喫煙可)

「はい、ピエ・・ヒカリさんですか・・・? はい、どうも、今回は・・え?・・・あ、そうですか、ありがとうございます。 すみません、無理にお願いして・・はい・・・・・・・・・はい・・・わかりました。 今日は本当にありがとうございました。」
 ピッ
 携帯をきるとピートはふっとため息をついて自販機にもたれかかった。
 背中が少しずつ熱くなる。
「すみません。 横島さん・・・。」

AM11:18 東京都町田市リバーサイドビル6F 横島除霊事務所(兼、自宅)

「おはようございます、社長。」
「おふぁよ〜、て、もうお昼じゃない!?・・・・ 何で起こしてくれなかったの愛子ちゃん・・・・・・。」
「いいじゃない、今日はお休みなんだし、昨日はけっこうたいへんだったんでしょう?」
 OLの様にきっちりとスーツ着こなした愛子は、コーヒーを容れながらかるく微笑んだ。
「うーん、あれは疲れた。」
「最近ピート君からの依頼が増えてきたけど少し減らしたら? 体がもたないわよ。」
「うーん、でもねー・・・」
 ズッ・・・ カフェインが頭を目覚めさせる、が、まだ眠い。 
「それともピート君の頼みは断れない?」
 にいっと、愛子が覗き込んでくる。 またか・・
「まあたそういう・・・ ピートさんはいい人だし、彼の顔見ると何か断りにくいの! なんて言うか・・こう・・・不幸そうで。」
「ぶっ・・」
 けらけらと愛子は笑った。 
「さあすがヒカリ社長、いい読みしてるわ。」
「はあ?」
「昔っからそう。かっこいいんだけど何かついてないのよねえ、いいとこはたいてい横島君とか他の人に取られちゃって・・・」
「父さんにねえ・・・・・・・・」
 ヒカリには、ピートを脇にかっこよく何かしている父、横島忠夫をうまく創造することができなかった。
「タマモちゃんにも聞いてみるといいわ、もうすぐ帰ってくるし、それまでに顔ぐらい洗ってらっしゃい。」

AM11:24 リバーサイドビル正面玄関 (郵便受け前)

 昼食を買って帰ってきたタマモは、一通の封筒を見つけた。
 早くいなり寿司をほうばりたいところなのだが無視するわけにもいかない。
 かすかだが、はっきりと霊気のにおいがする。
 ・・・横島ヒカリ様・・・か・・
 うち宛なのは間違いない。
 タマモは封筒を裏返した。

同時刻 都庁下日本GS協会本部B3F第2情報処理室

「いけそうですか?」
「なあに楽勝じゃよ。このわしをだれだと思っとる。 ヨーロッパの魔王ドクターカオスじゃぞ。 わしに破れんプロテクトなどないわい。 のう、マリア?」
「イエス、ドクター・カオス。」
「本当おおおおにくれぐれも慎重にお願いしますよ。」
「おぬしも肝が小さいのう、もう750近いじゃろうにいいかげんこう、しゃきっとせんか。」
「そうじゃなくてですね・・・」
「なんじゃい?」
「カオスさんのことだから何か起こりそうな・・・・」
「失敬な。 だいたいおぬしがわしにやれと言うたんじゃろうが。」
「そうなんですけどね・・」
「昨日今日の付き合いじゃないんじゃから、ちっとは信用せい。」
「昨日今日の付き合いじゃないから心配なんですけど・・・」
「ぬうううう、そこまで言うならわしはもう帰る! 行くぞマリア!」
「ノー、ドクター・カオス、ここで帰ると・家賃・払えません。」
「かああっ、そうじゃった。 このままでは滞納しまくった2年6ヶ月分の家賃が払えん。」
「大家さん・怒って・ます。」
「ほらほら、家賃のためにがんばってください。」
「ちっ、わかったわい。 わかったから横から口を挟むな。」
「はいはい。」
「ったく、もちっと年寄りをいたわろうと思わんのか。」
「口じゃなくて手を動かしてください。」
「やっとるじゃろが、ああ、わしにやさしくしてくれるのはもう先生と小僧の娘ぐらいじゃのう・・・」
「何いじけてるんですか。」
「ああああっ!」
「な、何ですか?」
「わし、来週から人間ドックに入る予定じゃった。 すっかり忘れとった。」
「ええっ!? 今更何言ってるんですか? そんなのだめですよ?」
「しかし先生がせっかく予定を・・・」
「小鳩さんには僕から言っておきますから、いいですね。」
「しょうがないのう・・・・・お、あったぞ。 これじゃな。」
「さすがですね、早いです。」
「わはは、当然じゃ、のうマリア?」
「イエス、ドクター・カオス。」

AM11:54 横島除霊事務所

「何かしら?」
「油揚げじゃないことは確かね。」
「そういう問題じゃ・・・」
 ヒカリ、タマモ、愛子は差出人不明の封筒をテーブルに置いてお昼を食べていた。
 霊視ゴーグルで調べたが普通の手紙である。 ただ、何らかの理由で霊気がついてきたようなのだ。 書いた本人のものか、それとも何か霊的なものの近くにあったのか、今の段階では何とも言えない。 
「ま、事務のお仕事は私のお仕事だから。」
 お茶を容れなおしてから、愛子は封を切った。 

PM00:12 ザンス王国大使館

「離陸が遅れているのか?」
「はい、エンジンにトラブルがあったようでして、・・・・その・・」
「だいじょうぶなのか?」
「王妃のほうは御無事です、怪我人もいません、ただ・・・アリマトの事件と同一犯ではないかという情報が入ってます。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「またあの時みたいなことになるんでしょうか・・・エイムズさん・・・」
「言うな、それよりアリマトの捜索のほうはどうなってる?」
「まだ、何も・・・」
「・・・・まさかな・・」
 あれが持ち込まれたとしたら、もう、この国との関係もおわりか・・・

PM00:23 都庁下日本GS協会本部B3F第2情報処理室

「あ、しもうた。」
 モニターが真っ赤に点滅しだした。 訳のわからない文字が滝のように流れている。
「カ、カオスさん? これはやっぱり・・・」
「ドクター・カオス、そろそろ、アルバイトの・時間・です。」
「オオ、そうじゃった。 すまんがピートよ、わしらはそろそろしつれいさせてもらうぞ。」
「何言ってるんですか!? アルバイトなんか今してないでしょう!? 何とかしてくださいよお!」
「ええい、放せ! わしらは生活がかかっているじゃあ!」
「だから嘘はいいですから何とか・・」
「ドクター・カオス、室外に・対人反応2。 ドアロック・解除されます。」
「!」

PM06:46 横島除霊事務所

オレンジ色の夕日が窓から差し込み、部屋の中を明るく染める。
「やっぱりいってみるしかないかあ。」
ヒカルは、もう何度目になろうか、同じ言葉をつぶやいた。
 自室のベッドで転がりながら、再び手紙に目をやる。
 差出人はエイムズ・レイター、両親の友人であり、ヒカリ自身も何度か会ったことはある。
 しかし会うには気が引けた。 はたしてどんな顔で会ったらいいのか・・・・・ 首を傾け、写真立てに目をやる。
 父、母、自分が笑っている。
 そして父と肩を組むようにして、エイムズ・レイターは笑っていた。
 なるようになる、か・・・ 
 この写真を見ると不思議とそう思えた。  

PM09:00 白井総合病院ナースステーション

「小鳩、小鳩、ちょっと来てみい。」
「なんなの貧ちゃん、私これから回診なのに・・・」
「ええからテレビ見てみい・・」
『−以上をもとに、カオス容疑者、推定年齢1200歳が逮捕されました・・・・』
「違あう! これは罠じゃあああ!・・・・」
「なっ・・・・・・!?」
「あのじいさん来週人間ドッグでなかったんか・・・・・・?」

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