GS美神 ひかり
第十一話 来日
7月27日 AM11:35 成田空港
ぎゅおおおおおおおっ・・・・ 旅客機とそれを囲むように飛んでいた4機の戦闘機が滑走路に降り、止まった。「・・・・・」
タマモは空を見上げた。 陸自のヘリが何機か旋回しており、それが頭上を通り過ぎた。
「タマモ君!」
「わかってる。」
西条にせかされ、タマモはピート、そしてシロや多くの日本のSPとタラップに向かって早足に歩いた。
「来るかしら?」
「来ないに越したことはありませんが・・・」
タラップの下まで来ると、ハッチが開き、黒いスーツのSPに続いてキャラットが手をかざして姿を見せた。
AM11:37 横島除霊事務所
『・・あ、今、今キャラット女王陛下が出ていらっしゃいました。 SPに続いて今、女王陛下がタラップをゆっくりと下りてきます。』愛子は本体に座ってTVを見ていた。 タラップを下りきったキャラットの近くにタマモの頭が見えた。
「ついに来ちゃったか・・・」
リモコンを持つ右手が汗ばんだ。
AM11:39 千葉県某大学病院特別病棟302号室
『・・ット女王陛下が日本を訪れるのは実に1年ぶりとなります。 今回の調印式を向かえ、テロリストに屈することなくやって来れたのは・・』かおりはベットの雪之丞の手を握った。
「今回で全てが終わってくれればいいんだけど・・」
「そうだな。」
雪之丞は管だらけの手に力を込め、かおりの手を握り返した。
「くっそう・・・体が動けば・・・!」
「あの子がやってくれるわ、私達の子だもの。」
AM11:41 白井総合病院1F待合室
『・・本SPの警備の中、今、今女王陛下が車に乗り込みました。 上空のヘリコプターがそれを護衛するように、ゆっくりとついて行きます。』患者や医者達がTVの前に陣取っている後ろから、小鳩もまた白衣のポケットに手を突っ込んだままTVを見ていた。
「大丈夫そうやな。」
貧は小鳩の肩をぽんと叩いた。
「そうね。」
小鳩は呟くようにこたえた。
「ヒカリはどないや?」
「・・・まだ寝てる、起こしちゃ駄目よ? 体力が回復してないんだから。」
「わかっとるわかっとる。」
AM11:46 白井総合病院703号室(個室)
白いシーツをかぶって寝ていたヒカリはごろっと寝返りを打った。「・・んにゃ・・・タマモ、ご飯またきつねうどん・・・?」
AM11:52 成田空港
キャラットを始め、ザンス関係者が全ていなくなってから、タマモはふっとため息をついた。「お前は行かなくていいのか?」
シロが横から歩み寄った。
「あんたこそ。」
ICPOのスーツを着たシロは腰に手を当てて笑った。
「多分、今連中は来ない、そんな気がする。」
「そう、ね。」
回りはばたばたと後片付けをする人々が行き交っていた。 残っていたザンスSPと話をしている涼介が、忙しく走り回っているのが見えた。 こちらに気付いて、軽く手を挙げてきた。
「アタシは一旦帰るけど、あんたはどうすんの?」
涼介に手を挙げてこたえながらタマモは聞いた。
「拙者は本部に戻らないとならない。」
「大変ね。」
「お前が変なんでござるよ、何でそんなにのんびりできるんだ? いったいお前らの仕事は何なんだ?」
「犬の頭じゃ理解できない複雑な仕事かもね。」
「狼、だ。 まあいい、それよりヒカリは大丈夫か?」
「だだの検査よ、心配することじゃないわ。」
「まあ、そうなんでござるが・・・」
「・・・・・」
タマモはシロを残し、歩き始めた。
(回想 白井総合病院屋上)
「最後?」「ええ・・・」
柵に手をかけて遠くに目をやる小鳩の言葉に、タマモは同じ言葉で聞き返した。
「今回の手術が最後、これ以上は内臓も皮膚や筋肉も持たないわ。」
「そう。」
「・・・・・精霊石の効果があるからまだ十分持つと思うけど、次はもう・・・・もう、仕事ができる状態には戻れないと思う・・・」
「寝たきりになるってこと?」
「うん。」
「・・・・・」
「食事も制限がかかるから、時々点滴も必要になるわ。 左腕は・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・ごめんなさい・・・」
震える小鳩の肩を、タマモはそっと抱いた。
「私は・・・結局誰も助けられない・・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・」
「あんた泣いてばっかりね。 そんなこっちゃ、福の神も逃げてくわよ・・・?」
涙を流す小鳩に、タマモはゆっくり背中を撫でてやった。
(回想終了)
「・・マモ、おいタマモ?」
「あ・・・何・・?」
シロに呼び止められ、タマモは振り返った。
「何ぼけっとしてるでござる。」
「別に、お昼は何かな―と思って。」
「相変らず食い気が多いな。」
「あんたが言うか? で何?」
「ヒカリを頼む。 何の仕事か知らんが、お前がついているなら大丈夫だと信じている。」
「ま、アタシはあんたより強いけど、あの子はもう一人前よ。 子供扱いはしないほうがいいわ。」
「まだ20前だろ・・・? それにお前の方が強いと言うのは聞き捨てならんでござる!」
「事実を受け止められないようじゃ、プロとは言えないわね。」
「お前と違って拙者は常に修行してるでござる! お前は修行のしゅの字も・・」
「あ――、もううるさい! さっさと仕事に戻れ馬鹿犬!」
「あ――、そうするでござる! このぐうたら狐!」
「・・・・ふっ。」
「・・・・けっ。」
互いににやついた2人は並んで出口に向かった。
PM00:23 某廃墟前(旧小笠原エミGSオフィス)
「寂れちゃったわね・・・」エミは見上げるように、自分のかつての事務所を前に立っていた。
「タイガーがいて、あいつが女の子を連れ込んで、令子と馬鹿やって・・・」
壁を覆い尽くすように広がったつたと葉に、エミはわずかに苦笑いをしながら中に入っていった。
「もう、戻ってくるつもりはなかったけど・・・」
誇りで白くなったデスクにバックを置くと、エミはゆっくり深呼吸をした。
「もう一度、私と仕事をしてもらうワケ!」
口紅を取り出したエミは、しゅっと頬にラインを引いた。
PM01:19 横島除霊事務所
「ただいま―。」リビングに入ったタマモはテレビの前で本体に座っている愛子に近づいた。
「愛子、お昼は?」
「あ、テーブルに作ってある。」
「いつまで見てんの? 食べたらヒカリを回収に行くから、早く食べよ。」
「うん、もうちょっと・・・」
TVから目をそらさない愛子に、タマモはその手からリモコンをもぎ取った。 ぷつっ
「アタシ昨日からまともに食べてないんだから。」
「はいはい。」
PM01:46 都庁下日本GS協会本部第1作戦司令室
「只今戻りました。」中央に陣取った美知恵に、西条とピート、シロは敬礼した。
「ご苦労様、何事もなかったようね。」
「ええ、助かりましたよ。」
「しかし隊長、なぜ連中は仕掛けて来なかったんでしょう?」
「拙者も不思議に思います、変な言い方ですが、チャンスだったと思います。」
「さあね。 何かの作戦か、それとももう余裕がないのかしら。」
「あっちも消耗しているってことですか?」
「何にせよ、来ないに越したことはないわ。 こっちも切り札がまだ使えないから。」
「どうなんですか、グングニルとマリアは。」
「ドクター・カオスを中心に急ピッチで修理してるわ、調印式には間に合うはずです。」
「やっぱり・・・使うんですか?」
「ピート君!」
「あ、すいません・・・」
「・・・西条君、ピート君、2人は今から上の式典会場の防犯カメラのチェックに行ってもらいます。 霊視レンズの調整、及びレベルEまでのボーダーラインを全てCまで上げるように!」
「了解!」
かっとかかとを鳴らし、2人は出て行った。
「しかし本当にここでやるとは・・・一般人も今や立ち入り禁止でござろう?」
「仕方ないわ、それよりあなたには緊急の特別任務があります。」
「特別・・・!? 拙者まるで映画の主人公のようになってきたでござる!」
「はいはい、ならしくじらないでね。 主人公さん?」
「了解、でござる!」
PM02:01 ザンス王国大使館
「お疲れ様です、キャラット様。」「いえ、たいしたことありません。 それより彼女の方は?」
キャラットはいすに座って足を休めながらエイムズに顔を向けた。
「彼女は、今晩にもこちらに来てもらうことになっています。 今は少しでもお休みください。 今回のスケジュールはかなり詰まってますから。」
「そうさせてもらいます。」
「陛下、こちらへ。」
セリナがドアを開けたので、キャラットは立ち上がった。
PM02:38 ???
「どうした?」窓から外を眺めているミリアにフリノは声をかけた。
「いや・・・」
「テルか?」
「・・・・・ああ。」
「・・・・・」
フリノはミリアに並んで窓から空を見上げた。
「あいつなりに考えがあったんだろ。」
「・・・・・」
「2日後だ、そんな調子じゃ無駄死にするぞ。」
「・・・・・」
PM07:18 ザンス王国大使館
「よく来てくださいました。」部屋に入ったヒカリとタマモにキャラットは立ち上がった。
「お忙しい中すみません。」
「初めまして、ミス・ヒカリ、ミス・タマモ。」
「・・・・アタシはついでよ、気にしないで。」
「タマモ。」
「かまいません、どうぞお入りください。」
キャラットのいる部屋にはヒカリ、タマモと3人しかおらず、2人はキャラットに座るよう勧められた。
「今回のことについては、本当に感謝しています。」
「まだ何もしていません、ね、タマモ?」
「まあね。」
「・・・・・ウェイドが迷惑をかけました。」
「彼は一生懸命でした・・・・頑張ってましたよ。」
「・・・ありがとう。」
「・・・・・」
「あの子のことはこのまま誰にも言わないでおいてください。」
「わかりました。」
キャラットはじっとヒカリを見つめた。
「・・・・・?」
「よく似てらっしゃる、お母様に。」
「やっぱり、似てますか?」
「ええ。」
キャラットはにっこり笑って見せた。
「時間もあまり割けません、取り急ぎ本題に入ります。」
「はい。」
「・・・・・」
「アリマトへの霊波刀による効果の方はどうでしたか?」
「かなり硬いですね。 普通の霊波刀ではまず無理です。」
「そうですか・・・」
「相手の霊力が弱まった時を狙えば上手くいくかもしれませんが、まずそんな機会はないですね。」
「では、あんな昔話に期待すべきではないと・・・?」
「いえ、何とかします。 私の剣は、まだ1度も切り結んでませんから。」
「例の破魔札を使った、霊波刀ですか?」
「はい。 多分いけると思います。」
ヒカリはキャラットに笑顔を返した。
「・・・・・頼みます。」
「あ、すいません。 ちょっとお手洗い。」
「ふふっ、どうぞ。」
ヒカリは立ち上がると急ぎ足で部屋を出た。
「・・・・・不思議な子ですね。」
「そう? 普通よあれぐらい。」
タマモはテーブルに頬杖をついて目を細めた。
「あの子の笑顔は人を安心させます、お母様と同じですね。」
「そうかもね、性格はちょっと違うけど。」
「少しあなたに似てますね。」
「けけけ。」
同時刻 都庁内調印式予定会場
「思い出さないか、西条。」「ん?」
エイムズと西条はいすに座って一息ついていた。
「昔、俺達の国でこうやって式場の警備の準備をしたよな。」
「ああ、そうだな。 もう、10年も前のことだが。」
「あれから一緒に仕事をするようになった。」
「お前は相変らず一人身だがな。」
「・・・・ほっとけ。」
「ははは。」
「・・・・・あいつもいたんだよな。」
「・・・・もう言うな。 誰の