GS美神 ひかり

第十三話   アリマト(前編)


AM08:36 都庁入り口前 

「ふうっ・・・」 
額の汗を拭ったエイムズは一息つく。 
「エイムズさん。」 
桜井がすっと横に歩み寄った。 
「何とか全員会場に入れましたね。」 
「まあな・・・・移動中に来なかったのは幸か不幸か・・・・」 
「幸運だと思いましょうよ。」 
「ああ、だが・・」 
ピーッ、ガガガ・・・ 
「!」 
耳のインカムを押さえる。 
「こちらパトロ・・ガガッ・・の杉並区ガッ・・・東付近で・・霊獣を確認しガ――――・・・」 
「っち!」 
「エイムズさん! 僕が行きます!」 
「待て、多分囮だ! ここの警備を優先しろ!」 
「ですが・・・!」 

同時刻 杉並区内 

ずがががああんっ 走り抜けたヒカリのAX−1の後でアパートが崩れ落ちた。 左足を地につき素早くターンをするとアクセルを一気にふかす。 
「ぐわあああっ!」 
口から光を溢れさせんとするワニ頭を左手の剣で貫く。 ざしゅっ 精霊獣が煙のように消えた。 そのまま右に体を傾けると、車道に飛び出し上空の青い精霊獣の後を追う。 ジグザグと反対車線にもはみ出しながら車を避けてバイクを走らせ、前と上と忙しく顔を動かす。 ブッブー! ばきっ ミラーが対向車のミラーとかすめて後に飛んでいった。 
「うわっ!?」 
「何だこいつ・・・!?」 
「邪魔、どいて!」 
歩道にバイクを乗り上げるが、青い精霊獣が建物で見えにくくなった。 避ける人々が背後で怒鳴るのがわずかに聞こえる。 
「出し惜しみしてられない。」 
左手の手袋の先を咥えて外して捨てると、式神の札をヘルメット越しに額でかまえる。 
「封じられし力持つものよ、横島ヒカリの名において命ずる、その力解き放ちて我が前に示せ! 出でよ我が前鬼!」 
「があああっ!」 
燃え尽きた札から、真っ白な毛並みに黒いしまを持った実物より1まわりほど大きな虎が上空に飛び出した。 くるっと旋回して地上に降下してきた前鬼は、バイクから降りたヒカリが背中の毛皮を掴むと再び上昇した。 
「急いで!」 
「がうっ!」 
首の辺りの毛皮を掴んでまたがったヒカリは、両足のかかとを叩きつけて式神をせかした。 

AM08:41 都庁前 

「こちらマリア、西方より精霊獣23鬼・確認!」 
「マリア! 迎撃できるか!?」 
エイムズはインカムのマイクをつまんで怒鳴りながらも空に目を凝らす。 
「イエス!」 
「美神隊長!」 
「発砲を許可します! 都内に流れないよう注意しなさい!」 
「イエス!」 
どしゅうううううっ 上に顔を向けたエイムズは、白い閃光が真っ直ぐに伸びていくのが見えた。 

AM08:54 調印式会場内 

セリナはそっとキャラットの後に近づくと耳打ちをした。 
「来たようです。」 
「皆を信じています。 始りますよ、席につきなさい。」 
「はい。」 

AM09:08 都庁前 

「おいおいこんなにかよ。」 
エイムズは飛び交うワニ頭を目にしてぼやく。 どかんっ 
「うおっ!?」 
閃光が飛んできたが、結界に弾かれた。 
「全員結界内にっ! 物理的攻撃からトレーラーを守れ! 精霊獣出すぞ!」 
「はい!」 
エイムズは隣にいた部下を振り向き、指輪に念を込めた。 

AM09:11 日本GS協会本部第1作戦司令室 

「来たのか?」 
入ってきたカオスは美智恵に駆け寄った。 
「ええ。」 
大型のモニターが4つに区分され、それぞれの結界トレーラー付近の映像を映していた。 
「グングニルバッテリーロスト! 冷却装置作動、バッテリー交換急いでください!」 
「イエス!」 
「調子はどうじゃ?」 
デスクトップの前でかたかたやっている桐原にカオスが近づく。 
「今のところ正常です。 ですが数が多いので・・」 
「カオスさん、4つ目のバッテリー供給がそろそろ終わるはずです。」  
「やれやれせわしないのう。」  
カオスはあくびをしながら早足に廊下に出た。 

AM09:18 都庁屋上ヘリポート 

瞳に飛び交うワニ頭を映しながら、3メートルもの銃身を振り回し、銃口でそれを追う。 頭のアンテナにつながったコードが、グングニルのスコープが捕らえた映像をマリアに送ってくる。 
「ロックオン!」 
腰を沈め引き金を引く。 どしゅうううううっ! 白い閃光が伸び、ワニ頭を3鬼ぶち抜いた。 ぶしゅうっ 白い蒸気となって熱が放出口から飛び出す。 
「ごわああっ!」 
左から飛び掛ってくるワニ頭が視界に入り、足のジェットノズルが噴射される。 どしゅっ 空中に飛び出したマリアはワニ頭の霊波の塊をかいくぐりながらグングニルを振り回した。 

AM09:20 日本GS協会本部第1作戦司令室 

「マリアが屋上より離れました!」 
「回線をこっちへ。」 
美智恵はスイッチを押し、手元のマイクを口に寄せた。 
「マリア、所定の位置に戻りなさい。」 
「ノー、接近・できません!」 
「エイムズ君! マリアを援護、あなたはヘリポートの結界の護衛に上がって!」 
「りょ、了解!」 

AM09:23 都庁上空(上空3000メートル) 

白い虎と青い騎士に乗ったヒカリとフリノが、互いの後を取ろうと飛び交っていた。 青い騎士の精霊獣が盾を前に、剣を振り被って正面から突っ込んできた。 
「念!」 
破魔札から霊波刀を繰り出したヒカリは、横なぎに剣と切り結ぶ。 ぎゃりんっ! 精霊獣の剣が根元から折れた。 反転したヒカリの前鬼は、バランスを崩した騎士の背中にしがみついているフリノに突っ込む。 ヒカリは剣を突きにかまえる。 
「ち、早い・・・!?」 
フリノは精霊獣を180度回転させ、左腕の盾を突き出させた。 ばきゃっ 破魔の文字が盾に突き刺さり、突っ込んだ勢いに任せて左腕ごと引き千切った。 
「ぐおおおおおっ・・」 
精霊獣の唸りが耳に届く。 再び反転したヒカリは、降下していく青い騎士と白髪を見つける。 
「まずっ、下に行く前に・・・!」 
式神の腹を蹴ってそれを追うが、2鬼のワニ頭が接近してきた。 青い騎士が視界から消える。 
「貫け我が刃!」 
1鬼に剣を投げつけ、左腕で新たに破魔札を掴むと、もう1鬼に切りつけた。 ぶわんっ 
「!?」 
ざしゅっ! 煙となって消える精霊獣を突き抜けながら、ヒカリの左肩から赤い液体が飛び散った。 
「くそっ・・・!」 
動きが鈍い・・・  

AM09:27 都庁上空(ヘリポート付近) 

屋上に1人退魔札を持って走るエイムズは、自分の白い精霊獣をコントロールしながらワニ頭の攻撃から逃げていた。 
「くっそう、いくらなんでも1人じゃ身が持たん!」 
飛んで来る霊波の塊をお札で防ぎながら、そのすきに精霊獣で後から槍で突いた。 ばしゅっ 気を抜く間もなく次が来る。 
「マリア! もっと数を減らしてくれ!」 
「イエス!」 
「本当にわかってんのかおい!?」 
「無茶言わないのエイムズ君。」 
「隊長!?」 
「男なんだからど―んとやっちゃいなさい。」 
ふざけんなこの婆・・・自分でやってみろ・・・・! 思わす口を開きそうになる。 
「上空より精霊獣接近! 対人反応・1、フリノ・ティンバー発見!」  
「何!?」 
上を見上げたエイムズは、ワニ頭の吐いた霊波で吹っ飛ばされた。 

AM10:00 都庁(Aポイント結界トレーラー前) 

どかああああんっ 
「うわああっ!」 
トレーラーが爆発し、桜井は爆風で転がった。 
「ガ――ッ、こちら本部、どうしたの!?」 
桜井は気を失っている血だらけの警官を抱き起こしながらインカムに怒鳴った。 
「地上からの狙撃です! トレーラーが1台やられました!」 

AM10:02 都庁上空 

どしゅううううううっ! 白い閃光が熱気と共に銃口から吐き出される。 ワニ頭はそれを交わして散開するのがマリアの瞳に映る。 その先に青い精霊獣を見る。 
「ターゲット補足!」 
マリアは飛びついてくるワニ頭を交わして飛びながら左腕を突き出す。 がきんっ 腕から機銃が飛び出し火を吹く。 どんどんどんどんっ 閃光が吸い込まれるように青い精霊獣に向かっていった。 軽く進路をずらしたそれは、体勢を整え直す前にマリアに殴りかかった。 ばきゃっ! 体をひねったマリアは左足をぶち抜かれながらも、通り過ぎるそれに向かってグングニルの引き金を引いた。 
「厄介な武器だな。」 
どしゅううううううっ! 走り抜ける白い閃光はワニ頭を2,3鬼ぶち抜くも、青いそれには当らなかった。 
「推力・・・低下・・・!?」 
降下していくマリアは、何鬼ものワニ頭が飛びかってくるのを見た。 再び引き金が引かれる。 どしゅうううううっ! 千切れる様に消滅するワニ頭だが、かいくぐった別のワニ頭が次々とマリアに飛びつき、そのまま地上に落下していった。  

AM10:11 日本GS協会本部第1作戦司令室 

「マリアがやられました!」 
桐原は美智恵を振り返った。 
「西条君に連絡、会場内のザンスSPを1人外に回させなさい。」 
「美神隊長! Aポイント突破されました! シーラムが内部に・・・!」  
「警備のものに通達! 何があっても会場内に入れてはいけません、死守しなさい!」 
「ガガッ・・・ちらAポイントの桜井です、すいません何人か・・ガッ・・・−ラムを2人は射殺しましたが・・」 
「残りの結界トレーラーを死守しなさい、出力が落ちないよう残りのポイントからカバー、外の精霊獣を侵入させてはいけません!」 
「了解!」 

AM10:15 都庁屋上ヘリポート 

「くっそっ・・・なに!?」 
ふらつく頭を押さえながら立ち上がろうとするエイムズは、目の前に着地した青い精霊獣に慌てて飛び起きた。 
「フリノ・ティンバー!」 
「エイムズ・レイターか。」 
肩から左腕のない精霊獣から降りたフリノは、腰の鞘に収まっているアリマトに手をかける。 
「貴様らの暴挙もここまでだ!」 
指輪に念を込め、白い騎士がフリノに突っ込む。 青い騎士が間に割って入り、体で槍を受け止めた。 ざしゅっ 
「何!?」 
「ぐおおおおおおおっ!」 
青い騎士は空に向かって吼えると、右手で突き刺さった槍を突かんでエイムズの精霊獣を押し返してきた。 
「くっ・・・」 
指輪に念を込めるも、押し返されてきた精霊獣はエイムズに迫った。 
「ちっ!」 
横に跳びのいたエイムズの横を飛びぬけた2鬼は、そのまま空中に飛び出た。 どこおおおおおおんっ・・・・! 
爆風を背中に立ち上がったエイムズは、指輪が砕けるのを感じた。 
「・・・・・」 
腰の後から拳銃を取り出してフリノに向ける。 片手のフリノがアリマトを抜いた。 
「フリノ、もういいだろ、もうやめろ。」 
「お前らは精霊を裏切り精霊に捨てられた。 このアリマトが俺達に力を貸した理由を考えたことがあるか?」 
「何・・・?」 
「アリマトが言ったんだよ、タブーを犯した貴様らを殺れってな!」 
「それでも・・・!」 
がんがあんっ 横に走り出したフリノに気を取られたエイムズは、上から迫るワニ頭に反応が遅れた。 ずがっ 
「くっ・・・」 
爪に背中を引き裂かれて足がふらつく。 正面から別のワニ頭が迫るのが見えたが、体勢を立て直す暇はなかった。 どかっ 
「うわああああああっ!」 
弾き飛ばされたエイムズはヘリポートから落下していった。 
「!?・・・おじさん!」 
「来たな・・・!」 
白い虎にまたがって降下してきたヒカリに、フリノはアリマトを振った。 どしゅっ 
「なっ!?」 
アリマトの刀身が何十メートルも上空のヒカリに迫った。 あたかも吸い込まれるように伸びた切っ先が式神を顔から胴にかけて貫く。 
「があっ・・・」 
「このっ・・・!」 
ばしゅっ 形を失って消える式神に、足場を失ったヒカリはヘリポートに叩きつけられた。 
ばんっ! 
「くううううううっ・・・・!」 
なんとか両足で着地をするも、衝撃吸収のため曲げた間接と突いた手のひらと足の裏がしびれた。 
「!」 
片腕のフリノを視界に捕らえたヒカリはすぐに立ち上がった。 
「アリマトを渡しなさい!」 
「とってみろよ。」 
素早くズボンの後の拳銃に手をかけて突きつける。 ずかっ
「・・・・あれ?」 
銃身の前半分が切り飛ばされた。 
「うれしいぜ横島、最後にこうやってお前を殺れるんだからな。」 
「私は父さんじゃないんだけどな・・・」 
半分になった拳銃を後ろにぽいと投げ、胸のポッケから破魔札を右手に取る。 
「お前を殺し、会場の奴らも殺す。」 
「はいはい。」 
ヒカリは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。 
「横島・・・・お前さえいなければ、もっと昔にけりはついていたんだ!」 
「だから私は知らないって・・」 
フリノは走り出し、アリマトを振り下ろした。 
「念!」 
ぎゃりんっ! 破魔の文字が青白く光り、アリマトを弾き返す。 
「お前さえいなければああっ!」 
がんぎんがんっ! 縦横と振り回されるアリマトをさばく。 
「横島ああっ!」 
「父さんいったい何したよ・・・!?」 
ヒカリは大きく剣を横に切り込んで、フリノを後に弾き返した。 ざざっ がっ 片手のフリノはアリマトを足元に突き刺して体を支える。 
「くくく・・・」 
「・・・・・」 
上目使いで笑うフリノに、ヒカリは剣を上段にかまえた。 

AM10:27 都庁入り口内部 

粉塵と煙とガスが立ち上る中、鈍い閃光が乾いた音を響かせながら飛び交っていた。 
「っち、ミリア行け、ここは受け持つ!」 
「わかった!」 
精霊獣と奪ったセラミックの盾の後からライフルを撃っていたジャンは、背中あわせにライフルの弾を込めなおすミリアを小突いた。 
「キム! お前はエレベーターを破壊して下を押さえろ!」 
「はい!」 
「いくぞ、1、2、3!」 
ジャンは精霊石を投げつけた。 閃光が煙に反射し、全ての者の視界を奪う。 どかあああんっ どこおおおんっ 衝撃が建物を揺らす。 

AM10:28 調印式会場内 

テーブルを揺らす振動に、多くが顔を見合わせざわついた。 
「皆さん、警備の者を信じましょう。」 
キャラットはマイクを掴んだ。 
「私達は互いの国、そしてその国民の為に力をあわせねばなりません。 長年にわたっての交渉も多くの障害があり、多くの犠牲を払いました。 今日で、今日で終わりにしなければ・・・」 

AM10:30 日本GS協会本部第1作戦司令室 

「正面入り口突破されました、精霊獣1鬼、会場を目指していると思われます!」 
美智恵はマイクを掴む。 
「西条君、聞こえた!?」 
「はい!」 
「会場の入り口は完全に封鎖! 命で守りなさい!」 
「はっ・・・はい!」 
美智恵はモニターに目をやるも、その1つが消えた。 
「Aポイント、カメラロスト!」
「外の状況は・・・!?」 
「ワニ型精霊獣、残り11鬼!」 
「桜井さんより連絡! ザンスSPの精霊獣が3鬼ともやられました!」 
「エイムズ君に要請! GSの横島をまわしてもらいなさい! 桐原さん、マリアは連絡つかない!?」  
「無理です、しかしグングニルのモニターが生きてますから・・」 
「警戒線の警官を使って何とかグングニルを回収!」 
「了解!」 
「み、美神隊長! 精霊獣が1鬼地下に侵入しました! B1F、3番ゲート付近です!」 
「手の開いてる者をまわして! 全員、拳銃の貫通弾チェック!」 

AM10:32 都庁内部(調印式会場出入り口付近) 

どこおんっ サイ頭の精霊獣に乗ったミリアは、銃弾をかわしながらSPを蹴散らして突き進んだ。 
「! まだいたか!」 
黒いスーツ姿の涼介が角を曲がってこちらに気付いたのが目に入る。 
「精霊獣!」 
涼介の右手から戦士の精霊獣が飛び出す。 
「どけええええっ!」 
戦士とサイの拳と爪が互いの体を打ち砕き、消滅する。激突前に飛び降りたミリアは、着地する前に涼介に銃口を向けていた。 
「女!?」 
「子供・・・!?」 
一瞬、動きが止まった2人は、ミリアの着地と同時に我に帰る。 
「!」
「!」 
魔装術を覆って殴りかかる涼介に、ミリアはライフルの引き金を引いた。 ばららららっ! 

AM10:35 都庁屋上ヘリポート 

がきっ 打ち合った剣が跳ね返り、ヒカリは体勢を崩しながらもすぐに剣を突く。 ぎゃりりりっ フリノは1歩横に体をずらし、立てたアリマトでするように突きをさばく。 
「くそっ!」 
「つあっ!」 
そのままアリマトでヒカリの剣を押しのける。 体勢の崩れたヒカリに左から切りかかるが、ヒカリは距離を取るため後ろに跳んでかわす。 
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」 
左手をひざに突き、剣を突いて肩を大きく動かし呼吸をするヒカリに、フリノはアリマトを肩で担ぐようにして笑った。 
「どうした、お前はそんなもんじゃないだろ横島。」 
どおおおおんっ 乾いた音が下から響いてくる。 
「はあっ はあ・・・だから、違うって・・・・はあっ・・・言ってるのに・・・」 
「俺達は精霊の意思を実行しているんだ、俺達の国を取り戻すためにな。」 
「はっ・・・・・そんなの知ったこっちゃないわよ・・・」 
「ならばなぜ邪魔をする?」
上目使いで笑うヒカリに、フリノはアリマトをひゅんっと振って汗を払った。 
「はあっ、ふ―――っ・・・・私は依頼された仕事をしてるだけ・・・・ただそれだけよ・・・」 
ひざから手を離して真っ直ぐに立つヒカリに、フリノは顔をこわばらせる。
「ふざけるなよ・・・・俺達は国の奴らと精霊の為に戦っているのに、お前は自らの金の欲しさに邪魔するのか!?」 
「私はただのGSよ・・・・全て解決できるなんて自惚れてないわ・・・」 
「横島・・・・・・!」 
「横島よ。」 
ヒカリはすっと剣を上げるとフリノに切っ先を向ける。 
「あなたが殺したがっている横島よ。」 
「・・・・・」 
どおおおおおんっ・・・・ 下から木霊する爆音に、再びフリノは頬を緩めた。 
「そうか・・・」 
「アリマトが何て言ったか知らないけど、それは破壊します。」 
「そろそろ時間だ。」 
「?」 
フリノはアリマトを掲げる。
「教えてやるよ横島、これの使い方を・・・!」 
「?」 
「アリマトよ、お前の力を解き放て。」 
ばしゅっ 柄の精霊石が光を放ち、霊波がフリノの体を覆った。 それは全身に広がり、余すとこなく体を覆うと形をなした。 
「・・・・・魔装術・・・!?」 
白銀の鎧をまとった騎士が目の前にいた。 アリマトが右手と同化するように腕から生え、そしてなくなっていたはずの左手を復元し、盾を持っていた。 アリマトが残った霊気を振り払った。 静かに響く唸り声にも似た音に、ヒカリは剣を前にかまえる。 
「・・・・違う、これが異教の敵を討つアリマトの力・・・・」 
「そうだ。」 
フリノがアリマトを振った。 周りの霊気が吹き飛び、波がヒカリに届く。 
「・・・・・!?」 
小振りだったアリマトが一回り大きくなっているのが目に付く。 
「・・・精霊の名の元に、お前達を討つ!」 
アリマトを振り上げる。 
「!? 剣よ!」 
足元に敷かれた巨大な結界札にアリマトが突き刺さる前に、ヒカリの剣が飛んだ。 どかっ 後にバランスを崩すも下げた左足で踏ん張ったフリノに、ヒカリは両手に破魔札を掴んで突っ込んだ。 
「あああああっ!」 

AM10:46 日本GS協会本部第1作戦司令室 

どこおおおおおんっ! 入り口が吹き飛ばされ、サイの頭をした精霊獣が飛び込んできた。 
「このっ!」 
美智恵、桐原や他のオペレーターが銃を向ける。 がんっ、どんっ、ばんばんっ 
「ぐうああああああっ!」 
サイ頭が口を開き、霊波を溢れさせる。 ばかああああんっ 正面のモニターをぶち破った。 破片が飛び散り、爆風で吹き飛ばされる。 
「ぐうう・・・」 
「いっつ・・」 
「くっ・・・」 
床に放り出された美智恵は、落とした拳銃を拾おうと右手を伸ばす。 がん、からからら・・・ 蹴り飛ばされた拳銃の代わりに足が見える。 
「ここは押さえた。 精霊の名において、お前らには死んでもらう。」 
「ふん、テロリストが何言ってんのよ。」 
「あんたが元凶だ、美神美知恵!」 
サイ頭が美智恵の頭を掴んで持ち上げた。 つま先が宙に浮く。 
「ぐっ・・・」 
「あんただけは許せない・・・!」 
キムは拳銃を美智恵の腹に突きつけた。 どんどんどんっ 
「がはっ・・」 
「美神隊長―――!」  
桐原が瓦礫の下敷きになりながら叫んだ。 
「俺達の苦しみ、何分の1かでも味わえ・・・・!」 
どすっ 
「なっ・・・・・」 
キムは自分の胸から突き出た剣に拳銃を落とした。 
「何・・・?」 
振り返ることかなわす、キムは崩れ落ち、サイ頭は消えた。 どさっ 
「先生!?」 
西条は美智恵を抱き起こす。 
「先生―――!」 
美智恵は動かなかった。
「さ、西条さん、上は・・・?」 
「内部は大丈夫だ、もうすぐ医療班が来る。」 

AM10:50 都庁前 

「持ってきたぞエイムズ!」 
カオスはグングニルのバッテリーをエイムズに渡す。 
「助かります、援護しろ! 仕掛ける!」 
拳銃片手に結界の外へと走り出るエイムズに、ワニ頭が飛び掛る。 
「ぐわああああっ!」 
「吹き飛べ――――!」 
バッテリーを上に投げつけ拳銃を撃つ。 がんっ どごおおおおおおっ! 
「うおっ・・・!」 
エイムズは結界内に飛び込む。 白い光が一面に広がり、ワニ頭が何鬼も消し飛んでいった。 地上に止めてあったパトカーやら何やらと、それに巻き込まれる。 
「はあっ、はあっ、あと何鬼だ・・・!?」 

AM10:54 都庁屋上ヘリポート 

がきんっ! ヒカリの右手の剣がフリノの盾を弾き飛ばした。 
「ほう、力が上がってるのか?」 
「!」 
がきっ 左手の剣でアリマトを受け止める。 右手の剣で胴切りに狙う。 がっ 
「ちっ!」 
鎧に弾かれる。 
「無駄だ!」 
銀色の拳が目の前にあった。 どかっ 殴り飛ばされたヒカリは後に吹っ飛ばされた。 
「ぐっ・・・」 
両手の剣が消える。 擦るように後に転がってすぐに立ち上がる。 
「・・・・?」
ぼやける視界に足元がふらついた。 
「アリマトよ、結界を打ち破れ!」 
「しまっ・・」 
どかっ 突き刺されたアリマトから溢れる光に、ヒカリは目を細めた。 空気の感じが変わったのを肌に感じる。 
「くくくっ・・・」 
アリマトを抜いた騎士の表情はわからなかった。 
「じきにここも崩れる。」 
「・・・・・」 
ヒカリは式神の札を右手に掴んだ。 すっとそれを横にかかげる。 
「?」 
「我は契約を結びし者、我が理において力を示せ! 出でよ後鬼!」 
「ぐおおおおおっ!」 
燃え尽きる札から青白い車ほどの大きさの狼が飛び出し、勢いに任せて屋上の入り口を突き破った。 
ずかんっ・・・ 
「・・・・何の真似だ?」 
「デートに邪魔が入らないように。」 
ヒカリは破魔札で口元を隠すと軽くウィンクして見せた。 

AM10:57 都庁入り口付近 

「結界が・・・・!?」 
「エイムズ!」 
「?」 
外に出てきた西条はエイムズに光る石を投げた。 エイムズがそれをキャッチする。 
「精霊獣石・・・!」 
「シーラムのだが、使え!」 
「すまん!」 
指輪をはめて念を込める。 
「出でよ精霊獣!」 
サイ頭の精霊獣に飛び乗ったエイムズは上空の残ったワニ頭に向かって飛んだ。 

AM11:00 都庁屋上ヘリポート 

じゃりんっ 切り結んでいた右手の剣でアリマトをさばき、左手の剣で突く。 がっ フリノの胴に当った剣は鎧に弾かれた。 
「無駄だ!」 
左上から振り下ろされるアリマトに左手の剣をそれに向ける。 ずしゃっ 
「づっ・・・!」 
破魔の文字がかき消され、左手の剣が打ち消された。 アリマトの切っ先が目の前で振り下ろされる。 後に跳んで距離をとりながら右手の剣を投げつける。 どしゅっ 衝撃に後に体が傾くフリノだが、ゆっくりと前に向ける体の鎧に傷はなかった。 
「あきらめろ、所詮お前達とは背負ってるものが違うんだ。」 
「・・・・・」 
再び両手に破魔札を掴んだヒカリはフリノを睨み返す。 
「もう、お前とは楽しんだ。 俺にはまだやることがあるんでな・・」 
「ぐわおおおおおっ!」 
青い狼が口を縦に広げてフリノを後ろから喰らいついた。 
「ぐっ!」 
両腕を押さえ込まれるようにして牙に挟まれたフリノは、そのまま勢いに任せてヒカリの方に押しやられた。 ヒカリは両手を突き出してフリノに突っ込む。 
「これで終わって!」 
両手の剣に破魔の文字が書き込まれる。 
「おおおおおおおっ!」 
あごの力を押しのけて式神を全身の霊波で吹き飛ばしたフリノは、その霊波をアリマトに収束してヒカリの剣に叩きつけた。 

AM11:05 都庁上空(ヘリポートより低い) 

どおおおおんっ・・・・ 
「!?」 
ワニ頭からヘリポートに目が行ったエイムズは、ワニ頭の吐いた霊波の塊を慌てて回避しながら体勢を整える。 
「くそっ・・・こいつらが先か!」 
エイムズはサイ頭の背中でコントロールしながらワニ頭に集中した。 

AM11:07 都庁屋上ヘリポート 

ヘリポートの端に横向きに倒れていたヒカリは、反対側の端にいるフリノがゆっくり立ち上がるのを瞳に映していた。 その鎧、そしてアリマトには傷はなかった。 
「・・・・・」 
失敗か・・・・・ま、いっか・・・・もう剣出せないし・・・ 歩み寄ってくる白い騎士を見つめていたヒカリの瞳が半分閉じる。  
「俺達は精霊に守られてるんだよ。」 
かぶとで読み取れないはずの顔が笑っているように見えた。 フリノがヘリポートの中央に差し掛かったとき、空からかすかに響く音にフリノは足を止めた。 
「・・・・・」 
空に顔を向けたフリノの視界の先に、青い空に白い尾を引いてこちらに飛んでくる1機の戦闘機があった。 どどどどどっ・・・! 火を噴いたように見えた瞬間、フリノは機銃に再び端まで吹っ飛ばされて倒れこんだ。 ごおっ・・・・! ヘリポート上空を飛び越した戦闘機は上昇して再びヘリポートの上を通り過ぎる。 
「・・・・・!」 
立ち上がったフリノは空から黒い影が落ちてくるのを見つける。 
「・・・・?」 
瞳を空に向けたヒカリは、空から降ってくる何かを静かに見つめていた。 

AM11:10 都庁前 

飛び去る戦闘機を見上げていた警備のSP達の中にいた西条は、よろっとパトカーにもたれかかると額を押さえて笑った。 
「ははっ、こんなことするのは・・・・」 

AM11:12 都庁屋上ヘリポート 

パラシュートを外したそれは、ヒカリとフリノの間、ヘリポートの中央に降り立った。 手をついて着地したそれはゆっくり立ち上がる。 風に流されたパラシュートがフリノの背後を飛ばされていった。 
「お前・・・!」 
「・・・・・」 
ヒカリはそれの背中を見つめていた。 軍用と思われる青いつなぎを着たそれは、ヒカリの前であごのベルトを外し、ヘルメットに手をかけた。 

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※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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