GS美神   ひかり

第十五話   相棒


8月1日 AM10:35 ザンス王国大使館 

「どうですか、その後体の方は・・・?」 
セリナがテーブルに置いてくれた紅茶を飲みながら、ヒカリとタマモは書類にボールペンを走らせていた。 
「はい、何とか。」 
「そうですか。 あなたは?」 
包帯で左目を覆っているタマモにセリナは顔を向ける。 
「はあ? ああ・・・・そのうち付け替えるわ。」 
「・・・そうですか。」 
「先生の方はどうです?」 
「私が何とか話してみましたが、彼女は何もしゃべってくれませんでした。 あなたも会ったのでしょう?」 
「はい昨日・・・・こっちも同じです。」 
「よほどショックだったのでしょう・・・・・それだけあなたのことを大事に思ってくれているんですね。」 
「そう・・・ですよね・・・・」 
「・・・・・幸いもうアリマト自体がありませんし、調印式自体も終わったわけですから大丈夫だと思うのですが・・・」 
「・・・・・残った証拠は私だけ、ですね。」 
「・・・・・」 
セリナはテーブルの向かい側に座ると、ヒカリから渡された書類に目を通した。 
「・・・・OKです。」 
「は―、終わったあ・・・」 
「ご苦労様でした。」 
いすの背もたれにぐっと寄りかかるヒカリをセリナは笑って見つめた。 
「おじさんはまだ忙しそうですね。」 
「女王陛下の護衛でずっとついていなければいけませんからね。」 
「ま、明日会えるからいいじゃない。」 
「そうだけどさ・・・」 
「? ・・・・エイムズに何か急ぎの用事でもあるのですか?」 
「そうじゃないんですけど・・・」 
「この甘えん坊はエイムズに甘えたいのよ。」 
「タマモ!」 
「けけけっ。」 
「ふふふっ、伝えておきます。」 
「もう、違うんですよセリナさん!」 
セリナは書類をテーブルに置くと、ヒカリを改めて見つめた。 
「ヒカリさん、ザンス王国にいらっしゃいませんか?」 
「え?」 
「・・・・・」 
ヒカリはセリナの顔を見つめ返す。 
「あなたの傷は現時点では治療する手段がありません。 でも私達の国はその治療法を研究中です。 ある程度の壊死の抑制ができますし、あなたの傷も治せるかもしれません。」 
「・・・・・」 
「7日に女王陛下が帰国する時、私も1時的にザンス王国に帰ります。 その時に一緒に・・・・あなたが望むなら、エイムズや他の人にも話しません。」 
ヒカリは頬を緩めた。 
「ありがとうございます、大使。 でも私にもいろいろあるので、返事は明日のパーティー以降でもいいですか?」 
「もちろん、いつでも言ってください。 私が必ずあなたを助けます。」 
「感謝します。」 
ヒカリが差し出した右手を握るセリナ。 それを横目で見ながら、タマモは静かティーカップを口に運んだ。 

PM00:21 白井総合病院1Fロビー 

「先生、やはりまだベットで寝ていたほうがいいのでは?」 
「何言ってるの、こんないい天気なのに外に出ないのはもったいないわ。」 
美智恵を乗せた車椅子を押しながら、西条は自動ドアを出て日差しの中に出た。 
「あ―・・・いい天気ねえ・・・」 
美智恵は膝にのせていた西条からの報告書を額にかざして日をさえぎる。 
「あら・・・?」 
「!」 
「2人共・・・」 
「・・・・・」 
美智恵と西条は駐車場から歩いてきたヒカリとタマモと鉢合わせた。 
「・・・・どうも。」 
ヒカリは軽くお辞儀をして通り過ぎる。 
「あなたが何の依頼を受けていたかは知らないけど・・・」 
美智恵は振り返ることなく口を開き、ヒカリは足を止めた。 
「いつまでも隠し通せるものじゃないわよ?」 
「・・・・・」 
「あなたのご両親はだったら、私の言葉に従うわよヒカリちゃん。」 
「・・・・・」 
「意地っ張りは可愛いけど、限度があるってことを忘れないで。」 
「・・・・・」 
ヒカリの両拳がぐっと握られ、かすかに震えているのをタマモと西条は見た。 ヒカリはそのまま自動ドアを越えて中に入っていった。 
「先生・・・・」 
「まったく困った子ね、何が正しいかとかそういう判断がつきにくい年頃ではあるけど・・・」 
書類を膝の上でとんとんっと揃える美智恵が顔を挙げた時、タマモの拳が目の前にあった。 ばきっ がしゃん・・・ 
「先生!?」 
車椅子から殴り飛ばされた美智恵に駆け寄った西条は、歩み寄るタマモの間に割ってはいる。 
「タマモ君よせ!」 
タマモは西条を突き飛ばすと、頬を押さえている美智恵の胸倉を掴んだ。 
「あんた何様のつもりよ。」 
「・・・あ―ら、何が?」 
「よせっ!」 
タマモを後から羽交い絞めにする西条だが、タマモはさらに美智恵を締め上げる。 
「あんたはいつもそうだ、そうやって何もかも見透かしたような態度で偉そうにして、全て自分の思い通りにならないと間違ってると思ってるんだ!」 
「それは私が正しいと思うことをやってるからよ。」 
「あんたは結局誰のこともわかっちゃいない。 自己満足の正義とやらに酔っ払って、勝手に人生謳歌してるんだっ!」 
「あなたにはわからないでしょうけど、人間社会には正義が無くちゃ成り立たないのよ、それを実行できる人もね!」 
「わかりたくもないわ! アタシがわかるのは、あんたは独りよがりの偽善者女で、人の心に付けこんで正義者ぶってる気に入らない奴だってことよ!」 
タマモは左手で美智恵を持ち上げると腹に右拳を叩き込んだ。 
「がはっ・・・」 
美智恵は口から血をこぼし、タマモに投げ飛ばされる。 
「先生!」 
西条は美智恵を抱き起こすとタマモを睨み返す。 
「タマモ君・・・・やりすぎだ、除霊処分を喰らうぞ・・・!」 
「おもしろいじゃない。」 
「僕だって先生の態度がいいとは思わない・・・! しかし先生の言うことも全部が違うと言うわけでもないだろう・・・!」 
「アタシを消したいならいつでも相手になるわよ・・・?」 
「よせ、僕達にそんなつもりは無い・・・!」 
「あんた達はアタシを保護して正義ぶってるつもりなんでしょうけど、いい迷惑よ。」 
「もうよせ!」 
西条は美智恵を抱きかかえて立ち上がる。 入り口に向かう西条はタマモを通り過ぎる。 
「少なくとも僕は・・・・僕はきみをそんなふうには見てない。」 
「・・・・・さっさと行きなさい。 そんなんでも美神さんとひのめの親だからね。 恨まれるのもごめんだわ。」 
「・・・・ヒカリちゃんに謝っといてくれ。」 
「・・・・・早く行け。」 
美智恵を抱えた西条が自動ドアを越え、タマモは空を見上げて立っていた。 

PM01:14 白井総合病院屋上 

ヒカリは屋上の入口のドアを背に、膝を抱え込んで座っていた。 顔は膝の中に抱え込まれ、強い日差しに焼かれながら動かなかった。 
「ヒカリ。」 
背中のドアの向こうからの声に、ヒカリは動かなかった。 タマモはドアを挟んでヒカリに背をあわせるようにドアに背をつけた。 
「今日、夕子の所に行くのは辞めとこうか・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・ヒカリ?」 
「・・・・・」 
「!? ヒカリ!」 
どかっ タマモはドアを蹴り飛ばして開ける。 倒れこんだヒカリを抱き起こす。 
「ヒカリ! しっかりしなさい!」 
「・・・・・」 
「ヒカリ――!」 

PM04:38 白井総合病院特別病棟606号室(個室) 

携帯を持ったタマモは窓の外に目をやりながら立っていた。 
「はい、横島除霊・・」 
「もしもし愛子? アタシ。」 
「ああ、タマモちゃん。 何、どうしたの?」 
「ん―、ちょっと今日帰れそうにないのよ。」 
「何よ、何かあったの?」 
「夕子がヒカリに泊まってけってうるさくてさ、今日は病院に泊まることになっちゃったのよ。」 
「そっか・・・まあ、久しぶりに会ったんだし、ゆっくりするのもいいんじゃない?」 
「ついでだからアタシも泊まるわ、小鳩も宿直で今日はここにいるらしいから。」 
「わかったわ、あんまり迷惑かけないようにね。 ヒカリは?」 
タマモは体を反転させて後のベットで寝ているヒカリに目を向ける。 
「今夕子と散歩に行ってる。」 
「そう。 あっ、そういえばあなた達のドレス、さっきクリーニングから帰ってきたわよ。」 
「・・・・・そう、わかったヒカリに言っとく。 じゃあ。」 
ピッ タマモは窓にもたれてヒカリの顔を見つめる。 
「・・・・・」 
かちゃっ 
「検査の結果よ。」 
ドアを閉めた小鳩はタマモに歩み寄った。 
「・・・・どう?」 
「内臓の負担・・・と言うより機能不全ってところね。」 
「働いてないってこと?」 
「今までは食道系だけですんでたけど、じょじょに他の器官に壊死が進行してきてるわ、全体として・・」
「わかったもういい。」 
小鳩の手にしていたカルテを取り上げたタマモは煙の出る間もなくそれを焼き尽くした。 
「・・・・・ザンス王国に来ないかって誘われてるんだって?」 
「まあね・・・・ん・・・? 何で知ってるの?」  
「セリナ大使来たのよ、ここに。」 
「ふうん。」  
「実際私ではもう、この子を助けてはあげられないわ。」 
小鳩はいすに座って手を伸ばすと、ヒカリの前髪をやさしくかき上げた。 
「少しでも助かる可能性があるなら・・・」 
「・・・・・」 
タマモはドアに向かった。
「どこ行くの?」 
「上、風に当ってくる。」 
「・・・・今は少しでもこの子の傍にいてあげたら?」 
「・・・・・あとお願い。」 
かちゃっ・・・・ぱたん・・・ 

これは   夢 ? 

死にたくない 

嫌だ 俺はまだ死にたくなかった 

あいつめ 殺してやる  

俺のだ 俺の金だ 誰にも渡すものか 

何で 何で死ななきゃならない 

いや 聞きたくない 
ヒカリ 誰かを助けてあげるのがGSよ 
いや こわい こわいよ 

ヒカリは耳がよすぎる 俺たち以上に 
今までなんともなかったのに どうして急に 

ピートお兄ちゃん おんぶ 
はいはい しょうがないな 
にへへへへ 

こわい たすけて 誰かたすけて 
ヒカリ 何でここにいる 

初めまして ヒカリ 
誰 
アタシはタマモ 狐よ 

ヒカリ GSになれ お主には才能があるでござる 
私 こわい 

冥那ちゃんも涼介君も 大きくなったらGSになるの 
おう 
う〜ん 冥那まだわかんない〜 

ひのめお姉ちゃん 怖いもの ある 
私に怖いものはないわ ま 強いて言うならお姉ちゃんかな 

ヒカリ これ お母さんからプレゼント 
フルート ?  

たたいま― 
お父さんお帰りなさい 
ヒカリ またフルート練習してたのか ?  
うん 

ヒカリちゃん フルート上手ね〜 
ほんと 冥那ちゃん 

タマモお姉ちゃん 私 ずっとフルートを吹いていたいな 
いいんじゃない アタシもあんたのそれ 好きよ 

ヒカリ 今シロから電話が来たわ あんたの親 死んだって 
父さん  母 さん 

私 高校行くの辞める GSになる 
そうか 先生達も喜んでるでござるよ 
ヒカリ あんたそれでいいの  

タマモ 誰かいい人知らない 
いるわよ 暇してる机が1人 

社長 起きて 仕事よ 
無理よ愛子 そんな簡単には起きないわ 

眠い    

ずっとこのままでいい 

目が覚めなくたって 別にいい 

このまま死んじゃったら  楽だろうな  

眠い 

このまま 

父さん 

母さん 

・・・・・リ 

誰 ? 

・・・・カリ 

誰よ 寝かせてよ 

・・・ヒカリ 

タマモ ?  

それで いいの ? 

8月2日 AM1