GS美神 ひかり
第十五話 相棒
8月1日 AM10:35 ザンス王国大使館
「どうですか、その後体の方は・・・?」
セリナがテーブルに置いてくれた紅茶を飲みながら、ヒカリとタマモは書類にボールペンを走らせていた。
「はい、何とか。」
「そうですか。 あなたは?」
包帯で左目を覆っているタマモにセリナは顔を向ける。
「はあ? ああ・・・・そのうち付け替えるわ。」
「・・・そうですか。」
「先生の方はどうです?」
「私が何とか話してみましたが、彼女は何もしゃべってくれませんでした。 あなたも会ったのでしょう?」
「はい昨日・・・・こっちも同じです。」
「よほどショックだったのでしょう・・・・・それだけあなたのことを大事に思ってくれているんですね。」
「そう・・・ですよね・・・・」
「・・・・・幸いもうアリマト自体がありませんし、調印式自体も終わったわけですから大丈夫だと思うのですが・・・」
「・・・・・残った証拠は私だけ、ですね。」
「・・・・・」
セリナはテーブルの向かい側に座ると、ヒカリから渡された書類に目を通した。
「・・・・OKです。」
「は―、終わったあ・・・」
「ご苦労様でした。」
いすの背もたれにぐっと寄りかかるヒカリをセリナは笑って見つめた。
「おじさんはまだ忙しそうですね。」
「女王陛下の護衛でずっとついていなければいけませんからね。」
「ま、明日会えるからいいじゃない。」
「そうだけどさ・・・」
「? ・・・・エイムズに何か急ぎの用事でもあるのですか?」
「そうじゃないんですけど・・・」
「この甘えん坊はエイムズに甘えたいのよ。」
「タマモ!」
「けけけっ。」
「ふふふっ、伝えておきます。」
「もう、違うんですよセリナさん!」
セリナは書類をテーブルに置くと、ヒカリを改めて見つめた。
「ヒカリさん、ザンス王国にいらっしゃいませんか?」
「え?」
「・・・・・」
ヒカリはセリナの顔を見つめ返す。
「あなたの傷は現時点では治療する手段がありません。 でも私達の国はその治療法を研究中です。 ある程度の壊死の抑制ができますし、あなたの傷も治せるかもしれません。」
「・・・・・」
「7日に女王陛下が帰国する時、私も1時的にザンス王国に帰ります。 その時に一緒に・・・・あなたが望むなら、エイムズや他の人にも話しません。」
ヒカリは頬を緩めた。
「ありがとうございます、大使。 でも私にもいろいろあるので、返事は明日のパーティー以降でもいいですか?」
「もちろん、いつでも言ってください。 私が必ずあなたを助けます。」
「感謝します。」
ヒカリが差し出した右手を握るセリナ。 それを横目で見ながら、タマモは静かティーカップを口に運んだ。
PM00:21 白井総合病院1Fロビー
「先生、やはりまだベットで寝ていたほうがいいのでは?」
「何言ってるの、こんないい天気なのに外に出ないのはもったいないわ。」
美智恵を乗せた車椅子を押しながら、西条は自動ドアを出て日差しの中に出た。
「あ―・・・いい天気ねえ・・・」
美智恵は膝にのせていた西条からの報告書を額にかざして日をさえぎる。
「あら・・・?」
「!」
「2人共・・・」
「・・・・・」
美智恵と西条は駐車場から歩いてきたヒカリとタマモと鉢合わせた。
「・・・・どうも。」
ヒカリは軽くお辞儀をして通り過ぎる。
「あなたが何の依頼を受けていたかは知らないけど・・・」
美智恵は振り返ることなく口を開き、ヒカリは足を止めた。
「いつまでも隠し通せるものじゃないわよ?」
「・・・・・」
「あなたのご両親はだったら、私の言葉に従うわよヒカリちゃん。」
「・・・・・」
「意地っ張りは可愛いけど、限度があるってことを忘れないで。」
「・・・・・」
ヒカリの両拳がぐっと握られ、かすかに震えているのをタマモと西条は見た。 ヒカリはそのまま自動ドアを越えて中に入っていった。
「先生・・・・」
「まったく困った子ね、何が正しいかとかそういう判断がつきにくい年頃ではあるけど・・・」
書類を膝の上でとんとんっと揃える美智恵が顔を挙げた時、タマモの拳が目の前にあった。 ばきっ がしゃん・・・
「先生!?」
車椅子から殴り飛ばされた美智恵に駆け寄った西条は、歩み寄るタマモの間に割ってはいる。
「タマモ君よせ!」
タマモは西条を突き飛ばすと、頬を押さえている美智恵の胸倉を掴んだ。
「あんた何様のつもりよ。」
「・・・あ―ら、何が?」
「よせっ!」
タマモを後から羽交い絞めにする西条だが、タマモはさらに美智恵を締め上げる。
「あんたはいつもそうだ、そうやって何もかも見透かしたような態度で偉そうにして、全て自分の思い通りにならないと間違ってると思ってるんだ!」
「それは私が正しいと思うことをやってるからよ。」
「あんたは結局誰のこともわかっちゃいない。 自己満足の正義とやらに酔っ払って、勝手に人生謳歌してるんだっ!」
「あなたにはわからないでしょうけど、人間社会には正義が無くちゃ成り立たないのよ、それを実行できる人もね!」
「わかりたくもないわ! アタシがわかるのは、あんたは独りよがりの偽善者女で、人の心に付けこんで正義者ぶってる気に入らない奴だってことよ!」
タマモは左手で美智恵を持ち上げると腹に右拳を叩き込んだ。
「がはっ・・・」
美智恵は口から血をこぼし、タマモに投げ飛ばされる。
「先生!」
西条は美智恵を抱き起こすとタマモを睨み返す。
「タマモ君・・・・やりすぎだ、除霊処分を喰らうぞ・・・!」
「おもしろいじゃない。」
「僕だって先生の態度がいいとは思わない・・・! しかし先生の言うことも全部が違うと言うわけでもないだろう・・・!」
「アタシを消したいならいつでも相手になるわよ・・・?」
「よせ、僕達にそんなつもりは無い・・・!」
「あんた達はアタシを保護して正義ぶってるつもりなんでしょうけど、いい迷惑よ。」
「もうよせ!」
西条は美智恵を抱きかかえて立ち上がる。 入り口に向かう西条はタマモを通り過ぎる。
「少なくとも僕は・・・・僕はきみをそんなふうには見てない。」
「・・・・・さっさと行きなさい。 そんなんでも美神さんとひのめの親だからね。 恨まれるのもごめんだわ。」
「・・・・ヒカリちゃんに謝っといてくれ。」
「・・・・・早く行け。」
美智恵を抱えた西条が自動ドアを越え、タマモは空を見上げて立っていた。
PM01:14 白井総合病院屋上
ヒカリは屋上の入口のドアを背に、膝を抱え込んで座っていた。 顔は膝の中に抱え込まれ、強い日差しに焼かれながら動かなかった。
「ヒカリ。」
背中のドアの向こうからの声に、ヒカリは動かなかった。 タマモはドアを挟んでヒカリに背をあわせるようにドアに背をつけた。
「今日、夕子の所に行くのは辞めとこうか・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ヒカリ?」
「・・・・・」
「!? ヒカリ!」
どかっ タマモはドアを蹴り飛ばして開ける。 倒れこんだヒカリを抱き起こす。
「ヒカリ! しっかりしなさい!」
「・・・・・」
「ヒカリ――!」
PM04:38 白井総合病院特別病棟606号室(個室)
携帯を持ったタマモは窓の外に目をやりながら立っていた。
「はい、横島除霊・・」
「もしもし愛子? アタシ。」
「ああ、タマモちゃん。 何、どうしたの?」
「ん―、ちょっと今日帰れそうにないのよ。」
「何よ、何かあったの?」
「夕子がヒカリに泊まってけってうるさくてさ、今日は病院に泊まることになっちゃったのよ。」
「そっか・・・まあ、久しぶりに会ったんだし、ゆっくりするのもいいんじゃない?」
「ついでだからアタシも泊まるわ、小鳩も宿直で今日はここにいるらしいから。」
「わかったわ、あんまり迷惑かけないようにね。 ヒカリは?」
タマモは体を反転させて後のベットで寝ているヒカリに目を向ける。
「今夕子と散歩に行ってる。」
「そう。 あっ、そういえばあなた達のドレス、さっきクリーニングから帰ってきたわよ。」
「・・・・・そう、わかったヒカリに言っとく。 じゃあ。」
ピッ タマモは窓にもたれてヒカリの顔を見つめる。
「・・・・・」
かちゃっ
「検査の結果よ。」
ドアを閉めた小鳩はタマモに歩み寄った。
「・・・・どう?」
「内臓の負担・・・と言うより機能不全ってところね。」
「働いてないってこと?」
「今までは食道系だけですんでたけど、じょじょに他の器官に壊死が進行してきてるわ、全体として・・」
「わかったもういい。」
小鳩の手にしていたカルテを取り上げたタマモは煙の出る間もなくそれを焼き尽くした。
「・・・・・ザンス王国に来ないかって誘われてるんだって?」
「まあね・・・・ん・・・? 何で知ってるの?」
「セリナ大使来たのよ、ここに。」
「ふうん。」
「実際私ではもう、この子を助けてはあげられないわ。」
小鳩はいすに座って手を伸ばすと、ヒカリの前髪をやさしくかき上げた。
「少しでも助かる可能性があるなら・・・」
「・・・・・」
タマモはドアに向かった。
「どこ行くの?」
「上、風に当ってくる。」
「・・・・今は少しでもこの子の傍にいてあげたら?」
「・・・・・あとお願い。」
かちゃっ・・・・ぱたん・・・
これは 夢 ?
死にたくない
嫌だ 俺はまだ死にたくなかった
あいつめ 殺してやる
俺のだ 俺の金だ 誰にも渡すものか
何で 何で死ななきゃならない
いや 聞きたくない
ヒカリ 誰かを助けてあげるのがGSよ
いや こわい こわいよ
ヒカリは耳がよすぎる 俺たち以上に
今までなんともなかったのに どうして急に
ピートお兄ちゃん おんぶ
はいはい しょうがないな
にへへへへ
こわい たすけて 誰かたすけて
ヒカリ 何でここにいる
初めまして ヒカリ
誰
アタシはタマモ 狐よ
ヒカリ GSになれ お主には才能があるでござる
私 こわい
冥那ちゃんも涼介君も 大きくなったらGSになるの
おう
う〜ん 冥那まだわかんない〜
ひのめお姉ちゃん 怖いもの ある
私に怖いものはないわ ま 強いて言うならお姉ちゃんかな
ヒカリ これ お母さんからプレゼント
フルート ?
たたいま―
お父さんお帰りなさい
ヒカリ またフルート練習してたのか ?
うん
ヒカリちゃん フルート上手ね〜
ほんと 冥那ちゃん
タマモお姉ちゃん 私 ずっとフルートを吹いていたいな
いいんじゃない アタシもあんたのそれ 好きよ
ヒカリ 今シロから電話が来たわ あんたの親 死んだって
父さん 母 さん
私 高校行くの辞める GSになる
そうか 先生達も喜んでるでござるよ
ヒカリ あんたそれでいいの
タマモ 誰かいい人知らない
いるわよ 暇してる机が1人
社長 起きて 仕事よ
無理よ愛子 そんな簡単には起きないわ
眠い
ずっとこのままでいい
目が覚めなくたって 別にいい
このまま死んじゃったら 楽だろうな
眠い
このまま
父さん
母さん
・・・・・リ
誰 ?
・・・・カリ
誰よ 寝かせてよ
・・・ヒカリ
タマモ ?
それで いいの ?
8月2日 AM11:32 白井総合病院特別病棟606号室(個室)
「・・・・よくない。」
「目が覚めた。」
いすに座っていたタマモは読んでいた雑誌をぱしっと閉じてヒカリを覗き込んだ。
「全然よくないよ。」
ヒカリは上半身を起こしてベットから足を下ろした。
「もしかして寝ぼけてる。」
「起きてるわ、ばっちり。」
ヒカリは両手を突き上げると伸びをする。
「う――――っ、つああ・・・・よく寝た。」
「寝すぎ。 丸1日近いわよ。」
「さってっと、デートの準備でもしますか。」
「やれやれ・・・」
タマモはヒカリの肩に腕をまわして顔を覗き込んだ。
「・・・大丈夫?」
「大丈夫。」
ヒカリはタマモにVサインをして見せて笑った。
AM11:50 ザンス王国大使館
「くは―――・・・」
ベットに横になって伸びをしたエイムズは閉じた瞳をノックの音で再び開いた。
「はい。」
がちゃっ
「エイムズ。」
ぱたんっ 部屋に入ってきたセリナはベットの端に腰を下ろした。
「お疲れのようね?」
「もうふらふら。」
「・・・・・」
「何だ?」
寝転がったままのエイムズはまた目を閉じる。
「ヒカリちゃん。 いい子ね。」
「そうだろう? 母親そっくりだ。 美人になった。」
「・・・・・」
「何だよ、それを言いに来たのか?」
「・・・まあ、ね。」
「変な奴。」
エイムズはごろっと体を横にしてセリナに背中を見せた。
「悪いけどちょっと寝かせてくれ。」
「・・・・わかった。」
セリナはそっと立ち上がって部屋を出た。
PM00:55 白井総合病院5F診察室
「握ってみて。」
「おりゃあああっ。」
「こらこら、そんなに力入れない。」
ヒカリの左腕から手を離し、巻かれた管やら何やらを外した小鳩は計器をチェックする。
「うううん・・・」
「どうです?」
ヒカリは黒ずんだ左腕に赤いバンダナを巻きながら小鳩を見た。
「自分でも気付いてると思うけど、だいぶ動かしにくくなってるんじゃない?」
「そうですね、クラッチを握る反応が遅くなってきました。」
「バイク? 事故に会うわよ。」
「気をつけてます。」
小鳩はやれやれと頭をかいた。
「神経系がだいぶ切れてるわ。 触られても感じないところがあるんじゃない?」
「へへっ、実は、あります。」
「へへじゃないわよ。 できるならもう、バイクにも乗らないほうがいいわ。」
「・・・・善処します。」
「素直でよろしい。」
「・・・・霊波刀は出せますか?」
「!? 何言ってるの、駄目よ。 この間のでずいぶん侵食が進んだから、下手をしたら動かないどころか千切れるわよ?」
「あらら。」
「大体もう仕事は終わったんでしょ? 夕子ちゃんのことがあるにしたって、霊波刀なんて・・・・ !」
小鳩は立ち上がり、左手を見つめるヒカリの肩を掴んで揺すった。
「まだ何かあるの? そうなの・・・・!?」
「・・・・・」
「そうなのね・・・?」
「・・・・・」
「どうして・・・・・もっと自分を大事にしなさい!」
「してますよ・・・・・自分が1番大事ですから・・・」
笑って見つめ返してくるヒカリの瞳に、小鳩はすっと手を放した。 いすに座ってヒカリにくるっと背を向けた。
「・・・・・1回よ。」
「・・・・・」
「右手で1回だけ・・・・いいわね。」
「・・・・・」
ヒカリは立ち上がり、小鳩の背中にお辞儀をして静かに部屋を出た。
「よおヒカリ、終わったんか?」
「まあね。」
廊下でタマモとじゃれあっていた貧が、ふよふよとヒカリに寄って来た。
「えろう長かったな?」
「うん、疲れた。」
「はははっ、まあ、小鳩もあれで心配性やからな。 堪忍したってくれ。」
「わかってる。」
ヒカリはタマモの前まで来ると笑ってみせる。
「お待たせ、行こ。」
「ええ。」
PM01:48 白井総合病院第2病棟507号室(個室)
「すいません、ついさっきまで起きてたんですけど・・・」
眠ってる夕子の額をなぜるヒカリの後で佐山夫妻は頭を下げた。
「久しぶりに私達が一緒にこの子に会いに来れたので、つい話し込んじゃって・・・多分、疲れたんだと思います。」
「いいことですよ、これからもできるだけ時間を作ってあげてください。」
ヒカリは立ち上がると笑って言った。
「あなたにそう言っていただけて、ほっとします、」
「本当に大変な仕事をなさってらしたそうで・・・」
ヒカリは笑って答え、何も言わなかった。
「横島さん、これからもどうかお願いしますね。」
「お願いします。」
再び頭を下げる夫妻。
「じゃあね、夕ちゃん。」
ヒカリはかがんで夕子のおでこにキスをするとドアに向かった。
「よ、横島さん?」
がちゃっ ヒカリは閉める前に振り返った。
「私が来れなくなっても、その子の眼は必ず何とかします。」
「・・・・・」
かちゃん・・・・
PM02:56 六道邸
「ええ〜〜〜ん、ヒカリちゃ〜〜〜〜んっ!」
「ちょっとちょっと冥那ちゃん・・・!?」
応接間で座っていたヒカリに、ドアをインダラに乗ってぶち破った冥那は跳びついた。
「心配してたんだから〜〜〜〜〜〜!」
「よしよし。」
抱きついている冥那の頭を撫でるヒカリは、壊れたドアから入ってきた車椅子の冥子にお辞儀をした。
「へえええええええええんっ!」
「こらこら〜、少しは落ち着きなさい〜。」
笑っている冥子にタマモが近づく。
「いいじゃない、たまには。」
「でもね〜、あんまり泣きすぎると・・」
冥那の影がぐにょっと形を変え、式神が飛び出した。
「ええええええええ〜〜〜〜〜んっ!」
「ぎょへへへへへっ!」
「がうぉうぉうぉうぉうぉおおおおお―――――んっ!」
「ききいいいいいっ!」
「ぎょぎょぎょぎょぎょっ!」
「ぶひひひひ――――っん!」
ヒカリと冥那を取り囲んだ式神達は、冥那に合わせて一斉に泣き出した。
「・・・こうなっちゃうのよね〜。」
「うるさ・・・」
両耳を押さえるタマモと冥子。 ヒカリは泣き続ける冥那の頭を、ゆっくりとやさしく撫で続けた。
「ほんと、困った子よね〜〜。」
「・・・あんたとどっちが迷惑かしら?」
PM04:36 横島除霊事務所
「わあああお・・・!」
「へえええ・・・」
タマモと愛子の前に、赤いドレスに身を包んで部屋から出てきたヒカリは、タマモと愛子の前でくるっと回って見せた。
「・・・どうかな?」
ヒカリはドレスのすそを両手で掴んですっとお辞儀をしてみせる。
「綺麗・・・いいわよヒカリ。」
「ふふん、そお?」
「そうよ、これで会場の男はいちころよ!」
「そっ・・・そ―お?」
「そおよ! って、そのバンダナは何? 着けたままってのは変じゃない?」
「これはいいの、別に男の人によく見られたいわけじゃないしね。」
「あっ、そっか。 パーティーの後はデートだもんね――!?」
「ふふっ、まあね。」
「むふふ・・・今から楽しみね? 今日は帰って来なくていいわよお?」
「愛子ちゃん怪しい・・・」
「な――に言ってるのよ、ど――んと青春してらっしゃい!」
「はいはい。 じゃあ、一旦着替えるから。」
「え―、もったいない。」
「まだ早いしね。 タマモ手伝って。」
「ん。」
「あ、私洗濯の途中だった。」
鼻歌交じりにスキップする愛子を見送り、タマモと目が会う。
「どう?」
「いいんじゃない?」
「・・・・1度着てみたかったんだ。 母さんのドレス。」
「昔1度、それを着てるとこ見たことがあるわ。」
「・・・どうだった?」
「そんな感じよ。」
「そっか。」
ヒカリはもう1度くるっと回ってみた。
PM07:32 横島除霊事務所
「・・・・・」
「おじさん、口閉めて口。」
「あ・・・すまない。」
黒いスーツのエイムズは開いた口を閉じて咳払いをする。
「やれやれ、エスコートがそんなんでいいの?」
腕組みをし笑うタマモはジーパンと白いポロシャツでヒカリの後から顔を覗かせる。
「いや、あまりの・・・なんて言うか・・・・あれ、タマモ君その格好は?」
「ちょっと用事があってね、後から行くから気にしないで。」
「・・・そうかい? ちゃんと来てくれよ?」
「はいはい。」
「おじさん、母さんもこんなんでした?」
「ああ・・・・まあな。」
「ふふっ。」
「じゃあ、行くか。」
「愛子ちゃん、行ってきます。」
「頑張るのよヒカリ、いいわね!?」
「大丈夫。」
「何のことだ?」
「気にしないの。」
タマモはエイムズの背中を押し、ヒカリは愛子にVサインを残して事務所を出た。
PM08:56 都内ロイヤルプリンスホテル23Fパーティー会場
「ふう・・・」
後ろの方のいすに座ったヒカリは肩を下ろした。
「どうした?」
「お、馬子にも衣装君。」
タキシード姿の涼介が同じテーブルのいすに座った。
「大きなお世話だ。」
「全員と挨拶して回ったから疲れたわよ。」
「名誉なことじゃないか。」
「譲ってあげるわ。」
「もうすぐ勲章授与だと、行かないのか?」
「行ってらっしゃい、私は休憩。」
「そんなとこで寝るなよ?」
席を立って前の方の人だかりに消える涼介を見送り、時計に目をやる。
「・・・・・」
「わっ!」
「わあああっ!?」
「ふふんっ、驚いた?」
「タマモ〜・・・」
青いドレス姿のタマモは、今まで涼介の座っていたいすに座った。
「ごみごみしてるわね。」
「しょうがないよ。」
2人は前に目をやる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・おじさんとかにはもう会ったの?」
「まあね、すぐ戻らないといけないからって、挨拶回りだけはしてきたわ。」
「そっか。」
「・・・・・」
前の人だかりから歩いてくるキャラットに、ヒカリとタマモはいすから立ち上がった。
「楽しんでいただけてますか?」
「本当は、こういう雰囲気は少し苦手です。」
「ふふふっ。」
キャラットはいすに座り、ヒカリとタマモにも座るよう勧めた。
「本当ならあなた達にもこの場で感謝の意を示したいのですが、残念です。」
「お気になさらないでください、私達はそういうのを望んではいません。」
「そうそう。」
「いずれ、何らかの形で改めて御礼をさせていただきます。」
「もう、十分な報酬金は頂きました。 これ以上は頂けません。」
「ですが・・・」
「私達GSは依頼された仕事をすることしかできません。 シーラムのことはまだ全てが解決したわけではありませんが、私達ができることはもうありません。 ですから、もう十分です。」
「・・・そうですね。 これから何日も何年もかけて、私達はこの問題をずっと考えていかなければなりません。」
「私は・・・・私は母のように全てをなげうってそれに取り組むことはできません。 生半可な思いは邪魔になるだけです。 ですが、GSとしてなら、また依頼をお受けします。」
キャラットはヒカリとタマモの顔を交互に見つめた。
「・・・・・ありがとう。 あなた達に会えたこと、私はとても誇りに思います。」
「それで十分です、女王陛下。」
「勲章なんて邪魔なだけだしね。」
PM09:17 都内ロイヤルプリンスホテル21F御客様用控え室(横島様)
ヒカリは赤いドレスとヒールを脱ぎ、ジーパンを履き、シャツを着た。
「AX−1はこの裏側の通りのコンビニに止めてあるから。」
タマモは鍵をヒカリに投げて渡す。
「わかった。」
ブーツの紐をかがんで縛るのを、タマモはじっと見つめていた。
「よしっと・・・」
ヒカリは立ち上がって大きくゆっくりと深呼吸をした。
「じゃあ、タマモ・・・・・行くから。」
「うん。」
「後のこと、よろしくね。」
「わかってる。」
「・・・・・夕ちゃんのことも・・・」
「わかってる。」
「・・・愛子ちゃん、怒るよね。」
「怒るわね。」
「冥那ちゃん、泣いちゃうかな・・・・・?」
「泣くでしょ。」
「・・・・先生も・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・シロがさ・・・」
「・・・?」
「もしあんたと組んでたのがアタシじゃなくてシロだったら・・・・・あんたがそんな体になることなかったかもしれない・・・・」
「・・・・・タマモ・・・」
ヒカリはそっとタマモを抱きしめた。
「・・・・・ヒカリ?」
「私楽しかったよ・・・・タマモとGSができて。」
「ヒカリ・・・」
「タマモの代わりなんて・・・・・・誰にもできないわよ。」
「・・・・・」
「本当に・・・・ありがとう・・・・」
タマモもヒカリの背中に手を回して抱きしめた。
「後で迎えに行くから・・・・」
「うん・・・」
「・・・・・負けるな、ヒカリ・・・・・」
「・・・・・うん。」
溢れそうになる涙をこらえた。
PM09:38 東京都港区内(一般道路)
「!?」
路上に人影を見たヒカリは、AX−1を停車させる。 ライトに照らし出された人影は、銀色の髪を光らせ、鞘に収められた刀を担いでいた。
「・・・・先生・・・」
エンジン音だけが響く中、シロはヘルメットに覆われたヒカリの瞳を見つめた。
「・・・・・」
「・・・・・」
シロはおもむろに刀を下ろすと、ヒカリに向かってそれを放り投げた。
「!?」
がしっ ヒカリはそれを掴み、シロに目をやる。
「・・・・・」
「・・・・・」
ヒカリは腰の後のベルトに八房を刺すと、両手をハンドルに戻す。 ぶわんっ 黒いAX−1はシロの横を通り過ぎた。 その勢いで銀色に光る髪が舞い上がる。 シロは振り返ることなく、ヒカリのバイクは走り続けた。