ソフト・メモリー (GSひかり外伝)
前編
8月23日 23:30 横島除霊事務所
「・・・・・ただいま・・・っ!」
「あ、お帰りなさい――・・・・って、ちょっと?」
玄関で出迎えた愛子にヘルメットを押し付けたヒカリは、ずかずかリビングに入りどかっとソファーに寝転んだ。
「・・・・・お休み―――・・・っ!」
「・・・・はいはい。」
うつ伏せのまま目を閉じるヒカリに、愛子は苦笑し、リビングの明りを消し、ドアを閉めた。
「ただいま―。」
「あ、お疲れ様。」
玄関に入り、戸を閉めるタマモに、愛子はととっと歩み寄る。
「所長どうしたの?」
「ん、ああ・・・・ほらこれ。」
タマモはリュックから柄頭の弾けた神通棍を取り出し、愛子に見せる。
「あ〜〜・・・また壊れちゃったの・・・・?」
「これで記念すべき13回目の達成。」
「スペアのやつ持ってったんでしょう?」
「そっちは粉々にぶっ飛んじゃった。 で、仕方なく・・・」
「使う羽目になっちゃったのね・・・・・それで機嫌悪かったんだ・・・」
やれやれとため息をつく愛子はリビングのドアに目をやる。
「何? 不貞寝しちゃった?」
「しちゃいました。」
「しょ―がないな―・・・」
髪をかきむしるタマモは眉をひそめて廊下を歩く。 愛子もそれに続き、2人は静かにキッチンに入った。
「何か飲む?」
「水でいいわ。」
テーブルに突っ伏すタマモは、壊れた神通棍を転がし、指先でつついた。
「・・・・・」
「はいお水。」
愛子はグラスに入れた水をテーブルに置く。
「・・・・・」
「・・・・最近急に壊れるのが多くなったわね。」
愛子はタマモの向かいの席に座り、神通棍を手に取る。
「精霊石クウォーツって、結構お金かかるのに・・・・・・ま、また修理には出してみるけど。」
「悪いわね。」
上目使いのタマモに、愛子は笑った。
「いいのよ。 ヒカリの宝物だしね、これは。」
「宝物、ね・・・」
グラスに手を伸ばし、タマモは水を一気にあおる。
「美神さんがお祝いにくれたんだもの、きっとあの子一生手放さないわよ。」
「3年以上も同じ神通棍使うGSなんて、赤字もいいとこよ。」
「まあまあ。」
愛子は神通棍を指先でくるくる回す。
「GS資格を取ったお祝いにってくれたんでしょ?」
「ま―ね。」
タマモは水を口に含みながら、細い目で神通棍を見つめた。
― 約3年前 ―
7月2日 09:20 GS資格試験会場前
「ふわ――・・・・・」
人込みを目の当たりにし、ヒカリの口から長いため息が漏れた。
「どうだ、凄い数だろう?」
「これ、皆受験生なんですか・・・・・?」
ヒカリは後のシロにおずおずと振り返った。
「ま―な。」
「ひ――・・・・」
顔をしかめるヒカリに、シロは苦笑した。
「ま、緊張しないで気楽に行け。 お前なら上手くいけば、1次試験だけは受かるだろう。」
「『だけ』ですか・・・?」
「だけだ。」
シロはにこやかに笑ってみせる。
「はっきり言って、拙者はお前に教えることはまだまだまだ山ほどある。 霊力も全然足りんし、少なくとも後2年は修行させたかったんだが・・・」
「そんなに待てないよ〜・・・」
すねるヒカリにシロはべしべしその頭を叩いた。
「悪い悪い、今更愚痴るつもりはない。 受ける以上しっかり頑張れ。」
「はいっ! じゃあ、いってきます!」
「おう。」
ヒカリはリュックを背負い直して人込みの中へと足を進めるが、数歩歩いてシロに振り返った。
「あ、先生もお仕事頑張ってくださいね―!」
「あれ・・・・?」
頬を引きつらせるシロに、ヒカリはにっと笑って人込みの中へと走っていった。
「んん〜〜・・・・ばれてたか。」
シロはぼりぼり頭をかく。
「お―いシロっち。」
「誰がシロっちだ。」
ズボンのポケットに手を突っ込んで歩いてくるタマモに、シロはふんと鼻を鳴らす。
「ピートから伝言。 ちょ―っとばかし遅れると。」
「ん、わかった・・・・」
「どした? 師匠のあんたが緊張してんの?」
タマモのにやつく顔に、シロはぷらぷら手を振ってタマモの顔を押しやる。
「ヒカリにばれてたでござる。」
「あ―やっぱり。」
「やっぱりだぁ? お前喋ったのか?」
「あんたが顔に出やすいのよ。」
「お―いヒカリ――――っ!!」
「お――い。」
「ミキっ、ルリ・・・っ!!」
受付の長蛇の列に並んでいるヒカリに、長身の眼鏡と、小柄のおさげが近づいてきた。
「来てくれたんだっ!」
「と―ぜんよ、親友の晴れ舞台だもんね。」
「そんな大げさだよ。」
「またまた〜、横島の名が泣くぞ?」
ミキが肘で小突くので、ヒカリは苦笑する。
「私は父さんと母さんみたいに凄くなんかないってば。」
「何、緊張してんの・・・?」
「もうがちがちよ。」
「・・・・」
「大丈夫。」
ルリがすっとヒカリの手を両手で挟んだ。
「ルリ・・・」
「大丈夫大丈夫。」
そのままヒカリの手を上下にゆっくり振りながら呟いた。 ミキも笑いながら、手を伸ばしてルリとヒカリの手に自分の手を重ねる。
「「大丈夫大丈夫。」」
「・・・・ありがと、私頑張るよ。」
ヒカリは声を大きくして笑った。
「よっしゃ、その意気よ。」
「頑張れ。」
「うんっ!!」
「あ、そうそう。 ヒカリ、蒼葉君のこと覚えてる? 中2、中3と一緒だった。」
ミキの質問に、ヒカリはぴくっと耳を動かした。
「う、うん、覚えてるけど・・・」
「なんかさっき見かけたのよ。」
「えっ、ここで・・・!?」
「ねえ?」
「うん。 確かに蒼葉君だった。」
ルリもしっかりと頷く。
「そうなんだ・・・・」
「まさか、蒼葉君もGS試験受けるのかしらね?」
「ありえる。」
「でもあの無愛想野郎に、霊感なんかあるとも思えないんだけどな〜。」
「ミキ、それは偏見。」
「・・・・」
盛り上がる2人に、ヒカリは目を細めて押し黙った。
「おっと、話がそれちゃったわね。 ともかく頑張りなよヒカリ、2次までいかないと私ら見られないんだから。」
「カメラ持ってきたから。」
「・・・・お? あ、うん、頑張るよ。」
10:15 試験会場付近、某喫茶店
「・・・・・・」
「あ、シロさん遅くなりましたっ。」
からんっという入口のベル音に、顔を挙げたシロは駆け寄ってくるピートに軽く手を挙げた。
「どうだった?」
「すいません、特に目新しいことは何も・・・」
ピートはシロの向かいに座った。
「天回衆・・・・か。」
シロはテーブルの上に広げた資料を手にする。
「タマモさんは?」
注文を取りに来たウェイトレスにコーヒーを頼み、ピートはほっと一息つく。
「会場を見回ってる。」
「そうですか・・・・・」
ピートは窓の外に目をやり、そこから見える武道館の屋根を見る。
「よりにもよってヒカリちゃんもこんな時に試験に臨まなくてもいいのに。」
「ふっ、トラブルに巻き込まれるのはGSの常でござるよ。」
「それはそうなんですけどね・・・」
「ヒカリのことはとりあえずいい。 落ちても受かってもあいつはいいGSになれる。 今は目の前の問題に集中しないと、ICPOもお払い箱になるでござるかな?」
「・・・・わかってます。」
からんからんっ
「あ、シロちゃん、ピートさん。」
「おう、かおり殿こっちこっち。」
店内に入って来たかおりに、シロはぶんぶん手を振った。
「お久しぶりです、ピートさん。」
かおりは席を奥に詰めたシロの隣に座る。
「お久しぶりです。 すいません、雪之丞君になかなか会いにいけなくて。」
「いいんですよ。 いい歳して甘えん坊なんですから。」
「お忙しい中呼び出してしまってすみませんでした。 人手がどうしても欲しくて。」
「何言っているんですか、いつでも頼ってください。」
コーヒーを運んできたウェイトレスに、かおりはオレンジジュースを頼んだ。
「それで、私は何を・・・?」
「時間がないのでざっと説明しますね。」
ピートは資料をかおりに向けて広げる。
「天回衆、というのを聞いたことはありますね?」
「ええありますわ。 最近GS候補生を育成している流派ですね。 今年六道女学院に入った生徒にも、その手の教えを受けてる子が多いようですが・・・」
「大きな声では言えませんが・・・」
顔を近づけるピートに、かおりも耳を寄せる。
「その天回衆、オカルトアイテムを違法に使用している疑いがあるんです。」
「そうなんですか?」
「チャクラ・バレットと言う霊力増幅剤があっただろう?」
シロは背もたれに寄りかかりながら言う。
「・・・確か、春にオカルト条例がらみで裁判沙汰になった薬ではないですか?」
「はい。 GSにはチャクラ供給剤として、一般の人には病気や怪我で衰えた体力を取り戻す回復剤として使用されていたやつです。 ですが実際には人によって効果が得られなかったり、副作用が激しく・・・・・場合によっては死に至ります。」
「でも、それで製造中止になったはずでしたわね・・・?」
「なりました。 ところが薬が作れなくなった会社が、今度は急にGS育成に乗り出してきた・・・・・たった数ヶ月の訓練で1流GS並みの霊力を持った候補生を育てているんです。 元々はオカルトアイテムを中継するだけの会社が・・・・・おかしいでしょう?」
「いきなりすぎますね・・・・」
「だろ?」
資料を睨むかおりに、シロはにやっと笑った。
「恐らく、候補生にチャクラ・バレットを使ってるんでござるな。」
「摘発できないんですか?」
かおりの視線に、ピートは眉をひそめる。
「チャクラ・バレットは体内にその痕跡がのこらないんですよ。 見鬼君や霊視ゴーグルでも特定は難しく、嗅ぎ分けるのも不可能に近いです。 使用したかどうかは、副作用が現れるかどうかで判断するしかありません。」
「証拠が掴めないと・・・・?」
「あなたの言う通り、六道学園をはじめ、多くの若い候補生が既に使用しているようなんですよ・・・・・そんなことは見のがせない・・・っ!!」
「拙者達はその証拠を掴まないといけないが、それにはまだ時間がかかる。 だが、チャクラ・バレット使用の疑いのある候補生に資格を与えるのはなんとしても避けたい。 本人に使用の痕跡が出ない以上、それによる資格剥奪はできんでござるからな。」
「分かりますが、どうするつもりですの? 直接資格を剥奪できないのに・・・・・あ、まさか・・・」
かおりは目を見開く。
「資格試験に潜り込む気ですか?」
「それにはちょっと無理があるんですよ・・・・・天回衆の候補生は総勢約200人・・・・それだけを阻止するには、プロを何十人も送り込まないと・・・」
「ですよね・・・・・」
「そこで、もっと大胆な手を使う。」
「大胆な手?」
にやにやしているシロに、かおりは聞く。
「除霊騒ぎを大々的に引き起こして資格試験自体をぶっ潰す。」
「そ、それは・・・・・いくらなんでもやりすぎではありませんの?」
「僕は反対したんですけどね・・・・」
ピートはハンカチで汗を拭きながら苦笑する。
「それに、ヒカリちゃん試験受けにきてるのでしょう? いいのシロちゃん?」
「いいも悪いもない。 他に方法はないんだ仕方ないだろう?」
「ピートさん、GS教会に掛け合えないんですの?」
「教会内でも天回衆への判断はもめているんですよ・・・・・会社だった頃はそれなりの教会の資金源で、チャクラ・バレットでいい思いをした人も、随分いるんです。」
「上は当てにならん。 だから、これはあくまで拙者らの独断だ。」
「えっ、じゃあ、Gメンとも・・・・?」
「はい、無関係です。」
かおりはわおっと呟く。 オレンジジュースが運ばれてきて、かおりはそれを手にする。
「でも除霊騒ぎで試験を潰したりしたら・・・・・いいんですの?」
「ばれなきゃいいんでござるよ。」
「笑顔で言うセリフじゃないと思いますわよ?」
「と、ともかくそんな訳なんです。 手を・・・・貸してくれますか?」
「ふ――・・・・仕方ありませんね。」
「じゃあ・・・」
「手伝わせて頂きますわ。 私だって、若いGSに変な道は歩ませたくありませんもの。」
「ありがとうございますっ!!」
『え―、これより1次審査を始めます。 ナンバーを受け取った方は係員の指示に従って順に置くに進んでください。』
「あ、ほんとにいた・・・!」
人込みの流にあわせて歩きながら、ヒカリは緑がかった黒髪の少年に駆け寄る。
「あ―おば君っ!」
「よ、横島・・・・っ!?」
振り返った少年に、ヒカリはにぱっと笑う。
「久しぶり。」
「・・・・お前、ここで何してるんだ?」
「それはこっちのセリフだよ。 なんで蒼葉君が資格試験にいるのよ?」
「・・・・・関係ないだろ?」
「1年ぶりに会ったクラスメートにそれはないんじゃない?」
無視して歩く蒼葉に、ヒカリは後からついていく。
「さっきね、ルリとミキにあったんだ〜。 あ、覚えてるでしょ? 杉原留美子と岡谷美紀。」
「ああ・・・」
「すっかり華の女子高生になっちゃっててさ―。 そう言えば蒼葉君も高校生なんだよね? 学校どう? 楽しんでる?」
「おい。」
「ん?」
振り返った蒼葉の細い目に、ヒカリは首をかしげる。
「お前・・・・親が死んだからGSになろうってのか? 卒業前は死人みたいな顔してた奴が。」
「やだな―、恥ずかしいから思い出さないでよっ!」
ヒカリは笑って蒼葉をべしべし叩いた。
「お前は他の霊能者とは違うと思ってたのにな・・・・・残念だよ・・・」
「あ、ちょっと・・・!」
足を進める速度を速めて言ってしまう蒼葉に、ヒカリは頭をかいてふんっと息を漏らす。
「相変らず難しいやつ・・・・」
ヒカリはそのまま流に沿って歩き、スピーカーで呼び出されるナンバーに注意しながら1次試験会場に向かった。
『え―では足元のラインに横1列に並んでください。』
審査員のずらっと並ぶ長机の前に並んだ候補生は、各々両足を開いて構えた。
『では、1次審査を始めます。 各自、自分の霊波を見せてください。 合図するまでやり方は自由です。 質問がある人は・・・・?』
ヒカリは左右をきゅろきょろ見ながら、すはすは深呼吸して両足でぐっと立つ。
『では、始めっ!!』
「は――――っ!!」
「おりゃ――――っ!!」
「うんだら―――――っ!!」
「ひいっ!?」
左右で溢れかえる霊霊波に、ヒカリはびっくりしてたじろいた。
(な、なにこれっ!? 皆こんなに凄い人ばっかりなのっ!? こんなのかないっこないよ〜〜〜〜っ!! 先生どうすればいいの〜〜〜っ!?)
『1045番、何してる? さっさと始めろっ!』
「は、はいっ!!」
ヒカリはびくっとなって全身から霊波を搾り出した。
「・・・・・なんだあれは? 全然霊力が足りんな。」
審査員の1人が霊波計をヒカリに向けながら眉をひそめる。
「失格にしますか?」
「そ―だな・・・」
「いや待てっ、これを見ろ。」
別の審査員が手元の履歴書を見せる。
「彼女はあの横島夫妻の娘さんのようだぞっ!」
「横島っ!? あの、横島忠夫と、横島キヌの・・・・っ!?」
「うむ、もう少し様子を見よう・・・」
審査員達はヒカリを見守りながらも、他の候補生達を次々と追い返していった。
「うっき――――っ!!」
歯を食いしばるヒカリはしかめっ面で全身を震わせて霊波を放つ。
(ま、まだやるの・・・・っ!? これじゃあ、受かってもそのあと1歩も歩けないよ〜〜〜っ!! お腹減るし体はだるいしっ、もう、なんでもいいから早く終わって〜〜〜っ!!)
ヒカリの顔はだんだん真っ赤になっていった。 3分の2ほどの候補生がぞろぞろ退出して行く中、審査員達は再びヒカリに視線を集めた。
「どうでしょうか・・・?」
「あまり変化はないようだが・・・・・」
霊波計がかたかた小刻みに針を動かす。
「まだ、様子を見ますか?」
「どうだろうな・・・・・これ以上は無駄なのでは・・・・?」
「そ―だな、仕方ない。」
審査員はスピーカーを握る。
『あ―、1045番、失格だ。 帰っていいぞ。』
「ぶは・・・・っ!!」
糸が切れるようにぶつっと霊波が途絶えると、ヒカリは目をぐるぐる回して倒れこんだ。
『お、おいキミっ! 救護班っ、救護は―――んっ!!』
「は〜〜い・・・・あれっ?」
ショウトラを伴っててけてけ駆けてきた冥那は、ぶくぶく泡を吹いて倒れているヒカリを見つけて真っ青になる。
「きゃ―――っ、ヒカリちゃんヒカリちゃんど――したの――――っ!!? 死んじゃ駄目―――――っ!!」
「あばばば・・・」
がくがく冥那に揺すられ、ヒカリは白めを向き、赤い顔を青くしていった。
12:40 試験会場内医務室
「・・・・・・?」
ヒカリはベッドの上でそっと目を開く。
「ここは・・・」
「ヒカリちゃん――――っ!!」
ごすっ
「ぐは・・・っ!」
「よかったよ〜〜〜〜ええええ〜〜〜〜〜んっ!!」
口から血を吐くヒカリに構わず、冥那は頬をごりごり押し付けて泣きじゃくった。
「ベ、べいばぢぃやんっ! いばいいばい・・・っ!!」
『くけ――――っ!!』
『ばるるるるっ!!』
『んぼ〜〜〜〜〜っ!!』
医務室いっぱいに飛び出て泣きながら合唱する式神らに、他のスタッフは耳を塞ぐ。
「ええいやかましい―――――っ!!」
ざしゅずしゃごすっ!! 青い霊波刀を振り回し、シロは式神を冥那の影に叩き込んだ。
「ほれ、もう泣くな冥那。」
「う、うん・・・」
シロがぽんぽん冥那の頭を叩くと、冥那はぐずぐずっと鼻をすすりながら涙を拭いた。
「先生・・・・」
「ヒカリ・・・・・・・や―――っぱり落ちたでござるな。」
「うぐっ!」
にんまり顔のシロに、ヒカリは言葉を詰まらせた。
「だ〜から言ったんでござるよお前にはまだ早いって。」
「だって〜〜・・・」
高飛車な声になるシロに、ヒカリはシーツの裾を噛む。
「また明日から地獄の特訓でた――っぷり鍛えてやるでござるからなっ!」
「ひいいいいいいっ!!」
シロはけらけら笑った。
「お―いシロ、そろそろ。」
「ん? おう今行く。 ヒカリ、今はゆっくり寝ておくんだ。」
「は〜い・・・」
入口から顔を覗かせたタマモに、シロは入口から出て行った。 タマモは腕組みしながらヒカリを見つめる。
「落ちたんだって?」
「タマモお姉ちゃ〜ん・・・・」
「ま、明日からまた1年間地獄の特訓頑張ってちょ―だい。」
「ううっ・・・・いじわる・・・」
「けけけっ。」
ひとしきり笑い、タマモも出て行った。
「は―あ―・・・・」
頭の上で両手を組むヒカリに、冥那がおずおず近寄った。
「んとね〜、ヒカリちゃん〜・・・・・お母様が言ってたんだけど〜、1回くらい試験に落ちても〜、くよくよしちゃ駄目なんだって〜。」
「冥那ちゃん・・・」
「人は〜、挫折を経験して大きくなるんだって〜〜。 だから〜元気出して〜〜ね〜〜〜?」
「・・・・うん。」
「ところで〜、『挫折』ってど―いう意味なの〜〜? 冥那わかんない〜〜。」
「こ、この天才娘・・・」
「ヒカリちゃんも〜、いっぱい挫折するといいと思うわ〜〜〜。」
「意味わかって言ってんのっ!!?」
笑顔の冥那に、ヒカリは歯をむき出した。
13:06 2次試験会場、客席
「た、大変なことになりましたよっ!!」
「何が?」
「どうした?」
「ピートさん?」
並んでお茶をすすっているタマモ、シロ、かおりの元に、ピートが息を切らして走ってきた。
「こ、これ1次試験突破の参加者リストなんですけど・・・」
ピートの持ってきた紙を3人は覗き込む。
「何か変?」
「さあ・・・・?」
あくび交じりのタマモに、かおりは首をひねる。
「ちょっと待て、これは・・・」
「何?」
シロは口元を抑える。
「気付かんか? 128人中、115人が天回衆の流派でござるっ!!」
「あらら。」
「予想はしてましたが、まさかここまでとは・・・・」
ピートはぐっと拳を握る。
「これがチャクラ・バレットの効果・・・・・」
「凄いは凄いが、こんなものだからこそ服用者に資格を与えることはできんっ!」
「そうですわね。 では・・・?」
「明日・・・・実行しますっ!! いいですね?」
ピートの鋭くなるまなざしに、女3人は頷いた。
15:53 2次試験会場、客席。
「そっか・・・・・落ちちゃったんだ。」
「ごめん。」
肩を落すミキに、ヒカリはぺろっと舌を出した。
「せっかく応援に来てくれたのに、ごめんね・・・」
「・・・・・せっかく来たのに・・・」
「ミ、ミキ・・・?」
わなわな肩を震わせて顔を落すミキに、ヒカリはおろおろする。
「ご、ごめんね、そのっ・・・・」
「あんたが落ちたら・・・・・」
「あの・・」
「賭けは私の負けじゃないのよ――――――っ!!」
拳を振り上げるミキに、ヒカリはがんと椅子に頭をぶつけた。
「ミキ、往生際が悪い。」
「くうう〜〜〜今月のバイト代が・・・っ!!」
すっと差し出されるルリの手に、ミキは泣く泣く財布から出した1000円札を数枚手渡した。
「ちょっと―――っ、親友の試験を賭けのだしにするっ!?」
「いいじゃない別に・・・」
「そおそお。」
「だいたいルリっ、あなた私が落ちるほう賭けるってどういうことよ――――っ!?」
「だって分かれないと賭けにならない。」
「ひ、酷い・・・・私達の友情は偽りだったんだ・・・・」
「そんな大げさな。」
膝を抱えていじけるヒカリに、ミキとルリはぽんぽん肩を叩く。
「ほら、帰りにたこ焼きおごってあげるからさ。」
「そ、そんなのじゃ騙されないわよ・・・!?」
「鯛焼きもつける。」
「しょ、しょ―がないな―・・・・許してあげるか親友としてっ!!」
((安い・・・・さてはたいして落ち込んでないな・・・?))
すっくと立ち上がるヒカリに、ミキとルリは苦笑いをした。
「それより、蒼葉君の試合はまだみたいね?」
「うん、まさかヒカリが落ちて蒼葉の奴が受かるた―驚きだわ。」
「だからそれは偏見。」
柵から身を乗り出す3人は、試験会場内を見渡す。
「あ、あれじゃないっ!?」
ミキの指差すコートに、蒼葉と法衣をまとった男が入った。
『さあっ、本日の第一試合も既に4分の1が終了しましたが、どうですか役珍さん?』
『そうあるね・・・・ここにきて、改めて天回衆という流派の凄さが露呈されたあるな。』
『天回衆と言うと、元はオカルトアイテムの貿易会社でしたよね・・・?』
『今年になってGS育成に乗り出したようあるが、1つの流派でここまで多くの候補生が出揃うなど非常に珍しいある。』
『そうですね、もしかしたら、今年の新人GS全てを埋めるかもしれません。 さて、そんな中で天回衆には属さない候補生ももちろんいます。 では、5番コートに注目してみましょうか?』
コートの中にたった蒼葉と法衣の男はお互いお辞儀をする。
「ねえヒカリ、天回衆ってそんなに凄いの?」
ミキが隣のヒカリを突付く。
「私もよくは知らないんだ・・・・先生達が何か調べてたみたいなんだけど・・・」
「あ、始まった。」
か――んっ びゅびゅんっと額に霊力が集まり、法衣の男の額から第3の目が開かれた。ばしゅっと幾つもの帯となって飛び散る霊波に、蒼葉は飛び退く。
『おお――っとすさまじい霊圧ですっ! 蒼葉選手、反撃の余裕がありませんっ!!』
耐えることなく飛び交う霊波に、蒼葉はごろごろ転げ回った。
「だ、大丈夫かな・・・?」
「大丈夫よ、蒼葉君だもん。」
「何でそんなことわかるのよ?」
「何でって・・・」
(人間じゃないから、とも言えないし・・・)
ミキの視線にヒカリは言葉を詰まらせた。
「愛の力?」
「えっ!? やっぱりそうだったのヒカリっ!?」
「ちょっ、何言ってるの違うよっ!! ルリも変なこと言わないでよっ!!」
「クラスの噂だったのに・・・」
「そ、そんな噂があったのぉ!?」
ばきゃんっ!!
「あっ。」
「お。」
「え?」
『おお―――っと強烈なストレートだ――っ!! 蒼葉選手の右ストレートが天尺選手にヒ―――ット!! 立ち上がれませんっ! 蒼葉選手1回戦突破だ―――っ!!』
「行くよ、ヒカリ。」
「えっ、ど、どこに? たこ焼き屋?」
「何寝ボケてんのよ? 蒼葉君とこよっ!!」
「ええ――――っ、ちょっとちょおっと〜〜〜っ!!」
ミキに腕を引かれ、ルリに背中を押され、ヒカリはずんずんと階段に向かって走らされた。
「お―い蒼葉く―ん!!」
「お―い。」
「!」
帰ろうとしている蒼葉を、ヒカリの両腕を片方ずつ引っ張ってミキとルリが駆け寄った。
「・・・・・よお。」
「っか〜〜相変らずクールだね〜〜。」
ミキで肘でげしげし小突かれ蒼葉は顔をしかめる。
「何か用か?」
「何かとは何よ―? 1回戦突破おめでとうって言いに来てやったんじゃない。」
「別に頼んでない。」
無視して行ってしまおうとする蒼葉に、ルリはヒカリの背中をどんと押した。 勢いあまってヒカリは蒼葉にぶつかる。
「わわっ!」
「何だ・・・っ!?」
「あ、えと・・・・」
睨まれ、ヒカリはばたばた手を振る。
「じゃあヒカリ、ごゆっくり〜。」
「頑張れ―。」
「な、何を〜〜〜っ!?」
手を振り笑顔で去って行く親友2人に、ヒカリは『待って―』と手を伸ばすが、2人は風のごとく消えていった。
「・・・・何なんだ?」
「う、あっ、いやその・・・」
(もう〜〜変なこと言うから意識しちゃうじゃないのっ!!)
細い目をますます細くして見てくる蒼葉に、ヒカリは視線をあちこち泳がせながらも赤くなった。
「んとっ・・・・1回戦突破、おめでとう・・・・っ!!」
「・・・・・」
「や、やっぱり凄いよね蒼葉君っ、私とは大違いって言うか・・・」
「・・・・・」
「わ、私なんて1次審査で引っくり返っちゃってさ、あは、あはははは・・・・っ!!」
「・・・・・」
(な、なんとか言ってよ〜・・・・)
冷や汗だらだらのヒカリに、蒼葉はぼそぼそ口を動かした。
「・・・・歩くか?」
「・・・うん。」
先だって歩き始める蒼葉に、ヒカリは慌てて続いた。
「ほほ〜・・・・これは意外な場面に遭遇したでござるな〜。」
シロとタマモとかおりとピートは試験会場の柱に隠れながらその様子を覗き見ていた。
「ヒカリちゃんの彼氏かしら?」
「ぼ、僕のヒカリちゃんが・・・」
「いつからあんたのになったよ?」
「よし、尾行開始でござるっ!!」
「って、ちょっとシロさん明日の準備はっ!?」
「それはそれっ、これはこれっ!! 弟子の色恋沙汰を把握するのも師匠の務めでござるっ!!」
「「意義なしっ!!」」
「ああっ、皆さん・・・・っ!!」
音もなく走って行く女3人に、ピートは置いてきぼりにされてしまった。
「ん?」
走るシロは、同じ方向に走る少女を2人目にする。
「あれは・・・」
「どしたシロ?」
シロは走りながらミキとルリに近づく。
「や―っぱり。」
「え?」
「?」
笑顔でジャンプして近づいてきたシロに、ミキとルリは走りながら顔を見合わせた。
「確か、ヒカリの友達の・・・・・ミキにルリだったか?」
「ああ――っ、シロさんじゃないですかっ!!」
「こんちは―。」
ぱっと顔を輝かせるミキとルリに、シロはよっと手を上げる。
「ヒカリの応援に来てくれたのか?」
「ええまあ・・・」
「すまんなせっかく来てくれたのに・・・・・師匠として情けないでござる。」
「いえいえそんなっ、それより今は・・・」
「おっとそうだった。 むっ、止まれっ、隠れろっ!!」
ざざっとブレーキをかけ、シロはミキとルリの頭を押えて茂みに伏せた。
「あの男を知ってるか・・・?」
シロは茂みの隙間からベンチに座っている蒼葉とヒカリを見る。
「中学の時のクラスメートで、蒼葉くら君です。」
「ほほ―・・・」
鼻をぴくぴく動かしながらシロは目を細めた。
(妖怪・・・・? 爬虫類っぽいが・・・・なんだ?)
蒼葉はヒカリを見ることなく、目の前の道路を走る車を見ながら口を開いた。
「何でGS試験なんか受けるんだ? お前・・・・祓い屋なんかにならないって、言ってたろう?」
「そう・・・・なんだけど、さ・・・」
ヒカリは視線を落としたまま答える。
「フルート・・・・止めたのか?」
「えっ? ・・・・・もう、随分触ってないなぁ・・・・」
「そうかい・・・」
「蒼葉君こそ、何でGS試験なんかに出てるの?」
「さ―な。」
視線を空に移し、蒼葉は大きく仰け反った。
「覚えてるか・・・・? お前、俺が蛇かって放課後聞いてきた時があったろ?」
「・・・・ああっ! あの時・・・」
―回想―
「ねえ、蒼葉君・・・・ひょっとして蛇?」
「・・・・・・」
沈みかけた日の光が差し込む教室で、箒を手にしているヒカリが机を運ぶ蒼葉に声をかけた。
「や―っぱり。 ねえ、何で学校なんか来てるの? 好奇心?」
「お前・・・・霊能者か?」
「うん、父さんと母さんがGSでさ。 私もちょっとその才能があるんだ。」
がたんと机を置き、蒼葉はヒカリと向き合う。
「俺を退治しようってのか・・・・?」
「? 何で?」
「霊能者ってのは、交戦的なタイプだから・・・・・・・・なっ!」
突き出した右腕がどしゅっと伸び、それがヒカリの首を引っ掴んで黒板に叩きつけた。
「いだっ!? ちょっと、ギブギブっ!!」
手足をばたつかせるヒカリに、鱗に覆われた蒼葉の右腕から爪が伸び、ヒカリの首に食い込んだ。
「ちっ、また転校手続きかようっとうしい・・・・・田舎も駄目なら都会も駄目かよ? まあいい・・・・・お前を消して俺も去らせてもらう・・・・・あれ?」
既に泡を吹いて気絶しているヒカリに、蒼葉はゆっくりと腕を放した。
2時間後
「・・・・・あれ?」
「起きたか?」
ばっと起き上がったヒカリは机の上からがちゃんっと転げ落ちた。
「いった〜・・・・あれ? ここどこだっけ?」
「教室だ。」
「ああ――っ!? もう外真っ暗じゃないっ!!」
窓に駆け寄って悲鳴を上げるヒカリは、次に蒼葉を見て叫んだ。
「こ、こんな時間に私を気絶させて何する気っ!? それとももう何かしたのっ!? 言っとくけど、私の父さん怒らせたらかなり危ないから早いとこ逃げたほうがいいよっ!!」
「うるっせえな落ち着けよ。 何にもしてない、するつもりもないっ!」
机に座っている蒼葉は吐き捨てるように言う。
「それはそれで何か口惜しいなあ・・・・私って、魅力ないかなぁ・・・・?」
「おい。」
「何?」
「お前本当にGSの娘か・・・・? お前みたいな出来損ない初めて見たぜ。」
「いや〜それほどでも・・・」
「何故照れる? 馬鹿にしてるんだぞ?」
「私・・・・GSになるつもりないからさ。」
ヒカリは窓にもたれながら暗いグランドに目を落す。
「それがいいだろうな。 お前レベルじゃ祓い屋なんてなっても死ぬだけだ。」
「だよね―・・・・・いいんだ別に。 私はやりたいことがちゃんとあるもん。」
「何だ?」
「んふふ―、気になるのかな?」
「そこまで知りたかないさ。」
「あ―っ、ちゃんと聞いてよね!? 私ね、私、フルートのプロになりたいんだっ!」
「そういや吹奏楽部だっけか・・・・?」
「うんっ、いろんな国で、いろんな人に私のフルート聞いてもらって、それでっ、私のフルート聞いてもらった人が元気になってくれたらな―って思うんだ。」
「ご立派ご立派。」
ぱらぱら拍手する蒼葉に、ヒカリはむくれた。
「あ、馬鹿にしてるわね・・・・?」
「誉めてんじゃんか。」
「じゃあ、蒼葉君は将来どうするのよ? 学校来てるんなら、蛇でもちょっとは考えてるんでしょ!?」
「お前こそ馬鹿にしてるじゃないかよ・・・・俺は・・・・」
「俺は?」
「・・・・人間には関係ないだろ?」
「あ、ずるい。」
「さっさと帰れ。 子離れできない親父さんが血相変えて迎えに来る前にな。」
「そうしよっかな・・・・で、蒼葉君のやりたいことって?」
「お前もしつこいな。 何でそうまで聞きたがる?」
「・・・・・お互い霊力がある同士じゃない? 知りたいのよ。 ひょっとしてGSになりたいの?」
「まさか。」
「だったらなおさら聞かせてよっ。」
「お前がフルートのプロとかになった、教えてやるよ。」
「よ―し、約束だよっ!?」
―回想終了―
「で、約束とやらは破棄されたわけだ・・・」
「・・・・・」
ヒカリは視線を落としたまま押し黙っていた。
「まあいいさ。 俺にはどっちでもいいことだ。」
蒼葉は立ち上がる。
「横島。」
「何?」
「お前・・・・・・いや、なんでもない。」
「蒼葉君っ!」
歩き出す蒼葉に、ヒカリは立ち上がった。
「明日も応援に来るからさっ、頑張ってねっ!!」
ぷらぷら手を振りながら歩いて行く蒼葉に、ヒカリは笑った。
「う〜〜っむ・・・・おもしろいことになってきたでござるな。」
「そお?」
「やっぱりヒカリちゃんの彼氏なの?」
「クラスの中では結構いい関係じゃないかって噂になってましたけど・・・」
「2人共まだ子供だから。」
「って、あんたが言う? 同い年でしょが!?」
「同い年ね・・・・」
ヒカリが行ってしまうと、シロは立ち上がった。
「ま、いいさ。 じゃあな2人共、気を付けて帰れ。 またいつでも遊びに来てやってくれ。」
「はい、行くよルリ。 ヒカリ追っかけないと。」
「慌てなくてもたこ焼き屋は逃げない。」
ミキとルリはシロ達にお辞儀をし、ヒカリの歩いていった方に走っていった。
「・・・・あれ、人間じゃなかったわね。」
「ああ。」
タマモが伸びをしながら言う。
「妖怪との恋か・・・・・素適ですけど、ヒカリちゃんもそっちに気が多いのかしら?」
「先生の子でござるからな。」
からから笑うシロだが、その笑いは直ぐに止まり、呟く。
「第2試合まで進んだのは64人・・・・・そして・・・」
タマモがメモ帳を広げる。
「そのうち天回衆が63人、そうでないのが1人。」
「その1人が、まさか彼だなんて・・・・」
「これは楽し・・・・いやいや、波乱の予感でござるな。」
腕組みをするシロに、タマモは笑った。
「そお? アタシは面白くなったと思うけど?」
「こら、拙者があえて口に出さずに我慢してるというのに・・・・っ!!」
「あんたの心を代弁してやったのよ、感謝しなさい。」
「ほ―ら2人共、今は戻って、ピートさんと明日の準備をしましょう。」
ぱんぱんと手を叩くかおりに、シロとタマモも歩き出した。
16:35 試験会場武道館駐車場付近
「これはこれは、オカルトGメンのピエトロさんじゃないですか。」
「っ!? 天回さん・・・」
金色とオレンジ色のきらびやかな法衣をまとい、耳たぶがやけに長い男にピートは刺そうとしていた車のキーを戻して軽く会釈する。 天回の傍らには黒いスーツ姿のサングラスをかけた男女が無言で立っている。
「どうですかな? 我が流派の新人達は?」
「凄いですね・・・・1つの流派でここまで多くの人が試合を占めるなんて、きっと史上初ですよ。」
「はっはっは、いやいやたいしたことじゃありませんよ。 少しでも世のためにと、皆頑張って修行しただけです。」
「そう・・・・でしょうね・・・」
睨むピートに、天回は軽く笑った。
「あなたは正直な人だ・・・・・我々を快く思ってないようですが、それは違います。」
「何がですか?」
「知っているでしょう? GSが増え、強くなるほど対する悪霊や妖怪も強くなる。 我々人間には常に新しい力が必要なんですよ。」
「そうでしょうか? 僕には、あなた達は急ぎすぎてるんだと思えますけど?」
「それはあなたがハーフで長い生を持っているからですよ。 それに比べ私達はあまりにか細い・・・・」
「・・・・・・」
「そんな気持ちが、あなたにはわかりますまい?」
「わかりませんね。 むしろ、僕があなた達人間を羨ましく思っているなんて、あなたもわからないでしょう?」
「・・・・・」
「・・・・・」
鋭くなる天回の眼光に、ピートは体中から霊波を膨れあげさせ睨み返す。
「失礼、言い過ぎましたね。」
「いえ・・・」
「いずれまた、ゆっくりとお茶でもご一緒しましょう。」
「ええ、いずれ・・・・」
軽く会釈をして歩いて行く天回を、ピートは視線を逸らすことなく睨み続けていた。
20:20 マンション、横島宅
「で、ど―なんだヒカリ? ええっ!?」
「だ―から違いますって!」
ビールを片手にシロはヒカリに絡んで酒臭い息をぶはっと吹きかけた。
「好きなのか? 好きなんだろ? 好きなんでござるな〜〜?」
「お、お姉ちゃん助けて〜〜〜っ!!」
「白状せんと特訓メニューを2倍に増やすでござりゅりょ〜〜〜〜!!」
「それじゃ寝る時間ないじゃないですかっ!」
がたんとソファーから転げ落ちるヒカリとシロを無視し、タマモとピートとかおりは会場の図面をテーブルに広げていた。
「吸魔護符の設置ポイントはこの4つ・・・・・会場全体を取り囲むようにします。」
「中身は何ですの?」
「Gメンが除霊した低級霊ですけど・・・・1鬼だけ、強めの奴を使います。」
「ま、ザコを一気に片付けちゃったら試験を潰せないしね。 死人が何人か出ればいいと思うんだけど?」
「それじゃあ、僕ら全員掴まっちゃいますよ・・・・」
「あたしは逃げるけどね。」
「タマモさんっ!?」
「冗談よ。」
かおりとピートに睨まれタマモはぺろっと舌を出す。
「そんなことよりも、アタシが悪霊に化けたほうがいろいろやりやすいんじゃない?」
「ああ、そうですわね。」
「でもっ、下手したらタマモさんが・・・」
「あんな3つ目もどきの50人や100人ぐらいは平気よ。 最悪アタシを犯人にしちゃえば面倒も少ないしさ。 そうすればいいじゃない。」
「賛成でござるな。」
赤い顔したシロがタマモの隣に割り込んで座る。
「そのほうが間違って客席の人を殺すこともない。 低級霊だけなら会場の面子でも十分だ。」
「それは、そうですが・・・」
言葉を詰まらせるピートに、タマモはシロの手からビールを引っ手繰ってぐっと煽る。
「あんたの仕事・・・・と言うか今回の目的はチャクラ・バレット服用の疑いのある者に資格をとらせないことでしょう? そして今や9割は資格をとったも同然。 試験を潰すことだけあんたは考えてればいいのよっ!」
「・・・・そうですね、では、ここはタマモさんの案でいきましょう。」
「ちょ、ちょっと・・・・試験を潰すって、何の話ですかっ!?」
ヒカリがテーブルに駆け寄ってきた。
「何だヒカリ、聞いてたのか?」
「ここ私の家ですよ!?」
「「「「・・・・・」」」」
4人は顔を見合わせた。
「誰よここで作戦会議するって決めたのは?」
「ピート殿だ。」
「僕のせいにしないでくださいよシロさんでしょうがっ!?」
「そうですわ、ヒカリちゃんの彼を問い詰めようって意気込んで・・」
「それはかおり殿でござろうっ!?」
「ヒカリ―、ビールもうない?」
ばんっ!! 両手でテーブルを叩くヒカリに、4人はびくっとなって口を止める。
「・・・・・順番に説明してください。 ピートお兄ちゃん・・・・?」
「は、はい・・・っ! えっと・・・・実はねヒカリちゃん・・・」
おほんっと咳払いをし、ピートは両手を重ね合わせて口を動かした。
・・・・next.