GSなやつら

著者:うめ


序章


アシュタロスの一件から、数ヶ月後・・・・・・
破壊された町の復旧もほぼ一段落し、人々は普通の生活に戻りつつあった。
以前と変わらぬ町並み、以前と変わらぬ生活、あれほどの事件があったことなどまるで嘘のように世界は平穏を取り戻している。
しかし、何かおかしい・・・・・
人々は口には出さないが、この世界に違和感を感じていた。
確かに人々は以前と同じ生活を送っていた。
あの騒動の中心だった美神達も、以前と同じように騒ぎを起こしている。
タマモや銀一など新たな出会いもあった。
しかし何かおかしい。
人々は以前と同じように見える世界が、とてつもなく変質しているように感じていた。
以前と変わらないように見える世界で、人々は時折ある考えを頭に浮かべる。
この世界はもう長くはないのではないかと・・・・・・・・・・
人々は慌ててこの考えを振り払い、何事もなかったように以前と同じ生活を始める。
何事もなかったように・・・・・・


第1章


暗闇の中、横島は近づいてくる足音に全神経を集中させていた。
あと10mで目標が自分の前を通りかかる。
全てはタイミング、失敗は許されない。
あと5m、全身を緊張が走る、あと3m、2m、1m「今だ!」
横島は勢いよく飛び出し目標に抱きつこうとする。「うらめ・・」
「この、ど外道!」その目標は突如姿を現した幽霊姿の横島に驚きもせず、すかさず神通棍でしばき始める。
美神令子であった。
「文化祭のお化け屋敷でセクハラ三昧とは何考えているの。」ゲシ、ゲシ、ゲシ
「大体、なんであんたがおキヌちゃんのクラスを手伝っているの。」ビシ、ビシ、ビシ
「客足が遠のいて、おキヌちゃん困ってるのよ。」グリ、グリ、グリ。
とどめとばかり、神通棍を突き立てグリグリやっている美神に、
「美神さん、もとはといえば私が頼んだことですし、もうそれぐらいで・・」
と、巫女姿のキヌがいつものように止めにはいる。
1分程静観を決め込んだのは、やはりおキヌにも横島の振る舞いは目に余ったらしい。
六道女学院は文化祭期間であった。
女子校の文化祭でお化け屋敷?初めて聞いた人は大抵、違和感をおぼえる。
しかし、おキヌの高校は霊能科を所有するオカルト教育のメッカ、六道女学院であった。
そこでは、お化け屋敷は文化祭に代々伝わる伝統行事であり、毎年必ず代表のクラスが企画、運営を行っていた。
(噂では、六道家当主が受ける試練の儀式がルーツらしい。)
いろいろあって、今年はおキヌのクラスが代表となったわけであるが、
困った問題が1つだけあった。
いつの頃からか、このお化け屋敷にカップルで入ると、
その二人の仲はより深まるというジンクスが流れ始めたのである。
おキヌのクラスメートにも、脅かし役よりは客として入りたいという者が多数現れ、
結果、脅かし役が足りないという事態になってしまった。
そこで、横島の出番となったわけである。
脅かし役どうしとはいっても、お化け屋敷にペアで入ることには変わりないので、
おキヌにしては横島との仲を前進させるうまい手を考えたのだが、
人並み以上に煩悩の発達した横島にとって、脅かし役=さわりたい放題の図式が
成り立つことまでは気が回らなかった。
こうして、お化け屋敷ならぬセクハラ屋敷が誕生したのである。
お化け屋敷の入り口付近では、「二人の幸せのために、私、我慢する」と
涙を浮かべる女生徒や「君をそんな目に合わすわけにはいかない」と
手をしっかり握っている男子生徒が多数おり、
縁結びには多少役だっているようだったが、
客足はここ数年の最低記録を確実に更新する勢いであった。
「女子高生の魔力がわいを狂わしたんやー」
美神の足下でぼろぼろになった横島が呻いている。
「おキヌちゃん!この馬鹿になんてことさせるの。今回は偶然私が通りかかったから良かったものの・・・」
横島を踏みつけたまま、美神がおキヌに矛先を変える。
「偶然〜?」
突然、冥子が現れ会話に加わる。
「令子ちゃんね〜、私が〜電話で〜横島君が脅かし役やってるって言ったら〜すぐに〜」
「と、とにかく、客足の最低記録は冥子が脅かし役をやった年の記録なの、身内にそれ以上に恥ずかしい記録を作らせるわけにはいかないのよ。」
美神は顔を赤らめ弁解じみたことを言った。
冥子の脅かし役が、プッツンの連続だったことは容易に想像がつく、案外カップルのジンクスはこの年から始まったのかも知れない。極限状態ほど愛は育つものである。
「初めから私に相談してくれたら、低級霊入りのロボットぐらい都合つけてあげたのに。」
「美神さん、この前それで遊園地つぶしかけたじゃないですか!」
復活した横島がすかさずツッコミをいれる。
「うっ、うるさい。大体あんたが評判落としたんでしょ。責任とりなさいよね。」
痛いところをつかれ、すかさず話題をもとにもどす美神であった。
「フッ、客を呼べばいいんでしょう。」
男前度3割り増しで横島が余裕の笑みを浮かべる。
「僕にはドラ○もんの四次元ポケットに匹敵する卑怯アイテムがあります。」
横島は右手に念を込めると、大山○ブ代の物まねで、「文珠〜」と叫んだ。
横島の右手には「招」と書かれた文珠が握られていた。
が、物まねは全く似ていなかった。気まずい沈黙が続いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ピシッ、文珠に亀裂が入り霊気が漏れ始める。
「横島君、これって・・・・」
美神がおそるおそる声をかける。その間も霊気はどんどん漏れだしている、
「えーっと、暴走しているみたいです。最初の頃はよくあったんですが・・・・」
横島が無責任に答えている間にも、霊気漏れの勢いは強くなっている。
「何しているの、はやく投げ捨てて。」
美神の指示に、ようやく横島は教室の隅に文珠をなげ捨てる。
ちゅどーん!
この世界ではめずらしい爆発音で文珠は爆発した。
かなり大きな爆発だったにも関わらず、教室の窓やお化け屋敷の内装は壊れなかった。
そのかわり、爆発の煙がわずかに残る教室の中心に見慣れぬ人影があった。
まず目についたのは、トラ柄のビキニを着た少女だった。
少女のすぐそばには平凡そうな男子高校生と白い学生服を着たオールバックの高校生、その後ろには、白衣を着た美女が立っていた。
見つめ合ったのはほんの一瞬、すぐに双方に動きが生じる。
「おねーさーん」
平凡そうに見えた男が、満面の笑みを浮かべ美神に抱きつこうとする。
「おねーちゃん」
横島がトラ柄のビキニ少女に飛びつく。
全く同じタイミングだった。全く同じ行動だった。ならば結果も同じに決まっている。
「なんなのあんたは!」
美神の神通棍で男ははじき飛ばされた。はじき飛ばされた男の手がサバラだったのに何人の者が気がついたか。
「なにするっちゃー」
トラ柄娘の電撃が横島を黒こげにする。
「おまえも、うちのダーリンになにするっちゃ」
さらにトラ柄娘は美神に電撃をあびせた。トラ柄娘の頭には角があった。
「鬼!」
美神は間一髪で電撃をかわすと、精霊石のイヤリングを鬼娘に投げつける。
精霊石の爆発に視界を奪われた鬼娘に、すばやく吸引札を貼り付ける・・・はずだった。
ツッー
美神にはじき飛ばされたはずの男が、美神の背中を人差し指でなぞっていた。
あまりの唐突さに神通棍と吸引札を落とす美神。
すかさず男は、美神の体を軽々と抱きかかえ一目散にお化け屋敷から逃げだした。
「えーと・・・」
あまりのハイスピードな展開についていけず、冥子が何かしゃべろうとする。
「早くおいかけるっちゃー」
視界を回復した鬼娘が、お化け屋敷から飛び出す。鬼娘は空中を飛んでいた。
「あーん、令子ちゃんまって〜」
つられて冥子もお化け屋敷から飛び出す。
後には、黒こげの横島、すっかりパニック状態のおキヌ、オールバック、白衣の美女が残された。

「あいつと同じ行動をするやつに初めてあった。正直に答えろ、ここは何処だ。」
ようやく意識を回復した横島に、オールバックが日本刀を突きつける。
人に命令しなれている者のみが持つ雰囲気をその男は持っていた。
「・・・・おまえに似たヤツを一人知っている、俺はそいつが嫌いだ。」
横島は霊剣ジャスティスの持ち主を思い出しながら、右手に霊波刀を作り出す。
二人の間に殺気が急速に膨らむ。
「やめておけ」
白衣の美女が初めて口を開いた。
「あいつと同じ行動をするヤツからなど、大したことはきけまい。それよりおぬし」
すっかり固まっているおキヌに話しかける。
「その服装からすると、わしと同じく巫女に関係するものらしいな。」
「え、あなたも巫女なんですか」
おキヌの緊張がゆるむ。
「実家が神社でな、今は学校の保健室で働いておる。」
白衣の美女は、おキヌの緊張をほぐすように話しかける。
「どうやらわしらは、ちとめんどくさいことに巻き込まれたようじゃ。
話の分かる者の所まで案内してくれんか。」
おキヌは少し考えてから、
「わかりました、美神さんのお母さんなら、なんとかしてくれる思います。」
と答え、白衣の美女をつれてお化け屋敷をあとにした。
お化け屋敷に残されたのは、刀を突きつけ合う横島とオールバックの二人。
男しかいない状況に気づきオールバックが絶叫する。
「暗いよー、狭いよー、怖いよー」と



第2章


美神と男を追いかけていた鬼娘と冥子であったが、追跡劇はあっけなく片が付いた。
美神と一言二言会話した男が美神を解放し、次の目標を冥子に定めたのだ。
後はおきまりのプッツンがおき、式神があたりをなぎ払う。
美神と鬼娘はまきこまれて気を失ったが、いつの間にか男の姿は消えていた。

美神事務所
一名を除いた関係者全員と美神美智恵が集まっている。
「そろそろほどいてくれませんか。」
ロープでぐるぐる巻きにされたオールバックが口を開く。
暗所恐怖症の閉所恐怖症の発作中に横島に縛られたらしい。
「こんなヤツ縛ったまんまでいいですよ。」
横島が悪態をつくが、その横島自身しめ縄でぐるぐる巻きにされている。
「お前に言われたくはない、会ったばかりの人にいきなり抱きつくか普通。」
オールバックが言い返す。
おキヌの巫女衣装を借りた白衣美女に抱きついた結果であった。
「うっ、・・・」
言い返せない横島であったが、懲りずに横目で巫女姿の美女をみる。
「しかし、同じ巫女姿でもおキヌちゃんにない色気がたまら・・」
「色気がなくて悪かったですね。」
おキヌが引きつった笑顔で横島をにらむ。
「ああ、また思っていることをしゃべってしまった。」
おキヌちゃんの清楚な魅力も捨てがたいなどと、フォローになっていない弁解をする横島を尻目に巫女姿の美女が口を開く。
「全く何から何まで、あいつと同じことをするやつじゃ。
ここまで同じ行動をとるとは、偶然とは思えん。」
「その通りです。」
ようやく美智恵が重い口を開いた。
「現在調査中ですが、あなたがたは別な世界から迷い込んできたとしか考えられません。
しかも、こちら側と非常によく似ている世界から・・・・・・」
美智恵はさらに続ける。
「結論から言います。もとの世界に帰る方法がわかるまで、
極力この世界との接触を避けてもらいます。」
「冗談じゃないっちゃ!そんなことしてたら、絶対ダーリンは浮気するちゃ!」
鬼娘が反論する。
「そんなにもてそうに見えなかったぞあいつ」
横島が再び悪態をつき、周囲から(人のこと言えるか)という意味の視線をあびた。
「ダーリンは、物の怪にはなぜかもてるっちゃ・・・」
鬼娘が心配そうにつぶやくと、一同の視線が再び横島に集中する。
美智恵が机からはなれ、鬼娘の方へ歩き出す。
「不思議ね、あなたを見ていると昔の自分を思い出すわ。」
思い出すのは公彦との追いかけっこか、美智恵は鬼娘の肩に手をかけ微笑みかける。
「大丈夫、あなたの大切な人は私たちがすぐに見つけだします。」
美智恵は、横島を振り返るとにっこり笑って。
「横島君、おねがいね。」と、有無を言わさない口調で言った。
このあたりは、さすがに親子であった。
「なんで、俺一人なんですか?美神さんやおキヌちゃんは・・・・・」
あわてて抗議する横島に、先ほどから黙っていた美神がピシャリと言う。
「相手は、あんたと同じくらいの煩悩の持ち主なのよ。女性があたるのは危険だわ」
結局、横島にはこれを覆す理屈を見つけられなかった。
数分後、横島一人の探索チーム?を送り出し、一同は解散する。
捜索に出かける前に横島が、あの男と何を話したのか美神に質問すると、
美神はつまらなそうに「住所と電話番号聞かれただけよ。」と答えた。

美智恵一人が残された事務所に小竜姫が現れる。
「これで、良かったんでしょうか・・・・」
美智恵が小竜姫に話しかける。
「わかりません、ただし、神界・魔界のトップは今回の事件がこの世界の行く末に大きな影響を与えると予想しています。今は静観すべきだと。」
小竜姫は自嘲気味に、
「神界も魔界もアシュタロスの穴を埋めるので精一杯なんです。」
「知ってましたか、アシュタロスの穴を埋めるために横島さんを魔族にして後を継がせようという計画もあったんですよ。」
美智恵の目が点になるが、小竜姫は気にせず
「そんなにおかしくもないんです。倒した張本人ですし、魔族になればルシオラさん復活の可能性も・・・・・。一時は真剣に検討されていたんです。ただ・・・・・」
「ただ、なんです。」
この話に興味をもった美智恵が先を促す。
「魔族になった横島さんが、大魔界トーナメントとか開いちゃうと流石にまずいんでボツになっちゃったんです。」
美智恵はひどく疲れを感じ、産休あけの復帰を考え直そうと決心した。


第3章


横島は疲れていた。
当てもなく東京中を探し歩いたが、手がかりすら見つけることができなかった。
時間は深夜0時を回っており、捜索をあきらめてアパートに戻ると、
「よう、遅かったな。」
探していた相手は、横島のアパートでくつろいでいた。
呆然と立ちつくす横島だが、不思議と自分のエロ本を見て、毛が見えるなどと騒いでる男を怒る気になれなかった。部屋へ上がりちゃぶ台の向かい側へ座る。
「なんで、俺の住所が分かった。」
「ん、あのネーチャンが教えてくれた。ま、俺としてはまんまと騙された訳だけど。」
美神が教えた住所は、横島の住所だったらしい。
特に怒った風もなく男は、エロ本を脇にどける。
「しかし、この世界は極楽だな。エロ本はすごいし、女生徒のスカートは短い。消費税というのがいただけないが・・・・」
男はコンビニ袋から缶ビールを取り出し横島に渡す。ビールはまだ冷たかった。
「よく金があったな。」
横島が疑問を口にする。
「なぜか、俺がもといた世界と金が同じなんだ。多少物価は違うが・・・」
そんなものかと横島が思い、受け取ったビールを飲み始める。
本部への連絡は明日にしようと思っていた。
「自分が別の世界から来たって知っているのか。」
「ああ、初めてじゃないからな。」
男はポテトチップの袋を開けながら答える。
「あいつとは何回か違う世界に迷い込んだ、一人だったらいろんなネーチャンと知り合えるのにな。」
あいつとは鬼娘のことだろうと横島は思ったが、その件については何も言わず。
「ここ以外の世界ってどんなところだ。」
ポテトチップに手を伸ばしながら横島が質問する。
「ここの前に行った世界には、約束とかで東大めざしているヤツがいたな。」
男はつまらなそうに答え、ビールを開ける。
「あまり楽しそうな世界じゃないな。」
とたんに興味を失ったのか、横島は飲みかけのビールに口をつけた。
「かわいい、女の子に囲まれてだぞ」
ブシッ、横島の手が飲みかけのビール缶を握りつぶした。
「うっ、うらやましすぎる。その世界への行き方を教えてくれぇぇぇ」
掴みかからんばかりに興奮している横島に、男は聞こえないように
「(俺もお前も似たような状況にいるじゃねえか)」とつぶやいた。

空き缶の数も増えかなり酔いが回ってきた頃、横島は男にからみ出した。
横島は鬼娘に対する男の態度に、昔の自分を重ねてしまっていた。
自分を好きといってくれた娘に、何も答えてやれなかった自分を。
「なぜ、あの娘にやさしくしてやらない。」
それは、以前の自分に対する台詞でもあった。
「いつまでも、側にいてくれるとはかぎらないんだぞ。」
泣き上戸らしく横島は涙目だった。気まずい沈黙が続いていた。
「俺が優しくないかどうかは別として・・・・・・」
男が沈黙を破る。
「大分前に迷い込んだ世界だが、知り合ったヤツが戦ってばかりいてな、
終いには神様より強くなりやがった。強さが見事にインフレをおこしてるだろ。」
横島はギョッとして男の方をみる。男は更に続けた。
「ガールハントのついでに、この世界のことは調べた。お前がこの世界を救ったって?
神様並みに強くなって。」
目の前の男が、急に年上になったように横島は感じた。
「世界ぐらい、俺だって救ったことがあるぞ。鬼ごっこでだけどな。」
男は横島にビールを渡し笑いかけた。

それから横島は男に聞かれるままに、今までのことを話した。
美神のこと、おキヌとのこと、いくつもの出会いと戦い、そしてたった一つの別れのこと、それは長い長い物語だった。
そして現在、何事もなかったように世界は元通りなったと、横島は話を終わらせた。
全てを話し終わった頃には、すでに夜は明けていた。
男は黙って横島の話に耳を傾けていた。
横島は手にもったルシオラの結晶をじっと見つめている。
その目には今だ割り切れない、苦悩の光があった。
「(なかったことになんか、出来るわけないじゃないか。なあ、ルシオラ・・・・)」
横島は胸の内で、語りかける。
二人ともしばらく無言であった。酔いはもうだいぶ醒めている。
「東大めざしているヤツの話はしたな。」
男が何かを決意したように話し始める。
「あの世界に迷い込んだとき、そいつ東大に受かっちまってな、目標っていうか、
勢いっていうかそんなもんが無くなってきてたんだ。」
頭を掻きながら男は横島に近づく。
「どーも俺達は、そういう世界に呼ばれちまうらしい。
まあ、ドタバタやっている内にもとの世界に帰れるけどな。」
男は横島の前にしゃがみ込んだ。
「どうやらこの世界に必要なドタバタが見えてきたよ。未熟者。」
男は素早く横島からルシオラの結晶を奪い取ると、窓際に足をかけ、
「鬼ごっこの始まりだ。返してほしかったら俺を捕まえてみろ。」
そう言って窓の外に飛び出した。


第4章 


「キ、貴様ァァァ」
横島はものすごい形相で男を追いかけた。
男が持ち去った物は、横島の命の次に大切な物だった。
かって横島を愛した女、横島の命を救い散っていった女、
その女の復活ためにどうしても必要な結晶であった。
「返せ、それは俺の大切な・・・」
横島は男に飛びつくが、紙一重でよけられてしまう。男は天性の逃げ足を持っていた。
「遅いわ、未熟者。」
男はさらに遠くへ逃げよとする。
慌てて追いかける横島の耳に男の声か届く。
「決着が付くと終わってしまうものがあると、気づかんヤツには返せんな。お前は急ぎすぎたんだ。」
なんのことか分からないまま、横島は男を追いかける。
何故か文珠を使う気にはならなかった。
自分の足のみで男を捕まえる、そのことに重大な意味があるような気がしていた。
長期戦を覚悟し、横島はバンダナをまき直し、男を追いかける。
事実、数時間後も鬼ごっこは続いていた。東京タワーに舞台を変えて。

美神事務所
東京タワーの鉄骨を登っている2人組がTVの臨時ニュースで流れると、
事務所の窓から一人の人影が飛び出していった。人影はトラ皮のビキニを着ていた。
美智恵は鬼娘を見送った後、全員に事務所への集合を呼びかける。

東京タワー
鉄骨を二人の男がよじ登っている。
「ルシオラは俺の子供としてしか復活の見込みがないって、美神さんが教えてくれたんだ。」
汗まみれの横島が男に追いつこうとする。
「あのネーチャンも女だねぇ。本人は意識してないんだろうけどな。」
男は揶揄するように言いさらに続ける。
「方法なんかいくらでもあるんだ。理由は後付でどーにでもなる。ただし、
肝心のお前があることに気付きさえすればだけどな。」
二人はどんどん登っていき、展望台まで後わずかのところまでたどり着いた。
男は数メートル下の横島を振り返り話しかける。
「最後にヒントをやろう。アシュタロスというやつも逆らえなかったものがあっただろう。お前は知っているハズだ。」
男は鉄骨の上に座り込んだ。
「少し時間をやろう。俺の満足する答えが返ってきたらコレは返してやる。しかし、」
男は横島を睨んだ。
「つまらん答えをした場合、お前には絶対捕まらん。」
男はきっぱりと言い切った。

横島は考えていた。
あの事件の後、自分たちも必死になって復活させようと考えてみた。
しかし、どの方法も完全な復活は不可能だった。
唯一の望みは、美神が提案した横島の子供への転生であった。
目の前の男は、それ以外の方法を横島に伝えようとしている。
しかし、その方法は横島自身が気づかなくてはならないらしい。
「(決着がつくと終わってしまうもの。)」
「(美神さんのアイデアが女らしい。)」
「(アシュタロスでも逆らえなかったもの)」
横島は男の言った内容を思い返していた。
(アシュタロスが逆らえなかったもの)、これに関してはすぐに思いつくことが出来た。
宇宙の反作用というヤツだ。細かいことは解らなかったが、とにかく宇宙の意志に反した者には逆風が吹くということだった。
その証拠に、一斗缶やバナナの皮ですらアシュタロスの障害となったではないか。
(美神さんのアイデア)、これに関しては横島にも思うところがあった。
この方法ならば、多分ルシオラは復活できるだろう。
ただし、恋愛対象ではなく横島の娘として。
この点に横島は不満を感じていた、しかし、恋愛対象としてのルシオラの復活は不可能なものと割り切ろうとしていた。
(決着がつくと終わってしまうもの)、ルシオラが復活することによって終わってしまうものがあるのだろうか。
横島は今までに生き返りに近いことをやった者たちを思い出す。
美神令子はコスモプロセッサーによって復活した。
おキヌの死は擬似的なものだったので復活できた。
ベスパはルシオラよりも先に散ったのに復活できた。
グーラーに関しては横島本人が文殊で復活させた。
美神美智恵に関しては憤慨モノである。死んだことが嘘だったのだから。
「(何で俺を愛してくれた女だけ、復活できないんだ・・・・・・)」
「(アシュタロスを倒して迎えに来る俺を、あいつはここで待っているはずだったのに。)」
待っていてくれれば、二人の生活を遅れるはずだった。
一緒に夕日を見て、一緒に暮らして、一緒に年重ねていく。
「(何故、あいつだけ・・・・・・)」
あいつだけ?横島は何かに気づいた。
ルシオラが復活すると終わってしまうもの、ルシオラと他の者の違い、宇宙の反作用。
「ま、まさか・・・」
横島のなかで、徐々にある考えがまとまていく。

展望台のすぐ下の鉄骨で二人は対峙していた。
「答えは解ったか。」
男が横島に問いかける。
「・・・・・・・・・・・・すれば、ルシオラは復活するんだろ。」
横島は自分の考えを口にした、その顔には苦悩の色が浮かんでいた。
「やっと判ったか、未熟者。」
男は横島に笑いかける。
横島はきつく拳を握り男に問いかける。
「あんたも同じなのか。」
横島の問いに、男は黙ってうなずく。
「あの娘はどうなるんだよ!」
耐えきれず横島は大声で怒鳴った。
「あんなにあんたのこと好きで、あんたのこと考えてくれている娘に・・・・・」
横島は言葉に詰まり、絞り出すように言った。
「いつ愛しているって言ってやるんだよ・・・・・」
「そんなこと、決まっておろうが。」
男は不適な笑顔で笑いかけ、こう言った。
「いまわの際に言ってやるんだ。」
突然、男はタワーより飛び降りる。人の名前のようなものを叫びながら。
横島はとっさに文珠で助けようとするが、その必要はないことにすぐに気づく。
「ダーリン」
あの鬼娘が、落下中の男をキャッチし上昇してくる。
その光景を見て、横島は二人の関係を理解できたような気がした。
「展望台の上に置いておく。」
これだけ伝えると、男は鬼娘に抱えられながら上昇していった。
あの日、ルシオラの最後の場所に結晶はある。
横島は、文珠を使った。

いつの間にか夕方になっていた。
夕日に照らされた展望台の上に横島はいた。
ルシオラの結晶は、あの日のルシオラと同じ場所に置かれていた。
まるで横島を待っているように。
横島は結晶に歩み寄り、直前で足をとめる。
そして、上空に止まっている鬼娘の方へ大声で問いかける。
「あなたは、それで幸せですか。」
鬼娘は横島の問いに言葉ではなく笑顔で答えた。とびきりの笑顔で。
その笑顔をみて横島は結晶に向かって歩き出す。
横島の姿にもはや迷いはなかった。
夕焼けの光をあびて横島は立っている。手にはルシオラの結晶。
横島は結晶を夕日に透かして見る。
夕日の中にルシオラの姿が浮かんでいた。
「待たせたね。」
目を細め夕日の中のルシオラに話しかける横島。
「おまえの復活方法がわかったよ。」
だまって横島の言葉に耳を傾けるルシオラ。
「夕日だって何度でも一緒に見ることができるんだ・・・・・だけど・・・」
ルシオラは黙って横島を見ている。
「おまえが考えていたような生活はできないかも知れない。」
ルシオラは少し悲しそうな顔をする。
「俺と鬼ごっこをするような毎日になると思う。あの二人のように・・・・」
横島は上空に浮かぶ二人を見上げた。永遠の鬼ごっこを続ける二人を。
「それでもいいかい」
ルシオラはにっこりうなずいた。
横島は決心を固め、二つの文珠に気を込める。「復・活」と。
以前もこの方法を試さなかった訳ではない。この方法では、何も起こらなかったのだ。
しかし、今回は違う。異世界からの訪問者がヒントを教えてくれた。
文珠の効果がルシオラの結晶に作用する瞬間、横島は大声で叫ぶ。
「俺は誰の物にもならん、世界中のいい女は俺のもんやー」
派手にコケるルシオラ、その姿は実体化していた。
「横島〜、せっかく復活した女に最初に言う台詞がそれ。」
ルシオラは怒ったように横島に近づく。
すかさず「飛」の文珠でその場を離れながら横島は同じ台詞を繰り返す。
「俺は、誰の、物にも、うっ・・・、ならん、・・・・」
しかし、涙にむせる横島にはそれ以上言えなかった。
ただ、ひたすらその場から逃げようとする。
「ちょっと、待ちなさい横島。」
ルシオラが横島の後を追いかけ始める。
新しい鬼ごっこが始まった。


終章

横島、ルシオラが去った後の東京タワー
「この世界での役割は終わったな。」
鬼娘に抱えられながら男はつぶやいた。
「あの二人これからどうなるっちゃ」
男におぶさるような形で空中に浮かんでいるため、体を密着させ耳元でささやく。
「わからん、あいつが誰に捕まるにせよもう少し時間が必要だろう。」
男の表情は見えないが、多分やさしい顔で浮気者の後輩を眺めているのだと鬼娘は思った。鬼娘はこの男の優しさが好きだった。
「そろそろ元の世界にもどれそうっちゃ。」
二人の輪郭が夕日にぼやけはじめ、やがて消えていった。

同時刻、美神事務所
「どうやら一段落ついたようじゃ。」
ずっと祈祷をしていた巫女姿の美女がつぶやく。
TV中継のおかげで、ことの次第は全員が知っていた。
もちろん、ルシオラ復活のことも。
「どうやら、もとの世界に戻れそうです。」
オールバックが西条に握手を求める。こちらはこちらで色々あったらしい。
美神事務所のみんなに見送られながら、二人は消えていった。
後に残ったのは、西条、小竜姫、美神美智恵、シロとタマモ
そして、ルシオラ復活に複雑な心境を隠せない美神とおキヌ。
空気を察してか、小竜姫が話を始める。
「黙っていましたが、実は、現在もアシュタロスの影響が残っていたんです。」
一同が小竜姫のほうを向く。
「もちろんアシュタロスは滅んでいます。世界は元に戻るはずでした。」
小竜姫はさらに続ける。
「しかし、この世界がもつ生命力というか、エネルギーというか・・・・
まあ、そういったものがどんどん減っていたんです。
上層部の予想では、この世界の消滅もありうる状況でした。」
小竜姫は力無く
「やはり、あれだけの出来事ですもの、なかったことには出来なかったんですよね。」
「それと、あのうるさいやつらと何の関係があったのよ。」
美神が不機嫌そうに口を挟む。
「わかりません。ただ、これでまた世界が元気を取り戻すような気がするんです。世界はまだ終わらないって」
小竜姫は明るく笑った。
「まあ、いいわ。おキヌちゃん行きましょ。」
美神は事務所から出ていこうとする。
「はい、美神さん。」
おキヌは美神のあとについていく。これから何をするか判っているように。
「ちょっと、美神さん何処に行くんです。」
小竜姫があわてて声をかける。
「鬼ごっこよ。死んだ娘への遠慮ももういらなくなった訳だし・・・・」
「あっ、それならば拙者もいくでござるよ。」
あわててシロも二人の後を追う。
鬼が一人とは限らない。
小竜姫は少しのあいだ考え、美神のあとを追った。

横島が誰に捕まるかは誰にも解らない。
しかし、しばらくの間は横島はただの浮気者で過ごすことだろう。
「彼女のいる横島は横島じゃない。」
それが大宇宙の意志なのだから。

おしまい

※この作品は、うめさんによる C-WWW への投稿作品です。
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