GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-1「デートを盛り上げし者」

著者:人狼


 ある日の日中。美神がGS協会の仕事だかなんだかで出かけていないので、事務所には横島とキヌしかいなかった。しばらく普通の生活を送っていたが、ある時キヌが必死な顔で横島に話かけた。
「よ、横島さん!!」
「ん? どしたのおキヌちゃん。思いつめた顔なんかしちゃって。」
「あの、その…今度の日曜日に一緒に出かけませんか?」
「日曜日か…予定も無いしな、いいよ」
「あ、ありがとうございます!!」
キヌは嬉しそうにお辞儀をして行くと、鼻歌を歌いながら洗濯物を持って行った。横島と言えば、いいとは言ったものの何でキヌがそこまで喜ぶのか全くわから無かっ
た。この鈍感めが。
 いきなり跳んで日曜日。2人は美神に特別休暇をもらい、休日の都内へ繰り出して行った。
 キヌが真っ白いコートで決めているのに対して、横島はいつものボロボロのGジャンに擦りきれたGパン、赤いバンダナをしめていた。変えたくてもこれしかないのだ
からしょうがないと、横島は半分開き直っているようであった。
「わぁ、あのお洋服可愛い!!」
「やっぱり、おキヌちゃんも女子高生だなあ。」
服屋のショウウィンドウを見ながらキャッキャと目を輝かせているキヌ。横島はそんなキヌを横目で見ながら、始めて女のほうから誘われたデートで以外に落着いている
自分に驚いた。
『おキヌちゃんといると、どうも落着けるんだよな…。しかし、今日は絶対に…』
「横島さん?」
「へ? なに?」
「私の顔になんかついてます? ずっと見てましたけど。」
「違う違う。おキヌちゃんのことを見てると落着けるんだ。」
「ふ〜ん、そんなもんですか。」
平静を装うとしているキヌだが、みるみるうちに顔が赤くなっていく。二人は会話を失い、しばらく並んで黙って歩いていた。
 5分ほど街中を歩いていると、二人にある共通の感覚が襲ってきた。
「横島さん、これは…」
「ああ、どっかにちょっとしたやつがいるようだな。」
「…で、どーします?」
「見てみぬふりしてそのままいっちゃおっか?」
「違いますよ!! 周りの人に迷惑をかけてるようだったら成仏させてあげなくちゃ…!!」
「…ああ、そうだな、行くか。おキヌちゃん、霊の居場所を探せるか?」
キヌの必死な言葉に心を打たれ、本気になった横島。キヌもそのことに嬉しくなり
「はい!!!!」
と、つい返事が大きくなっていた。
 キヌが霊の居場所を感じながら行き着いた先は、都内から大きく外れた公園にある一本の大きな楓の木だった。そこに、普通の人間には見えないが確かに1人の小さな
霊が立っていた。
「ここか…確か、美神さんが安いから嫌だとか言って断った物件だったような…」
「そーみたいですね。だって、あれ…」
そう言ってキヌが指差した先には、美神に対する中傷ビラが貼ってあった。
「いくら人が来ない場所って言ってもこれは無いよな。」
横島はそう言って中傷ビラをはがし、破って風に流して捨ててしまった。
「さ、まずは霊の様子を見てみるか。」
「横島さん、この霊は15年前にこの場で殺されたそうですよ…」
「殺された!? …ってことは悪霊の可能性が高いな…?」
「そうみたいですね…何だか霊波が凄く凶悪過ぎて…怖いです。」
キヌはそう言って横島のGジャンの袖をしっかりと握った。横島が右腕の確かなキヌの感触にドキドキしながら、そこにいるはずの霊に対して身構えた。
『ワ タ シ ヲ コ ロ シ タ ノ ハ オ マ エ カ … ?』
「いよいよおでましか。なあ霊さんよ、あんたは15年前どう言う感じで殺されたんだ?」
『ワ タ シ ヲ コ ロ シ タ ノ ハ オ マ エ カ … ?』
「どーやら、話の通じる相手じゃねぇ見てえだな。おキヌちゃん、文殊結界の中でちょっと待っててくれないか?」
「? どうしてです?」
「いや、今日のおキヌちゃん、服装が動き辛そうだからね。汚したら悪いし。」
「あ……」
「ま、そう言う事で見ててね。俺達がいつまでも美神さんの助手ってだけじゃないことを!」
横島は、そう言うとキヌを文殊結界に守らせ、自分は霊波刀で悪霊に向って切りかかって行った。それを見ながら何も出来ない自分にムシャクシャし、何とかできないか
と必死に考えるキヌ。
「グオッ!!」
横島が悪霊に吹っ飛ばされ、キヌのいる結界の前まで転がってきた。
『ワ タ シ ヲ コ ロ シ タ ノ ハ オ マ エ カ … ?』
「なかなか強いな…確かにこれで50万円ってのは安いかもな…。」
「横島さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だよ。こうなったら文殊で一掃してやるか。」
「横島さん、何でそんな必死になってるんですか? いつもはあんなに面倒臭がってるのに…」
キヌはいつもと違う横島に少しだけ心配しながら聞いてみた。横島は血の流れている頭を掻きながら、恥ずかしそうに言った。
「あの霊がかわいそうだったから…」
「…………」
「あの子は、俺が感じるに、人生これからっていう俺達みたいな時期に殺されちまったんだ。それを考えるとどうしても…俺の手で成仏させてやりたくてね…」
横島はそれだけ言うと、「浄」の文殊を持って悪霊に向って行った。キヌはいても立ってもいられずに、服が汚れるのも気にせず、結界を抜け出して横島の元へと一緒に
走って行った。横島が悪霊に到着するのと同じくらいにキヌも追いつき、横島の横に立った。
「おキヌちゃん?」
「横島さん、そんな大事なことを1人で背負わないで下さいよ。水臭いですよ。」
「え?」
キヌが結界から出てきて、自分の横にいることに驚いている横島にキヌは静かに言った。
「もし、周りの人が逃げたとしても私は絶対に一緒にいてあげますから。」
「…ありがとう。」
「横島さん…頼りにしてますよ。」
横島とキヌは「浄」の文殊に一緒に手をかざし、悪霊に当てた。
「しっかり生まれ変わってこいよ。」
「この世であったことを大事にしてね。」
まさに浄化と言える真っ白い光が辺りを包み、横島とキヌは近くにいるのに互いの顔が見えなくなっていた。
 数分が経ち、辺りは何のへんてつも無いもとの公園に戻っていた。ただ、違っていたのは今まで楓の下にいたはずの、可哀想な為に邪悪な存在となった霊がいなくなっ
ていた。どうやら、成仏したらしい。
「逝かせてあげられましたね…」
「ああ…でも、デートが潰れちまったな。おキヌちゃんの服も汚れちまったし。」
「いいですよ。それに、デートはいつでも出来ますけど、可哀想な霊はいつでも除霊出来るってわけじゃないんですから。」
「でもな…服の汚れは落とそう。」
「良かったですね。あの子もちゃんと成仏できましたし。」
横島はキヌの服の汚れを払いながら、明るく振舞うキヌの顔を見ていた。口で割り切ってはいるが、やっぱりまだ育ち盛りの高校生。顔はどう見ても割り切ってはいな
かった。
「…さ、帰りましょ…」
「おキヌちゃん、これからデートの続きをしよう。」
「へ?」
「これからじゃあんまり大したことは出来ないけど…でも、俺はおキヌちゃんと歩きたいんだ。」
「横島さん…ありがとうございます。」
キヌは嬉しさを隠しきれず、隠そうともせずに横島にお礼をした。横島には今日どうしても言わなければいけないことがあったのだ。
「おキヌちゃん、俺、実はおキヌちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ。」
「? なんです? 急に改まって。」
「1年前、俺が学校で除霊してる時に幻術を掛けられたところをおキヌちゃんに助けてもらったろ。」
「助けたなんてそんな…私はただ…」
「でもその後俺、おキヌちゃんに何もしてあげられなくてさ…」
キヌは、そんな気にすることは無いと言いたかったが、横島の雰囲気がそれを拒んでいた。
「だから俺、これを渡そうとおもって。」
そう言ってキヌの前に差し出した小さな青い箱。中には小さな宝石のついた金属製の輪。それは紛れも無く指輪だった。
「俺もおキヌちゃんもまだ高校3年と2年だけど、卒業して成人したら…俺と…結婚して欲しいんだ」
「横島さん…そんな…ずるいですよ。」
キヌは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。いきなりプロポーズされて戸惑っているのだ。横島は身じろぎひとつせず、ただ黙って聞いている。キヌがチラッと顔を見
ると、目を閉じて黙ってキヌの声を聞いている横島が見えた。
「私、ずっと待ってたんです。横島さんに好きと言ってもらえるのを。それが…1年前に好きと言われて…それでたった1年で結婚を申し込まれるなんて。」
「急でゴメン。でも、今しとかなくちゃいけない気がしたんだ。」
「そうなんですか…」
「……普通駄目だよな。ゴメン、いきなりこんなことしちゃって…」
「横島さん、まだあの人のこと好きでしょ。」
「え?」
「いえ、そのプロポーズ、受けてあげます。」
キヌの顔にはさっきの戸惑いなど無く、晴々としたいつもの優しいキヌの笑顔があった。
「私が高校卒業して成人してからと言うのも賛成です。今すぐじゃなくたっていいんです。いつか一緒になって子供を作って…」
「おキヌちゃん…」
「私、横島さんの心にあの人がいてもいいんです。ただ、私のことを思ってくれているだけで嬉しいんです。」
「ありがとう…」
横島はすでに、言葉を喋るのも一杯いっぱいの状況だった。もし気を抜けば一気に涙が溢れ出てきそうなので。
「いいえ…さあ、私達の事務所に帰りましょ。横島さん。」
「ああ、そうだね…」
2人はすでに夕日が沈み暗くなった道を歩き、自分達のいるべき場所、美神除霊事務所へ帰って行った。

「おっそ―――――――い!!!!」
事務所に帰る早々、美神の叱責が飛んだ。横島とキヌは目の前で怒鳴られて倒れそうになり、TVのチャンネル争奪戦をしていたシロとタマモはピタリとその動きを止め
た。
「す、すんません。」
「全く、何時まで遊ぶつもりだったのよ!」
「だから帰ってきたじゃないっすか…」
「何か言った?」
美神が資料ごしに横島を睨む。横島はライオンに睨まれたウサギのごとし、体が硬直してしまいその場から動けなくなっていた。
「美神さん…ごめんなさい。」
キヌがひたすらペコペコと謝る。謝られすぎて逆に自分が悪いように気がした美神。1つ咳払いすると、さっきまでのキツイ調子を直し、2人に言った。
「もういいから、横島クンも家に帰りなさい。」
唐突に言われた横島は、何となく気が抜けたような感じがして
「はあ。」
としか言えず、仕方なく自宅へと帰っていった。
「しっかし、横島クンもやるわねぇ。」
「?」
「だってさ、おキヌちゃんにプロポーズしちゃったんでしょ。」
「え、な、なんで!? 知ってるんで…あ!!」
美神は無線機の端末をちらつかせながらニヤニヤしていた。
「こーゆーことよ。」
「あなたと言う人は…もう知りません!!」
「あ、おキヌちゃん?」
「…………」
「そんな怒らなくたっていいでしょ〜」
「…………」
「減給するわよ。」
「…………」
「ゴメンてば〜!」
「…………」
キヌはそれから一週間、美神と口をきかなかったという。

――――そして、人生の歯車は少しずつ動き出した。――――


※この作品は、人狼さんによる C-WWW への投稿作品です。
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