GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-2「除霊委員の一日。2!」

著者:人狼


「…で、一体なんなんだ?」
 横島は明らかに不機嫌だった。プロポーズしてから初めてのキヌとのデートを潰されたからだ。キヌは今度でいいと笑顔で言ってくれたが、それが横島の心に余計に重くのしかかった。
 横島の不機嫌な空気が流れる喫茶店のテーブルの周りには、高校の除霊委員だった横島、愛子、ピート、タイガーと、高校の校長が座っていた。
「ゴメンねぇ、横島君。でも、校長先生が絶対に呼んでくれって。」
「そうなんだよ。済まないなぁ横島。」
 校長は薄くなった頭をポンポンと叩きながら控えめに笑っていた。
「…ったく、やっとの思いで卒業したってのによ。」
「まあまあ横島さん。ここは校長先生の顔を立ててあげて。」
「そうだ、私を立ててくれたまえ。」
「お前が言うな!!」
 図々しい態度の校長にいい加減、腹が立った横島。アホ臭くなって席を立とうとすると、愛子が横島のGジャンの袖を持ち、なんとか押えていた。
「なんだよ愛子、俺は帰るぞ。」
「ゴメンね横島君。校長先生を許せとは言わないから、ここは私に免じて…ね?」
「……わかったよ。で、話ってのはなんなんだ?」
「ああ、そうだった。これを見てくれたまえ。」
 そう言って校長はジャケットの内ポケから1枚の紙を取り出した。それは、横島が美神の事務所でよく目にする除霊依頼書だった。
「実は、ウチの学校の屋上に悪霊が住み憑いてしまってね。時々、校舎内で暴れ出すんだよ。」
「大した霊じゃ無さそうだが…なんでランクがA−なんだ?」
「いや、そんな気がしただけだ。横島ならどのランクの悪霊でも大丈夫なんだろ。ピート君もいるし心配ないと思ってな。」
「んなわけあるかいっ!!」
 思いきり突っ込みながら校長の光る頭を殴ろうとする横島。ピートとタイガーが辛うじて押えその場は落ち着いた。
「校長先生、こういう物は正確に書いていただかないと困ります。もし、僕達以外のGSに見せたら間違い無く断られますよ。」
「いやーアハハハハハ、スマン。」
 謝りつつも全く悪びれていない様子の校長。横島以外の3人もいい加減腹が立ったが、しかし、高校時代の恩師ということで一応立ててやった。
「じゃ、早速学校に行って見ましょうか。」
「そうじゃノー。早く帰ってエミしゃんの手伝いもしなきゃいけないケンねぇ」
「俺も、おキヌちゃんとのデート、駄目にしちまったしな。」
「そーよーことで、行きましょー!」
 愛子の元気の言い掛け声で、今まで校長と横島がつくっていた重苦しい空気を一掃することが出来た。
  高校に着くと、妖気が横島達4人を襲った。妖気自体は大して強力ではなかったが、なんと言うか、分かりやすく言うと「勢いのある」妖気であった。
「なんなんだ? 一体…」
「そーねー。強いって言うよりは…」
「元気ですねぇ。」
『ワッシのセリフはっ!?』
 4人が校舎の屋上を見ると、明らかに霊と思われるものが見えた。目を凝らしてよく見ると、その姿は暴れたり人を襲おうとしているというより
「なんか酒盛りしてるように見えるが…」
 で、あった。
「横島君、霊が酒盛りするわけないじゃん。」
「でもよ、愛子みたいに物を食ったりプリクラを取ったりするやつだっている分けだしよ。」
「多分、私は別物よ。」
「そんなことよりも、早く除霊しに行きましょうよ。横島さん、愛子さん、早くしてください。」
「あ、ワリイ。」
「ゴメン、ピート君。」
 早く来るように促すピートに気付き、急いで後を追う横島と愛子。
「しかし、なんで学校に取り着く霊なんかが屋上で酒盛りしてるんですかいノー?」
「そんなこと、本人に聞いて見なけりゃわからんだろ。行くぜ。」
 キヌとのデートを完全に諦めたのでヤケに行動力のある横島。その後ろに愛子とピートとタイガーが、そのまた後ろで校長がヒイヒイ言いながら必至についてきていた。
「ゴメンね横島君。」
 突然謝り出す愛子。なんだなんだと驚く横島。ピートとタイガーは不思議そうに愛子を見た。
「今回横島君を呼んだのは、実は私なの。」
「ふーん、やっぱりな。」
 分かっていたような返事をする横島。今度は愛子が驚いた。
「あれ? おこらないの?」
「怒ってどうする。別にどーってことねえさ! 気にするな、ハハハハハハハハ!!!!」
 横島がカッコよかったのは前半だけだった。後はもう自分の無念を未練がましく笑い飛ばそうとしていた。
「……怒ってますね…」
「そうじゃの〜。あのヒトは根に持つタイプじゃから。」
「そこ、うるせえぞ! 俺は根に持ってなんかねぇからな!!」
「思いっきり持ってるじゃないの…」
 4人のコントみたいなものにノれないまま、トボトボと後ろをついていく校長。その背中には、老年特有の哀愁のようなものが漂っていた。
「校長先生、どうしたんです? なんか寂しそうですが。」
「ピート君…気付くの遅いよ…」
「ンな事はどうでもいいから、さっさと屋上に行くぜ。」
 自分の事を「ンな事」で片付けられて、余計に沈む校長。一人だけ暗い雰囲気の中で一行はやっと屋上に到着した。
「おい悪霊! バカみてえに騒いでねえでさっさと除霊されろ!!」
『んー? なんだお前は?』
「この高校の除霊委員だ!!」
「なんかカッコがつかねえな…」
 ピートの渾身のキメ言葉にイチャモンを着ける横島。ピーとは何となくやる気を削がれたが、気を取りなおして再び、悪霊と向かい合った。
「行くぞッ! ダンピールフラッシュ!!」
『ンなもの効くかよーだっ!』
「あ! かわされた!? なかなかやるみたいだな、タイガー、横島さん、協力してください!」
「合点!!」
「…めんどくせえな…」
 張り切るタイガーの横を何か丸いものが飛んでいった。それにぶつかった悪霊は、叫び声をあげる間も無く綺麗サッパリ消滅して行った。
「…文殊…ですか?」
「まあな。霊波刀で接近戦になるのも面倒臭いから、文殊で消そうとおもって。」
 横島と自分の開き過ぎた力の差に落胆するピート。
「さすがは横島さんですね…僕なんかじゃ到底…敵いませんよ。」
「ピート…なに落ち込んでるんだ?」
「横島君! あなた本気で気付かないの!?」
「気付くってなににだよ。」
「…呆れた。」
 ピートの落ち込む理由が全く見えていない鈍感過ぎる横島忠夫(19)。そんな横島に愛子もタイガーも、内容が掴めていなかった校長までもが呆れて次の言葉が出なかった。
  落ち込むピートをなんとか慰め、校長に別れを告げてやっと家路についた4人。時計を見ると、既にPM6:00を回っていた。
「あ、そろそろ事務所に戻らねえと。それじゃ俺、帰るわ。」
「待って横島君。」
「? なんだ愛子。」
「あのね、横島君と言うよりも、美神さんにお願いなんだけど…私を事務所の事務にして欲しいなーって思って。」
「考えとくよ、って言うか美神さんならすぐ承諾するぜ。」
「なんで?」
「愛子だったら賃金無しでも雇えるし。」
「あ、そうか。」
「ま、話してみて結果は早いうちに教えるよ。それじゃあな!」
 横島はそういって、事務所へ駆け足で戻って行った。愛子の願いを引っさげて。
  美神除霊事務所に横島が到着したのは、PM6:30くらいだった。なんとなくキヌと顔を合わせるのが辛かったが、気力を振り絞って応接間に入っていった。
「た、只今帰りました。」
「横島さん…お帰りなさい。」
 おどおどしながら入って来る横島を暖かく出迎えるキヌ。そんなキヌの顔に余計良心を痛める横島だったが、なんとかキヌに顔を向けることが出来た。
「ゴメンな、今日のデート流しちまって。」
「いいですよ、高校時代のお友達に会ってたんですし。でも、この埋め合わせはちゃんとしてくださいね。」
「ああ、わかった。喜んでさせてもらうよ。」
 横島がキヌに謝った所で、美神が応接室に入って来た。
「あら横島君、帰ってたの。」
「あ、今戻りました。」
「お帰り。それと、あんた減給ね。」
「え!? なんでですか!?」
「あったりまえでしょ! おキヌちゃんとのデートをすっぽかして!!」
「ウッ…」
「い、いいんですよ美神さん。そんな減給までしなくても…」
「いいや、こいつはおキヌちゃんとの約束を破ったのよ。こんくらいの報いは受けてもらはなくちゃ。」
「そうですか…それより美神さん、今日除霊に行ったついでに、愛子にある事を頼まれたんすけど。」
 横島が気を取りなおすように言った。美神は話の腰を折られ少し不機嫌な顔になったが、横島があまりにも真面目だったので、話しだけは聞いてやる事にした。
「…で、愛子ちゃんはなんて言ってたの。」
「それが愛子のやつ、給料無しでいいからこの事務所の事務をやらせてくれって。」
「採用。」
「は?」
「だから、給料要らないんだったらすぐにでも雇ってあげるわよ。」
「やっぱ俺の予想したとおり…(守銭奴まんまだな)」
「横島クン、もっと減給をくらいたいの?」
 横島の考えていた事を呼んでいたかのように絶妙なタイミングで切りこむ美神。横島は表情をめい一杯に隠していたのに、あっさりばれた事に驚き、うっかり本音を洩らしてしまった。
「いや、その、僕は全く「この守銭奴め」なんて思ってませんよ!」
「ばか、すぐ引っかかるんじゃないの。とにかく、横島…減給…と。」
「わあああああ!! 冗談です、すんません!! これ以上生活を切り詰めさせないで!!」
 美神の言葉に必死になって謝る横島。土下座でもしそうな勢いに、なぜか自分が悪者になったようで気の悪い美神は
「冗談に決まってるでしょ。…全くなんで私はこんなドジでバカな従業員を雇ったんだろ」
「そんなぁ〜」
「美神さん、それは言い過ぎでは…」
「おキヌちゃん、こいつほどマヌケな旦那はいないんだからね。気をつけなさいよ。」
「もう、私はこのままでいいんです!」
 美神の言葉に、少し本気になるキヌ。その様子から本気で横島の事がスキなのだと言う事がわかった。…だから余計にいじめたくなる美神。
「こんなマヌケ、どのくらいおキヌちゃんに迷惑をかけるだろうねぇ〜」
「ウッ…」
「仕事に失敗して借金地獄? あり得なくは無いわねぇ。」
「ウウッ…」
「不倫して…」
「もういい加減にして下さい!」
 キヌからの不意打ちにビックリしている美神。キヌの目には涙がたまっていた。
「なんでそんなに…横島さんをいじめるんですか!? 横島さん、何か悪い事しました!?」
「…………」
「私、横島さんを信じてるんです! 美神さんは横島さんのなにが気に入らないんですか!?」
 キヌに初めてきつく言われ、言葉が出てこない美神。しばらくして、何とかものを言おうとしたとこに、意外な人物が入ってきて美神の気持ちを代弁してやった。
「令子は、これでも激励してるのよ。横島クンの弱い所をおキヌちゃんがしっかりカバーして、二人仲良く出来るようにってね。」
「…ママ!」
「ま、令子は見てのとおりこんな意地っ張りだから、素直に言えなかったのよ。」
 美智恵は、ひのめの手を取りながら応接間に入って来た。
「ママ…余計な事言わなくてもいいのに…」
 美神の元へ、ひのめがおぼつかない足取りで歩いてきた。
「……ごめんね、おキヌちゃん、横島クン。」
「あらあら、令子が謝ったの、初めて聞いたわ。」
「(私も…)」
「(俺も…)」
「わ、悪い!? もう、ママに言われちゃったら、からかう気も失せちゃったわ!! ふたりとも、仕事に行くわよ!!」
「はい!」
「わかりました!」
美智恵に自分の気持ちを代弁してもらい、幾分か気の楽になった美神はいつもの調子を取り戻し、助手の二人を引き連れ仕事へ向って行った。
「もう、素直じゃない子。」
美智恵が、ポツリと呟いた。


※この作品は、人狼さんによる C-WWW への投稿作品です。
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