GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-4 「結婚式狂葬曲!?」
著者:人狼
「おキヌちゃん」
「なんでしょう?」
「…やっぱこのバンダナ、おかしくない?」
横島のプロポーズから4年。お二方は遂に結婚の時を向えた。今はもう、扉の向こうに美神を含め、沢山の親戚、知り合い、友人が待っている。
「そんな事ないですよ。私は似合ってると思いますよ。」
「そ、そう? それならいいんだけど。」
「さあ、みんなが待ってます。行きましょうよ!」
「そうだね。」
横島とキヌが一歩を踏み出し、結婚式が始まった。真紅のヴァージンロードの脇に起こる拍手喝采。時々軽いヤジを小耳に挟みながら、2人は唐巣神父のいるマリア像の元へ向った。
「これより、横島忠夫・氷室キヌの結婚式を行なう。」
一瞬にして静まる会場。…ではなかった。拍手はもうすっかり止み、聞こえているのは横島に対するヤジだけだった。
「横島ー! なに固くなってんだよー!!」
「バンダナ外せって!!」
「なんで俺より先に結婚するんや!!」
横島の元級友や雪之丞、近畿剛一(銀一)までが、と言うよりもその3人が中心となってヤジをとばしまくっている。唐巣神父が大きく咳払いをして、やっと結婚式らしい静けさがやって来た。
「ふう。…では始めるか。汝、横島忠夫は、悩める時も健やかなる時も彼女を愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います!!」
横島が宣言すると、周りから(雪之丞、銀一)冷やかしが起こる。唐巣が止めようとする前に美神に殴られ、静かになる(気絶する)ギャラリー。
「な、汝、氷室キヌは、悩める時も健やかなる時も彼を愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います…!」
キヌはしずかに、しかしはっきりと応えた。結婚式なのに、葬式みたいに泣きじゃくる女性の声がいくらかした。2人はちょっと気の毒の感じたが、それでも自分達の結婚と言うだけでとても嬉しかった。
…………の……では…済まさ………
静粛な式の中、キヌは確実にその声を聞いた。なにか恨みのこもったような湿って歪んだ気持ちの塊のような。それがなんだかはわからないが、ただ1つ分かっているのは、その気持ちの矛先が自分の夫になる人・横島に向けられていた事であった。
『横島さんの事を誰かが狙ってる…?』
キヌは唐巣の説教を聞きながら、周囲に十分注意しているよう心がけた。
「では、誓いのキスを…」
『このままではすまさーーん!!』
唐巣神父が言い終わる前に、教会の窓を突き抜けて一体の霊が横島めがけて突っ込んできた。自分に来たと感じた横島は、周りに危害を加えず最も綺麗に除霊出来る方法を取る事にした。
「文珠しかないな…」
横島は『浄』文珠を出し、悪霊に投げつけた。カッと眩いばかりの閃光が飛びだし、除霊は済んだと思った直後、除霊されたはずの霊に体当たりを受ける横島。横島は勢いよく霊に体当たりをされ、その勢いで壁に吹っ飛ばされた。
「うぐっ…!」
「横島さん!」
吹っ飛んだ横島に駆け寄るキヌ。招待客達も異変に気付き、臨戦態勢に入る。
「しっかりしてください、横島さん。」
「うぐぅ…、中々いい当たりだったな。しかしだせぇな俺も。これで飛ばされるの3回もだぜ。プロポーズしてからよ。」
「横島クン! 一体どう言う事なの?」
「さあ…俺にもサッパリ。」
「きっと何かの迷い霊じゃないかな。君等の幸せそうな霊気に引き寄せられた陰湿な霊気って所か…」
辺りを睨みながら、横島とキヌをかばい立つ唐巣神父が言った。
「違うと思います。」
キヌがすかさず返す。
「さっき、唐巣神父のお説教中に、横島さんに向けられた強力な憎悪の念が感じられたんです。」
「なんですって!?」
「美神クン、私はこれ以上霊が来ないように結界を張ってくる。その間、二人を頼む!」
「分かりましたわ。」
唐巣が行ってしまうと、美神は二人に目を向け先ほどの話しを聞き出す事にした。結婚式に来た者達の内、GS系統の職で無い者達は、何が起こったのか分からずにパニックを起こしかけていた。
「おキヌちゃん、さっきの話しは本当?」
「はい。唐巣神父がお説教をしている最中に、横島さん目掛けて恨みのこもったような湿って歪んだ気持ちが注がれていました。」
「お、俺はなにも感じてなかったぞ?」
「私も感じなかったわ。きっと、おキヌちゃんだけが感じ取れるような、小さいものだったんでしょう。」
「それが、突然大きくなって横島さんを襲った。ってわけですね。」
「そう言うことになるわね。」
そこまで話したところで、先ほど教会全体に結界を張りに行ったはずの唐巣神父が慌てて戻ってくるのが見えた。とんでもなく焦っているようで、キヌ達はなにかあったな、と感づいた。
「先生、なにかあったんですか?」
「そ、それが、教会の外に…」
「教会の外に……?」
「巨大な霊がいるんだ! あの霊波は怨念ばかりを持った飛びきりの悪霊の霊波だった。」
ピシィッ! 唐巣の張った結界が割れるのがはっきりと聞こえた。横島は体を起こして戦おうとしたが、予想以上にダメージが大きく、動く度に顔をしかめた。
「クソッ、あの悪霊め…!」
「横島クン、おキヌちゃん、ここは私達に任せなさい。」
「でも…」
「あんた達は見てればいいの。それにこんな楽しそうな事、人に譲れないわよ!」
「美神クン、私は一般の人達の所にさっきより強力な結界を張ってくるから、気にせず戦いたまえ。」
「分かりましたわ! じゃ、行って来まーす!」
美神はどっから出したか神通棍を片手に、悪霊と雪之丞達が戦っている教会の外まで全速力で走っていった。
「本当に楽しそうですね…」
「まあ、あれが美神さんの生きがいだから。しっかし最近の俺達って、なんの笑いも無いよなあ…」
「そーですねぇ…」
横島とキヌは周囲にホノボノとした空気を漂わせながら、美神の言いつけどおり、その場で待機する事にした。
――教会の外。主力として動いていた雪之丞、ピート、パピリオ、ベスパは、予想以上の霊の強さに苦戦して霊力がそこを尽きかけていた。
「クッ…! なんて強さだ! 魔装術もそろそろ終わりだ…」
「雪之丞さん! 美神さんが来るまでの辛抱ですよ!」
「魔族の私達でも厳しいんだから、美神にはもっとキツイだろ…」
「ベスパさん…(カッコイイなぁ…)」
戦いの真っ最中に不真面目な事を考えるピート。その隙を思いきりつかれ、ピートは空高く待った。バヒュウッ! 地面に叩きつけられそうになったピートを、ベスパが寸前で受け止めた。
「戦闘中に気を抜くなよ!」
「ぁ…す、済みません…」
「? 何、顔赤くしてるんだ?」
「あ、いえ、何でも無いです!」
「おい! そんなことよりこっちを何とかしてくれ!!」
「そうでちゅよ!! 1.5人じゃ辛すぎまちゅ!!」
「誰が0.5じゃっ!?」
「さーあねー?」
「ガキがフザケんじゃねえぞ!!」
取っ組み合いを始めようとする雪之丞とパピリオを、寸での所で押えるピートとベスパ。しかし、戦っている手を4人が止めてしまったので悪霊が、横島目掛けて教会の中へ流れ込もうとしていた。
ザシュッ! 霊が玄関を通ろうとする所で何かを切る音が聞こえ、霊が苦しみながら後戻りをはじめた。
「何が…起こったんだ…?」
「さあ…」
「壁に頭でもぶつけたんじゃないでちゅか?」
「それは無いだろ…ただ、何かに切られたのは確かだな。」
霊が動いた拍子に起こった砂埃が止むと、段々霊を切った人物が見えてきた。
「美神…か。」
「何よ雪之丞。救世主に向かってなんて口の利きかた」
救世主と聞いて笑ったのも束の間、切られた霊が再び動き出した。
「やっぱ攻撃が弱かったか。雪之丞とピートとベスパとパピリオ。あんた等はもう疲れてんだから休んでなさい。」
「それじゃ美神さんだけになってしまいますよ!?」
「大丈夫×2。今まで若手のあんた等にやらせた分、今度は本命がやってあげるから」
「本命? まさか…」
「そ、そのまさか。行くわよ、冥子、エミ!」
「わかったわ〜令子ちゃ〜ん」
「まったく、ピートったら魔族の女なんかに気を取られちゃって。」
美神、エミ、冥子の3人はそれぞれ自分勝手な事を考えながら、霊に向かって行った。やっぱり年季が違うんですかねぇ、と雪之丞に聞こうと振り向いた先には、雪之丞ではなくベスパがいた。
「あ、いえ、すいません! ハハハ…」
「はあ?」
一人で焦るピートを見て、怪訝な顔をするベスパ。明らかにピート撃沈の雰囲気である。
所変わって霊と交戦中の美神等3人。この3人も雪之丞達ほどではないが、霊の予想以上の強さに苦戦を強いられていた。
「令子! ちょっと冥子と2人で霊の動きを止めてて欲しいわけ!」
「…霊体撃滅波ね! わかった。冥子! ビカラで霊のやつを押えて!」
「わかったわ〜! ビカラちゃ〜ん!!」
『ギシャーー!!』
「いいわ! これに封魔札を貼って…と。よし、エミいつでもいいわよ!」
「……いくわよ、霊対撃滅波!!」
霊対撃滅波により、跡形も無く消し去る悪霊。周りにいた若手GS衆は『やっぱベテランは違う』と尊敬の眼差しで3人を見ていた。
30分後。教会では結婚式のやり直しがなされていた。横島の怪我も『治』の文珠で完全回復し、礼服の汚れも『掃』の文珠で綺麗サッパリ取れていた。
「汝、横島忠夫は、悩める時も健やかなる時も彼女を愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います!」
先程と同じように、雪之丞、銀一のヤジも入り、そしてやはり先程と同じように美神の鉄拳が飛び、静まり返った。
「汝、氷室キヌは、悩める時も健やかなる時も彼を愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います…!」
キヌが言った瞬間、今度は盛大な拍手が起こった。横島とキヌの周りにいる無法者の集まりからである。そのことがキヌの涙を誘った。
「それでは…誓いの口付けを…」
唐巣の言葉に頷き、ゆっくり向かい合うキヌと横島。横島がゆっくりキヌの顔の前にかかるヴェールを上げ、ゆっくりと口付けをした。再び、大きな拍手が起こる。しかしさっきとは違い、励ましのようなヤジも聞こえる。横島とキヌは招待客の方を向き、ふかぶかと会釈をした。
「この外に、みんな待ってるのか…米粒もって。」
「えへへ、ブーケ投げるの楽しみだなあ。」
「…じゃあ、行こうか。」
「はい!」
横島の言葉にキヌは喜びいっぱいに頷き、勢いよく扉をあけた。そのとたん、ライスシャワーが空高く舞って…いなかった。ライスシャワーはピンポイントで横島にぶつけられ、横島は綺麗にひっくり返った。
「横っち! お前だけし合わせモンになってるんやないで! 俺もすぐに幸せになってやるからな!!」
「銀ちゃんはジューブン今のままで幸せだろ!!」
「んなことあるかいっ!!」
「ンなこと言って銀ちゃん、今まで俺よりモテテたのに自分より先に結婚されて悔しいんやろ!?」
「悪かったな!!」
「ハハハ!! 早く結婚しろよ!」
銀一と口ゲンカを始める横島を幸せそうな目で見守るキヌ。
「横島さん、そろそろ投げますよ。」
「ああ。頑張ってね。」
「ブーケ、なっげまーす!!」
「おキヌちゃーん! こっちに投げてー!!」
「氷室さーん!!」
「行きますよー! えーーい!!」
掛け声と共に高く高く投げ上げられたブーケは幾人もの女性の手をくぐり抜け、行きついた先は……
「キャー! 取れたーー!!」
「え、ベスパさん…?」
「ぁ…べ、別にいらないんだけどさ、いいことあるらしいから貰っといてやるよ。」
「いいじゃないでちゅか、そんなに意地張らなくても!」
「アタシは意地なんか張ってない!!」
「真っ赤になっちゃってー。恥かしがらなくいいのよー」
「ご、誤解だーー!!」
からかわれすぎたベスパの暴走によってブーケ合戦は幕を閉じた。式の終了後直行で2次会へ突入し、みんなが酔いつぶれた頃、横島とキヌは宴会場を抜け、ある場所へと向かった。
2人は、自分たちが結婚を決めた場所、都内から大きく外れた公園にある一本の大きな楓の木だった。
「プロポーズの時以来だなあ…」
「そうですねえ…」
「そういえば、今日俺を襲った悪霊、何で俺を襲ったんだろう?」
「ああ、それは美神さんが、『横島クンが昔除霊しそこねた霊が、かぎつけてきたんだろう』て、言ってました。」
キヌの言葉に複雑な顔をしながら頷く横島。しかし、数秒後には完全に吹っ切れた顔になっていた。コロッと話題を変える横島。
「……ここから俺達の全てが始まったんだよな。」
「それと、私達の「これから」も始まるんですよ。」
「これからもよろしくねおキヌちゃん。」
「こちらこそ、忠夫さん。」
この日、静かな夜の公園で2つの影が重なり、自分達の永遠の愛を誓い合った。
一匹の蛍が、2人のことをいつまでも見守っていた。