GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-6 「初夏のシロ捜索隊・捕獲〜混迷編」
著者:人狼
17:05。「○やて」は5分遅れでS駅に到着した。横島夫妻が電車から降りると、タマモがホーム出入口の辺りで待っているのが見えた。
「よお、捜索ご苦労さん。」
「別に…油揚げがもらえれば。」
「ハハハ…まあ、まずは宿に行こうぜ。」
横島、キヌ、タマモの3人は早速、蔵王の近くの安宿に部屋を取った。幸い、部屋は空いていて2つ取ることが出来た。タマモが一人がいいと言って聞かなかったのだ。
「全く、タマモはガキのわりにしっかりしてるな。」
「ホントですね。(気を聞かせてくれたのかもしれないけど)」
キヌは心の中で呟いた。
「でも、こうやって二人で遠出するのって、結婚してから今日が初めてですよね。」
「ああ、そう言われてみれば。結婚してからも仕事やなんだかんだで…新婚旅行にも行けなかったからな。」
「シロちゃんの捜索は明日からですし、今日はゆっくりと…ね。」
「おキヌちゃん…」
横島の心はもうすでにおキヌちゃんで一杯になっていた。しかし、美神を見たときのように押し倒そうとは思わなかった。おキヌちゃんは本気で愛しているらしい、と横島は自分で思った。
「そうだ、確かここに酒が…あったあった。はい、おキヌちゃん。」
「ありがとうございます。」
「タマモ、ジュースいるか?」
「…いらない。」
横島の誘いに取り付く島もなく断る隣りのタマモさん。横島は苦笑いしながら、備え付けの冷蔵庫の中にジュースをしまった。
「シロちゃん、今ごろ何してるんですかね。」
「犬になって餌でも食ってるだろ。」
「狼ですよ…一応。」
「まあね。でも、まだまだ子供だし、狼には見えないな。」
「言い過ぎですよ。」
キヌと横島が話をしていると、コンコンと戸を叩く音がした。
「はい?」
「タマモだけど、二人とも、お風呂は入りに行かない?」
「そうね。行きましょう。」
「横島、覗いたらただじゃ済まないからね。」
「わかってるよ、いい年こいて犯罪者にはなりたくねえ。」
「横島さんたら。じゃあ、行きましょうか。」
横島とキヌは持って来ていたバッグの中から、入浴の道具を取り出しタマモと共に浴場へ向かった。
「わあ、綺麗なお風呂。」
キヌが浴場を見渡しながら驚いて言った。
「安宿でもいいとこはいいからね。」
「タマモちゃん…言い過ぎだと思うけど…」
「そう?」
頭にタオルを乗せて湯船に浸かるタマモ。キヌもタマモの横に入った。
「ふう…こんなにノンビリ出来たの、久しぶりね。」
「そうね。タマモちゃんも、休む暇もないくらいにシロちゃんを探してたんでしょ。」
「まぁ…テキトーにね。」
「またそんな謙遜しちゃって。タマモちゃんていつもそうよね。」
「う〜ん、性格…だと思う。」
「そうなんだろうけど、ホントはシロちゃんが心配でしょうがないんじゃない?」
「な…」
キヌの意表を突いた言葉に絶句するタマモ。キヌの予想した通り、どうやら図星のようだ。温泉の湯はそんなに熱くないにもかかわらず、タマモの顔は真っ赤になってしまっていた。
「そ、そんなことないに決まってるでしょ!」
『な、なんだあ!?』
「あ、横島さん。なんでもないですから気にしないで下さい。…タマモちゃん、相変わらずね。」
「え?」
「あんまり表情を表に出さないけど、ホントの事言われちゃうとカッとなるところ。」
「…………」
「私、あんまり怒れない性格なの。だからタマモちゃんの性格が羨ましいなーって、思ったの。」
「そ、そんなこと…」
タマモが何か言おうと必死に考えているのを遮るかのように、キヌが話を続け出した。
「あーあ。タマモちゃんにこんな話するなんて、私もおばさんになっちゃったかな?」
「…そんなことないよ。おキヌちゃんはまだ21歳でしょ、まだまだ若いじゃん。」
「…ありがと。さ、そろそろ出ましょ。お夕飯に遅れちゃう。」
「もうちょっと入っていかない?」
キヌがいつもの調子を取り戻したのを見て、なんとなく自分もいつもの調子に戻ったような気がしたタマモ。いつもの毒舌振りがそれを証明していた。
「でも、部屋の鍵は私しか持ってないし…」
「しょーがないな。じゃ、さっさとあがろ。」
そう言って同時に立ちあがるキヌとタマモ。
浴衣に着替え終わり部屋の前の廊下まで行くと、そこに倒れている男が一人いた。赤いバンダナ、ボサボサの髪の毛。
「た、忠夫さん!?」
「なんで倒れてんの!?」
「はーらーへーったーーーーーーーーー」
死にそうな声をあげる横島。急いで鍵を開け、横島を部屋の中に引き入れるキヌ。その顔は大変そうでありながらも、完全に「幸せ絶好調」の表情であった。タマモもヤレヤレと言いたげな顔をしていながらも、前のような突き放したような感じは見うけられなかった。
「もう、出るときは声をかけてくださいって言ったじゃないですか。」
「それはそうなんだが…まわりにほかの客がいて言うに言えなかったんだよ。」
「そーなんですか。大変でしたね。」
こんこん。部屋の玄関をノックする音が聞こえた。出てみると部屋の女将がいて、夕飯の支度が出来たと伝えに来ていた。横島達はタマモを連れて料理の用意してある部屋に連れて行ってもらった。
「ここでございます。」
「ああ、どうもです。」
「後で、お酒も持ってきますので…あ、そう言えば、お客さま方はたしかGSでしたよね。」
「はあ、まぁそうですが。」
「実は、この旅館の8階にある一番奥の部屋に幽霊が出て困ってるんです。」
「で、それを退治してくれと。」
「はい。あつかましいとは思うんですが…幾らで除霊していただけるんでしょうか。」
「わかりました、無料で除霊してみましょう。では夕食の後に案内して下さい。」
「ありがとうございます。では、ごゆっくり。」
女将が部屋から出て行くと同時にタマモが口を開いた。
「いいの? 料金取らなくて」
まあ、美神の事務所のものとしては当然の質問である。美神は緊急の場合でもしっかり料金を取るほどしっかり(ちゃっかり?)している。しかし、横島は今この場で「料金を取らないと」断言したのだ。
「ああ。別に料金を取らなきゃいけないほどの強い霊じゃないだろうし。」
「そうですね。確か荷物の中に予備の破魔札があったはずですし、除霊は簡単ですよ。」
「…おキヌちゃん、破魔札使っちゃったら美神さんに料金取られるから…」
「あ…そうでしたね…」
「いいわよ、私の狐火でやるから。それと…」
タマモがなにか言い辛そうに俯いた。
「?」
横島夫妻はタマモが何を言うのかと、ただ漠然とタマモが喋るのを待っていた。
「アタシ…GSになるのもいいかなーって思うようになってきたの。だから、練習代わりに…」
「わかった、今回の除霊はタマモにやってもらうよ。しかしタマモ、GSになろうと思ってんのか。」
「すごい! タマモちゃんだったら凄いGSになれるよ!!」
「でも…美神さんみたいな強欲GSにはなりたくないし…この際、横島とおキヌちゃんに頼もうと思って。」
タマモの必死の中の毒舌に苦笑いする横島とキヌ。確かに美神は敏腕で世界トップクラスの実力を持っているGSだろう。しかし、その強欲さと来たら、長年助手をやって来た横島とキヌでさえも驚くほどに法外な値段を吹っかけてくる。しかし、それでも依頼が絶えないのはやはり実力だろう。
六道女学院の生徒の大半が美神を神様扱いしているが、タマモは冷静に美神を見て、横島等の弟子に就こうと考えたのだそうだ。
「まあ、確かに美神さんの守銭奴っぷりには俺達も、時々呆れるからな。」
「そーですね。でもタマモちゃん、ホントに私達でいいの?」
「うん。みんな美神さんに教えてもらいたがってるけど、私はこっちの二人に教えてもらいたい。」
「…よし、その役引きうけよう。」
横島はタマモのお願いを受け入れたところで除霊に行くことにした。女将に連れて行ってもらい、着いた先はヒジョーにオドロオドロしい日当たりの悪い部屋。
「ここでございます。」
「ありがとうございます、ではここからは僕達以外入らないで下さい。」
「わかりました。」
そう言ってタマモと横島が部屋に入り、キヌが援護の準備をしていると、女将がキヌに小さな声で聞いてきた。
「失礼ですが、あの男の人は信用してもいいんでしょうか。」
「? どうしてです?」
「なんか、女性には見境なく手を出していそうで…」
「女将さん、人を見る間がありますね…でも、大丈夫ですよ。忠夫さんはこう言うときは真面目ですから。」
「そうなんですか…ま、何かあったら私達をお呼びつけ下さいまし。」
「はい、ありがとうございます。」
女将が会釈して帰っていくのとほぼ同じくらいに、タマモと横島が除霊を終えて部屋から出てきた。どうやら、簡単に片付いたらしい。
「あ、終わったんですか?」
「ああ。タマモのヤツ、張り切って限界まで火力を上げやがった。」
「いいじゃん、悪霊は倒せたんだし。」
「よくない。物件に極力被害を与えないようにするのも仕事のうちだからな。」
「へいへい。」
「…まぁ、いいか。」
除霊も無事終え、女将に報告してから自室に戻る横島夫妻とタマモ。帰る途中、家族連れの小さな男の子が3人を指差していった。
「あー! ウチと同じ家族旅行だ!」
次の瞬間、男の子は物凄い勢いで母親に殴られ、気絶したまま風呂へと向かったが、横島達の中には異様な雰囲気が漂っていた。
「家族…旅行ですか…」
「俺達、何歳に見えたんだ?」
「私、この能天気夫婦の子供に見えんの?」
結局、異様な雰囲気のまま自室に戻る3人。その雰囲気は部屋でお茶を飲んで10分位してからやっと払拭された。
「おキヌちゃん、相談なんだけど…」
布団を敷いていざ寝ようとしたとき、横島が唐突に話掛けた。
「はい? 私に分かることでしたらなんでも。」
「実は俺、美神さんとこから独立しようと思うんだ。」
「ええ!?」
「いや、まだ深くは考えてないんだけど…俺達も助手やってもう6年くらいだろ。だからさ…」
「そ、そんなこといきなり言われても…」
「気にしなくていいんだ。おキヌちゃんが嫌だってんなら、俺一人で始めるから。」
横島のあまりにも強い意思に、キヌは何もいえなくなってしまった。確かに、自分もそろそろ独立したいとは思っている。でも、それはもうちょっと先の事だと思っていた。
その日はそれ以上、独立についての話はせずに寝ることにした。しかし、キヌも隣の部屋で盗み聞きしていたタマモも、「独立」と言う言葉が離れそうに無かった。