GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-7 「初夏のシロ捜索隊・捕獲〜激闘編」

著者:人狼


 翌朝、横島とキヌとタマモは蔵王の山中にいた。朝と言う事もあって車もなく非常にさわやかな気候となっていた。
「ふあ〜〜。」
 キヌとタマモは同時に深いアクビをした。
「おキヌちゃん、タマモ、二人とも寝不足?」
「はい…昨夜忠夫さんが言った事を考えていたら眠れなくて…」
「私も。」
「昨日の事って独立の事か。」
 横島は非常に申し訳なさそうにいった。
「いえ、いいんです。忠夫さんがそこまで本気で考えているんでしたら、私だって本気で考えなくちゃいけませんもの。」
「私だって横島達の弟子になるって事は、同じ事務所に入るって事なんだし。」
「そうか、ありがとう。でも、最大の問題は美神さんだよな〜。」
「シロちゃんや愛子ちゃんだってどうするんですか?」
「シロは俺のところにいるよりも、美神さんの所で修行した方が絶対に伸びる。愛子だってあの忙しい美神事務所だ、絶対に必要だ。だから二人についてはなんとか説得し切れる。」
 最後に必ず『絶対』と言う言葉をつけ、愛子、シロが美神にとって必要だと言う事を強調する横島。しかし、タマモは非常に客観的だった。
「あんただって重要な戦力でしょ。あんたも美神さんにとって必要な人なんじゃないの?」
「どうなんだろうな。……ま、独立の事は後でじっくり話すとして、まずはシロ探しに行こう。」
 一瞬、横島が寂しそうな顔をしたのをキヌは見たが、敢えて言わない事にした。そして、釈然としないまま、その話は当事者の横島によって強制的に打ちきられてしまった。

  3人は、道の途中にあったシロの霊波が残るわき道を見つけその道に入っていった。わき道に入ると、道がひどくなっていて周囲には絶えず雑霊の気配がじ手いた。
「なんだか…気味が悪いですね…」
「山の中だからね。」
「恐い…手…繋いでてもいいですか…?」
「おキヌちゃん…」
「………私、リュックの中に入ってるね。」
 タマモがワザと口にだして言ったのにも気付かず、二人の世界に入ってしまっている二人。タマモがアホ臭くなって寝ようとした時、あるとても身近な霊波と感じ取った。
「…シロ?」
「どうした、タマモ。」
「いま、シロの気配がした。結構近いみたい。」
「よし、行ってみよう。タマモ、案内を頼む。」
「わかった。」
 横島夫妻の束の間のデートも終了し、タマモを先頭にして樹海の中を進む2人と1匹。5分ほど歩くと横島とキヌにも分かるほどシロの霊波が強く感じ取ることが出来た。
「近いみたいだな。」
「はい。大変な目にあっていないといいですけど…」
「シロだったら大抵の事は大丈夫さ。」
「あのバカ犬だったら殺しても死なないでしょ。」
 タマモが言ったとたん、シロの気配が一気に増幅された。そして
「狼でござる!!」
 の決まり台詞(?)と共に横島達の目の前に犬塚シロが飛び出して来た。
「あ、シロ。」
「げ、先生…」
「なにタマモを困らせてんだ。さんざん心配させやがって。帰るぞ。」
「先生、拙者の事探しに来てくれたでござるか?」
「ああ、タマモの応援要請を受けてな。」
「うう、感激でござるーー!」
 いつもながらに驚くべき速さで機嫌を直し、泣きながら飛びつこうとしたシロがなぜか横島の寸前で立ち止まった。
「? どうしたんだシロ。言いたくないが、飛びつかないのか?」
「近くに妖怪がいたのを忘れてたでござるよ。」
「んな大事な事を忘れるな!」
 スパコーン! 何処からか出てきたハリセンできれいな音を立ててシロの頭を殴る横島。もう一発かまそうとしたところを、どうにかしてキヌに押えられた。
「いたいー! なんでなぐるでござる!?」
「お前な、その周りにいる妖怪は間違いなく「S−」の強力妖怪なんだよ!」
「なにいーーー!?」
「しかも3匹ね。」
「なんだって?」
「気配が3匹分ある。」
「美神さんからの情報だと1匹だって…」
「まさか美神さん、忘れてたんじゃ…それよりも忠夫さん、気配が近づいてきますよ。」
「みてえだな…よし、おキヌちゃん、結界を展開してくれ!」
「はい!」
 横島に言われた通りに結界を展開するキヌ。完成したところに横島の文珠結界を張り、突っ込んで来る妖怪からのショックに耐える準備をした。妖怪はどうやらとんでもないくらいにゆっくりと移動しているらしい。
「クッ…なんて霊圧だ! 結界を二重に張っててもビンビンと感じやがる!!」
「やっぱ、「S−」は違うわね…」
「タマモちゃん、なんでそんなに楽しそうなの?」
「だって久しぶりなんだもん、本気で暴れられるの。」
「そうでござる! タマモ、どっちが先に妖怪を倒せるか勝負でござる!」
「妖怪もちょうど3匹いるし…その勝負、乗ったわ。」
 妖怪との距離が10mなったとたんに結界から飛び出すタマモとシロ。横島とキヌは妖怪の正体を見極める為にギリギリまで結界にいる事にした。
「ちょうどじゃないだろ3匹って…それよりもおキヌちゃん、装備はどれくらいある?」
「えっと…軽装備で来たから破魔札が10枚くらいと、霊体ボーガン、神通棍があります。」
「10枚か…んじゃその破魔札の力を文珠で増幅して使うか。」
 横島は文珠を2つ繰り出し『増』『幅』の2文字を浮き上がらせて、破魔札の霊力を増幅させた。妖怪の方を見ると、タマモとシロが3匹を相手にまさかと思うくらいに持ちこたえていた。
「さすがに妖怪は違うな。よし、俺は文珠の『剣』と霊波刀で戦うから、おキヌちゃんは霊体ボーガンで援護してくれ。」
「わ、私も前線に行きたいです!」
「え!?」
「私、いつも後方援護ばっかりで忠夫さんの傷を治すくらいしかしていなかったので…私も前線で戦えるようになりたいんです!」
 キヌの言葉の一つ一つに耳を傾けてしばらく押し黙る横島。
「…出来ればでいいんですけど…」
 恐る恐る言うキヌに対して、ゆっくりと口を開いて出てきた言葉は。
「わかった、それじゃ一緒に行こうか。…前線に出たからには死んでもおキヌちゃんは守るからな。」
「大丈夫です! 私だって何があっても忠夫さんを放しません!」
「よし! 一気に片付けるぜ!!」
 文珠の『剣』と神通棍を持って飛び出す横島とキヌ。
  前方ではシロとタマモが3匹の妖怪を相手に戦っていたが、そのうちの1匹が横島達に気付くと、シロタマをほかの2匹に任せて横島達めがけて突っ込んできた。
 ガギイッ!! 妖怪の剣のような鉤爪と横島の文珠『剣』、キヌの神通棍が火花を散らしてぶつかり合った。
「キャッ!」
「クウッ!!」
「ガルルルル!!」
 3人は互いに間合いを取り、相手の能力を見極め様とした。
「なんてパワーだ。しかも、移動は遅いくせに戦闘になると速さが格段に上がってる。」
「あれじゃ文珠は当たっても発動しそうにないですね。」
「ああ。ホントは『浄』を使って簡単に倒そうとしたんだけどなあ………そうだ。」
 横島とキヌが話している間に、『隙が出来た』と考えて一気に間合いを詰める妖怪。しかし、横島達は全くそれには気付いていなかった。………ふりをしていた。
「かかったな!」
 横島は剣を構えた。妖怪は少しだけスピードを落とし腕を振り上げた。その瞬間、横島の目にも止まらぬ剣の突きが綺麗に決まり、妖怪はその動きを止めた。
「? 忠夫さん、さっきまであんなスピードではなかった気が…」
「ああ、これのおかげだよ。」
 そう言って、キヌに見せた剣の後ろには『速』の文珠がくっ付いていた。
「『速』で突きのスピードを霊力の許す限り上げてぶっさしたんだ。」
「はぁ〜、忠夫さんはやっぱり美神さん譲りの反則技が得意ですねぇ。」
「応用ワザと言って欲しいな。」
「横島! なんなの今の。横島が妖怪のやつを突いたとたんに、後ろからなんか黒いのが飛んでったんだけど。」
 妖怪を倒したタマモが横島とキヌのもとへやって来た。シロも遅れてやってくる。
「黒いのもの? まさか、あいつの本体なんじゃ…」
『今ごろ気付いたか。』
 どっからともなく聞こえてくるドスの聞いた声。先ほどとはケタ違いの霊力が辺りを支配していた。
「何処にいるんだ?」
「周りが霊力で支配されてて居場所が掴めない。」
『……おまえ等、本当に分かってないのか?』
「はあ? 分かるわけがないだろう。」
「忠夫さん、タマモちゃん、そんな挑発するようなこと…真上にいるじゃないですか。」
『わかっていたのか! …この私をバカにしやがって…』
「そんなことはどうでもいいが、お前、一体誰だ?」
「そう言えば、そんな根本的なものが分かってなかったわね。」
 横島の問いに納得するシロタマと、ずっこけるキヌと妖怪。
「忠夫さん! そんな呑気なこと言ってる場合じゃ…」
「分かってるって。これも作戦のうちさ。」
『いいだろう、我の名はローミエンヌ。アシュタロスの後を継ぐ者なり。』
 ローミエンヌが姿を現しながら言った言葉に、固まり立ち尽くすキヌと横島。横島に至っては怒っているようにも見て取れた。
「アシュタロス…? 誰でござるその人は。」
「……四年前に、美神さんと忠夫さんが倒した魔族よ。とても強くて美神さんと忠夫さんの合体でやっと倒したの。」
「もっとも、アシュタロスのやロウよりも遥かに霊力は低いがな。こいつは。」
『言わせておけば…まあいい。人間達への見せしめのためにそこの赤いバンダナを巻いたやつを殺すとするか。』
「……れてたまるかよ。」
 横島がボソリと言ったが、ローミエンヌには聞こえずそのまま霊波を作りながら飛びこんできた。
「テメエなんざに殺されてたまっかよ!!」
『なにっ!?』
 横島が振り下ろした霊波刀を辛うじて避けるローミエンヌ。
『くうっ! 人間のくせになんてスピードだ!?』
「テメエみてえな「エセアシュタロス」なんかに負けるわけねえだろ!!」
「エセアシュタロスって…偽者ってわけじゃないんですけど」
『チッ…こうなったら!』
 横島の勢いに押され気味のローミエンヌは、標的を横島からその横にいるキヌに変え、大量の霊波をキヌに向かって放出した。
「!?」
「おキヌちゃん、危ない!!」
 シュドォォォォォォン!!!! 巨大な爆音と共に当たりが煙に包まれた。キヌは煙で周りが見えなかったが、自分の上に横島が乗っかっている感触だけは感じられた。
「忠…夫さん?」
「………………」
「忠夫さん? どうしたんですか?」
「うぐ…っ」
「おキヌちゃん、横島がどうしたの!?」
「センセエ――!!」
 キヌの呼びかけに対し、呻き声しか返さない横島。キヌはローミエンヌの再度攻撃に注意したが、幸い、向こうも煙幕によって標的を見失ったようだ。遠くでタマモとシロの声がする。
 攻撃が来ないことを確認すると、キヌは急いで横島を抱き起こした。横島はぐったりとして重く、背中から大量の出血が見られた。
「た、忠夫さん!?」
「はあはあ…油断したよ…結界が作動する前に霊波が飛んできちまった」
「すいません、私のせいで…」
「言っただろ…前線に出たらおキヌちゃんは死んでも守るって…」
「だからって…死なないで下さいよ! あなたはもうすぐパパになるんだから!」
「…なんだって…?」
「意識が薄れるのも忘れて思わず声を大きくする横島。キヌは少しも当てることなくもう一度冷静にいった。
「私のお腹の中に…私とあなたの大事なひとが出来たんですよ…」
 「おキヌちゃん…それならなんで前線に出ようなんて…」
「だって…少しでも忠夫さんの側にいたかったから…」
「………………」
 キヌの告白に自分の苦しさも忘れて微笑む横島。しかし、そんなことを言ってほのぼのとしているわけにはいかなかった。
 横島はなにも言わずに『治』の文珠を作りだし、自分の体に当てた。傷は見る見るうちに治りもとの健康体に戻った。そして、キヌに言った。
「おキヌちゃん、そう言う事はもっと早く言ってくれ。」
「え…?」
「子供が出来たってことは…おキヌちゃんには嫌でも待機してもらわないと。」
「すいません…」
「よし、タマモ、シロ」
「なに?」
「おキヌちゃんの防御を頼む。それと、シロは俺と前線に出ろ。」
「わかったでござる!!」
「…りょーかい。」
 横島はタマモとキヌをその場に残し、薄っすらと見えるローミエンヌの影目指して走り出した。


※この作品は、人狼さんによる C-WWW への投稿作品です。
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