GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-11 「新生!美神所霊事務所」
著者:人狼
横島達が事務所を辞めて一ヶ月。美神所霊事務所は急性の人員不足に陥ってしまった。
「あ〜つかれた〜!!」
なんだかとんでもないくらいに疲れた美神は、仕事から帰ってくる早々にソファへと直行した。するとそこに、アイスコーヒー2つを持った愛子がいた。愛子は美神の向かいのソファに座りながら言った。
「おつかれさま。アイスコーヒー入れました。」
「アリガト愛子ちゃん。」
「やっぱり大変ですか、4人分の除霊の仕事を2人だけでこなすのは。」
「そーでもないわ。横島クンと二人しかいなかったときだってこのくらいこなしてたわ。」
美神は床に死体のように転がっているシロを一瞥しながら言った。シロのほうはへばってしまってそれどころではないが。
「…でも、主力が3人も抜けちゃったのはさすがに辛いわね…」
一息ついたあと、美神が不意に言った。
「ですね。そう言えば、横島クンたちはまだ仕事始めて間もないのにどうして、バイトの子なんかを入れたんでしょうね?」
「ああ、あれね。あれは横島クンが冗談で出した求人広告にかかったらしいわよ。」
「冗談で? どういうことです?」
「『給料でない代わりに住み込みです。来たい人はどうぞ。』なんて言う馬鹿げた広告を出したらしいの。んで、横島クンが一応わけを聞いてみると『親から勘当されて行くところがないから』ってことらしいのよ。」
どうやら左沢(あてらざわ)ユウコはくらーい過去を持っているようだ。
「横島クンの性格からすると…」
「そ。その場で即採用。まったくあいつもお人よし過ぎるわ。」
「それが横島クンなんじゃないですか。」
「フン…」
美神はちょっとだけ機嫌悪そうにそっぽを向くと、残り少ないアイスコーヒーを一気に飲み干した。
「ま、人のこと気にする前に、自分のことを気にしなきゃね。愛子ちゃん、ちょっと事務所空けるから後お願いね。」
「どこに行くんです?」
「先生のところよ。ちょっとは使えるGSを紹介してもらわなきゃ。」
「わかりました。行ってらっしゃい。」
愛子の言葉を背に、美神は唐巣新婦のところへ行く準備をはじめた。
「…つまり、今の状況では事務所が大変でしょうがないから、新しいGSを紹介してほしいんだね。」
その前に何を話していたかはわからないが、唐巣新婦は美神のいいたいことを理解したらしい。
「誰かいい人いませんか?」
「実は今日、GS協会のほうに事務所紹介願書を提出した人が2人いてね。この子達だ。」
唐巣は美神の前に2枚の紙を差し出した。美神はその紙を見た瞬間、はっと息を呑んだ。
「この2人は…」
「君も良く知っている子達だからね。会長に頼んでキープさせてもらってたんだ。ちょっと違反気味だが…」
「確かに知ってるけど…何でこの子達が協会に願書を。あれほどの実力だったらどこでも行くあてはあるだろうに。」
美神にそういわせた2人、それは伊達雪之丞と弓かおりの2人だった。
「雪之丞君はいまだにメドーサの手下だったことで敬遠してる人がいるらしい。」
「見る目のないやつら。」
「ははは…やけに雪之丞君の肩を持つじゃないか。」
「な…! そんなことないわ!」
ついむきになって言い返す美神。彼女はまだ唐巣神父に口では敵わないようだ。
「そ、それより弓ちゃんの願書を出す理由は何なんですか。」
「それがねぇ。彼女はここ1年で10件の事務所で仕事をした経験があるんだが、あの強気な性格のせいで雇い主と馬が合わずに自主退社しているんだ。」
「何でまた…雇い主も引き止めないのかしら。」
美神はこの2人の願書を見ながらうーんと唸った。
確かにこの2人を入れれば横島、キヌ、タマモの穴埋めをほぼ出来るだろう。しかし、薄給でコキ使えた横島と、お小遣い程度のお金と油揚げですんだタマモとはわけが違った。(ちなみにキヌには通常給料を渡していた。)雪之丞も弓もそれ相当のGSである。やはり給料もそれなりのものでなければならないだろう。特に雪之丞はそんくらい渡さないと即行辞めるかもしれない。でも、メドーサの一件で恩を売ったんだから、横島並みの給料でも文句は言えないかも、いやそんなわけないか…
というようなことが美神の頭の中でグルグルと回っていた。やはり美神の最大の悩みは「金」だろう。
美神の葛藤を見ていた唐巣神父は、頭を抱えて悩む美神に助け舟を出すように言った。
「美神クン、一度でいいからこの2人と話してみたらどうだい。もしかしたら、君が考えているよりもいい条件で受け入れてくれるかもしれないよ。」
美神、しばし考える。
「……そうですねぇ。センセ、助言ありがとうございます。先生の言うとおり、この2人にあってみますわ。」
「そうかい。じゃあ、私から連絡しておくから…7時くらいに君の事務所でいいかな?」
「ええ。よろしくお願いしますね。」
美神は唐巣神父に礼を言うと、愛車のコブラを一気に吹かし、事務所へと急いだ。
事務所に帰り着くとすでに6時を回っていた。
「あ、美神さん、お帰りなさい。」
「ただいま。シロは?」
「上で寝てます。」
愛子は天井を指差しながら言った。
「そう。それより愛子ちゃん、今日の7時から雪之丞と弓ちゃんが来るから、準備してくれない?」
「それはいいですけど、どんな準備をすれば?」
「うーん、コーヒー入れるくらいでいっか。」
「はい、わかりました。」
愛子は素直にうなずくと、パタパタとキッチンのほうへと歩いていった。下らぬ補足だが、愛子は美神の事務所内だけなら机から離れて動けるようになったらしい。
「さて、と。」
美神は、再び唐巣神父に貰った雪之丞と弓の事務所紹介願書に目を通した。面接(に近い)事をするならば、やはり相手の情報を少しでも把握しておかなければならないからだ。
「…雪之丞の奴、なに馬鹿正直に「メドーサの手下経験あり」なんて書いてんのよ。これじゃ紹介がくるわけないじゃん。」
紹介願書を出したのは今日なんだから、紹介がくるわけないが。
「弓ちゃんは…「GS資格試験主席合格」ってこと以外は普通ね。でも、この実績は大きいか。」
「キャアアアアアアア!?」
キッチンから玄関から愛子の悲鳴が聞こえた。何事かと思い玄関へ向かうと、そこには破魔札を持って愛子を追いかける弓と、弓から逃げ惑う愛子、呆然と二人を見ている雪之丞がいた。
「な、なにしてんのよ。」
「た、助けて美神さん! チャイムが鳴ったから玄関を開けたら、この人が私を見るなり…この妖怪が! って襲ってきたんです!」
「お姉さま、その妖怪を引き渡してください!」
怯えている愛子と目が血走っている弓。美神はやれやれとため息をつくと、弓にわけを話した。
「弓ちゃん、この子は愛子ちゃんて言って、横島クンの学校にいた妖怪なの。でも、卒業と同時に横島クンの紹介でここで事務の仕事をするようになったわけ。」
「よ、妖怪が就職!? そんなことあっていいんですか!」
「弓よ。相手が相手だ、何があってもおかしくはねえ。」
「雪之丞〜ここで死にたいの?」
美神の声に急にドスが利く。雪之丞は蛇に睨まれた蛙のようにその身を硬直させた。
「さ、愛子ちゃん。キッチンに行ってコーヒーを入れてきて頂戴。」
「は、はい。」
美神に促され、愛子は声を上ずらせながら返事してキッチンへと向かった。
「二人とも、応接間にきてもらうわよ。」
「お、おう。」
「わかりましたわ。」
応接間に行くと、弓と雪之丞はソファに座らされた。そこにちょうどコーヒーを持った愛子が現れ、3人の前にコーヒーを置いた。
「ど、どうぞ。」
「…ありがとうございます。」
愛子と弓のぎこちない会話。美神は心の中で大丈夫か? とため息をつきながら話を進めた。
「二人とも今回呼んだのは、言うまでもないけどこれで。」
「ああ、事務所紹介願書か。弓も出してたのか。」
「雪之丞さんこそ、それで何枚目の願書かしら。」
「なにぃ!」
「なんですの!」
いきなり戦闘体勢。ここで美神の神通棍が美神の霊力を受け、急激に出力を増した。
「あんたたち、そこに座りなさい。」
「わ、わかったよ!」
「お姉さま、そんなにおこらないで〜」
「……まあいいわ。で、最初に給料のことなんだけど、弓ちゃんはおキヌちゃんと同じでいいかしら?」
「お姉さまのもとで働けるならば幾らでもいいですわ。」
「OK。雪之丞は…」
結局心配していたのは金のことだけらしい。雪之丞は心の中で思った。だから、美神の言おうとしていることも容易に予測できた。
「横島と同じってのは勘弁な。」
「あら鋭い。ま、予想してたけど。なら、横島クンのに500円上乗せでいいかしら?」
「ちょっと待て。横島は幾ら貰ってた。」
「時給650円の週5日8時間。。でも、自分で除霊して合わせて月30万は稼いでたかな。」
雪之丞に聞かれた美神は、特に悪びれた様子もなくすんなりと言った。
「650って…上乗せしても1150円かよ。」
「これでも横島クンよりいい条件なんだから感謝しなさいよ。で、二人ともどうする?」
二人の顔を見ながら返答を待つ。
「もちろんお願いいたしますわ。」
弓は一発OK。
「ま、給料に関しては追々話しつけるとして、今はここで働いてみるか。」
「二人とも採用ね。じゃ、これからの細かいことを決めてくわよ。」
美神、弓、雪之丞はテーブルに集まって、働く時間や除霊報酬の上納率などをきめていった。そのとき。
「ふぁぁああぁぁああ、よく寝たでござる。」
いままで屋根裏で寝ていたシロが起きて、下にやってきた。
「! 妖怪!? 除霊します!」
「うわあっ!? なにするでござる!」
「ちょっと弓ちゃん!?」
愛子のとき同様、シロを除礼しようとする弓。美神は弓を必死に抑えながら思った。
『この子達雇って、ホントーに大丈夫なのか…?』
何がともあれ、新生美神除霊事務所の幕開けである。
「おまちなさーい!!」