GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-14 「過去との決別」

著者 : 人狼


 タマモがGS試験を合格・優勝し、正式なGSになると同時に、横島GS事務所のマスコット(?)左沢ユウコも、正社員として取り立てられた。理由としては、経営も軌道に乗り、金銭的にも余裕が出てきたので、今まで無賃住み込みとして働いてもらったユウコの働き振りを認め、正社員として迎えたのだ。
 もちろん、ユウコにとっては願っても無い話で、返事二つでOKした。そしてそれを期に、ユウコは、この事務所に入る前の自分を、家族同然に扱ってくれる横島たちに話すことにした。

「横島ー、ユウコが話があるからリビングに来てくれってさ。」
「おおタマモ。わかった、すぐに行く。」
 タマモに呼ばれた横島は、今の今まで片付けていた資料をその場に置き、ユウコの待つリビングへ向かった。
 リビングにはあさひを抱えたキヌと、いつもと違って神妙な顔をしているユウコがいた。
「話って何?」
「横島さん。…あの、せっかく正式な社員にしていただいたのに、自分のことを言わないのはズルイ気がしたんで…。」
「? どーゆうこと?」
「アタシ、親を刑務所に入れてきたんです。」
「!?」
 ユウコは一言一言、かみしめるようにゆっくりと言った。
「入れてきたって…何があったんだ?」
「アタシの父親と母親、表向きは産婦人科医なんですけど、裏では麻薬業者の元締めをしていたんです。」
「麻薬…」
「産婦人科医の娘……だからおキヌちゃんの破水の時…」
 呆気に取られている横島ら3人を見ながら、ユウコは話を続けた。

 5年前、ユウコは中学生だったが、学校へも行かず、親から貰った金で毎日遊び暮らしていた。酒、タバコは当たり前のように飲んだり吸ったりしていたし、深夜徘徊で補導されたことも数知れずあった。俗に言う「不良」である。
 しかし、ユウコは何に変えても絶対にやら無いと決めたことが2つだけあった。1つは「オヤジ狩り」と呼ばれるもの。自分の親と違って、家族を養うために必死になって働いている人から、殴って金を取るのも、非常に忍びなく人間のやる事とは思えなかったからだ。1度、どこぞのオヤジを殴り倒して15万稼いだと自慢している男の歯を、2,3本折ってやったこともある。
 そしてもう1つ、何があってもやらなかったことがある。それが「麻薬」だった。
 ユウコの家には、ユウコが小さかったときからいろいろな人が訪れ、その度に白い粉を買ってい行く。ある時、ユウコが白い粉買った人の後をついて行くと、その人は裏路地に入っていき白い粉を水に溶かして注射器で注射した。その途端、その人は狂ったように叫び声をあげ、走り出したかと思うと道路のど真ん中へ飛び出し、車に轢かれて即死した。その印象が強すぎて不良化したときも、ユウコは麻薬に手を出そうとしなかった。
 その状態が2年続き、ユウコは都内の中堅高校に進学した。元々勉強が出来ないたわけではなかったので、中3のうちに内申を少々あげてやり、無事入学できたのだ。
 ユウコは進学したのを期に、あることを計画した。それは、自分の両親を警察に突き出し、目を覚ましてもらうことだった。そのために、ユウコはまず学校で「浮いた存在」になることを目指した。愛想よく友達を作ってXデーに
「遊びに行っていい?」
 と聞かれると、性格上断れなくなってしまい、計画が台無しになってしまうからだ。

 そこまで言って、ユウコは一息ついた。が、誰一人として喋りだすものはいなかった。それだけ、ユウコの話が重かった。
「な、何黙っちゃってるんですか! やめて下さいよ、暗いのは!!」
「だって、ユウコちゃんがそんな苦労を…」
 キヌに至っては既に涙目になってしまっている。ユウコは、頭を書きながら照れくさそうに言った。
「まぁ、普通の人と違うと言えば、確かにそうなんだけど。」
「アンタみたいなのは、日本中捜しても他にいないんじゃない?」
 タマモも珍しく、話の途中で眠ったりしないで、ユウコの話の内容にただ呆然としていた。
「…まだ続きがあるんですけど…いいですか?」
「ああ、すまない。話を続けてくれ。」
 横島の言葉に頷くと、ユウコは再び話し始めた。

 入学して1年。ユウコは予定通りクラス、むしろ学校で浮いた存在になった。授業中に寝ていても、先生にすら相手にされず、話し掛けてくる友人も作ることはなかった。
 そしてその年の夏。ついに結構の日がやってきた。夏休みに両親が大きな取引で、1週間ずっとユウコ1人の期間が出来たのだ。当初の予想通り、夏休み中にユウコに誘いをかけてくるクラスメイトはいなかった。
 両親が出かけた初日、父親の書斎には当たり前のように麻薬の実験結果や、売り上げ、取引先リストなどがうずたかく積まれていた。
 ユウコは集められるだけの資料を、4日間かけてスポーツバッグ2つに詰め込んだ。5日目に資料を整理して6日目の朝、警察に行こうとしたとき、事件は起きた。
「聖ちゃん…!?」
 ユウコの目の前にいたのは、幼稚園、小学校、中学校と12年間同じクラスだった幼馴染の武井聖司だった。高校入学以来、中学の友人とも一度も連絡は取っていなかったのだが、武井は夏休みになっても、1歩も外に出ずに家の中でゴソゴソ何かやっているユウコを心配したらしい。
「まぁ、そういうことだ。」
「別になんでもない、家の中を掃除してただけ。」
「掃除、ねぇ…。コレをみてもそんなこと言えるか?」
 武井がユウコに1枚の紙を見せた。
「あ…。」
 ユウコが見たのは「新型麻薬AFX―2152―T 人体実験結果」と書かれた資料だった。
「…話すから上がって…」
 観念したユウコは、力なく武井を家の中に招き入れた。そして、中学時代からやっていた全てのことを包み隠さず話した。
 武井は何も言わなかったが、ユウコの話の酷く驚いていた。話し終わったユウコは、武井の次の反応を待った。
「そんなことがあったのか…」
「……………。」
「苦労したんだな、お前もさ。」
「聖ちゃん…?」
「よし、じゃあいくか。」
今度はユウコが驚く番だった。
「え?」
「何間抜けな面してんだよ。行くんだろ、警察によ。」
「え、でも…」
「何だよ。」
「それじゃあ聖ちゃんに迷惑が…」
「大馬鹿野郎!!」
 武井の怒鳴り声にユウコは思わず首をすくめた。
「ここまで教えてもらって今更迷惑だぁ!? つまんねぇこと言ってんじゃねえ!!」
「でも、誰かに知られて親に密告されたらって…」
「俺がそんなに信じられねえか!」
「違う! 聖ちゃんには何度も助けてもらおうと思った。でも、こんなことで、聖ちゃんを危険に巻き込みたくなかったの!」
 そうか、とそれっきり武井は黙ってしまった。
 二人の間に、緊迫とも穏やかともいえない微妙で、静かな空気が流れる。その間、ユウコの顔は赤くなったり青くなったりと、見てて飽きない変化をしていた。
「…ユウコ」
「はい?」
 いきなり呼びかけられて、声がひっくり返ってしまった。
「お前、親を警察につき出した後、どーするきだ?」
「…多分、学校やめて働く。」
「…そっか。……じゃあ行くか。」
「うん…」
 ユウコと武井はもう戻ってこれないかもしれない家を後にし、警察署へと向かった。
 話を聞いてくれた刑事は、最初こそ疑わしげな目でみていたものの、ユウコと武井が持ってきた資料を見せると、すぐに警察官の顔になった。そして、いろいろ話した結果、捜査する事となった。
「よく、親を警察に突き出す気になったね。」
「あんな人たち、親とは認めない。」
 気にさわるような言い方をする刑事に対し、文句を言いかけた武井を制したユウコは、静かだが迫力のあるオーラを出し、その質問をした刑事を少々恐怖させた。
「そ、そうか。これからどうするつもりだね。何なら公共の孤児施設にでも…」
「うちで預かります。」
 ユウコは驚いて武井の顔を見た。いままで、怒ったイノシシのように鼻息荒かったのに、実はそこまで考えていたとは…。
「君は彼女の親戚かね?」
「はい、従兄弟で家が隣同士なんです。」
 武井は動揺することなくぬけぬけと言う。その口調に刑事も納得したようで、それ以上はなす事はなかった。
 二人は、今から家宅捜索の手続きをするから、と早々と家に返された。
 警察署を出たユウコと武井は、家に帰る気にはなれなかったので、近くの公園のベンチに並んで座った。
「…聖ちゃん、ありがとね。」
 ユウコは武井に、先ほどのフォローのことについてお礼を言った。
「…ああ。施設に入れられたんじゃ、働けないだろ?」
「うん…。」
「それよりもよ、資料を持ち出したこと、ばれて大丈夫なのか?」
「それは大丈夫だよ。うちの親、アタシが知らないと思ってるみたいだから。麻薬のこと。」
「…間抜けな親だな。…しょーがねぇ、さっさと家に帰ってそのうち来る警察の人間どもをまとうぜ。」

 1週間後、ユウコの両親がくつろいでいるときに警察がきて、強制の家宅捜索が行われた。家の中からは麻薬の資料、麻薬、使用者の行動を記録したVTRがそこかしこから押収され、ユウコの両親はその場で逮捕された。
 1人になったユウコは、住み込みのバイトのできるところを探し出し、1ヵ月後に行われた裁判を武井とともに傍聴した。両親は裁判官から終身刑を言い渡され、控訴すると思われたが、娘に告発されたショックを受けたのか、それもすることなく刑を受け入れた。
「終わったな…」
「うん…。あっという間だったね。」
「……ユウコ…どうせならほんとに俺ん家に…」
「気にしないで。アタシ、住み込みでバイトできるトコに就職したから。」
 ユウコは、武井の言葉を最後まで聞こうとはしなかった。もし聞いてしまったら、本当に武井の言うとおりにしてしまう気がしたのだ。そうなったら武井に今以上に迷惑を掛けると思った。
「そうか…。いつからなんだ、そのバイト。」
「…明日から。」
「早いな。それじゃあ、今日はうちに泊まれよ。」
「…変なコトしない?」
「しねぇよ!」
「ならいくー!」
 1ヵ月半前にあって以来見ていなかった、ユウコの子供のような笑顔を見た武井は、コレなら大丈夫だ、と確信した。

「……で、その次の日からこの事務所で働かせて貰ってるわけです。」
 ユウコは冷めてしまった紅茶を飲みながら言った。今まで張り詰めていた空気が解きほぐされ、タマモはため息と同時に椅子に崩れ落ち、キヌは目にたまった涙をハンカチでぬぐい取った。
「そうなのか…。その武井くんて子、ユウコちゃんの為に凄く頑張ったみたいだな。」
「はい! 聖ちゃんには小さいときからよく助けられました。」
 武井のことを話すとき、ユウコはなぜか誇らしげになる。その態度を見て、キヌはあることに気付いた。
「ユウコちゃん」
「はい?」
「もしかして、その武井くんて子…好きなんでしょ。」
「…はい!!」
 何のためらいもなく肯定するユウコに、逆にキヌが面食らってしまった。そんな今のユウコを見ていると、中学、高校の苦労は微塵も感じられない。今は、この横島除霊事務所で本当に元の小学校時代のユウコに戻ったようだ。
「ははは…。まぁでも、どんなの大変なことがあったとしても、ユウコちゃんはユウコちゃんだからな。これからも仕事、頼むよ。」
「!!……はい!」
 横島の言葉の意味。それは、ユウコの過去を全てを知った上で、ユウコをた上でこれからも仕事を頑張ってくれ、と言う意味だった。
「ところで話は変わるんだけど、今から小学校の先生がウチに、社会科見学の下見に来るんだけど、ユウコちゃん、案内を頼むよ。」
「え? アタシですか? 横島さんは?」
「男相手じゃやる気が起きん!!」
 横島が胸を張って言うと同時に、ユウコは思いっきりこけた。キヌは笑ってはいたが、目は全く笑っていなくて、横島を引っ張ってガレージへと消えていった。
「……なんか、いつもとかわんないね。」
 ユウコは、静かになった応接間でしんみりと言った。
「当たり前よ。あの二人は美神さんの弟子だもの。オドロキはするけど、それだけよ。…横島達の弟子の私もね。」
「アタシ、この話をしたら、みんなから白い目で見られると思ってた。」
「んなことするわけないじゃん。あのお人よし夫婦がさ。」
 そこまで言うと、タマモは眠そうにファ〜と欠伸をして、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。それと同時に、キヌがあさひを連れて、横島がほっぺたに手形をつけて帰ってきた。
 ユウコは思わず笑った。笑いながら、今の自分の幸せさと、自分の周りの人たちの素晴らしさを心から神様に感謝した。そして、窓の外の風にゆれる青いイチョウの木を見ながら、武井に心の中で話し掛けた。
『聖ちゃん、今度会ったらアタシ………』

 玄関のチャイムが鳴り、ユウコは鼻歌交じりに玄関を開けた。


※この作品は、人狼さんによる C-WWW への投稿作品です。
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