極楽戦隊 ゴーストレンジャー

「 第一話 戦え、ゴーストレンジャー! 」 

Act.2



  

 街を颯爽と走る二台のマシン。 
 野太いエギゾーストノートは迫力満点である。 
 一台は青い2座のオープンスポーツカー「コブラファイター」。 
 令子の愛車、シェルビー・コブラ427SCをベースに、C−WWW極東の名物メカ 
ニック、横島がレンジャーマシンに仕立て上げた、ワンオフのスペシャルマシン。 
 令子の隣にはいつもおキヌが座っていた、風を切る爽快さがお気に入りなのである。 
 もう一台は白いハイルーフのアメリカン・ミニヴァン「アストロファイター」。 
 エミがステアリングを握るこのシェビー・アストロハイルーフLWBも、横島が腕を 
ふるって仕立てており、キャビン内部には所狭しと特殊機材が積み込まれている。 
 ゆったりとした助手席は、のんびり屋の冥子の指定席と化している。 
 だが、今日は後ろの席にマリアがじっと座っていた。 
 エミの心中は決して穏やかではない。 
 それは、今からみすみす敵の罠にはまりに行く緊張もあったのだが、エミ自身もまだ 
気付いてはいない感情のうねりがそこにあったのだ。 

「エミ、そろそろ目的地よ」 
「おっけー!」 
 イヤーレシーバーからの令子の声に、エミは我に返った。 
「エミちゃん、こっちも準備はいいわよ」 
 珍しく、冥子が緊張している。 
 エミにも判る、さすがの能天気娘も今回ばかりは勝手が違うらしい。 
「さて、どうなるワケやら・・・」 
 アストロのステアリングを操りながら、エミはつぶやく。 
 やがて、二台のマシンは、さびれた港に隣接する廃虚の工場へと乗り入れた。 

「マリア、ここで間違いない?」 
「イエス、ミス・レイコ」 
 マシンから降りた令子が、さっそく芝居を始めた。 
「ほーんとに、こんな所にカオスのアジトがあるワケ〜!?」 
 がらんとした工場に、エミの台詞の残響が残る。 
「じゃあ、マリアちゃ〜ん、案内して下さいな〜」 
「イエス・ミス・メイコ」 

「ふ、ふはははははっ、その必要はないんジャアっ!!」 

「あ、出た」 
 おキヌがぺろりと舌を出した。 
 振り返ると、廃虚のドラム缶の上に立つ、巨漢の男が目についた。 
「こりゃまた、ぶっさいくな奴ねー」 
 エミが正直な第一印象を述べた。 
「なんジャとっ、ワッシこそカオス様の優秀なる右腕、タイガー大佐なのジャぞ!」 
「あーあ、自己満足も極まれりって奴ね」 
 令子はげんなりと肩をすくめる。 
「や、やかましいっ、貴様らこそ、のこのこ現われたメス猫に過ぎんのジャっ!」 
「誰がメス猫なワケェ!」 
 エミが足元の石つぶてをタイガーに向け、思いっきり投げた。 
 かつーんっ! 
「ふぎゃっ!」 
 石つぶてを額に直撃されたタイガーは、その拍子にどんがらりんと転げ落ちた。 
「ばーか!、罠なんてのは重々承知なワケ」 
「く、くそう、こうなれば・・・ゾンビット! 行けぇ!」 
 タイガーの声に、辺りの闇から、染み出た様にゾンビットたちが現われてきた。 
「ギーェッ、ギーエッ!」 

 それとほぼ同時に、令子が叫んだ。 
「みんな、行くわよっ!」 
「ラジャー!」 
 令子達は精神を集中し、自らの気を左手首のブレスレット「GRアクセレーター」に 
集め、全ての感覚を解放し、高揚した自分を駆り立てて叫んだ。 

「スピリチア・コラボレーション!!」 

 辺りにまばゆいばかりの光が沸き上がる。 
 光の渦の中、戦士たちの誕生の瞬間。 

「レッドレンジャー、参上!」 
「ブルーレンジャー、参上!」 
「グリーンレンジャー、参上!」 
「ピンクレンジャー、参上!」 

「ゴーストレンジャー、見参!!!!」 
  


  
 一瞬、たじろいだタイガーが腕を振り上げた。 
「くそう、ゾンビット、かかるんジャ!」 
「ギーェッ、ギーエッ!」 
 ゾンビットの集団が、ゴーストレンジャー達を取り囲んだ。 
「甘いっ!」 
 その一角が弾き飛ばされた。 
 レッドレンジャーの振るう「神通ブレード」がその低い波動音を響かせていた。 
「ほーらほら、まとめて相手になってあげるわよっ!」 
 レッドは飛びかかってきたゾンビットを一閃、たちまち泡へと帰した。 

「まったくもー、キリがないワケねっ!」 
「ギーェッ、ギーエッ!」 
 グリーンは、手に馴染んだ「撃滅ブーメラン」を操り、本来なら不利なはずの屋内で 
ある事をまったく気にせず、次々と束にしてゾンビットを屠っていた。 

「癒されない哀れな魂よ、今この温かき光の元へと帰れ、ネクロマンス・ウェイブ!」 
 ブルーが唱え、その手から放たれた光の波がゾンビットの全身を覆うや、一瞬にして 
浄化されてゆく、それでもブルーに対おうとする者はそのオーラに弾き飛ばされた。 
「ギーェッ、ギーェエッ!」 

 一方、ピンクはじりじりとゾンビットたちに包囲されつつあった、だが当の本人は、 
まったくそれを気にしていなかった。 
「じゃあ、いいわね、いくわよ、今日はシンダラちゃんとバサラちゃんね〜〜」 
 キシャァァァァァッ! 
 ヴォォォォォンッ!! 
 ピンクの放った「式神ボンバー」の二匹が雄叫びを上げた。 
 鳥の式神・シンダラは縦横無尽に飛び回り、ゾンビットの首を次々に跳ね飛ばす。 
 牛の式神・バサラはその巨大な身体を震わせ、ゾンビットを丸ごと吸引してゆく。 
「ギィェエエエエエエッ!」 
 まさに阿鼻叫喚、ゾンビットの断末魔の悲鳴があちこちで上がる。 

「うあー、相変わらず悲惨だなー、あっちは」 
「ま、普段が普段だけに、一気にパワー出してんじゃないの?」 
 レッドとグリーンがピンクを見やり、冷や汗をたらす。 
「そんな事より、あいつを早く!」 
「おっけーっ!」 
 騒ぎに乗じて立ち去ろうとしたタイガーの姿を見つけ、レッドが追う。 
 グリーンは援護に回り、ゾンビットを一気に倒す。 

「待てっ、このやろうっ!」 
 物陰に身を隠したタイガー、レッドはひるまずにそこに飛び込んだ。 
 途端に衝撃と閃光。 
「きゃあっ!」 
 もんどり打って倒れたレッドに、ブルーが気付いた。 
「レッド!!」 
「大丈夫、なんともないわ!」 
 レッドは気丈に立ち上がり、暗闇を見据えた。 
「隠れてないで、出てきなさいっ!」 
「ふははははっ、なら姿を見せてやろう」 
 しわがれた声、おぞましい気配を発しながら、大柄な男が姿を現わす。 

「おまえはっ!?」 
「ようこそ、ゴーストレンジャーの諸君、ワシこそはドクトル・カオスであるぞっ!」 
 ビリビリ伝わる暗黒の波動に、ゴーストレンジャーは息を飲む。 
「・・・こいつが、ドクトル・カオス!!」 

「よくやったな、マリア」 
「イエス、ミスター・カオス」 
 ゴーストレンジャーの背後に、マリアがいた。 
 ゾンビットに気を取られているうちに、退路を失ってしまったのだ。 
「ふははっ、罠だと知っての勇気ある行動、一応は褒めてやるが詰めが甘いのぅ」 
「なんですって!」 
「貴様たちがこれ以上、目障りにならん様に、ここで始末するのが得策なんじゃ」 
「ふんっ、あんたの方が始末されるワケよっ!」 
 グリーンの言葉を、カオスはあざける。 
「ほう、そう言うのならやってみるがよい、じゃが、その前にワシの最高傑作、究極の 
殺人兵器・マリアが貴様らの息の根を止めてくれようぞ、いけっ、マリアっ!」 
「イエス、ミスター・カオス!!」 
「きゃっ!」 
 瞬間、ピンクが背後から弾き飛ばされた。 
「ピンク!」 
「ロケットアーム!」 
 間髪を置かず、マリアが攻撃してきた。 
「ちっ、やっぱりこうなるワケねっ!」 
 アームを避けたグリーンが、撃滅ブーメランをぶん投げた。 
 だが、マリアは動ずる事なく右腕からマシンガンを飛び出させ、打ち落とした。 
「ビカラちゃん、お願い〜!」 
 ピンクは猪の式神・ビカラを放つ。 
 だが、マリアは勢い良く突進してきたビカラを正面からがっちり受け止め、ぶんぶん 
振り回して投げ飛ばした。 
「ネクロマンス・ウェイブ!!」 
 ブルーは浄化の波動でマリアの動きを止めようとしたが、マリアには効かなかった。 
 しかし、ブルーは無表情なマリアに必死に語りかける。 
「マリアさんっ、ダメッ! あなたはそんな事をしてはいけないっ! あなたは人間を 
傷つけてはいけないのっ、あなたにはこの事が理解出来るはずっ、信じてるっ!」 
 だが、マリアの瞳の色は変わらない、不気味に冷たい氷の色のままだ。 
「無駄よ、ブルー、説得が通じる相手じゃないわ」 
「・・・でも、レッド・・・」 
「どっちにしろ、やるっきゃないだけよ」 
 レッドは決意した。 
  


   
「神通ブレード!」 
 レッドは正面からマリアと対峙して、火花を散らした。 
 力技には自信がある、レッドは自分の力を信じて戦った。 
 キィン!キィン! 
 神通ブレードは、マリアの腕に弾かれ続ける。 
 一瞬でもいい、隙が欲しい。 
 だが、マリアはそれを許さない。 
 キィン!キィン! 
 二人の力の均衡を崩すのに、何かが必要なのだ。 
 だが、「それ」に先に気付いたのはカオスの傍にいたタイガーだった。 

「カオス様、この上に走る高圧電線の一つが生きております」 
「ほう、なるほどな・・・やるがよい、タイガー」 
 陰惨な含み笑いでカオスは命令した。 
「はっ!」 
 タイガーが姿を消した。 

 キィン!キィン! 
 レッドとマリアは、互いに決め手のないまま戦っていた。 
 激しく立ち回るその様子に、他のレンジャーも手を出せない。 
「このままじゃ、ラチがあかないワケっ!」 
 苛立ったグリーンが叫んだその時、ブルーは視線の端に何かを捉えた。 
 考えるより先に身体が動いた。 

 刹那。 
 辺りに閃光がほとばしる。 
「きゃあああああああああっ!!」 
 天井から垂れ下がってきた高圧電線を掴んだブルーの全身が硬直する。 
「ブルーッ!!」 
「!?」 
 レッドとマリアの動きが止まる。 

「ブルー、何やってんのよっ!!」 
 思わずレッドが駆け寄って、ブルーを助け起こす。 
 スパークしたショックで、ブルーの変身は解けていた。 
「・・・・なにか、見えたから、危ないと思って・・・」 
「いくら戦闘服が耐電耐圧といっても、無茶よっ!!」 

「これって、どういうワケ!?」 
 怒りに震えるグリーンが、カオスとタイガーを睨む。 
「くくく、これもまた、作戦じゃ」 
「そうジャ、そうジャ・・・」 
「・・・・あんた、私をマリアごと潰す気だったのね」 
 レッドの押し殺した声は、怒り心頭に達している証拠だ。 
「・・・・・!?」 
 レッドの言葉に、マリアは少し反応した。 

「・・・マ、マリア・・・」 
 レッドに抱えられたおキヌがマリアを呼んだ。 
「あ、あなたは私たちと戦っちゃダメ、もっと他にしなければならない事があるはず、 
あなたがマリアという名を持つ限り、あなたは兵器なんかじゃない・・・」 
「・・・・・」 
 マリアの返事はなかったが、ただ、じっとおキヌの目を見ていた。 

「マリアちゃんは〜、あなたが作ったんじゃないの〜! それなのに〜!!」 
「それがどうしたというんじゃ! 兵器は兵器でしかない、我らの野望の為に尽くすの 
がその使命じゃろうて!」 
「ひど〜いっ!」 
 ピンクもカオスの非道さに心から怒った。 

「ふははは、所詮人間は弱いものよのう、兵器に情けをかけてどうする馬鹿馬鹿しい、 
よし、マリア、今のうちにゴーストレンジャーを血祭りに上げるんじゃっ!」 
「後を頼むわっ!」 
「ラジャー!」 
 おキヌを抱えたレッドは後ろに下がった。 
 身構えたグリーンとピンクはマリアと対峙する。 
 だが、マリアはうつむいたまま動かない。 

「どうしたマリア、さっさとやれいっ!」 
 カオスの声にマリアは告げた。 
「ノー、ミスター・カオス」 
「な、なんじゃと!?」 
 カオスはひるんだ、思いがけないマリアの返事に。 
「マリア、おまえはワシが作った殺人兵器なんじゃぞ!」 
「ノー、マリア、にんげんこわさない、よわいもの、まもる」 
「くっ、なんという事じゃ」 
 苦虫を噛んだ様な表情のカオスは、冷たく言い放つ。 
「・・・なら、おまえは不良品だ、スクラップにしてやる」 
 カオスは手にしていた杖の先をマリアに向け、電撃を浴びせた。 
「!!!!!!!!!!!!!!!!」 
「マリアッ!」 
 声もなく昏倒したマリア。 
 虚ろな瞳に、色はなかった。 

「貴様っ!!」 
 レッドが怒鳴る。 
「ほざけメス猫め、おまえたちの墓場はここじゃっ、出でよ魔界獣『スペクター』!」 
 カオスが叫ぶや、地面が激しく揺れた。 
 カオスとタイガーはほくそえむと、しゅるりと姿を消した。 
「きゃああっ!」 
 地が割れ、激しい瘴気に覆われた巨大な人型の死霊が姿を現わし、工場の屋根を突き 
破った。 おぞましいその姿はゾンビのそれに似ていた。 
「き、巨大化!?」 
 レッドは心の中でしまったと思った、今の自分たちでは手に負えない。 
 巨大な敵を想定した「最終兵器」はまだ使えないのだから。 
 だが、ただ眺めているわけにはいかないのだ。 
「おキヌちゃん、変身出来る?」 
「うん、もう大丈夫!」 
 おキヌは「GRアクセレーター」に気を念じる。 
「スピリチア・コラボレーション!!」 
「行くわよっ、みんな!」 
「ラジャー!」 
  
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※このドキュメントは、編者が著者の許可を得て、Nifty-Serve PATIO「極楽LAND」より転載したものです。

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