HAND RED FUTURE
著者:ヒッター


〜エピローグ〜

 時は2100年・・・アシュタロス事件から100年近くの時が流れた・・・
  とある市営の病院で、ひとりのGSの117年にもわたる生涯が終わろうとしていた。 彼の名は横島忠夫。アシュタロス事件の英雄であり、そして世界一のGSでもあった。 時計の針が12時を指す頃、神族、魔族、身内に囲まれ長すぎる生涯を終えた・・・。
その2年後・・・その男の子孫が生まれる。彼の名は、横島氷河。忠夫以来初のの男の子であった。そして今、新たな物語がゆっくり動き出す・・・。


第一章  魂の記憶

 ここは明神山にある修行場・・・
 訪問者は滅多に来ない。
 だが今日は、一人の女性がその建物の前まで来ていた。
「こんにちはなのね〜。」
 この異様に語尾をのばす女性は、ヒャクメ。
 一応、神族だ。
「あっ、ヒャクメじゃない。2年ぶりね。」
 そう言って、明神山の門を開けて出てきたのは、武道服を着て、角の生えた若干20歳くらいの女性・・・小竜姫である。
 彼女は龍神と呼ばれる、神の中でも位は高い種族である。
 今、人間界に一番近い神族は彼女であろう。
 小竜姫は立ち話もなんだということで、ヒャクメを中に招き入れた。
 中は江戸時代の銭湯のような感じだ。
 居間に着いてヒャクメがすぐに話を始めた。
「横島さんの子孫が生まれたのね〜。しかも、珍しく男の子なのね〜。」
「それはおめでたいですね・・・。横島さん・・・か・・・」
 小竜姫はこの2年間、忠夫の死を極力考えないようにしていた。
 忠夫が死んでから2年・・・忠夫の死は少なからず、小竜姫の心に影を落としているらしかった。
 彼女は龍神なので、もう生まれて2500年くらいになる。
 しかし、忠夫の死は特別であったらしい。
「でもそれだけで来たの?」
 ヒャクメはこう見えても神界の監視局の重役である。
 こんなことだけのために、仕事をキャンセルすることは小竜姫には疑問に思われた。
「違うのね〜その生まれた子は横島さんなのね〜。」
「???どういうこと?」
 小竜姫には訳が分からなかった。
 ヒャクメの言っていることが唐突過ぎてよくわからなかったし、名字が横島なので横島さんなのはあたりまえだっだ。
「どういうことかというと、魂の色、形、大きさ、構造が99パーセント以上酷似しているのね〜。」
 小竜姫は面食らった。
「えっ。つまり、同一人物ってこと?そんなことは歴史上、一度もなかったのにどうして?」
 長年生きてきた中で、人の魂がこんなにはやく転生することは考えられなかった。
 人間の転生には最低、500年は時間がいる。
 それにどんなにそっくりでも10パーセントでも似ていれば奇跡だった。
「それは、横島さんの霊気構造はあの事件で、ほとんど魔族になったからなのね〜。だから、転生したのね〜」
 そう・・・あの事件で魔族の女性が自らの命と未来を投げだして、忠夫の命を救ってい た。
 その時に忠夫の霊気構造は魔族の物に書き換えられていた。
 そのため、霊力も爆発的に上昇し、寿命も長くなっていた。
「なるほどねぇ。でも記憶はどうなるのかしら・・・。」
 確かに、記憶がなければ忠夫とは言い切れなかった。
「今の状態じゃ何も覚えてないのね〜何かのショックで戻ると思うけど・・・。」
「そっか・・・じゃあ私たちのことは覚えてないのかぁ・・・。」
 小竜姫は喜びと寂しさでとまどっていた。

 氷河が生まれた日・・・
 この日は、102年前・・・
 二人の男女が約束を交した日であった・・・

 ・・・必ず迎えに行くから・・・だから待っててくれ・・・

 しかし、この約束は、死別という形で叶えられることはなかった・・・
 だが今・・・新たな2つの命が生まれた・・・
 一つは忠夫の生まれ変わり・・・氷河・・・・
 もう一つは・・・・・・・・・

 
 
 
 
 
  16年の月日が流れた・・・。
 横島氷河は来年から高校生になるほどに成長していた。
 性格は忠夫と似ているが彼ほど見境いなくはなかった。
 容姿は忠夫に似ているが、美神の面影もある。
 また、小竜姫の配慮から、親はGSをやっていたが霊との関係は直接持ってなかった。
 15歳の冬までは・・・

 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
 授業終了のチャイムが響き渡った。
「やっと終わった!」
 そう叫んで氷河はクラスを飛び出した。
 どこにでもいそうな、元気な少年である。

 学校の帰り道。
 氷河は親友と帰っていた。
「う〜〜っさみ〜〜っ。今日はお前の教会に泊めてくれ〜。うちのぼろアパートじゃ風がはいってきちまう。」
 氷河の親はGSの仕事で世界を回っているので1年に1度くらいしかあえない。
 そのため彼は貧乏でぼろアパートにしか住めない・・・。
「いいですよ。その代わり不純な物は持ち込まないでくださいよ」
 こう答えたのは金髪の男・・・ピートである。
 実は250歳前後。
 ヴァンパイアは年をあまりとらない。
 彼は神父の跡を継いで教会でGSをしている。
「サンキュ〜。俺もバイトみつけんとな〜」
 何だかんだで、教会に着いた。
 ここには以前も来ていたが、いつも、もっと昔に来た気がしていた。
(これって、デジャヴュっていうんだっけな。)
 中に入った。
 暖房はしていないが、外より数段暖かかった。
 適当にそこらのいすに腰掛けた。
「ふ〜〜〜〜っ。やれやれ。にしてもお前の師匠はこんないいところ残してくれていいよな。俺の親なんか中学生の子供に一人暮らしさせて、月に3万しか送ってこないんだぜ。GSって仕事はそんなに忙しくて、儲からないのか?」
 ピートはとまどった。
 前者は当たっているが後者は、美神さんの血が混ざっているんだから、天地がひっくり返ってもそんなことはない。
「まあ、それだけやりがいのある仕事なんですよ。」
 曖昧な返事でやり過ごした。
「そんなもんなのか。俺もなろうかな。まっ、臆病な俺には無理だけどな。」
「そんなことないですよ。横島さんの家柄は世界で一番のGSなんですよ。それにあなたは・・・。」
 ピートはあわてて話をやめた。
 危なく、小竜姫に言われたことを破りそうになっていたのだ。
 小竜姫は氷河の前世を話さないように、彼の知人全員に頼んであった。
 無理に記憶を戻そうとすると、前世の記憶が崩壊するおそれがあったからだ。
 ピートの心の奥に、もう一度忠夫に会いたいという気持ちがあったのだろう。
 長年生きてきた中で人の死は幾度となく見てきたが、神父と忠夫の死は受けいられずにいた。
 トゥルルルルルルルル〜
 話の途中に電話が鳴り響いた。
「はい。ブラドー・カトリック教会GS事務所ですが・・・」
 ピートが電話に出た。
 長くなりそうだ。
 ふっとドアの方に目を向けると、壁に写真がかけてあった。
 前にはなかったはずだが・・・。
 そう、それは100年前の事件の時のメンバーであった。
 氷河がくるときは、ピートはそれを隠していた。
 今日は突然のことだったので隠せなかったのだろう。
 ピート。
 巫女の格好をした女性。
 オレンジ色の髪の女性。
(多分、ひいひいばあちゃんだろうな。おふくろに似てるし・・・。) 
 神父。
 じいさん。
 魔族に神族、ほかいろいろ・・・。
 そして自分そっくりの男を見つけた。
 これがたぶん親から聞いたひいひいじいちゃんだろう。
 そして世界救った英雄であり、世界一のGS・・・。
 なぜか全員、会った気がするのは気のせいだろうか?
 次に、この写真の題名に目を向けると、『世界を救った英雄たち』と書かれていた。
 その瞬間、氷河の胸に痛みが走った。
 それは今まで感じたことのないものだった。
 そして知らぬまに、つぶやいていた。
「一人・・・足りない・・・。」
 (何言ってるんだ俺は?)
 無論、彼がこの写真を撮ったときのことは知るわけもない。
 しかし、彼は反応していた。
 いや、彼の心、魂が反応したのかもしれない。
 そして次の瞬間、次のような景色が広がった。
 そこは一面、オレンジ色に染まった世界だった。
 (夕日・・・?)
 下を見ると、建物が建ち並んでいた。
 氷河にしてみれば、昔の町並みだ。
 どうやら高い場所にいるらしい。
 (ここはどこだ?見たこともない場所だ・・・。でも大切な所な気が・・・。)
 すると、ひどく懐かしい女性の声が隣から聞こえてきた。

「ヨ・・コシ・・マ・・・・・・昼・・夜の・・・・・・きれ・・い・・・・。」

 はっきりとは聞き取れなかった。
 頭が痛くなった。
 だが懐かしい。
 遠い昔・・・どこかに置いてきてしまったような・・・・。
 そして、目にはあつい物がこみ上げてきていた。
 氷河はまた、無意識のうちにつぶやいた。
「まて・・・行かないでくれ・・・。」
 しかし、懐かしい声の主は闇に消え去っていった・・・。
「俺のせいで・・・」
 (???何言ってるんだ・・・俺は?)
 自分の思考を無視してさまざまな思いが頭を駆けめぐり消えていった。
 そして最後に残った思い・・・俺が強ければ・・・・・・

「どうしたんですか。横島さん。」
 ピートの声によって現実に引き戻させられた。
 突然のことだったので、数秒間、頭を整理して言葉を発した。
「い、いや、何でもない。」
 あわてて涙をぬぐった。
 (今のはいったい何だったんだ。それにあの声は・・・。)
「横島さん、今日はもう帰った方がいいですよ。今、除霊の注文がはいりましたから。」「えっ?」
 氷河は考え込んでいてピートの話を聞いていなかった。
「今の電話はこれから除霊をしてくれっていうのだったんです。ここにいると横島さんにもしものことがあるかもしれないから帰った方がいいですよ。」
 いつもの自分なら、怖くなってすぐ帰っていただろう。
 しかし、今日は違った。
 何かが氷河をそうさせなかった。
「俺に見学させてくれ。」
 それは確かに氷河の口から出された言葉だった。
 そしてそれは自分の意志でもあった。
「えっ!いつも霊となるとコソコソ帰っていくのにどうして・・・?」
「あのなぁ。俺だっていつまでもガキじゃないんだし、一応、うちの家族全員GSだからな。」 
 ピートはうれしかった。いつも霊を極力避けていた氷河が、自分からGSを希望してきたのだ。
 再び、忠夫に会えた気がした。
「そこまで言うならダメとはいいませんが、ケガしても知りませんよ。」
「ケガ!?守ってくれよピート。」
「できれば・・・」
 氷河はちょっぴり後悔した。

 午後8時。
 氷河たちがここについて2時間がたった頃だった。
 トントン。
 ドアをたたく音がした。
「あっ。来ましたね。どうぞ。」
 ガチャ。
 大人2人と抱えられて小学1,2年の子供が入ってきた。お世辞にも裕福とはいえない 格好だった。
「どうぞそこにお座りください。今回はどういう用件でしょう。」
 ピートの口調は、この仕事を長年やっていることがヒシヒシと伝わってくるほど落ち着 いたものだった。
「それが・・・。この子はもう20日も眠りっぱなしなんです。医者にもみせましたが、どこも悪いところはないのでどうすることもできないと言われました。これは何か悪霊の仕業なのではないかと思い・・・。」
「なるほど・・・。わかりました。それでは霊視してみます。」
 そういってピートは、変な形の道具を取り出し、寝ている子供を見た。
 まず、霊の正体をつかむ。
 昔、おふくろにも教えてもらったことがあったが、実際見るのは初めてだった。
「わかりました。これは確かに霊の仕業です。多分、夢魔ですね。」
 できるだけ親を動揺させないように落ち着いた感じだった。
「そ、それでこの子は大丈夫なんでしょうか?」
「時間は多少かかりますが、除霊します。明日の朝6時にまた来てください。それまでに除霊させます。」
「わたしたちはここにいられないのですか?」
 もっともといえばもっともの質問だった。
 自分の子供を始めてくるところに1晩置いていくのは辛いことだ。
「霊を払うときはこちらにも被害が及ぶことがほとんどです。ましてや、2人も守るとなると除霊にも集中できないことがありますので。」
親は少し考えているようだった。
 そしてようやく答えを出した。
「わかりました。よろしく