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わんわんっ! ふにゃ〜〜っ! ちゅんちゅん、ちゅん… |
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将軍綱吉の発した生類憐れみの令のせいで、町中には犬猫たちがあふれている、 |
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そんな今から300年ほど前、江戸の町人文化が華やいでいた元禄時代のおはなし… |
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土鳩が群がる浅草寺の参道に、茶店を開いている一人の若い娘、お幸… |
源さん |
「よっ! さっちゃん、きょうも綺麗だねっ!」 |
幸 |
「やっだ〜っ、源さん。 お世辞を言ったって、まけてあげないじゃ〜ん!」 |
源さん |
「ちぇっ、だめか〜。 じゃ、いつものやつ、たのむよっ!」 |
幸 |
「大福餅にお茶は渋めだったね。 すぐ出すから、ちょっと待つじゃん。」 |
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行商人の姿をした色男の源さん、どうやらお幸目当ての常連客のようだ。 |
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幸 |
「源さん、はい。 ところでさ〜、神隠しに遭った子供の噂話を聞いてきてくれたかい?」 |
源さん |
「ぽつぽつと聞くこたぁ〜聞くんだけどな〜。 大抵は、たんなる迷子だしな。 |
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今日も、神田界隈でそんな話を聞いたけど、神隠しかどうかは、わかんね〜な。」 |
幸 |
「そうかい。 でも、気になるから、あとで行ってみるじゃん。」 |
源さん |
「幸っちゃんは、まめだね〜。 たしか、妹さんが神隠しに遭ったんだっけ?」 |
幸 |
「うん。 だから、もしかしたら、身代わりで妹が戻って来てるかもしれないじゃん?」 |
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そんな話をしてる中、昼間っから酔っ払ってるチンピラが茶店に入ってきた。 |
チンピラ |
「よっ! ね〜ちゃ〜〜ん。 かわいいね〜、俺と遊ばないかい〜?」 |
源さん |
「この酔っ払いがっ! さっちゃんに、手を出すんじゃね〜っ!」 |
幸 |
「源さん、こんな酔っ払い、相手にしなくていいじゃんっ!」 |
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チンピラ |
「ほんとは、相手してもらいて〜んだろ〜? うへへへ〜〜 うっ…?」 |
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パシッ! お幸にさわろうとして手を伸ばしたチンピラの手首を、軽く掴んだお幸 |
チンピラ |
「は、はなせよっ!?」 |
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手首を掴まれたチンピラの顔が、強い痛みのせいで、みるみるうちに青ざめて行く。 |
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お幸を見れば、さほど力を入れているそぶりはないのだが… |
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幸 |
「鷹っ! お客さんが、お帰りじゃんっ! 表まで、見送るじゃんっ!」 |
鷹 |
「へいっ! ネエさんっ!」 |
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お幸に呼ばれて、店の奥から出てきた鷹という名の男。 |
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精悍な体つきで、その目の鋭さは猛禽類のそれである。 |
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グイッ! チンピラの襟首を掴んだかと思うと、軽々と持ち上げて表に引きずり出してしまった。 |
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源さん |
「いつみても、すごいね。 鷹さんは…」 |
幸 |
「あれぐらいしか、能がないから、たいしたことないじゃん。」 |
源さん |
「あれだけでも、能があればたいしたもんだよ。 じゃ、俺はこれでっ!」 |
幸 |
「どうもじゃん〜。 また、神隠しの話を聞いてきて欲しいじゃんっ!」 |
源さん |
「ああ、わかってるってっ!」 |
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茶店を後にする源さん… |
源さん |
(あの二人… ただものじゃないのだけは確かなのだが、いったい何者だ…? |
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邪悪な波動を感じるのだが、それ以外は何もわからぬ…。 |
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神隠しにこだわる理由もわからぬ…。 何事もおこさなければ捨て置くのだが…) |
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こんなことを考えてる源さん、あんたこそ何者? |
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はい、源さんは幕府の隠密同心で、死して屍拾う者のないお人であります。 |
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一方、お幸は、あいかわらず茶店で他のお客の相手をしている。 |
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源さんのときと同じように、常連客には神隠しに遭った人の話を聞きまわっているようだ。 |
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ポ〜〜 ポ〜〜 ポ〜〜… |
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茶店の店先に一羽の鳩がとまる。 お幸に、何か話しかけるようなそぶりをしながら… |
幸 |
「そうかい… やっぱり、迷子だったんだね。 ご苦労だったじゃん、また、頼むじゃん。」 |
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お幸がそうつぶやくと、鳩はバタバタと羽音を鳴らして飛び去っていった…。 |
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やがて、日暮れどきになり… |
幸 |
「やれやれ… 江戸は人が多すぎるじゃんっ。 人捜しは大変じゃんっ! |
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もっと戦や飢饉が発生して、人間が減ってくれればいいのにっ!」 |
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恐ろしいことをつぶやきながら店じまいするお幸… |
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そうは言っても、お幸…、いや、魔族ハーピーは、この生活が気に入っていた。 |
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若い娘の姿をしていれば、男たちがちやほやしてくれるからだ。 |
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一応、魔族のお偉いさんが出した通達、時空移動能力者の抹殺は、ここ数百年、 |
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ちゃんと捜して地道に殺して使命をはたしてきている。 |
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が、島原の乱以来の数十年、一人もそれらしい能力者を見つけられないでいた。 |
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ハーピー |
「鷹っ! 帰るよっ!」 |
鷹 |
「へいっ! ネエさんっ!」 |
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バサバサバサッ! 本来の鳥の姿に戻って上野の森の方に飛んでいく二人。 |
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鷹 |
「ネエさん、時空移動能力者って、まだいるんですかね〜? |
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ずいぶん殺してきやしたから、もうとっくに根絶やしになってるんじゃね〜ですかい?」 |
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何百年もハーピーにつきそってきた使い魔の鷹が、ぼやいている。 |
ハーピー |
「あたいも、少しはそう思ってるんだけどね〜、お偉いさんもあいかわらず捜せっていってるから |
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しょ〜がないじゃん? それに、これ以外の使命なんて、なんもないから、捜すしかないじゃん?」 |
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ハーピーの場合、これといってやりたいこともないので、時空移動者を根絶やしにするという |
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上からの通達以外は、魔族らしいことは何もしていない。 |
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鷹 |
「でも、他の魔族は、いろんなことをやってるみたいですぜ?」 |
ハーピー |
「まぁね〜、人間を殺戮するために生まれてきたよ〜な魔族なら、いろいろするだろうけどね〜。 |
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人間が人間に恨みを抱いて魔族になったやつとかは、特にそうじゃん〜。 |
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でもさ〜、あたいは鳥類じゃん? 別に人間を殺すのはなんとも思っちゃいないけど、 |
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鳥たちがヒドイ目に遭ってなきゃ〜、わざわざ殺す必要もないじゃ〜ん?」 |
鷹 |
「まあ、そうですがね〜」 |
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バサバサバサッ! 上野の森にある自分たちの巣に戻って、羽根を休める二羽 |
ハーピー |
「鷹、あんた、なんか不満がありそうじゃん? 言ってみるじゃん?」 |
鷹 |
「あっ、いえ… 不満ってほどのもんじゃねえんですがね… |
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ここんとこずっと、昼間は人間に化けてるもんですから、羽根がなまっちまって… |
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なんかもっと、こう、刺激が欲しいかなと…」 |
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ハーピー |
「そ〜ゆ〜のを不満っていうんじゃん! イヤならハヤブサと交代させたって、いいじゃん?」 |
鷹 |
「い、いえっ、めっそーもないっ! ネエさんのおそばにいるのが、あっしの役目だと思ってやすから!」 |
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お調子者のハヤブサに偉そうな態度をとられたくないので、あわてて否定する鷹。 |
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雑談はそれで終わり、鳥たちは静かな江戸の夜を迎え…… 静かな… いや… |
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アオオ〜〜〜ンッ! アオ〜〜〜ンッ! ウニャンッ! ウニャニャァ〜ンッ! |
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発情期の猫たちが、あちこちで声をあげている賑やかな江戸の夜を迎える… |
ハーピー |
(あ〜もう、うるさいじゃん〜っ! |
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毎年のことだからしょ〜がないけど、そんなに子作りしたいのかな〜? |
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……って、そ〜いえば…、あたいも男っ気がなさ過ぎじゃん〜? |
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ん〜…… あたいに釣り合うような魔族の男ってゆ〜とぉ〜… |
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アシュタロス様は、偉すぎて、おっかないしぃ〜 |
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ガキ姿のデミアンじゃ〜相手する気になれないし、ベルゼブルなんて鳥のエサじゃん?
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ウマ面のナイトメア? うげ〜〜、冗談じゃないじゃん? |
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バンパイアハーフのピートは、色男だけど女に興味がないって話だしぃ〜… |
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うぅ〜、こうしてみると、ろくなのがいないじゃん? |
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やっぱ、恨みを抱いて殺されたどこぞの薄幸の美青年貴族が、 |
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悪霊化して魔族になるまで待つしかないのかなぁ〜〜〜?) |
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一人でぶつぶつ言いながら、表情をころころ変えてるハーピーを見て、鷹が声をかける。 |
鷹 |
「ネエさん、どうかしやしたか? 何か考え事でも?」 |
ハーピー |
「ん〜? 色男の魔族って、少ないなぁ〜って…」 |
鷹 |
「色男の魔族? ジークフロイドとかのことですかい?」 |
ハーピー |
「おおっ! ジークがいたじゃんっ! ジークに決めたじゃんっ!」 |
鷹 |
「………、何を決めたんですか…?」 |
ハーピー |
「そりゃあ、あたいの子作りの相手… あわわわっ! |
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な、なに言わせるのよっ! きゃぁ〜〜〜〜っ!!」 |
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いきなりウブな女の子のように真っ赤になるハーピー。 それなりにかわいかったりして… |
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鷹 |
「………、まあ、あっしもネエさんのおかげで長生きさせてもらってますから、
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そおゆう話には慣れてます。 そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ…。」 |
ハーピー |
「そ、そお…?」 |
鷹 |
「ええ、心配いらないです。 他の鳥に言ったりしませんから。」 |
ハーピー |
「す、すまん…。」 |
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鷹 |
「ただ、ジークってのはどうですかねぇ…」 |
ハーピー |
「なぜっ!? いい男じゃん?」 |
鷹 |
「その…、かなりのシスコンって聞いてましてね…」 |
ハーピー |
「シスコンって、ジークの姉は… うっ…、ワルキューレっ!」 |
鷹 |
「まあ、噂の域は出ませんがね…」 |
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そんな話をしながらも、周りはあいかわらず発情した猫たちで賑やか… |
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こちらは江戸の町外れにある蓬莱寺。 寺の名前はついているものの、道教の影響が |
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色濃く漂っている。 もちろんこっちも、発情した猫で賑やか。 |
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薄暗い室内では、幕府隠密の源さんが、寺の道士と何やら話している…。 |
道士 |
「なるほど… そのような娘がおりますか…」 |
源さん |
「道士さま、彼らはいったい何を企んでいるんでしょうか…?」 |
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源さんが訪れたのは、魔物退治で高名な道士である。 |
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数年後、死津喪比女を退治しにオロチ村に向かうのであるが、この頃は江戸住まいであった。 |
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特別付録 :
この頃のおキヌちゃん |
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おキヌちゃんは、お城から抜けだしてきた女華姫さまと、お寺で遊んでおりました。 以上。 |
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道士 |
「神隠しに遭った者を捜しているということは…、その者を見つけ次第、殺すつもりなのであろう…。 |
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人が神隠しにあうのは、神がその者を魔の手から救うために行われるものなのだ。 |
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神が救う価値があると判断するからには、魔にあだなす者に違いあるまい…。」 |
源さん |
「では… あの者たちは、やはり抹殺したほうが…」 |
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|
道士 |
「いやっ! 安易に魔族に手だしをしてはならぬっ! |
|
簡単に退治できるものでもなく、退治したところで、新たな魔を招くだけとなる。 |
|
退治しそこねたりすると、江戸中が火の海になりかねんっ!」 |
源さん |
「では、どうすれば…」 |
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|
道士 |
「そやつらが動き出すまでは、なにも刺激しないのがよかろう…。 |
|
魔族の時間感覚は、人間と違い、きわめて長いものなのだ。 |
|
そやつらが何もしないまま、われわれの寿命が尽きることだってじゅうぶん考えられる。 |
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今できることは、その者たちの動きをじっと見張っていることであろう…。」 |
源さん |
「そうですか… わかりました…。」 |
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|
ゴロゴロゴロ… 遠くの方で雷の音が聞こえる…。 |
道士 |
「おや…、ひと雨来そうですな…。」 |
源さん |
「そうですね。 でも、猫たちも、これで静かになるでしょう…」 |
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ぽ〜ん。 時空は飛んで、1978年の東京。 |
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18歳の美智恵が悪魔チューブラー・ベルから解放されたばかりの頃の実家… |
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六道さんからの推薦もあって、ぽつぽつとGS美神の名で仕事も入ってきていたが、今日はお休み。 |
美智恵 |
「おかぁ〜さぁ〜ん、おとうさんは〜?」 |
母 |
「お仕事で、厄珍さんのところよ。 急ぎなら、電話すれば繋がるはずだけど。」 |
美智恵 |
「ん〜、いいわ。 おとうさんから出された宿題で、わかんないとこがあったんで、 |
|
聞こうと思ってたんだけど。」 |
母 |
「ああ、南欧の魔術書の翻訳ね? そうね、帰ってきてからにしなさい。」 |
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|
美智恵 |
「でも、最近、おとうさん、やたらと外出してるわね〜? |
|
翻訳の仕事で、そんなに外出することなんて、あるのかしら?」 |
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美智恵の父の仕事は、魔術関係の書籍翻訳業であった。 GSとしての信用を失って以来、 |
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それまでの知識と経験を生かして、転業したのである。 |
|
残念ながら、美神という本名は伏せて、ペンネームを用いてだったが… |
|
|
母 |
「おとうさん、あなたが悪魔から解放されたのが、嬉しくてしょ〜がないのよっ。 |
|
誰かにそれを話したくて、無理やり用事を作って会いにいってるみたいね。」 |
美智恵 |
「そ、そうなの… (汗) あ〜、もう、恥ずかしいなぁ〜、おとうさんったら。 |
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じゃあ、厄珍堂に行ったのも、そのためなの?」 |
|
|
母 |
「一応、ちゃんとしたお仕事よ。 輸入物の除霊グッズの取扱説明書を翻訳しに行ったの。 |
|
あそこも、最近、若主人が跡を継いだばかりで、苦労してるみたいなの。」 |
美智恵 |
「若主人って…、あの背の低いグラサンちょびヒゲのスケベそうなおっちゃんのこと?」 |
母 |
「こらっ、なんてヒドイ言い方なの? でも、そのとおりだけどねっ!」 |
|
|
|
ゴロゴロゴロ… 遠くの方で雷の音が聞こえる…。 |
美智恵 |
「あら、雷だわ。 ひと雨降るのかしら…。」 |
母 |
「そうね、チューブラー・ベルがいたから今まで出来なかったけど、この機会にためしてみるか…。」 |
美智恵 |
「なにを?」 |
母 |
「あなたに、時空移動能力があるかどうかを。」 |
美智恵 |
「へ?」 |
|
|
|
美智恵に時空移動能力について話し始める母… |
母 |
「美神家の血筋にはね、古くから時空移動能力のある人間がいるの。 私も、そうだったのよ。」 |
美智恵 |
「えっ? おかあさんがっ!?」 |
母 |
「うん。 ただ、ほんの数回、使ってみただけなんだけどね。 |
|
チューブラー・ベルに、チャクラをやられてからは、使えなくなったし…」 |
美智恵 |
「そうなの… で、どうすれば時空移動できるの?」 |
|
|
母 |
「雷を招き寄せるのよ。 雷雲が近くにあるとき、行きたい時空を念じていれば、 |
|
勝手に雷が落ちてきてくれるわ。」 |
美智恵 |
「な、なんか、すごく危険な技だと思うんだけど…」 |
母 |
「そおね。 でも、心配いらないわ。 能力が無ければ、雷も避けてくれるから。」 |
美智恵 |
「う〜ん…」 |
|
|
母 |
「で、この能力だけど、命にかかわるようなこと以外のときは、使わないほうがいいわ。」 |
美智恵 |
「命懸けで移動するんだもの…、そう思うわ…」 |
母 |
「とくに、チューブラー・ベルを植え付けた妖怪を退治しようなんて、思わないでねっ!」 |
美智恵 |
「えっ? なんでっ!? あんなに、ヒドイ目に遭ったのにっ!?」 |
|
|
母 |
「だって、今の私たちは幸せだわ。 家族3人がそれぞれ元気で、未来に希望があるんだもの。 |
|
美智恵が、その妖怪を退治したとしても、今の幸せが得られるかどうかは、わからないわ。 |
|
下手をしたら、GSを続けていた私やおとうさんが、早死してるかもしれないしね。」 |
美智恵 |
「そうだけど… おかあさん、もしかして、過去を変えようとしてヒドイ目に遭ったことがあるの…?」 |
母 |
「うっ…」 |
美智恵 |
「やっぱり… それって、どんなことだったの?」 |
|
|
母 |
「そうね、話しておいたほうがいいわね…。 |
|
ちょうど、今のあなたぐらいの歳のころね…。 おとうさんと出会う前、私にも他に好きな人がいたわ… |
|
ある日、その人が交通事故で大怪我をしてしまったの。 そんな怪我をさせたくなくて、 |
|
私は過去に時空移動して、その日の彼の予定を強引に変えさせたわ…。」 |
|
|
美智恵 |
「でも、結局は、別のところで大怪我をしたとか…?」 |
母 |
「ううん、違うわ…。 彼は、怪我することもなく、ぴんぴんしていたわ。 |
|
代わりに、別の人が、交通事故で大怪我したんだけど…。」 |
美智恵 |
「まあ、運の悪いのが大切な人から赤の他人になっただけと思えば…」 (汗) |
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|
母 |
「でもね、強引に予定を変えさせたその彼が、その日、別の女と運命的な出会いをしちゃってね…」 |
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ピキピキピキッ! ズゴゴゴゴォォ〜〜〜〜! |
美智恵 |
「あああ……」 |
母 |
「ま、運命なんて、変えようなんて思っても、そんなものなのよ。 |
|
それに、代わりに事故っちゃった運の悪い人が、あなたのおとうさんだしねっ!」 |
美智恵 |
「そ、そうなの…」 |
|
|
|
なんだか、あんまり使い勝手の良くない能力だな〜と思いながらも、 |
|
母とともに近くの公園にやってきた美智恵 |
母 |
「ここなら、雷が落ちても、まわりに迷惑をかけないわっ。 |
|
今回は練習だから、時空移動しても何もしないで、すぐに戻ってくるのよ? |
|
変に過去に干渉しちゃったら、戻ってきたとき、微妙に違った世界になってるかもしれないからね。」 |
美智恵 |
「そおね…。 とりあえず、能力が有るかどうかがわかればいいわ…。 |
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さあて…、いつにしようかな…?」 |
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ピカッ! ドッドォ〜〜〜ンッ! ゴロゴロゴロ… |
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再び、元禄時代の蓬莱寺… |
源さん |
「これはっ… 雷がお寺の境内に落ちたのではっ!?」 |
道士 |
「うむっ! 木に落ちて燃えていたらすぐに消さねば火事になるっ!」 |
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二人が外に飛び出してみると、雷の落ちた場所に呆然と立ち尽くす美智恵の姿が… |
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道士 |
「おまえはっ!?」 |
美智恵 |
「あっ! おじさんっ! ねぇ、今いつなのっ!?」 |
道士 |
「えっ? 今は、元禄の御世であるが…」 |
美智恵 |
「元禄時代っ!? やった〜! 時空移動は成功なのねっ!?」 |
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|
源さん |
「こ、こらっ、女っ! 貴様は、誰で、いったいどこから来たのだっ!?」 |
美智恵 |
「おんなぁ〜? 失礼しちゃうわねっ! って、江戸時代だからしょ〜がないかっ。」 |
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このへんの割り切りは、娘の令子と違って、かなり冷静な美智恵ではあった。 |
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道士 |
「その姿からすると、この時代の者ではないようだが…」 |
美智恵 |
「そうよっ。 未来から来たの。 だいたい300年後ぐらいになるのかしら。」 |
道士 |
「ふむ…。 時空を移動できる能力があるのか… |
|
それで、この時代のこの場所に現れたからには、どのような理由があってのことかな?」 |
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|
美智恵 |
「ふ〜ん、おじさん、物分りが良さそうね〜。 あら、霊力も相当ありそうな人ね。」 |
源さん |
「こらっ! 人の質問に、ちゃんと答えろっ!」 |
美智恵 |
「こっちのお兄さんは、色男だけど、気が短そうね。」 |
源さん |
「だから、早く答えろっ!」 |
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|
美智恵 |
「そんなにいきり立たなくてもいいのに。 話は単純なの。 |
|
ここに私が来たのは、単なる練習よ。 別に用が有って、来たわけじゃないの。」 |
源さん |
「はあ…? 練習…?」 |
美智恵 |
「そうよ。 初めての時空移動で、偶然ここを選んだだけなの。」 |
|
|
道士 |
「偶然とはいえ、ここに来るそれなりの理由は存在するのではないのか?」 |
美智恵 |
「まあね〜。 たまたま、移動するときに近所の家から水戸黄門のテーマ曲が聞こえてきちゃって…。」 |
源さん |
「水戸…、水戸のご隠居様のことかっ!?」 |
美智恵 |
「そうよっ! 300年後の私の時代では、黄門さまは悪代官を懲らしめる、庶民のヒーローなの。」 |
源さん |
「おおっ! ご隠居様が、未来のヒーローっ!」 |
|
ジーン…。 そこは幕府隠密同心の源さん、300年後も主家がヒーロー扱いされているのを聞いて |
|
かなり嬉しそう。 |
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道士 |
「では、ここで何かを行うとかは考えてはいなかったのだな?」 |
美智恵 |
「うんっ! だから、私も、何もせずにすぐに元の時代に戻るつもりなの。」 |
道士 |
「……、それがよかろう…。」 |
美智恵 |
「でも、この時代に来た記念に、何か欲しいわね…。 |
|
そうだわ、道士さまっ。 その帽子、もらえるっ!? そのかわり、これあげるからっ!」 |
|
令子だったら、一方的に貰ってしまうところだが、そこは美智恵である。 |
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道士 |
「えっ?」 |
源さん |
「ぶはっ!?」 |
|
いきなり服を脱ぎ始めた美智恵。 あっけにとられて眺めている蓬莱寺の二人… |
|
唐巣神父に言われて以来、つけるようにしていたブラジャーを帽子と交換することにしたらしい…。 |
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|
バサバサバサッ! 上野の森のハーピーの元に、ハヤブサが猛スピードで飛び込んでくる。 |
ハヤブサ |
「ネエさん、て〜へんだ〜っ!」 |
ハーピー |
「ん〜、こんな時間に何事じゃん〜? そろそろ寝ようと思ってたのに〜」 |
ハヤブサ |
「そ、それが、 時空移動者が現れやしたんでっ!」 |
ハーピー |
「なに〜っ! 本当かっ!?」 |
ハヤブサ |
「へいっ! 間違いありやせんっ! 若い女が、自分でそう言っておりやしたからっ!」 |
ハーピー |
「で、場所はどこじゃん?」 |
ハヤブサ |
「蓬莱寺の境内でやすっ!」 |
ハーピー |
「でかしたじゃんっ! ハヤブサっ、後で褒美をつかわすっ! 好きな望みを言うがいいじゃんっ!」 |
ハヤブサ |
「えっ!? ネエさん、いいんですかいっ!?」 |
ハーピー |
「いいって言ってるじゃんっ!」 |
ハヤブサ |
「そ、それじゃあ、ネエさんと、交尾を… ぶっ!?」 |
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ハーピーに殴られ、ハヤブサ、ダウン… |
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ハーピー |
「鷹っ! こんなアホは、ほっといて、蓬莱寺に行くじゃんっ!」 |
鷹 |
「へ、へいっ!」 |
ハヤブサ |
「うう… 俺たちみたいな鳥の望みって、食欲と性欲しかないのに…」 (しくしく…) |
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蓬莱寺に急行するハーピーと鷹っ! |
ハーピー |
「たしかに境内に人がいるじゃんっ! 早速、殺すじゃんっ!」 |
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ビシュッ! フェザーブレットを人に目掛けて投げ込むハーピー |
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若い女かどうかなど、確認もせずに… まあ、夜だし、ハーピーは鳥目だったから。 |
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源さん |
「うっ!? 殺気っ!!」 |
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ズガンッ! すんでのところで、フェザーブレットをよけた源さんと道士。 |
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ハーピー |
「ちっ! よけられたかっ! もう一発…」 |
鷹 |
「ネエさんっ! やつら、男みたいですぜっ!?」 |
ハーピー |
「ん? ほんとだ。 男に用はないじゃん! 若い女を捜すじゃん!」 |
鷹 |
「やつらが知ってるはずです。 脅して口を割らせましょうぜっ!」 |
ハーピー |
「それがいいじゃん!」 |
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境内に降りて行くハーピーと鷹。 源さんと道士も、戦闘体勢をとり、ハーピーの様子を伺う。 |
ハーピー |
「えっ!? げ、源さんっ!?」 |
源さん |
「おまえは… さっちゃん…なのか…?」 |
ハーピー |
「………、バレちゃ〜しょ〜がないじゃん…。 ま、あたいらは源さんには用はないんだ。 |
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ここに若い女がいたんだろっ? あたいは、そいつを捜しているじゃん!」 |
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源さん |
「やはり、神隠しにあった人を殺そうとしてるんだな?」 |
ハーピー |
「源さんには、関係ないじゃん。 どこ行ったか教えるじゃん!」 |
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道士 |
「一足遅かったな。 もう、ここにはいないっ。」 |
ハーピー |
「そんなの、見ればわかるじゃんっ! どこに行ったか聞いてるじゃんっ!」 |
道士 |
「もう、未来に帰ったと言ってるのだ。」 |
ハーピー |
「うっ…。 時空移動してしまったのか…?」 |
道士 |
「そうだっ! 300年後の未来から来て、すぐにその時代に帰っていったわいっ!」 |
ハーピー |
「くっ… 逃がしてしまったか…。」 |
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がっくりと肩を落とすハーピー… 数十年ぶりの獲物を逃してしまったのだ。 |
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未来に逃げられたのでは追いようがない。 残念だが、使命を果たすことはできなかった。 |
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落ち込んでいるハーピーを励ますつもりで、鷹が声をかける。 |
鷹 |
「ネエさん。 こいつら、始末しやすか? あっしらのことを知っちまいやしたから。」 |
ハーピー |
「………、ほっとけばいいじゃん…。 知られたからって、どうってことないじゃん…。 |
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もうあの茶店には出れないけれど、また別の所に行けばいいじゃん。 |
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鷹も、人間の姿に化けるのは、イヤなんだろ?」 |
鷹 |
「えっ? ま、まぁ…、そうでやすが…」 |
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源さんに話しかけるハーピー。 ちょっと、さびしそう… |
ハーピー |
「源さん…、さっきは、間違って殺そうとして、悪かったじゃん… |
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あんたには、あたいが魔物だってことを知られたくなかったじゃん… |
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でも、知られちゃったから、しょうがないじゃん… これで…、さよなら…じゃん…」 |
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源さんに背を向けて立ち去ろうとするハーピー |
源さん |
「さっちゃん、待てっ!」 |
ハーピー |
「えっ?」 |
源さん |
「俺は幕府の隠密だっ! 魔物と知った以上、逃がすわけにはいかんっ!」 |
ハーピー |
「なにっ!? あたいと…、戦う気…かいっ!?」 |
源さん |
「いや、悪事を働くまでは、戦う気はない。」 |
ハーピー |
「でも…、時空移動者を見つけ次第、あたいは殺しに行くよ…?」 |
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源さん |
「俺の役目は、幕府の敵と戦うことだ。 時空移動者のことなど、幕府は預かり知らぬ。 |
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俺の知らない所で、殺してきたところで、問題はない。 |
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それより、魔物がどこでなにをしてるのか、わからない方が問題だっ! |
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さっちゃんは、今までどおり、茶店で働き、俺のそばにいろっ!!」 |
ハーピー |
「源さん……」 |
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ちゅんちゅんちゅん… 浅草寺の参道にある茶店で、今日も働くお幸、ことハーピー… |
常連客 |
「さっちゃん、いつものやつねっ!」 |
幸 |
「あいよっ! 源さん、みそ田楽を1本ね〜!」 |
源さん |
「りょうか〜〜いっ!」 |
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源さん、こんなところで働いてて、隠密の仕事は大丈夫なの? |
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ん〜〜、かわりに鷹やハヤブサが情報を集めてくるから、問題ないかぁ〜 |
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常連客 |
「さっちゃん、胸元からちらちら見えてるその白いのって、なに?」 |
幸 |
「ああ、これっ? 源さんに、もらったんじゃんっ!」 |
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ぴらっ! 襟元を開いて、常連客に胸をみせるお幸 |
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どうやら、美智恵の残したブラジャーをしているようだ… |
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常連客 |
「おお〜〜っ!」 |
源さん |
「こ、こら、さっちゃんっ! ひとさまに、見せびらかすもんじゃないぞっ!?」 |
幸 |
「えへへ〜〜 だって、うれしいじゃ〜んっ!?」 |
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細かな事件はいろいろあるけど、いたって平和な江戸の町… |
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妖怪として恐れられた幕吏の鳥居燿蔵が猛威を振るうのは、幕末のおはなし。 |
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彼がハーピーの子孫なのかどうかは、今となっては誰にもわからないんだけど… |
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第1部 END
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