another legend in the gs mikami:insolence of like a angel
著者:西表炬燵山猫
two minits warning
「おっす!宿題やったか?・・おお、すまんが見せてくれよ・・・高いよ、せめてコロッケパンでさ」
「お早よう!ねえ、昨日のあのドラマ・・・・うん、格好よかったよね・・・・・でも相手がさあ・・」
「眠いな〜、一限目サッカーだろう、自習にならねえかな、あの体育会系馬鹿なんとかならねえかな」
「聞いて聞いてよ、昨日彼ったらひどいのよ・・・・う〜ん、でもそれでね〜・・」
そんな黄色い、又は野太く成り掛けの黒い団体が予鈴の鳴る方向に向かっていた。
古今東西を問わずに、学生の朝の挨拶など殆ど画一化されているものだが、彼らのその日の登校は多少趣を異にしていた。
キ〜ン コ〜ン カ〜ン コ〜ン
学校の時計台から予鈴が聞こえる。本来予鈴はもう直ぐ遅刻の合図。未だに、いつでも正門をくぐれる位置に居ないならば慣習で間に合うとしりつつも、鈴の音には心持ち早足になるのが必定の筈。しかし今日その一団は、その行動を疎外する人物に出会っていた。
「お おい!」
「なによあの娘」
「なんだ。おかしな趣味でもあるのか、例の鬼娘が出てきて「海が好き〜」とか、ニグロの花嫁の出てきて「世界を革命する」とか言い出すんじゃないのかな」
彼らはある一人の生徒を見かけると、歩を緩め、あるものは思わず立ち止まった。過酷な遅刻と云う己の未来を犠牲にしてまでも、その生徒に見とれるのはそれなりに理由があった。それは・・。
「すげえ、見てみろよ!」
校門をくぐろうとした一団が、後からやってきた生徒に見とれて、振り向き固まった。
「君どこのクラスの生徒なんだね?」
ザワザワとした周りの生徒の声を受けて、服装検査と生徒指導の為に正門に出張っていた教師が校門をくぐろうとしたその生徒を呼び止めた。
生憎頭に色が付いているワケでも、スカートやガクランの長短などの問題で呼び止めたワケでは無い。その生徒の格好は学校推奨のレギュレーションを多少だらしなく着込んではいたが完全に満たしていた、ただ一つを除いて。
「俺の事?・・・だろうな」
呼び止められた生徒は、ズボンのポケットに突っ込んでいた手を出して自分を指す。
「そうだ、転校生かね?君の前の学校では・・」
「いや!在校生」
その手で詰襟の高証を指さす。
「馬鹿な、何故女子の君が男子の格好で来ているんだ。何の真似だ」
「だって俺男だから・・」
「ふざけるな、その・・体のどこが男子なんだ!!」
「ん〜、まいったね」
その生徒は確かに女生徒ばなれの身長に、切れ長の瞳は女子には珍しくえも言えぬ迫力を称えていた。
それに長い黒髪に端正な細面な顔。美醜を問えば、間違いなく前者のとびっきりであった。確かにそれだけで女子と一概には確定出来ないが、女子の特徴を顕著に有した膨らんだ二つの膨らみは、学校認定のYシャツを窮屈だと存在を誇示し、ズボンを止めたベルトはウエストを男子には絶対ありようのないほどの括れを表わしていたのだ。
そんな女性が、詰襟のガクランにズボンでやってきて問い質さないのは代えって可笑しいであろう。だから生徒指導の教師も、己の常識に習ってといただす。
「一体君は何年?何組の誰なんだ?生徒手帳を見せなさい」
「だろうな。はあ〜」
教師の言葉に彼女は諦めたようにため息をつく。その表情は物憂げで、とても高校生の物とは思えぬほどの艶っぽさを称えていた。同年代の男子生徒どころか、問い質した教師も思わず顔を赤くなった程だ。それにもまして、事の成りゆきを男子生徒の後ろから見ていた女学生も頬を染めている。つまりは男子のみが惚れる対象であると同時に、女の子が「お姉様」というタイプでもあった。
男子の格好をした、周りの評価「彼女」はゴソゴソと、ガクランの胸ポケットから生徒手帳を教師に渡そうと・・。
ドタドタドタ
「ん?」
その時、固まった一団の向こうから地響きを上げて男子生徒二人が人垣を割って現れる。
「ふう、何とか間に合いましただなピートさん」
「助かったな。内申書が悪いとオカルトGメンになれないかもしれないしなあ。タイガー頼むからエミさんに深夜の長電話は控えてくれるように頼んでくれよ。朝方の僕に、こう毎日じゃたまらん」
偉く健康的な吸血鬼のピートであった。
「わっしじゃ無理じゃき、直接いってつかわさい」
生徒を掻き分けて来たのは、この学校でも違う理由で有名な二人。片方は大男として、片方はデロリとした二枚目、これで同じ職種であるので対比的に有名なのだ。
「なんですかいの〜、この人垣は?」
「さあ?。ああ、先生おはようございます」
「あ!ああ、おはようピート君」
緊張をしばし忘れ、場違いな彼ら二人の乱入で局面を忘れる生徒に教師。
「ようピート タイガー。タイガーはいつものこったけど、ピートが遅刻ぎりとは珍しいな。またエミさんからの深夜の長電話だってな」
「ああ横島さん、おは よ おおー!」
ピートの言葉が途切れる。挨拶の仕方がいつもの横島の物なので顔も見ずに答えたが、彼の前にいるのは初見の女性だった。
「び 美人じゃ・・・・だだだ だれでしたかいのー?なんでわっしの事を・・・有名でしたかいのー」
タイガーは顔を赤くして、しどろもどろにその女生徒の顔を穴が開くほど見つめる。どうにも覚えがないので、顔を赤くしながら?マークを浮かべて首をひねる。
「ああ あの、失礼ですが、ど どこかでお会いしましたでしょうか?」
「何寝惚けてやがる、って、無理もねえけど。俺も信じられないぐらいだからな〜」
教師に言われ、出そうとしていた生徒手帳をピートに渡す。
「?」
ワケが分からないピート、のぞき込むタイガー。
「あの?」
初見の女性の視線が開ける事を促していた。?だったが、あいにくとこんな美人の命令に背ける二人では無い。例え墨汁をコーラだと出されても、呑むのを断れないほどに眼前の女性は美しく、そして神秘的であった。美神やエミ以下、結構ツブ揃いの美少女に囲まれていた彼らとて、そう思える程のレベルであった。
「え!」
生徒手帳を開けたピートが、ワケが分からずに絶句した。
「なんですかいのー?。う!」
後ろからのぞき込んだタイガーも固まる。「なんだ なんだ?」と周りの連中ものぞき込み、同様に?の表情を思い思いに浮かべた。
「あ あの その なんで あなたが その よこしまさんの その 生徒手帳を・・」
呆然とピートが呟く。何やら不穏な先行きを予見して、出来れば事実から目を背けたかったが、事実はそれを許してはくれなかった。
「何言ってやがる。俺が横島だからに決まってるじゃねえか」
美しい顔に、美しい体に、美しい黒髪。その美少女の美しい唇から、そんな啖呵(たんか)が飛びだし、その場に居合わせた生徒教師を問わずに真っ白に燃えつきた。
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