beautiful-dreamer
「という夢を見たんです」
「ほほー」
事務所のオフィスでは、所長席に座っている美神が三拍眼で横島の話を聞いていた。
「夢はまあ、ともかく、あんたの深層心理はよ〜く分かったわ」
「え?」
「あんたがあたしをどんな目で見てるかってことがね」
「う!」
失言を悔いたが遅かった。
つまりあの霊の言葉は、何を隠そう横島の本音を、霊に転化して気兼ね無い状態で代弁したのが本当の所であった。本当かどうかはこの際構わぬ、少なくとも美神がそう判断したのは間違い無く、それだけで彼女には十分なのだ。
「だ〜れが、派手な衣装と巨乳以外取りえが無くて、太陽の下で化粧を落としたら見られなくて、将来詐欺で悲しく寂しい生涯をとげて、人の心が分からない人非人で、造る家庭は冷蔵庫のように冷たくて、自分の事しか考えていない鬼のような女ですって」
「う!!」
正直に夢の中の会話を再現した愚を悔いたがもう遅かった。確か「鬼」と「人非人」とは言わなかったような気がしたが、目の前に迫りくる光り輝く神通棍の前では大した意味は無かった。
「それぐらいにしとかない令子。それ以上殴るとソイツに理由聞かないといけないワケだから。続きは後にしてほしいワケよ」
一人で横島を袋にしていた美神の手がエミの言葉で止まる。
「そうだな、そんな事で何故に我らが呼ばれねばならんのか問い質せねばいかんではないか。急用だと聞いたからわざわざ参ったのだぞ」
「そうね。あの時のお馬さんに憑かれたってワケでも無いんでしょう、ねえ令子ちゃん」
エミに続いてワルキューレと冥子も呼ばれた理由を知りたいらしい。そればかりでは無く、他にも小竜姫 ヒャクメの姿も見える。
「そうね!続きは後にするとして・・。横島!なんでこの面子を勝手に呼んだの?」
「ふぁあ?」
近頃流行りのザクロ状態では答えられないのも無理は無い。
「しょうがないわね、冥子、ちょっとシャトラに頼んでよ」
「は〜い!シャトラちゃんお願いね」
ヒーリング担当、パトラッシュ似の式神を呼び出す。治してやろうと横島に近ずいたが、既に不要とばかり冥子の手を握って口説き初めていた。
「やっぱり、きさまー」
二度目の怒りには、今度は本当にシャトラの能力が必要だったらしい。
「実は・・」
今までの痴態が無かったように、キリリと二枚目を装う。少なくとも本人の気持ちはそうらしい。
「実は今の俺の見ている光景も、何度もあんな事があったので本当に現実かどうか不安なんですよ」
「ん、そうか」
「なるほどね。そういうワケね」
流石に勘のいい二人には分かったようだが、分からないのもいたようだ。
「ええ〜、何なの令子ちゃん、エミちゃん。冥子わかんない」
「エミ、冥子への説明頼むわ」
「何いってんのよ。あんたの助手の不始末なんだから、冥子への説明はあんたがやんなさいよ」
幼稚園児に高等数学を教えるような業苦を押しつける、冥子の友達?二人。あまりの友達甲斐の無い言動に傷ついた冥子の式神が暴走して、再び閑話休題。
つまり、いまこの場に集っているのが横島には現実かどうか確信がもてないのだ。夢だと思って行動していたら、それが更に夢の中の話であった。それならば、今が更に夢の中での事で無い保障などありよう筈が無い。
「確かにね。夢ってのは見ている間は妙にリアルなもんだもんね。まあ、今見ている光景が夢でないとはいえないわね」
結構難しい命題に美神も悩む。今自分たちは意志を持ってはいるようだが、それが単に誰かが考えている美神令子という、単に役を演じるために造り出された存在では無いかと云えるかどうかは誰にも分からない。夢が覚めてみても、それがまだ夢の中で見ている光景で無いかと考えれば堂々巡りだ。蝶になった夢を見た男が目を覚ました考えた、本当の自分はドッチだろう?本当の自分はもしかして蝶が見ている夢の中にいるんじゃないかと。
「なるほど。そういえばそうか。それを確かめる術は、確かに夢から覚めないと分からないワケね」
「そうですね。確かに、わたしも現実だと思っていたら、夢であったと目が覚めてから初めて気がついた事ありますからね」
どうやら小竜姫も、同じように夢と現実の狭間に愕然とした事があったらしい。それは全てを見通せると自負していたヒャクメも同じらしい。ワルキューレも話をしないが、渋い表情は覚えがあるらしい。
「ええ、だから皆さんに協力をしてほしいんすよ」
「なるほどなあ。確かにそのままではお前も不安だろうな」
「そうなんすよ、ワルキューレさん」
「まあいいだろう。お前には借りもあるし、で、どうするんだ?」
「実は・・」
立ち上がってワルキューレの脇に立つ横島。
「ん?」
その場に居合わせて皆が怪訝な顔をした、そして「何を?」と聞こうとした口から漏れたのは。
キャー
キャー
キャー
キャー
キャー
キャー
美神令子除霊事務所に黄色い悲鳴がこだました。
「なにすんのよ!!」×6
全員にボコボコにされた横島が床に転がる。ボコボコにした美神らは、まるで腫物ににさわるように腕で自分の胸を隠してるような態勢で横島を睨む。
「ま まま まあ 落ち着いてください」
「死ぬ前にどんな理由で今の暴挙に出たか教えてほしいワケね」
小竜姫も真赤な顔で、ブルブル震えながらも神剣を構え、ワルキューレも普段より多少狼狽を隠せぬままに、いつもの精霊石銃を構えて横島に詰め寄る。
「つまりですね・・俺は女になっていない事、これは自分で確認出来ました」
「ほ〜、で?」
女達が抑揚の無い声で先を促す。
「後は、ピートらが女になっていた世界で女生徒が男になっていたんすから、それならば今回、本来女である皆さんが女性である事が確認出来れば、これがちゃんと現実であると確認出来るじゃないですか」
「ほほ〜、それで?わ〜ざ!わ〜ざ!あたし達を呼んだの?大人しく学校に行けばいいものを」
「まあ、それはともかく。これが現実であることは、皆さんにちゃんとした胸があることが伝わったこの手の感触でわかったというワケっす」
胸の感触を確認した動作をもう一度真似して見せる。
「ほほほ〜。だから?」
「みなさんには立派な胸があった、と言うことは、俺も女でないし、女性の皆さんも男になっていないという結論で、今が紛れもなく現実であることを確認出来ました」
「・・・」
すでに問答無用状態の女性陣に、タラリと汗をかきながら、今時古いが、ムーンウオークでドアに向かう横島。
「感謝します!皆さんの立派な胸に、それではみなさん!!アディオス アミーゴ」
ドアを開けようとしたが、すでに人口生命一号によってキッチリとロックされている。
ガチャガチャガチャ
「開けろ 開けてくれ。急用があるんだ!!」
当然開かない。そして、当然横島に近ずく陰が・・・。
「良かったじゃない横島君」
「良かったですね横島さん」
「良かったな横島」
「確認が持てて良かったワケね」
「あたし達も嬉しいわよ」
「冥子ちゃんもよ〜〜〜」
良かったと言いつつも当然顔は笑って、いや、かなり見方を変えれば満面の笑顔だ。怒りも一線を通り越したときの表情は、えてして笑顔に近くなるのであった。
「う・・」
皆と向き合ってはいたが、背中で未だにドアを開けようと奮戦中だったが、近ずいてくる女性らの陰に腰を抜かして崩れ落ちる。
「これは現実だと確認出来てよかったわね〜〜、横島君」
「でもね、もう一つ教えてあげるワケよ」
最後はワルキューレが引き継いだ、引導を渡すとも言うが。
「そうだ、現実は過酷だって事を・・・・・・」
うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ
生憎いくら叫んでも、今度ばかりは蒲団の中から目は覚ます事は無かった。
横島の確信の通り、紛れもなくこの世界は現実であったらしい。
劇終
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