『 ご町内のみなさま 』

著者:まきしゃ


    某日深夜、都区内の美神事務所からは少し離れた都心での出来事。
  ビルの立ち並ぶビジネス街の一角に、忘れ去られたような小さな祠がひとつ…
  その守り神である土地神が、いま、悪霊にたたきのめされそうとしていた…。
   
  しゅこ〜〜 ふしゅるるるる〜〜〜〜
悪霊 『弱い…! 弱いなぁ〜〜〜〜!!
  今日びの土地神は、ろくに修行もしとらんでごわすな。
  そんな奴に、神を名乗る資格はないでごわす。
  約束通り、注連飾り(しめかざり)は、もらっていくでごわすよっ!』
   
土地神 『くっ…。 この街に、もっと信心深い人たちがいれば、
  こんなに、あっさりやられなかったものを…っ!』  ガクッ…!
   
   
  数日後… 美神事務所のすぐ近くの小さなスーパーマーケット
  今日の夕食のおかずを買いに来ていたおキヌちゃん。
  そこに、浮遊霊のおじいさんが、ス〜っと寄って来る。
浮遊霊 『おキヌちゃん、ちょっと相談したいことがあるんじゃが、いいかな…?』
キヌ 「あら、こんなところで、どうしたんですか? おじいさん。」
浮遊霊 『うん、最近、妙な事件が起きていてな…』
   
  おキヌちゃんの様子を見ていた新入り男性アルバイト店員が、小声で店長に話しかける。
店員 「店長…。 あの女の子、変じゃないですか…?」
店長 「ん? どの子のこと? ああ、おキヌちゃんか。 彼女は、普通のいい子だよ?」
店員 「で、でも、さっきから、一人でぶつぶつ話をしているんですけど…」
店長 「おおかた、そのへんの浮遊霊と話しているんだろ?」
   
店員 「ふ、浮遊霊っ!? そ、その、店長っ、ここに幽霊がいるんですかっ!?」
店長 「たぶんな。 俺には見えないけど。」
店員 「たぶんってっ!? そんな〜っ! は、はやくゴーストスイーパーに退治してもらわないとっ!」
店長 「なんで? 別に悪霊じゃなきゃ、問題ないだろ?
  それにおキヌちゃんは、元々幽霊で、今はゴーストスイーパーなんだし…」
店員 「そ、そうなんですか…?」
   
  店長と店員のやりとりに気づいたおキヌちゃん。
キヌ 「あっ、すみません。 こんなところで、立ち話しちゃって…」
店長 「いやいや、別にかまわないよ。
  それより、おキヌちゃん。 うちのバアさんが、死んだジイさんに会いたがっててね。
  ジイさん、ど〜せまだ、成仏してないんだろ? 会いにくるように言ってくれないかな〜?」
キヌ 「あっ、はい。 わかりました。 今度あったら、伝えておきますね。」
   
  これ以上、邪魔にならないようにと、お店を出ていったおキヌちゃん。
  他の店員や顔なじみのお客さんも、この光景を当り前のように見つめている。
  呆然としているのは、新入りアルバイト店員ただひとり…
店員 「うぅ…。 変だっ… 絶対、変だっ! なにか…、なにかが間違ってるぅ〜〜〜〜っ!!」
店長 「なにを一人でぶつぶつ言ってるんだ? 変な男だな…。」
   
   
  浮遊霊と一緒に美神事務所に戻ってきたおキヌちゃん。
令子 「おキヌちゃん…。 また浮遊霊をつれてきたの…?
  浮遊霊の相談って、お金になんないから嫌いなのに…。 今度は、なんなの?」
キヌ 「すみません、すみません。 でも、なんだか大変なことが起こってるみたいなんです。」
   
令子 「大変なこと? それって、祠の注連飾り連続盗難事件に関係してる?」
キヌ 「えっ? 美神さん、知ってるんですかっ!?」
令子 「まあね〜。 最近の浮遊霊絡みの事件っていったら、それぐらいのもんだからね〜。」
   
横島 「へ〜、変な事件っスね〜。 注連飾り盗んで、どうするんだか。」
令子 「う〜ん、三流GSの仕業かもね〜。」
横島 「えっ? GSがなんでそんなことをっ!?」
   
令子 「注連飾りは、まつられている神様が、力を発揮するために必要なアイテムなのよ。
  信心深い人からの霊力を受け取るためのアンテナみたいなものね。
  それを取られちゃうと、神様自体も浮遊霊並の力しかなくなっちゃうの。
  神様に力が無いと、普段はおとなしくしているチンピラ浮遊霊が、悪さをはじめちゃうわけ。
  それで、除霊依頼の仕事が大量にまいこんでくることになるのよ。
  失業寸前の三流GSが、仕事が欲しくて盗んだとしても、おかしくはないわね〜」
   
横島 「そのわりには、うちは、あんまり仕事は増えてないですけど?」
令子 「そりゃそうよ。 普段は石神にも負けるよ〜なチンピラ悪霊の悪さなんて、たかがしれてるからね。
  そんな安い仕事は、引き受ける気になんかならないわっ。」
横島 「へ〜、そうなんスか…。 なんだか、さえない話っスね〜。
  でも、新しい注連飾りをつければ、すぐに元通りになるんじゃないっスか?」
   
令子 「きちんとした儀式にのっとって、つけ直せばね。 でも、盗まれた元の注連飾りがないと
  今までの蓄積分はチャラになっちゃうから、石神が弱くなるのは避けようが無いわ。」
横島 「なんだか、いろいろ細かいんスね〜 じゃあ、この地区が縄張りの、
  あの女子プロレスラーな石神も、注連飾りを盗まれると弱っちくなっちゃうんですかね〜?」
令子 「まあね〜。 おキヌちゃん、注連飾りの盗難防止の相談に浮遊霊が来たんでしょ?」
   
キヌ 「あの…、そうみたいなんですけど…
  でも、盗んでいるのは人間じゃないみたいなんです…」
  ようやく口を挟めたおキヌちゃん。
令子 「あら、違ったの? じゃあ、なんなの?
  浮遊霊、あんた、わざわざここまで来たんだから、早くいいなさいよっ。」
浮遊霊 『………、どうやら、わしも話をしてもいいようじゃな…』
   
  浮遊霊の話によると…
  注連飾りの連続盗難の真犯人は格闘家の悪霊で、都内の土地神に戦いを挑んでは、
  負けた土地神の注連飾りを奪って行くことを繰り返しているそうだ。
  まだ、ここの石神とは戦っていないのだが、負けてしまうとチンピラ浮遊霊が跋扈してしまうので、
  石神が勝てるように、なんとかしてもらえないだろうか、ということらしい。
   
令子 「ふ〜ん、道場破りが看板奪って行くよ〜な感じと一緒なのね。
  体育会系の悪霊が、考え付きそうな悪さだわね〜。」
横島 「美神さん、やっぱり地元だし、ここの石神がやられそうになったなら助けるんスか?」
令子 「スポンサーがいればだけどね〜
  でも、ここの石神は強いから、そんな心配はいらないんじゃないのかな?」
横島 「たしかに、強そうっスけどね〜」
   
キヌ 「でも…、他の土地の石神さんが、何体もやられちゃってるそうですし…」
  なんとかしてあげたいと思っているおキヌちゃん。
令子 「ほんと、心配いらないわよ、おキヌちゃん。
  石神は、注連飾りで信心深い人からの霊力を受け取ることで、より強くなれるのよ。
  この町内の人って、おキヌちゃんのおかげで、皆、信心深いはずよね?」
キヌ 「で、でも…」
   
シロ 「おキヌちゃん。 拙者も、大丈夫と思うでござるよっ!?
  この町内の人たちは、他の町内と比べると、とっても信心深いでござるものっ!
  並の悪霊では、ここの石神どのをやっつけるのは無理でござる。」
横島 「ふ〜ん…。 シロ、よく、そんなことがわかるんだな?」
シロ 「だって、拙者たち、町内の老人会特別会員でござるものっ!」
横島 「へ? なんだ、それ…?」
   
シロ 「おキヌちゃんと仲のいいお年寄りたちに、誘われたんでござるよ。」
横島 「まあ、おキヌちゃんが近所の老人たちと仲がいいのは、なんとなくわかるけど…
  でも、なんでおまえまで、そんな老人会に入ったんだ?」
シロ 「その…、拙者、お年寄りたちの役に立っているんでござる。
  石神どのの祠を、おキヌちゃんとタマモとでお掃除していたら、
  お年寄りたちに、とっても喜んでもらえたんでござるよっ!」
横島 「それで…、お小遣い、もらったんだな…?」
シロ 「うっ…!」
   
令子 「タマモ…。 あんたも、小遣い目当てで入ったのね…?」
タマモ 「だ、だって、事務所にいるより、おばあさんたちの話を聞いた方が、
  一般常識が身につきそうに思ったから…」
   
キヌ 「その…、私たちは、美神さんたちと違って、この町内に住んでいるんですし、
  町内の人たちとも、仲良く幸せに暮らせたら…、と思ったものですから…。」
令子 「まあ、仕事に影響しなきゃ、老人会に入ってたって別にかまわないけどね。」
   
キヌ 「ですから、同じ町内の石神さまも、守ってあげたいんですけど…」
令子 「だから、仕事以外のフリーの時間に守ってあげればいいんじゃない?」
キヌ 「あの…、美神さんは…?」
令子 「スポンサーがいて、300万円ぐらい貰えるんなら守ってあげるけどね〜」
キヌ 「………、そうですよね…」
   
浮遊霊 『どうやら、おキヌちゃんには手伝ってもらえそうじゃな…。
  まあ、そちらのお嬢さんには、始めから期待しておらなんだから、問題ないわな。
  おキヌちゃんや。 早速で悪いんじゃが、石神のところまで行ってもらえんじゃろうか?
  隣町から流れてきた浮遊霊の話じゃと、この2、3日中に、この街を悪霊が狙うみたいなのじゃ。』
キヌ 「そうですか、わかりました。 その、美神さん、ちょっと石神さまとお話をしてきますね?」
   
令子 「まあ、いいけどね〜…」
浮遊霊 『やれやれ、おキヌちゃんも苦労しておるのぉ〜』
   
   
  石神の奉られている三丁目の公園にやってきたおキヌちゃんと浮遊霊とヤジ馬の令子たち
浮遊霊 『おや…? なんか、変じゃな…』
キヌ 「石神さまが、いらっしゃらない…?」
   
  しくしくしく… 祠の横で、中学生ぐらいのスレンダーな女性の幽霊が泣いている…。
  なぜだか、レオタード姿で…
  ビュオンッ! 彼女のそばに飛んで行った横島。
横島 「かわいいおじょうさん、どうなされたんですかっ!?
  泣いてないで、ボクに話してみてください。 ほら、顔をこちらに向けて…」
石神 『その声は…、横島か…?』
横島 「うっ…!? あんた、もしかして…っ!?」
キヌ 「石神さまっ!?」
   
横島 「あああ…、たしかにあの石神の面影が残っている…
  とても美人だとはいえないけど…、でも…、かわいい…?
  あの猪のよ〜な首もほっそりとしてて、ほっぺたもへっこんでて、
  丸太を繋ぎ合わせただけの胴体も、でかいだけのおっぱいも、
  なんだか、み〜んなスッキリしてる…?
  ………、使用前→使用後…?
  かっ…、かっ…、神さまのクセに、ヤクに手を出してたなんて〜〜〜〜っ!!
  ああ…、でもっ、見た目は今の方がいいし…
  おっ、俺はいったいどうしたらいいんだぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
   
キヌ 「横島さんっ。 いったい、何を言ってるんですかっ!?」
令子 「あ〜あ、間に合わなかったのかぁ〜〜
  さっき言ってた悪霊に、注連飾りを取られて弱っちゃってるわけね?
  とにかく、石神さまもこのままじゃチンピラ浮遊霊に悪さをされちゃうから、
  少しは力を取り戻させてあげるしかないわね。」
石神 『知っていたのか…。 ………、面目無い…』
   
キヌ 「美神さん、どうすればいいんでしょうか…?」
令子 「さっき言ったでしょ? 新しい注連飾りをつけて、信心深い人たちに祈ってもらえば、
  その人たちの霊力が、石神さまの力になるわけよ。」
キヌ 「ああ、それならご町内の老人会のみなさんに手伝ってもらったほうがいいですよね。
  シロちゃん、タマモちゃん。 手分けして、おばあさんたちを呼んで来てもらえる?」
シロ 「わかったでござる。」
タマモ 「しかたないわね。」
   
  わさわさわさ… 10分もしないうちに、近所のお年寄り数十人が公園に集まってくる…
横島 「へ〜。 この町に、こんなにお年寄りがいただなんて…」
令子 「まあね〜。 普段は、家でじっとしてるだけだろ〜し、
  基本的に私たちとは行動時間や行動場所が違うから、顔を合わせることもないしね〜」
   
じじA 「おキヌちゃんや。 タマモちゃんから聞いたんじゃがのぉ〜
  新しい注連飾りを付け直して、お祈りすればいいんかいのぉ〜?」
キヌ 「はい。 よろしくお願いします。 石神さまが弱ってらっしゃって…」
石神 『申し訳無い…』
   
じじA 「おおっ!? こんなにやせ衰えて… こりゃいかん。 すぐに祈ってやらにゃぁ〜」
横島 「えっ!? じいさん、石神が見えるの?」
じじA 「あたりまえじゃっ! と、いいたいところじゃが、わしが見えるようになったのは、
  おキヌちゃんのおかげなのじゃ。」
横島 「へ?」
   
じじA 「わしらも都会の人間じゃから、幽霊や神様なんて信じておらんかったのじゃがな。
  でも、見えて触れる幽霊のおキヌちゃんを知るようになってから、信じるようになったのじゃ。
  そうしたら、自然と霊体が見えるようになってのお〜」
   
横島 「ふ〜ん、そんなことが有るんだぁ〜」
令子 「波長のピントを合わせれば、誰だって見えるようになるんだけどね〜
  横島クンも、慣れるまでは伝次郎の姿を見ることが出来なかったでしょ?」
横島 「そ〜いや〜、そうでしたね〜」
   
ばばA 「じいさんや、いつまで話しておるんかいの〜?
  みな、お祈りするのを待っておるんじゃがぁ〜」
じじA 「おお、すまんすまん。 年寄りの話は、長くなっていかんわい。
  それじゃあ、注連飾りをつけてっ…」
   
  パンパンッ!
じじA 「石神さま、元の力を取り戻して、今まで通り、
  わしらの住んでいるこの街を、お守りくださいませ。」
じじばば 「お守りくださいませ〜〜」
  拍手(かしわで)を打って、一斉にお祈りをはじめる老人たち…
  ムクッ!
  ムクムクムクッ!
  スレンダーだった石神さまの身体に、少しずつ筋肉がつきはじめている…
   
横島 「あああ…、リバウンドっ!? せっかく石神が、まともに見れる姿になったと思ったのにっ!
  また、あの筋肉デブになっちゃうのっ!? そんなの、イヤ〜〜〜〜っ!!」
令子 「あんたね〜…」
   
  横島の祈りが通じたのか、そこそこのグラマーな身体になったあたりで
  筋肉がつかなくなってしまった石神さま…
横島 「おおっ!? こ、これぐらいなら、いいかもっ!」
   
じじA 「石神さま、すまんのぉ〜 どうやら、これがわしらの精一杯みたいじゃ…」
石神 『いや…、これだけでもありがたいよ…
  さっきの身体じゃ、自分を守ることさえできたかどうか…』
   
キヌ 「美神さん、やっぱり古い注連飾りを取り戻した方がいいみたいですね…」
令子 「そおね〜。 数百年ぶんの祈りが詰まっているから、以前のパワーを取り戻すには
  それしかないでしょうね〜…」
   
じじA 「おキヌちゃんや。 あんたたちで、取り戻してもらえんかの〜?」
キヌ 「ええ…。 でも、お仕事となると…」
じじA 「ああ、お金がかかるんじゃろ? わしらも、タダでやってもらおうとは思っておらんて。
  で、いくらぐらいかかるんじゃ?」
キヌ 「えっ、えっと…、さんびゃ…」
令子 「一千万よっ!!」
   
キヌ 「えっ!? み、美神さん…、さっきはたしか…」
令子 「一千万円よっ! それだったら、石神さまの注連飾りを取り戻してくるわっ!」
じじA 「ふむ、一千万円か…」
   
  小声で話すおキヌちゃんたち…
キヌ 「その…、どうしてなんですか…?」
令子 「だって、ここにいる連中、都会の一等地に土地を持ってるじいさんたちなのよっ?
  おいさき短いし、信心深いんだから、それくらいは出せるはずよっ!」
横島 「あんたなぁ〜…」
   
じじA 「それくらいなら、わしが全額出してもいいんじゃが…
  おキヌちゃんには、よくしてもらってるから、わしが死んだら遺産の半分は
  おキヌちゃんにあげようと思っておったんじゃがのぉ〜
  少し遺産が減ってしまうが、それでもかまわんかいのぉ〜?」
キヌ 「そんな…、おじいさん…」
   
ばばA 「あら、じいさん。 あんただけに、かっこつけさせる気なんかないからね?
  私が全額出したって、かまわないんだよっ!?
  私の貯めたお金は、身寄りの無いシロちゃんとタマモちゃんの嫁入り費用にと思ってたんだけどね。
  あまり豪華なことはできなくなるけど、そこから少しまわせば出せる金額だからねっ。」
ばばB 「なんだい、あんたも同じこと考えてたのかい?」
じじB 「わしだって、この子らのためなら、お金なんか惜しくないぞ?」
   
タマモ 「おばあさんたち、そんなこと考えててくれたんだ…」
シロ 「なんだか、申し訳無いでござるな…」
   
  わいわいわい、がやがやがや… なにやら、簡単にお金が集まりそうな雰囲気…
じじA 「わかったわかった。 みんな、お金を出す気があるのじゃな?
  それぞれ、出してもいい金額を紙に書いてくれ。 それで、分担金を決めるから。」
   
  しばらくして…
じじA 「なんじゃ、みんなずいぶん金を持っておるんじゃのぉ〜
  全部集めると、2億になってしまうぞ?」
令子 「に、2億〜〜〜っ!?」
じじA 「必要なのは一千万円じゃから、それぞれ自分の書いた金額の20分の1で充分じゃな。」
ばばA 「なんだい、それぐらいでいいのかい。」
ばばB 「ずいぶん、安くて済むんじゃのぉ〜」
じじB 「なんにせよ、それで石神さまが元にもどるんなら、ばんばんざいじゃて。」
   
令子 「し、しまったぁ〜〜〜っ!
  せめて1億円って、言っておけばよかったぁ〜〜〜〜っ!!」
横島 「あんたなぁ〜…」
   
   
  てなわけで、悪霊退治の仕事にとりかかることになった令子たち…
令子 「さてと…。 引き受けちゃった以上、やるしかないわね。
  石神さま、その道場破りの悪霊って、どんなやつだったの?」
石神 『それは…』
   
   
  ちょっと前の出来事…
石神 『おいっ! そこの、覆面をかぶったあんたっ!』
悪霊 『ん? わしのことでごわすか?』
石神 『そうだよっ! ここは、あたいのシマでね。 冥界の臭いをプンプンさせた、
  あんたみたいな奴に、ここをうろつかれては困るんだよっ!』
   
悪霊 『ふ〜ん、ぬしが、ここの土地神でごわすな?
  この土地で、1番強い霊体を捜しているんでごわすが、ぬしなら知っておろう?
  教えてもらいたいでごわす。』
   
石神 『なに、ねぼけたこと言ってやがるんだいっ! ここで1番強いのは、あたいに決まってるだろっ!?
  強くなきゃ、土地神なんか、やってられねえんだよっ!』
悪霊 『どこの土地神も、似たようなことを言ってたでごわすよ…
  でも、強い土地神なんぞ、一人もいなかったでごわす。 ほれ、これを見るがいいっ!』
   
  ばさっ! 石神の目の前に投げ出されたのは、注連飾りの束…
石神 『うっ…! こ、これは、土地神たちの注連飾り…』
悪霊 『別に欲しくて貰ってきたわけではないんでごわす。
  弱いくせに、負けても負けても戦いを挑んでくるので、これを取ることにしたんでごわす。
  これを取ったら、さすがにどこの土地神もおとなしくなったでごわす。』
   
石神 『あ、当り前だっ!! 土地神の使命は、あんたのような奴から土地を守ることだからなっ!
  たとえ勝ち目がなくても、戦わないわけにはいかないんだよっ!!』
悪霊 『そうらしいでごわすな…。 ぬしも戦う気でごわすか…?』
石神 『そこいらの土地神よりは、強いぜ…?』
悪霊 『わしは、もっと強いでごわすよ…?』
石神 『ぬかせ〜〜〜っ!!』
   
  バキッ! グシャッ! ドッド〜〜ンッ!  し〜〜ん…
   
石神 『くっ…!』
悪霊 『悪く思うでないでごわすよ? わしは、ただ強い霊体と戦いたいだけでごわす。
  わしより強い霊体に出会うまでは、これは預かっておくでごわす。』
   
  石神の注連飾りを取り外す悪霊
  ぷしゅうぅぅ〜〜〜 霊力が下がり、スレンダーな身体になってしまった石神…
悪霊 『ほほ〜、そうしてみると可愛い少女の霊体になるんでごわすな。 いい感じでごわすよ。』
石神 『うぅ、何がいいもんかい…。 弱い石神では、役にたたない…』
悪霊 『な〜に、心配いらないでごわす。 チンピラ悪霊にいぢめられたら、わしが助けてやるでごわす。
  この覆面格闘家 グレート・オソレが、一発で仕留めてやるでごわすよ。 ふははははっ!』
   
   
横島 「グレート・オソレ…?」
キヌ 「変な名前の人ですね…」
令子 「そんな名前のやつって、あいつに決まってるじゃないのっ!」
横島 「やっぱ…、あの相撲取りの恐山…スか…?」
令子 「たぶんね…」
   
キヌ 「でも、恐山さんって、美神さんにまげを落とされて引退して冥界に帰ったはずじゃ…」
令子 「だから、名前も変えて覆面までしてるのよ。
  ま、角界を引退してからプロレスラーになる奴なんて、珍しくも無いしね〜。
  ど〜せ、最近、冥土に行った連中からでも話を聞いて、その気になっちゃったんでしょ?
  体育会系の連中って、引退宣言しておきながら、平気で復活しちゃうからね〜」
横島 「芸能界も、似たようなもんスけどね…」
   
キヌ 「それじゃあ、どうやって注連飾りを返してもらえばいいんでしょうか…?
  今度は、まげを落とすわけにもいかないし…」
横島 「覆面レスラーなら、覆面を取っちゃえばいいんじゃないの?」
令子 「それだけじゃ、たぶん無理だわ。 また、すぐ復活しちゃうに決まってるもの。
  そおね…。 やっぱり、力でねじ伏せるのが1番よっ!」
   
横島 「それって、誰がやるんスか…?」
  ささ〜っ! 一斉に、横島の方に視線を向ける令子たち…
横島 「うっ…! お、俺っスかぁ〜?」
令子 「う〜〜ん…。 横島クンみたいな、貧弱な体格の奴に負けても、
  恐山は、負けた気になんないだろうしね〜。 もっと、ガタイのでかい奴でないと…」
   
キヌ 「それじゃあ、タイガーさんに戦ってもらえば…」
令子 「タイガー? ダメよ、あいつじゃ。 恐山とは、霊力に差がありすぎるわっ!
  それに、あいつはエミの管轄よっ!?
  エミにまで、分け前がいってしまうなんて、冗談じゃないわっ!」
横島 「でも、ガタイのでかい奴って、タイガーくらいしかいませんけど…?」
令子 「う〜ん…。 どうしようかなぁ〜…」
   
   
  三丁目の公園からさほど離れていない児童公園…
  ズシ〜〜ン! ズシ〜〜ン! 一人で四股を踏んでるグレート・オソレ…
オソレ 『う〜ん、現世には、強い奴は一人もいないでごわすなぁ〜
  相撲取り以外にも強い格闘家がいると聞いて転向したんでごわすが、
  土地神以外の格闘家たちは、びびって戦いもしないでごわす。
  情けない話でごわすよ。』
   
令子 「あら、恐山さん、こんなところにいたのね?
  おっと、今はグレート・オソレって、名乗っているんでしたっけ?」
オソレ 『うっ!? ぬしは、わしの本当の名を知っているっ!?
  ふむ…、その顔に見覚えがあるでごわす。 わしのまげを落としたおなごでごわすな…?
  また会いにきたということは、おいんどんのおかみさんになって、組んずほぐれつ…!?』
   
令子 「じょ、冗談じゃないわよっ! バカなことを言わないでよっ!
  あんたが、強い霊体を捜してるって聞いたから、わざわざ捜してきてやったのよ。
  あんた、強い奴と戦いたいんでしょ?」
オソレ 『そうでごわすが… ほんとに、そんな奴がいるんでごわすか?』
   
令子 「戦ってみたらわかるわよっ! ジャイアント石神さん、よろしくねっ!」
  ズシ〜ンッ! 令子に呼ばれて現れた、ジャイアント石神
  グレート・オソレより、ふたまわりほど大きいガタイである。
   
オソレ 『ん? さっき倒した石神とそっくりでごわすな…。 ガタイはこっちの方が大きいでごわすが…』
令子 「そりゃそうよ。 さっきの石神さまの双子の姉妹で、姉にあたる神さまだからねっ!
  少し離れた町の石神さまなんだけど、妹がやられたのを聞いて、わざわざやってきたのよっ!」
   
オソレ 『ぬしも石神…? どっちかというと、稲荷神社の臭いがするでごわすが…』
令子 「う…っ! そ、そんなこと、どうだっていいでしょっ!?」
オソレ 『まあ、強い奴ならかまわないでごわすよ。』
令子 「それじゃあ、石神さま、こいつをやっつけちゃってよねっ!」
G・石神 『わかったわ。 美神さん。』
   
   
  ギロリッ! にらみ合う、グレート・オソレとジャイアント石神…
令子 「30分、1本勝負よっ! 恐山、負けたら注連飾りを置いて、おとなしく冥土に帰るのよっ!?」
オソレ 『わかってるでごわすよ。 ぬしが負けたら、石神の注連飾りを渡すでごわすよ?』
令子 「わかってるわっ! それじゃあ、試合開始よっ!」
   
  カ〜〜ンッ! ゴングを鳴らすおキヌちゃん。
オソレ 『こうゆうガタイのでかい奴は、足腰が弱いのが相場でごわす。
  わしのぶちかましで、一気に倒してしまうでごわすよっ!』
  どどどど〜〜〜っ!! ジャイアント石神に向かって突進するグレート・オソレ
   
令子 「今よっ! タマ…、ジャイアント石神っ!!」
G・石神 『えいっ!! 空気投げ〜〜っ!!』
オソレ 『うおぉっ!?』
  ずっで〜〜〜んっ!! 地面に叩きつけられたグレート・オソレ
   
オソレ 『な、何が起きたのだっ!? うっくっ、起き上がれんでごわす…』
令子 「石神っ! こいつの肩をおさえてっ! 横島クン、カウントよっ!!」
横島 「はいっ! だるまさんがころんだっ!!
  開始30秒〜、秒殺でジャイアント石神のKO勝ち〜〜〜っ!! 決まり手は、はたき込み〜!」
  カンカンカンカ〜〜ンッ! ゴングを打ち鳴らすおキヌちゃん。
   
オソレ 『うぅ…、わしは負けたのか…? な、何かキツネに化かされたみたいで、納得いかんでごわす。
  もう1番っ、もう1番真剣勝負をやるでごわすよっ!?』
令子 「やっぱ、そうきたか…。 往生際の悪そ〜なオヤジだからね〜
  おキヌちゃん、あとはお願いねっ!」
キヌ 「はいっ!」
   
  ピュルリリリリ〜〜〜 ネクロマンサーの笛を吹くおキヌちゃん。
キヌ 「恐山さん、あなたは石神さまに負けたんですよ?
  負けたことを素直に認めて、約束通り、おとなしく冥界に帰って欲しいんですけど…」
   
オソレ 『………、そうでごわすな…。 約束は守らないとまずいでごわす…』
  しゅぼぉ〜〜〜〜 おキヌちゃんの言葉に従って、冥界に向かって飛び去っていったグレート・オソレ
  あとには、注連飾りの束が残されている…
令子 「さすがは、おキヌちゃん。 よくやったわ。
  タマモも、もう元の姿に戻っていいわよっ!」
   
  ぽんっ! 変化をといて、ジャイアント石神の姿から元に戻ったタマモ。
タマモ 「あ〜、怖かった。 横島の文珠が役に立たなかったらどうしようかと思ったわっ!」
シロ 「タマモっ! 先生の文珠は、万能でござるよっ!
  実際、1発で仕留めたでござろうっ!? 怖がる必要なんかなかったんでござるっ!
  ほんとにすごかったでござるよね? せんせっ?」
横島 「まあな〜。 (倒)すだけなら、強力な魔族にも効くことはわかってたしな〜」
   
  落ちていた注連飾りを拾い上げるおキヌちゃん。
キヌ 「ああ、よかった。 早速、石神さまの所に戻って、古い注連飾りをつけなおさなきゃ。
  シロちゃん、タマモちゃん、二人はほかの土地神さまの注連飾りを、
  それぞれの祠に、戻してきてもらえる?」
   
令子 「ちょっと待ってっ! おキヌちゃんっ!」
キヌ 「はい…?」
令子 「私たちが引き受けたのは、うちの石神さまのぶんだけよ?
  他の土地神の注連飾りを、タダで返す必要なんてないわ。
  土地の老人会に、それぞれ300万円で買い取ってもらうつもりなの。」
キヌ 「あああ…」
横島 「あんたなぁ〜…」
   
  とにもかくにも、三丁目の石神さまは、無事、横島の嫌いな筋肉デブのガタイに戻った模様…
   
  翌日 美神事務所
キヌ 「その…、おばあさん、どうですか…?」
ばばA 「ああ。 とっても気持ちがいいよ。 おキヌちゃんの手当ては最高だね〜
  おかげで、神経痛の痛みが、だいぶん軽くなったよ。」
ばばB 「あんたばっかり、ずるいよ。 次は、私だからね。」
  わさわさわさ… ご町内のじじばばたちが、大集合してたりする…
   
横島 「シロ…。 これって、どういうこと…?」
シロ 「昨日、石神さまの注連飾りを老人会の人と付け直したあと、
  おキヌちゃんが、老人会の人たちに、いつでも事務所に遊びに来てくださいねって、
  言ってしまったらしいんでござるよ…。 そしたら、早速…」
横島 「う〜ん、いまどきの年寄りは、ずうずうしいからなぁ…」
   
令子 「もぉ〜〜っ!! ここは、養老院じゃないのよぉ〜〜っ!?」
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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