『 ご町内のみなさま 』

著者:まきしゃ


    某日深夜、都区内の美神事務所からは少し離れた都心での出来事。
  ビルの立ち並ぶビジネス街の一角に、忘れ去られたような小さな祠がひとつ…
  その守り神である土地神が、いま、悪霊にたたきのめされそうとしていた…。
   
  しゅこ〜〜 ふしゅるるるる〜〜〜〜
悪霊 『弱い…! 弱いなぁ〜〜〜〜!!
  今日びの土地神は、ろくに修行もしとらんでごわすな。
  そんな奴に、神を名乗る資格はないでごわす。
  約束通り、注連飾り(しめかざり)は、もらっていくでごわすよっ!』
   
土地神 『くっ…。 この街に、もっと信心深い人たちがいれば、
  こんなに、あっさりやられなかったものを…っ!』  ガクッ…!
   
   
  数日後… 美神事務所のすぐ近くの小さなスーパーマーケット
  今日の夕食のおかずを買いに来ていたおキヌちゃん。
  そこに、浮遊霊のおじいさんが、ス〜っと寄って来る。
浮遊霊 『おキヌちゃん、ちょっと相談したいことがあるんじゃが、いいかな…?』
キヌ 「あら、こんなところで、どうしたんですか? おじいさん。」
浮遊霊 『うん、最近、妙な事件が起きていてな…』
   
  おキヌちゃんの様子を見ていた新入り男性アルバイト店員が、小声で店長に話しかける。
店員 「店長…。 あの女の子、変じゃないですか…?」
店長 「ん? どの子のこと? ああ、おキヌちゃんか。 彼女は、普通のいい子だよ?」
店員 「で、でも、さっきから、一人でぶつぶつ話をしているんですけど…」
店長 「おおかた、そのへんの浮遊霊と話しているんだろ?」
   
店員 「ふ、浮遊霊っ!? そ、その、店長っ、ここに幽霊がいるんですかっ!?」
店長 「たぶんな。 俺には見えないけど。」
店員 「たぶんってっ!? そんな〜っ! は、はやくゴーストスイーパーに退治してもらわないとっ!」
店長 「なんで? 別に悪霊じゃなきゃ、問題ないだろ?
  それにおキヌちゃんは、元々幽霊で、今はゴーストスイーパーなんだし…」
店員 「そ、そうなんですか…?」
   
  店長と店員のやりとりに気づいたおキヌちゃん。
キヌ 「あっ、すみません。 こんなところで、立ち話しちゃって…」
店長 「いやいや、別にかまわないよ。
  それより、おキヌちゃん。 うちのバアさんが、死んだジイさんに会いたがっててね。
  ジイさん、ど〜せまだ、成仏してないんだろ? 会いにくるように言ってくれないかな〜?」
キヌ 「あっ、はい。 わかりました。 今度あったら、伝えておきますね。」
   
  これ以上、邪魔にならないようにと、お店を出ていったおキヌちゃん。
  他の店員や顔なじみのお客さんも、この光景を当り前のように見つめている。
  呆然としているのは、新入りアルバイト店員ただひとり…
店員 「うぅ…。 変だっ… 絶対、変だっ! なにか…、なにかが間違ってるぅ〜〜〜〜っ!!」
店長 「なにを一人でぶつぶつ言ってるんだ? 変な男だな…。」
   
   
  浮遊霊と一緒に美神事務所に戻ってきたおキヌちゃん。
令子 「おキヌちゃん…。 また浮遊霊をつれてきたの…?
  浮遊霊の相談って、お金になんないから嫌いなのに…。 今度は、なんなの?」
キヌ 「すみません、すみません。 でも、なんだか大変なことが起こってるみたいなんです。」
   
令子 「大変なこと? それって、祠の注連飾り連続盗難事件に関係してる?」
キヌ 「えっ? 美神さん、知ってるんですかっ!?」
令子 「まあね〜。 最近の浮遊霊絡みの事件っていったら、それぐらいのもんだからね〜。」
   
横島 「へ〜、変な事件っスね〜。 注連飾り盗んで、どうするんだか。」
令子 「う〜ん、三流GSの仕業かもね〜。」
横島 「えっ? GSがなんでそんなことをっ!?」
   
令子 「注連飾りは、まつられている神様が、力を発揮するために必要なアイテムなのよ。
  信心深い人からの霊力を受け取るためのアンテナみたいなものね。
  それを取られちゃうと、神様自体も浮遊霊並の力しかなくなっちゃうの。
  神様に力が無いと、普段はおとなしくしているチンピラ浮遊霊が、悪さをはじめちゃうわけ。
  それで、除霊依頼の仕事が大量にまいこんでくることになるのよ。
  失業寸前の三流GSが、仕事が欲しくて盗んだとしても、おかしくはないわね〜」
   
横島 「そのわりには、うちは、あんまり仕事は増えてないですけど?」
令子 「そりゃそうよ。 普段は石神にも負けるよ〜なチンピラ悪霊の悪さなんて、たかがしれてるからね。
  そんな安い仕事は、引き受ける気になんかならないわっ。」
横島 「へ〜、そうなんスか…。 なんだか、さえない話っスね〜。
  でも、新しい注連飾りをつければ、すぐに元通りになるんじゃないっスか?」
   
令子 「きちんとした儀式にのっとって、つけ直せばね。 でも、盗まれた元の注連飾りがないと
  今までの蓄積分はチャラになっちゃうから、石神が弱くなるのは避けようが無いわ。」
横島 「なんだか、いろいろ細かいんスね〜 じゃあ、この地区が縄張りの、
  あの女子プロレスラーな石神も、注連飾りを盗まれると弱っちくなっちゃうんですかね〜?」
令子 「まあね〜。 おキヌちゃん、注連飾りの盗難防止の相談に浮遊霊が来たんでしょ?」
   
キヌ 「あの…、そうみたいなんですけど…
  でも、盗んでいるのは人間じゃないみたいなんです…」
  ようやく口を挟めたおキヌちゃん。
令子 「あら、違ったの? じゃあ、なんなの?
  浮遊霊、あんた、わざわざここまで来たんだから、早くいいなさいよっ。」
浮遊霊 『………、どうやら、わしも話をしてもいいようじゃな…』
   
  浮遊霊の話によると…
  注連飾りの連続盗難の真犯人は格闘家の悪霊で、都内の土地神に戦いを挑んでは、
  負けた土地神の注連飾りを奪って行くことを繰り返しているそうだ。
  まだ、ここの石神とは戦っていないのだが、負けてしまうとチンピラ浮遊霊が跋扈してしまうので、
  石神が勝てるように、なんとかしてもらえないだろうか、ということらしい。
   
令子 「ふ〜ん、道場破りが看板奪って行くよ〜な感じと一緒なのね。
  体育会系の悪霊が、考え付きそうな悪さだわね〜。」
横島 「美神さん、やっぱり地元だし、ここの石神がやられそうになったなら助けるんスか?」
令子 「スポンサーがいればだけどね〜
  でも、ここの石神は強いから、そんな心配はいらないんじゃないのかな?」
横島 「たしかに、強そうっスけどね〜」
   
キヌ 「でも…、他の土地の石神さんが、何体もやられちゃってるそうですし…」
  なんとかしてあげたいと思っているおキヌちゃん。
令子 「ほんと、心配いらないわよ、おキヌちゃん。
  石神は、注連飾りで信心深い人からの霊力を受け取ることで、より強くなれるのよ。
  この町内の人って、おキヌちゃんのおかげで、皆、信心深いはずよね?」
キヌ 「で、でも…」
   
シロ 「おキヌちゃん。 拙者も、大丈夫と思うでござるよっ!?
  この町内の人たちは、他の町内と比べると、とっても信心深いでござるものっ!
  並の悪霊では、ここの石神どのをやっつけるのは無理でござる。」
横島 「ふ〜ん…。 シロ、よく、そんなことがわかるんだな?」
シロ 「だって、拙者たち、町内の老人会特別会員でござるものっ!」
横島 「へ? なんだ、それ…?」
   
シロ 「おキヌちゃんと仲のいいお年寄りたちに、誘われたんでござるよ。」
横島 「まあ、おキヌ