『 1度でいいから行きたいの〜 』

著者:まきしゃ


    ピーーーー! ジョボジョボジョボ… 3分後…
タマモ 「できたわ。」
  パッカンっ!
シロ 「できたでござる。」
令子 「よしっ! それじゃ〜、いただきま〜す。」
冥子 「いただきます〜。」
   
  美神事務所のお昼休み。 平日のため、まだ横島とおキヌは学校にいる。
  遊びに来ていた冥子と一緒に、令子たちがお昼ご飯を食べているところ…。
   
冥子 「でも〜、なんだか悪いわね〜。 私たちだけが、こんなにいいもの食べて〜」
令子 「こいつら、居候なんだもの。 これが当たり前なのよっ。」
  令子と冥子の昼食は出前の特上寿司、タマモはきつねごん兵衛、シロは缶詰のドッグフード。
   
タマモ 「冥子さん、気を使わなくてもいいわ。 これは、私の好物だから。
  まあ、ほんとは、新製品の『特大油揚げ入り』が食べたかったんだけど。」
シロ 「拙者も、大丈夫でござるよ。 生タイプのドッグフードは大好物でござるっ!
  ただ、3缶100円の特売品より、1缶250円の金印の方を食べたかったんでござるが。」
   
令子 「あんたたちっ、ひとこと多いわよっ!?
  それでいいって言ったのは、あんたたちの方なんだからねっ!?」
シロ 「わ、わかってるでござる…」
   
冥子 「あら〜、令子ちゃん〜。 シロちゃんたち〜、どうして安い方で我慢してるの〜?」
令子 「こいつらね〜、1度仕事でデジャブーランドに連れてったら味をしめちゃってっ。
  今度は遊びで連れて行け〜って、うるさいのよっ!
  それで、昼食を一ヶ月間、安物で我慢したら連れてってやるって約束したのよ。」
   
冥子 「そおなんだ〜。 デジャブーランドかぁ〜。 いいなぁ〜……
  私〜、まだ〜1度も行ったことがないの〜…。」
令子 「………、そうでしょうね…。」
   
冥子 「そおだわ〜。 令子ちゃん〜、私もデジャブーランドに連れてってくれる〜?」
令子 「ぶっ!?」
  飲みかけていたお茶を、吹き出してしまった令子…
   
シロ 「冥子どのも一緒でござるかっ! なんだか、楽しそうでござるなっ!」
タマモ 「でも…、なんで冥子さん、今まで1度も行ったことがないの? 楽しいのに。」
冥子 「だって〜、私〜、お友達が〜少なくて〜、誰も一緒に行ってくれなかったの〜。」
令子 「そ〜ゆ〜問題じゃないだろっ!?」
   
冥子 「え〜? 令子ちゃん、そうゆう問題なのに〜。」
令子 「あんたの問題は、友達以前に、すぐにプッツンすることなのよっ!
  あんたみたいなのが、お化け屋敷に行ったら、どうなるかわかってるでしょっ!?」
   
冥子 「でも〜、そおゆうアトラクションに〜入らなければ〜、大丈夫だわ〜?」
令子 「よ〜するに、人気の高い刺激的なアトラクションは、全部入れないってことでしょっ!?
  たしかに、そんな奴と一緒にデジャブーランドに行きたがる人はいないでしょ〜ねっ!」
   
冥子 「令子ちゃん、ひどい〜〜! それって〜、私を連れてってくれないってことなの〜?」
令子 「あたりまえじゃないのっ! なんであんたと一緒に行かなきゃなんないのよっ!?」
冥子 「あうぅ〜〜 令子ちゃんと行けると思ったのに〜〜〜
  初めてデジャブーランドに行けると思ったのに〜〜〜っ!!」
  うるうるうるっ! 危険信号発令っ!!
   
令子 「わわわっ! こんなところで、そんな程度で、プッツンしないでよっ!?
  わ、わかったわよっ! 連れていきゃ〜いいんでしょっ!? 連れていけばっ!」
冥子 「だから〜、令子ちゃん好き〜〜〜〜!」
令子 「この娘は…。」
   
   
  冥子が帰宅してから、しばらくして、横島とおキヌが出社してきた事務所…
横島 「へ〜、それで美神さんも一緒にデジャブーランドに行くんスかぁ〜。
  なんだか冥子さんのおもりが大変そうっスね〜。  怪我しないように行ってきてくださいね。」
シロ 「えっ? 先生は、行かないつもりでござるのかっ!?」
横島 「おまえら、遊びで行くんだろ? デジャブーランドには、仕事でならともかく遊びで行くような
  贅沢な生活は、俺には出来ね〜のっ!」
   
令子 「あら、それなら心配いらないわ。 今度のデジャブーランド行きは、全部冥子のおごりだから。
  それに、横島クンには、ずっと冥子のそばについていてもらいたいの。」
横島 「えっ? それって、俺と冥子ちゃんの交際を認めてくれたってこと… ぶっ!?」
   
令子 「なにバカなこと言ってんのよっ! あんな、いつプッツンするかわからない娘の近くにいたら、
  危なくてしょ〜がないからよっ! 私たちは、横島クンがやられている間に逃げるから、
  あんたは精一杯、時間かせぎをするのよっ!?」
横島 「あんたなぁ〜…」
   
令子 「ま、それもあるけど、横島クンは、幼児をあやすのは得意だったわよね。
  冥子の喜びそうなガキ向けのぬるいアトラクションを一緒に楽しめるのは、横島クンしかいないのよ。
  私は、冥子のペースに合わせる気なんか、ないからねっ!」
横島 「俺も、ガキ向けのぬるいアトラクションが好きなわけじゃないんっスけどね…」
シロ 「………、それにしても、冥子どのもずいぶんヒドイ言われ方をしてるでござるな…。」
   
タマモ 「ねえ、おキヌちゃん。 冥子さんがプッツンしたら、どうなるの?」
キヌ 「冥子さんの影にいる式神さんたちが、コントロールできなくなって暴れだしちゃうの…。」
タマモ 「ふ〜ん、式神が暴れるから、危険なのか〜。
  それなら、デジャブーランドに式神を連れて行かなきゃいいのに。」
キヌ 「えっ?」
令子 「あっ、そうかっ!」
   
   
  デジャブーランドに行く当日の朝…
令子 「…………」  イライライライライライライライライライラッ!
横島 くかぁ〜〜
タマモ ス〜 ス〜…
  六道家に集合した令子たち。
  冥子の出かける準備が整うのを、のんびりと応接室で待っている… の〜んび〜りとぉ〜
   
六道母 「ごめんなさいね〜、お待たせしちゃって〜
  うちの子って、いつもこうなのよ〜〜?」 のほほ〜ん…
令子 「そうでしたねっ! よくわかってますわっ!」
六道母 「もうそろそろだから、怒らないでね〜、令子ちゃん〜〜〜」
令子 「できればねっ!」
   
  そこからさらに、令子時間で1時間経過っ!! ……って、実際は5分程度だけど…。
冥子 「みんな〜、準備できたわ〜。 行きましょう〜。」 ニコニコ。
令子 「あんたっ! 人をさんざん待たせておいて、おわびのひとことも無いんかっ!?」
冥子 「え〜? だって〜、私も辛かったのよ〜?」
令子 「なにがっ!?」
   
冥子 「ほら〜、式神たちを護符に封印しなきゃいけなかったでしょ〜?
  みんなに、謝りながら封印してたんだから〜。」
令子 「えっ? あんた、今朝、いちいち全鬼封印してたの?
  なんで、昨日、寝る前にやっておかなかったのよっ!?」
冥子 「だって〜、式神たちを封印しちゃったら、怖くて眠れないんだもの〜」
令子 「………、あっそぉ〜…」
   
フミ 「みなさま、それではこちらへどうぞ。 自家用サロンバスを用意しておりますので。」
シロ 「先生、サロンバスって、なんなんでござるか?」
横島 「バスの中で宴会できるようになっているやつさ。 芸能人とかがTVでよく使ってるだろ?」
シロ 「でも、先生…、こんなバス、見たことないでござるよ…?」
横島 「うっ…!」
   
  六道家のサロンバスがどのようなモノなのか… 各自、想像していただきたい…。
  思い浮かばない人は、16巻P45参照のこと。
   
令子 「おキヌちゃん、そこのビール取ってくれるっ?」
キヌ 「ええ? 美神さん、朝からお酒はよくないですよ…?」
令子 「いいから、取ってっ! こんな、こっぱずかしいバスに乗せられて、飲まずにいられないわっ!?」
冥子 「令子ちゃん〜〜、これから遊びに行くんだから〜、もっと楽しくしましょうよ〜〜」
   
   
  ま、そんなバスでも無事デジャブーランドにご到着。
冥子 「令子ちゃん〜、見て〜! デジャブーランドのお城が見えるわぁ〜!」
令子 「はいはい…。」
横島 「あの…、冥子さん…、これって…?」
  横島が気にしているのは、バスから降ろされた大量の荷物…
   
冥子 「横島くん、お願いね〜。」
横島 「やっぱ…、俺っスかぁ…?」
冥子 「昨日〜、令子ちゃんに〜、持って行くモノの相談をしたら〜、大きなモノは〜、
  全部〜、横島くんがぁ〜、持ってくれるから大丈夫〜って、言われたの〜。」
   
横島 「美神さんっ! 俺、冥子ちゃんとつきっきりでエスコートする役じゃなかったんスかっ!?」
令子 「プッツンする心配が無いから、その役は、もうやらなくてもいいのっ。
  あんた、タダで遊びに来てるんだから、それくらいは働きなさいよっ!」
横島 「タダは、美神さんもじゃないっスかぁ〜!」
令子 「私は、冥子が指名したから、タダでも当然なのっ! あんた、イヤなら今から帰ってもいいのよ?」
横島 「うっ…!」
   
令子 「でも、さすがにこれじゃあ多過ぎるわね…。
  冥子。 いったい、こん中、何が入っているの?」
冥子 「えっとぉ〜、6人分のお座布団と〜、6人分のお弁当と〜、テーブルクロスと〜…」
令子たち 「………」
   
令子 「弁当は、シロとタマモに取りにいかせるから、時間がくるまでバスに置いておけばいいわっ。
  座布団は、3枚でじゅうぶんよっ! それで、いいわね? 横島クンに、冥子っ!」
横島 「えっ!? 座布団3枚ってことは、二人で1つの座布団に座るってことっスよね…?
  ってことは…、俺と美神さんが1枚の座布団で、お尻をぴったりくっつけて… ぶっ!?」
令子 「横島クン、なんなら6枚背負って来てもいいのよ?」
横島 「いえ…、3枚でいいです…。」
  もちろん、令子、冥子、おキヌちゃんの3人分である…。
   
  さて、そんなわけでデジャーブーランドに入場したのですが…
横島 「どのアトラクションに行くんスかぁ〜?」
令子 「冥子のことを考えたら、ファンタジーランドしかないんだけどね…」
冥子 「令子ちゃん〜、見て見て〜! きゃぁ〜〜、かわいい〜〜〜っ!」
   
  入った瞬間から、様々なイルミネーションに気を取られて、喜んでいる冥子。
  入り口から30mしか進んでないのに、すでに30分経過…。
   
シロ 「この程度で、ここまで喜べる人は、ある意味凄いでござるな…」
タマモ 「私が初めて来たときも、こんな感じだったのかしら… なんか、恥ずかしいな…」
シロ 「それはともかく… プッツンするのは、冥子どのより美神さんの方が先でござるな…」
   
  残念ながら、シロの予想はハズレていた。
  冥子の場合は、細い糸が切れるような音だからプッツンでいいのだが、
  令子の場合は、太いナイロンザイルの切れる音が正解である…。
  ブチッ!!
   
令子 「冥子っ!! いい加減にしなさいっ! 遊びたいのはあんただけじゃないのよっ!!」
冥子 「え〜? 令子ちゃん〜、楽しくないの〜?」
令子 「こんなんで楽しめるのは、あんたしかいないわよっ!
  ほらっ! アトラクションに入るわよっ! とっとと、歩きなさいっ!」
  ポカッ! 冥子のお尻に蹴りを入れた令子…。
冥子 「あ〜〜ん、令子ちゃん〜、いたぁ〜い〜。 怒っちゃやだ〜〜」
   
   
  なんとか1つのアトラクションを見終わって、
  屋外のテーブルでお弁当を食べ始めたときには、もうお昼過ぎ…
  すでに、ぐったりとしている令子…
   
令子 (き、きつい… 精神的に、きつすぎるっ!
  このまま、あと何時間も、冥子につきあってなんかいられないわっ!
  なんとかしなきゃ…    んっ? そうだっ!)
  「タマモっ! ちょっと、こっちに来なさいっ! 話があるのっ!」
タマモ 「いいけど、なに?」
   
横島 「冥子さん、次はどこに行きたいっスかぁ〜?
  『グーさんのバニーハント』とか、人気あるみたいっスよ〜?」
冥子 「え〜っ? なあに〜? 横島くん〜。 どれが人気あるって〜?」
   
シロ 「おキヌちゃん、美神さんと先生の様子が、ちょっと変な感じでござるが、どうかしたんでござるのか?」
キヌ 「シロちゃんも、気付いたのね…
  その…、美神さんが、何か悪巧みを思いついて、タマモちゃんに指示してるみたいなの…。
  それに気付いた横島さんが、冥子さんに美神さんの悪巧みを気付かれないようにするために、
  適当な話題をみつけて、冥子さんに話しかけているの…。」
シロ 「うっ…。 なんか、ものすごく高度な連携プレーでござるな…。」
キヌ 「無事に済めばいいんだけど…。」
   
  令子に言い含められたタマモが、冥子に声をかける。
タマモ 「あの、冥子さん?」
冥子 「えっ? タマモちゃん、なあに〜?」
  カッ! もわわわ〜〜〜ん   タマモの幻術に化かされてしまった冥子
  冥子の目は、うずまき状に変化 (笑)
   
キヌ 「あああ……」
横島 「なるほど…、その手がありましたね…。」
令子 「さすがに、これ以上、つきあってられないからね〜。」
   
シロ 「タマモ。 冥子どのを、どう化かしたんでござるのか…?」
タマモ 「ん〜? 美神さんと二人で、いろんなアトラクションを一緒に楽しんでる夢を見てるはずだわ。
  まあ、前回来たときに、いろいろ行ってるから、化かす内容は簡単だったし、
  かなりリアルなはずだから、目が覚めても化かされたとは気付きにくいわ…。」
シロ 「夢で、遊んでるつもりになるのでござるな…。 なんだか、申し訳無いでござるな…」
タマモ 「でも、冥子さん、このまま美神さんに怒られっぱなしで遊ぶより、ましでしょ?」
シロ 「まあ、そうでござるが…」
   
令子 「じゃあ、シロとタマモ。 あんたたち、二人で遊んできていいわよ。
  花火が始まる前に、MMTの前に集合よっ!」
シロ 「えっ? 先生たちは?」
令子 「さすがに、化かされた冥子をほっておけないでしょ?
  でも私一人が見張ってるんじゃ〜つまんないから、横島クンとおキヌちゃんには、
  話し相手に残ってもらうつもりなの。 あんたたちは、好きに遊んできていいわよ?
  もともと、ここに来ることになったのは、あんたたちが言い出したことだしね。」
   
シロ 「ま、まあ、そうでござるが…」
タマモ 「シロっ! 一緒に来ないんなら、一人で遊んでくるわよっ!?」
  シロを残して、一人で遊びに行こうとしているタマモ
  なかなか決断できないでいたシロだけど…
横島 「シロっ。 タマモと一緒に行ってこいよっ。
  おまえがこっちに残っていても、俺はおまえの相手をしてやれそうもね〜からな。
  まあ、また次の機会があるから。」
シロ 「そ、そうでござるか…。 そ、それじゃあ、遊んでくるでござるっ。」