「……う…」
と横島。
自分でも大概腐っているという自覚はあるのだが、美神はあのとんでもない性格だからいいと思っている。
外見と同じくらい、あの強い何も恐れて無い燃えるような瞳が好きなのだ。
本人には絶対に言えないが
言ったら最期だろう……
なぜかそんな気がした。
関はそんな横島をほほえましく思いながら
「じゃあ気づいてなかったのか・・令子のことをすきだって」
とお茶を入れおわり湯のみを持ちつつ言った。
あ。茶柱だという嬉しげな声が聞こえる。
「へ……」
と横島。
……スキ?(思わずカタカナ)
すき……
好き?
確かに……
あのねーちゃんの体だけが……目的では無い。(大部分ではあるが)
美神を形づくる全てのものが欲しいのだ。
高飛車で金に汚くてやることなすこととんでもなくて
でも時々見せる弱さやとんでもなく強い意思
そんなんを全部見たい
そんで守りたいんだ……
(へ?……今守りたいっていったか俺?)
……ていう事はまさか……本当に……
自分の思いがどこにあるかに気づきぼうぜんとする横島。
ぽん
と大きな手のひらが横島の頭の上に乗る。
「まあ・・色々君も大変だろうだからなあ」
と手平を置いたままで関。片手にはちゃっかりお茶を持っている。
その口調は面白そうな響きを感じる
「……なにがですか?」
よほどのショックらしく顔面蒼白になる横島。
「うーんまあ相手が令子だからねえってなにやら具合が悪そうだが?大丈夫か?」
と手のひらを頭から外し関。
「……アンタの所偽ですよ。」
と吐き捨てるように横島
これは八つ当たりだという自覚はある―。
だが少し……というかかなり絶望的な思いに気づかされたのだ。
これくらいの八つ当たりはいいだろう。
自分が美神をスキ…?
よりにもよって自分のことを人間以下にしか思ってない女に惚れるなんて。
初恋からして強烈だった分強烈な個性に惹かれるように出来ているのだろうか?
……だったらかなり難儀だよなああああ
横島は、はあああと今日最大のため息をつきテーブルに突っ伏した。
なんでスキという事に気づいてこんな気分になるんだろう?
もっと幸せな気持ちになっても良さそうなもんではないだろうか?
「……横島くん?」
と関。
「………なんすか?」
とつっぷしたまま横島。
「あんたのせいってもしかして今まで自分の気持ちにも気付いてなかったのかい?」
「………」
横島。無言の肯定。
関は声を押し殺して横島にばれないように少しの間笑うとぐいっ横島の腕を取る。
「へ……へ?」
と横島。
「出ようか?」
関は横島の返事も聞かず腕をひきずり勘定をすませるとさっさと店から出た。
「なな……まじでなんすか?」
と引きずられながら横島。
体の芯まで凍りそうな北風に身をすくめながら横島は自分を引きずっている関に視線をやると関は罪の無い悪戯を思いついたような顔で……
それはもう楽しそうに横島をひきずっていた。
そして連れて来られた場所はー
言わずもがなの除霊事務所の前だったりする。
「さあっ」
と横島の腕をはずし嬉々として関。
なにが「さあ」なのやら……
「……なんなんですか」
とポケットに手を突っ込み横島。
確かに美神には、関との話が終わったら来るようにと言われているが何故関に引きずられてこなければいけないのだろうか?
「いや君は僕の勧誘を断ったろ?」
にこにこと関。
「はあ」
と事実なので頷く横島。
「だから、権利があると思ってね」
ぽんと両手を横島の肩に乗せ関。
「権利?」
「そう権利」
「なんのですか?」
と横島は話しながらも木枯らしの吹く12月の夜にやろー二人でしかも事務所の前で話していることに虚しさを感じていた。
しかもこの上も無く不毛な思いに気づかされた事も手伝って憂鬱度は最高である。
目の前の関は上機嫌だ。
この状況でなぜここまで機嫌が良いのか教えて欲しいくらいである。
いや教えられたら教えられたでいやだろうが……
「……だよ」
と横島が埒も無い事を考えていたせいか、関の言葉を聞き逃す。
「あ、すんません。ちょっと聞いてなかったんでもう一回いいですか?」
と横島。
そう言うと関が極上の笑顔で(それだけで女性の5・6人は連れてこられそうな)
「君の令子への告白だよ」
と言った。
「……もう一回いいですか?」
と寒さを忘れポケットに突っ込んでいた手を外に出し頭を抑え横島。
「君の令子への告白だよ」
とご丁寧に一字一句同じ口調・言葉・笑顔で関。
「なんで俺が美神さんに…告白すんですか」
と疲れたように横島。
「だって横島くんは、令子が好きだろう?」
「……そりゃ……まあ」
と不承不承認める横島。
自覚してしまった感情は認めるしか無い。
「じゃあするだろ?」
と関。
「……いやだから…」
と横島。
なにがじゃあなのやら
「僕は本当にこの告白の結果を聞く権利はあると思うんだ」
とうって変わって真剣に関。
「君と仕事がしたかったんだ。本当に…だからできる限りの条件も提示して僕自ら勧誘もしただけど、君は断ったんだ」
「……」
「しかも君の今居る事務所労働条件はかなり悪いにも関わらずだよ」
「……関さんと別の意味で冗談みたいな条件ですもんね」
と苦笑しつつ横島。
確かになんでこんな所にこんな条件でいるのか……
誰が聞いても自分を馬鹿だと思うだろう(事実自分でも馬鹿だと思っている)
「その理由を知っておきたいじゃないか」
と関。
「……わかんないすよ」
と横島。
………いや
「本当にそうかい?」
そうじゃないだろ?君は彼女を守りたいからここにいるんじゃないか
と付け加える。
「………」
そうだろうか…?
「まあ…それだけじゃないだろうがね」
「え?」
「多分君にとってこの場所は大事なところだと思うよ」
「そうすね…」
と事務所を見上げ横島。
多分この場所が自分の居場所なんだろう。
…まあそれを認められているかどうかは別として……
「でも、まあ横島くんが令子に綺麗さっぱり振られてくれれば、僕としても失意の横島くんをもう一回勧誘できるし」
「…べつに振られるくらいでやめませんよ」
それだけでここで働いているわけじゃないと付け加える。
「そーかな?」
と関。
「そーですよ」
と横島。
「でもなあ、人間は感情の生き物だろう?」
ぴしっと親指をたてて関。
「は?」
「だって、まあ意思や思いだけじゃ人間なにも出来ないが、その「想い」が無いと多分人間駄目だろう?」
「?」
と横島
尚も話を続ける関。
「ただ生きるためだけじゃなくて「何のために」生きたいかっていう意思や執着やそーゆう感情が無いと限界超えたり人とは違う日常に絶えるなんて出来ないとおもうけどなあ」
だから君がここに居たい理由の一個が無くなればもしかしたら僕の誘いに乗るかもだよ
にこやかにーだが悪戯小僧を思わせる笑みで関
「んな事ないですよ」
むっと顔を顰め横島。
「ほんとうかなあ」
と胡散臭そうに関。
「んな事ほんとうにないですって」
「……でもなあ」
「ないですよ」
「木っ端微塵に振られてとどめに惚れてるんだから給料格下げにされるような事態に陥っても?」
「うっ」
ありえんことではない
「なら今のうちに僕の所にきてそれなりの力と経済力を身につけてから令子を口説きにかかってもいいと思うのだけどなあ」
としみじみと関
………それでも居場所は自分の居場所はあそこしかないのだ
「……そこまで言うなら告白してきますよっ!っでその後木っ端微塵に振られて給料格下げになったとしてもあんたの誘いも―1回断りますからねっ」
がしっと関の両腕を肩から離しぎんっとにらみつけると横島は事務所に向かっていく。
「っと。よし」
そして関はにこにこと事務所に向かっていった横島を眺めつつイヤホンを耳に差し込んだ。
「さあて楽しみだなあ」
そして―今に至る。
して今美神の私室の前に居るわけだが―。
ここから足が一歩も動かない。
ノックをしようと手を動かそうと思っているが、動かない
そこに立ち尽くしたままそこから一ミリたりとも動けないのが現状なのである。
視線だけは動かせるので腕時計に目をやると23時50分を指していた。
光は美神の私室に灯っているだけで後の部屋や廊下などは全部真っ暗である。
そりゃそうだ。こんな時間に起きているのは美神くらいなもんだろう。
横島は深呼吸を大きくする
振られるとわかっててなんでこんなに部屋の中に入るのが怖いのだろう…
大体美神に告白というが、どんな着飾った言葉を送っても、正直に自分の気持ちを打ち明けたとしても帰ってくるであろう言葉は多分―
(丁稚の分際でなに言うかっ、私に告白するなんて二億年早いわよってところか……しかも思いっきり高笑いすんだろーなあ)
一字一句その表情までも容易に想像できる。
そんな風に一人苦笑していると
きいい
と音をたてて、目の前のドアが開いた。
そしてそのドアを開けた人物はもちろん
「なにずっとドアの前でつったてんのよ?」
美神令子その人である。
どくんっ
とその姿を視界に納めた瞬間心臓が一回転(?)した。
さっきの真紅のドレスのまま、まだ化粧もなにも落としてない。
ほおがほんのりと染まっているのとアルコールの臭いがするところから、いままでずっと飲んでいたんだろう。
「ま・ずっとそこじゃ寒いでしょ?入れば?」
と美神。
「美神さんがそーゆうのってなんか裏がありそうでこわいっすねー」
心臓がどくどくとうるさい
…できるだけ自然な口調を心がけて横島。
「なんかいった?」
にっこりと美神
「………なんでもないっす」
そういうと横島は部屋の中に入った。
部屋の中はエアコンが効いていて、かじかんだ手足がじわじわと温まるのが分かりああ…そーいや外は寒かったんだなあとそんなことを思う。
美神は、部屋の中心にあるソファに座り横島にも座るように促す。
ソファの横には、ブランデーやワインの空瓶がごろごろと10本以上ころがっており自分と別れてからどれくらいのペースで飲んだのか少し心配になった。
そして、向かい合わせに座ったきり二人とも一言も言葉を交わさない。
美神はブランデーの入ったグラスを持っているだけで横島はらしくなくそわそわと落ち着かない様子で「あ…」やら「う…」やら言っている。
聞こえるのは壁時計の時を刻む音とからんというグラスの氷が溶ける音だけ……
美神は思い切ったように手の中にあったブランデーをくいっと一気に飲み干すと……
「んで、あんたはどうすんの」
といった。
「は…はい?」
声が裏返る横島
「だから、関さんとこで働くのかってきーてるのよ」
口調は穏やかだがどこか怒っているように感じるのは気のせいだろうか?
と、いうかこの条件でまだ迷う余地があると思っているところがらしいといえばらしいのだが
「いや…おれはここを辞めるつもりは……ありませんよ」
苦笑しつつ横島
「…給料は上げないわよ?」
と美神。
「いいっすよ。別にーまあちょっとは期待してましたけど」
まだ半人前ですもんねーと頭をかきつつ横島。
美神が安心したようにそうよまだ半人前だもんねと言う。
「それにここにはおきぬちゃん、しろ、たまも、美神さんがいますし」
「なんで私が最期なのよ」
と苦笑しつつ美神。
多分…美神が安心したようにわらったせいなのかもしれないー
それで横島の気がゆるんだんだろう…
その言葉は横島の意識する所無くぽろりとこぼれた。
「そりゃもう俺が美神さんをすきだからでしょ?」
ーと。
次の瞬間自分が何を言ったか自覚した横島は耳まで真っ赤になる。
美神はいつもの冗談(?)だと思おうとしたが尋常ではない横島の様子に本気だと悟る。
あちゃあ
と横島は呟き手のひらで自分の顔を隠す。
そして横島は美神の拒絶の言葉をじっと待った。
5分経過ー
かちかちかち…
時計の音が妙に大きく聞こえる。
なぜか、すぐにくるだろうと思われた拒絶の言葉はまだ美神の口からは出てない。
はっきりいってこの沈黙ははりのむしろだ。
心臓が壊れないのが不思議なくらいの速さで鳴っている。
……いっその事さっさと振ってくれと思う。
こう…間があくともしかして迷ってくれているかもとそんな事を考えてしまうのだ。
(んな事ありえねえか)
らしくなく自嘲する。
「…あのさ…」
と美神。
美神が話して(?)くれた事に手のひらを顔から外し顔を美神のほうを向く。
視線の先にある美神は顔中真っ赤だ。
さっきより紅く多分これは酒のせいだけではないだろう…
「な…なんすか」
と上ずった声で横島。
喉がからからに乾いていて口から出る言葉が掠れているのが自分でもわかる。
「本気なの今の言葉?」
らしくなく躊躇ったような口調。
「…本気じゃなきゃこんなそら恐ろしい事いえませんって」
とどこか諦めたように横島。
「恐ろしいってどーゆう意味?」
「…まあそれは置いといて」
「………おきぬちゃんとしろと小鳩ちゃんと愛子ちゃんはどーすんのよ」
と美神。
「……どうするってなにがですか?」
「みんなあんたに惚れてんでしょ?」
と怒ったように美神。
「……でも俺が惚れてんのは…美神さんですけど」
ほんと困った事にー 自分でも思うんですけどねえと付け足す。
「でもなんで、おきぬちゃんやしろや小鳩ちゃんや愛子ちゃんが俺に惚れてるんっていうんですか?」
…と首を傾げ横島。
はああああああ
と特大のため息をつきがっくりとうなだれる美神。
「……先が思いやられるわね」
「へ?」
「先が思いやられるっての!」
「……いまいち意味がつかめないんですけど?」
首をひねり横島。
「……いわないと分からない?」
意味ありげに笑い美神。
「全然。」
何当たり前の事をと横島。
「しかたにわねえ…」
次の瞬間美神がソファから立ったと思うと、横島の鼻先数センチの場所に居た。
そしてその身体を横島に預ける。
「/////////」
と硬直してぱくぱくと口を動かす横島。
いつもなら、ここでおれの愛をうけとめてくれたんですねーと叫んで抱きつき返し襲うのだがどーやらそこまで頭が回らないらしい。
ふわり
と酒ではない美神の薫りが鼻を掠める。
……
「これでも?」
「………………へ」
横島は肩口にある美神の顔をみると……
さっきよりも紅くもうこれ以上無いくらいになっており―
「………も、もしかして」
と横島。
「そうよ…そのもしかしてよ…たくなんでこんながきのしかも家の従業員…しかもどすけべに惚れたんだか…」
と悔しそうにだけど嬉しげな顔で美神。
どうやら、自分の想いには答えてもらっているらしいがあんまりといえばあんまりの言葉に苦笑する。
「まあそれはおれも同じですよ…」
なんでこんな人に惚れたんだか
そして横島はそっと美神の背中に恐る恐る手を回した。
確かにある体温と質感を実感しつつ
それはクリスマスの次の日のたわいもない出来事。