MISTER ジパング

女華 (めが)

著者:まきしゃ


  藤吉郎 「…もうカンベンしてくださいよ〜〜っ!!」
女華 「ダメよ!!  ドクロベー…じゃなくて、姫のおしおきコーナーがすんでから!!
  でも、遅いわね…。」
   
  時は4巻最後のページ、濃姫によるお仕置きを待つ、女華と囚われの藤吉郎…。
  わお〜〜〜ん…
   
  やがて…、濃姫おつきの侍女が、女華のところにやってくる…
女華 「ん…? 姫は後から来られるのですか?」
侍女 「その…、姫は…、殿とご一緒に…、その…、ごにょごにょ…
女華 「あっ…。 そ、そうなのですか…。 わかりました…。」
侍女 「そういうことですので、女華さまも、時をみてお休みください。 では、失礼いたします。」
  濃姫が今夜はおしおきに来ないであろうことを告げて、去って行く侍女
   
  しゅう〜〜〜 張っていた気が、抜けて行く女華…
藤吉郎 「その…、それじゃあ、俺、解放されるんスね…?」
女華 「そういうわけにはいかないわ。 姫と殿のご気性は、わかってるわよね?
  ひとつ話がこじれれば、真夜中に大喧嘩になってもおかしくないわ…。
  もしそうなって、怒りのぶつけどころを姫があなたに定めたら…
  へたしたら、あなたの命も…」
藤吉郎 「ひ、ひぇ〜〜〜っ!?」
   
女華 「(くすっ) 万一の話よっ。 そんなに心配しなくても大丈夫。
  姫と殿とは、とっても仲がいいのは、あなたも知ってるでしょ?」
藤吉郎 「そ、そうっスよね…。」
   
女華 「ま、そういうわけで、あなたをまだ解放するわけにはいかないわ。
  それに、一晩ここに閉じ込めておけば、それはそれでお仕置きになるわ。
  あしたの朝、姫の機嫌がよければ、なにもなかったことになるかもよ?
  どうせ、今、解放されたところで、下男部屋で寝るだけでしょ?」
藤吉郎 「まあ、そうですが…」
   
  いったんは、会話が途切れた二人… やがて、女華の方から声をかける。
女華 「そういえば…、殿に姫のやったことがバレちゃったわけだけど、
  なんで、そんなことになっちゃったの?
  ことと場合によっては、ただのお仕置きでは、済まないかもしれないわよ?」
藤吉郎 「そ、その、俺は、濃姫さまのいいつけ通り、殿が美濃につくまえに、
  道三さまに濃姫さまの手紙を渡したんですよぉ〜〜
  それで俺の役目は終わったはずなのに、道三さまにむりやり引き留められて、
  殿の前に連れ出されちゃったんスよ〜〜
  殿に全部バレちゃったのは、みんな、道三さまのせいなんスよ〜〜〜っ!」
   
女華 「あら、そうだったの…
  道三さまにバラされたんなら、どうしようもないわね…。
  それなら、たぶんうやむやのうちに、許されると思うわ。」
藤吉郎 「そうですかっ! ああ、よかった…」
   
女華 「それにしても、あなたもまだ小さいのに、危険な仕事ばかりで大変ね。」
藤吉郎 「えっ? まあ、たしかに命懸けの仕事が多いのは大変ですが、戦国時代ですし…
  それに、俺、背が低いから実際より若く見られてるみたいですけど、
  万千代さまの1コ年下なだけですし、犬千代さまより2コ年上になるんです。」
   
女華 「えっ!? そ、そうなのっ!?」
藤吉郎 「ええ…。 俺も、史実を調べてみて、びっくりしてるんですけど…」
   
女華 「そおか〜、それなら危険な仕事が有ってもしょうがないわね〜」
藤吉郎 「まあ、できれば危険なことはしたくないっスけどね…
  でも…、危険な仕事といえば女華さまも、濃姫さまの影武者としてずいぶん危ない目に
  遭ってますよね…。 道三さまの重臣の娘さんという高貴なご出身なわけですから、
  もっと危険の少ない役割でもいいと思うんですが…。」
   
女華 「ああ、私のこと? たしかに、尾張に来るときは危ない目には遭ったけど、それだけでしょ?
  別に影武者としてじゃなく、普通の侍女として来てたとしても、同じ目に遭ってたわ。
  あなたも、あの場に居たんだから、そのことは知っているでしょ?」
藤吉郎 「まあ、そうですが…」
   
女華 「それにね、私は姫と一緒に尾張に来ることができて、とってもよかったと思っているの。」
藤吉郎 「ん〜、どうしてですか?」
   
女華 「私も、姫と同い年なのは知っているわよね?」
藤吉郎 「そ、そうでしたね…」
女華 「つまり、私の父上も、私の婿捜しをしなければいけない時期なのよ。」
藤吉郎 「うっ…」
   
女華 「稲葉山では、私の相手が誰になるのかが、若い武士たちの間では噂でもちきりだったわ…。
  城中で一番のブスと評判の私と一緒になる、あわれな男は誰かってね…。」
藤吉郎 「は、はあ…」
   
女華 「父上も、私のために、いろんな人に縁談を持ちかけようとしていたわ…。
  でも、同格の家柄の人たちは、適当にお茶を濁して話をそらしてばかりだったし、
  部下の家柄の人には、泣きながら断られたり、部下を辞めると言われたりしたの。
  断る理由を見つけるのに苦労した家なんかでは、跡取息子なのに、
  無理やり出家させて、お坊さんだから嫁は取れないようにしたりして…」
藤吉郎 「う〜ん…、お互い、苦労してますね…」
   
女華 「父上のお気持ちは、とっても嬉しかったんだけど…
  でも、望まれていない家に嫁いでも、すぐに側室を作られるだけなのは見えてるしね。
  それで私が幸せになれるとは、とても思えなかったの。」
藤吉郎 「………、そうですね…。」
   
女華 「だから私は、もう結婚のことはあきらめて、何かほかのことで
  人の役に立ちたいと考えていたのよ。
  そんなときに、光秀さまから姫の影武者を命じられたの。
  なんで私が選ばれたのか、さっぱりわからなかったけど、チャンスだと思ったわ。
  姫を守るという、立派な役目を与えられたんだものっ。」
藤吉郎 「たしかに…」
   
女華 「そのあと、姫の影武者兼侍女として尾張に来たんだけど、
  そのおかげで、父上も私の縁談を考えずに済むようになってホっとしてると思うわ。
  それに、私がブスなので、姫も安心していられるしね。」
藤吉郎 「えっ? どうしてですか…?」
   
女華 「こんな世の中ですもの、姫の侍女が美人だったら大変よっ。
  美人の侍女に殿が手を出してしまうことがあっても、不思議ではないわ。
  そうなったら侍女の命もあぶないし、殿と姫との関係も壊れかねないものね。
  藤吉郎さん、信長さまが、私に手を出すなんてこと想像できる?」
藤吉郎 「いっ、いえっ… (女華さまが迫ってきたら、たたっ切りそうだな…、あの人は…)
   
女華 「ま、そういうわけで、私は今の状況に満足しているわ。
  とにかく、ひたすら姫のために働くの。 それが私の一生の目標よ。
  だから、藤吉郎さん、姫の言いつけを聞かないようなことがあったら、
  どのようになるのか覚悟しておいてねっ!」 ふしゅるるる〜〜〜
藤吉郎 「は、はい…」
   
   
  翌朝…
信長 「サルっ! 出かけるぞっ! ついてこいっ!」
藤吉郎 「はいっ!」
   
  ぽっく、ぽっく、ぽっく… 馬に乗って街道を行く信長主従…
信長 「サルっ! 今朝は馬の準備にずいぶん手間取ってたじゃねえかっ!
  てめ〜らしくもないっ! 昨夜は準備もせずに寝ちまったのかっ!?」
藤吉郎 「そ、その… 昨夜は濃姫さまのお仕置きで…」
   
信長 「お濃のお仕置きっ? ああ、あの手紙の件でか。
  でも、お濃は昨夜はずっとオレと一緒だったぞ?」
藤吉郎 「えっと、その、女華さまに、牢屋に閉じ込められちゃって…」
   
信長 「ふ〜ん…、それで準備が出来なかったわけか。 しょ〜がね〜なぁ〜。
  お濃にも、昨日、きつく言っといたが、てめ〜はオレの部下だっ。
  お濃の言いつけを聞くのはかまわんが、オレに隠し事をするんじゃねえぞっ!」
藤吉郎 「はいっ!」
   
   
  ぽっく、ぽっく、ぽっく…
信長 「そ〜いやぁ〜、てめ〜、女華に閉じ込められたって言ってたな。
  あの女と、結構話したことがあるのかっ!?」
藤吉郎 「ええ、まあ、いろいろと…」
信長 「ふむ、どんな女だっ!?」
藤吉郎 「えっと、濃姫様の侍女として、とってもしっかりした考えを持っている人だと思います。」
   
信長 「そんなこたぁ〜、あの女の仕事ぶりを見れば、オレにだってわかるっ!
  オレが聞いてるのは、女としての魅力のことだっ!」
藤吉郎 「えっ!? おんな…と、して…ですか…?」
   
信長 「そうだっ! 女として、魅力があるかどうかだっ!」
藤吉郎 「そ…、その…、見た目は、その…、あの…、アレ…ですが…、
  性格は…、そ、そうですね…、男が大事にしてあげれば…、つくしてくれるタイプかと…」
   
信長 「なるほど…。 見た目を我慢できさえすれば、いい女だというのだなっ!?」
藤吉郎 「えっ、ええ…。 そう思いますが…。
  で、でも、殿…、いきなり、どうしたんですか…? その…、側室にされる…とか…?」
   
信長 バっ、バカやろうっ! タチの悪い冗談を言うんじゃねぇっ!
  お濃に、頼まれちまったんだよっ!」
藤吉郎 「濃姫さまに…?」
信長 「ああ。 女華の縁談を考えといてくれだとよっ!
  まったく、難問を持ちかけてくれるぜっ!」
   
藤吉郎 「ま、まあ…、性格は悪くないんですから…」
信長 「ん〜…。 そ〜いや〜、てめ〜、稲葉山んときは、あの顔みたとき
  そう悪くもないとか、イケてると思うとか言ってやがったなっ。
  サルっ! てめ〜の嫁にするかっ!?」
藤吉郎 「え゛っ!?」
 



つぅ〜〜〜〜…   とめどもなく流れ落ちる涙…




  ゴンッ!
信長 「サルっ! いつまでも、かたまってんじゃねぇっ!
  これが冗談だってことぐらい、すぐにわかるだろうがっ!」
藤吉郎 「そ…、そうなんですか…?」
   
信長 「あったりめ〜だっ! てめ〜、自分の身分をわかってんのかっ!?
  単なる草履取りなんだぞっ?
  そんな奴に、マムシの重臣の娘をくっつけたら、オレが嫌がらせしてるみて〜じゃねえかっ!
  もっと、家格のつりあう相手じゃね〜と、話になんねえんだよっ!」
藤吉郎 「ほっ…」
   
信長 「ちッ! こいつ、おもいっきり、安心しやがって…
  こっちは、それどころじゃねえのによ。
  だいたいオレと同じぐらいの年のやつに、あの女を押し付けなきゃならんのだぞ?
  吉川元長みたいな脳ミソ腐ってるよ〜な奴が、オレの部下にいりゃ〜いいんだが…
  いっそのこと、弟の信勝に押し付けてやろ〜か?」
   
藤吉郎 「そっ、そんなぁ〜! そうでなくても仲が悪いのに、そんなことしたら、
  信勝さまに謀反しろって言ってるよ〜なもんじゃないっスかぁ〜!」
信長 「わかってるって。 お濃を怒らすよ〜なことを、オレがするわけね〜だろ?
  …にしても、ほんとにやっかいな話だぜっ…。 まったく…。」
   
   
  さて、その後…、女華は、どこぞの武将と無事結ばれたらしい…
  その子孫は戦国時代を生き延びて、江戸時代には小さな大名として
  オロチ村あたりを支配していたそうな…
   
  ただ、それがどの時空でのできごとなのかは、誰も知らないけど。
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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