another epiloge
「じゃあ美神さん。俺上がりますから」
「はい、ごくろうさん」
「横島さん、お疲れさんです」
嫌がらせで慰霊碑に名前を入れられた当の男。横島が事務所から出ていこうとしていた。
「先生!!それなら散歩にいくでござる」
シロがその手を取る。
「今日は疲れたから短めにな」
「了解でござるよ」
今までは、強引なシロに振り回される格好であったのに、今は非常に自然。かつ軽く、さも当然のように組んでいるような感を受けて、表情がチョット固まる二人。しかし横島はもう一つの視線に反応した。
「ん?タマモも行かないか?今日はショートコースだそうだからキツクないそうだぞ、あてには成らんが」
振り返って、テレビゲームに熱中しているタマモに声をかける。
「キツネうどん奢ってくれるなら」
気が無い素振りだが美神は見た。シロに連れられて出ていこうとした時、タマモのあつかうキャラが無抵抗でダメージを受けた事を。余所見していたのだ。
「もう掛けの賞金は残っていない筈だぞ」
あの冬山でのシリトリの賞金は薄給の中から払わされていた。
「じゃあ行かない」
「もう、タマモなんてほっておいて、早く行くでござる」
タマモは直ぐにテレビの目を移す。
「分かった分かった。俺の油げ一つやるよ」
言われるが早いか、素早くコントローラーを投げて、横島の残った手に縋り付く。
ピシリ ピキ
再び固まる二人。
「じゃあまずうどん屋にいこう」
「何いってるでござるか。まず散歩でお腹を減らしてでござる。拙者も油げくださいでござる」
「あのうどん屋は油げ二枚しか入っていないんだぞ。折角キツネ頼んでも酢うどんになっちまうじゃないかよ」
いいつつ、あまり嫌がっている感は受けない。
「いや、まずうどん屋で腹を膨らましてからジックリと」
「散歩」
「うどん」
「散歩」
「うどん」
そんな会話が事務所に残っている二人の耳に遠ざかる。
「あたしも誘ってくれても」
「じゃあ着いていけばいいじゃない」
物欲しそうに指を加える仕種は子鳩の結婚式と同じ。
「だって・・」
「だってじゃないでしょう。行動は自分からしないとしょうがないでしょう」
無論美神は青筋を立ている事からも、実は同じ台詞吐きたかったがプライドでオキヌ以上に連れていってとは言えない。出不精であっても、これは例外らしいが。
「でも?なんでタマモちゃんもあんなに横島さんになつくようになっちゃったんですか?」
どちらかと云えば、タマモは横島とは一番距離を取っていたのに、それが戻って来てからは段違い。
「まあ、一応は何も無かったらしいけど、裸に近い状態で三日も同じ寝袋で肌重ねていれば情も移るわよ。特に一応キツネも犬科だから、一度仲間と見れば懐くわよ」
「そんなものですか?」
「らしいわよ。ウチのママも何となくそんな事あったみたいだから」
「へえ、そうですか・・・」
「そうらしいわよ・・・」
「・・・」
「・・」
こればっかりは、本当の所は分からぬ二人であった。
「そういえば、先刻からどこにアクセスしてるんですか?」
横島らに気のなさそうな美神は先程からPCブックに向かっていた。流石に今時の高校生なのでインターネットは必修授業である。繋がったTAのアクセス音で分かるらしい。
「あ・・この前みたいにキツイのに、安い仕事ばかりじゃやっていられないからね。今度出来たGS向けのサイトに割りの良い依頼が無いかなと思って。そうね、取り敢えず寝ているだけで億単位がホイホイ入って来るような仕事・・・」
「無いと思いますけど」
流石に優しく、遠慮がちなオキヌであっても、これには突っ込みを入れずにはおかなかった。
「・・・」
「・・・」
ちょっと乾いた空気が漂う事務所。
プルルルルルルル
「オキヌちゃんお願い」
「はい!美神令子除霊事務所です・・・・・お仕事のご依頼ですね・・・・・・はい、やっております・・・・・・期日は・・・・・・・ええ、その日でしたら開いて・・・・・・場所は・・・・・沖縄サミットの開かれる会場で・・・・・・・オカルトテロの対策ですか・・・・・・・・・・・・・物は相談ですけど、そのサミット会場北海道か東北になりませんか?なるべく雪の残っている間に・・・・・・・・・駄目!・・・・・・・・そこを何とか・・・・大雪山の山中辺りで、遭難しそうな所で開いてくれま・・・・」
「でえい、あんた何無茶いってるのよ」
美神が電話をひったくる。
「だってえ〜」
シッシッと美神に電話取り上げられて、とても恨みがましそうなオキヌ。
「いいじゃないです、どうせサミットなんてどこでやっても世界は変わらないわよ。沖縄なんて暑いだけだし、対人地雷や不発弾や劣化ウラン弾で足が無くなったり癌にかかるのも多いだろうし、沢山戦死者が出たから呪われているだろうし、アメリカの単なる植民地で殺されても日米不平等条約で文句云えないし、町を歩けば鬼畜米兵に撃たれたり犯されたりして、嘉手納基地があるからテポドンが飛んでくるかも知れないし、おまけにハブが出て危険なだけじゃないですか」
沖縄県民が聞いたら、きっと竹槍持って攻めてきそうな事を平気で云うオキヌ。汗を垂らしつつ、なるべくオキヌの呟きが先方の聞かれないようにする。
つまらなさそうに、床に蹴るものでも無いかと探すが無い。その目に美神のPCが入って来た。
(あれっ?そう云えばどんな仕事があるんだろう?)
美神がアクセスしようとしていたGSサイトを見ようと机を回る。何か美神が叫んでいたようだが、取り敢えず液晶ディスプレイを覗く。
「見ないで!オキヌちゃん」
叫ぶが、遅かった。GS検索エンジンの中で美神が依頼の検索ワードに選んだのは金額では無くて。
『検索ワード 雪山 遭難 雪国 該当件数0件』 であった。
シーン
オキヌの視線に、返す美神の笑いは乾いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
美神の手から滑り落ちた電話の向こうからの声が虚しい、そんな気まずい雰囲気のする午後であった。
劇終 めでたし めでたし
※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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