『 風 景  〜 月 の 光 射 す 教 室 で … 〜 』

著者:松楠 御堂


 キーンコーンカーンコーン・・・

 始業のチャイムが鳴り、ばたばたと他の生徒たちが教室に駆けこんだ後も、愛子はしばらく廊下にたたずんでいた。

 「はぁ・・・」
 深くため息をついた愛子は振り向くと、ようやく自分の教室のドアを開けた。

 ガラッ!
 その音に一瞬、教室全体が静まり返る。奇妙な緊張感を伴って。
 クラスメイトの何人かが愛子を見やったが、すぐに視線は外された。
 愛子は、そんなクラスの様子に伏し目がちになりながら、自分の場所へと戻る。
 いつも他愛のない話題ではしゃぎ合う女子生徒たちも、愛子のそばに近寄ろうとはしない。 
 愛子の周りには、空虚な雰囲気だけが漂っていた。

 愛子は静かに耐えていた。
 それが、唯一自分に出来る事だったから。

 (原因は何かしら・・・?)
 愛子は考えてみる。
 クラスの雰囲気が変わったのは、二日ほど前からだ。
 思いあたる出来事は何もない。
 だが、その日を境に皆が自分と関わり合う事がなくなった。
 何か迷惑をかけたのだろうか、それとも存在そのものが迷惑だったのか。
 自分は妖怪であったが、クラスには馴染んでいると思っていた。
 しかし、そう思っていても人間とは違う部分の何かが原因なのだろうか・・・?
 愛子の不安は募る。
 だが、それを払拭するすべは今はない。

 (何か、つまらぬ誤解があるのだろう・・・)
 愛子はとりあえず、そう思う事にした。

 「こらぁ、さっさと席につけ!」
 『わ〜っ!』
 不意に古語教師が現れ、教室内が余計に騒がしくなった。

 『起立! 礼! 着席!』
 「よーし、横島以外は全員出席だな・・・じゃあ昨日の続きで・・・」
 教師が授業を始めようとチョークを手にした瞬間、突然教室の後ろのドアが開き、人影が飛び込んできた。

 「横島忠夫! 只今到着でありますっ!」
 息せき切った横島は、わざとらしく敬礼をして突っ立っている。
 「いーから、さっさと席につけ、出席にしといてやるから」
 「ははーっ! ありがたき幸せ!」
 この軽妙なやりとりに、教室内にくすくす笑いが拡がる。
 横島が登校してきたのは二日振りだった。
 
 愛子は隣の席についた横島に、少しの安堵を感じた。
 (横島クンになら相談する事も出来るかも・・・)
 愛子はその期待を胸に、授業が終わるのを待った。

 キーンコーンカーンコーン・・・
 『起立! 礼!』

 ようやく授業が終わり、愛子はさっそく相談を持ちかけようと横島に声をかけた。
 「あの・・・横島クン、ちょっといい?」
 「え・・・あ!」
 一瞬、愛子と視線を合わせた横島だが、そこにあったのは気まずい雰囲気だった。
 愛子は、そこで言葉を失った。

 「おーい、横島ぁ!」
 クラス委員の男子生徒が、すかさず横島を呼びつけた。
 「・・・ごめん・・・なんだよー、金ならないぞー!」
 「んなこたー分かってるよ!」
 自分のそばをすり抜け、談笑しながら教室を出る横島の後ろ姿。
 愛子は悲しい目でそれを見るしかなかった。

 肩を落とす愛子に一人の女子生徒が、たまらず駆け寄ろうとした。
 「待った」
 他の女子生徒が、それを止めた。
 「・・・だって、あれじゃあ・・・」
 「もうちょっと我慢しよう・・・今日までなんだし」
 「・・・でも・・・」
 女子生徒は、ふさぎ込む愛子の様子にちくりと良心が痛んだ。


 キーンコーンカーンコーン・・・

 今日、最後のチャイムが人気のなくなった校内に響く。
 愛子は、薄暗い教室にぽつんと一人座っていた。
 いつもの慣れた風景のはずだったが、ここ最近の状況から、愛子はひときわ寂しい思いにかられていた。
 気を紛らわす為にと、図書室で借りてきた文庫本を読みふけっているつもりでも、気もそぞろでページはなかなか進みはしない。

 ふと気がつけば、すでに外は闇に包まれていた。
 電気もつけずにいたので、本の文字など読めるはずはなかった。
 
 「私って、馬鹿ね・・・」
 ひとりごちた愛子は、本を閉じると窓際に寄ってみた。
 空には大きな月がぽっかりと浮かんでいる。
 白く冷たい光が、愛子の姿をほのかに照らす。
 街の上に静かに、孤独に浮かぶ月に我が身が重なる様に思えた。
 ぼんやりと月を眺めていると、愛子はとても哀しくなってきた。

 「私、もうここにはいられないのかな・・・・」

 その時だった。

 ガ タ ン ! !
 突然、大きな物音と共に、まばゆい光を愛子は浴びた。
 「きゃあっ!!」
 愛子は、机にしがみついて身を伏せた。
 何が起こったのか、分からない。

 「ピピーッ!! 全員集合!」
 ホイッスルの音と共に、聞き慣れたクラス委員長の男子生徒の声が響く。
 「・・・・え?」
 愛子はそっと頭を上げる。
 まばゆい光と思ったのは、何の事はない、教室の蛍光灯がついただけだった。

 「ピピーッ! 装飾斑、急げ!」
 『アイアイサー!』
 委員長の掛け声に合わせ、クラスメイトたちがぞろぞろ現れ、教室内をリボンや紙
のチェーンで飾り立ててゆく。
 「な・・・何?」

 「次っ! テーブル斑、急げ!」
 『アイアイサー!』
 次に、クラスメイトたちは教室内の机を巧みに利用して、テーブルクロスを敷いた二つのテーブルを組み上げた。

 「次っ! 料理斑、急げ!」
 『アイアイサー!』
 テーブルの上に、バラエティ溢れる料理やお菓子の数々が運ばれると、教室は一気にパーティ会場へと変貌した。

 すっかり取り残された愛子は、呆然とその様子を眺めていた。
 「な、何、何が起こってるの・・・!?」

 「ピー! 準備完了!!」
 『イェーイ!』
 勢ぞろいしたクラスメイトの中から、笑顔のピートがゆっくりと愛子に近づいた。
 「ど、どうしたのみんな・・・ピート君!?」
 「すぐに分かるよ、さぁ愛子ちゃん、こっちにどうぞ」
 ピートは愛子の手を取り、教室の中央へと促した。

 みんなにぐるりと取り囲まれ、愛子は気恥ずかしさでカチコチに固まっていた。
 ふと黒板の方を見ると、タイガーが何やらシーツみたいなものを張りつけていてそれを手で押さえていた。

 「あ・・・あの・・・みんな・・・?」
 「準備はいいかっ、じゃあ始めるぞ、せーのっ!」
 委員長の掛け声に、全員が声を揃えて叫んだ。

 『 愛 子 ち ゃ ん、 お 誕 生 日 お め で と う ! ! 』

 同時にクラッカーが炸裂し、愛子の全身に色鮮やかな紙リボンが浴びせられた。
 タイガーがシーツを取り去った後の黒板には、「お誕生日おめでとう」と描かれたボードが張り付けられている。
 それでも愛子は、きょとんと皆を見やる。

 「あの、私、誕生日なんて・・・」
 「ないのなら、作ってしまうまでさ!」
 大仰に両手を広げ、眼鏡を光らせながら委員長は言い切る。
 「君がこの教室に来て、騒動を起こしたのはちょうど一年前だ、だからこの今日の日を君、愛子ちゃんの誕生日とすればいいのさ、あっはっは!」
 愛子は、怪訝な表情で委員長を見やり、指折り数えてみる。
 「・・・あの、それって何年前の話・・・!?」
 「ダメだなぁ愛子ちゃん、あんまり細かい事を気にしちゃあ、ともかく今日の主役は愛子ちゃんなんだから、つまんない事は考えちゃダメ!」
 「・・・はぁ、そーゆーモンなのかなぁ・・・?」

 ぶぁさ!
 と、首を傾げた愛子の目の前に、突然大きな花束がどっさり積み上げられた。
 『おめでとー、愛子ちゃん!』
 いつも仲良くお喋りしている女子生徒数人が、わいわいと愛子を取り囲む。
 「本当、ゴメンねー、しばらくシカトかましちゃってて!」
 「だってさー、パーティーの事黙ってて驚かそうって話だったんでー」
 「でも愛子ちゃんの後ろ姿、本当に哀しそうで切なくて、見ちゃいられなかったしー、何度この事を言おうとしたんだかー」
 「そのたんびに止められてたんだよねー」
 「ホント、みんな悪人なんだからー!!」
 やたらとかしましい会話の中、口を挟む暇のなかった愛子がぽつりとこぼす。

 「・・・ゴメン・・・」
 「へ!? なんで愛子が謝るの?」
 「・・・だって私、みんなに嫌われて、もうここにいられないと思ってたの・・」
 ぽん。
 愛子の肩を軽く叩いた女子生徒が笑う。
 「馬鹿ねぇ、思い詰めちゃって、私らが愛子ちゃん嫌いなワケないじゃん」
 その優しい笑顔に、愛子の両目から涙がぽろぽろこぼれた。
 「あーあ、泣かしちゃった・・・」
 「うっさいわねー、みんなも同罪よ!二度とこんな馬鹿な仕掛けしないからね!」

 「ちょっと悪趣味っぽかったけれど、みんな愛子ちゃんの事が好きなのは本当だよ、許してくれるかな? 今回の事は」
 ピートが愛子のそばに屈み込み、優しくささやく。

 「・・・許さない・・・」
 「え!?」
 思いがけない愛子の答えに、ピートはとまどう。
 「許さないったら許さないっ!」
 髪を振り乱し、固く拳を握って立ち上がった愛子の姿に、教室中がしんと静まる。

 「みんな、ひどいっ! こんなひどい事されたの、今までにないっ! だからっ絶対、忘れてやらないっ! ずっとずっと覚えてるっ! みんなの事、絶対忘れないから、覚悟してよねっ!」

 うつむいたまま声を張り上げる愛子に、クラスメイト達は表情がこわばる。

 「そう・・・ずっとずっと忘れてやらない・・・みんなにも今日の事は一生忘れさせないわっ! 忘れちゃったら、勘弁しないんだから!」

 と、顔を上げた愛子は満面の笑みを浮かべ、クラスメイトをぐるりと見回した。

 「なーんてね、驚いた? ちょっとぐらいは逆襲させてよね」
 
 ペロリと舌を出した愛子に、あちこちでため息が漏れる。
 「はぁぁ〜〜〜・・・」
 「もー愛子ちゃんてば、本気で怒ったかと思ったわよ〜」
 「さすがに本気になった愛子ちゃんにはかなわないからなー、俺達」

 ようやく表情が和らいだピートは、そんな愛子の肩に手を添える。
 「許してくれるって事で、いいのかな?」
 愛子は答える代わりに髪をかき上げ、悪戯っぽくウインクを返した。

 「さて、そろそろパーティーを始めようか!」
 クラス委員長の一声に、みんな和やかに思い思いの席に陣取り、がやがやと騒がしくなってきた矢先、誰かが叫んだ。

 「おーい、肝心なヤツが来てねーぞー!」

 その声に、みんなが「あ」と我に返る。
 「そーいや遅いよな」
 「まだ時間かかるのかな?」

 ざわめく教室の、後ろのドアが開いたのはその時だった。

 「おまたせ〜〜〜っ! 横島忠夫、只今見参!!」
 腰に手をあて、わざとらしいVサインを掲げた横島が突っ立っていた。

 「おめーはお呼びじゃないっての、肝心なのはちゃんと用意してんだろーな?」
 クラス委員長の冷静な突っ込みに、横島はブーたれる。
 「どーせよ、俺はそーゆー役回りなんだよなー、待ってたのはコレだろ?」
 と、横島はキャスター付きのワゴンに載せた、大きなバースディケーキを教室内に運び込んできた。
 そして、愛子の目の前に置かれたケーキの上面には『お誕生日おめでとう』の文字列が、色とりどりに空中に浮かび上がる様なデコレーションが施されていた。

 「わぁ、きれい・・・」
 思わずつぶやいた愛子。
 「だろ? あの魔法料理の魔鈴さん特製のバースディケーキだぜ、この浮かんでるの魔法文字の一種らしいんだ・・・・それ、と・・・朝はゴメンな、パーティの事を内緒にしとけってさんざん言わてたから・・・声かけられた時変な反応しちゃって・・・」
 バツの悪そうな横島だが、愛子は嬉しそうだった。
 「いいよ、訳は分かったから、ありがとう、本当にありがとう」

 「さあ、じゃあ始めるか!」
 「オッケー!」
 クラス委員長の指示で皆が愛子を囲んで輪になり、横島はケーキにローソクを数本立てて静かに火を付けた、そして教室の電気が消されると歌が始まった。

 「ハッピーバースディ、トゥユー、ハッピーバースディ、トゥユー、ハッピーバースディ、ディア愛子・・・ハッピーバースディ、トゥユー・・・」

 愛子が勢い良くローソクを吹き消すと、デコレーションされていた文字列が踊り弾けてキラキラと暗闇の中を舞い上がった。
 「わぁぁっ! スゴいっっ!」
 女子生徒たちは飛び上がらんばかりに感嘆の声を上げる。
 「すげーっ!」
 男子生徒は、ただ呆然と立ち尽くす。
 小さな光の舞いはあっという間に収まったが、電気がついた後も皆は余韻に浸っていた。

 「こりゃー、本当に今日の事は忘れられないな・・・」
 誰ともなくつぶやいた言葉に、皆はうなずいた。
 「私、すごい幸せ、みんなと出会えて、すごく幸せ!」
 愛子はクラスメイト一人一人に微笑んだ。

 「さて、誕生日パーティーにつきものなのはケーキだけじゃないぜ!」
 突然、横島が皆を見渡して得意そうにふんぞり返る。
 「なんだよー、ケーキの他にはプレゼントじゃないか、みんなそれぞれ用意してきてるはずだろ?」
 男子生徒の一人が、横島に問いた。
 「それは俺も聞いた、千円ぐらいまでで何か用意しろってな、しかしだな気持ちってのはお金じゃない、もっとこう、なにか役に立つような心に残る様なものが用意できたのなら、それでもいいんじゃないかと、俺は思ったワケだ!」
 「・・・なんかもっともらしい事を言ってるつもりなんだろーけど、要は金がなくて用意できなかったって事なんだろ?」
 クラス委員長のするどい突っ込みに、あちこちで笑いが起こる。
 「なにおぅっ!」
 一瞬、ひるんだ横島を愛子は援護した。
 「いいよ、横島クンは生活が大変なんだから、その気持ちだけでも・・・」
 「ふ、愛子ちゃん、男横島を見くびってはいけないな、俺が用意したとっておきのプレゼントはこれじゃ〜!」
 と、横島はいきなり走り出すと、教室の前のドアをがらりと開けた。
 「先生方、どーぞー」
 「・・・え!?」

 横島に招かれる様に姿を表わしたのは、担任教師と校長先生だった。
 「え、なんで先生と校長が・・・?」
 とまどう皆を尻目に、担任と校長は愛子の目の前に立った。
 「お誕生日おめでとう、愛子クン」
 「私からもおめでとう、愛子君」
 共に、めったに見られない柔らかな笑顔の先生達に、愛子は深く礼を返す。
 「ありがとうございます」

 「さ、校長先生、例のアレを」
 「横島ぁ、言われんでも判っておるわい、さて愛子君、君が我が校に来て一年の時が過ぎた、その間も君は勉学に励み級友との交流も楽しい毎日を過ごしていたと思われる、しかし、我々教師は君に謝らなければならない事がある」
 校長の言葉に、愛子は身を正した。
 「それはだな、君は我が校に学びながら我が校の生徒ではなかったという事なのだ、君という優秀な生徒を我々は『備品』という立場に置いていた事なのだよ」
 「校長先生、それは事実です、私はしがない古い机の変化、平たく言えば妖怪ですから・・・退治されないだけ恩の字ですわ」
 愛子は静かに、しかし凜として校長に答える。
 「愛子君、しかしそれではイカンのだよ、だから今をもって君を正式に我が校に迎えたいと思う、その証がこれだ」

 校長は背広のポケットから一冊の生徒手帳を取り出し、愛子に手渡した。
 ふとひっくり返した手帳の裏に、愛子の顔写真を張った学生証が収まっていた。

 「これ・・・は?」
 「君の学生証だ、区の教育委員会の承認の元、特別に永年学生証を発行したのだよ、これで君は君が望む間、存分に我が校で学ぶ事が可能になる、もちろん君の身元も保証される、そして君を我が校の名誉生徒として迎える用意もあるんだ」
 「横島の奴がさ・・・」
 校長の隣の担任教師が愛子に語る。
 「横島が、この話を持ちかけてきたんだが、最初は教育委員会でも前例がないとして取り合ってもらえなかったんだ、いくらウチが私立校でもあまり勝手な真似はできないしね、しかし、横島がGS協会や現役GS達に掛け合ってくれてね、君が害のない有益な妖怪であるとの保証を取りつけてくれたおかげで、学生証の発行が許可されたんだ」
 「横島クン! 私、嬉しいっ!」
 担任の話が終わるや否や、感極まった愛子が横島の首筋に抱きついた。
 「お、おい・・・」
 不意の事で、横島は思わず顔を赤らめてしまった。
 「ヒューヒュー!!」
 「よ、この妖怪キラー!」
 クラスメイトが、やんやとからかう。
 「うるせーやっ! っておい、放せってば愛子ちゃん・・・」
 「嬉しいっ、私、本当に嬉しいっ」
 それでも愛子は横島の首筋に顔をうずめ、ぎゅっと強く抱きしめていた。
 「あー、コホン」
 校長が、わざとらしい咳でそんな横島と愛子に注意を促す。
 「あー、嬉しいのは分かるが、教師の目前で取る行動ではないな、愛子君」
 校長の言葉に、愛子はあわてて横島から離れた。
 「すっ、すみませんっ、つい・・・」
 しおらしくうつむいた愛子もまた、その顔は真っ赤だった。

 「おーい、委員長、私らも参加していいんだろ、このパーティー」
 担任教師が聞くと、クラス委員長は大きくうなずいた。
 「もちろんですとも先生、校長先生も楽しんでって下さいな」
 「おお、いいのか、いいのか、じゃあ早速・・・」
 校長は傍らにあった、オレンジジュースが注がれたコップを手に取った。
 「うーん、苦い麦茶の方がいいんだがな」
 「校長先生がそんな事言っちゃあダメですよ」
 愛子がすかさず突っ込み、教室内がどっと湧いた。

 「それでは、乾杯の音頭を取りますっ!」
 クラス委員長は、みんながコップを手にしたのを確認すると大きく息を吸った。

 「愛子ちゃんの誕生日と、名誉生徒の称号の為に、そしてみんなの友情の証としての乾杯の言葉〜〜っ、これって〜〜!」

 『 青 春 よ ね 〜 〜 〜 っ ! ! 乾 杯 〜  〜 っ ! 』

 クラスメイトが一丸となり、愛子の口癖を叫ぶ。
 愛子は思わず首をすくめ、恥ずかしそうに微笑む。

 その夜は、遅くまでにぎやかなパーティーが続いた。
 街の上に静かに浮かぶ月が、それを温かく見守っていた。
 
 
(おしまい)

1999年10月期・愛子ちゃん強化月間協賛作品 -1999-

※この作品は、松楠 御堂さんによる C-WWW への投稿作品です。
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