tokyo-prison
数日後、巣鴨の東京拘置所の、独居房の四角い窓にそぐわない美人が顔を覗かせていた。
「やっぱり、あん時撃てば良かった〜〜〜〜〜〜。ぐぬ〜〜〜〜あの馬鹿島め〜〜!!」
鉄格子を握りしめながら、外に見える四角い風景に罵声を浴びせる美神。
事務所のテレビは跡形も無く四散していたので知らなかったが、すっかし英雄気取りの横島は聞かれるままに、月での戦いの全てを世界に配信していた。某国のロケットでの戦闘で、どこから買ったのか知らないが、核ミサイルを撃ったことを・・・・・・。
「あの馬鹿ー!!」
シャトルでは人知れずに世界を守った英雄だと祭り上げられていた横島。対して地球では大気圏外での原水爆禁止条約に、思いきり違反していた美神は国際原子力委員会からの逮捕状で・・・・・苦悩しつつも職務を真っ当する西条と美智江に逮捕されていた。
何しろ唯一の被爆国にして、核兵器全廃を訴えている日本人である美神が、自ら使ったとあって国連を初め全世界にも非難が集中して政府の対応も素早かった。以前は助けてくれた某総理も内閣基盤の為に完全な敵だ。与党への巨額の政治献金の申し出も支持率低下の方が怖いらしく、呆気なく断られて、あらゆる裏テクでも隠蔽も画策も出来なかった。
更に広島市長に長崎市長からの講義文を初め世界中の反核団体の矢面に上げられて、美神のお得意先は企業なので、原爆を個人で使ったテロ組織でもまだやっていない暴挙をやった美神と取り引きがあると分かれば企業イメージが悪くなると、拘置所の美神の元に絶縁状がてんこ盛りに届けられて、もし無罪になってももうGSはやっていけないと思われてさえいた。
『まあ〜、悪い奴が捕まって良かった良かった。やっぱり正義は勝たないとね〜。心配しないでよ。あんたのお得意様はあたしが全部引き受けたから、あんたはしばらく健康食で早寝早起きの健康的な生活を楽しんでなさい。おほほほほほほほほほほおおほおほほお。ああ御免令子。こんな時間ね。この頃あんたの昔のお得意様の仕事が忙しくて、アンタと違ってゆっくりしてられないのよね。本当! う ら や ま し い わ 〜〜〜〜〜〜〜』
面会に来たエミは喜色満面を隠さずに喜んでいた。
強化ガラスに顔をへばり着いて、罵詈雑言を浴びせる美神を哀れげに帰るエミであった。
「おい!69号。面会だ」
看守が美神を呼ぶ。
「ああ、美神さん」
面会室にはオキヌとシロとタマモが、強化ガラスの向こうにいた。
「ああ、オキヌちゃん、シロにタマモ」
週に二回許されている面会には必ず来てくれていた。人の情けが身に染みる・・・・・・・・・。人生やり直したらもう少し他人にも親切にしようと、多分今だけは思った。横島のようなアルバイトには300円ぐらいは出してあげると思うぐらいの思いやりであったが・・・・。
オキヌが風呂敷に包まれた重箱を出す。
監獄で出される食事は麦飯に味噌汁 オカズ一品に漬物 そして果物だけ。非常に健康食だが、いままでキャビアをコーンフレークのようにスプーンですくって食べていた頃からすれば夢のような食生活なのだ。
「じゃあ作ってきたお弁当は看守さんに渡しておきますから」
「ああオキヌちゃんいつもありがとう。前のも美味しかったわ」
それが分かっているのでオキヌは弁当を差し入れてくれていた。
後オキヌは何となくオロオロしながらも、バッグからビデオウオークマン を取り出す。誰から?と聞くとヒャクメが持って来てくれた物らしい。中身は・・・・・月からの横島のメール。前の時と同じく月との通商条約の後の通信に入っていた。
「見ますか?・・・・・・見ないほうがいいと思いますけど・・・・・・・」
オキヌが何かをひた隠しにしているような雰囲気であったので、見ない美神では無かった。
中身はこんな自体になった事で、ひたすら美神に謝る横島の姿であった・・・・・・・・・・・・・・・・・が、全く心から謝っていないのがありていに分かる。
横島の両脇には朧と神撫が居て、恥ずかしがっている二人の肩を嬉しそうにキツク抱きしめて、あらんやVサインをカメラに向けていた。
ウレシ恥ずかしげな表情の抱きしめられる二人の表情は女の勘で、横島との間に何事かあったらしいのが有体に分かった。そんな表情をしている朧と神撫を見て・・・・・・・・・・・・。
ピキピキピキピキヂキピキピキピキピキピキヂキピキピキピキピキピキヂキピキピキ
強化ガラスの向こうから響いてくる青筋が浮かぶ音と、殺気には付き添いの看守は小便をちびっていたし、ガラス越しのオキヌらも壁まで後ずさった。
(やっぱり持ってくるんじゃ無かったわね)
と、後悔しながら。
しかし、まだ後悔するには早かった。
数日後、謎のテロリスト集団が東京拘置所を襲撃して、ただ一人の拘置者だけを無理矢理?連れ去った。その日の内に拉致された人物の銀行口座が全て奪われたので営利誘拐だと思われ、それでも拉致された女性の解放は無かったので世間では殺されたものとして同情が集まるのであった。<補足2>
更に数日後。
「よし!!このX−33(エックスサーティスリー)は私達が徴発する」<注14>
地上400キロメートルで再びシャトルジャックが起きた・・・・・。
目だし帽以外は全身黒ずくめのスーツなので、横島のように正体は分からなかったが、キャッ○アイの三姉妹のように体の稜線がハッキリ現れていたので全員女であること以外は謎?。
月に向かわされ、いつの間にか持ち込まれていたルナランダー(アポロの月到着船)で犯人は月面に降下していったので今となっては正体は不明だが、開放されたシャトル乗務員によると犯人の一人が。
「ふっっふっっふっふ。覚悟してなさいよ、よ〜こ〜し〜ま〜〜〜〜」
と主犯格の女は無気味に呟いていたらしい。尚他の犯人も。
「ああ〜、これであたしも犯罪者〜〜〜。お母さんお父さん、早苗姉さんごめんさない・・・・・・・・・・でも、お覚悟を〜〜〜〜横島さん」
「うう、これで拙者も罪人でござるか〜〜〜。里の皆すまんでござる〜〜」
「大丈夫じゃないの、Mさん(仮名)に脅かされて無理矢理やらされた事にすれば。本当にそうなんだから」
などと言う会話が飛び交っていたらしい。
めでたし めでたし
注14 X−33(エックスサーティスリー)アメリカ エアロスペース社で開発中の次世代スペースシャトル 現行のシャトルと違い外部燃料もロケットブースターも無しに大気圏外往復が可能な機体 現在開発なので、果たして月までいけるかどうかは不明(多分そこまでは設計段階では考えているとは思われる)だが、月資源の運搬(ヘリウム3等)を視野に入れているので可能と思われる ので物語の進行上月までの飛行を可能にしている 尚一回の打ち上げ費用は現行シャトルが480億円だが、新型では50億程に押さえられているらしい 尚再び某国のロケットを使わなかったのは 恐らくカオスが作ったベースロケット「エネルギア(世界最大の積載能力を誇るソ連製ロケット)」は 現在着工中の宇宙ステーションの資材運搬に使われているので、多分在庫は残っていないと思われる。
補足2 無論襲わせたのは美神である。自分で脱走すると罪が重くなるので、無理矢理拉致されたといえば、どこからも文句だ出ないし、殺されていたと思われていたのが無事に帰ってきたらば世間の同情も集められるとまで計算にいれていた。奪われた銀行口座は正式な強襲組織への報酬で、無数にある口座の一つにすぎないらしい。
※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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