『 ブラドーお宝鑑定団 』

著者:まきしゃ


    横島の通う高校の休み時間、ピート、タイガー、横島の三人が屋上に集まっている…
  悲痛な面持ちで、おもむろに語り出すピート…
ピート 「僕は、奴隷にされてしまうかもしれません…」
タイガー 「なっ…!? どっちにジャー!? (←エミ or 令子)
  どうしてなんジャー!?」
横島 「美神さん…にか…?」
ピート 「理由は、わかっています… 奴隷にされてしまう理由は…」
   
  前日 唐巣神父の教会…
ピート 「先生、どうでしょうか…?」
唐巣 「う〜ん… なかなか難しい仕事だね…」
ピート 「僕と先生だけではムリなんでしょうか…?」
   
唐巣 「この手紙によると、島の人たちの要望は多岐にわたっているからね…
  私たちが除霊の仕事を行いながら、平行してこれらの仕事をするには時間がかかりすぎる…
  島の人が欲しがっている情報や品物を集めるだけでも大変なのに、
  島に行かなければ出来ない仕事もあるし、その仕事自体、私たちにはムリだ…」
   
ピート 「やはり、他の人に頼まないとムリですか…
  できれば、まだ島には普通の人に来てもらいたくないんですけど…」
唐巣 「ああ、わかっている… そうなると、頼めるのは美神くんだけだな…」
ピート 「え゛っ!?」
   
  学校の屋上…
タイガー 「し、仕事を頼むジャとぉ〜〜〜っ!?
  全ての事に張り合っているエミさんでさえも、金銭欲にはあっさり負けを認め、
  お金のためなら他人の命などへとも思わない、あの 美神さんに、仕事をっ!?」
横島 「ピート…、唐巣のおっさん、何を血迷ったんだ…?」
ピート 「それがですね…」
   
  前日の教会…
唐巣 「この中で一番重要なのは、島の財産を見積もる仕事だからね…
  島に行ったことのある人間で、この仕事をこなせるのは美神くんしかいないだろう…」
ピート 「し、しかし、先生っ! 美神さんでは…!」
唐巣 「この手の仕事をする専門家には、残念なことだが悪どい人間が多くてね…
  そのてん、美神くんなら君を騙すようなことはしないはずだ。 仕事もきちんとこなすだろうし。」
   
  学校の屋上…
タイガー あの 美神さんが、悪どくないジャとぉ〜〜〜っ!?」
横島 「たしかに、美神さんもピートを騙すようなことはしないだろうけど、
  他の悪人に騙し取られるのと同じぐらいのお金を請求されるぞ…?」
ピート 「や、やはり、そうですよねっ!? しかも、それだけではないのですっ!!」
   
  前日の教会…
唐巣 「それに美神くんなら、すべての仕事を一括して頼むことができるからね。
  こういった用件を短期間にまとめて一気に行うには、彼女が一番だよ。」
ピート 「そ、そうかもしれませんが… でも…」
唐巣 「ピートくん、そんなに心配する必要はないよ。 いくら美神くんに仕事を頼むといっても
  払えないような金額を請求するはずもないからね。 ダメなら彼女の方から断ってくるはずだよ。」
ピート 「そ、そうでしたね…」
唐巣 「まずは、電話で話してみよう。」
  トゥルルルル… トゥルルルル…
令子 「あら、先生。 どうしたんですか?」
唐巣 「実は、ピートくんのことで依頼したいことがあってだね…」
   
  学校の屋上…
横島 「やはりあの電話がそうだったのか… シロがうるさくて聞き取れなかったんだが…」
タイガー 「いったい、美神さんはどういう返事をしたんジャ〜〜っ!?」
ピート 「それが…」
   
  唐巣神父と令子との会話…
令子 「あら、面白そうな仕事ですわねっ! 是非、私にやらせてくださいな。」
唐巣 「ただ美神くんも知ってのとおり、ピートくんには前払い出来るようなお金はないんだが…」
令子 「ええ、もちろんわかってますわっ。
  そのあたりのことは、明日にでもピートに来てもらって商談しようと思ってます。
  先生、ピートの都合は大丈夫ですか?」
唐巣 「ああ。 明日なら、問題ないよ。」
令子 「そうですか。 明日になるのが今から楽しみですわっ!」
   
  学校の屋上…
タイガー 「現金前払いが絶対条件の、あの 美神さんが、後払いでいいジャとぉ〜〜〜っ!?」
横島 「あの人のことだ… 何か担保になる物を思い付いたに違いない…」
ピート 「そうですよねっ!? それって、僕が美神さんの奴隷になることと思いませんかっ!?」
   
横島 「う〜ん…、さすがの美神さんも、それを担保にするとは思えないんだけどなぁ〜」
タイガー 「じゃけどピートサンは今700歳、この先よほどのことがない限り永遠に生き続ける人ジャ…
  美神さんが長寿でも、せいぜいあと70年。 その間、奴隷にしたとしても不思議ではないんジャ〜…」
   
  し〜〜ん…   し〜〜ん…   し〜〜ん…
   
   
  てなわけで、美神事務所…
令子 「いらっしゃい、ピート。 先生から、話は聞いてるわっ!
  それじゃあ早速、となりの部屋で商談しましょう。」
ピート 「は、はい… よっ、横島さん、お願いしますねっ!?」
横島 「ああ…」
  ピートに促されて隣室に入ろうとする横島
   
令子 「ん? なんで横島クンまでついてくるの? 必要ないでしょ?」
横島 「まあ、そうなんスけどね…」
ピート 「よ、横島さん、約束したじゃないですかっ!」
  横島に取りすがるピート… どうやら横島も同席するよう頼んでいたらしい…
   
令子 「ふ〜ん、ピート… あんた、私と二人だけで商談するのがそんなに怖いの?」 ギロリッ!
ピート 「い、いえ… その…」
令子 「じゃあ、一人で来なさいっ! 男の子でしょっ!?」
ピート 「あああ…、よこしまさぁ〜ん…」
  ずるずるずる… 令子に腕を引っ張られ、隣室に連れて行かれるピート…
横島 「達者でなぁ〜」
   
キヌ 「横島さん…、ピートさん大丈夫でしょうか…?」
横島 「一応、ピートの方が客なんだから、エラそうにしてもいいはずなんだけど、
  相手が美神さんじゃ、どうしようもないよな…」
キヌ 「そうですよね…」
   
  隣室の様子に聞き耳をたてる横島たち…
ピート 「ええっ!? そんなっ!?」
  「そこまで要求しますかっ!?」
  「そっ、そんなこと、できませんよっ!」
  漏れ聞こえる声は、ピートの悲痛な叫び声ばかり…
   
キヌ 「横島さん…、やっぱり横島さんもピートさんの隣にいてあげたほうが…」
横島 「俺が行ったところで意味ないよ…
  何か口を挟むたびに、パンチが飛んでくるのは目に見えてるし…」
キヌ 「………、そうですよね…」
   
  しばらくして… ガチャ… ギィ〜〜〜 隣室のドアが開き二人が戻ってくる…
令子 つやつや 「商談成立よっ! みんな、これから忙しくなるわよ〜!」
ピート げっそり… 「よ、横島さぁ〜ん……」
   
横島 「ピート…、奴隷になるぐらいなら依頼を取り下げるつもりだったんだろ?
  商談が成立したんだったら、そこまでげっそりするこたぁ〜ね〜だろうに…」
ピート 「たしかに、奴隷ではないんですが…」
   
横島 「ん…? てゆうと…?」
ピート 「その…、こちらの事務所では今までキャンセルしていたような仕事を、
  僕が高校を卒業するまでの間、全部引きうけることになってしまいまして…」
横島 「…ってことは、雨の日…とか…?」
   
ピート 「いえ…、それだけじゃなくて、雨の日と風の日と雪の日と暑い日と寒い日…」
横島 「うっ…!」
   
令子 「あら、それくらいは当然よっ!
  これから島の連中のために、いろんな買い物をしなきゃなんないんだけど、
  代金は、み〜んな私がたてかえなきゃなんないのよっ?
  普通の業者なら、資金が足りなくてとてもじゃないけど引きうけないような仕事なんだからっ!」
   
横島 「う〜ん…、それならなんで商談が成立したんスか…?
  ピートが雨の日に働いたぐらいで、美神さんが満足できるような金額になるわけがないし…」
   
令子 「それらのお金は、島にあるお宝を売り払って作るそうよ。
  ブラドーが中世の頃かき集めた財宝が、お城に手付かずで残ってるそうなのっ!」
横島 「なるほど。 島の財宝で後払いするんっスね?
  でも、あのオッサンに、まともな財宝を集める趣味があるとは思えないんスけどね〜」
   
令子 「あら、だから楽しみなのよっ!?
  あ〜ゆ〜バカが集めるモノなんて、マニアックでつまんないモノばかりのはずよっ!
  誰も保存しようなんて思わないモノばかりだから、逆に現代に残ってないモノばかりのはずなの。
  希少価値でいえば、相当なもんよっ!」
   
横島 「つまり現代で言えば、立派な金庫の中に椎名高志のコミックスをお宝扱いして
  並べて保管しているようなもんっスねっ? ぶっ!?」
  いきなり殴られ、横島ダウン…
キヌ 「あああ…」
令子 「い、いまの一撃は、私じゃないわよ…?」 (汗)
横島 「………、わかってます……」
   
キヌ 「でも、美神さん…、お金のあてがあるのなら、ピートさんに働いてもらわなくても
  大丈夫じゃないんでしょうか…?」
令子 「そういうわけにはいかないわ、おキヌちゃん。
  この仕事をやってる間は、今やってる除霊の仕事を断ることになっちゃうの。
  休業明けになってから、すぐに仕事が入るわけでもないわ。
  信用回復のためには、キャンセルしていたような仕事もやらなくちゃならないのよ。」
キヌ 「それをピートさんにやらせるんですね…」
   
令子 「まあね〜 それでも私の方もずいぶん譲歩したのよ?
  雨の日の仕事なんて、シロとタマモにやらせれば済むことなんだし。
  ほんとは、ピートの霧になれる能力を最大限に利用して、銀行に侵入して
  口座の書き換えなんかをやってもらおうと思ってたんだけど…」
   
キヌ 「み、美神さんっ! そ、それって、犯罪じゃ…」
令子 「でも、幽霊時代のおキヌちゃんは、やってくれたわよ?」
キヌ 「あああ…」
   
   
  てなわけで、ピートの島の人達のために総合商社のような仕事を始めた令子たち…
   
  数週間後… 地中海に浮かぶ島国、マルタ共和国。
  令子たちが島に来てから数日が経過して、翌日はいよいよピートの島に上陸する予定。
  そんなマルタでの最後の夜。 五つ星ホテルのスイートルームでの夕餉のひととき…
   
令子 「美味しそうなワインね。」
ピート 「フランスから特別に取り寄せましたから…」
  チィ〜〜ン! ワインで乾杯する二人…
   
シロ 「なんか、さまになっているでござるな。」
タマモ 「一応、二人とも美形の大人どうしだからね〜…」
横島 「………、けっ!」
キヌ 「横島さん、わたしたちも乾杯しましょう。」
  チィ〜〜ン! こちらはお子様用ブドウジュースで乾杯…
   
令子 「おキヌちゃん、それじゃあ明日の予定をみんなに伝えてくれる?」
キヌ 「はい、美神さん。 えっと、明日の午前10時に『パソコン内蔵棺おけ』20個が、
  港の倉庫に到着します。 それで島に運ぶ荷物が全部揃うことになります。」
   
横島 「なんで棺おけにそんなもんがついてるんだ?」
ピート 「吸血鬼は日中ずっと棺おけの中で過しているので、暇なんですよ。
  冬はともかく、日の長い夏場だと十数時間その中に居るわけですから。
  たしか横島さんも、吸血鬼になって棺おけで半日過したことがあったのでわかると思うんですけど…」
   
横島 「えっ? ああ、そういや〜そうだったな…」
  (あんときは、エミさんと1つの棺おけで過したから時間が経つのは早かったよな〜…
  くっそぉ〜 もう少し俺に勇気があれば、もっといいことが出来たのに…
  でも、エミさんの身体、やわらかかったな〜 あったかかったな〜 うひ、うひひひ…)
   
シロ 「せっ、先生、どうしたんでござるか…? よだれが垂れてるでござるよ…?」
横島 「えっ? いや、なんでもない。 なんでもないぞ?」 じゅるるる〜…
令子 (ふん…、こいつ、つまんない妄想を口に出さないぐらいには成長したのね?)
   
キヌ 「あ、あの、明日の予定の続きなんですけど…
  えっと、同じ時間にピートさんの島から、小型の貨物船が港に入ります。
  倉庫から船に荷物を積み終えたら、その船で私たちも島に向かいます。
  細かな時間は作業の進捗状況しだいなので、はっきりしないんですけど…」
令子 「おおまかなところがわかってれば問題ないわ。
  いずれにせよ、明日の午後には島に上陸よ。」
   
  楽しい夕食のひとときも終わりを告げて…
令子 「じゃ、ピート。 また明日ね。」
ピート 「はい、美神さん。 それじゃあ横島さん、宿に戻りましょう。」
横島 「うう… 一度でいいから俺もこのホテルに泊まりたかったのに…」
   
令子 「朝食と夕食は一緒にここで食べてるんだから、じゅうぶんでしょ?
  横島クンに贅沢は似合わないわっ!」
横島 「贅沢とかそういう次元じゃないんスけどね…」
   
  ボヒュン… 霧になったピートに連れられて、宿に戻ってきた横島…
  そこは二段ベッドとテーブルが1つあるだけの薄暗くて狭い一室。
横島 「さっきのホテルとの落差は、激しすぎるよな〜…
  囚人だって、も〜少しいい環境で暮らしてるはずなのに…」
ピート 「横島さん、すみません… でも、横島さんなら僕の立場もわかってもらえると思って…」
横島 「といってもなぁ〜… ものには限度が… ん? どした? ピート…」
   
  横島の目にしたピートは、先ほどまでホテルで見せていた顔とは異なり、
  苦悩に満ちた表情になっていた…
   
ピート 「………、いろいろと出費がかさむのは覚悟していたのですが…、
  それでも、僕の思っていた金額の50倍以上になってしまって…
  すでに唐巣先生の生活費の200年分を越えているんです…」
横島 「ん〜…、あの神父の生活費を基準にして考えてもしょ〜がないと思うけど…
  でも、ブラドーのガラクタを売るだけで済む話だから、問題ないんじゃないの?」
   
ピート 「そのガラクタが問題なんですよっ!!
  美神さんの言うように、ほんとに価値があるものかどうか、心配で、心配でっ!」
横島 「まあ、たしかに…」
   
ピート 「もし、それにたいした価値がなければ…」
横島 「………、なければ…?」
ピート 「僕は、一生美神さんの奴隷…」
横島 「うむ…」
   
ピート 「もし、それでも足りないぐらいの金額だったら…」
横島 「………、そうだったら…?」
ピート 「島の何人かは、人身売買の市場に売られてしまい…」
横島 「うむ… あの人ならやりかねんな…」
   
ピート 「そうですよねっ!? もしそんなことになったなら、僕は一生島に帰れなくなってしまいますっ!
  横島さんっ! もし、僕が美神さんの奴隷になっても、イジメないでくださいねっ!?
  お願いしますよっ!?」  うお〜〜〜んっ!!
   
横島 「う〜む… ピートが奴隷になるって話が現実味を帯びてきたってことかぁ〜…
  ってことは、美形の奴隷が事務所に来ることになるのか…?
  まずいっ! それは絶対にまずいっ!
  俺の立場が、すっげ〜悪くなっちまうじゃね〜かっ!!
  ピートっ!! てめ〜が奴隷になっても、絶対事務所に入れないからなっ!?
  てめ〜は、神父のところで美神さんのために働き続けろっ!」
ピート 「はいっ! そうしたいですっ! そうさせてくださいっ!」
  妙な部分で利害の一致した二人… そんなこんなでマルタの夜は更けていく…
   
   
  翌日…
  いろんな作業も順調にすすみ、みなを乗せた貨物船がブラドー島に到着…
令子 「シロ、タマモっ! あんたたちは、島の人と一緒に荷物の積み下ろしを手伝うのよっ!
  私たちはお城で別の仕事をするんだけど、時間がかかると思うの。
  そっちの仕事が終わったら、島の人と一緒に休んでていいから。」
シロ 「わかったでござる。」
タマモ 「わかったわ。」
   
令子 「それじゃあ、ピート、お城に行きましょう。 ん…? どしたの?」
ピート 「い、いえ、別に…」
  どよよ〜ん… 足取りの重いピート…
   
横島 「美神さん…、お城での仕事って、お宝鑑定っスよね…?」
令子 「そうよっ? ブラドーが集めた財宝の資産価値を調べるの。
  ほら、その昔、金銭感覚のまったくない師匠とその弟子が、
  5億で済むような仕事に20億もするお宝を気前よく渡しちゃったからね〜
  当時は、『僕には不要な物ですから。』とか言っちゃってねっ!
  でも、人間と交流するようになったら、お金の必要性が少しはわかったみたいね。
  それで資産総額を確認して、無駄遣いしないように管理するそうよっ!」
   
キヌ 「あ、あの、ピートさん… 顔色が悪いんですけど…」
ピート 「だ、大丈夫です… まだ…」
   
横島 「でも、そこから今回買った品物とか美神さんの報酬とかの代金を回収するんスよね?
  思ったほど価値がなかったら、どうするんスか?」
令子 「あら、そんなことを心配してたの? 全然心配いらないのに。
  吸血鬼って、美男美女ばかりでしょ?」
   
横島 「えっ? どういうことっスか…?」
令子 「男も女も美形を狙って血を吸ってきたから、美男美女だらけなのは当然なんだけどね。
  そいつら50人ほどに10年間働いてもらえば、代金は確実に回収できるわ。
  食費もかからないし、住まいだって棺おけだけで済むからね〜
  そいつらの血をピートに吸わせれば、絶対服従してくれるから労務管理も楽だわ。」
   
横島 「その… どこで働かせるつもりなんスか…?」
令子 「決まってるじゃない… そこまで言わせるの?
  吸血鬼だから、夜しか働けないでしょ? 夜、美男美女が働くお店よ。
  さいわい地獄組とのコネもあることだし、職場を探すのに苦労はしないわ。」
   
  ふらふらら〜…
キヌ 「ピ、ピートさんっ! しっかりしてくださいっ!」
ピート 「す、すみません… ちょっと、めまいが…」
   
  やがてお城の宝物蔵に到着…
  ギギギギィ〜〜 (ピートの)運命の扉が、今開かれる…
   
横島 「うっ…!」
令子 「これは…」
キヌ 「ピートさんの肖像画…?」
  宝物蔵の壁面に、ずらっと飾られている数十枚のブラドーの似顔絵…
   
横島 「あのオッサン、ナルシストだったのか…
  自分の似顔絵が宝物だったなんて…
  ほんとに、美形のアホが考えることといったら…」
   
キヌ 「そ、それより、美神さんっ! この絵の資産価値なんですけど…」
令子 「あるわよ… ものすごく高額で、取引される価値が…」
キヌ 「ピートさん、よかったですねっ!!」
ピート 「えっ、ええ…」
  令子の慎重な話ぶりに、いまだ不安げなピート…
   
令子 「この絵は…、神聖ローマ帝国の…、こっちはハンガリー王国のモノだわ…
  それだけヨーロッパ各地で、悪さをしてきたのね…」
横島 「それって、どういうことっスか…?」
   
令子 「はやい話が、この似顔絵は指名手配書なのよ…」
横島 「指名手配書って…、あのウォンテッドってやつっスか?」
令子 「そうよ。 これらの絵の資産価値は、ハンパじゃないわっ!
  売りに出したら、被害にあった地域の歴史博物館が高額で買い取るはずよっ!
  好事家だって、黙ってはいないわっ! ただ…」
   
横島 「ただ…?」
令子 「ブラドーとピートがそっくりなのが、大問題よね…」
横島 「そりゃ〜、親子ですから…」
令子 「あんた、事の重大さがわかってないわね〜 つまり、この絵を売って公開したら、
  ピートが大悪人だと世界中の人に誤解されてしまうってことよっ!
  ICPOに入るなんて夢のまた夢、へたしたら命だって狙われかねないわっ!」
   
ピート 「うっ…!」
キヌ 「あああ…」
   
横島 「ピート…、おまえ、自分の命が狙われるのと、美神さんの奴隷になるのと、どっちがいい…?」
令子 「横島クンっ! そんなの自分の命のほうが大切に決まってるじゃないっ!
  即断できるようなバカなことを聞くんじゃないのっ!」
横島 「でも、ピートは迷ってますよ…?」
ピート 「ああああああ……」
令子 「うっ…」
   
キヌ 「そ、その… 美神さん、ピートさん。 ま、まだ、別のお宝もありますし、
  それを鑑定してからでも遅くはないかと…」
   
  てなわけで、その他のお宝を鑑定しはじめた令子たち… でも…
令子 「う〜ん… たしかに希少価値のあるものも多いんだけど、
  しょせんはクズの寄せ集めね…
  せいぜい10万ぐらいのモノしかないわね〜…
  1千万ぐらいの高額な品がいくつかないと、大赤字だわっ!」
   
キヌ 「ピ、ピートさんっ! ブラドーさんの宝物以外にも、何かありますよねっ!?
  ほ、ほらっ、こんなに大きなお城なんですものっ!!」
ピート 「えっ… え〜っと… 横島さんが美神さんに殴られるパターンは…」
キヌ 「ピート…さん…?」
横島 「こいつ…、もう美神さんの奴隷になったときの心配をしていやがる…」
令子 「いい心掛けだわっ!」
   
キヌ 「ピートさんっ!!」
ピート 「えっ? あ、ああ… ブラドーの宝物以外ですか…
  あとは、女性専用の衣装部屋がありますが…」
キヌ 「美神さんっ。 女性の衣装なら、かなりの価値が期待できますよねっ!?」
令子 「そうね。 そこそこの金額なら見込めそうね。」
   
  今度は衣装部屋で鑑定をはじめた令子たち…
キヌ 「美神さん、どうですかっ!?」
令子 「うん、なかなか豪華な衣装だわ。 各地のお姫様をかっさらってきただけのことはあるわね。」
キヌ 「その…、金額のほうは…」
令子 「これだけあれば、地獄組に美男美女を送り込む必要はなさそうよっ!」
   
キヌ 「よかったですねっ! ピートさんっ!!」
ピート 「はいっ。」
令子 「ん〜… でも、ピートだけは覚悟しておいてねっ!」
ピート 「え゛っ!?」
   
令子 「資産価値は充分ありそうだけどね〜 小物が多いぶん、売買手数料がかかるのよ…
  そのぶんは、働いてもらわないとね〜…」
ピート 「うっ…」
  そういいながら、衣装の品定めを続ける令子。
令子 「あら? この衣装、重いわね。 どうしてかしら?」
  1つの服を裏返して調べ始めた令子…
令子 「なにか袋が縫い付けてあるわね…」
  その袋を開いてみると、キラキラリンっ!
   
令子 「こ、これはっ! 宝石で作られた首飾りだわっ!!
  5千万… いや、へたしたら1億はする高級品よっ!!」
キヌ 「ということは、ピートさんは、もう…」
令子 「うん、最初の契約通りで、余分なことはしなくても大丈夫よっ!」
   
  バンザーイ、バンザーイ、バンザーイっ!!
横島 「よかったな、ピート。」
ピート 「はい。 ほんとに、一時はどうなることかと…」
  うるうるうる… 涙目のピート…
   
令子 「あら、袋の中にメモが入っているわっ!
  お宝の由来とかがわかると、もっと価値が上がるかもよっ!?」
キヌ 「美神さん、読んでもらえますか?」
   
令子 「うん、ちょっと待ってね。 えっと…
  『親愛なるピートへ
  この首飾りは私の実家に代々伝わる家宝です。
  他の人に取られないよう、このような場所に保管していました。
  もし、この手紙を読んだなら、母の形見として大切にしてくださいね。
  ピートの母より』
   
  ひゅぅぅ〜〜〜〜…
   
令子 「まっ、まだ、可能性はあるわっ!!
  こんなところに、お宝が眠っていたんだもの。
  まだ、この部屋のどこかに、なにかがあるはずよっ!」
キヌ 「はっ、はいっ!!」
   
  目の色をかえて衣装部屋で宝捜しをはじめる三人っ!
  おキヌちゃんは、ピートのために、
  令子は、少しでも高価なお宝を手に入れるために、
  横島は、ピートが事務所に来るのを阻止するために…
   
  ピートといえば、形見の品を握り締めながら、ただ呆然と立ち尽くすばかり…
   
  やがて…
キヌ 「み、美神さんっ! この洋服ダンス、なにか変ですっ!
  奥行きがあるはずなのに、扉を開いてもたいして物が入らないんですっ!」
令子 「でかしたわっ、おキヌちゃんっ!
  そうゆう家具って、泥棒よけに二重構造になってるものなのよっ!」
   
  ガタガタガタ… 隠し扉をさがす令子たち…
令子 「んっ! あったっ! これだわ。 それじゃあ開けるわよっ!」
   
  ごくんっ! 緊張の一瞬…
  ギギギィ〜〜
キヌ 「あああ…」
横島 「す、すげぇ〜〜…」
令子 「見事ね… ざっと見積もっても500億… ハンパな価値じゃないわね…」
  ピカァ〜〜ッ!!
  隠し扉の中には、数え切れないほどの宝石がおさめられていた。
   
キヌ 「ピートさん、こんどこそ大丈夫ですねっ! えっ? ピートさん?」
  へなへなへな〜… その場に崩れ落ちてしまったピート…
   
令子 「あ〜あ、あいかわらずプレッシャーに弱いコねぇ〜」
横島 「こんな思いをするぐらいなら、最初に資産価値を調べてから買い物をすればよかったのに…」
令子 「ピートも最初はそうするつもりだったみたいだけどね。」
横島 「えっ? じゃあ、なんでそうしなかったんスか?」
   
令子 「だって、お金がかかるじゃない。 私たちが島と日本を2往復することになるのよ?
  今回だって、島の連中のために買い集めた品物の代金より、
  私たちの交通費や滞在費のほうが高かったんだし… それに私への報酬金を含めると…」
横島 「そ、そうだったんスか…」
   
  てなわけで、詳細な資産価値を算出しはじめる令子たち。
  手間はかかるものの、そこはもう穏やかな雰囲気につつまれていて…
   
   
   
  1週間後… 横島の通う高校の朝
  横島たちより数日遅れて日本に戻ってきたピートの初登校日。
ピート 「横島さん、おはようございますっ!」
横島 「ずいぶん、元気そうだな。」
   
ピート 「はいっ! 美神さんに揃えてもらった道具の具合がとてもよくて
  島のみんなに、とてもよろこんでもらえたものですから。」
横島 「それはいいけど…
  今日の天気予報、午後から雨だぞ…?」
ピート 「え゛っ!?」
   
  午後…  ザザァ〜〜!!
横島 「雨…だな…」
ピート 「雨…ですね…」
   
愛子 『あら、雨なのに校門前に女の子が来ているわっ?
  ピートくんの久しぶりの登校を聞きつけて、わざわざやってきたのかしら…?
  ピートくんの人気って、あいかわらずすごいわね〜!』
   
横島 「ん〜? あれって、シロとタマモじゃね〜のか?
  どうやら、ピートのお目付け役を任されたみて〜だな…」
ピート 「その…、横島さん…
  今日の仕事は、どのようなものなのですか…?」
   
横島 「たしか…、『公園に出るカバの幽霊』だったな…」
ピート 「カ、カバですか…? なんで、カバなんかがっ!?」
横島 「そんなこと、俺に聞くなよ。 カバに聞いてくれ。」
ピート 「うう… やはり、行くしかないようですね…」
横島 「達者でなぁ〜…」
   
   
  ザザァ〜〜!! 
  雨の中、公園にやってきたピートとシロとタマモ…
タマモ 「ピートっ! さっさとやっつけちゃってよねっ! 私、雨、大っキライっ!!」
シロ 「ピートどの。 拙者も手伝うでござるが、雨だと鼻が効かないでござるよ?
  幽霊を捜し出すのは、お願いするでござる。」
ピート 「ああ。 仕事はきちんとするから心配しないでね、二人とも。
  でも、こんなことを1年以上も続けなきゃならないのか… とほほほ…」
   
  その頃の美神事務所…
令子 「おキヌちゃん、来週の天気予報って、どうなってる?」
キヌ 「そ、その… 水曜と木曜が雨模様だそうです…」
令子 「そう。 そのあたり、仕事はしっかり入れておいてね。 ピートのためにっ!」
キヌ 「あああ…」
横島 「う〜ん… ピートはともかくシロタマの方が先にキレるよな… これじゃあ…」
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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