ある日の妙神山。
「小竜姫、またお前に天界から書状がきておるぞ」
「え、またですか?今度はいったい何なんです?老師」
「ワシはまだ読んでおらんからよく分からんが、どうやらまた竜神王陛下からのようじゃぞ」
――それは約2ヶ月前の話であった、天界から小竜姫に対して『竜神王の嫁になれ』との書状が来たこと、
小竜姫自身はそんな事考えたこともなかったので何とか断ろうとして美神に相談を持ちかけた。
何だか分からない内に結局『横島さんを自分の恋人役に仕立て上げてごまかす』といったことになった。
今思えばその選択は正しかったのか間違ってたのか分からない、
ただ・・・言えることは、、、、
その選択が小竜姫の心の中に今まで無かった何かを芽生えさせたことだけは確かである。
―――脳裏を駆けめぐる思い出の数々―――
<<私が?横島さんに・・・?、まさかねー
<<小竜姫さま、危ないッ!
<<よ、横島さん、、、、
<<く・・・もう力が、でもここでやめたら横島さんが・・・
<<・・・・・・ごめんなさい・・・・・・
<<絶対に、来てくださいね!
その小竜姫に老師が問いかける。
「・・・竜姫!・・・・小竜姫!!」
「え?あ、何ですか老師」
「お前な・・・人の話はちゃんと聞いとれ!」
「す、すみません・・・」
「まったく、この所のお前はぼーっとしてることが多いがなんぞあったのか?」
「い、いえ、何でもありません!」
「それならよいのじゃが、とにかく、書状の内容は『この前のお見合いの事で陛下が直に会って話がしたい』と言った内容だ。
********************************
と、言うことで再び天界にやってきた小竜姫。
天界に着くとヒャクメが待っていて二人で話をしながら竜神王の間まで歩いている。
「小竜姫、どうしたのよ、また天界に来て」
「実はまた、竜神王陛下から呼び出しを受けてね」
「ふーん、今度は何の用なの?」
「さあ・・・詳しいことは書いてなかったから私にもよく分からないんだけど」
と、ここでヒャクメが小竜姫を少しからかってみる。
「ひょっとして・・・・陛下はあなたの事が忘れられなくなっちゃったんじゃないの?いきなりプロポーズとかされたら
どうする?小竜姫?」
ものすごくとまどった表情の小竜姫が答える。
「そ、そんな事言われても私困る・・・、それに私には・・・」
無意識のうちに出てしまった今の言葉をあわてて取り消そうとする小竜姫だったが、その前にヒャクメがつっこみを入れる。
「私には・・・何?」
「な、何でもないわよ!ほら!ここから先は私一人で行くから、あなたはもう帰った帰った!」
と、言いながらヒャクメを制して、一人で竜神王の間まで行く小竜姫。
そうこうしてるうちに竜神王の間の扉の前に来ていた
『コンコン』。
「竜神王陛下、小竜姫です」
中から竜神王の声が聞こえたので、部屋の中に入る。
そして竜神王との対談が始まった。
しばらくして竜神王が意外なことを話し始めた。
「ところで、お主の師匠の斉天大聖はどうしてるかの?」
老師の名前が出てきて少し驚く。
「え?老師とお知り合いなんですか?」
「まあな、あ奴とはもう1000年前からの付き合いがあっての、実を言うとこの間の、余の后を決める会議では斉天大聖の推薦でお主に決まったのじゃ、聞いておったか?」
さらに意外な事実に驚きながらも質問に答える。
「いえ、全く」
(老師ってば、何が『詳しい事情はよくわからんがお前に決定したのだ』よ、帰ったら文句言わなくちゃね)
そんなことを考えてる小竜姫に竜神王が話の本題を言い始めた。
「それで、この前のことなのじゃが」
真剣な表情になって小竜姫が答える。
「そのことでしたら、きっちりとお断りしたはずですけど・・・」
「あ、いや、そうではないのだ、あの時はすまなかったと思ってお詫びの品を用意したのじゃ」
「童子、入ってまいれ」
竜神王がそう言うと部屋の中に天龍童子が入ってきた。
よく見ると童子は手に二つの小箱を持っている。
「殿下、お久しぶりです」
「久しぶりじゃの小竜姫」
互いに挨拶を済ませた後、童子は二つの小箱を竜神王に渡し、自分は部屋から出ていった。
そのあと、竜神王は二つの小箱のうちの一つを『お詫びの品』として小竜姫に渡した。
そして・・・
「ところで・・・この前お主と一緒にいた者、名は何と言ったかの?」
「横島さんの事ですか?」
「そうそう、あやつにはこちらの品を渡して欲しいのじゃ」
と言ってもう一つの小箱を小竜姫に渡す。
これで竜神王との対談は終了し、妙神山に帰る小竜姫だった。
その頃、竜神王と天龍童子が話をしていた。
「父上、小竜姫に一体何を渡したのですか?」
「フフフ・・・実はな・・・・・・」
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
「ただいま戻りました、老師」
妙神山に戻ってきた小竜姫。
「おお帰ってきたか、で、どうじゃった?」
気になってたのか気になってなかったのか分から無いような口振りだ。
「ところで老師、陛下から聞きました」
「(ギクッ)な、何をじゃ?」
「この前の陛下との結婚話で、老師が私を推薦したって言うじゃないですか、どーゆーことなんですか!」
「あ、いや、ワシはお前が一番適任だと思っての」
「何故ですか?」
「いや・・・お前なら、きりょうも良いし天龍童子殿下とも仲が良いからと思ってな」
「だからって何で・・・」
返答に困った老師、やがて小竜姫の持ってる小箱に気づくと話題を変える。
「ところで小竜姫、その手に持ってるのは何じゃ?」
「あ、これですか?これは陛下からこの前のお詫びとしてもらった物です、こっちの方は横島さんの渡してくれと」
「そうか、で、どうするつもりじゃ」
「ええ、これから渡しに行こうかと思ってます」
いつの間にか先ほどまでの話題は消え去っていた、小竜姫にとってはこっちの方が重要な事なのかもしれない。
・・・色々な意味で。
そんなこんなで鬼門二人を引き連れて美神事務所に向かう小竜姫であった。
「風の精霊達ー、お願いねー」
美神事務所の庭に小さなつむじ風が舞っていた、明らかに自然現象とは異なる風である、
風に巻き込まれた落ち葉などが規則正しく集められていた。
その近くには身長16〜17cm位の人影が見えた。
彼女の名は鈴奈、美神事務所に居候している鈴女の姉、約一ヶ月前に道ばたで倒れてた所をおキヌちゃんに助けられ、それをきっかけとして、鈴女と一緒に美神事務所に居候しているのである。
妹の鈴女と違ってその性格は至って真面目、特におキヌと仲が良く、彼女の為なら時に自分の身の危険も省みない程の行動をとることもある、
風の属性を持つ妖精であり、その能力は強力。
また、『赤い糸』という特殊能力も備えており、その応用範囲はかなり広い。
現在確認されている中では、妖精はこの姉妹しか残されていないらしい。
キキッ!
「ん・・・?」
ふと辺りを見回した鈴奈、少し上空に行き車の止まる音がした方を見渡す。
「着きましてございます、小竜姫さま」
「ご苦労」
止まった車を見る、中から出てきたのは全身黒ずくめのスーツに黒いサングラスを掛けた大男が二人。
あまりにも怪しすぎる格好である。
「まったく、下界の雰囲気はどうも好かん」
「仕方なかろう、我ら鬼門の役目は小竜姫さまをお守りする事じゃからの」
愚痴る二人を制するように車の中からもう一人の人物が出てきた。
「二人とも、愚痴はいいからここで待っててね、すぐ終わりますから」
中から出てきた人物、見た目は十代後半の女の子にも見える。
そう、、、ショートカットの髪の間から見え隠れする二本のツノが無ければの話だが。
「「はっ!ではお気をつけて!」」
「『お気をつけて』と言われてもね・・・」
もう美神事務所が視界に入るほど近くまで来ているのに何を気をつけるのか分からないが、とりあえず事務所に向かう小竜姫であった。
「さて・・・どうやって横島さんに渡したものか・・・」
小さな声で呟き、歩きながら、どうやって渡そうか悩んでる最中の小竜姫、だが悩む必要は無かった。
「横島さーん、なんか事務所の前に綺麗な女の人が来てるんですけど、その人が横島さんに渡したいものが有るみたいですよ」
相変わらずの超感覚で小竜姫の小言を盗み聞きしていた鈴奈は横島を呼びに行った。
『綺麗な女の人』と言う言葉に敏感に反応した横島はダッシュで事務所前まで行き。
「ボクに何か用ですか?」と言いながら扉を開けた、すると目の前に小竜姫が立っていた。
そして『綺麗な女の人』の正体が小竜姫だと知った横島は、、、。
「って、なーんだ小竜姫さまじゃないスか」
と、その言葉を聞いて少しカチンと来た小竜姫は軽く横島に突っかかる。
「『なーんだ』って・・・横島さん、私と会うのってそんなにイヤなんですか?」
「・・・・・・え?」
まったくの予想外のセリフに思わず首をひねる横島。
「い、いえ、決ッしてそうのような事は御座いませんとも、はい、また会えて良かったなーなんて」
あわててフォローした横島の「ははは・・・」と乾いた様な笑い声が辺りに響く。
小竜姫もそれに合わせるようにくすくすと笑っていた。
横島はいきなり話しを切り出し始めた。
「ところで・・・俺にプレゼントらしいですけど、ひょっとして・・・」
「な、何です?」
「また俺のおでこにキスしてくれるんですか?」
顔を真っ赤にした小竜姫が思わず大きな声で、
「そ・・・・・・そんな事しませんッッ!!!!」
それを聞いて少しビビッた横島が。
「じょ、冗談ですよ、そんなに怒らなくても・・・」
「それにこれは私からじゃありません、竜神王陛下がこの前のお詫びとして横島さんに渡してくれって・・・」
そして小竜姫は、持っていた包みを強引に横島の手に渡すと、
「それじゃ、確かに渡しましたからね!!」
と言って、鬼門を呼びつけて、さっさと帰ってしまった。
そして帰りの車の中で小竜姫はふと考えた。
(おかしい・・・私ったら何でこんな事ぐらいでこんなにドキドキするの?)
「何だったんだ、小竜姫さま?いつもと様子が違うけど・・・・」
と鈴奈に向かって言う。
「さあ・・?私に言われても何とも・・・」
小竜姫の事は多少話で聞いたこと位しかない鈴奈は、それだけ言うのが精一杯であった。
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
妙神山に戻った小竜姫、老師に竜神王からの頼み事を実行してきたことを報告した後、自分の部屋に戻っていた。
ここのところ色々あって疲れているようだ、天界に行ったり、美神事務所に行ったり、
何より、自分の感情を激しく揺さぶられる様な事がよく起こる事が一番の原因かもしれない。
そろそろ眠りにつこうとした彼女、ふと自分の右隣のテーブルを見た。
そこには竜神王からもらった小箱が有った、まだ中身は見てない。
別に何かを期待してる訳ではないのだが、気になるので箱を開けてみた。
キラッっと光る赤い宝石を携えた指輪、箱の中にはそれがあった
何処かで聞いたことがある、代々竜王家は結婚する際ある魔力を秘めた結婚指輪をする事を、
互いの気持ちが離れてないかどうか確かめる為らしいが詳しいことは彼女も知らない。
試しに指にはめてみた。
「?」
一瞬身体の力が『すぅ・・・』っと抜けたような気がした。
「な、何今の変な感じは」
疑問に思うが、多分疲れているんだろうと思い大して気にしなかった。
そして、指輪を抜こうとするが、お約束的に抜けない。
「?」
叉も疑問に思うが、眠いので『どうでもいいや』と思いそのまま小竜姫は深い眠りの淵へと落ちていった。
だが小竜姫は気づいてなかった、レーザー光線の様な細い光が指輪から出ていた事を。
といってもこの光は、よほど感覚が鋭くない限り見えないだろう。
一方その頃・・・
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
「文珠・出ろっ!」
光が集まり珠の形を形成していく、が。
プシュー
珠の形を成す直前に文珠は風化するかの如く崩れていった。
「やっぱり無理ですか横島さん、何でいきなり霊力の集中が出来なくなっちゃたんですか」
事務所では今日は美神は出張中、帰ってくるのは明日の予定、そんな中横島とおキヌの二人は修行に励んでいた、
・・・いや、傍目にはそう見えるのだが、現実は違っていた。
昨日から横島は霊力を集中させることが出来なくなっている、
お札くらいなら使えるのだが、文珠などの高等技が使えなくなっているのだ
「お、おかしいなもう一度・・・」
今度は他の技を試してみる、が。
霊波刀もサイキック・ソーサーも形を成す前に崩れてしまう、
明らかに霊波を外に放出する事が出来なくなっている。
それでも無理にやろうとした
バチッ!
横島の手から激しい火花が散り同時に火がついた。
「だーー!」
「大丈夫ですか横島さん」
火を消し、横島の手を取ってヒーリングをするおキヌ。
ふと、指にはめてる指輪に気づいた。
「ところで横島さん、その指にはめてる指輪は何ですか?」
「ああこれ?この前小竜姫さまからもらったんだけど、何かはめたら外れないんだよね」
少し考え込んだ後。
「ひょっとして、それが原因じゃないんですか?」
おキヌは言い終わってすぐその問いが的を射てない事に気づいた。
「でも、まさか小竜姫さまに限ってそんな事する筈ないですよね、大体そんな事して何の意味が・・・」
―――でも、あの時小竜姫さまは・・・・。
「まあその内元に戻ると思うよ、最近はあんまり文珠や霊波刀の出番も無いから大したことないかもね、・・・ってどした
の?おキヌちゃん」
少し上の空状態だったおキヌは横島の声で意識を現実に戻された。
「あ、ごめんなさい、何でしたっけ?」
のどかな一日であった。
その夜。
カツン・カツン・カツン・・・
小竜姫は暗い闇の中を歩いていた、早い話が自分の夢の中に居る様だ。
「何かしらここ・・・」
出口の見えないトンネルの様な場所をただ歩いていた。
――その時。
前方に光が見えた。
「何?」
光のする方に歩いていき闇と光の境目を通り過ぎた、その時。
ドーーン
パアアッ
パリパリパリッ
目の前に大きな花火が舞ってるのが見えた、何かのショーらしいが、ここは何処かで見たことが有る。
「ここは・・・デジャブーランド?」
いまいち状況が掴めない、現在自分は眠っていてこれが現実世界でないこと位百も承知だ、
自分の夢の中にしては雰囲気が違う、それに夢の中とは思えないほど現実的、むしろ老師の創り出す仮想空間と雰囲気
が似ていた。
「ひょっとして・・・老師の作った仮想空間なのかな?」
正解率のもっとも高い答えを導き出したつもりだったが、その答えはまったく的を射ていない、
何故なら老師がデジャブーランドを知ってるとは到底思えないからだ。
さらに中に進んでいく。
ふと小竜姫は足を止めた、心臓の鼓動が少し高鳴った。
「この場所は・・・」
ここは以前天龍童子が迷子になった時見つけた場所、そして同時に・・・
あの時の彼女にしてみれば、あれで精一杯の意志表示だったのだが、横島本人には伝わってない。
その事を、小竜姫自身は気づいているのだろうか?
いや、多分伝わってない事は承知している、それ位の心理は読めるはず。
ふいに何者かの視線に気づいて身構えた。
―――誰かしら?でもそれ以前にここ何処なの?
疑問だらけの状況、自分が何故ここにいるのかどうかも分からない。
「やっぱり小竜姫さまッスか、こんな所で何してるんですか?」
物陰から現れたのは横島だった。
「横島さん、なんでこんな所に?」
「なんでって・・・ここは俺の夢の中ッスよ、気づいてないんスか」
「え・・・?横島さんの、夢の・・中?」
いまいち疑問が抜けきらないが、本人がそう言ってるんだから多分そうなんだろうと思った。
だがまだ納得がいかないのでいくつか質問してみた。
「じゃあこの現実的な雰囲気は何なんです?夢の中でここまで複雑な所まで再現される事って滅多にないですよ」
「さあ・・・俺に言われても、最近デジャブーランドで印象に残ってることと言えば・・・」
ビクッと小竜姫が横島の言葉に反応した。
少し息を潜めて次の言葉を待っている。
「何か有りましたっけ?」
思わずコケそうになるところを踏みとどまった小竜姫。
「よ、横島さん・・・忘れたんですか?」
「あ、そうでしたねしっかしあの時はどうしたんスか?」
「私がどういうつもりで言ったのか分かってるんですか」
「ちょっと驚きましたけど、妙神山ってそんなに暇なんスか?」
「だから・・・その・・・」
非常に歯がゆい思いをしてる小竜姫、鈍いのもここまで来ると天才的だ。
「あ、すいません、じゃあ私そろそろ戻ります・・」
何とも言い難い雰囲気に耐えられなくなりそれだけ言うと、小竜姫は妙神山の自分に意識を戻そうとした、
だが、意識を戻せない、仮にも神族の中でも有数の戦士である小竜姫、彼女がその程度の事が出来ないはずがない。
明らかに何かの力により元に戻る事が封印されている。
「あ、あれ?」
「どしたんスか、戻るんじゃないんですか?」
「分かりませんけど・・・横島さん何かしましたか?例えば自分の精神に鍵を掛けてるとか」
「俺にそんな細かいこと出来る訳ないじゃないですか、ところでここって本当に俺の精神内なんですよね?」
「横島さんが分からないのに私が分かる訳ないじゃないですか、自分の事は自分が一番良く分かってる筈でしょ」
―――自分の事は自分が
―――自分の事は自分が
―――自分の事は自分が
「な、何?」
突然頭の中にさっきの言葉が連続的に響いた。
上の方から声が聞こえるような妙な感じを受け、思わず空を見上げた。
だが何も見あたらない、気のせいにしては妙な感じだった。
「小竜姫さま」
横島が声を掛けてきた。
「帰れないならしばらくここで遊んで行きませんか?俺の精神内で殺風景ですけど」
「え?それってもしかして・・・」
ゴンゴンゴン・・・
今二人は観覧車の中にいた。
「横島さん口ではあんな事言ってるけど、夢の中でこれだけはっきりとした形でデジャブーランドが出てきたって事は・・・ひ
ょっとして横島さん、私の事少しは気にかけてくれてるのかな?」
妙な期待を胸に横目でちらりと横島の方を見る、
小竜姫の視線に気づいたのか横島が小竜姫の方を向いた。
瞬間、二人の視線が宙で交わった、、、様な気がした。
その瞬間小竜姫は火が付いた様な表情で視線をそらした。
「どしたんスか?」
「な、何でもないですッ!」
・・・・・しばらく時間が経過した。
窓の縁に右肘出して頬づえついて、ボーっとしながら気分を落ち着けようとしてるようだ、が。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の鼓動が高鳴ってるのが自分でも良く分かる。
このままだと、自分が自分じゃ無くなってしまうような、そんな気分の小竜姫だった。
『ガタタン!』
いきなり観覧車がその動きを止めた
ボーっとしてた小竜姫は窓の縁に頭をぶつけた。
「痛たた、なんなの?」
思わず窓から外を見る、その時。
「コツン」
小竜姫の左肩口辺りに何か重たい物があるような感覚が走った。
振り向くとそこには小竜姫の肩口に寄りかかる様な横島がいた。
「え?ちょっと、あの・・・・・・横島さん?」
「・・・・・・・・・」
どうしていいか分からず戸惑う小竜姫とは対照的に横島の方は全くの無言である。
「な、何ですか?」
「・・・・・・・・・」
やっぱり無言の横島。
と、その時小竜姫は妙な違和感を覚えた。
ここは夢の中らしいので、生身の肉体というものは存在しないのだがそれを差し引いたとしても、横島の身体に生気が感じられなかった。
そんな中、横島の体が震え始めた。
「ど、どうしたんですか横島さん?」
横島に語り掛ける小竜姫、だが横島の反応はない。
十数秒の時間が経過・・・
自分の目の前で苦しんでる横島を見ている小竜姫は思わず横島を抱き寄せようとした。
だが、それをしようとする直前に横島の精神体は虚空に溶け込む様に消えてしまった、
・・・小竜姫の両腕が空しく空を切る。
「横島・・・さん?」
しばし呆然としている小竜姫。
一方その頃現実世界では。
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルルル・・・・・・
「横島さん何処行ったのかな、何か起きてなければいいけど・・・」
おキヌちゃんが横島の家に電話を掛けてるがまったく連絡が取れない、実はあれから横島は2日間仕事があるにもかかわらず事務所に出てきてないのだ。
ちなみに今の時刻は夜の八時である。
「どうしたのよおキヌちゃん?」
美神が声を掛けてきた。
「あっ美神さん、横島さんまだ家にいないみたいですよ」
「大丈夫よ、そんなに心配しなくても、あいつの事だからそのうち帰ってくるって」
「でも・・・」
おキヌは横島が心配なようだ。
「ま、それはそれとして今日はもう仕事はないから、私はもう帰るから後よろしくね」
「あ、分かりましたお疲れ様です」
そうして美神は自宅に帰って行き、おキヌちゃんは事務所の後かたずけをし始めた。
さらに時間が経過して夜の10時頃になった時。
「やっぱり心配だわ、今からでもいいから行こう」
意を決して横島のアパートまで行く事を決めたおキヌ、静かに玄関まで出てきた、その時。
「何してんのおキヌちゃん?」
後ろから突然声を掛けられた、声の主は『鈴女の姉・妖精鈴奈』である。
「り、鈴奈さん、あ、いや別に、ちょっとお散歩を・・・」
「お散歩?何言ってるのよ、おキヌちゃんがこんな時間に散歩してるのなんて見た事ないわよ、理由は分かってるんだから」
おキヌちゃんの心を見透かしたのか、自信たっぷりな表情だ。
「やっぱり、分かっちゃいました?」
なぜかこのコには心を見透かされる事が多い。
「こんな時間に女の子が一人で歩いてたら危ないわよ、特におキヌちゃんみたいな可愛いコは」
「あ、いや、でも・・・」
「しょうがないなー、だったら私がおキヌちゃんのボディーガードって事で、ね!、・・・いろんな意味で」
「あ、ありがとうございます、実は私も独りで行くのちょっと心細かったんですよね、・・・色々な意味で」
と、ゆーことで横島のアパートまで行くおキヌ&鈴奈だった。
そして現地まで到着した頃。
「横島さん、おキヌです、開けて下さい」
ドアを叩きながら声を出すおキヌ、だが何の反応も無い。
「やっぱり、居ないのかな・・・」
「あ、おキヌちゃん、こっちの窓が空いてるから」
小窓が空いてたのでそこから鈴奈が入り内側からカギをあけ、おキヌも中に入った。
パチッと部屋の明かりをつけると、そこには普通に寝ている横島がいた。
「なーんだ、横島さんいるんじゃないですか、何で連絡くれなかったんですか?」
起こすのも悪いかなと思いつつ、しゃべりながら横島を起こそうとするおキヌ、だが横島はおキヌ(軽いギャグです)。
その頃鈴奈は神妙な顔つきで横島を見ていた。
「どうしたんですか、鈴奈さん?」
「これって・・・、おキヌちゃん、横島さん何かに取り付かれてるわよ?」
「え!?ホントですか」
改めて横島の顔を見ようとするおキヌ。
と、その時横島が小竜姫から貰った指輪が目に入った、それを見たおキヌは一瞬自分の目を疑った。
以前横島に見せてもらった時は指輪に付いてる宝石はルビーの様な赤い色をしていたのに今はそれが真っ黒に染まっている、それもかなり不気味な色だ。
「ちょ、ちょっと鈴奈さん、これ見てください」
「え?どれが?」
鈴奈が指輪を見た。
「これは・・・よく分からないけど、多分この指輪のせいで横島さん起きないみたいね。目を覚まさない所を見ると何者かが
横島さんの精神に寄生してんじゃないかしら」
「精神に寄生と言うと・・・例えばナイトメアみたいな悪魔なんですか?」
「さあ、そこまでは分からないけど・・・」
「だったら早く美神さんに知らせないと!」
そう言って美神に知らせようと部屋を出ようとするおキヌ、
「ちょっと待っておキヌちゃん!」
鈴奈がおキヌを引き留め、改めて横島を見た。
「この様子だとかなり状況は切迫してるわね、そんなことしてる暇はないわ、今すぐ行かないと」
「でも行くって言ったってどうやって?私たちだけじゃ精神内に入り込むことなんて出来ないですよ」
『チッチッチッ』っと鈴奈が指を左右に振っている、まるで『私に秘策が有るわ』とでも言いたげな表情だ、自分で創っておきながらこんな性格も作者は気に入ってたりするのだ。
「大丈夫、これを使えば横島さんの精神内に入り込む事が出来るわ」
そう言って右手の人差し指を見せた、その指先からはわずかな輝きを有した赤い糸が渦巻き状に出てきた。
「これは・・・赤い糸ですか?」
「そ、これが私の能力、これを使えば互いの霊波をある程度同調させる事ができるわ、精神内に入ると言っても、要は霊波を同調させたまま眠りにつけばいいんだから」
「そんな使い方もあったんですか?」
「うん、まあそうだね、本当の使い方は結んだ相手同士の行動パターンをシンクロさせるんだけど、霊波を同調させたり伝線させることだって一応可能よ」
しばらく細かい説明が続いた後、いよいよ横島の精神内に入る時間がやってきた。
「じゃ行くわよ、準備はいい?」
「はい!」
そう言うと鈴奈の指先から発せられた赤い糸がまるで別の生き物の様に動きだしおキヌの小指に絡みついた。
そしてもう一方の糸先が横島の小指に絡みついた、ちなみに鈴奈はおキヌの肩に座っていた、まるでおキヌちゃんのマスコットガールみたいだ。
「あとはこのまま寝るだけね、赤い糸の効果は5日間しか続かないから、こっちで5日たったら強制的に戻されちゃうから気を付けてね」
最後の説明を終えると二人は眠りについた、ちなみに何故こんな事を言ったのかというと、精神世界では時間感覚が現実
世界と著しく異なるからだ。(『夢の中へ』参照)
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
横島の精神内に到着した二人。
だが辺りには何も見あたらない、地平線が見えるほどの広々とした荒野が広がってるだけだ。
「何これ?こんな殺風景な精神内って一体・・・」
「本当にここが横島さんの精神内なんですか?」
「ここが横島さんの精神内なのは間違いないけど・・・ちょっと待ってて、上から見てみるから」
と、鈴奈は羽を広げると上空高く舞い上がった。
200M程上昇すると目を凝らして辺りを見回した。
「え〜と」
見渡せる限り辺りを見回す、すると遠くに一つの扉が見えた。
「あれは・・・」
目を凝らしてよく見てみると『どこでもドア』みたいな扉が荒野の中にポツンとあった。
「おキヌちゃん、あっちに何かあるわ」
上空から降りてきた鈴奈がおキヌに扉がある事を知らせた。
カツン・カツン・カツン・・
二人は目的の場所まで歩いていった、距離にして約二キロといった所だろうか。
扉の前に立つとおキヌは扉を開けた。
パアアッっと眩しい光がおキヌの目に飛び込んできた。
「きゃ!」
いきなり明るくなった事に目が慣れてないせいか、おキヌは思わず目を覆った。
そして、手をどけて辺りを見回す。
あたりに広がる光景はデジャブーランドそのもの、何故こんな世界が創り出されているのかはよく分からない、
しかしよく見ると、ほんの細かい部分が現実のデジャブーランドと異なってる、
横島の作り出したイメージなのか、はたまた他の誰かの作り出したイメージなのか、どっちとも取れるような雰囲気だ。
「何なんですかこれ、ここも横島さんの精神内なんですか?」
「う〜ん、この雰囲気は・・・ちょっと違うわね、精神内にしてはイメージがはっきりし過ぎてるわ」
「と言うことは、ここ何処なんですか?さっきの所は間違いなく横島さんの精神内なんでしょ?」
「分からないけど・・・じゃあもう一度上から見てみるわ」
もう一度上空高く舞い上がる、今度はさっきよりもっと高く。
ガツン!
突然何かに頭を思いっきりぶつけた、天井がある訳ではないのだが見えない壁が上にあった。
「いったーー!なに〜?」
見えない天井に触れようとする、よく見ると黒みを帯びた壁がある。
全神経を集中して天井の先に有る物を見ようとした、すると。
「あれは・・・おキヌちゃん?」
壁の向こう側には寝ているおキヌの姿が見えた。
「分かったわおキヌちゃん、ここは横島さんの精神内じゃなくて指輪の中に作られた仮想空間よ」
「え?何ですかそれ」
「さっき上の方見たら壁越しにおキヌちゃんが見えたわ、つまり・・・」
おキヌに説明する鈴奈、
「そして多分この仮想空間のエネルギー源は横島さんの霊力ね、だから横島さん、霊波をうまく放出出来なかったんだと思うわ」
「そう言う事なんですか、ようやく謎が解けました」
と、その時。
おキヌはふと自分の後ろに妙な感じを受け後ろを振り向いた。
「え?」
そこには先ほど横島の精神内から通って来た扉があった、
・・・いや、『あった』と言うのは過去の話、今現在その扉は消えかかっていた。
「ちょっとこれ見て下さい!」
「え、何?」
スーーっと目の前にある扉が半透明になり消えそうになった。
「あ、消えちゃう・・・」
そして扉は消えた。
「ちょっと待って・・・なんか変よ」
鈴奈は扉が消える前までと雰囲気が違うことに気づいていた。
しばらく辺りを探ってる、
上空に行き辺りを見渡し何が起きたのか見ようとしている。
鈴奈が上空から降りてきた。
「どうやら私たちこの中に閉じこめられちゃったみたいね、普通の方法じゃここに入り込む事も出ることも出来ないわね」
「と、言うことはどういう意味なんですか?」
「美神さんが助けに来てくれることはまず100%無いって事、実は結構期待してたりしたんだけど・・・私たちだけじゃちょっと難しいかもしれないわね」
「そうですね、行き当たりばったり的に来ちゃった感じがしますしね・・・」
『しーん・・・』と辺りに暗い雰囲気が漂った。
沈黙を破ったのは鈴奈だった。
「とにかく!、ここから出るにはこの世界を形成してる人物を倒すしか無いわね、たぶん横島さんの深層意識にいるはずよ、ここは横島さんの精神と直結してるみたいだから深層意識に通じる道が有るはず」
そうして仮想空間の中を探索する。
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
しばらく遊園地の中を探していると、お化け屋敷の様な館が目の前に見えた(展開早すぎ・・・)
その時、場の雰囲気が変わった、
あたりにいるマッキーキャットやマニーキャットなどが一斉に入り口の前に立ちはだかった、
同時に近くにあるアトラクションの乗り物などが意志を持ったかの如く動き始めた。
「な、何これ?」
「どうやらここが横島さんの深層意識に通じる場所だわ、こいつらはその邪魔をするべく動き出してるのね」
「どうするんですか?これだけの人数そんなに簡単には突破できませんよ」
「大丈夫、こんな連中見かけ倒しよ、私が倒すからおキヌちゃんはサポートお願いね」
丁度その頃・・・
*****************************************
ほんの数分前に、横島が目の前から消えた事にまだ疑問を感じていた小竜姫。
「横島さん何処行っちゃったのかな・・・」
ちょっとだけいい雰囲気になりかけてたせいもあってか、その表情はちと残念そうだ。
その時、
あたりの乗り物が一斉に動き出し、特定の場所に向かってる。
何かと思い、自分の乗ってる観覧車からあたりを見回すとある場所で土煙が巻き起こってる事に気づいた、そしてこの場
所から良く知ってる霊波を感じた。
「この霊波は・・・おキヌちゃん?」
観覧車に乗っていた小竜姫がおキヌ達の気配に気づいた。
*****************************************
立ちはだかる雑魚共を次々と倒していく、
おキヌちゃんがネクロマンサーの笛で動きを鈍らせ、鈴奈が風の精霊術で片っ端から切り裂いていく、
しかし、いかんせん数が多い、倒しても倒しても新しい雑魚共が出現する。
「か、数が多すぎる、これじゃきりがないわね、もっと強力な攻撃で一気に吹っ飛ばさないと」
この二人ではそんな大技は出来ない、と、その時。
「!」
上空に何者かの気配を感じた。
「おキヌちゃんちょっと待って、誰か来る!」
「え!?誰です?」
「よく分からないけど、この霊波はどこかで知ってるような・・・」
それから数秒後。
上空から小竜姫が現れた。
「しょ、小竜姫さま、なんでこんな所に?」
「一体なにが起こってるんです?私にはさっぱり」
・・・かくかくじかじか、とりあえず分かってることだけ小竜姫に話すおキヌ。
「そんな事が起きてるんですか、分かりました、ここは私が食い止めておくからあなた達は先に行って!」
「一人で大丈夫なんですか?」
鈴奈が問いかける、実に愚問だ。
「ちょっと鈴奈さん、仮にも龍神である小竜姫さまにそんな心配する必要なんかないですよ」
「あ、そうなの?ごめんなさい私まだよく知らなくて」
「別にそんなことはどうでもいいですけど、時間が無いんでしょ?早く行って下さい!」
「じゃ、ここはお願いします」
「気を付けてね二人とも、私もすぐに行きますから」
小竜姫が雑魚共に向かっていき、その隙に二人は横島の深層意識へと通じる入り口へと入っていった・・・。
カンカンカンカン・・
横島の深層意識に通じる道を進んでく二人。
その途中、鈴奈はさっきから一つの疑問を抱いていた。
「でも、さっきの小竜姫さま以前会ったときとは霊波の質が微妙に違ってた様な気が・・・」
「え?何か言いましたか鈴奈さん」
「いえ、何でもないわ、先を急ぎましょう!」
さらに奥へと進んでいく二人。
しばらくして二人は、横島の深層意識の底に辿り着いた。
非常に静かな雰囲気だ。
「誰もいませんね」
「そんなはず無いわ、絶対にいるはずよ」
辺りには誰もいない、どこかに隠れているのだろうか。
「ちょっと待っててね、今探って見るから」
そう言うと鈴奈は頭から触覚を出し、神経を集中し気配を探った。
一分位の時間が経過した。
「そこっ!」
深層意識のある場所に向かって鈴奈が風の刃を投げつけた。
キンッ!
放った風の刃は何かに弾かれて消えた。
『ちっ!後少しだったのに』
深層意識の底に何者かの声が響きわたった。
「誰?姿を見せなさい!」
『ふん、言われなくても見せてあげるさ』
あたりに気が満ちた、そして深層意識の底のある一点に霊波が収束され始めた。
徐々に形を成していくその姿は・・・。
「え!?そ、そんな・・・」
その姿を見ておキヌは驚いていた。
「どしたのおキヌちゃん、あの人誰だか知ってるの?」
鈴奈が問いかけるがおキヌは未だ驚いていた。
「おキヌちゃんってば!」
ハッとして鈴奈の問いに返答するおキヌ。
「だって・・・あれは・・・?」
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
「父上!今の話は一体・・・」
「お、おぬし聞いとったのか?」
天界では竜神の親子が何かしらの議論をしていた、竜神王が独り言を言ってる所を童子が聞いていたのだ。
「一体横島の精神に何を寄生させたのですか?」
「それは・・・」
「父上、はっきり言って下さい!」
「そうじゃな、実はかくかくじかじかで・・・」
一分位の説明が続く、、、
「余も何となくそう思ってましたが、はっきり言って父上は小竜姫の事を全然分かってないです、小竜姫はそんなこと絶対
に望みませんぞ」
「いや、まあ、わしの余計なお節介かもしれんが、多分今頃は指輪の中で大事が起きてるはずじゃ」
「だったら余が今すぐ行きます、何か方法は無いのですか?」
「・・・・・・・・・」
「父上!」
「わ、分かった、この指輪を使えば今すぐにでも指輪の中に行くことが出来る」
小竜姫の持っている指輪のスペアを取り出した、と言ってもこの指輪には対象の精神に寄生する能力は無く、指輪の仮想
空間に行くだけのものだ。
「ちょっと待て、これも持っていけ!」
竜神王が童子に指輪と一緒に何かを手渡した。
「これは・・?」
童子の手のひらには指輪と一つの勾玉があった。
「お前も知っておろう竜の牙だ、何かの役に立つはずだ」
次の瞬間童子は指輪をはめた。
「では行くぞ、準備はいいか?」
「はい!」
竜神王が童子に催眠術をかけ、童子は眠りについた、
そしてその精神は横島の指輪の中へと送られていった。
「頑張れよ我が息子、かなりややこしいことになってると思うが何とかなるじゃろう」
竜神王が心の中で呟いた、どうやら本当の事は童子に話してなく『分身を作り出す事』は省いて、一部曲解してる様子、結構でたらめな性格なようだ。
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
「だから誰なのよ、あの人は?」
「いや、だからあの人は・・・」
横島の深層意識の底に居たのは小竜姫自身、いや、正確にはそのシャドウだ。
「え!?小竜姫さまの分身?じゃあこの邪悪な気は一体何なの?」
鈴奈はこの霊波が邪悪なものだと気づいていた、
「でも確かに言われてみれば霊波の質が似てるような気も・・・」
『お前達の相手はこっちだ』
奴が指を鳴らすと先ほどと同じように霊波が収束され、徐々に人の形を成していった。
その姿は言うまでもなく横島だ。
「よ、横島さん・・・、やっぱりこうなっちゃうの?」
予測出来た事とはいえ辛い展開だ、もちろんおキヌは横島と直接戦った事など有る訳ない
『自分の愛する者の手によって殺されるがいいさ!』
とてもじゃないが小竜姫とは似てもにつかない言葉遣い、
だがそんなことを考えてる余裕は無かった、横島が文珠と霊波刀を手に全力で向かってくる。
「きゃーー!」
「おキヌちゃん危ないっ!」
とっさに鈴奈が風の精霊術による結界を作った。
バシッ!
向かってきた横島は結界に弾かれカマイタチによるカウンターダメージを与えた。
しかしその瞬間横島の深層意識の景色がぐにゃりと歪んだ。
「だめです鈴奈さん、ダメージを与えたら横島さんが死んじゃいます!」
「そ、そんなこと言われたってどうすれば・・?」
思わず考え込んでる鈴奈。
「鈴奈さん、前、文珠が来てます!」
「え?」
【爆】の文珠が前方2m位のところまで迫っていた。
突風を巻き起こし文珠をどこかに飛ばそうとした、だがそれより早く文珠が発動した。
「だ、だめ、間に合わ・・・」
ドガアッ!!
「お、おかしいわね、こんな程度の相手に手こずる筈ないんだけど・・・、最近修行さぼってたからかしら?」
苦戦してる小竜姫だが、その後ろから何かが飛んできた。
「な、何?」
後ろを振り向いて飛んできた物体を掴んだ、
掴んだ物は竜の牙だった。
「え?何でこれがこんな所に・・・?」
「小竜姫ーー!」
後ろの方から声が聞こえた、
この声はよく聞き慣れた声、そう天龍童子だ。
「で、殿下、何でこんな所に?」
「いや、父上からの言づてを頼まれてな、・・・かくかくじかじかで」
その話を聞いた小竜姫の表情が変わった、少しショックを受けてる様子。
「そ・・・それって、ひ、非道い・・・」
思わずうつむく小竜姫。
「大丈夫じゃ、未だ間に合う!」
「え?」
「完全に呪縛が完成したらどうしようも無いが、きっとおキヌ達が何とかしている筈じゃ」
「分かりました、竜の牙が有って、殿下がいれば百人力です!」
二人はあっという間に雑魚共を蹴散らした。
文珠の爆発音が止むと、おキヌに向かって鈴奈が飛ばされてきた。
彼女は上昇気流のような風を巻き起こし文珠の威力を受け流し最小限に抑えていた、だがそれでもかなりのダメージを受
けている。
「く・・・そ・・・」
「鈴奈さん大丈夫ですか?」
「何・とか・ね、でもどうするの?はっきり言って私たちだけじゃ絶対に勝てないわよ」
「それは・・・私にも分かってますが、どのみち横島さんが敵に回っている以上どうしようもないですよ」
「横島さんが敵に・・・か、だったら!」
鈴奈の表情が少し変わった。
「何か方法でも有るんですか?」
「こうなったらこれしか無いわ、いい、おキヌちゃん、これから私が横島さんに対しての精神コントロール波を増幅する仕掛
けをするからそれを利用して横島さんを元に戻して」
「何するつもりですか?」
「大丈夫、多分この方法なら何とかなるはず、あっちの方は私が何とかしておくから!」
おキヌの手に触れると鈴奈は念を込め始めた、横島の精神に入る時に使って今まで見えなかった赤い糸が具現化され輝
きだした、今度は霊波の伝線を専門とする能力に変化した、その糸先には横島がいた。
「鈴奈さん、これでどうしろって言うんですか?」
「前も言ったでしょ、赤い糸は霊波の伝線も可能だって、要するにおキヌちゃんの能力を使って・・・」
聞こえないように耳元で囁く。
「この糸を切られたらお仕舞いよ!」
「分かりました、後は私が何とかします!」
再度横島が向かってきた、
おキヌは、横島が有る程度の距離に近づいたのを見計らって笛を吹き始めた。
☆☆ ☆ ☆☆ ☆ ☆☆
ピュリリリリリーーーー、バチバチバチバチッ!
横島の深層意識の底にネクロマンサーの笛の音色が響きわたった。
同時におキヌの手から赤い糸を伝わり精神コントロール波が横島に向かって伝線していく。
外からはネクロマンサーの笛、内からは霊体の触手の要領での思考波、
内と外からの精神波二重攻撃だ、しかもここは横島の深層意識の底。
その効果は抜群で、横島の精神内に巣くった呪縛は見る見るうちに解けていった。
『ちっ、そうはさせるか!』
そうはさせじと奴が襲いかかってきた。
「おキヌちゃん早くして、一分位なら私が食い止めておくから!」
おキヌと横島の前に立つと、持てる力の全てを費やした風の力を解放・起動させた。
鈴奈の前方を境に強烈な突風とカマイタチが巻き起こる。
『こ、この・・・』
強烈な風圧にさしもの奴も足止めを喰らっている。
その瞬間、発生したカマイタチの一つが奴の右腕をかすめた。
『このあたしに傷を付けるとはなかなかやるね、だが・・・』
鈴奈の視界から奴が消えた。
一瞬見失ったが、得意の超感覚ですぐに奴のいる場所を把握した。
奴はおキヌ達の上空にいた。
上空から霊波攻撃を仕掛けてきた。
「ここは通さないわ!」
放ってきた霊波に対して横から風をぶつけて方向をそらす。
行き先を変えられた霊波は地面に当たり消えた。
『ちいっ!』
攻撃を止められた事に苛立ちを感じたのか、奴が舌打ちをした。
――その瞬間
スピードを増した奴が四方八方からおキヌを狙って攻撃してくる、
「ちょ、ちょっと待って、は、速い」
反応は出来るのだが身体と能力がついて来ない、それでも何とか防いでいる、が・・・。
「こ、こんなの防ぎきれない・・・」
立て続けに霊波攻撃を仕掛けてくる小竜姫の分身体、パワーの強さもそうだが、正確に狙いを定めてくるその連続攻撃、
はっきり言ってまともに防ぐのはもう無理だ。
「こうなったら・・・!」
おキヌの側に寄ると鈴奈の周りに光が集まり始めた、
両手を掲げると半径5Mくらいの周りにサークルを描くように無数のつむじ風が起こり始めた。
『何をする気かしらないけど、無駄な事を!』
奴が前方20Mほど離れた所に現れた。
そして再び連続霊波砲を仕掛けてくる。
「いくわよ最後の手段!」
両手を勢いよく振り下ろした。
無数のつむじ風が『風の塊』と化し一つ一つ連結し巨大な渦巻き状の風が起こり始めた。
ゴオオオオオオオオオ・・・・
竜巻の様な風の壁を作り出す風の精霊術の最大出力技、攻撃は凌げるが使う本人の消耗度はハンパじゃない。
「り、鈴奈さん、そんなに力を使ったら・・・」
「私の、事は、、い、い、か、ら、早く横島さんを!」
しゃべるのも辛いくらいの力を使ってる、こんな小さな身体の何処にこんな力があるのだろう。
「痛っ!」
「どうした、小竜姫?」
途中で立ちはだかっていた雑魚共を軽く蹴散らし、おキヌ達の所へ急ぐ小竜姫達。
だがその小竜姫の左腕に刃物で切った様な切り傷があった。
「小竜姫?お前その傷どこで受けた?」
「いえ、こんな傷受けた覚えはないですけど・・・」
「どっかで引っかけたんじゃないのか?」
「それ位しか考えられませんけど、別に大した傷じゃありません、先を急ぎましょう!」
再び駆け出す小竜姫達、だが小竜姫には何か嫌な予感がしてならなかった。
しばらく時間が経過、、、
ようやく横島に掛かってた呪縛を解いたおキヌだが、それと時を同じくしてあたりの竜巻の勢いが弱まり始め、そして消えた。
さっきまで巻き起こっていた風が嘘の様に消え、あたりに静寂が戻った。
鈴奈は空中で止まったまま動かない、そして浮遊力を失ったその身体は地面に向かって落下していった。
「大丈夫ですか鈴奈さん!」
思わず手のひらに乗せるおキヌ。
「おキヌ・・・ちゃん、横島さんは?」
「大丈夫です、もう呪縛は解きました、もうすぐ元に戻るはずです」
「そう・・・じゃあ私の役目も終わりね、疲れたから眠るね」
そのまま鈴奈は気絶した。
「しっかり、しっかりして下さい!」
思わず抱きかかえる。
『お別れの挨拶は終わったかい?』
「まだ死んでません!」
キッと睨みながら強い口調で言い返す。
『あらそうかい、たかが妖精のくせによくやった方だよ』
奴が一歩近づいた。
思わずおキヌは鈴奈を手に持ったまま横島の前に立つ様な形になった。
『分かったら横島を返しな、呪縛が解けるにはもう少し掛かるからね』
「あなたは一体何なんです?小竜姫さまのシャドウの姿をしているのは何故なの?」
『私の事なんか・・・どうでもいいさ、いいからそこをどきな!、・・・ん?来たか?』
「嫌です!横島さんは絶対に渡しません!」
その言葉を聞いた後奴が一瞬怯んだ。
『わ、私は・・・』
奴が少し悩んでいる様だ。
『う・・・うるさい!邪魔するなら力づくでいくよ!』
鈴奈は気絶していて、横島はまだ元に戻らない、おキヌだけでこの強敵に勝てる訳ない。
神剣を構えた奴が地面を蹴った。
「きゃ・・・!」
ギィィィィィィン!!
激しい金属音が響きわたった。
「お待たせ」
おキヌが目を開けると、すんでの所で小竜姫が奴の剣を受け止めていた。
交差する互いの剣を振り解いて、距離をとった、が・・・。
「この者達に手を出すことはこの小竜姫が許しません!私が来た以上もはや行くことも引くことも叶・わ・ぬ・と・・・?」
お約束の決め台詞を言おうとするがその台詞を最後まで言うことは出来なかった、何故なら・・・。
「・・・って、だ、誰よあなた!?」
『誰?、見ればわかるでしょ、あたしはあんただよ』
「二人共大丈夫ですか?」
目の前の敵に驚きながらもとりあえずおキヌ達を気遣う小竜姫、
本当は横島だけを気遣いたいのだが、おキヌちゃんが目の前にいるのでちょっと遠慮している様だ、
―――今はそれより目の前の敵に集中
これが今の彼女の考えている事。
「鈴奈さんはごらんの通りですけど、私は平気です、それより・・・」
今まで起こってた事を全て話し、同時に目の前の敵が何者なのか彼女に問いかける。
「そうですね・・・」
キッと目の前の敵に鋭い眼光を浴びせながら小竜姫は奴に向かって言葉を発した。
「私の姿を真似るとは・・・何者です!、正体を見せなさい!」
『何者?まだそんな事を言ってるのかい、私はあんただってさっき言ったでしょ』
「ふざけたこと言わないで!」
『じゃあ証拠を見せてあげるよ』
奴が神剣を抜くと自分の指に近づけた、そして軽く指先を切った。
「つっ!」
指先に痛みが走った、よく見ると血が滲み出てきている。
「そ、そんな、まさか・・・」
直前に起きた出来事に驚愕する小竜姫。
「ま、まさか・・・父上は・・・」
天龍童子が何か知ってそうな素振りを見せている。
「殿下?」
「確か前父上の武器庫にこれと同じ様なのが有ったような・・・」
「どういう事です?何か知ってるんですか?」
「いや・・マイナス思念を核にした分身を相手の精神に送り込む指輪ってのがあった様な気が・・・」
「な・・・って事は・・?」
再度分身体を見る小竜姫。
『どうやら私の正体に気づいた様だね、分かったらあんたは引っ込んでな』
「だ、誰があなたなんか認めるものですか!」
神剣と竜の牙を構えた両者が戦闘態勢に入った。
――その瞬間!
おキヌ達の視界から二人が消えた、超加速に入ったためだ。
ドカッ!、ギィィィン!、バチバチッ!
光の筋が辺りに交差する、激しい激突音が響き渡る。
稲妻が走る様な超高速の移動を連続的に続ける。
「な、何も見えない」
「余も見えん」
戦いの状況を全く把握出来ないおキヌ達、だがその時横島が目を覚ました。
「う・・・」
「横島さん、起きたんですか?」
「お・・・キヌちゃん?ここ何処だ」
「ここは横島さんの深層意識の底、今小竜姫さまが戦ってます」
「え?戦うって誰と?」
・・・かくかくじかじか、今まで起こってた事を全て話すおキヌ。
静かな深層意識に何度も激突音が響き、ぶつかり合う善悪二人の小竜姫。
パワーはほぼ互角、竜の牙がある分小竜姫の方が若干有利だが、互いにシンクロしてるので一定以上のダメージが全部
自分に跳ね返って来るから、倒すことは出来ない。
『何で邪魔する?あと少しで横島の心にあんたの事を植え付ける事が出来たのに』
「誰がいつ何処でそんな事頼んだわけ?勝手なことしないで欲しいわね」
『何言ってんだい?あんたはあいつの事が好きなんだろ?だったらどんな手でも使うべきじゃないのかい?』
「な・・・、そ、そんな・・・そんな偽りの恋なんか私は欲しくない!!」
ギンッ!
再び両者の剣が激突する。
『はん、すっかり清純派ヒロイン気取りだね、あんたにそんなの似合わないよ、言っとくけど私はあんたの分身体なんだか
らね、私が考えてるって事はあんたも考えてたって事なんだからねっ!』
「だ・・・・・・・黙りなさいっ!!」
竜の牙のフルパワーの一撃を喰らわした。
『くうっ!』
そのまま空中から地面に激突し加速が切れた
自分の背中に痛みを感じながらも奴を追従する小竜姫、集中力が切れたせいか加速が切れてる、その目は半分我を失っ
ていた。
「やばいっ!」
自分の分身にとどめを刺そうとする小竜姫を横島が止めた。
さすがに竜の牙の威力はハンパじゃなく、受け止めた横島はダメージを受けた。
「あ・・・?