怒りのトマト
著者:ジャン・バルジャン


 ピートが左手に力を込めるとバチバチッと自分の霊力の塊がそこに生み出された。
「聖者に害をなすものよっ!キリストの巷より立ち去れ!!」
 ピートの術をまともにくらい悪霊の動きが止まる!
「主よ!聖霊よ!我に邪を滅す力を貸し与えたまえ!」
唐巣の体内に人外からの力が宿り、
「アーメン!!」
その一言で目標に向かって力を一気に爆砕させる!!
ズッガアアアアーーーーーーーン!!!!
「ギャーーーーーーッッッ!!!」

「いやあ、助かりましたありがとうございます」
 微妙に訛りのある日本語でそう礼を言ったのはザンス王国の大使だ。ザンス王国は今度日本に新しく大使館をつくろうとしたのだがいかんせん小国なので物件を見つけるのにも一苦労。ようやく仮に使えるものが見つかったのはいいがそこは霊的な不良物件……。というわけでGS唐巣の出番と相成ったわけだ。
「あの…………それで料金はいかほどで?」
大使はおずおずと丁寧に聞いてきた。彼にとって不安だったのは日本におけるGSの相場が全くわからなかったからだ。一応、日本の協会の方にはなるべく安く頼める人を、ということで紹介してもらったのだが不安は拭いきれなかった。いまザンス王国は貿易赤字が続いているので王宮側のためにもできるだけ出費は控えたかった。だがそんな大使の言葉に対し十字架を首から下げたその男の答えはあまりにも意外なものだった。
「いえ、料金は結構です」
「え?いいんですか?」
「人が苦しんでいるときにそれを助けることは神に仕える身として当然のことなのです。当然のことに対してお金を頂くわけにはいきません」
「しかしあなた方にも生活があるでしょう?」
「心配していただいてありがとうございます。ですが最近大きな仕事が入りましたので」
 そう先日の香港の件で唐巣とピートは小龍姫から幾ばくかの報酬をいただいていた。唐巣は最初自分はなにもしてないからと言って辞退したのだが雪之丞、美神、小龍姫の三人に
「あんたがあのとき独りで土角結界を引き受けてくれなかったらみんな動けなくなってなにもかもお終いだったんだぜ」
「どうせ家に帰っても食べるものはなにもないんでしょ」
「これは正確に言えば私からではなく神界の上層部からなのですからいいんですよ。それに私は一応あなたの師匠なんですよ。たまには素直に言うことを聞きなさい」
と説得されていただいてきたものだった。
 大使はそんな唐巣の言葉を聞くと「ちょっとまっててください」と言って彼の荷物がおいてある車のトランクの所へいってなにやらごそごそとやったあと、紫色の10センチ四方の小箱を持って戻ってきた。
「では、せめてこれを受け取っていただきたいのですが………」
 箱の中身は普通に出回っている大きさの4〜6倍はあろうかという精霊石だった。
「こんな質が悪い精霊石でで恐縮ですがどうかお受け取りください」
確かにその精霊石は少し黒ずんでいた。
「いえ、せっかくですがこんな高価なものをいただくわけには………」
「神父殿、あなたに信条というものがあるように私たちにもタブーというものがあるのです。高潔な精神の持ち主に対し敬意を払わないことはタブーなのです。そして神父あなたは高潔な精神の持ち主です」
 そこまで言われては唐巣もおれないわけにはいかなかった。
「それではありがたくちょうだいさせていただきます」

まさかこの精霊石があんな事件を起こそうとは……………

 町の中を赤いスポーツカーが軽快に駆け抜けていく。
 運転席に乗っているのは20代前半と思われる若い女性、助手席に乗っているのはこれまた若い男、というより少年と形容した方が適切なようだ。額にバンダナをまいている。そしてその席の背もたれをつかんで袴姿の幽霊がくっついている。
「困っている?あの唐巣神父がですか」
運転席の女性=美神令子に横島は尋ねた。
「まあ電話の様子がそんなにせっぱ詰まってない感じだったからそんなに深刻な事態ってわけじゃないんでしょーけどね、まあ金にはなりそうもないけどそんなに大変じゃないみたいだしね」
「こらーーー!!、そこの赤い車定員オーバーだぞ!!ていしゃしなさーーーい!!」
唐突に別の声が割り込んだ。横島が声をした方を見るとパトカーが追いかけてくるのが見えた。
「停車しろって言ってますけど?」
「なにいってんの、おキヌちゃんは幽霊なんだから定員オーバーなんかじゃないわ。だから私たちなにも悪い事してないんだから従う必要なんかないじゃない」
「こらーっ!聞こえんのかーっ!?ていしゃしろーーー!!」
「美神さんおとなしく止まった方がいいんじゃ?」
「あの言い方がむかつくからぜっっっっったいいや」
「こらーーーーーーー!!!止まれーーーーーーーーーー!!!!撃つぞーーーーーーーーー」
パン!パン!パン!
「もううってるじゃないかーー!!」
「ウフフフフフフフよーやく公然と銃を使うことができたぞーーーーーっさいっこーーー!!!!」
拡声器のスイッチが入りっぱなしなのに気づいてないらしい。
「そらそらそらーーーーーー!もーいっちょーーーーーー!!!」
パン!パン!パンパン!びしっ!
最後の音は車に銃弾が当たった音だ。そして美神の中で何かが起こった音でもある。
「美神さーーーん!後生ですから素直に止めてーーーーーー!!!」
生きた心地のしない横島は美神にそう懇願したが、美神にそうする気配はみじんも感じられない。
「横島くん、そこのダッシュボードの中の白い箱とってちょうだい」
「へっ………これっすか?」
横島は素直に従った。
「ありがと」
中身は手榴弾だった。
「ちょっとーーーー!みかみさんーーーーーーーーーー??!!!!」
「完全にあったまきた。よっぽど死にたいようね」
美神はピンを抜いた。
「こんなこともあろうかともっておいてよかった。」
何故かやたらうれしそうに聞こえる。
「美神さん!!!お願いだから考え直して!!!!!いくら何でも手榴弾はまずいっスよ!!!」
無駄だと知りつつも横島はそう言わざるを得なかった。
「シュリュウダンってなんですか?」
 なにも知らないおキヌの声が無邪気なはずなのにやたら残酷に聞こえた。
「くらえっ!!」
「うわーーーーーーーーーーっ!!!!」

ずどーーーーーーーーーーーーーん

ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー
「増えちゃってるじゃないですかーーーーーー!」
パトカーは20台ぐらいの数にまでなっていた。
「いきなり撃ってくる方が悪いのよ」
美神はすました顔でそう答える。
「あのーーー美神さんひょっとして私がおりればいいんじゃないでしょうか?」
おキヌのその問いに対し美神はあっさりと
「………そう言えばそうだったわね」
「何でそれに気づかんのです!?」
「うっさいわねー、いいじゃない別に一度あれ使ってみたかったんだし」
「結局それが本音ですか」
文句を言う気力もなくなる。
「じゃあたし後から行くんで」
「唐巣神父の教会はわかるわね。真後ろからおりてちょうだい。」
すこしだけ『真後ろから』の部分を強調していった。
「はい。それじゃ」
そう言うとおキヌは車の後ろにふわっと飛び降りた。驚いたのは後ろから追って来ていた警官達だ。何しろ時速80キロは出てるだろう車の上から女の子が自分達の目の前に飛び込んできたのだから。あわててハンドルを切るものブレーキを踏むもの。当然ながら後ろでは大混乱が起き、本日二度目の大爆発が起きた。
「こうなるのがわかってたんですね、美神さん。」
「なんのことかしら」

「わっっ!!」
 ぐらぐらぐらぐらっと地面が揺れる。しばらくしてそれがおさまってからピートは立ち上がった。
「なんだったんだ今の爆発は?」
当然のことだったが20台以上のパトカーが爆発したとは考えなかった。ピートは外に調べに行きたかったが『庭』があんな様子ではとても無理だった。
「先生、今の爆発なんだったんですかね?」
半開きになってる自分の師の部屋にそう呼びかけるが返事はない。ピートは不思議に思って部屋をのぞいてみると唐巣の足が倒れた本棚の下から出ていた。
「せっ!!先生ーーーーーーーーー!!!」
あわてて引っぱり出して、見たところ大きなけがはないようだったのでほっとした。
「ああ、ピート君すまないね」
「けがはありませんか?」
「うむ幸い特にないようだ」
と、そのとき
「ひーーーーーーーーっタマネギとヤモリは嫌いっスーーーー!!!」
「そんなこといってる場合かーーーーーーー!!!!」
庭の方で絶叫が聞こえた。

 話はほんの少し前にさかのぼる。
 唐巣の教会に到着した美神達二人は、
「せっ!!先生ーーーーーーーーー!!!」
というピートの絶叫を聞いて足を止めた。
「な…………どうしたんすかね」
「さあね。けどなんにしろ気をつけなさいよ」
二人はそれぞれ武器を構えてゆっくりと庭に入っていった。二人が公道とドアの中間地点のあたりまで来たその時、もこもこもこもこもこもこっと二人の周りの地面小さな面積で無数に盛り上がってきた。
「ひっっ!!」
「落ち着きなさい!」
唐突に変化が止まった、が、それは一瞬のこと今まで盛り上がっていた地面のとこから何かが飛び出した!
 ボンッ!ボンッ!!ボンボンボンボンボンッッ!!
派手に地中から飛び出してきたのは…………
「…………………タマネギ?????」
美神がしばらく判断を下さなかったのはそのタマネギらしきものに目や口があったからだ。
 その目が光る、とてつもなく妖しく。
 その口が開く、とてつもなく不気味に。
「やばいっっ!」
美神はGSとしての勘で判断した。耳元にある精霊石を投げつける。
 カッッッ!!!………シュウウウウウウ
「え!?」
爆発するはずの精霊石が爆発しなかった、それどころか今のは見間違いでなければ………………
(吸収された!?)
「キョーーーーーーーーキョキョキョキョキョキョキョッッ」
考えてる暇はないようだった。
「オ、オ、オ、オ、オニゥオーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
タマネギが一斉にこちらに向かって射出された!!
「ひーーーーーーーーっタマネギとヤモリは嫌いっスーーーー!!!」
「そんなこといってる場合かーーーーーーー!!!!」
無数に飛んでくる弾丸を必死で避け、払い、逃げる。
「美神さん!横島さん!こっちです!!」
「速く!!」
教会の扉が開いてピートと唐巣がそう呼んだ。
「オニオーーーーーーーーーーーーン!!オニオーーーーーーーーーーーーン!!」
なおもタマネギは追撃してくる。
「聖霊よ!我に力を!!」
「ダンピールフラッシュ!!」
ピートと唐巣の援護のおかげでどうにか教会の中に転がり込むことに成功する。
 バタン!!扉が閉まる!!!
 ズドドドドドン!!タマネギが扉に激突する!!
「た、たすかったーー」
横島はその場にへなへなと座り込んだ。

「で、一体あれはなんなんですか」
美神は唐巣に対してジトッとした目でそう聞いた。そんな美神の問いを聞いて唐巣はしばらく腕組みをして黙考した後、
「うむ、おそらくあのタマネギは外来種だったんだろう。だからタマネギーーーーーーー!!!、と叫ばずに、オニオーーーーーーーーーーーーン!!と叫……………」
「そんなことは聞いてないわよ!!なんであんなものがでてきたの!?」
「いやこの間君が考えた野菜を魔法で育てるっていうことにもう一回挑戦してみただけなんだが………」
「なるほどだから精霊石の力が吸収されちゃったのね」
美神は納得した。
「それで失敗したんスか?」
「まあ、そういうことです。さらに精霊石の力が大きすぎてあんなふうに畑でないところまで影響を受けちゃって」
「なんで、電話したときに言ってくれなかったんです!?」
美神は唐巣に抗議した。
「そんなことやったら、君、聞かなかったことにするだろ」
「うっ!」
「君たちが敷地にはいるときに言おうとして待ってたんだが、さっき大爆発が起こったろそれでちょっと混乱が起きてね」
 横島の頭に因果応報という言葉が浮かんだ。美神には浮かばなかった。
「あたしがなにやったっていうのよーーーー!!!」
 つっこむ人間、いやつっこむ勇気のある人間はいなかった。

「具体的に、どういう問題が起きてるんですか?」
「外に出ることができないんだ」
唐巣はドアを開けてテニスボールをオーバースローで思いっきり外に投げた。ボールがドアを出て0,2秒後、
「スーーーーーーーーイーーーーーーーーーーカーーーーーーーーーーー」
ズズーーーンズズーーーーンズズーーーンズズーーーンとスイカが、ドゴッドゴッ、とボールに正確無比にヒットしてボールは上空高く舞い上がり、
「にんじん!にんじん!にんじん!にんじん!にんじん!にんじん!にんじん!にんじーーーん!!」
ドスドスドスドスドスドスドスッッッッッ
ボールは美神の足下に1,8秒で帰ってきた。
「な………………なんでこの季節にスイカが!???」
「美神君、注目すべき点はそこではないと思うぞ」
「そーっスよ!美神さん問題はそんな事じゃなくてなんであんな小さなボールにあんなにたくさんの人参が刺されるっかってことっスよ!」
「いや、横島さんそこでもありませんよ」
ヒョイッと唐巣はボール……いやボ−ルだった物を取り上げた。人参が隙間がないほど刺さってる。
「まあ、食べ物には一応こまらんがね」
「何か手だては考えて有るんですか?」
「ないから君を呼んだんだが」
「…………まあじっくり考えましょ」
美神はため息をついて言った。
「美神さん!!!もーこーなったら仕方ありません!子孫代々ここで暮らしましょう!!では早速一人目の子供をーーーーーーー!!!」
 その疾きこと野菜の如し。ズボンを脱いで飛んでくる横島を0,2秒で美神は無言で床に沈めた。

「囮を出してその隙に逃げましょう。」
「ひどいーーーーーーー!あんまりやーーーーーーー!」
「誰もあんたを囮に使おうなんて言ってないでしょ。」
「み、美神さんが俺を囮に使わない!?!?」
どっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくんどっくん
横島の心臓が早鐘をうつ、
(落ち着け、落ち着くんだ横島。このことはつまり美神さんにとって俺が使い捨てでない、言うなればかけがえのない存在つまり、恋人同然になったということだ)
 なんだかやたらと論理に飛躍がある。
「と言うことは、いずれ美神さんが俺の女になる日もそう遠くないと言うことだーーー!!!!!」
「そんなに囮に使って欲しいわけね♪」
「ああっっっっっ、いえ決してそう言うわけでは!!」
「しかし美神君、横島君を囮に使わないとなるといったい何を囮に使うんだい?」
「先生まで横島さんを囮に使おうとしてたんですか!?」
「え、いや、それはそのだね………………さあ美神君作戦の説明をしてくれ」
「先生!質問に答えてください!!」
「普通に人間を囮にしたんじゃすぐに粉々になっちゃうわ。だからあれを使うの」
美神はそう言って自分の後ろの天井近くにあるキリスト像を指さした。
「なっ……み、美神君それだけは勘弁してくれ!!」
「あの像ブロンズ製でしょ」
「お願いだーーーー!美神君そんなことはやめてくれーーーー!!あれは私のものじゃなくて人からの預かりもので……………」
「うっさいわね!!だいたい誰のせいでこんな事になったと思ってんのよ!!」
「し、しかしだね」
「だいたいキリスト教は偶像崇拝は禁止のはずでしょ」
「そ、それはそうなんだが…………」
「あ、UFO」
「美神君いくら何でも私だってそんなことじゃ騙されないよ」
「あ、空飛ぶ円盤」
「な、何ーーーーーー!!どこだっ!!どこだっ!!!!」
     ゴチン
「さっ、ピートあの像おろしてきてちょうだい」
「ぼ、僕がですか??」
「だってあそこにとどくのは霧になったあんただけですもの。それともさからう気?」
「いえ……………」
江戸時代に踏み絵をさせられた農民の気分だった。
(先生、すいません!生きるためには、生きるためには仕方がなかったんです!)
 ピートは心の中で唐巣に必死に謝った。

「失敗しましたね」
「まさかあの像までああも一瞬にして壊されるとわねー」
「あああああっ!主よ罪深き我らをお許しください!!」
 唐巣が頭を抱えながらさけんでいる。
「地道に突貫していくのはどうでしょう」
 ピートがそう提案した。
「おそらく無理ね、先にこっちの霊力が尽きてやられるわ」
今度は横島が、
「地面の下を掘って進むのは?」
「あの膨大な野菜が眠ってる土の中を?」
「主よーーーーーー!主よーーーーー!」
「うるさいわよ」
美神は唐巣を椅子で殴りつけた。唐巣はばったり倒れる。
「おいピート、霧になって外には出れんのか?」
「無理でした」
その時美神がポンと手をたたいて、
「そうだピート、スピーカーこのうちにある?」
「え、スピーカーですか?確かあったと思いましたけど」
「悪いけどもってっきてくれない」
「はあ、別に構いませんが」
 ピートは教会の奥の方へ駆けていった。

 数分してピートはスピーカーを持って戻ってきた。
「もってきましたけれど、これでいいんですか?」
「ありがとー」
 美神はピートからそれを受け取ると腰に手を当てて庭のほうに向かってしゃべり始めた。
「あーあー野菜達に告ぐ」
「!そうか霊波を使って呼びかける気なんだな」
「そんなことが可能なんですか?」
「この間の時、恐竜相手には通じたが…………」
「当方はそちらに対して害をなすものではありません。よってここから外までの空間を通行する際には攻撃しないでいただきたいのですが…………………わかりました。御協力感謝します」
美神は横島達の方を向いて、
「オーケーよ。帰りましょう横島君」
「説得が通じたんですか?」
「ん、まああたしも正直こんなにあっさりいって驚いてるんだけどね」
「いやー美神君、ありがとう助かったよ」
「いいんですよ先生。後で働いて返してもらいますから」
「やっぱりそうくるのかね」
「勿論」
 そういって美神は庭の方へスタスタと歩き出した。慌てて横島も続く。そして二人は、
「きゅうりーーーーーーーーー!!」
「どわっ!」
「きゃあっ!」
 キュウリが飛んできたのをよけて慌てて教会の中に戻るはめになった。
「な、な、な…………」
美神は素早くスピーカーを口に持っていき大声で叫ぶ。
「ちょっとどういうことなのよ!?とおしてくれるっていったじゃない!!」
「きゅーーきゅきゅきゅきゅうりーー!」
「ははーんこの私をだましたってわけね。いい度胸してんじゃない」
 美神はそうとだけいうといきなり足下の床板をはがしにかかった。
「ちょっと美神くん?」
唐巣神父の疑問には答えず美神は作業を続ける。やがて美神は床板の下の空間から何かを取り出した。
美神が持ち出したのはグレネードランチャーだった。
「そ・・・・そんなものがいつからここに?」
「んーーー。半年前ぐらいかしら」
「美神さんまさかそれを庭に発射する気じゃ……………」
「そのとーりよ、あたしを虚仮にした罪は重いわよ発射!!!!」
「わ、私の庭がーーーー!!」
止める暇はなかった。
そして、なすびによって跳ね返された弾丸をよける暇も

    ちゅどーーーーーーーーん

「また裏をかかれちゃったわね」
「み……………美神さんは…………無事だったからいいけど…………盾にされる俺のみにも………」
「ま、めげずにもう一回。発射ーーーー!!!」
 ぼひゅーん!
「じゃがじゃがじゃがじゃがじゃがじゃがじゃがじゃがじゃがーーーーー!!」
今度はジャガイモによってその意志は阻止されそうになる。
「あまい!」
 美神はその弾がジャガイモによって跳ね返される寸前に同じ所にもう一発打ち込んだ。これでジャガイモの目の前で二発分の爆発が起こるはずだったのだが…………………
「カーーーーーーーッカッカッカカボチャチャチャーーーーーー!!」
突如美神とジャガイモの間にカボチャが出現し二発目も打ち返される!
「へ?」
唐巣の間の抜けた声は爆音にかき消された。

   ずがうぉーーーーん!!!     ぼぐわぁーーーーん!!!!

 もうもうと爆炎があがり唐巣だったものがぱったりと倒れる
「先生ーーーーーーー!!!」
「カカカカカカカカボチャーーーーーーーーーー!!!!」
「じゃっがじゃっがじゃっがいもーーーーー!!!!」
 なにやら自慢げな野菜達の声がこだまする。
「野菜風情がいい気になってんじゃないわよ。言っておくけどこっちにはバリアーがもう一つもあるんですからね」
そういいながら逃げようとしたピートのシャツの襟首をつかむ。
「こーなったら徹底抗戦よ。手持ちの武器全部使ってやる!!!」
 そういうと美神は例の場所から全ての武器を持ち出した、じつにいろいろある。
 散弾銃にマシンガン、火炎放射器、手榴弾、エトセトラ、エトセトラ……………
「ピーーーーーマンーーーーーーー!!!!」
「やる気みたいね!覚悟しなさいよ!!」
 最後は僕達と野菜とどっちに言ったんですか。ピートはそう思って聞こうとした。でも聞けなかった。気絶したから。盾にされて。

「武器なくなっちゃったわ」
「壁もほとんどないんすけど」
「野菜は残ってるようだね」
「結局無駄だったって事ですか」
「案外美神君て何も考えてないんだな」
「唐巣神父。そんなこと今更確認する事じゃありません」
「横島さん、本当のこと言ったら美神さんがかわいそうですよ」
 美神は三人にとどめをさしにかかった。
と、その時
「美神さーーん、遅くなってすみませーん」
「おキヌちゃん」
壁からスウッとおキヌが入ってきた。
「あれ?おキヌちゃん普通に入ってこれたの?」 
「え?ええそうですけどどうしたんですか?これ??」
 そこで美神は手短に今起こっていることを説明した。
「あのーーそれって精霊石の効果が消えるまで待てばいいんじゃないですか」
「…………そういやあとどのくらいで消えるのかしらね」
「埋めたのは一週間前です」
ピートがむっくり起き上がっていった。
「と言うことはそろそろ切れるんじゃないかね?」
唐巣があとを続ける。
「なんで、プロのGSが二人いてそれに気付かんのです!?」
横島は倒れたまま言った。
「仕方がないじゃないの。気付かなかったものは」
その言葉を聞いて横島は決心した。
「………………………………ピート」
「なんでしょう横島さん」
「お互いあんなGSには絶対ならないようにしような」
「…………そですね」

 約一時間後。教会のドアが開いて横島が中から思いっきり突き飛ばされた。
「うわああああああああっ!!!」
そのまま顔からズベシャッと地面に飛び込んだ。
「よし、何も起こらないみたいね」
「何か起こったらどうしてくれるんです!!!!?」
「また中に引っ込むに決まってんじゃない」
(くッそーーー!今に………今に見てろよこのクソ女ーーーー!!こーなったらこーなったら…………泣き寝入りしかできないよーグスン)
「横島さん。なにそんなに雑草を思いっきり握り締めながら泣いてるんですか?」
「あ、いやなんでもないんだよおキヌちゃん」
彼はズボンについた土を払いながら立上った。
「さ、それじゃいったん事務所に帰るわよ。夜から仕事があるんだし」
「はーい」
「了解ッス」
そして三人が車のところまで歩いていくと
「ふはははははーーーーーー、罠にはまったな凶悪犯たちめぇーーーーーーーー!」
いきなりゴミ箱の中や茂みの中から武装した警官たちが飛び出してきた。よく見るとスイカの皮やら何やらがまわりについてる。どうやら教会の中に突入しようとしたらしい。
「罠ですって?」
「そのとーーーりっ!!!!」
無意味に胸を張る警官A。続いて同時に別の警官が車を指差して(美神はこれを警官Bとした)、
「実はその車はお前らの車ではない!われわれが用意した車種は同じだが全く別の車だ!もうにげられんぞ!!」
「まだ逮捕礼状も出てないのに人様のものに手を出していいと思ってんの」
「あんだけ大騒ぎをやらかしとてなにぬかす!!」
「ちなみにあたしのくるまは?」
「うむ、そーゆーわけで手が出せなかったので少し動かしただけだ」
確かに後ろを向くと同じ車があった。
「強気なんだか弱気なんだかはっきりしなさいよ」
「うるさいやいっ!!だがどちらにしてもそこまでたどり着くことはできぬぞ」
じりじりじりっと警官の方位が輪を狭めてくる。
「ど、どどどどどどどどーすんすか美神さん」
「あわてないの」
「いやーーー!警察に捕まって一生監獄暮らしなんていやーーーーまだ女の子とろくにキスしたこともないのにーーーーー!!!」
「慌てるなって言ってんでしょ!」
「ふふふふふふふふふふキスができずに人生が終わってしまうことには同情するが………」
「何で終わるの!!?」
「同情するが貴様らの犯した罪はあまりにも重い。もーあれだ。例えるなら全世界の虫を集めた分の重量ぐらい重いぞ」
横島の突込みを無視し、さらにわけのわからない例を持ち出しながらなおも警官たちは包囲の輪を狭めていく。
「横島君、こーなったら作戦Z」
美神が小声で指示を出した。
「オレまだ17でお尋ね者に成りたくないんですけど」
横島も小声で返答する。
「17で人生終わらすよりいいでしょ」
「…………はあ」
横島は両手を上に上げて
「降参します」
といった。
「何だよ、ちゃんと抵抗しろよー」
「そうだそうだ、往生際が悪いぞ」
「悪人なら悪人らしく最後まで悪あがきするのが礼儀だろー」
「むちゃくちゃ言うなあーーーーーーーーーー!!!!!!」
ブーブー文句を言う警官隊に介して横島は大声でそう怒鳴った。
「しょうがないなーこれだから最近の若い奴は自分のことしか考えないなんていわれるんだよ」
「他人の楽しみより自分の命を優先させても罰は当たらんと思うが」
「ま、いいやとりあえず手錠をかけるから手を出して」
そこで横島は手を適当に前に出し、さらに両手首をくっつけた。
「それじゃあ……………」
「サイキック猫だまし!!!!」
ピカッと横島の手から光が出て警官たちはたちまち行動不動に陥った。
「ナイスよ、横島君!!!」
いままで沈黙していた美神はダッシュで車に駆け寄りエンジンをふかす。慌てておキヌと横島も続いた。
「待て、逃さん!」
けなげにも追ってくる警官たちに対し美神はこう言った。
「あたしの気持ちよ(ハート)」
美神の気持ち(催涙ガス)は存分にその威力を発揮し、
「あたしの気持ち、パートツーー!!」
そういって手榴弾を投げつけ赤いスポーツカーはその場から走り去った。
「美神さん、最後のは要らなかったのでは?」
「だってこれがあたしの生き方だもの!」
美神はウインクしながらそう言い放った。
 赤いスポーツカーは今日も、そしておそらく明日も軽快に町の中を走り抜けていくだろう。


※この作品は、ジャン・バルジャンさんによる C-WWW への投稿作品です。
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