黄泉がえり for GS美神
なんであの時、もっと優しくしてあげられなかったんだろう・・・
なんであの時、もっと感謝しなかったんだろう・・・
なんであの時、もっと側にいてあげられなかったんだろう・・・
もう一度、会いたい・・・伝えたい・・・
誰もが・・・二度と会えない者に思う気持ち・・・
人はいつか死んでしまうから・・・強く生きていける・・・
限られた時間の中で・・・
人は誰かの死を見つめることで・・・強くなれる・・・
自分の足で・・・明日へ歩いていける・・・
でも・・・時には・・・・・・立ち止まって・・・
振り返ってみても・・・・・・いいよね・・・・?
人は蘇る・・・儚く切ない想いのもとに・・・
その日は朝から何かがおかしかった
目が覚めてもまだ、夢の中のようだった
なぜか、外は霧がかかったように幻想的だった
―――オカルトGメン本部―――
その異変にいち早く気づいたのは、オカルトGメンに夜間勤務で仮眠をとっていた西条だった。
ピーーーッ・・・ピーーーッ・・・
警告音が建物の中に響き渡る・・・
「ん・・・?」
不意に目に入った霊波ナビゲーターによって、西条の顔が凍りつく・・・。
「西条君!この警告音はどうしたの!?」
美智恵が、コンピュータールームに入ってくる。
「と、都内に霊的反応が急増中なんです!!」
西条はそう叫ぶ・・・寝ぼけていた頭はすでに覚醒していた。
西条の起動したナビゲーターをのぞき込む美智恵。
その画面には霊的反応を示す青い点が都内のいたるところで点滅し、増え続けている。
「識別カラーは、青!善良型霊的反応です!しかし、この数は・・・」
「何が・・・何が起こっているの・・・」
ピーーーッ・・ピーーーッ
警告音と共に、画面の点はいぜんとして、増え続けていた・・・。
―――美神除霊事務所――――
「・・・というわけなんです。」
一通り説明を終える小竜姫様。
「じゃあ、日没になれば元の世界に戻っていくわけですね?」
と美智恵。
死んだ者が蘇っても動じないのはさすがはこの業界の人間といったところか・・・
(あ〜あ、西条も大変だな・・・いつも大事なときに隊長さんにぬけられて・・)
横島の脳裏にクマができて疲れ果てた西条の姿が浮かぶ。
「はい、そういうことです。」
「悪霊とかが復活する可能性はないんすか?」
俺は小竜姫様に聞いてみる。
「全くないとは言い切れませんが、その可能性はほぼないですね。蘇ることのできる人々の条件は、現世でその人に会いたいと心から強く思う人がいることですから。悪霊に会いたいなんて人はそうそう いないでしょうし。」
「で、わたしたちはどうすればいいの?」
美神さんが小竜姫様に聞く。
目がお金になってるような・・・(¥Δ¥)
「先ほど横島さんが言われたように悪霊が復活する可能性は少ないんですが、これに誘発されて悪霊の動きが活発になる可能性があるので、その除霊をお願いしたいんです。お礼もちゃんと・・・」
机の上に置かれる大判小判の山。
「のった!」
即座に契約は結ばれた・・・
俺は小竜姫様たちを見送り、部屋に戻ってくる。
「そういえば、おキヌちゃんはどうしたんですか?」
「ああ、昨日から臨海学校に行ってるわよ。」
「なぬーーーっ!俺に秘密で・・・くそっ!!水着の花園が・・・」
血の涙を流す横島・・・
バキッ!ドガッ!!
「変なこと考えてないで、あんたも帰ったら?」
しばき倒される横島。
「帰るって?除霊するんじゃないんすか?」
「今回は私だけでやるからいいわ。わたしには死んだ人で会いたい人なんかいないしね。シロやタマモにもそう言っておいて。」
「・・・・・・。」
その意味をくみ取り、先程までとは別人のような表情の横島。
「ありがとうございます!失礼します!」
深々とお辞儀をし出ていく。
「今日だけなんだからね・・・。」
横島の遠ざかる足音を聞きながら、美神はそうつぶやいていた・・・。
屋根裏部屋に続く階段の途中で、俺はタマモとすれ違った。
「ん、どこ行くんだタマモ?」
「うん、どこに行くって分けでもないんだけどね。」
なぜか、寂しそうな表情のタマモ。
「夕飯までには帰ってこいよ。あ、美神さんが今日は仕事なしでいいってさ。」
「うん、わかった・・・。」
そう言い残し、タマモは事務所から出ていった。
玄関のドアにもたれかかるタマモ・・・
「ちょっと・・・うらやましいのかな・・・」
その顔にはかすかに微笑みが差し込んでいた・・・
「父上!母上!!会いたかったでござるよ〜」
ドアの外に立っている俺の耳にその声ははっきり聞こえていた。
泣きじゃくるシロの声、それを慰める優しい両親であろう人の声・・・。
タマモの表情の意味が分かった気がした・・・。
(シロもタマモも、強がっててもまだガキだもんな・・・。)
俺は邪魔にならないようにそっとその場を後にした。
(ガキで強がってるのは俺も同じか・・・。)
俺は手を強く握った・・・。
町に出てみた俺は、霊的反応をいたるところで感じていた・・・
子供を肩車している、その父親らしき人から・・・
手を堅く握ったカップルの、女性から・・・
無邪気に遊ぶ子供たちの輪のなかから・・・
様々な人々の中から・・・
俺は足を速めた・・・・
「やっぱり、ここだよな・・・」
目の前にそびえる赤い塔を見上げる。
手のふるえが収まらなかった・・・。
“翔”文珠にそれを込め、一般入場できそうもないところへ飛ぶ。
(蘇ることのできる人々の条件は、現世でその人に会いたいと心から強く思う人がいることですから。)
先程の小竜姫様の言葉が頭の中を駆けめぐる。
一握りの不安・・・
「何、弱気になってんだ俺は。俺があいつに会いたくない分けないだろ。」
自分に言い聞かす。
そこは鉄で無骨に作られた塔の上部・・・二人の思い出の場所・・・。
そこにたたずむ彼女の姿・・・。
「よっ・・・」
これといって言葉が見つからず、曖昧な挨拶をしてしまう。
「ヨコシマ、逢いにきちゃったよ・・・。」
振り向いた彼女は、あの頃と変わらない笑顔で俺を迎えてくれた。
「今日は、ずっと一緒にいよう・・・。」
それがそのとき俺に言えた精一杯のことだった。
涙が止まらなくなりそうだったから・・・。
その後、2人で都内を歩いた。
今日しか着ることができない服を買いに、店をまわった・・・
「どう?似合うかな・・・」
照れている彼女を見て、俺は言ったんだ・・・
「すごく、きれいだよ・・・。」
二人で一緒に食事をとった・・・
「おいしいね、こんなのいつも食べてるの?」
本当にうれしそうに微笑んでいた・・・
「今日は奮発してんだぞ。いつもカップラーメンさ・・・。」
「えへへ、分かってるよ。ありがとね。」
その後、ゲームセンターで俺のバカを見て笑ってくれた・・・
アンティークショップなんかも見てまわった・・・
こんなに楽しいのに・・・なんで・・・こんなに悲しいのか・・・
こんなに笑顔なのに・・・なんで・・・こんなに辛いのか・・・
楽しい時ほど・・・過ぎ去るのはやっぱりはやくて・・・
太陽が赤みを増す頃、俺たちは再び塔の上・・・
「今日はありがとね。ヨコシマ・・・」
夕日を見つめている
「なあ、ルシオラ・・・」
「ん?何?」
俺をのぞき込むその笑顔・・・
「あれから数年経ったけど俺は・・・俺はお前が命をかけて守ってくれたほどの価値のある男になれたのかな・・・」
不意にそんなことを聞いてしまう・・・
「時々、思うんだよ。俺はそんなに価値のある人間なのかって・・・」
(やばい・・・泣きそうだ・・・)
「そんなこと言わないで・・・」
彼女の真剣な瞳にみつめられる・・・
「価値なんて関係ないよ・・・わたしは・・・ヨコシマのことが好きだったんだから・・・。また,そうやって思いつめちゃって・・・やっぱり優しすぎるよ・・・」
その瞬間、俺の中で・・・何かが音をたてて崩れた・・・
「でも・・・俺はルシオラを守りたかった!!」
俺は床に全力で拳を突きつける・・・
滴る鮮血・・・
「俺は、もっとお前を愛してやりたかったんだよ!!」
涙はもう、止まる術をなくしていた・・・
「泣かないで・・・私はヨコシマにいっぱい貰ったよ・・・幸せになれたよ・・・」
彼女は俺を包み慰めてくれた・・・
「私が消えても・・・ヨコシマはまた、いつもみたいにバカやって・・・優しく生きてね・・・」
日が半分地面に消えていた・・・
涙が止まりやっと平常心を取り戻した俺・・・
「・・・・・・。」
「だって・・・それが私が好きになったヨコシマだもの・・・」
「・・・・・ルシオラ。」
「ん?」
俺には分かっていたんだ・・・
「今回は・・・我慢しなくていいんだぞ・・・」
あの時見せた悲しみを秘めた最期の笑顔・・・
「ヨコシマ・・・」
うつむいていた彼女・・・
「やっぱり・・・隠せないんだね・・・」
俺の方を見た表情は、先程の聖母のような大人ではなく・・・儚い少女のようだった・・・
「はなれたくないよ・・・ヨコシマの側にずっといたいよ!」
俺にしがみつく彼女・・・
「今日みたいに一緒に楽しく生きて、笑って、泣いて、怒って、愛し合って・・・なんで・・・なんでそれがわたしには許されないの・・・」
その後は声にもならなかった・・・
「ルシオラ・・・」
俺はルシオラを強く抱きしめていたんだとおもう・・・
日は地にその大部分を預けていた・・・
「じゃあ、また逢おうね・・・」
これ以上ない笑顔のルシオラ。
「ああ、やっぱり最期は笑顔で・・・だよな?」
「うん」
「絶対に会おうな!!」
強く強く抱きしめる・・・
「うん」
二人の陰がそっと、1つに重なる・・・
同時にルシオラの体が透き通り始める・・・
「・・・!!」
俺は声を上げようとした・・・
でも、彼女は首を横に振った・・・
彼女の声が心に響く・・・
(このままでいさせて・・・今度くらいはヨコシマの腕の中で眠らせて・・・)
「消えていくわね・・・」
事務所の窓から外を眺める美神・・・。
霊魂たちが、天に昇っていく・・・。
翌日・・・
「ちぃぃーーーーっす!おはようございまーーーす!」
「横島さん、おはようございます。」
「せんせぇ、散歩にいくでござるよ〜」
「うるさい!バカ犬、朝はしずかにしなさいよっ」
「横島君、今日は昨日休んだ分きっちり働いて貰うからね!!」
「そんな、せっしょうな・・・」
いつもと変わらぬ風景が動き出す・・・
会いたい、伝えたいって気持ちがあれば・・・
いつかきっと・・・会える・・・・
人々は蘇る・・・
自分が生前愛した者の心から
悲しみや、戸惑いを取り除くために・・・