『 わたすは早苗 』

著者:まきしゃ


    某日夕方 東京駅の新幹線ホーム…
キヌ 「おねえちゃ〜ん、こっち、こっち〜〜!」
早苗 「あっ、おキヌちゃんっ! 今、そっち行くだぁ〜」
   
キヌ 「おねえちゃん、元気そうで良かったぁ〜。」
早苗 「おキヌちゃんの方こそ。 でも、東京さ、すごいとこだなぁ〜
  駅のホームが、こったら長いだなんて、田舎じゃ考えられねぇだよ。
  おキヌちゃんが居なかったら、わたす、迷子になってたべ。」
   
キヌ 「慣れちゃうと、なんてことないんだけどねっ。
  じゃあ、事務所に行きましょっ。 美神さんたちが、おねえちゃんを歓迎して
  いろいろ料理を作って待っててくれてるのっ!」
早苗 「へ〜、そうだべか〜。 楽しみだべな。」
   
   
  美神事務所のキッチン
令子 「こらっ、シロっ! つまみ食いするんじゃないのっ! みっともないっ!」
シロ 「うっ! ちょ、ちょっと味見をしてみたんでござる…」
タマモ 「私は、油揚げが有れば、他はなんでもいいんだけどな…」
   
横島 「美神さん〜、まだっスかぁ〜? 俺、腹がへっちゃって〜」
令子 「あんたね〜、文句があんなら、帰ってラーメンでも食ってればっ!?
  そ〜いえば、あんた、早苗ちゃんに嫌われてたっけね〜
  あんたも、早苗ちゃん、嫌いだったんじゃないの〜〜?」
   
横島 「あっ、いえっ、俺、なんの文句もありませんっ!
  美神さんの美味しい手作り料理が、とっても食べたいっス!
  あっ、これ、もう出来てますよねっ!? 横島、テーブルまで運びますっ!」
  やぶへびにならないうちに、キッチンから逃げ出す横島…
   
   
  やがて、氷室姉妹のご到着…
キヌ 「ただいま〜」
早苗 「おじゃましますだ〜〜」
令子 「いらっしゃい〜、待ってたわよ〜〜」
   
早苗 「美神さん、お久しぶりです。 ちょっくら、お世話になりますだ。」
令子 「こちらこそ、よろしくねっ!」
   
キヌ 「おねえちゃん、こっちがシロちゃんとタマモちゃんよっ!」
シロ 「拙者、シロでござる。」
タマモ 「私、タマモ。」
早苗 「わたすは早苗。 あんたらだかぁ〜 おキヌちゃんから聞いてるだよっ。
  かわいい女の子の妖怪だってなっ! ほんと、かわいいだなぁ〜」
   
キヌ 「横島さんは、知ってますよねっ?」
  ジロッと、横島を一瞥する早苗…
横島 「や、やあ…」
早苗 「あんた…、来とったんか…」
横島 (嫌いだぁ〜っ! この女、やっぱり嫌いだぁ〜〜〜っ!) (ピキピキ)
キヌ 「あああ……」
   
   
  なにはともあれ、歓迎夕食会…
令子 「早苗ちゃん、上京の目的って、講習会に参加するためって聞いてるけど、それってどんなの?」
早苗 「神主組合の講習会なんだあ。 なんでも、初級、中級、上級コースがあって、
  わたすは、初級コースを受講しに来ただあ。」
   
令子 「ふ〜ん、どんな内容なの?」
早苗 「えっとだな、初級コースは、古文書の読み方とか、宝物の扱い方とか、
  神社での物の取り扱いの基礎を勉強するんだあ。」
   
令子 「へ〜、もう、神社の跡を継ぐ決意は出来てるみたいねっ!
  ご両親も、早苗ちゃんの気が変わらないうちにってことで、上京を認めたってことかぁ。」
キヌ 「山田先輩も、地元に就職することにしたんですものねっ、おね〜ちゃんっ!」
早苗 「あっ、あっ、それって、父っちゃ、母っちゃにゃ、内緒にしててくんろ〜っ!?」
  かぁ〜〜〜 顔真っ赤…
   
令子 「そ〜ゆ〜ことかぁ〜〜 まあ、私からバラすことはないから、安心してていいわよ。
  それより、神社の方は、これからどうするって?」
早苗 「それなんだべ…。 ほら、うちって元々、死津喪比女を封じるために作られた神社だべ?
  その死津喪比女を退治しちゃったもんだから、存在価値が無くなっちゃっただよ。
  でも、まあ、地元の人にとっては、死津喪比女のことを知ってる人自体が、
  あの事件が起こるまで少なかったで、神社があればそれでいいと思ってるみたいだ。」
   
令子 「じゃあ、地元の神さまってことにするのね?」
早苗 「父っちゃは、そうしたいと思ってるだが、村長さんや、人骨温泉ホテルの人やらは、
  おキヌちゃんをご神体にしたいと言ってるだあよ。」
キヌ 「えっ? 私をっ!?」
   
早苗 「うん…、母っちゃが、うっかりおキヌちゃんのことを村の人に話しちゃったでな…
  そしたら、ホテルの人が、こんなパンフレットを作っちゃってだな…」
  ゴソゴソ… カバンからパンフレットを取り出す早苗
令子 「どれどれ?」
   
パンフ 「身を呈して村をを救った美少女! キヌ姫伝説 発祥の地!」
   
キヌ 「えっ? 私がお姫様っ!?」
横島 「もう、伝説になってる……」
早苗 「伝説はともかく、内容がいい加減でだな…」
   
パンフ 「今から300年前、死津喪比女という妖怪がオロチ村の山々で暴れまわっていました。
  困った領主様は、村人から人身御供を出して、妖怪を鎮めようとしました。
  その話を聞いた領主様の一人娘、キヌ姫は、自らの命を捧げようと志願したのです。
  領主様は嘆き悲しんだのですが、キヌ姫の決意は変わらず、深い渕に我が身を投げました。
  そのことにより、妖怪の狼藉は収まり、村は平和になったのでした…。」
   
令子 「まあ、おキヌちゃんの行動自体は、間違った記述じゃないけどね〜」
キヌ 「あああ…、女華姫さまが可哀想…」
   
パンフ 「ところがっ! 平成の世になった現代、一人の欲深い女霊能者がやってきて、
  金に目がくらんだのかキヌ姫の作った結界を破ってしまったのですっ!」
   
令子 「んっ!?」 (ピキピキ)
横島 「まあ、間違った記述じゃないっスけどね〜 ぶっ!?」
   
パンフ 「やがて、妖怪は力を取り戻し、あちこちで地震を起こし始めました。
  そんな村の危機を地中で感じ取ったキヌ姫は、地脈の中から生き返ったのですっ!
  そうしてキヌ姫は、氷室神社の巫女と協力して妖怪をやっつけたのでした。
  めでたし、めでたし。」
   
令子 「な、なによっ! やっつけたのは、私よっ!?」
横島 「正確に言えば、俺の撃った弾丸と、俺の霊波刀でやっつけた… ぶっ!?」
   
パンフ 「なお、生き返ったキヌ姫は、欲深い女霊能者が再び金に目がくらんで悪さをしないよう、
  現在も近くで見張っているそうです。」
   
シロ 「まあ、間違った記述じゃないでござるが…」
タマモ 「金に目がくらんで悪さを繰り返してるから、見張りがうまくいってるとは言えないわね…」
   
  ビリビリビリ〜〜ッ! パンフレットを破り捨てた令子っ!
令子 「あのホテルの連中めぇ〜〜! 支払いが遅れてたんで催促しただけなのに、
  それを逆恨みして、こんなのを作ったのねっ!? キィ〜〜〜〜〜!
横島 「えっ? 支払いって?」
   
令子 「まだ、あの当時は独立して間も無かったから、5年の分割払いで契約したのよっ!
  その支払いの、今年のぶんよっ!」
横島 「でも、あのホテル、妖怪のせいで全壊したんじゃ…」
令子 「あら、そんなの私に関係ないわっ。 契約は守ってもらわないとっ!」
横島 「お…鬼だ。」
   
   
キヌ 「おねえちゃん…、ご神体は、どうなりそうなの?」
早苗 「おキヌちゃん、そんなに心配するこたあねぇだ。 父っちゃが、おめさご神体にするわけねぇだろ?」
キヌ 「ああ、よかった。」
早苗 「ま、伝説になるんは、しかたねだろけどな。
  それに山の神様が、自分を奉って欲しいってうるさいしな。」
横島 「あの、ワンゲル野郎か…」
令子 「あいつがご神体? ずいぶん、むさくるしい神社になりそうね…」
横島 「でも、その原因を作ったのは、欲深い女霊能者… ぶっ!?」
   
   
  夕食も終わり、令子と横島が帰宅したあとの事務所…
キヌ 「おねえちゃん、お風呂に入ります?」
早苗 「ん〜、ちょっと、まってくんろ。 父っちゃ、母っちゃに電話しないと…」
キヌ 「あと、山田先輩にもでしょっ? わかってるんだから〜」
早苗 「えへへへ…」
   
キヌ 「それじゃあ、シロちゃん、タマモちゃん、先に入ってくれる?」
シロ・タマ 「は〜い」
   
  そのころ、事務所の外壁にぶら下がっている横島…
横島 「ちっ、シロとタマモが先かぁ…。 あんな、ガキ二匹の裸を見てもなぁ…
  それより今日は、あの女の裸を見なければっ!
  温泉のときは、周りが暗くていまいちよく見れんかったからなぁ…
  おっぱい要員は、おとなしく俺に見られるべきなんだっ! うひひひ…」
  なにやら適当な理由をつけて、早苗の裸を見ようと企んでいる横島
  盗聴器を耳につけ、事務所内部の様子を伺っている…
   
  バスルーム…
シロ 「後ろがつかえてるから、のんびりできないでござるな…
  ん? タマモ? なんで、ちっこい身体に変化してるんでござるか?」
タマモ 「だって、この方が、洗う面積が小さいから、楽でしょ?」
シロ 「………、この、グータラ狐がっ。」
   
  ゴシゴシゴシ… 身体を洗い終えてシャワーを浴びようとしているタマモ
  ぽんっ! 今度は、大人の身体に変化…
シロ 「今度は、なんでござるか?」
タマモ 「ちっちゃいと、シャワーを浴びにくいでしょ?」
シロ 「まあ、そうでござるが… それにしても、その身体はないでござろう?」
タマモ 「ん? なにが?」
シロ 「美神さんばりの、おっぱいにしなくても…」
タマモ 「ああ、これ? 別にそうしようと思って化けたんじゃないんだけど…
  ただ、大人になったときの自分に、って念じて化けたらこうなっただけよ。」
シロ 「な、なに〜? 大人になったら、そうなるんでござるかぁ〜?」
タマモ 「ふふん、くやしい?」
シロ 「くっ、くやしくなんか、ないでござるよっ! せ、拙者だって、きっとっ!」
   
横島 「な、なに〜〜? 大人で巨乳のタマモぉ〜っ? これは、見なければっ!」
  慌ててバスルームを覗く横島っ!
   
タマモ 「じゃあ、私、先にあがるね〜」 ぽんっ!
シロ 「わっ、バカっ! やめるでござるよっ!」
   
  ぷるぷるぷるんっ!
  横島が見たものは…、シロの背中と身震いして水気を飛ばしている狐姿のタマモ…
横島 「…………」
   
   
シロ 「おキヌちゃ〜ん、二人ともお風呂あがったでござるよ〜」
キヌ 「は〜い。 じゃあ、おねえちゃん、一緒に入ろっ。」
早苗 「うん、そうするだよっ。」
   
横島 「うっ…、おキヌちゃんも一緒にっ? ま、まずい…、見るわけにはイカン…」
  残念だけど、風呂を覗くのはあきらめた横島
  でも、せっかくだから、二人の風呂での会話を盗聴することに… (オイオイ…)
   
   
早苗 「おっ? 少し、胸、おっきくなっただか?」
キヌ 「えへへ、わかる〜?」
早苗 「そっだな。 やっぱ、むかすと食生活が全然違うから、成長するんだべ?」
キヌ 「そうかも。 昔はお肉なんて、食べたことなかったから。」
   
早苗 「それにすても、しっかりした骨格してるだなあ。 わたすも骨太とかいわれてるけど
  おキヌちゃんと比べると、ひ弱な身体って感じするだよ。
  むかすの人は、やっぱ違うなあ。」
キヌ 「う〜ん、そういわれると、なんかゴツゴツした感じで、ちょっとイヤかも…」
   
早苗 「なに言ってんだあ〜。 骨格がいいと、お尻の肉付きもよくなるだあよ。
  美神さんみたいな、ナイスバデエになれるってこっただ。」
キヌ 「そうなれれば、いいんだけど。」
   
横島 (ううう…、覗きたい…)
  外壁にへばりつきながら、覗くのを我慢している横島…
   
キヌ 「ところで、おねえちゃん…、まだ横島さんのこと、好きになれないの…?」
早苗 「んだなぁ〜…。 おキヌちゃんから、いろいろ聞いたおかげで、以前ほどは
  嫌いではなくなったんだけんどなぁ〜。 やっぱ、第一印象が悪すぎただよ。」
   
キヌ 「たしか、横島さんとは、私の身体が保管されていた祠で出会ったんだっけ?」
早苗 「んだ。 最初は、祠を荒らす盗人かと思っただ。 でも、おキヌちゃんの身体を見て
  人殺し野郎かと勘違いしちまって、もんのすごく怖かっただよ。
  んで、わたすがパニクってたら、あんの野郎〜、いきなりキスしようとしやがってな…」
キヌ 「そ、そうだったんだ…」
   
早苗 「そのあとも、抱きつこうとするし、あんなスケベな男、すかん。」
キヌ 「ま、まあ、スケベなのは間違いないけど…
  で、でも、それ以外は、とってもやさしい人だし…」
早苗 「ん〜、おキヌちゃんの場合は、幽霊のときから一緒にいたせいで、あいつのことを
  なんでも良いほうに解釈し過ぎてるかもしれんしな〜」
キヌ 「うっ…、そ、そ、そんなこと、ないかも……」
   
早苗 「だって、美神さんも、あいつのセクハラで苦労してるんだべ?
  しょっちゅう、胸さわられたり、風呂覗かれたりしてるっていうし…
  んっ!? 覗かれてるのって、この風呂のことだべかっ!?」
   
横島 (や、やばいっ! 気付かれる前に、逃げねばっ!)
  外壁をつたって三階の窓から事務所内に逃げ込む横島…
   
キヌ 「だ、大丈夫だってば、おねえちゃんっ。
  横島さんは、私が入ってるときに覗いたことなんかないんだからっ。」
早苗 「ほんとけ? おキヌちゃん、気付いてないだけでねえだか?」
キヌ 「そ、そんなこと…、ない…、と思うんだけど… あああ…(汗)」
早苗 「ま、あいつももう帰ったわけだし、心配してねえだけどなっ。」
キヌ 「そ、そうよねっ! (横島さんに、そんな理屈は通らないけど…)
   
  そっと事務所から帰ろうとしている横島…
シロ 「先生、何やってるんでござるかっ?」
横島 「うっ!? シ、シロかっ! い、いや、ちょっと忘れ物を取りに…」
シロ 「ふ〜ん、そうでござるか…」
   
横島 「じゃあ、俺、帰るから…」
シロ 「せんせっ! 外にぶらさがってるロープは、拙者が片付けておくでござるよっ!
  だから、今度の散歩のときに、お肉をご馳走して欲しいでござるっ!」 ひゃんひゃん!
横島 「うっ…、なんのことかな…?」
シロ 「じゃあ、みんなにロープのことを話してもいいんでござるか?」
横島 「うっ…、わ、わかった。 誰にも言うなよ?」
シロ 「わかってるでござるよっ!」
   
   
  翌日の夕方 講習会を終えて事務所に戻ってきた早苗
令子 「お疲れ様。 私たちはこれから仕事だけど、早苗ちゃんはどうする?
  きつかったら、部屋で休んでてもいいけど。」
早苗 「そんなに疲れてないだから、わたすも一緒に行きたいだよ。
  一流の仕事を見る機会なんて、田舎におったら無理だかんな。」
   
令子 「そう。 さすがに若いわねっ! じゃあ、おキヌちゃん、早苗ちゃんと一緒に行動して
  危なくなったら守ってあげてね。」
キヌ 「ええ。 でも、おねえちゃんは、霊能力なら私より上なんですけど…」
令子 「悪霊よりタチの悪い奴からも、守らないとねっ。」
キヌ 「えっ? あっ…」
横島 「うっ……」
   
   
  今日の仕事場は、私立赤坂医科大学…
横島 「ええっ!?」
早苗 「なんだべっ!?」
   
  大学構内のあまりにもゴージャスな設備に怒り出した二人…
横島 「なぜだ〜〜っ!? たかが大学の学生用ロビーなのに、むちゃくちゃ高級な椅子やテーブルだとぉ〜?
  くっそ〜〜っ! こんなとこで、合コンの打ち合わせなんぞしたら、そのへんの女子大生なんざ、
  あっさりOKするに決まってるんだぁ〜〜〜っ!!!」
早苗 「大学って、勉強するために来るとこだべ〜〜っ!?
  こったら綺麗な設備なんぞ、勉強するのに関係ないべっ!
  親の大切な金さもらっといて、こったらとこに金つかうなんて、間違ってるだぁ〜!!」
   
キヌ 「横島さんとおねえちゃん、なんか気が合ってるみたいで、よかった…」
タマモ 「そ、そお…?」
   
令子 「あんたら、うるさいわよっ! ま〜、たしかに、この大学は金持ちのアホボンが高い金払って
  入学するようなとこだし、備品とかもいいもん使ってるわ。
  でも、あんたらだって、なにげに事務所の椅子とかに座ってるけど、あれだって高いのよっ?
  1つ数百万はする値打ち物なんだからっ!」
   
早苗 「へえ〜〜っ! すげえんだなぁ!」
キヌ 「私も知らなかったですっ!」
横島 「そおなのかぁ。 美神さん、よく買いましたね、そんなに高いやつ。」
   
令子 「あら、誰が買ったなんて言った? 渋鯖邸を買ったときについてたじゃないの。
  幽霊屋敷だったから、家自体、安く買えたしね〜。 家具なんか、タダみたいなもんだったわっ。」
横島 「そんなこったろうと思った…」
   
令子 「さっ、除霊を始めるわよっ! 各自、持ち場に散った、散ったっ!」
横島 「まだ、なんも聞いてないんスけど…」
キヌ 「あの、美神さん… 仕事の話、たぶん、私にしかしてないと思うんですけど…」
令子 「えっ? そ、そうだっけ? じゃあ、おキヌちゃん、みんなに説明してあげてっ!」
キヌ 「はい。」
横島 「めんどうなことは、すぐ人に押し付けるんだから… ぶっ!?」
   
  仕事内容の説明を始めるおキヌちゃん
キヌ 「実は、構内に張ってあった結界が破れちゃって、いろんな霊が出てきちゃったんです。」
横島 「結界が張ってあったの?」
令子 「いろいろ死体を扱うからね。 霊が自分の身体に引かれてやってくるのよ。」
横島 「結界が破れたのは、なんで?」
令子 「アホな学生が、知らずに破っちゃったらしいわね。」
   
キヌ 「霊が出てくる場所がいくつかあるので、別れて仕事をします。
  シロちゃんとタマモちゃんは、実験棟をお願いね。」
タマモ 「いいけど、どうすればいいの?」
令子 「実験用の小動物の霊が、うようよ出てるのよ。 モルモットとかウサギとかね。
  弱っちいけど逃げ足が速いから、あんたら二人にはうってつけよ。」
シロ 「拙者、強い悪霊でもいいんでござるが…」
   
キヌ 「私とおねえちゃんは手術室、美神さんは結界を張るためにフリー
  横島さんは…、解剖用の地下死体置き場…」
横島 「やな仕事は、露骨に俺の担当になるんっスね…」
令子 「あったりまえじゃない。 そのために、あんた雇ってるんだから。」
横島 「へ〜い…」
   
  それぞれの持ち場に散っていったGSたち
  実験棟では、はやくも除霊が始まったらしい。
シロ 「あいつらでござるなっ!? 早速除霊するでござるよっ! ワンワンワ〜ンッ!」
タマモ 「あんた、いきなり追いかけたら、霊が危険を察知してあちこちに逃げちゃうじゃないっ!
  少しは頭を使いなさいよっ!」
   
  でも、シロは聞いちゃいない…
  狩の本能を刺激されて、ひたすら霊を追いまわしている…
タマモ 「この、バカ犬が…」
  しかたないので、隠れている霊を見つけては除霊するタマモ
  このチーム、本人たちの意識はともかく、チームワークはいいみたい…
   
  手術室についた氷室姉妹。 何体かの霊が浮遊しているが、あまり悪意はなさそうだ…。
キヌ 「おねえちゃん、それじゃあ除霊を始めましょう。」
早苗 「やっぱり、吸印札を使うだか?」
キヌ 「ううん、この人たちは、たまたま結界が破れて、成仏しそこねた霊たちなの。
  だから私たちが、お払いをして成仏させてあげればいいと思うわ。」
早苗 「なんだぁ〜、やってることは、父っちゃとかわんねえだなぁ〜。
  もっと、こう、おっかない相手と格闘するんだとばっか、思ってただよ。」
キヌ 「それは、たぶん横島さんが…」
   
   
  地下の死体置き場… 当然ながら、冷蔵庫なみの低温…
横島 「うぅ、寒い…。 このロッカーの引き出しみたいなところに、死体が入ってるのか…
  うう、気味が悪い… 仕事でなけりゃ、絶対こんなとこ来ないのに…
  霊がいるのはわかるけど、さっさと出てきてくれないかな〜」
   
  ガゴーンッ! バタバタバタッ お待ちかね(?)悪霊登場…
  死体の入っている引き出しが、次々と勝手に開いてくる…
横島 「あああ……、お約束の展開っ!?」
  一人で大騒ぎしながらも、霊波刀でなんとか退治していく横島
   
横島 「うぅ…、あらかた退治したかな〜? こんな不気味なとこ、いつまでもいたくないよ〜」
  ガコーンッ! 再び悪霊登場。
横島 「あああ……、今度は美少女の悪霊っ? これも、お約束の展開〜っ!」
   
   
  持ち場の除霊を終えた氷室姉妹…
早苗 「おキヌちゃん、一応これで仕事は終わりだべ?」
キヌ 「ええ。 でも、横島さん、一人でやってるからお手伝いしにいきましょう。」
早苗 「えっ? 死体置き場へ行くだか?」
キヌ 「おねえちゃん、一流の仕事を見たいんじゃなかったの?」
早苗 「うっ…。 そ、そうだけんど…」
  しぶしぶおキヌちゃんについていく早苗。 まあ、普通の人なら行きたくない場所ではある…
   
  死体置き場に来てみると…
キヌ 「横島さんっ!? 何やってんですかっ!?」
早苗 「ああっ! 危ないだっ! 早く除霊しないと、殺されちゃうだよっ!?」
  美少女の悪霊に抱きつかれて、にやけている横島…
   
キヌ 「おねえちゃん、大丈夫。 あの程度の霊に、やられる横島さんじゃないですから。」
早苗 「そ、そうけっ?」
   
  おたおたする早苗をしり目に、横島を叱りつけるおキヌ
キヌ 「横島さんっ! いい加減にしてくださいっ! おねえちゃんの前で恥ずかしいじゃないですかっ!
  いつまで抱き付かれているつもりなんですかっ!?」
横島 「あ…、いや、その…。 わかっているんだけど、なんか身体が…」
キヌ 「もう、横島さんっ!!」
横島 「うん、文珠〜っ!」
  キ〜ン パシュッ! あっさり悪霊を退治した横島
   
キヌ 「なんで、いつもそうなんですかっ!? ああ、恥ずかしいっ!」
  いつもより怒りのおさまりが悪いおキヌちゃん
  早苗に横島の凄いところを見てもらい、横島のことを認めてもらいたかったらしい。
  それが、こんな横島だったもんだから…
   
早苗 (それにすても… ここには結構たくさん悪霊がいたみたいだな…)
   
  除霊を終えて車で事務所に帰るGSチーム… 定員オーバーのため横島はトランクの中…
令子 「早苗ちゃん、今夜の仕事はどうだった?」
早苗 「わたすの持ち場は楽だったけんど、横島のとこは大変だったみたいだぁ。」
令子 「へえ、そうだったの? おキヌちゃん?」
キヌ 「いえ…、その…、別の意味で… その、女の人の悪霊が…」
令子 「またかっ! ほんとに、進歩のない奴なんだからっ!」
   
早苗 「そいつ…、結構、強そうな悪霊かと思ったんだけどな…」
令子 「ん〜、今日のだと、中の下ぐらいかな? 早苗ちゃん、まだ除霊に慣れてないから
  強そうに感じただけかと思うけど。」
早苗 「そんなもんだべかなぁ…」
キヌ 「うちは、Aクラスの仕事しか引き受けないから、その中での中の下なんだけどねっ。」
早苗 「ああ…、なんか桁の違う話をしてるだよ…」
   
   
  翌日 帰郷する早苗の見送りに、新幹線ホームに集まった事務所のメンバー
早苗 「美神さん、みんな、お世話になりましただ。
  また、上京すたときには、遊びにいくからよろしくなっ。」
令子 「自分ちだと思って、いつでもおいで。 ご両親にも、よろしくねっ。」
キヌ 「じゃあ、おねえちゃん、今度は私が遊びに行くからっ。」
早苗 「んだな。 待ってるからな。」
   
  ピンポロロ〜〜ン 新幹線のドアが締まり、動き出す列車…
キヌ 「ああ、おねえちゃん、横島さんに何も声をかけてくれなかったなぁ…」
令子 「しかたないわよ。 横島クンの自業自得だからねぇ。」
横島 「う〜ん…」
   
早苗 『よこスまさん、聞こえるだか?』
横島 「えっ?」
キヌ 「あっ、おねえちゃんの念波っ?」
令子 「へ〜、あの子、念波をコントロール出来るようになってたのか。 やるわね〜。
  ほら、横島クン、あんたも聞こえてるんでしょ? 返事してやんなさいよっ。」
   
横島 「えっ、あっ、はい。 早苗ちゃん、念波届いてますっ!」
早苗 『そっか、よかっただ。 今回、こっち来てみて、あんたが一流のGSだってことがわかっただよ。
  スケベなんは、あいかわらずみたいだんが、みんなの役には立ってるみたいだな。
  これからも、おキヌちゃんのこと、よろしく頼むだよっ!』
   
キヌ 「おねえちゃんっ!」
令子 「ふ〜ん。 直接、言うのは恥ずかしかったのねっ。 さすがは田舎娘っ!
  横島クン、あんたもなんか、お礼を言いなさいよっ!」
   
横島 「はいっ! 早苗ちゃん、ありがとう〜〜っ!
  今回は、おキヌちゃんと一緒だったから、覗けなかったけど、
  次、来たときは、必ずお風呂を覗いてあげるから〜〜〜っ!!   …はっ!?」
   
  俺って、世界一バカでスケベな男かもしれない…
  薄れゆく意識の中で、ぼんやりと考えている横島ではあった…
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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