「どいた。どいた。どいた」
「あ!!・・・・・ん〜」
男が後方からの声に振り向くと、確かにどいた方が身の為の光景があった。
キキキキキキキキキキキ
金色の頭を鶏冠のように立てた、今時珍しいスケ番風の女学生が全速力のスクーターでこちらに突っ込んできていたのだから。
どうやら今男の入ろうとしていた、六道女学院の豪華な正門に、さながら自爆特攻しようとしてでもいるらしい。
見ると精一杯握られたハンドルの両手は全力でレバーを握っていたが、全く速度を緩めていない所を見ればブレーキ故障らしい。どうやらこのままでは正門のぶつかるようで、すでに登校時間を過ぎて閉められている鉄の門柱にぶつかれば只では済まないであろう。
「飛び降りろ」
男が叫ぶ。
「え・・・・・・ああ、そうか」
頭が鶏冠の女性徒が思い出したように頷く。どうやら女性にありがちな事で、パニクリそれが事件の解決方策を忘れさせていたらしい。身は軽いらしく、ヒラリと車を捨てて飛びのく。派手な衝撃音と共にスクーターは正門にぶつかり大破した。
「あらまあ。相変わらずに派手だね〜」
男が呆れたように、受身を取って地面に転がっていた女学生に声と手を差し出す。
「あれ?」
振りかえった女学生は痛がる様子よりも、屈みこんでいる男の登場に驚いていた。
「あれ、あんた」
差し出された手を惚けて見る女性徒であった。
「ちょっと久しぶりだね。魔理ちゃん」
男はそういって、呆気に取られたままの魔理の手を掴んで立たせてやった。
「ん・・・・・・・・・」
ちょっと照れくさくて、少し嫌そうな顔で答える。
「あんたもね・・・・・」
そこで一端口を噤む。
悩んだ。
敬称をつけるかどうかで。
しかし、尊敬はしていないが一応は年上なのでつけてヤル事にした。
「あなたもね・・・・・・横島さん」
呼ばれた横島は、沈黙と少し照れの意味を理解したらしくて笑いながら言う。
「いいよ。呼び易いほうで」
「そうか・・・・・じゃあ、久しぶりだね。横島」
流石に男の子であるので詳しい横島が観て見ると、どうやらスクーターはブレーキワイヤーが古くなっていて馬鹿になっていたらしい。やはり女性らしくメカには弱いと平気で言うので、取り合えず年上として嗜める。聞いた所ではフロントが馬鹿になっていたが、リアが利くからと思っていて、そのリアワイヤーが逝った為の事故であったようだ。
これが原因で体や顔に傷が付いたらとガラにも無いが真剣に諭す。
「分かったよ。これから気をつける」
以外に素直に非を認めたので横島の方が面食らったが、面食らったのは魔理の方でもあった。
(あれ?なんで素直に謝ったんだろ)
いつもの自分なら、自分に非があっても多少は突っ張って見せるのに。不思議であったので今一度横島の顔をバツ悪そうに見てみる。
(?)
以前感じた落ち着きの無かった感は削がれているような、自分の偉そうな言動に照れてはいるが、間違った事は言っていない事を確信している笑顔があった。
(なんだあ・・・・・・まるで・・・・)
最後にあったクリスマスパーティの時からはまるで別人のようだ。以前感じた、頼りなくていい加減でオチャラ気は無くなっているのだ。不信がる魔理は暫くその表情に見とれた。
「ん」
横島が視線に振り向くと魔理が視線を外す。横島は自分が偉そうに諭した事で怒っているのだろうと思って、それで話はお終いにした。
「どうしたの、魔理ちゃん」
魔理が何か思案顔でいるので訝しがって、何やら真剣に悩んでいるようなので恐る恐る聞く。
「いやあ〜。何かこんな同じようなシュチュエーションが昔あったような気がするんだよな」
黄色い鶏冠頭をしきりに振りながら、必死に思い出そうとしていた。しかし髪型と同じく鳥頭なので、どうしても思い出せないらしい。「まあいいか。気の性だろう」と諦める。
「そう言えば、こんな・・・・・始めてなのに、見たことあるような気がするのは何て言ってたかな」
今度は過去の記憶では無くて、既視感の事を言っているらしい。
「なんて言ったっけなあ。見たこと無いのに、見たことあるような気がするのは・・・・・・」
必死に成って頭を捻る魔理。
「ここまで出てるんだ・・・・・・確か・・・・・・・で で でじゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!。そうだ!!デジャ・ブーだあ」
やっと思い返す事が出来たらしく、嬉しそうに声を張り上げる魔理。喜んで、思い出した事を横島にも告げようとしたが・・・・・・・・・・・。
「あ・・・・・・・・・・・・・・」
振り向いて横島の姿を見て、魔理の声と体は凍りついた。
そこにいた横島は・・・・・。
首から下が緑色の全身タイツ。それに虎縞のデカパン、頭にかぶった緑色のズラにはラムちゃんのような二本と角が生えて、手にはウクレレを持っていた・・・・・・。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ
ピタッ
[↑これは気を取りなおした魔理が横島から離れて行き、十分に間合いを取った音である]
ダダダダダダッダダダダダダダダダダダアッダアッダダダダダダアダッダダダダダダッダダダダダッダダダッダッダアッダダダダダダダダッダダダダ ダダダダ
[↑これは全速力で横島の所に戻ってきた音・・・・・・・・・そして]
「高木ブーじゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええ」
ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ヒュウウウウウウウウウウウウウウウ
[↑これは横島が魔理のスコルピオンクラッシュでブルーインパルスに成った音であった]
{二人ともに、それは作品とキャラが違うんじゃ無いかと思う筆者であった。やっぱりラムちゃんの名を出したからかな〜}
ちなみに大空を飛んでいた横島だが
「ピレパ○ア〜スは丸一年」とウクレレを弾いていた。
・・・・・ウクレレを持ってはいるが、それも違うと思うぞ。それにCMネタはスグ風化するぞ。
《↑{ほら 風化した}←風化したとき使ってください深沢さん(嘘)》
←ここまで構わず使ってください。究極超人Rのコミック版のギャグですから
「でもあんた何やってんの、こんな所でさ」
まるで何事も無かったように、放り出された鞄の埃を払っている横島を見ながら、魔理は結構なスピードで転んだのに自分が全く怪我も埃すら被っていない事に気がついた。体のあちこちを見渡していると別の事に気がついた。
「ん?」
自分が転がった地面を見る。一歩踏み出すと、そこがまるでゲル状にヌメリのある状態になっていることに気がついた。アスファルトであるのに、コールタール車両から流し込んだ時以上に柔らかい。しかし熱くは無いので舗装仕立てでも無い。
「はい。偉く薄いな。勉強してるのかな?まあ、俺も人の事言えないけどな〜」
横島が鞄を魔理に渡して、ゲル状になった道路の中から小さな珠を拾い上げる。それには”軟”と言う字が浮かんでいた。
「じゃあ、あたしが怪我をしなかったのは・・・・」
文殊の事は親友のオキヌに聞いていたので直ぐにそれの効果は理解できた魔理。
「うん?。ああ、二回目で慣れてたから助かったぜ」
「二回目?前にもこんな事があったのか?いつもこんな事やってるのか?」
魔理の呟きに横島は答えずに視線を外した。
「・・・・・」
勘の鋭い霊能者であるので感じた。それは聞いてはいけない種類のモノであることがだ。
「ああ、そうだ。忘れてた」
大袈裟に慌てて見せる。
「魔理ちゃん、オキヌちゃんと同じクラスだったよね?」
「あ・・うん」
「これ代わりに提出してくれないかな」
横島はB5版程度の茶封筒を魔理に手渡そうとした。
「何?これ」
「今日オキヌちゃん風邪ひいちゃって休むんだって。だから俺が宅配便さ」
そう言って嘆息する。業者を通じて届けて貰おうというオキヌであったのに、何故か朝から事務所に呼び出されて美神から自分で届けろと命令された。まあ、オキヌには日頃世話にはなっているので断る理由も無いから引き受けた。何故かバイト代は出してやると言われたのが、普段は優しい????美神の言動とは思えず不思議であった。
「おれま。また仕事で無理したんじゃ無いのか?」
どう考えてもまだ若輩の高校生にやらすにはキツイ職種。さらに業界に名だたるハード(面倒)な仕事ばかりであるのは周知なのだ。時折学校で死んでいるオキヌを見ていたので、尊敬する美神には言えないので横島に替わって文句を言う。
「あはははははははははあははははっははあははははっは」
思いきり慌てる笑顔であった。思わず心中「鋭い!!」と叫んだ。実は昨日の仕事で長い時間雨の降りしきる屋外にいたので事務所の女連中は揃いも揃って風邪を引いていたのだ。
彼も同じく居たのだが、何とかは風邪をひかなくて好いわね〜、と、美神とタマモに皮肉を言われたぐらいであった。
しかし不思議な話であったと今思い返しても思う。
今朝と打って変わって仕事で出掛けた昨夜はバケツをヒックリ返したような豪雨であった。普段なら間違い無くなんかの理由を付けて断る空模様であったのに、報酬はそれ程でも無いのに喜び勇んで雨の降りしきる野外に出掛けた。
おまけに雨がバシャバシャなのに傘も、合羽も除霊の邪魔だと身につけなかった。
仕事熱心だと感激するオキヌとシロであったが、何故か釈然としない横島であった。曰く「そんな女じゃない」と心は告げていたからだ。
冷たい雨中に帰って来た時に女達全員は大きなクシャミに寒気を訴えた。しかし震えて寒気のすると訴える元気の無い三人とは対称的に、美神は何故か?クシャミをしながら、ガッツポーズを取っていたのが気に掛かるった。
病気では今日からの仕事に差し支えが出ると嘆くオキヌに、何故か嬉しそうに困った困ったと、笑いを堪えない美神であった。
「ふ〜ん。まあ、あんな土砂降りの中で一日中居れば風邪も引くだろうな。分かった。で、中身は何?レポートのようだけど」
封かん紐を解くわけにもいかないので聞く。横島はちょっと考え、手探りで思い出した。
「え〜っと、確か”陰陽道の起源と発展”とかだったかな?・・・・違ったっけ」
流石に霊能学科だけに、それっぽいレポートであったので思い出した。横島には何が何やらわからない種類のモノであったが、魔理にはよく分かったらしい。とても痛いほど良く・・・・・・・。
「げっ!!」
横島と違い、演技は欠片も無く慌てて見せる。
「ん?」
その様子に横島が驚いていると、その手から茶封筒を引っ手繰る。
「わ わ 分かった。ちゃ ちゃんと提出しておくから安心して寝てろって言っておいてくれよ」
その顔は思いっきり慌てていた。その慌て振りには自身覚えがあるので 同志!!を慰める。
「提出の授業は(何時)?」
「午後一・・・・」
「そう・・・・じゃあ頑張って。結構厚いようだからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」
次の中休みに購買部に行ってレポート用紙を買いこむ算段を始める魔理であった。
「じゃあ頑張ってくださいね、魔理ちゃん」
「・・・・・ああ」
片手を上げて別れを告げる横島に答える魔理の笑顔は・・・・・・暗い。重みに感じるレポートの束は、多分全ての午前の授業をフケテた時間と中休みと昼休みを費やしてやっとであろう。
実は昨日は夜更かししてて、授業中に寝れないのは辛いし、お昼ご飯が食べられない・・・のは一層辛い魔理であったのだ。しかしやらずにはいられないであろうと決める。もし提出しなければ今度の進級を掛けた補習にと試験が宣言されていたのだ。これが結構厳しいので、結構留年も多い。
だからやらぬワケにはいかなかった。これが元でまた学校に嫌気が差して、こなくなったりして、まだダチと言える奴はオキヌとかおり?ぐらいだが、それを無くしたく無かった。
それにオキヌの期待を裏切りたくは無かったの