「どいた。どいた。どいた」
「あ!!・・・・・ん〜」
男が後方からの声に振り向くと、確かにどいた方が身の為の光景があった。
キキキキキキキキキキキ
金色の頭を鶏冠のように立てた、今時珍しいスケ番風の女学生が全速力のスクーターでこちらに突っ込んできていたのだから。
どうやら今男の入ろうとしていた、六道女学院の豪華な正門に、さながら自爆特攻しようとしてでもいるらしい。
見ると精一杯握られたハンドルの両手は全力でレバーを握っていたが、全く速度を緩めていない所を見ればブレーキ故障らしい。どうやらこのままでは正門のぶつかるようで、すでに登校時間を過ぎて閉められている鉄の門柱にぶつかれば只では済まないであろう。
「飛び降りろ」
男が叫ぶ。
「え・・・・・・ああ、そうか」
頭が鶏冠の女性徒が思い出したように頷く。どうやら女性にありがちな事で、パニクリそれが事件の解決方策を忘れさせていたらしい。身は軽いらしく、ヒラリと車を捨てて飛びのく。派手な衝撃音と共にスクーターは正門にぶつかり大破した。
「あらまあ。相変わらずに派手だね〜」
男が呆れたように、受身を取って地面に転がっていた女学生に声と手を差し出す。
「あれ?」
振りかえった女学生は痛がる様子よりも、屈みこんでいる男の登場に驚いていた。
「あれ、あんた」
差し出された手を惚けて見る女性徒であった。
「ちょっと久しぶりだね。魔理ちゃん」
男はそういって、呆気に取られたままの魔理の手を掴んで立たせてやった。
「ん・・・・・・・・・」
ちょっと照れくさくて、少し嫌そうな顔で答える。
「あんたもね・・・・・」
そこで一端口を噤む。
悩んだ。
敬称をつけるかどうかで。
しかし、尊敬はしていないが一応は年上なのでつけてヤル事にした。
「あなたもね・・・・・・横島さん」
呼ばれた横島は、沈黙と少し照れの意味を理解したらしくて笑いながら言う。
「いいよ。呼び易いほうで」
「そうか・・・・・じゃあ、久しぶりだね。横島」
流石に男の子であるので詳しい横島が観て見ると、どうやらスクーターはブレーキワイヤーが古くなっていて馬鹿になっていたらしい。やはり女性らしくメカには弱いと平気で言うので、取り合えず年上として嗜める。聞いた所ではフロントが馬鹿になっていたが、リアが利くからと思っていて、そのリアワイヤーが逝った為の事故であったようだ。
これが原因で体や顔に傷が付いたらとガラにも無いが真剣に諭す。
「分かったよ。これから気をつける」
以外に素直に非を認めたので横島の方が面食らったが、面食らったのは魔理の方でもあった。
(あれ?なんで素直に謝ったんだろ)
いつもの自分なら、自分に非があっても多少は突っ張って見せるのに。不思議であったので今一度横島の顔をバツ悪そうに見てみる。
(?)
以前感じた落ち着きの無かった感は削がれているような、自分の偉そうな言動に照れてはいるが、間違った事は言っていない事を確信している笑顔があった。
(なんだあ・・・・・・まるで・・・・)
最後にあったクリスマスパーティの時からはまるで別人のようだ。以前感じた、頼りなくていい加減でオチャラ気は無くなっているのだ。不信がる魔理は暫くその表情に見とれた。
「ん」
横島が視線に振り向くと魔理が視線を外す。横島は自分が偉そうに諭した事で怒っているのだろうと思って、それで話はお終いにした。
「どうしたの、魔理ちゃん」
魔理が何か思案顔でいるので訝しがって、何やら真剣に悩んでいるようなので恐る恐る聞く。
「いやあ〜。何かこんな同じようなシュチュエーションが昔あったような気がするんだよな」
黄色い鶏冠頭をしきりに振りながら、必死に思い出そうとしていた。しかし髪型と同じく鳥頭なので、どうしても思い出せないらしい。「まあいいか。気の性だろう」と諦める。
「そう言えば、こんな・・・・・始めてなのに、見たことあるような気がするのは何て言ってたかな」
今度は過去の記憶では無くて、既視感の事を言っているらしい。
「なんて言ったっけなあ。見たこと無いのに、見たことあるような気がするのは・・・・・・」
必死に成って頭を捻る魔理。
「ここまで出てるんだ・・・・・・確か・・・・・・・で で でじゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!。そうだ!!デジャ・ブーだあ」
やっと思い返す事が出来たらしく、嬉しそうに声を張り上げる魔理。喜んで、思い出した事を横島にも告げようとしたが・・・・・・・・・・・。
「あ・・・・・・・・・・・・・・」
振り向いて横島の姿を見て、魔理の声と体は凍りついた。
そこにいた横島は・・・・・。
首から下が緑色の全身タイツ。それに虎縞のデカパン、頭にかぶった緑色のズラにはラムちゃんのような二本と角が生えて、手にはウクレレを持っていた・・・・・・。
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ
ピタッ
[↑これは気を取りなおした魔理が横島から離れて行き、十分に間合いを取った音である]
ダダダダダダッダダダダダダダダダダダアッダアッダダダダダダアダッダダダダダダッダダダダダッダダダッダッダアッダダダダダダダダッダダダダ ダダダダ
[↑これは全速力で横島の所に戻ってきた音・・・・・・・・・そして]
「高木ブーじゃねえええええええええええええええええええええええええええええええええ」
ドガーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ヒュウウウウウウウウウウウウウウウ
[↑これは横島が魔理のスコルピオンクラッシュでブルーインパルスに成った音であった]
{二人ともに、それは作品とキャラが違うんじゃ無いかと思う筆者であった。やっぱりラムちゃんの名を出したからかな〜}
ちなみに大空を飛んでいた横島だが
「ピレパ○ア〜スは丸一年」とウクレレを弾いていた。
・・・・・ウクレレを持ってはいるが、それも違うと思うぞ。それにCMネタはスグ風化するぞ。
《↑{ほら 風化した}←風化したとき使ってください深沢さん(嘘)》
←ここまで構わず使ってください。究極超人Rのコミック版のギャグですから
「でもあんた何やってんの、こんな所でさ」
まるで何事も無かったように、放り出された鞄の埃を払っている横島を見ながら、魔理は結構なスピードで転んだのに自分が全く怪我も埃すら被っていない事に気がついた。体のあちこちを見渡していると別の事に気がついた。
「ん?」
自分が転がった地面を見る。一歩踏み出すと、そこがまるでゲル状にヌメリのある状態になっていることに気がついた。アスファルトであるのに、コールタール車両から流し込んだ時以上に柔らかい。しかし熱くは無いので舗装仕立てでも無い。
「はい。偉く薄いな。勉強してるのかな?まあ、俺も人の事言えないけどな〜」
横島が鞄を魔理に渡して、ゲル状になった道路の中から小さな珠を拾い上げる。それには”軟”と言う字が浮かんでいた。
「じゃあ、あたしが怪我をしなかったのは・・・・」
文殊の事は親友のオキヌに聞いていたので直ぐにそれの効果は理解できた魔理。
「うん?。ああ、二回目で慣れてたから助かったぜ」
「二回目?前にもこんな事があったのか?いつもこんな事やってるのか?」
魔理の呟きに横島は答えずに視線を外した。
「・・・・・」
勘の鋭い霊能者であるので感じた。それは聞いてはいけない種類のモノであることがだ。
「ああ、そうだ。忘れてた」
大袈裟に慌てて見せる。
「魔理ちゃん、オキヌちゃんと同じクラスだったよね?」
「あ・・うん」
「これ代わりに提出してくれないかな」
横島はB5版程度の茶封筒を魔理に手渡そうとした。
「何?これ」
「今日オキヌちゃん風邪ひいちゃって休むんだって。だから俺が宅配便さ」
そう言って嘆息する。業者を通じて届けて貰おうというオキヌであったのに、何故か朝から事務所に呼び出されて美神から自分で届けろと命令された。まあ、オキヌには日頃世話にはなっているので断る理由も無いから引き受けた。何故かバイト代は出してやると言われたのが、普段は優しい????美神の言動とは思えず不思議であった。
「おれま。また仕事で無理したんじゃ無いのか?」
どう考えてもまだ若輩の高校生にやらすにはキツイ職種。さらに業界に名だたるハード(面倒)な仕事ばかりであるのは周知なのだ。時折学校で死んでいるオキヌを見ていたので、尊敬する美神には言えないので横島に替わって文句を言う。
「あはははははははははあははははっははあははははっは」
思いきり慌てる笑顔であった。思わず心中「鋭い!!」と叫んだ。実は昨日の仕事で長い時間雨の降りしきる屋外にいたので事務所の女連中は揃いも揃って風邪を引いていたのだ。
彼も同じく居たのだが、何とかは風邪をひかなくて好いわね〜、と、美神とタマモに皮肉を言われたぐらいであった。
しかし不思議な話であったと今思い返しても思う。
今朝と打って変わって仕事で出掛けた昨夜はバケツをヒックリ返したような豪雨であった。普段なら間違い無くなんかの理由を付けて断る空模様であったのに、報酬はそれ程でも無いのに喜び勇んで雨の降りしきる野外に出掛けた。
おまけに雨がバシャバシャなのに傘も、合羽も除霊の邪魔だと身につけなかった。
仕事熱心だと感激するオキヌとシロであったが、何故か釈然としない横島であった。曰く「そんな女じゃない」と心は告げていたからだ。
冷たい雨中に帰って来た時に女達全員は大きなクシャミに寒気を訴えた。しかし震えて寒気のすると訴える元気の無い三人とは対称的に、美神は何故か?クシャミをしながら、ガッツポーズを取っていたのが気に掛かるった。
病気では今日からの仕事に差し支えが出ると嘆くオキヌに、何故か嬉しそうに困った困ったと、笑いを堪えない美神であった。
「ふ〜ん。まあ、あんな土砂降りの中で一日中居れば風邪も引くだろうな。分かった。で、中身は何?レポートのようだけど」
封かん紐を解くわけにもいかないので聞く。横島はちょっと考え、手探りで思い出した。
「え〜っと、確か”陰陽道の起源と発展”とかだったかな?・・・・違ったっけ」
流石に霊能学科だけに、それっぽいレポートであったので思い出した。横島には何が何やらわからない種類のモノであったが、魔理にはよく分かったらしい。とても痛いほど良く・・・・・・・。
「げっ!!」
横島と違い、演技は欠片も無く慌てて見せる。
「ん?」
その様子に横島が驚いていると、その手から茶封筒を引っ手繰る。
「わ わ 分かった。ちゃ ちゃんと提出しておくから安心して寝てろって言っておいてくれよ」
その顔は思いっきり慌てていた。その慌て振りには自身覚えがあるので 同志!!を慰める。
「提出の授業は(何時)?」
「午後一・・・・」
「そう・・・・じゃあ頑張って。結構厚いようだからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」
次の中休みに購買部に行ってレポート用紙を買いこむ算段を始める魔理であった。
「じゃあ頑張ってくださいね、魔理ちゃん」
「・・・・・ああ」
片手を上げて別れを告げる横島に答える魔理の笑顔は・・・・・・暗い。重みに感じるレポートの束は、多分全ての午前の授業をフケテた時間と中休みと昼休みを費やしてやっとであろう。
実は昨日は夜更かししてて、授業中に寝れないのは辛いし、お昼ご飯が食べられない・・・のは一層辛い魔理であったのだ。しかしやらずにはいられないであろうと決める。もし提出しなければ今度の進級を掛けた補習にと試験が宣言されていたのだ。これが結構厳しいので、結構留年も多い。
だからやらぬワケにはいかなかった。これが元でまた学校に嫌気が差して、こなくなったりして、まだダチと言える奴はオキヌとかおり?ぐらいだが、それを無くしたく無かった。
それにオキヌの期待を裏切りたくは無かったのだ。自分を友達と呼んでくれる奴と、一緒の学校生活を楽しいと言ってくれるオキヌを。
「ああ、それから」
「ん?」
気落ちしている魔理の背中に声をかける。
「魔が差しても、”氷室”の所を”一文字”には変えないようにね」
「え?????」
言葉の真意が掴めずに頭にハテナのマークが浮かぶ魔理であったが・・・・・・つまり。
「ば バッカ野郎!!そそそ そんな、ダチを裏切るような事が出来るかあ!!!」
実はチョットだけ頭を掠めたので、一筋の汗と共にかなりドモっている。
「よし、よし。それだけ元気なら大丈夫みたいだね」
スケ番の魔理に怒鳴られて、普通なら萎縮しそうなのに横島はさも嬉可笑しそうに笑っていた。
これは落ち込んでいる魔理を励ます、非常に有効な作戦であったようだ。それは魔理の分かったよう。策にハマッタようで悔しそうに口を尖がらせる。
「じゃあ頑張って」
「うるせえ。さっさとお前も学校に行きやがれ。女子高の前にいつまでもいるとストーカーで捕まるぞ。元からお前は怪しいいんだから。どうせ前科もあるだろう」
「へいへい」
オドケて頭を隠して、逃げる横島であった。
キキイーーーーーーーー
「ん」
その場を二人共に離れようとした時に、道路に黒塗りの高級乗用車が停車した。何と無しに見覚えのある車両であったので、薄ぼんやりと中身の想像は横島にもついた。もっと気がついた者もその場にはいた。
「あ・・・・・やべえ」
魔理が慌てて正門脇に隠れる。どうやら普段の素行が誉められたモノでは無い。おまけに遅刻もしてるので会いたい種類の相手ではないのだろう。横島の方に片手で祈りのポーズを取る。取り直して誤魔化してくれと言っていた。
そうこうしていると、車から執事が出てきて後部座席を開けると、この学園の理事長が姿を表す。無論冥子の母親である六道府子(ふうこ;仮名:子連れ狼でお馴染の台詞 冥府魔道から娘が冥だから府にすると今宵決定)であった。
「あ〜ら〜忠夫ちゃんじゃないの〜。お〜ひ〜さしぶりね〜」
相変わらずにノホホンとしている府子であった。歩くのさえ速いのが常識の、大阪生まれの横島にはキツイペースであるのが本当の所だが、悲しい事にもう慣れた。
「ちは。オヒサですね。理事長さん」
「あらまあ。理事長なんて堅苦しい呼び名はいいわよ。遠慮しないで府子お姉さんって呼んでよね」
全く衒い(てらい)は無いような顔であった。
「あ え あ。 府子 お おネエさんですか」
「(ピク)・・・・・・・・・・・」
言葉に詰まる仕草に、顔の表情は変わらないが空気に震えで分かる。怒りの波動か、ハタマタ殺意の波動が辺りを包むのが・・・・・。背中には式神が準備を始めているのも、幻でなく見える。
思わず「綺麗なお姉さん」と連呼した・・・・・・。横島は今日寝るときに窓を開けて、お星様に「嗚呼、今日も嘘をついてしまいました。お許しください」と懺悔しようと決めた。
幸い母娘揃って深く考えないようで表面状の言葉を素直に受けとってくれて惨劇は回避された。
「あれ〜〜〜。忠夫ちゃ〜〜ん。お〜は〜よ〜う〜〜〜〜〜〜〜」
片方だけが乾いた歓談を続けている時に、次に車から出てきた女性は府子より更に間延びした声がした。府子が式神を出そうとしていたのだから、出てくる前から正体は分かるであろう。娘の冥子以外にあろう筈は無い。
「もおう。早くしなさ〜い。冥子」
「いそいでま〜すよ〜〜。おかあさまったら〜〜〜〜」
横島の前でスロ〜テンポの漫才が始まる。この二人の掛け合いに横島はいつも映画”椿三十朗”に出てきたのオットリ武家母娘を思い出す横島であった。
「府子さんは分かるけど、何で冥子ちゃんがいるの?」
理事長である府子が登校するのは至極当然なので分かるが、当の昔に(二年〜三年前か?)卒業した冥子が来るのはやはり不思議であったので、話の流れから取り合えず聞いてみる。
本来は口説こうとするのが筋(どんな筋だ?)だが、ここで騒ぎを起こしては隠れている魔理が見つかったりしては、ありがちにオキヌのレポートに被害が及ぶかもしれない。そうなると自分らが書き直さなくてはならなくなってしまっては溜まらない、ので普通の会話に終始する。
「あ〜の〜ね〜 ・・・・・・・・・・・・・」
ここで話を割愛して、要点だけにする。
何でも霊能学科の生徒に、冥子の式神を後学の為に実際に見せようという事であるらしい。この頃仕事の途中にいつもの暴走をやらかして、それが大事件になったので理事長の権威失墜を実物を見せて、ハッタリを噛まして取り戻そうと姑息な手段を講じているようであった。
「・・・・・・・・」
何となくネタがバレバレな展開が見えてきたので言葉を失う。
「あんたらね〜〜。どうしてそんなにトラブルの種を自ら精を出して巻くんじゃあ」
このままでは、この学園の女学生に災いが起こるのは必定。話の展開上は無駄だと分かっていても止める。しかし六道母娘は、根拠の無い自信に裏付けされた手前勝手な理屈で「大丈夫よ〜〜〜」と一蹴した。
(この母娘は何を根拠に物事を考えているんだろうか?)
等と連載開始からの根源的な問いかけを考えている横島の事など知らぬとばかりに笑顔の二人。
疲れてこのまま踵を反したいが、一応は役目でと、大丈夫との論拠を聞いて見る。
「もし暴走しそうに為ったときの為に助っ人を呼んでいるから大丈夫よ〜。忠夫ちゃん」
「そうよ〜〜。冥子達だって〜〜過去から学ぶ事だってあるんだから〜〜〜〜〜」
「・・・・・・・・・・・・」
この後の展開も予想出来た。
この母娘が事の所在に困って、冥子の事で頼む助っ人いえば・・・・あの二人しかいまい。しかし一応はその頼りにしている助っ人の正体を聞いてみようとした時に府子の携帯が成る。「誰かしらね〜〜」と携帯に出ると、相手は小笠原エミであった。内容は・・・・・・。
何でも昨夜の雨中の仕事で風邪を引いたので、これからの冥子の助っ人はとても無理だと・・・・・・真実味のある咳と呂律の回らない口調で言っていた。
(あのアマら〜〜〜〜〜〜〜)
やっと昨夜の美神の行動の意味が理解出来た。全て包み隠さずにである。
多分仮病では見破られると後が怖いし、猫の額程の良心の呵責があったのだろう。被害の天秤を考えると、しばらく風邪で寝こんだほうがいいと考えていたのだ。
だから、「しょうがないわね〜。まあ、令子ちゃんがいれば何とかなるわよね」と言っている府子の携帯が再び鳴って「誰からかしら?」と言った時、横島は掛けて来た相手を100%言い当てられた。
そして自分が生贄に仕立てられた事もだ・・・。
過去から未来を推定するのはこの母娘だけではなかったようだ。
「きゃ〜〜〜あ〜〜〜〜。どうしましょう。どうしましょう。もう今日は取っておきの特別授業だって宣言していたから、今更中止なんて事になったらあ、理事長の面子が丸つぶれだわ〜〜〜〜」
「あああんんん。お母様どうしましょう。二人がいないと冥子暴走したときの事自信がないのに〜〜」
オロオロオロオロ×2 と非常に有り体に乱心している母娘を忘れて、スタコラサッサと逃げようとした・・・・・・・・・・・・が、遅かった。
「俺にも学校があるんだ〜〜」
と横島の意思は、蛇系式神のとぐろに巻かれた事によって地平の彼方に放逐された。
「うう〜〜〜忠夫ちゃ〜〜〜〜ん。お願いよ〜〜〜〜」
冥子が熱く濡れた瞳でオネダリお願いポーズをする。
「分かった。さあ一緒に唐巣のオッサンの教会だと金取られないだろうし、その後の区役所も60円で結婚届は出せるので俺の財布でも大丈夫、しかし本来ロイヤルスイートと言いたいが、それは我慢して俺のアパートで契りを結びましょう。大丈夫だよ。優しくするからね」
冥子をお姫様抱っこして、熱い抱擁を・・・・・・。
パカーン
「誰がそんな事いってますか〜〜〜〜」
府子の突っ込みであった。流石に本当に風邪で伏せっているので、美神といえども突込みには来てくれなかった・・・・。
「とにかく。私からもお願いするわ〜、どうか力を貸してよね〜。忠夫ちゃん」
母娘揃って同じオネダリお願いポーズであるが、流石にトウ(年齢)が経っているので妄想は無しよ(欽ちゃん)で冷静に嫌がる。それを感じて冥子から奪った式神でボテクリ扱かされる横島。
「でも俺美神さんやエミさんほど力無いから無理っすよ。大人しく中止にした方がいいんじゃないですか。君子危うきにちかよらずとも言うじゃないですか、火中の栗を勤しんで拾うのも賢くはないすよ」
多分この二人には「爆弾抱えて火事場ウロウロする」と言ったほうが正解であったろう。
至極正論を言ったが、先に言ったように権威失墜の汚名挽回で立てた予定が、更に当日中止ではバツが悪いらしい。それだけは頑として譲れないと言う。
「でも忠夫ちゃん。前の戦いで令子ちゃん以上に強かったじゃないの」
間近で見ていた冥子が呟く。
「あ・・・・そ、それは」
「ああ。そういえばあたしも聞きましたよ、美知恵さんから。あの騒動を治めたのは本当は忠夫ちゃんだったって」
一応は美知恵の師匠であったので、その辺は詳しいのだろう。
「でも、そう考えるとオカシイわよね?。あの後のテレビでも新聞とかのマスコミに忠夫ちゃん全然出て無かったわよね。なんでだったの?。一番活躍していたのに。西条さんなんか殆ど関係無いのに、偉そうに記者会見で喋っていたのにね〜〜〜」
「・・・」
思わず押し黙ったが、この二人は事情を知らないのでオチャラけて答える。
「ちょっと大々的に顔が出ると不味いんだよ」
「え〜〜〜。なんで?〜〜〜〜有名になれたのに〜〜〜」
「ちょっと借金取りに追われててね。居場所がバレると不味いのよね」
「あ〜〜〜。悪いんだ〜。何か昔のマーくん(鬼道の事らしい)のお父さんみたいね〜〜〜」
「ほほほ。本当にね〜。どうしてお金を持っていない人っているのかしらね〜〜〜。信じられないわね〜〜〜〜〜
「・・・・・・・・・・・」
赤貧に喘ぐ者に、生まれながらの大金持ちが言うのはハッキリ失礼だが、そんな事など露しらずに母娘共に屈託無く笑う。
(う〜ん。恨まれるのが当然な家系じゃな。鬼道のオヤジの気持ちが分かるな・・・)
悪意が無い分始末が悪い冥子らであった。
「まいったね〜〜〜〜」
結局付き合わされる事になったのでブ〜垂れる横島だ。霊能学科の一回生を前に演説?している府子と冥子の後ろに並び、隣の入院&被害者仲間の鬼道に文句を言う。
「止めろよお前も!あの母娘!!」
こうなる前に止められなかった事を文句言う。一応は霊能学科の責任者をやっているので、横島の抗議は正当であった。
「そんな事無理に決まっているやんか。あの二人やで」
諦め気味の鬼道だ。おまけに彼は宮仕えでもあるのでいたし方無いと嘆息する。
「まあ、このままだとお互いの予想に違わない結果は既に予想の通りになるだろう」
「まあ、お決まりやね」
「じゃあ作戦だ」
「どうするんや。俺らじゃ冥子ちゃんの式神はそう簡単にはいかへんで。前はタイマンやったから何とかなったけど、一片に来られると俺じゃ無理や」
同じ方法は期待出来ないと早くも尻を割る鬼道。
「式神の方は任せろ。お前は女性徒の避難と、式神の陽動で少しだけ時間を稼いでくれればいい」
「何するんや?」
「まあ任せろ。正攻法でブチ当たっても仕方ないから、裏ワザは思いついたし、一応策は打ってある」
「?」
鬼道は信じられなかった。横島もあれだけ酷い目にあっていて、無力であると分かっている筈なのに活路を見出しているように自嘲しているのだ。
それが信じられなかった。何しろあの美神らですら、冥子の式神暴走の前には津波の前の波止場の人間に過ぎないのだから。そう言いかけたが、もう時間は無かった。
「そろそろ始まりそうだぞ。いくぞ」
まだ紹介の段階なのに、100人近い女性徒の視線で緊張して始まりそうで、冥子の周囲は霊力で歪み稲光が漏れ始めている。
「冥子。ほら、皆さんに挨拶しなさい」
ビクーーーーー
府子の、その一言が堰を切った。次々に飛び出した式神は周囲に強烈な霊波を放出しながら辺りの女性徒を巻き込み始める。
辺りに響き渡る阿鼻叫喚。流石の霊能エリートの集団であっても、あまりの尊大な霊波にはパニックも合間って成す術を持たないらしい。
ズザッ
鬼道が己の式神と飛び出す。
「コッチやで」
作戦の全容は聞くことは出来なかったが、他に方策もアイデアも無いので横島の作戦に従う鬼道。それに横島の顔には何とも言えぬほどの自身と確信があったのが分かっていたから、何故か安心出来て囮に徹した。ただし、もし自分を囮にしただけで自分だけ逃げたら美神にチクろうと思いつつ・・・・やっぱり完全には信用出来ないのだ。
ずざざざあっざざざっざっざざざざざざ
強烈な12の式神の霊波で押しつぶされそうになる。
「まだか〜〜〜〜。横島あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
あまりの霊気に目を開ける事すら叶わぬ絶望的な状況であった。もう駄目かと思って叫ぶ。すると、全身を金縛りにするような霊波の放出は嘘のように消失した。
「な なんや?何が」
膝を着いたままに辺りを見まわすと・・・・
「ほい。ご苦労さん」
「え??」
見ると、そこには横島が冥子を抱き上げて立っていた。
「助かったぜ。お陰で冥子ちゃんの注意も引けたしよ」
「な 何があったんや」
まるで何事も無かったような進展に呆然とする鬼道と理事長、そして逃げ回っていた女性徒らであった。
「でも横島・・・・さ・・・。一体どうしたんだよ。あっと言う間に勝負がついたんで、何が起こったのか判らなかったけど」
冥子を校医に預けた後に魔理が聞く。
ハッキリ言って自身膝が震える程の恐怖であった。圧倒的。ヒタスラ圧倒的な力の違いによって竦んだ生徒も少なくなかった。
言葉は無くて、一つの文殊を見せた。
「それは?」
それには”眠”と書いてあった。予め作っておいたこれを、鬼道に冥子と式神らの注意が向いている間に冥子の首筋に叩きこんだ。
冥子の意識が途切れれば、当然式神も形を保っていけない事が以前の戦いで判っていたからだと「経験ってのは大事だな」と自嘲気味に笑うと、周りの女性徒も吊られて笑う。
つまり横島が非常に沢山のひでえ目にあった事を自嘲していたのが判った。実は横島は六道女学院においては、憧れの美神の元でシツコク働く品行の悪い社員だと思われているのだ。
一種女子高らしく、背も高く体躯も良く、しかも実力も・・・・・同性には外面のいい美神は同姓の恋愛の対象になっている感がある。
同じ職場に男がいるだけで嫉妬とヤッカミの対象になっているが、こんな情けない男なら相手になる筈も無いと分かり、今度は横島に対して嘲笑気味に笑った。
「・・・・」
「・・・・」
しかし、笑っていなかった者もいた。鬼道と魔理。
何故なら被害者の会である鬼道は特に、単に注意を引いただけで冥子に接近出来るワケは無いのが分かっていた。
あの強烈に放出されている霊波には殆ど近ずけないし、恐らく中ではどんな霊能者であっても動く事も出きないであろう。それが分かっているので、単に作戦の勝利だと言う横島の言葉には心が引っかかった。
turn into the next
the some renewal time
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次回予告
とにかく、原作から営々と続くお約束に予想された冥子の暴走を押さえたが、正門での冥子府子の会話を六道女学園の生徒に聞かれていた事で、更なる窮地に陥る事になる横島であった。
::::::::::::::::以下後編:::::::::::::::