girl proposal
「じゃ、じゃあ今日はこれから午前中は各自教室で補習にしますから・・・・・・」
校庭の台の上の府子の声は所在無く落ち着きが無い。まあ、流石に己が無謀で生徒に危険を及ぼした事を反省したようで済まなさそうに落ち込んでいる。まあ、いつまで続くモノで無いのも周知の通りなので誰も慰めない処を見れば、始めから信用の失墜も回復も徒労であったように思う鬼道ら教官諸氏であった。
「皆さんチャントお勉強して・・・・・くれぐれのウチの娘のように人様に迷惑を掛けないようにね。そして、そんな事があっても忠夫ちゃんみたいに押さえる事が出来るようになるようにね。それが今日あたしの言いたかった教訓よ〜〜〜」
勝手に体裁を付けるが、当人も言い逃れだと百も承知であるので府子の口は重かった。それでも人の上に立つ者が下の者が見てる中でオロオロばかりは出来ない。取り繕った笑顔で女性徒らに指示を与える。
言い訳も終わりと感じて、補習で授業が潰れて黄色の喚声を上げる生徒であった。が、そう喜んでいるばかりでは無かった。
「え?っとあなたは・・・・・・」
生徒の一人が手を上げていることに気がついたので指を指す。
「一文字魔理です」
ざわざわざわ
少し周囲がざわめいて、殆どの生徒が眉を顰める。折角解散の直前であったのに、また有名な問題児である魔理が自分らを巻き込んで欲しく無いとソッポを向く。
「何かしら」
「お尋ねしたいことがあるのですが」
「な〜に?あたしに知っている事だったらいいわよ」
先ほどの騒ぎの事が有耶無耶になるならとこれ幸いに飛びつく。
「先ほどの冥子さんの騒動を治めた・・・・・横島さんの事ですけど・・・・・・」
「ええ・・。忠夫ちゃんが何か?」
袖を「ちょっと ちょっと。いい加減に」と引っ張るかおりを無視して、ちょっと口篭もっていたが、覚悟を決めて口を開く。
「彼・・・・横島さんが、ウチのOG(女の先輩)の美神令子さんより強いって本当なんでしょうか」
「え??」
脇で袖を引いていたかおりが思わず呆気に取られる。そしてそれは居合わせた他の女性徒も同じであった。
「「「「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」」」」」
又トラブルメーカーの魔理が馬鹿な事を始めたと思っていたので、周囲の視線は決して好意的で無かった。しかし、この発言には他人のフリを決め込むワケにもいかなかった。
何しろ業界では、多少金に汚い意外は 一種神格化さえされている女性。それに依然の大戦においても先人を切って世界を救ったとされており、後輩としては鼻が高いことこの上ない。その後のマスメディアの姿を見ては憧れと尊敬と、そして目標にしていた。
それが、ハッキリ言ってオチャラ気で軽そうで、馬鹿みたいな男の方が上など、例え戯言であっても捨て置ける状況では無かった。乙女の夢と尊敬を賭けても認めるワケにもいかなかったらしい。
パカーン
凄い剣幕のかおりに思いきり頭を叩かれ、乱心を詫びるように頭を押さえられながらも、府子から目を離さずに回答を待つ。
「ええ。そうらしいわよ。あの戦いの時の隊長でもあった、令子ちゃんのお母さんの美知恵さんが言うんだから間違いないでしょうね」
問題児の戯言だと、否定を期待した女性徒の気持ちなど何処吹く風で淡々と答える。
「あの後お会いした神族の方々も同じ事を仰っておられたようよ。本当に戦いを終わらせたのは忠夫ちゃんだって。でも皆さんが知らないのは仕方ないわよね。だって忠夫ちゃん、マスコミに知られたく無いんで、代わりに何もしていなかった西条さんを表にだしたんからね〜。」
パニックに陥る校庭の女性徒。そんな話など今の今まで聞いた事は無い。世界を破滅から救ったのは憧れの美神先輩にGメンの西条さんだと聞いていた。どちらも憧れの人であったのに、その信じていた英雄が脆くも崩れ去ったいくようで、冥子のようにパニックになったのだ。
「そう言えば美知恵さんも仰っていたけど、令子ちゃんとの直接戦闘でも勝ったって。今じゃ彼に勝てるスイーパーはいないかもしれないんですって・・・・あ!これはオフレコ(部外秘)だったから聞かなかったことにしてね〜〜」
淀みも躊躇いも無い府子の言葉に・・・・・・・完全にパニックになる女性徒。黄色い悲鳴が先ほどと同じような阿鼻叫喚を生むのであった。
「あちゃ〜〜。やっぱり聞こえていたかみたいだな」
そろそろ御暇(おいとま)しようと、今回の(六道側からの)バイト代を鬼道から渡されていた横島は頭を抱えた。
「ほんまか、それは」
鬼道が問いただすが、横島は自嘲気味にかぶりを振った。
「自己申告は当てにならんぞ。この場合は他人の評価もな。何しろあの二人の言う事だぜ」
回りが喧騒と絶望の中にあった魔理は府子に提案をした。
「理事長。補習より、もっと将来の為になる勉強があるんですけど」
「え?何かしら。それは・・・・・」
補習が多いのは決して誉められた事で無いので、思い切り乗り気で提案を受けようとする府子であった。
「で、なんでこうなるんだ」
横島は・・・・何故か、以前クラス対抗霊能合戦のあった会場にいた。校庭にいた魔理の同学年の女性徒らは揃って客席で、横島に対峙している相手の応援をしている。そして、その相手コーナーには、又いつぞやの特攻服の魔理がいた。
魔理の提案とは、正門で冥子と府子の会話に出てきた、憧れの美神以上の横島との実習訓練・・・とは名ばかりの対決であった。
回りから煙たげている感が否めない魔理であっても、今の客席は全員魔理の味方で応援だ。何故なら、今応援している女学生らは絶対理事長の発言は嘘に決まっていると決めていたからだ。
憧れのおネエ様でもある美神。対して、先ほど述べたように尊敬に憧れの欠片も見出せない横島に負けているなどとは認めるワケにはいかないのだ。
理事長の言葉が、いつもの勘違いに思惑違いに聞き違いに違いないことを証明しなくては、今まで信じてきたモノが壊れてしまうとさえ思っている者さえいた。
だから、どう考えても美神より数段格下の魔理が勝てば、いや梃子摺(てこず)るだけで疑いは晴らせる。だから女性徒らは声の声援以外に、霊能によって魔理に力を与えるべく会場全体がその意思に向かっていた。
それは実は魔理もであった。親友?かおり程で無くても、彼女も他人には話さないが美神は尊敬の対象。だから正門の影に潜んでいた時の台詞は絶対認めたく無かった。
絶対嘘に違いないとは思い、助けてくれた事もあってそれで納得して許してやろうとも思った。しかし、先ほど冥子の暴走に100人近くの同級生が右往左往している間に、まるで今起きたのが夢であるように呆気なく片をつけた。それは、まるで理事長の言葉に反目する自分に、自分達が言っていることは真実であることをあからさまに眼前に着きつけるようにだ。
だから彼女は決めていた。自分が彼に勝つことで、憧れの美神に栄誉を守ると。
「魔理さん。あなたは皆の代表なんだから、絶対に!!苦戦するのすら許しません事よ」
かおりが声援か、はたまた罵声の区別の着かない事を叫んでいた。美神の名誉を守るのは自分だと主張したが、早いモノ順だと言われて、スゴスゴと引き下がったが、それで納得する美神の信者でも無かったのだ。負けたら魔理も自分の敵だと、まるで南米のサッカーチームのように過激な脅しを叫んでいる。
それは無理もあるまい。
美神より強いと言う噂ですら許せないのに、魔理はその他の横島の秘密まで勢いで暴露してしまっていた。魔理相手に口を滑らせたオキヌが口外しないでくれと言っていた秘密までも。
横島が良く美神のシャワーを覗き、胸を揉みしだき、下着を盗み、盗撮行為まで及び、あらんや押し倒そうとした事まであったことをだ。それを聞いた女性徒らは一応に思ったらしい。
『オネエさまの裸をあんな粗野で下劣な男が見ているなんて。私達ですら見た事が無いのに』
『あの優雅な胸の触って、あらんや顔を埋めた事があるんですって・・・・・・・羨ましい、いえ許しませんことよ』
などと、免許取得の時のエミのように妄想を膨らませていた。だから皆の関心はもう勝利を通り越して、出来れば亡き者・・・・・・・・・・。
「う〜ん。偉く客席から凄い殺気が漂ってくるが、気のせいかな」
背中にビシバシと突き刺さる殺意は気の性では無かった。
be defeated man
そんなエキサイトしている女性徒をわき目に見ながら、コチラは燃えなかった。女には拳よりは他の場所で当たりたい奴だからそれはしょうがあるまい。
「くう。図られたあ」
対戦を引き受けてしまった慙愧の念に身をよじる。
魔理の言葉に頷いた府子によって、憧れの美神の名誉を汚された憎悪と嫉妬の絡んだ幾百の殺意の瞳が向けられる。背中にスピーカー背負った連中より圧力のある団体の恨みに、素早く尻に帆かけて逃げる横島、であったが、塀を乗り越えようとしていた背中に府子の声が届く。
「やってくれたら冥子との交際を許すんだけど〜」
バビュン
「今日からお母さんと呼ばせてください」
校庭から消えようとしていたのに、次の瞬間府子の手を取り目をキラキラさせていた。
「やってくれるの?」
「無論ですよ。お母さん。それで結婚式の日取りはいつにしましょうか?来週の大安吉日あたりで、平安閣の幸せパックでゴンドラでスモーク焚いて。お色直しは三回で、新婚旅行は熱海の二泊三日で、やっぱ初孫は女の子がいいですよね。一姫二太郎っていいますからね。大丈夫です。二世代同居も俺は気にしませんから」
幸せ家族計画に夢膨らむ横島であったが。
「そう。良かったわ〜〜〜」
府子は嬉しそうにそう言って、胸元から何かを取り出した。それはテープレコーダーで、赤いランプが輝いているので録音中であった。
「これを令子ちゃん達に送っていいかしらね〜」
「・・・・・・・・・・・・」
勝ち誇った府子に、せめてバイト代だけは二倍を約束させるのが精一杯の横島であった。
「まあいいか。適当に殴られ、のされて帰ろうっと」
横島にとって自分が誰以上誰以下などには眼中にも無い。
力が欲しいのは惚れた女を守る為だけだ。
しかし、それは果たせなかった・・・・・。
そんな自分が人前に出る事など出来る筈も無かった。
だから世間の皆が、正門での二人の会話のように横島の事を知っている筈は無い。
あの時表舞台に上がったメンバーに世間は賞賛を惜しみなく上げた。それで済めば良かっただろうが、報道の後には今度はワイドショーネタの取材が始まり、興味は殆ど芸能人と同じように、好いた晴れたでメンバーの色恋沙汰にまで話は及んだ。
西条などは留学時代に捨てた?恋人が泣きながらインタビューに出てくるわ、隠し子騒動まで出て公私共に大騒ぎ。美神はアクドイ商売の事や、話は過去の脱税事件まで蒸し返され叩かれていた。それは他のメンバーにまで及び、生活は相当に掻き回された。
もし、そんな連中(マスコミ)に、もし横島の事が知られれば、きっとマスコミは[彼女]を事を嗅ぎ付けるであろう。そうなったら一体どんな事を書かれるか判ったモノでは無い。
それを予想していたので、横島の名は始めから美知恵によって全て記録から消去してくれていた。そして他の皆にも美知恵は頼んでいた事がある。出来れば他の者が露払いのマスコミの注目を引いてくれとである。
おかげで西条は、あれは自分で作ったお芝居だとコミカミに青筋の浮かぶ美神を説得出来たようであった(?)。でも、しばらく口を聞いて貰えなかった&注文主は不明だが、魔鈴にいつぞやのバレンタインデーの薬の注文が入った数日後、女性にボコボコにされる西条の姿があったらしい。メデタシメデタシ良かった良かった。
broadcasting tower
「あ〜あ・・・・・・・。しかし俺は、いつもいつも女には騙されてばかりだな〜」
盛りあがっている客席は自分には遠いので、ボケっと他の方を見る。
まず、してやったりで素直に喜んでいる府子。次に自分を生贄にした女のいる事務所の方向を、そして・・・・・・・・・・。
(へえ・・・・・ココから見えるのか)
普段の安アパートから等は見えないが、六道女学園は高台にあるだけに高層ビル群を間に挟んでいたが、校庭の向こうにスモッグにかき消されながらも赤い電波塔が垣間見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
目をくゆらせながら興味無さそうに眺める。
「まあ、騙す女には、騙す女の事情があるって・・・・・・・・・親父が言ってたなあ」
そうつぶやいて、クソ親父の言葉を思い出した。
『例え嘘だと分かっていても、騙される価値のあるぐらいの好い女にはあえて騙されてやれ。それが好い男の条件だぞ』
へえ〜、と無視を決め込みつつも感心した。何故か人生の重たさを感じたからだ。
それで人生の教訓だと済めば格好も良かったが。
『それを逆手に口説く事糸口にも、別れる事理由にも出来るしな。イヒヒヒ』
『・・・・・・・』
(俺はまだまだだな。おとっつぁん)
決して尊敬は出来ないけど、流石に長く生きているので”口説く 別れる”為と笑ってはいるが、それが案外と正しいモノだと思うようになった自分に苦笑する。
夢が費えて、残った現実に直面するには綺麗事ではいられないのが分かってしまってチョット悲しい息子であったらしい。
(そう言えば、あのクソ親父。他にも女相手にする時には何か教訓?めいた事言ってたなあ・・・・・・・・・・・・・・なんだったったっけ??)
今の状況の打破に対しての格言を教えて貰ったような気がし、無い頭を捻る息子であった。
god of agreement
「まだ始まらないのかな〜」
どうせ負ける覚悟はしているので、早く終わらせて単位の足りない学校に行きたかった。今からなら4時間目に間に合うと、何か道具を取りに行ったままの鬼道を待った。
「何の道具がいるんだろ?」
魔理と話していた鬼道が校舎に消えて大分経つ。周囲も観客も苛立ち初めていた所で鬼道が戻ってきた。手には何やら正体不明な文字の書かれた羊皮紙が見える。
「あれ・・・・あれは確か」
以前見たことあるような気がした。確か半分騙されてエミの事務所に入れられた時に見たような気が・・・・・・。
「なんだったっけな?」
そんな事を考えているウチに中央の審判役の鬼道が二人を呼ぶ。
「両者中央へ」
「おう!!」
気概に溢れた魔理が威勢良く答える。
「へいへい・・・・・・ねえ、魔理ちゃん止めないかな。俺とじゃやってもつまらないよ。みんな何か勘違いしてるだけなんだから」
まるで時代劇の三下ヤクザの様におどけて見せるが、魔理は ギロリと凄い形相で睨むだけである。朝の正門でのやりとりのフレンドリーシップは欠片も無いと言った風情。
キャインキャインとシロのように悲鳴を上げた後に、ギャグにも全く乗ってくれなくて思い切りため息を付く。
これだけ険しい女性の形相を向けられるのは・・・・・。あの時、寒い極地の事を思い出した。「元気にやってるかな。今度妙神に様子見にいってみるか」と考えていると、鬼道が何かを言っている事に気がつく。
(あれっ?今何て言ったんだ鬼道の奴。文殊は使用禁止ってのは先刻聞いたからな)
府子によって横島の文殊は使用を控えさせられていた。理由は簡単で、使えば勝負に成らないからだ。文句を言ったのは横島ならぬ魔理の方であった。全力を持って当たっても勝てると文句を言ったが、府子と鬼道に諭されて何とか承服した。
「はい。全力をもって戦い、手加減しない事を誓います」
魔理がそう高らかに手を上げて宣言していた。高校野球でもねえだろうと、ぼーっと見ていると、魔理と鬼道が横島を睨む。どうやら横島にも同じ宣言をしろと言っているのだろう。前のクラス対抗霊能合戦にそんな事やっていたかと思ったが、取り合えず魔理と同じ事を宣言する。
「ん?・・・・・・・な なんだ」
同時に、忘れていたが、鬼道の持っていた羊皮紙から光と煙と、そして鎌を持ったいつぞやの聖霊神が現出した。
「あれ・・・・エミさんの時のエンゲージ(契約神)・・・・・あ!!」
思わず口走った口を押さえたが、もう遅かった。エンゲージは高らかに宣言した。
全力を持って戦い、手加減したらば魂を奪う事をだ。
「あらら」
魔理が勝ち誇った顔をしていた。
「これで負けて、手加減したとかの言い訳はさせないぞ」
無論魔理は横島が負け犬の遠吠えをする事をまず恐れたワケでは無い。
彼女はオキヌに聞いて知っていたのだ。横島が例え殺されようとしても、女性に本気になったりしないのを。それを知っていたからこその特別なエンゲージ契約書を鬼道と理事長に頼んで使ったのだ。
真剣勝負が鬼道の合図で始まった。
tournament start
ドガ ドガ ドガ ドガ ドガ
魔理の霊力を乗せた拳が横島の体を襲うと、弾かれたボーリングのピンのように吹き飛ばされる。
盛り上がる観客と喚声。予想と願いの通りに試合は一方的に魔理の優位であった。
何しろ横島は攻撃らしい攻撃は殆ど出来ずに、拳で成すがままにボロ雑巾のようになっていたのだ。
しかし・・・・そんな展開にも早い者は気がつき始めた。一方的に責めている筈の魔理の方が、圧倒的に焦りを色濃く浮き出させている事にだ。
更に時間を経ると、誰の目にも勝敗と力の差は歴然としていた。勝てる要素の喪失は回りから見ても火を見るよる明らか。確かに根性論で勝てる場合もあるが、それで何とか成らない明らかな差は存在する。そしてそれは見ている者達より、明らかに戦っている魔理の方が感じていた。しかし彼女は諦めなかった。
(負けられねえんだ。俺は絶対によう)
拳に載せた霊気が横島の体に張り巡らした盾に当たると魔理の霊気が飛び散ると、盾によって四散した霊波が見ている者の心にも伝る。
魔理が、彼女が美神を敬愛しているのが、飛び散った思いの霊気で周囲にも痛いほど伝わった。だから絶対に引けない事も理解出来た。もし自分達であっても美神の名誉ね為には引かないであろう。つまり今戦っているのは魔理では無くて自分でもあったのだ。
だからこそ誰かが呟く。自分達の代わりに果てしなく追い詰められていく姿が痛々しい以外の何物でもなかった。
『もうやめていいのに・・・・・・勝てっこない』
そんな声が漏れ感じていても、魔理は決して諦めなかった。他の観客と同じく、美神という先輩の恋慕にも似た感情故に引くことは出来ない。彼女がマトモな級友もいずにグレていた自分に只一つ残った誇りであったのだ。だから引けなかった。
そしてその魔理の心は回り中にありありと伝わってきていた。
今まで魔理を鼻ツマミ者だ、自分らとは違うと思って蔑んでいた感もある。しかし実は同じだと感じる事が出来た。だから以前にオキヌが外した、かおりとの垣根が今度は・・・・・・・。
「お前、ちゃんと全力を出しているのか?手加減なんかしてるなら魂を貰うぞ」
ぶっ倒れた横島にエンゲージが鋭い死神の鎌でせっつく。エミの時は洋風なので西洋的な死神ソックリであったが、六道家らしく呼び出されたエンゲージは僧兵のような姿だ。性格も六道家の色が反映されていて明るいので、オカシナ事だが気があった二人であった。
「あ イテテテテ」
鎌で突つかれて、見事にストレートの決まったわき腹を押さえて立ちあがる。
「あたた・・・・・いや、予定通りの行動だぞ」
「殴られるだけがか?」
エンゲージは頭を捻る。今やっている事は彼には疑問だ。見たところ、ただ霊波の小型の盾を魔理が殴る場所に浮かせて、それで拳に秘めた魔理の霊波を弾き飛ばしているだけだ。
本来は霊波の盾は物理攻撃も避けられるのに全く避けようとしない。ただ、殴られる前に力を前もって流して、殴られるより先に自ら吹き飛ぶだけだ。
「全力と手加減ってのは考え方の違いだろう?。勝つために最良の方法をするのが全力で勝つって事だろ」
そういってニッと笑う。
「変な奴だな。お前。普通ならもう勝っているだろう。あの女隙だらけだぞ〜〜。早く勝負決めてくれないかな」
エンゲージが中立を守るのが筋なのに勝負を急かす。なんで急いでんだと聞く横島。
「いや俺、カミさんに今日は早く帰ると言ってきたんだ」
エンゲージはもう勝負にも契約内容にも興味が無く、出来れば早く新妻の待つ家に帰りたいらしい。横島が「お仕事でしょう。シッカリやりましょ、時間まで」とニヒヒと笑う。他人の不幸を嬉しそうに喜ぶ。
「でもあの女。あ〜んなに勝ちにこだわったなら、普通なら勝てる相手にも勝てないと分からないのかな」
長く生きている彼(エンゲージ)には実力差は歴然である。しかし横島は安堵のため息を付いて答える。
「まあ、命賭けてる修羅場の差の違いだろ。でもお陰で動きが見切れて助かるぜ。魔理ちゃん結構強いから、もう少し苦戦すると思ったんだよな〜」
そう相手の実力を誉めながらも、どうみても横島は勝つために全力を出しているとも言えず、手加減はありありである。しかし、だからといっても気概は真剣そのもので事に当たっているようなので、契約違反で魂は取れずにいる。
「俺は俺の勝ち方をする為に全力で戦っているんだ。手加減は魔理ちゃんにも失礼だからな」
「お前の勝ち方?」
「そう。これが難しくてな。まあ普段の・・・・・・・痛がるように殴られる経験が役に立ってるぜ。あれに比べりゃまだ素手で助かるぜ」
チタンより固いとされている神通混に、思いきり霊気を込められている普段を思い出す。あれに比べればまだ随分ましだ。
「お前普段もこんな事やっているのか?」
いつぞやのハヌマンと同じように驚く。
「ああ。今の魔理ちゃんと同じで、自分の建前で話すんで腹が立つらしくてな〜〜〜。それを全部俺の性だと思いたいらしい、困った人なんだよな。あの姿見せてやりたいぜ。相当ファンが減るから、また殴られるから痛し痒しだけどな」
バキッ ズダン
何とかマグナムを受けたボクサーのように、リング外に張られた結界まで軽く吹っ飛ぶ。しかし、いくら強肩であっても女の子に殴られてプロレスのリングより広い端から端まで飛ぶ筈は無いのに、横島は殴られる度に面白いようにモンドリを打っていた。
実は派手に転がるのは、魔理に自分の放った拳の力を自分の力で相殺させる事になる。まるで扇風機のように拳を空振りに近いほうが相手の体力を奪う。そんな事を知っているので、魔理の方が契約に従っているかなど興味も無いので、グラウンドにゴロゴロと転がる横島の話の続きが知りたいので追っかけるエンゲージ。
「あいててててて」
「どんな勝ち方なんだ」
ワザと殴られているとは言えども結構痛いらしい。
「しらねえか?有名な兵法らしいんだがなあ・・・」
エンゲージは首を捻る。どうみても今の対決に男も女も関係ないだろうと思った。
「誰が言ったかしらねえが・・・・」
バキッ
再び殴られた横島であったが、今度は横島は僅かに飛びのいただけだ。魔理の拳は今までとは違い、狙い違わずマトモに顔に食らっていた。かなり痛かったが、今度は逃げるワケにはいかなかった。何しろ魔理自身、これが満身創痍で最後の一撃だと分かっていたから、避けられる事を頭から排除しての二の太刀無しに走り込んでの特攻であったから。もし横島が避ければ、避けられた魔理の方が頭から結界に突っ込み只では済まないだろうから。
ドサッ
まともにストレートを受けたのに、倒れたのは殴った方の魔理。膝を折って半身を横島に預け、へたり込んでいる魔理の体には体力も霊力も欠片も残ってはいなかった。例えもう意識を保てていても、とても戦うのはおろか立てる状況では無かった。
あたりを静寂が支配した。
魔理は想像以上によく戦った。多分自分達の誰であってもここまで戦う事は出来ないのが分かる。
しかし・・・・・レベルが違い過ぎたのが分かった。呆然としながらいる周囲は一切の声も無く、静寂に包まれていた。
「痛ってえな。今度は魔理ちゃんがぶっ倒れてもいいように結界無しでやりたいぜ。・・・・おお、痛ってえええええ」
脇に唾を吐くと多量の鮮血には歯の欠片が混じっている。もし横島が避ければ勢いのままに結界に突っ込みそのダメージで血を吐いたのは逆になっていたかもしれない。それを覚悟でマトモに受けた。
それが分かったので、更に会場は静まりかえった。始めから力もであるが、向かってくる女性の事を第一に考えている事に、自分らの感情の稚拙さに恥じた。
そんな事情を知ってからしらずか、エンゲージが横島に言う。
「これがお前の全力を持って言いたかった事か?」
「ん?」
「教えたかったんだろう。勝負に固執する事が心を曇らせる事を・・・・」
その言葉は観客席にまで届いたので息を呑む。
『じゃあ、それを知らせる為にワザと殴られて・・・・・』
観客席の女性徒が唖然と呟く。
霊能学科は徹底的な実力主義。良く言っても悪く言っても強さが全て、勝てばいい(これは誰かさんの影響?)との教えのアンチテーゼを示してくれたのと・・・・・・・・・。
感動し、感激する女性徒らで・・・・・あったが。
「あ〜〜?何のこと???」
「・・・・・・・」
エンゲージの言葉の意味が分からずに首を捻る横島に、一時でも憧れの気持ちを抱いてしまい損したと思う女性徒であった。空中でコケル彼(エンゲージ)に回りの観客も心持ち付き合う。
『な〜んだ。やっぱり馬鹿は馬鹿ね〜〜〜』
それほどまでに考えた奴では無かったのが分かったので、尊敬の眼差しは元の呆れ顔に戻る。
fulfill perform a contract
「でもお前まさか例の悪魔神との戦いでも同じような戦い方をしたワケじゃないだろうな」
流石に神界では真実が伝わっているので、実は横島は有名人であった。今の経緯を鑑みて、魔理を抱き上げた横島に聞く。
「うん、・・・違うと思うけどね。そんなに余裕の持てる相手じゃなかったさ」
「そうだろうな。まさか今の様子ではとても勝てるワケは無かっただろうからな。何しろ魔界においても無敗を誇った程の勝負巧者であったそうだからな。しかしお前のような人間が良く勝てたもんだ」
「・・・」
エンゲージの言葉に少し言葉を詰まらせる。
「どうしたんだ?」
「ん。いや。本当に勝ったのかなって思ってね」
「?」
横島の言葉に首を捻る。悪魔神は戦いに負けて、この世から消滅したのは間違い無い。
「どういう意味だ」
「・・・いや、あの時感じたんだ・・・・・」
あの時に奴の魔体に自らの体で大きな風穴を開けてトドメを刺した。その時流れ込んだ意識?は安堵に似た感情がただ存在していただけだ。それに続いて流れてくるのは達成感と高揚感。とてもこれから死に行く者が満喫する感情ではないであろう。
奴は望むモノを手に入れたのだと後になって判った。
欲しかったモノを手に入れるのが勝利なら、間違い無く勝者は・・・・・・。
そして自分は・・・・・・・・。
「生き残った奴が、かならずしも勝った奴とは限らないらしいぜ」
誰でも無い方に嘲笑をあびせた。その意味が全て分からなかったが、慰めるのも神の役目と思い出す。
「そうか。人間も色々苦労してるんだな」
「まあね・・・・・・あんたもみたいだな」
男の苦労は男同志だとかみ締めるモノがあるらしい。
エンゲージが思い出したように訊ねる。
「そう言えば、なんと言ったんだ、その誰だか分からない奴は?」
流石に顔面以外もダメージはゼロでは無い。
「え?何の事?」
「さっき有名な兵法だか、作戦がどうとか言っていただろう」
「ん・・ああ、あれかあ」
埃だらけの顔と体で、答えを知りたがるエンゲージを見ながらニヤリと笑う。
「戦わずに勝つ。負けたと相手に思わせて勝つ。これが女を宥める極意だってさ。知り合いの?宿六親父が言っていた」
爽やかに宣言した横島であったが・・・・・・・・・・・・・・・二人の間にシラっとした空気が流れた。
「馬鹿!!後半の”女を宥める”ってのは知らんが、戦わずに勝つってのは兵法の極意で、言ったのは孫子だ」
エンゲージが呆れたように言う。長く生きてきた彼には常識である。
「え?おれはウチの親父だと思ったけどな」
シーンとした空虚な空気が流れる。
クスクス フフフ
どっちでも好いことだと、二人して思っているので言及はしない。
「契約は果たされた。さらばだ」
そう宣言してエンゲージは・・・・・新妻に待つ家に急いで帰っていったようだ。
「さてと・・おい、鬼道!!」
まだチョット、色んな事に呆然としていた審判に声を掛けると、思い出したように勝者の名前を呼ぶ。
「さてっと」
横島は気を失っていた魔理をそのまま抱き上げる。保健室の場所を聞き抱え上げて、グラウンドから出て行く。すると、絶対に聞こえないと思っていた音が横島と魔理の背中から聞こえた。
パチ パチ パチ
見ると、審査員席の理事長の府子と他の審査員であったが、それはやがて会場全体を包んでいった。どちらに対しての拍手であるか、叩いている本人も分からなかったが、どうでもいいと思った。もう憎悪も嫉妬も憑き物のように皆の心から落ちていた。
reconciliation
「ん・・・・・・・あ!」
大きな拍手に魔理は直ぐに気を取りなおした。
(ここは何処?)
ボンヤリと揺れる今の状況は、西洋風の揺り篭で揺られている赤子時代を思い出したが・・・・・・良く考えればそんなモノのある家庭では無かった。
ので、体力と霊力の尽きた動かない脳細胞で必死に考える。
「あ〜〜〜!!」
当然気がついたからには力の限りに暴れたが、可笑しそうに笑う駄々っこを戒められるような表情に思いきり憮然としても、指一本も霊力も尽きた体ではとても抵抗出来ない。
悔し涙と滂沱の涙をミックスし、赤くなった顔はソッポと向いた。するとそこには・・・・・親友?を心配する、思い切り下卑た表情のかおりの姿。見つけて更に暴れた・・・・・・。
今度は恥ずかしい涙を浮かべてだ。
恥ずかしさに顔を真っ赤にする魔理に、かおりが横島には聞こえないように言う。
「あんたオキヌちゃんに呪いを掛けられるわよ。恋敵としてね」
「ば 馬鹿!!そんなワケあるか〜〜〜」
無論オキヌが横島を好きなのを知っての言葉である。
「え・・・痛むのか?。すまん。すまん。手加減したらいけないっていうから・・・・その、あの、つい、その、あの〜〜〜〜。ゴメン」
行き成り暴れ始めた魔理に、抱き方が悪くて痛んだのだと思って、ひたすら並進低頭する。
「・・・・・」
「・・・・・」
お互い顔を見合わせる魔理にかおり。
クスクスクスクス
アハハハハハハハ
明後日の勘違いで謝る横島に屈託無い笑みが零れる二人。
二人に先ほどの憎悪にも似た思いは無かった。
確かに横島は美神より強いのかもしれないが、良く考えればそれは彼女に憧れている者として困る事は無いのだ。
何故なら、それは彼女が窮地に陥った時に・・・・・・あまり相応しいくは絶対 金輪際 ビタ一文 有り得無いが、きっとお姫様を守る騎士のように美神を守ってくれる筈だろう。
だから・・・・・・・・・・・この男が美神の傍らにいる事を『許して』やる二人であった。
まだシャワーの覗きは許せ無かったが・・・・・・。
a sequel to the story
尚この日の顛末であるが・・・・。
東京中の神社の裏山に『横島忠夫 死ね』と書かれた美神を覗く目と、美神の胸を触る手に思いきり五寸釘が打たれた藁人形が満員御礼で、六道女学園の乙女の嫉妬のパワーで七転八倒している横島は、この際どうでもいいから置いといて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
抱き上げられて退場する二人の写真を誰かが撮っていたらしく、それが次の日の学校の掲示板を飾っていた。事の顛末を事細かに記してだ。
だから次の日に風邪が治って来ていた、オキヌにも知られる事に・・・・・。
そして数日後・・・・・・・。
ダダダダダダダダダダダダ
お嬢様女学校に相応しく無い、廊下を走る靴音が響いて、普通のお嬢様が顔をしかめた。しかしその足跡の正体が分かると、呆れたように笑っている。
「か かおり〜〜。助けてくれ〜〜〜。俺を守ってくれ〜。オキヌに殺される〜〜〜〜〜!!」
思い切りかおりに泣きつく魔理の姿が見られた。
「あら、あなた。確か今日から追試用の特訓を氷室さんと図書館でやっていたんでしょう。また逃げ出そうとしたとかで怒らせたんじゃないの?」
抱きつかれたかおりは迷惑そうに顔をしかめる。
陰陽道のレポートを出さないので、補習と追試をやっていると知っていたのだ。しかし一文字が提出しなかったのは知っているが、真面目な氷室まで出さなくて同じ穴の狢(ムジナ)とは以外であったので、同類に見られたく無かった。
実はあの日は、これ幸いと保健室でサボって寝こんだいたので、午後の授業も受けなかった。なのでオキヌのレポート提出もスッカリ忘れていた。それで多少恨まれていたかもしれない。
「ち 違う!!ちょっと人名を間違っただけだあ!!」
「あら。いつもの事じゃないの。それがどうしたの?。又丸めた参考書で空っぽの頭を叩かれたんでしょう」
勉強会でもかおりがやっていたので、他人にもあてはめるが。
「ちがう。頭を参考書で叩かれるならいつもの事だが、名前間違っただけでコンパスの尖った方が耳元に飛んでくるんだぜ」
過激に怒っているのは・・・・・・・多分レポートの件では無い様だ。
「あらまあ・・・・・・・・それは面白・・・・・・いや大変ね(クスクスクス)」
道理でピアスの穴の数が多いと思ったが、かおりは嬉しくて楽しくて堪らない様子。
「どこの世界に、そんなスパルタな家庭教師がどこにいるよ。頼むから、今日からは一緒にいてくれ。アイツと二人だと、このままだと殺される〜〜〜〜〜〜〜」
「いやですわよ。あたしだって、これから修行で急がしいんですから。早くあの色ボケ覗き魔人からおネエ様を取り返さなくてはいけませんからね」
かおりはトコトン冷たかった。
「そんな薄情なあああああ。ダチじゃねえか。親友が死んでもいいってのか」
「誰がダチな親友ですって。あなた方と同類と見られると迷惑ですわ。ええい、お放し!!潔く死んでおいで!!戒名はお父様に頼んで安くしてあげますから安心して逝きなさい」
熱海の〜 海が〜ん 散歩お〜〜して と寛一お宮のような漫才を往来で繰り広げる二人。
「うわ〜。オキヌの野郎が、親切そうに 懇切丁寧に、チョット厳しいでしょうけど、責任持って最後まで見て(看取って)上げるって言ってた意味はこれだったのか〜〜〜〜〜〜〜〜」
下校途中の廊下に騒がしい漫才が続いていた。
以前なら、魔理のそんな言動に眉をひそめたり、冷たい視線で他人を決めこむ同級生であったが、今の魔理に向ける視線は暖かいモノであった。
もう誰も、魔理を単なる問題児だと見る者はいなくなっていた。
後日談であるが、かおりが魔理と同じに見られたくないと言っていたが・・・とっくに手遅れで有った事を知らぬは本人ばかりなりであったらしい。
後日それを知らされて、スポットライトに照らされたリングのコーナーで真っ白に燃え尽きたかおりであった・・・・・・合掌。
劇終
the next character is foxy-girl [report of estimated income ]
※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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