T2完結編

著者:うめ


元アシュタロス軍、資材調達担当のクラインは逃亡を続けていた。
「クソッ、全くツイていない。」
クラインは愚痴りながら路地裏を走り抜ける。背後から複数の足音が追いかけてきていた。
本来、彼のような小物にこれほどの追っ手はかからないはずであった。
前大戦での彼の仕事は、遺跡から出てきた黄金を商社に売りつけたり、
アジトや資材を確保したりと、戦闘とは全く無縁のものだったからである。
一般には知られていないが、今回の追跡は、神界・魔界両世界でアシュタロスに
共感するものが多数あらわれたことに起因していた。
アシュタロスへの共感は、そのままハルマゲドンの期待へと姿を変えていく。
危機感を覚えた神界・魔界上層部は、アシュタロス残党とそれに協力する者達への
取り締りを強化したのだった。
その結果、彼のような小物にさえも、数ヶ月前から厳しい追跡がかかるようになっていた。
「迷惑な話だ。俺はいい目が見れると思ってアシュ様の下で働いてただけなのに。」
彼はそれほどアシュタロスに心酔していたわけではない。
しかし、戦闘能力の乏しい彼が逃亡を続けられたのは、予想以上に多い
アシュタロスシンパからの援助のおかげと言えた。
持ち前の調子良さから、彼が世話になった人々に話すホラ話は、
アシュタロス贔屓である魔界の住人に大いに受けたのである。
実際の彼はアシュタロスと直接口を利いたことも無い、しかし、いつの間にか
彼は話の中で、アシュタロスの右腕とも言える人物になっていた。
魔界の地方に住む純朴な住民達は、ホラ話を真に受け彼を手厚くもてなす。
彼はこうして大した苦労をすることもなく逃亡を重ね、人間界に逃げ込んでいた。

「止まれ!」数人の追跡者に囲まれクラインは路地裏の壁に張り付く。
「コイツ本当に大物なのか、全然強そうに見えないが。」
クラインを取り囲んだ追跡者の一人が、隣の仲間に話しかける。
どうやら、ホラ話を真に受けた誰かが通報したらしい。
包囲はしたが、どう扱っていいか分からず追跡者達は攻めあぐねていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
動揺を悟られないよう、クラインは必死にこの場を切り抜ける手段を考える。
しかし、逃げだせる可能性は皆無であった。
その時、突如轟音が鳴り響き、黒い球体が路地裏に出現した。
球体に面した建物の壁がガラス細工の様に溶けている。
黒い球体が姿を徐々に消すと、残された空間に傷だらけの男が倒れているのが見えた。
「コイツもアシュタロスの残党か?」
追跡者の一人が口にしたアシュタロスという言葉に、男は反応しゆっくりと立ち上がる。
「アシュタロスは何処だ・・・・・」追跡者の一人に近づき肩へと手をかける。
「うわっ、血まみれじゃないかコイツ。」
血で染まった男の全身は、暗闇に溶け込んでいるように見えた。
その中で、男の目だけが凄まじい光を宿している。
追跡者達は得体の知れない不気味さを感じ、男の周りを囲んだ。
「答えろ・・・・・。アシュタロスは何処だ。」男は包囲にも動じた様子はない。
「そいつらを倒したら教えてやる。」クラインが叫んだ。
利用できそうなモノは何でも利用するのが、クラインの人生哲学である。
追跡者の気がそれさえすれば、逃げ出すチャンスが出来ると思っていた。
この声がきっかけとなり、追跡者と男の間に殺気が膨れ上がる。
勝負は一瞬でついた。
「つ、強い・・・・・・。」
追跡者を一人残らず倒した男を、クラインは呆然と見つめていた。


「・・・・・・・で、現在に至るってやつです。」
クラインの隠れ家で、男は説明を受けていた。アシュタロスの野望とその終焉。
クラインは直接関わったわけではないので、噂されている範囲でしか事情を知らない。
しかし、逃亡中のホラ話は彼自身にもある種のリアリティを持たすようになっていた。
彼は自分が見てきたことのように、姑息な策略にはまり散っていったアシュタロスと、
その中心的役割を演じた人間の話をしたのだった。
「・・・・・・訳がわからん世界だ。しかし、確かにコスモプロセッサーは存在したのだな。」
男の興味は、コスモプロセッサーにあるようだった。
「壊れてしまいましたが・・・・・・。」
遠慮がちにクラインが付け足す。二人の力関係はすでに決まっていた。
「壊させなければいい。」男は意味不明の発言をする。
「何を言ってるんです。・・・・・えーっと。」クラインは男の名前をまだ知らない。
「俺の名はT。」Tと名乗った男は、黒い珠を4つ握りしめる。
「これからお前を半日前に送る。服の用意と横島という小僧の居場所を探しておけ。」
血まみれの体は治療済みだったが、Tの服は登場の時からズタズタに切り裂かれていた。
「Tさん。一体なにを・・・・」
クラインの台詞が終わらないうちに、彼は過去へと送られた。
ガチャ
クラインが消えた瞬間、勢いよくドアを開けクラインが飛び込んでくる。
手には大きな紙袋、Tの命令どおり服を調達したようだった。
「すごい力です。この力があれば・・・・」
時間遡行を経験して、興奮さめやらぬクラインはTの手を握りしめる。
「モノを投げるのと同じだ。近い時間軸ならばある程度のコントロールがきくが、
遠い場合は大きくずれるし限界もある。それと、俺自身は送れない・・・・・。」
Tは自分の能力が不満であるかのように、握られた手を振り払う。
その目には、さらなる成長への欲求があった。
「・・・・・・なんだ、これは。」
クラインの持ってきた服を物色したTが、服と一緒に入れられていた仮面に気づく。
「ああ、実は、表だって動くにはあなたの顔は少し問題がありまして・・・・。
そのうち分かると思います。」
Tは服と仮面を抱え、部屋の奥へと移動していく。
クラインはその後ろ姿を見送ると、小さな声で呟いた。
「逃亡を続ける敗残兵が、やっと出会った逆転のチャンスか・・・・・
それとも、破滅の罠か・・・・・・・・」
クラインはこの出会いをチャンスだと思っていた。
Tの力を利用しアシュタロスを復活させることが出来れば、幹部も夢ではない。
まずは、Tに横島の居場所を報告する。行動はそれからだった。


横島のアパート

横島は夢を見ていた。
「私たち魔物は幽体がそのまま皮を被っているよーなもんだから・・・・・・・
それを大量にあびちゃってもう動けそうにないの。」
夢の中の彼女は、力無く笑いそう言った。
横島は必死にその娘を抱きしめようとする。しかし、一向に距離は縮まらなかった。
両手がむなしく空を切る。
「・・・・・・・・・・・・・・」
横島が声にならない叫び声をあげたとき、ようやく目が覚める。
このところ何度も見る夢、横島は涙を流していた。

その姿を空中より眺める影が二つ。
漆黒の衣装に身を包んだTとクラインであった。
着替えがすむと、Tはすぐに横島の所まで案内させていた。
「どうなっているんだこの世界は・・・・・・・・・・気にいらん事ばかりだ。」
Tは横島に嫌悪の視線を投げかける。手には「覗」の文珠があった。
「何かの間違いだとしたら、直す必要があるな。」
「俺にも手伝わせて下さい。2、3日もあれば昔の仲間を集められます。
それと、前大戦で使われなかった兵鬼も・・・・・・・・・・。
おねがいです・・・・・・・・アシュ様の復活を。」
クラインは必死だった。今のまま逃亡を続けるのは望むところではない。
「いいだろう・・・・・・・、過去に刺客を送りアイツを殺す。
それだけで歴史は変わるはずだ。」
忌々しげにクラインの用意した仮面を身につけると、
Tは横島に対する興味を失ったようにその場を離れる。
クラインはその後を追いかけた。


3日後
逆天号MK−IIのブリッジ

妙神山にむけて異空間を潜行中のブリッジの中で、クラインは頭を抱えていた。
周囲では、噂を聞きつけ集まってきた前大戦の生き残りや、逃亡に協力してくれた
魔界の人達がせわしなく動き回っている。彼らは今回、物資調達にも力を貸してくれた。
「何で俺がこんな格好を・・・・・・・・・。」
クラインは情けなさそうに、自分の姿を見下ろす。
彼のホラ話を信じ、前大戦の幹部だったと勘違いしている人達が持ってきた衣装を
クラインは着せられていた。
古本屋の店員の様な格好、以前そう形容した少女がいたことを彼は知らない。
「全く、冗談じゃない・・・・・。直接対決で勝てるわけないじゃないか。」
クラインはチラリと、ドグラを操縦系に接続しているTと、その取り巻きの方を見る。
ドグラは観念して協力する気になったらしい。それに、ドグラ自身、心の何処かで
アシュタロスの復活を望んでいるようだった。
「大体なんで、わざわざリスクの高い作戦にするんだ。」
過去に刺客を送る。この作戦だからこそ、クラインは勝負する気になったのだった。
相手の手が届かない所からの攻撃、これほど安全な攻撃はない。
「アイツに興味がでたからだ・・・・・・・・・・・・・。」
いつの間にか背後に立っていたTが愚痴に答えた。
慌てふためくクラインを無視して、Tはさらに説明を続ける。
「最初は、くだらん男かと思っていた。しかし、文珠に加え、時間移動能力。
アイツを倒さんことには、コスモプロセッサーの入手も困難なはずだ・・・・・・。」
「アシュ様の復活はどうなるんです。」
クラインは疑問を口にする。Tの真意が未だに分からなかった。
「俺にとって、それは単なる通過点だ。死にたがっていた腑抜けに興味はない。
俺の知っているアシュタロスはもっと・・・・・・・・・・」
Tは、喋りすぎたことに気付き話題を変える。
「それに考えて見ろ、時間移動能力者によって、俺達の存在は既に知られている。
先程の時間移動で、俺達のいる場所もそのうち割り出されるだろう。
まずは、余計な奴らの介入を止めるために、チャンネルの遮断をしなくてはならん。」
「・・・・・・無茶です、前回でもアシュ様のエネルギー無しには出来なかったのに。
それに、現在、人間界にいる勢力だけでも勝ち目はありません。」
クラインは絶望的な気分だった。
「チャンネルの方は何とかする・・・・・・。一週間がいいとこだが。
戦力不足については、お前次第だ・・・・・・・。」
Tは仮面の下でニヤリと笑い、こう続けた。
「元アシュタロス軍戦術参謀クライン殿。」
Tの手から文珠が4つ飛び出し、クラインに吸収される。
「人」「心」「掌」「握」文珠にはそう浮かんでいた。


時刻
新都庁地下

時空震の検出から、司令室は戦場と化していた。
現在、スタッフが総力を挙げて震源地の特定を急いでいる。
美智恵はメインモニターから目を離し、手元のサブモニターで屋上の様子を調べる。
すでにヘリポートには、出撃準備を終わらせたGS達が集合していた。
しかし、その中に横島と令子の姿は無い。
「二人はまだなの。」美智恵が、モニターの中の西条に話しかける。
「訓練場には連絡済みです。しかし、相変わらず横島君の気力が・・・・・・。
令子君との合体は見合わせた方が良いのでは。」
西条の言うとおり、ここ数ヶ月の間、横島の能力にめざましい変化はなかった。
「現時点では、あの二人が人類最強の戦力であることには変わりありません。
予定通りあの二人を中心に、その他のメンバーはバックアップに徹してください。」
呼び出しのアラームに急かされ、美智恵はこれだけ言うと通信を切り変える。
2分割された画面にワルキューレと小竜姫が映し出された。
数ヶ月前からの残党狩りに際して、この二人から非公式ながら協力依頼があった。
美智恵はその依頼を利用し、表向きはあくまでもアシュタロスの残党に対する組織として
反撃体制を整えていたのだった。
ハルマゲドンへの期待が高まっている時期に、アシュタロスの復活を目論む者の出現。
奇妙な一致に不安を覚えた二人は、快く作戦に協力してくれていた。
「忙しい時にすまないが、悪い知らせだ。」ワルキューレが先に口を開く。
「ベスパ、ドグラの両名を見失ったとの報告が入った。現在ヒャクメに協力してもらい
居場所の発見を急いでいる。」
「その他の、大物達もにわかに活気づいてきています。すみません、上層部からの
指示で、そちらの警戒に回らなくてはならないんです・・・・・・・・・。」
小竜姫がすまなそうに言う。どうやら、時空震の震源地は自力で見つけなくては
ならないらしい。
「・・・・お二人には、いろいろ協力してもらいました。それだけで十分です。」
前大戦で両陣営のトップが仲良く介入した事実は、神界・魔界に大きな衝撃を
与えていたことだろう。
これ以上の介入は現体制の崩壊・・・・ハルマゲドンに繋がりかねなかった。
人類の未来は人類で守る。もともと美智恵はこう考えていた。
「ちょっと待て、今、連絡が入った。」
通信を終わろうとする美智恵をワルキューレが止め、手にした暗号文を読み始める。
「先ほど、ベスパが保護された・・・・。文殊使いにやられたようだが、命に別状はない。
ベスパからの情報によると、敵の目的地は・・・・・・・・妙神山。」
「こちらも、いま分かりました・・・・・。」
呆然と立ちつくす小竜姫の目に、空間移動を終わらせた逆天号MK−IIが映っていた。
「立てよ、同士!」
突然、メインモニターにクラインの姿が映し出される。小竜姫とワルキューレの所にも
同じ映像が割り込みをかける。
「精神攻撃よ。結界の出力を上げて。」
いち早く異常に気付いた美智恵がスタッフに指示を与えた。


訓練場ロッカールーム

緊急集合がかけられたにも関わらず、令子は着替えのため更衣室に籠もっていた。
横島は、疲れ果てたように扉の前で令子を待っている。
「覗く気もおきん・・・・・・・・」
訓練に次ぐ訓練、それに、連日のように見る悪夢が横島の気力を奪っていた。
横島は、前大戦で人生最大の敗北感を味わっている。
その彼が、再び人類の未来をかけて戦わなければならない。
前大戦における勝利の立役者という立場が横島には苦痛だった。
「お待たせ。」ドアを開けて令子が姿をあらわす。
暗くうつむいていた横島の目が、令子に釘付けになった。
「美神さん、その格好・・・・・・・。」
令子は、ド派手なピンクのボディコンに身を固めていた。
「支給された戦闘服に着替えなくていいんですか?」
ひどく、真っ当なことを口にする横島の胸ぐらを令子がつかみあげる。
「アンタの勘違いが、なかなか直らないからね。」
そう言うと、令子は横島を自分の方へ引き寄せた。
令子の顔が目の前に来たため、横島の心拍数が跳ね上がる。
「いい、人類の未来なんて一人の人間が背負えるものじゃないの。
今回は、単にアンタが喧嘩を売られただけ。」
令子は、横島の目を真っ正面から見据える。
「敵はどうやらアンタより強いらしいから、私が特別に手伝ってあげるの。
アンタの後ろには私がいる。アンタがやられれば私も死ぬわ。
アンタのために死ぬなんて真っ平・・・・・・・・・・・・・・、
だから、いいわね横島、私のために勝ちなさい!」
「・・・・・・どこまで、身勝手なんですか。」
きっぱり言い切った令子に、横島は苦笑いで答える。その目から迷いは消えていた。
「分かりました。俺も横島忠夫として戦います。」
横島は、支給された戦闘服をその場で脱ぎ捨てる。
「ココで脱ぐな!」
裸になりかねない勢いに、いつものように令子のツッコミが入った。

数分後、二人はヘリポートに姿を現す。
ボディコンとGジャンという出で立ちは、いつものように除霊に行くかに見えた。
「二人とも、ナニしてたワケ。」
待ちくたびれたエミが二人をからかおうとした時、空中にクラインの顔が映し出される。
「立てよ、同士!」その声は、直接精神に呼びかけているように感じた。
「横島君!」美神の指示に、素早く横島が反応する。
「護」「精」「神」、不完全ながらも、精神攻撃に対する防御が周囲に展開する。
迷いの無くなった横島は、土壇場で3文字までの同時使用を可能にしていた。
威力が足りない分は、エミや唐巣達の結界で補う。
何重もの結界に包まれ、前大戦で戦ったメンバーと新たに加わったシロ、タマモは
精神攻撃の影響を受けずにクラインの演説を聞いた。
「・・・・・・・である。我々はこれよりチャンネルの遮断を行う。期間は1週間。
約束しよう、我々はその間にアシュ様の復活を実現させる。集え同士達。
最終決戦の場は妙神山。」
クラインの演説が終わると、空中の映像も消えていった。
「今の誰です?戦術参謀って言ってたけど・・・・・・前の時いましたっけ。」
おキヌは記憶を探ろうとするが思い出せなかった。
「アイツが誰かはともかく、今の精神攻撃でかなりの戦力が敵に回ったことは確かよ。
しかも、妙神山に集結してしまう・・・・・・・・・。
そいつらより先に、文珠使いにたどり着かないとまずいことになるわ。」
令子はヘリのパイロットに命じ妙神山に急いだ。


逆天号MK−IIのブリッジ

クラインは昂揚していた。自分の口から出る言葉が圧倒的な支持を持って迎えられる。
もともと口のうまい彼であったが、これほどのリアクションは初めてだった。
モニターの中で逆天号のクルー達が、交互にアシュタロスとクラインの名を叫んでいる。
ブリッジにいる者の中には、号泣している者までいた。
「Tさん、俺、やりました。」
興奮気味に、先程までTがいた場所を振り返る。しかし、目にはいるのは多数のコード類に
接続されたドグラの姿だけだった。
「Tなら甲板に出ていった。」面白くなさそうにドグラが答える。
先程の放送は、全世界のみならず、神界・魔界にも送られている。人間界ほど効き目は
期待できないが、今頃はかなりの騒ぎを起こしているはずだった。
「アシュ様の参謀は、ワタシだったのに・・・・・・・・・。」
その放送で、過去の自分のポストを騙られたことがドグラには面白くなかった。
「オイ、逆天IIの全クルーに耐衝撃の姿勢をとるよう伝えろ。」
何の事か分からないままクラインが指示に従うと、逆天IIは姿勢を傾け速度を上げはじめる。
「逆天IIはこれより作戦通り、妙神山に特攻をかける。」
急激な姿勢変更に演説台から転げ落ちるクラインを見て、ドグラは意地悪そうに笑った。

甲板の上で、Tはパビリオと対峙していた。
「クラインの演説は、効かなかったようだな・・・・・・。」
「妙神山の結界を、なめない方がいいでちゅ。」
ジリジリと間合いを詰めるパビリオ。
緊張が高まった瞬間、フィルムのコマが跳んだようにTの位置が変わる。
今までTの立っていた場所には、甲板に剣を突き立てた小竜姫が出現していた。
「超加速での不意打ち、以外とセコイ手を使う。だが、直接戦いに来たことは褒めてやろう。」
小竜姫の首すじに、Tの霊波刀があてられていた。
「火力の差は、前回で嫌と言うほど味わっていますから・・・・・・・・」
小竜姫がこう言うのと同時に、パビリオがTに攻撃を仕掛けた。
紙一重でかわしたTの隙をついて、小竜姫は再び攻撃に転じる。
見事なまでのパビリオとの連携攻撃も、流れるようなTの動きを捉えることは出来なかった。
超加速での攻撃を仕掛けた際、加速中の小竜姫にTの動きは止まって見えていた。
コマが跳んだようにしか見えない回避運動も、小竜姫にはゆっくりとした踊りの様だった。
しかし、攻撃を当てることが出来ない。Tが文珠を使わず、自分の体術と霊力のみで
戦っていることを知ったら小竜姫はなんと言うだろうか。
ヨロッ
余裕で二人の攻撃をあしらっていたTの足下がふらつく。
「フッ、やっと効いてきたでちゅね。風下に立ったのがお前の不覚でちゅ。」
先程から、猛毒の鱗粉を撒き続けていたパビリオが勝ち誇ったようにいう。
小竜姫はこの機会を逃さなかった。再び超加速に入りTを正面から斬りつける。
毒の影響で僅かに反応の送れるT、小竜姫の攻撃はTの仮面をかすめ真っ二つにした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
Tの素顔を目撃し、激しく動揺する二人。精神の乱れから超加速は解けていた。
「どうして、あなたが・・・・・・・・・・・」呆然と呟く小竜姫。
Tが初めて攻撃に転じるのと、逆天IIの急降下が同時に起る。
崩れた体勢と精神、小竜姫とパビリオはTの当て身を受け意識を失った。
「手を抜きすぎたか・・・・・・。しかし、お前の妹たちは、此処でも
手を焼かしてくれる。」
誰に対して語ったものか、優しくこう呟くと二人の周囲に文珠による結界を展開する。
どうやら殺す気はないらしかった。目の前には、すでに妙神山が迫ってきている。
「地」「脈」「吸」「収」
Tの文珠により、逆天IIの二本の角が鈍い光を発し出す。
数秒後、激しい衝撃と爆音を巻き起こし、逆天IIは妙神山の結界を易々と突き破った。
深々と地面に射し込まれた角から、地脈のエネルギーが逆天IIに流れ込む。
この瞬間、チャンネルは遮断された。


新都庁地下

「応答しろ、美神指令。」
結界の強化のため、一時的に遮断された回線に連絡がはいる。
声の主はワルキューレだった。
「ご無事でしたか。」
美智恵は安堵の表情を見せる。妙神山との連絡は途絶えたままだった。
「何とか結界が守ってくれた。それでも数人が影響を受けたがな。」
ワルキューレの背後に、ジークが数人の男を縛り上げているのが見える。
妙神山や司令本部のような強力な結界が無い状態で、精神攻撃に耐えることが
できたのは、軍人として鍛えた強靱な精神のおかげだった。
「チャンネル遮断までの情報では、魔界にも先程の精神攻撃が行われたらしい。
現在、各地で暴動が起こっている。皮肉なことに、チャンネルの遮断が
神・魔の直接対決を防いでいる状況だ。」
「横島君達は、すでに妙神山に向かいました。しかし、あの子達だけでは・・・・。
すみません、力を貸してもらえないでしょうか。」
美智恵には他に頼る所がなかった。別働隊として参加する予定だった自分も、
現在の戦力では妙神山にたどり着けそうにない。
信じられない程の戦力が、妙神山に集まりつつあった。
「指揮系統から切り離された場合、我々は独自に動くことが許されている。
私とジーク、他に数名だが、何をすればいいんだ。」
「私達親子を、妙神山まで護衛して下さい。」
美智恵の手の中で、ひのめが寝息を立てていた。


妙神山

逆天号MK−IIの影にTが立っている。
「見事な切り口だ・・・・・・・・。」
Tは仮面の切断面を見ていた。Tが切断面を合わせると仮面は元通りになる。
完全な平面同士は接着するという話は本当だった。
それを可能にした小竜姫の攻撃も、かわし続けたTも恐るべき力量である。
Tは仮面をつけ直すと、集合している兵士たちの前に姿を現した。
「しかし、いいんですか。司令官として座っているだけで。」
壇上の椅子に座ったままクラインが小声で話しかける。
逆天IIはほぼ垂直に突き刺さっているため、ドグラのみを残し全員外に集合していた。
「お前の戦闘能力は当てにはしていない。それに、あまり無様な姿を見せられると
先程の演説が台無しになるからな。」
何事か反論しようとするクラインを、Tは片手で制し空を見上げる。
数キロ先の上空にヘリコプターが見えた。
「来たか・・・・、歓迎の祝砲だ。」
Tの周囲に黒いオーラが展開し、拳に収束し始める。
惑星が鳴動するイメージをクラインは感じた。
「ギャラクティカ・・・・」
技の名前なのか、Tは何事か叫び拳をヘリコプターへ向かって振り抜く。
BAAAAAAAAAAAAAAAN!
一直線に伸びた黒い閃光が、ヘリコプターをのみ込み機体を四散させた。
すさまじい攻撃に、集まっていた兵士から一斉に歓声が上がる。
「今のでおとなしくやられるような奴らではない。
機体の残骸周辺をさがせ。全員出撃。」
歓声を制しTが号令をかける。集合していた全ての兵士が出撃した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
Tは呆気にとられているクラインを振り返り話しかける。
「この周辺は、このような戦闘の場になる。逆天IIの中ならばいくらかマシだろう。」
クラインはTの言葉に従い、逆天IIの内部に入っていった。
その様子を、ドグラはモニターで確認する。
「クライン、部下の事は全て記憶している。昔からお前は・・・・・・・・
しかし、今回はもう一働きしてもらう。アシュ様はハルマゲドンまでは望んで
いなかったのだよ・・・・・・・・・・。」
誰もいないブリッジ、ドグラはモニターの中のクラインに向かい話しかける。
ドグラの背後には、多数のハニワ兵が命令を待っていた。


「・・・・・・・・・・・何度もいうが、君の能力は確かにすごい。
しかし、もはや霊能とは関係のない世界に突入している気が・・・・・。」
「嫌ならいいんだぜ西条、お前の周りだけ場を解除しても。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
不思議な擬音を背負い横島が西条をにらんだ。
「でも、よく咄嗟に思いつきましたね。」
「いやー、3文字ってあまりないから難しいんだよ。」
おキヌの尊敬の眼差しに、上機嫌になる横島。西条はすでに眼中にない。
「無」「重」「力」
ヘリ周辺に展開した場では、重力加速度が存在していなかった。
全員、ヘリから飛び降りたままの速度で地面に向かう。
エレベータに乗っているようなものだった。

無事に地面に降り立ったメンバーを、逆天IIの兵士が取り囲む。
「おい、本当に無事だったよ。」
「化け物かこいつら。」
口々に勝手なことを口走る兵士達に、令子が先制攻撃をしかけた。
令子が包囲の一角にイヤリングを投じると、大爆発が起こる。
ハート型のイヤリングは、高性能爆薬だった。
「みんな、後は頼んだわよ。」
令子は横島と二人包囲を抜け、逆天IIの刺さってる地点に走っていった。


「なんで、拙者達は此処に止まっているのでござるか?」
敵兵士を2、3人切り捨てながらシロが近くにいた西条に質問する。
結集しつつある敵勢力を令子達の方へ向かわせないために、一同は
妙神山への階段を抑えることにしていた。
西条は戦いながら、簡単に作戦の意義をシロに説明する。
「せ、世界中が敵でござるか・・・・・・・・・・・」
「いつものことなワケ。」
シロの背後から襲いかかろうとした敵を倒し、エミが会話に加わる。
「それよりオタク、此処にいてもいいの?本当は、バカ飼い主の所に
行きたいんじゃないの。」
「拙者はタマモのように無責任ではござらん。」
シロは吐き捨てるようにいう。タマモは此処には来ていなかった。
精神攻撃のため混乱する市街。遊園地で出会った少年を守るため、タマモは一人
東京にのこっている。シロにはタマモの身勝手さが許せなかった。
いきなりエミにお尻を叩かれ、シロは飛び上がる。
「見かけによらず、素直じゃないわね。あのキツネ娘の方がよっぽど
可愛らしいワケ。いい、オタクの飼い主達は自分のために戦う気よ。
オタクは何のために戦っているの。」
エミは遠くの方で戦っているおキヌの方をみる。
「オタク達二人分くらい、どーにでもなるワケ。」
照れくさそうに、エミはもう一度シロのお尻を叩いた。
「スマンでござる。」
こう言い残し、シロは走り出す。
「あ〜、ワタシも〜」
後を追いかけようとする冥子の首根っこをエミは捕まえた。

ネクロマンサーの笛による善戦も空しく、おキヌは包囲されていた。
もともと直接戦闘に向いていないおキヌに、今回の戦闘は荷が重い。
徐々に狭ばる包囲、おキヌに振り下ろされた敵の一撃をシロの霊波刀が受け止めた。
「シロちゃん!!!」
驚いたおキヌをシロは軽々と抱え上げる。
「おキヌ殿、先生の後を追いかけるでござる。」
シロは大きな声で雄叫びをあげた。
包囲していた兵士は次々にすくみ上がる。
行動出来ない敵兵士を軽々と飛び越え、シロは横島の後を追った。
山頂では最終決戦が始まっている頃だった。


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