転校生
著者:J・D・A
それは平凡な学校から始まった。
「ニュースよ、ニュース!!」
机を抱えた少女(妖怪?)、愛子が教室の中に走り込んできた。
「何だよ、またかよ・・・」
けだるそうな感じで答える横島。
「いいじゃない。あ、それより大変なの!!」
興奮する愛子。
「なにが大変なんだよ・・・」
「転校生が来るらしいの!!」
その途端、愛子に詰め寄る横島。
「女か!?美人か!?人間だな!?タイガーの時みたいに未確認じゃないだろうな!?」
「大丈夫よ!!さっき職員室で見たけど結構可愛い女の子だったわよ!?」
「オオッシャアアア!!」
ガッツポーズを決め、本気で喜ぶ横島。
「なに騒いでるんだ!?席に着け!!」
横島が叫んでいる中、担任が入ってくる。
「起立、礼、着席」
週番がお決まりの挨拶をする。
「今日はまず、転校生の紹介をする。入ってきなさい」
担任が廊下にいる転校生に声をかける。
「オオ〜」
男子から歓声が上がる。ただ・・・その中に、真っ先に歓声を上げるはずの声はなかった。
それは、横島だった。その転校生に横島は見覚えがあった。横島はただ、その転校生を呆然と眺めていた。
「そ、そんな馬鹿な・・・」
横島は呟く・・・
「ピ、ピートさん・・・」
そんな横島を見ながら、タイガーはピートに声をかけた。
「ああ・・・」
ピートも横島、タイガーと同様に、呆然としながら答えた。
「あ、あの人・・・似てるんじゃないんですカイノー」
「ああ・・・そっくりだ・・・」
タイガーもピートもその転校生に見覚えがあった。
そんな三人を気にもとめず、転校生が自己紹介を始めた。
「初めまして、今回転校してきました、芦沢蛍子です。よろしくおねがいします」
ペコリと頭を下げる。
「か、可愛い・・・」
男子からは再び歓声が上がる。そんな中、横島は呆然としていた。
「そ、そんな・・・ルシオラ・・・?」
芦沢蛍子を見つめながら呟く。
「ピートさん、やっぱり、ルシオラって人に似てますノー・・・」
「似てるどころじゃない・・・あの横島さんが驚くくらいだ・・・」
話し込む二人。
「それじゃー、芦沢さんの席は・・・クッ、横島の隣しか開いてないじゃないか・・・」
舌打ちする担任教師。
「あの・・・私の席、あそこじゃだめなんですか・・・?」
不思議そうに訪ねる蛍子。
「別に構わないんだが・・・隣のヤツが問題なんだ・・・」
「別にいいですよ」
そう言って、さっさと横島の隣の席に着く蛍子。
「よろしくお願いします、ええっと・・・」
蛍子が隣に来たおかげでようやく正気に戻る横島。
「あ、ああ。俺は横島忠夫。よろしく、芦沢さん」
「こちらこそ、横島さん。私のことは蛍子でいいですよ」
「ああ・・・」
再び蛍子に見入る横島。
「(似てる・・・そっくりだ・・・)」
再びおもう横島。
「どうかしました?」
横島が自分の顔を見ているのに気付き、不思議そうに訪ねる蛍子。
「い、いや・・・別に・・・」
慌てて目をそらす横島。
「?」
疑問を浮かべる蛍子。その時・・・
「先生、調理室に悪霊です!!」
家庭科担当の教師が教室に駆け込んできた。何故、この教室に来たかというと、ここには二人のGSと、見習い一人がいるためである。
「なんですって!?おい、横島!ピート!タイガー!愛子!行って来い!!」
担任が叫ぶ。
「へいへい・・・」
怠そうに立ち上がる横島。
「「はい!!」」
気合いを入れて立ち上がるピートとタイガー。
『何で私まで・・・』
不満そうに立ち上がる愛子。
そして四人は出ていった。
残ったのは悪霊の知らせに驚き、慌てる生徒達。
そんな中、不思議そうに蛍子は女生徒に尋ねた。
「あのー・・・何であの人達出ていったんですか・・・?」
「ああ、転校してきたばかりだから、知らないのよね。ああ見えても横島君とピート君はGSなのよ。タイガーはまだ見習いだけどね。それに愛子ちゃんは妖怪なのよ。」
「へ、へえ〜・・・」
変な学校に来てしまったと思う蛍子だった。
「あ、そうだ、見に行かない!?」
「え、何をです?」
「除霊よ、除霊」
「ええ〜!?いいんですか!?」
「大丈夫よ、コッソリ見てれば」
そう言って、蛍子を連れて数人の女生徒が教室を出ていった。
調理室。
『ウガーーー!!』
暴れ回っている悪霊。
「あ〜あ、滅茶苦茶にやってくれちゃって・・・」
嫌そうに呟く横島。
「確かにやっかいそうですね」
「でも、横島さんの文珠で浄化すればいいんじゃないいんですカイノー」
「あ、そうですね。横島さん、文珠出せますか?」
「いや〜、それがさあ・・・」
苦笑いしながら言う横島。
「ないんですか?」
「ああ・・・昨日美神さんの風呂覗くんで使っちまったんだ、アハハハー・・・」
少しは想像していたが、実際に使っていたとは・・・恐るべし!!横島。
「相変わらず、もったいない使い方しますね・・・」
半ば呆れるピート。
アホなことをやっている四人。悪霊は当然それに気付く。
『ウガーーー!!』
「や、やばい!?気付かれた!!」
咄嗟に避ける四人。しかし、悪霊はその後ろを狙っていった。
そこには、先ほど教室から抜け出して来た女生徒達がいた。
「キャーーー!!」
逃げ出す女生徒達。しかし、ただ一人、芦沢蛍子だけは足がすくんで逃げられない様子だった。
「あ・あ・あ・あ・・・」
初めての恐怖に泣きそうになる蛍子。
『ウガーーー!!』
そんな蛍子に襲いかかる悪霊。しかし、すぐさま、悪霊ははじき返された。
「大丈夫か!?」
横島が蛍子を抱え、サイキック・ソーサーで防いだのだった。
「は・・・はい・・・」
「早く逃げろ!!」
悪霊の方を向きながら叫ぶ横島。
「は、はい・・・」
返事をすると、蛍子は逃げ出した。
「この野郎・・・さっさと成仏しやがれ!!」
横島は霊波刀で悪霊に斬りかかる。あっさりと斬られ、消えていく悪霊。
「やりましたね、横島さん!!」
「さすがですノ〜」
「まあ、あれくらいならな・・・」
さすがに蛍子の太股が見えたから倒せたとは言えない横島であった。
昼休み・・・
当然の様に蛍子の周りには人垣ができる。そして、お決まりの会話が進む中で、蛍子がある質問をした。
「あの〜・・・」
「なあに、蛍子ちゃん」
「横島さんって・・・」
「横島君がどうかしたの?あ、もうセクハラされたの!?」
「い、いえ・・・横島さん、彼女とかいるんでしょうか・・・?」
顔を赤らめながら聞く蛍子。
「いないんじゃないの!?でも何で?」
「いえ・・・いないなら私がなりたいなあ、なんて・・・」
その言葉に一斉に引く人垣。
「ほ、蛍子ちゃん・・・横島君だけは駄目よ!!」
「え!?」
「そうよ!!もっと自分を大事にしなきゃ!!」
「え!?え!?」
「そうよ!!それに横島君は私が狙ってるんだから!!・・・あ!?」
その言葉に、沈黙が走る・・・
「い・・・今のはその・・・」
「なによ!?あんたも狙ってたの!?」
「ええ〜!?あなたも!?」
騒然となる人垣。少し遠くでそれを見ているピート・タイガー。
「い、意外に横島さんて人気あるんだ・・・」
「意外ですの〜」
少し驚く二人。
美神除霊事務所・・・
今日も早退してきたので、学校で起こっている事など知らない横島。
「ん、どうしたの、横島君!?元気ないじゃない!?」
不思議と暗い横島に声をかける美神。
「ええ・・・実は・・・」
横島は、ルシオラそっくりの転校生が来たことを美神に話した。
「ふ〜ん・・・そうなの・・・」
「ええ・・・それってやっぱり、ルシオラが生きていたって事じゃないんですか?」
「でも、あなたのことは覚えてないんでしょ!?」
「ええ、だから分からないんですよ・・・」
「まあ、そのうち分かるわよ!?」
「そうだといいんですけどね・・・」
力無く答える横島。
翌日の昼休み・・・
「は、腹減った・・・」
机の上に倒れ込む横島。タイガーも同じ体制である。
「これで、一週間昼飯ぬきかよ・・・」
「つ、辛いノ〜」
そんな横島を見て、蛍子が横島に四角い箱を渡す。
「ん、何これ!?」
「あ、あの・・・もし良かったらこれ食べて下さい・・・」
赤い顔で言う蛍子。
「お、俺に・・・?」
「はい・・・その・・・横島さん一人暮らしって聞いたんで・・・」
しかし、蛍子の言葉は聞かず、ひたすら弁当を掻き込む横島。
「ウオ〜!!久しぶりの味のついた飯ジャー!!」
その横島を見て少々呆れる蛍子。
「う、うまい!!おキヌちゃんの作るヤツよりうめーー!!」
しかし、横島の『うまい』という言葉に感激する蛍子。
「(よかった、喜んでくれた・・・でも、おキヌちゃんて誰?)」
「ふう、うまかった・・・」
「本当ですか?横島さん!?」
「ああ、すごいうまかったよ。ありがとう、蛍子ちゃん」
『ありがとう』という言葉に顔を赤らめる蛍子。
「い、いえ、そんな・・・ところで、さっき言ったおキヌちゃんて誰ですか?もしかして彼女ですか?
「え、おキヌちゃん!?おキヌちゃんは仕事場の同僚だよ。別に彼女でも何でもないよ。でも何で?」
「い、いえ、別に・・・あ、もし良かったら明日も作ってきましょうか?」
「え!?いいの?」
「はい!!」
「じゃあ、頼もうかな」
「はい、頑張って作ります!!それで、その・・・」
「ん、何!?」
「今日の放課後、暇ですか?」
「ああ、今日はバイトもないし・・・することもないな・・・」
「じゃ、じゃあ、放課後、一緒にお買い物しませんか?」
「え、いいけど・・・俺でいいの!?」
「はい!!横島さんがいいんです!!」
「じゃあ、付き合うよ」
「あ、ありがとうございます!!」
その光景を妬ましそうに眺めるタイガー。
「何で・・・何で横島さんばっかり・・・不公平ジャ!!ウオオ〜ン」
泣き出すタイガー。
それを見て呟く愛子。
『青春よねー』
一人で頷く愛子。
放課後・・・
横島と蛍子は二人で楽しそうに歩いていた。
そして・・・少し離れたところから、二人をつける二つの影があった。
「うう〜、先生・・・また他のおなごに手を出して・・・!!」
悔しそうに唇を噛みしめているのは、犬もとい、人狼のシロ。
「ふ〜ん、けっこうアイツもやるわね・・・可愛い子だと思わない!?」
妙に納得した表情なのは、狐もとい、妖狐のタマモ。
「可愛いとか、可愛くないとかの問題ではないでござる!!」
「じゃあ、どーゆー問題なの?」
「先生のあの女癖の悪さが問題なのでござる!!」
「でもさ、別にアイツが悪いってわけじゃないのかもしれないわよ!?」
「ど、どーゆー意味でござる!!?」
「だからさあ、あの女の子が横島を誘ったのかもしれないってことよ」
「そ、そんな事、先生に限ってないでござる!!」
「どーして?アイツだったら、女の子に誘われたら、すぐについて行くと思うけど」
「先生を好きになるのは、先生のそばにいなければ無理でござる!!」
「さ〜、どうかしらねえ!?あの女の子の様子、どう見える!?」
「別に普通でござろうが!!」
「そ〜お?すっごく嬉しそうに笑ってるでしょ!?」
「それがどうしたでござる!!」
「だって、あんな風に笑うなんて、普通好きな人の前だけじゃない?」
「う・・・それはそうでござるが・・・」
「アイツも嬉しそうだしさ、アンタもいい加減、アイツの事、諦めたら!?」
「な、何を言うでござる!!先生だって、拙者の事を好きなはずでござる!!」
「あ〜あ、随分思いこみが激しいわね〜」
「どーゆー意味でござる!?」
「だってよく考えてみなさいよ。アイツ、あのままだと美神さんとくっつくでしょ!?」
「で、でも・・・うまくいかなければ、拙者にもチャンスが・・・」
「甘い!!もしうまくいかなければ、次は間違いなくおキヌちゃんでしょ!?それも駄目だったら、隣のアパートの花戸小鳩って子がいるし。それにアイツ妖怪でもOKそうだし、だったらアイツの学校の、愛子っていう机妖怪もいるのよ!?それにおキヌちゃんに聞いたところだと、おキヌちゃんの学校って、霊能科があるでしょ。そこだと、アイツすごい人気らしいわよ!?こんなにライバルがいるのに、どうやってアイツに好きになってもらうの!?」
「せ、拙者にはプリチーな魅力が・・・」
「よく自分のことプリティーなんて言えるわね・・・」
「べ、別にいいでござろうが!!」
「まあ、百歩譲ってあんたがそうだとして、それでうまくいくと思ってんの!?」
「ど、どーゆー意味でござる!?」
「だって、美神さんには大人の魅力があるでしょ。それにおキヌちゃんやあの娘は女子高校生なのよ!?それに比べてあんたはどう見ても小学生にしか見えないじゃん。それでどうする気なの!?」
「くっ・・・」
シロはそのまま俯くと、右手に霊波刀を出した。
「どうするの!?そんな物出して。あの娘を襲う気!?」
「ちがうでござる!!先生を殺して拙者も死ぬでござる!!」
「あんた、馬鹿じゃない!?アイツに勝てると思ってるの!?アイツ、美神さんより強いって話よ。あんたじゃ、返り討ちに合うのが関の山ね」
「く・・・うわあああん!!」
遂にシロは泣き始めた。
「あら、シロちゃん、タマモちゃん。なにしてるの?」
そんな二人に、突然声をかけるおキヌ。制服姿なので、学校帰りなのだろう。
「うう・・・おキヌ殿〜〜!!」
おキヌに抱きつき、さらに泣き出すシロ。
「どうしたの、シロちゃん!?」
「うわ〜〜〜ん!!」
「タマモちゃん、一体何があったの!?」
「まあ、ちょっとね」
「うう・・・横島先生・・・ひどいでござる・・・うわあああん!!」
「え!?横島さんがどうしたの!?」
「アレ、見てみなよ」
タマモが横島達の方を指さす。
「え、何?」
タマモの指した方を見るおキヌ。そしてその光景を見てハッとなる。
「アイツもやるわよね〜。そう思わない!?おキヌちゃん」
タマモはおキヌの方を見る。しかし、予想に反し、おキヌは青ざめた顔でカタカタ震えていた。
「そ・・・そんな・・・どうして・・・?」
その様子を見て不審がるタマモ。
「お・・・おキヌちゃん!?どうしたの?」
タマモの声に我に返るおキヌ。
「あ・・・ちょっとね・・・それより、急いで変えるわよ、二人とも!!」
「え、何で?」
「いいから!!」
言葉より先におキヌは走り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!!ほら、シロ!!あんたも来なさい!!」
シロを引っ張りながら、タマモはおキヌの後を追った。
その頃、横島と蛍子は三人の様子など知らず、談笑していた。
「そう言えば、横島さんて、GSなんですよね?」
「まあ、一応ね。GSっていっても、まだ修業中なんだけどね」
「でもすごいですよ」
「そうかな」
「GSって事は、悪霊とか退治してるんですよね?」
「俺はまだ弱いから、ザコばっかりだけどね」
「でも、強い悪霊とか倒したこともあるんですよね!?」
「う〜ん・・・あ、悪霊っていうか、魔族なら何回かあるな。アシュタロスって、覚えてる?」
「ええ、ちょっと前に世界を滅ぼそうとしたんですよね」
「ああ。アイツを倒したの、俺なんだ」
「ええ〜!!すごいじゃないですか!!横島さんって、世界を救ったんじゃないですか!!」
「そんな大袈裟な物じゃないけどね。あ、そうだ。蛍子ちゃん、ルシオラって知ってる?」
「いえ、知りませんけど・・・それが何か?」
「いや、知らなければいいんだ。あ、もうこんな時間か。そろそろ帰ろうか。送ってくよ」
二人はそのまま帰路に着いた。
美神除霊事務所・・・
「美神さん!!」
おキヌが息を切らせながら、事務所のドアを開ける。
「あら、おキヌちゃん、お帰り。・・・どうしたの、そんなに慌てちゃって」
『お久しぶりです、おキヌさん』
「さ、さっき、横島さんとルシオラさんがいたんです!!・・・って、あれ?ヒャクメ様!?どうしたんです?」
ようやく、ヒャクメに気付くおキヌ。
「私が呼んだのよ」
おキヌの問いに美神が答えた。
「そうなんですか・・・って、それどころじゃないんです!!」
「知ってるわ。昨日、横島君から聞いたわ」
『それで私が呼ばれたんですねー』
「呼ばれたって、調査でもするんですか?」
『ええ、美神さんに頼まれて、そのルシオラさんに似た人を調査しに来たんですねー」
「あのお・・・」
タマモが突然口を挟んだ。
「話に口出して悪いんだけど、その人、誰?」
「ああ、あんた達、会ったことないんだっけ」
『美神さん、この二人は?』
「こいつらはね、最近居候始めたのよ。今口出したのが妖狐のタマモ。で、後ろで泣いてるのが人狼のシロ」
シロはまだ泣いていた。
『へえ、初めまして、タマモさん、シロさん。私はヒャクメ。神族調査官なのねー』
「げっ!?し、神族!?」
神族という言葉を聞き、途端に緊張しだすタマモ。
「神族つっても、ヒャクメは下っ端だから、そんなに緊張することないわよ」
『それはひどいですねー』
だが、まだ緊張し続けるタマモ。
「あの〜、それで、さっきの続きなんですけど・・・」
おキヌが二人のやりとりは気にせず、真面目な顔で話し出す。
『ええ。結論から言うと、ルシオラさんとその似ている人は、別人ですねー。魂の色が違うんですねー』
「そ、そうですか・・・よかった・・・」
おキヌは安堵の息を漏らす。
「で、でも、じゃあ、何でそっくりなんですか?」
『さあ・・・そこまでは』
そのままわずかに沈黙が走る。
「あのさ、こうは考えられない?」
沈黙を破るように、美神が口を開く。
「あの三人娘を作ったのは土偶羅魔具羅なんでしょ?それで、彼女たちを作るのに人間の女の子をモデルにしたって考えれば、辻褄が合うんじゃない?」
「そうですね・・・」
再び沈黙が走る。
「あのさ・・・」
沈黙を破ったのは、タマモだった。
「さっきから出てくる、ルシオラって、誰?」
「う〜ん・・・なんて言ったらいいのかな・・・」
おキヌが考え込む。
「恋人だったのよ・・・横島君の。まあ、人間じゃないんだけどね・・・」
おキヌの代わりに美神が答える。
「恋人だった・・・?それに人間じゃないって・・・」
「魔族だったの・・・それでも、横島さんと出会って変わったの。そして・・・横島さんを助けるために・・・犠牲になったの・・・」
おキヌが悲しそうに話す。
「そうだったんだ・・・」
タマモも少し悲しそうな目をする。
「みんな!!暗くならないで!!」
美神が明るい声を上げる。
「そんな、暗くなってどーすんの!?」
「で、でも美神さん・・・」
「いいじゃない、別人だったんだから。横島君だって、それくらい分かってるわよ」
「そうですね」
おキヌも少し笑みを浮かべる。
「さ、仕事よ仕事!!ヒャクメ、あんたも手伝ってって!!」
『なんで私も手伝うんですかー』
「いいじゃない。さ、行くわよ、みんな!!」
翌日の放課後・・・
「さー、終わった、終わった!!」
横島が立ち上がる。
「あの・・・横島さん・・・」
「ん、何?蛍子ちゃん」
「今日も一緒にどこか行きませんか?」
「んーと、今日は・・・いいよ、どっか行こうか」
「本当ですか?」
「ああ、ちょうど行きたい所もあるしね。一緒に来てもらえるとうれしいんだ」
「え、どこですか?行きたい所って」
「まあ、後で分かるよ。さ、行こう」
「あ、はい。(どこかしら、行きたい所って。一緒に来て欲しいってことは・・・キャー、ま、まさかいきなりホテルなんて・・・で、でも横島さんなら・・・って、私、何考えてるのよ!!気付かれたら大変じゃない!!)」
「なにしてんの?行かないの?」
「あ、すいません。ちょっと考え事してたので・・・」
「何考えてたの?顔、赤いよ?」
横島がからかう。
「な、何でもないです!!」
そのまま蛍子は顔を隠すように走っていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
横島も後を追って走っていく。
「あ、そうだ。買いたい物があるから、ちょっと待ってくれない?」
「ええ、いいですけど。」
「ごめんね」
横島はそう言い、コンビニに入って行った。
「ふー、横島さんて、私の事どう思ってるのかしら」
横島がいなくなり、独り言をしだす蛍子。
「私のこと、好きだといいなあ・・・」
蛍子が物思いにふけっていると、横島が戻ってくる。
「ゴメン、待たせて。さ、行こう」
「え、どこにですか?」
「行けば分かるよ」
そう言って、横島は歩き出した。
二人は赤い鉄塔の下に着いた。
「ここ。行きたかった所って」
「ここって・・・東京タワーですよね?」
「ああ」
横島はそう言って、文珠を二つ作り出した。
「これ握って、飛びたいって念じてみて」
「何ですか?これ」
「文珠っていうんだ。これに念じれば、大抵のことは出来るんだ」
「そうなんですか」
蛍子は横島に言われた通り、文珠に念じる。すると・・・
「うわ!?う、浮いてる!?」
「そうそう」
横島も宙に浮く。
「じゃあ、俺と一緒に来てくれる」
横島はそのままタワーの真ん中辺りへ飛んで行く。
「あ、待って下さい」
蛍子も横島の後を追う。
タワーの真ん中・・・もちろんここにいるのは横島と蛍子だけである。
横島はタワーに背をもたれかけ、夕陽を眺めていた。
蛍子も横島と同じようにし、夕陽と横島の顔を交互に眺める。
「綺麗だろ、夕陽」
横島が夕陽を眺めながら、蛍子に話しかける。
「ええ。すごい綺麗ですね」
蛍子は夕陽に見とれながら答える。
「昼と夜の一瞬の隙間、少しの間しか見れないから余計に綺麗なんだ」
「詩人みたいなこと言いますね」
「俺が言ったんじゃないんだ」
「じゃあ、誰の言葉です?」
「・・・蛍だよ」
「蛍・・・ですか」
「正確に言えば、蛍の化身さ」
そのまま二人の間を沈黙が走る。しばらくして・・・
「この前さ、アシュタロスのこと話したよね」
「ええ、横島さんが倒した話ですよね」
「ああ。でも俺一人で倒したんじゃないんだ。本当だったら、俺、死んでたんだ」
「・・・え?」
「あの時、俺の身代わりになったのが、さっき言った蛍の化身なんだ」
「へえ・・・」
横島の言おうとすることがよく分からない蛍子。
「あの時、アシュタロスの部下に三人の女の子がいたんだ。そいつらさ、全員虫の化身だったんだ。で、その中に蛍の化身のルシオラってのがいたんだ」
「じゃあ、さっきの言葉言ったのがその人なんですか?」
「ああ。俺さ、しばらくそいつらと一緒だったんだ。それでさ、たまたまルシオラと一緒に夕陽を見たことがあって、その時アイツが言ったんだ。その後いろいろあって、アイツ、アシュタロスを裏切って俺達と一緒に戦ったんだ。そして・・・俺を助けるために、身代わりになってくれたんだ・・・」
横島の目には涙が浮かんでいる。
「そのルシオラって人、横島さんの彼女だったんですか?」
「彼女っていうのかな。アイツは俺のこと好きだって言ってくれた。でも・・・俺は好きだって言ってあげられなかったんだ・・・」
「でも・・・その人の事・・・好きなんですね・・・」
「ああ。あの時も好きだったし、今でも好きなんだ。でも、ルシオラはいなくなった」
再び沈黙が走る。それを破ったのは、蛍子だった。
「この前、私にルシオラって知ってるかって聞きましたよね。それって、なんだったんですか?」
「うん・・・ルシオラはさ、俺に霊気構造をくれたから、生きることも転生することもできないんだ。ただ、俺の子供にだけなら転生できるんだ」
「そうなんですか・・・でも、それと私に聞いた事と、何の関係あるんですか?」
「実はさ・・・蛍子ちゃん、ルシオラにそっくりなんだ」
「え・・・?私が?」
「うん・・・初めて見たとき、本当にルシオラが生きていたんじゃないかって思ったんだ。でも・・・やっぱりルシオラじゃなかった」
「じゃあ・・・あの時悪霊から私を守ってくれたのも、こうして私と一緒にいてくれるのも、私がルシオラさんに似ているからなんですか!?」
蛍子は少し涙を浮かべながら、声を張り上げる。
「違う!!」
「え・・・?」
「それは違うよ。俺は・・・ルシオラがルシオラだから好きなんだ。蛍子ちゃんはルシオラじゃない。蛍子ちゃんは蛍子ちゃんなんだ。そりゃ、最初は似ているって思ったけど、今はそんな事思ってない。蛍子ちゃんは蛍子ちゃんだって思ってる」
「信じていいんですか・・・?」
「ああ」
「じゃあ、信じます」
「ありがとう。あ、そうだ。これ供えなきゃ、何のために買ってきたことになるんだ」
横島はコンビニの袋から何かを取り出した。
「なんですか?それ」
「うん。水と砂糖だよ。ルシオラが好きだったんだ」
「変な物好きだったんですね」
「いや、アイツは蛍の化身だよ!?蛍は甘い水が好きだろ?」
「それもそうですね」
二人は笑った。それは打ち解けた笑いだった。
「そろそろ帰ろうか」
「ええ。帰りましょ」
横島は文珠を作り出す。しかし、出来たのは一つだけだった。
「あれ、一つしかできない。どうやって降りようか」
「こうすればいいんですよ」
蛍子は突然横島に抱きついた。
「おわ!?」
「これなら一人分ですよね?」
「ま、まあね・・・」
そのまま二人は文珠を使い降りていった。
「それじゃ、また明日学校で」
「はい。さよなら」
蛍子はそう言い、歩き出した。
「そうだ」
蛍子は戻ってきた。
「横島さんにいい物あげます」
そう言うと、蛍子は唇を横島の唇に軽くつけた。
「な!?」
「今の、私のファーストキスです」
「え!?」
「私、横島さんのこと、好きです。横島さんがルシオラさんのこと忘れられくてもいいです。でも、絶対に私のこと、好きになってもらいますから!!」
そのまま蛍子は走り去っていった。
その蛍子を横島は呆然と眺めていた。
「ええ子やな〜」
しみじみと横島は呟いた。しかし・・・
「はっ!?な、何だ、今の殺気は!?」
横島は恐ろしい殺気に気付き、辺りを見回した。
しかし誰もいない。
「気のせいか?しかし、今のは美神さんの殺気だった気がする・・・」
横島の考えは当たっていた。美神除霊事務所・・・
「よ・こ・し・まああああ!!」
美神除霊事務所では、ヒャクメの千里眼を通して、美神とヒャクメがすべてを見ていた。
実は美神、昨日あれだけかっこいいこと言っておきながら、蛍子の登場に一番焦っていたのは美神だったのだ。
「よ・こ・し・まあああ!!許さん!!」
『み、美神さああん・・・』
「何よ!!」
『な、なんだかんだ言って、実は横島さんのこと好・・・?』
「私が横島のこと、なんだって〜!?」
美神はヒャクメの胸ぐらをつかんだ。その目は怒りに燃えている。
『い・・・いえ・・・何でもないです・・・』
ヒャクメはあまりの恐怖に震えている。
「よ・こ・し・まあああ!!」
『(やっぱり、美神さんも横島さんのこと好きなのね〜)』
「ヒャクメ!!」
『は、はい!?』
「行くわよ!!」
『ど、どこにです・・・』
「横島のところよ!!」
『まさか、美神さんも横島さんに愛の告白を・・・!?』
「んなわけないでしょ!!横島を殺しに行くのよ!!」
『そ、そこまでしなくても・・・』
「いいから来い!!」
美神はヒャクメを引きずって事務所を出ていった。
『美神さんも素直になれば・・・』
「なに!?何か言った!!」
『な、何でもないです〜』
その後の横島の運命は知る由もない・・・
※この作品は、J.D.A.さんによる C-WWW への投稿作品です。
[ 煩悩の部屋に戻る ]