転校生

著者:J・D・A


 それは平凡な学校から始まった。
「ニュースよ、ニュース!!」
机を抱えた少女(妖怪?)、愛子が教室の中に走り込んできた。
「何だよ、またかよ・・・」
けだるそうな感じで答える横島。
「いいじゃない。あ、それより大変なの!!」
興奮する愛子。
「なにが大変なんだよ・・・」
「転校生が来るらしいの!!」
その途端、愛子に詰め寄る横島。
「女か!?美人か!?人間だな!?タイガーの時みたいに未確認じゃないだろうな!?」
「大丈夫よ!!さっき職員室で見たけど結構可愛い女の子だったわよ!?」
「オオッシャアアア!!」
ガッツポーズを決め、本気で喜ぶ横島。
「なに騒いでるんだ!?席に着け!!」
横島が叫んでいる中、担任が入ってくる。
「起立、礼、着席」
週番がお決まりの挨拶をする。
「今日はまず、転校生の紹介をする。入ってきなさい」
担任が廊下にいる転校生に声をかける。
「オオ〜」
男子から歓声が上がる。ただ・・・その中に、真っ先に歓声を上げるはずの声はなかった。
それは、横島だった。その転校生に横島は見覚えがあった。横島はただ、その転校生を呆然と眺めていた。
「そ、そんな馬鹿な・・・」
横島は呟く・・・
「ピ、ピートさん・・・」
そんな横島を見ながら、タイガーはピートに声をかけた。
「ああ・・・」
ピートも横島、タイガーと同様に、呆然としながら答えた。
「あ、あの人・・・似てるんじゃないんですカイノー」
「ああ・・・そっくりだ・・・」
タイガーもピートもその転校生に見覚えがあった。
そんな三人を気にもとめず、転校生が自己紹介を始めた。
「初めまして、今回転校してきました、芦沢蛍子です。よろしくおねがいします」
ペコリと頭を下げる。
「か、可愛い・・・」
男子からは再び歓声が上がる。そんな中、横島は呆然としていた。
「そ、そんな・・・ルシオラ・・・?」
芦沢蛍子を見つめながら呟く。
「ピートさん、やっぱり、ルシオラって人に似てますノー・・・」
「似てるどころじゃない・・・あの横島さんが驚くくらいだ・・・」
話し込む二人。
「それじゃー、芦沢さんの席は・・・クッ、横島の隣しか開いてないじゃないか・・・」
舌打ちする担任教師。
「あの・・・私の席、あそこじゃだめなんですか・・・?」
不思議そうに訪ねる蛍子。
「別に構わないんだが・・・隣のヤツが問題なんだ・・・」
「別にいいですよ」
そう言って、さっさと横島の隣の席に着く蛍子。
「よろしくお願いします、ええっと・・・」
蛍子が隣に来たおかげでようやく正気に戻る横島。
「あ、ああ。俺は横島忠夫。よろしく、芦沢さん」
「こちらこそ、横島さん。私のことは蛍子でいいですよ」
「ああ・・・」
再び蛍子に見入る横島。
「(似てる・・・そっくりだ・・・)」
再びおもう横島。
「どうかしました?」
横島が自分の顔を見ているのに気付き、不思議そうに訪ねる蛍子。
「い、いや・・・別に・・・」
慌てて目をそらす横島。
「?」
疑問を浮かべる蛍子。その時・・・
「先生、調理室に悪霊です!!」
家庭科担当の教師が教室に駆け込んできた。何故、この教室に来たかというと、ここには二人のGSと、見習い一人がいるためである。
「なんですって!?おい、横島!ピート!タイガー!愛子!行って来い!!」
担任が叫ぶ。
「へいへい・・・」
怠そうに立ち上がる横島。
「「はい!!」」
気合いを入れて立ち上がるピートとタイガー。
『何で私まで・・・』
不満そうに立ち上がる愛子。
そして四人は出ていった。
残ったのは悪霊の知らせに驚き、慌てる生徒達。
そんな中、不思議そうに蛍子は女生徒に尋ねた。
「あのー・・・何であの人達出ていったんですか・・・?」
「ああ、転校してきたばかりだから、知らないのよね。ああ見えても横島君とピート君はGSなのよ。タイガーはまだ見習いだけどね。それに愛子ちゃんは妖怪なのよ。」
「へ、へえ〜・・・」
変な学校に来てしまったと思う蛍子だった。
「あ、そうだ、見に行かない!?」
「え、何をです?」
「除霊よ、除霊」
「ええ〜!?いいんですか!?」
「大丈夫よ、コッソリ見てれば」
そう言って、蛍子を連れて数人の女生徒が教室を出ていった。

調理室。
『ウガーーー!!』
暴れ回っている悪霊。
「あ〜あ、滅茶苦茶にやってくれちゃって・・・」
嫌そうに呟く横島。
「確かにやっかいそうですね」
「でも、横島さんの文珠で浄化すればいいんじゃないいんですカイノー」
「あ、そうですね。横島さん、文珠出せますか?」
「いや〜、それがさあ・・・」
苦笑いしながら言う横島。
「ないんですか?」
「ああ・・・昨日美神さんの風呂覗くんで使っちまったんだ、アハハハー・・・」
少しは想像していたが、実際に使っていたとは・・・恐るべし!!横島。
「相変わらず、もったいない使い方しますね・・・」
半ば呆れるピート。
アホなことをやっている四人。悪霊は当然それに気付く。
『ウガーーー!!』
「や、やばい!?気付かれた!!」
咄嗟に避ける四人。しかし、悪霊はその後ろを狙っていった。
そこには、先ほど教室から抜け出して来た女生徒達がいた。
「キャーーー!!」
逃げ出す女生徒達。しかし、ただ一人、芦沢蛍子だけは足がすくんで逃げられない様子だった。
「あ・あ・あ・あ・・・」
初めての恐怖に泣きそうになる蛍子。
『ウガーーー!!』
そんな蛍子に襲いかかる悪霊。しかし、すぐさま、悪霊ははじき返された。
「大丈夫か!?」
横島が蛍子を抱え、サイキック・ソーサーで防いだのだった。
「は・・・はい・・・」
「早く逃げろ!!」
悪霊の方を向きながら叫ぶ横島。
「は、はい・・・」
返事をすると、蛍子は逃げ出した。
「この野郎・・・さっさと成仏しやがれ!!」
横島は霊波刀で悪霊に斬りかかる。あっさりと斬られ、消えていく悪霊。
「やりましたね、横島さん!!」
「さすがですノ〜」
「まあ、あれくらいならな・・・」
さすがに蛍子の太股が見えたから倒せたとは言えない横島であった。

昼休み・・・
当然の様に蛍子の周りには人垣ができる。そして、お決まりの会話が進む中で、蛍子がある質問をした。
「あの〜・・・」
「なあに、蛍子ちゃん」
「横島さんって・・・」
「横島君がどうかしたの?あ、もうセクハラされたの!?」
「い、いえ・・・横島さん、彼女とかいるんでしょうか・・・?」
顔を赤らめながら聞く蛍子。
「いないんじゃないの!?でも何で?」
「いえ・・・いないなら私がなりたいなあ、なんて・・・」
その言葉に一斉に引く人垣。
「ほ、蛍子ちゃん・・・横島君だけは駄目よ!!」
「え!?」
「そうよ!!もっと自分を大事にしなきゃ!!」
「え!?え!?」
「そうよ!!それに横島君は私が狙ってるんだから!!・・・あ!?」
その言葉に、沈黙が走る・・・
「い・・・今のはその・・・」
「なによ!?あんたも狙ってたの!?」
「ええ〜!?あなたも!?」
騒然となる人垣。少し遠くでそれを見ているピート・タイガー。
「い、意外に横島さんて人気あるんだ・・・」
「意外ですの〜」
少し驚く二人。

美神除霊事務所・・・
今日も早退してきたので、学校で起こっている事など知らない横島。
「ん、どうしたの、横島君!?元気ないじゃない!?」
不思議と暗い横島に声をかける美神。
「ええ・・・実は・・・」
横島は、ルシオラそっくりの転校生が来たことを美神に話した。
「ふ〜ん・・・そうなの・・・」
「ええ・・・それってやっぱり、ルシオラが生きていたって事じゃないんですか?」
「でも、あなたのことは覚えてないんでしょ!?」
「ええ、だから分からないんですよ・・・」
「まあ、そのうち分かるわよ!?」
「そうだといいんですけどね・・・」
力無く答える横島。

翌日の昼休み・・・
「は、腹減った・・・」
机の上に倒れ込む横島。タイガーも同じ体制である。
「これで、一週間昼飯ぬきかよ・・・」
「つ、辛いノ〜」
そんな横島を見て、蛍子が横島に四角い箱を渡す。
「ん、何これ!?」
「あ、あの・・・もし良かったらこれ食べて下さい・・・」
赤い顔で言う蛍子。
「お、俺に・・・?」
「はい・・・その・・・横島さん一人暮らしって聞いたんで・・・」
しかし、蛍子の言葉は聞かず、ひたすら弁当を掻き込む横島。
「ウオ〜!!久しぶりの味のついた飯ジャー!!」
その横島を見て少々呆れる蛍子。
「う、うまい!!おキヌちゃんの作るヤツよりうめーー!!」
しかし、横島の『うまい』という言葉に感激する蛍子。
「(よかった、喜んでくれた・・・でも、おキヌちゃんて誰?)」
「ふう、うまかった・・・」
「本当ですか?横島さん!?」
「ああ、すごいうまかったよ。ありがとう、蛍子ちゃん」
『ありがとう』という言葉に顔を赤らめる蛍子。
「い、いえ、そんな・・・ところで、さっき言ったおキヌちゃんて誰ですか?もしかして彼女ですか?
「え、おキヌちゃん!?おキヌちゃんは仕事場の同僚だよ。別に彼女でも何でもないよ。でも何で?」
「い、いえ、別に・・・あ、もし良かったら明日も作ってきましょうか?」
「え!?いいの?」
「はい!!」
「じゃあ、頼もうかな」
「はい、頑張って作ります!!それで、その・・・」
「ん、何!?」
「今日の放課後、暇ですか?」
「ああ、今日はバイトもないし・・・することもないな・・・」
「じゃ、じゃあ、放課後、一緒にお買い物しませんか?」
「え、いいけど・・・俺でいいの!?」
「はい!!横島さんがいいんです!!」
「じゃあ、付き合うよ」
「あ、ありがとうございます!!」
その光景を妬ましそうに眺めるタイガー。
「何で・・・何で横島さんばっかり・・・不公平ジャ!!ウオオ〜ン」
泣き出すタイガー。
それを見て呟く愛子。
『青春よねー』
一人で頷く愛子。

放課後・・・
横島と蛍子は二人で楽しそうに歩いていた。
そして・・・少し離れたところから、二人をつける二つの影があった。
「うう〜、先生・・・また他のおなごに手を出して・・・!!」
悔しそうに唇を噛みしめているのは、犬もとい、人狼のシロ。
「ふ〜ん、けっこうアイツもやるわね・・・可愛い子だと思わない!?」
妙に納得した表情なのは、狐もとい、妖狐のタマモ。
「可愛いとか、可愛くないとかの問題ではないでござる!!」
「じゃあ、どーゆー問題なの?」
「先生のあの女癖の悪さが問題なのでござる!!」
「でもさ、別にアイツが悪いってわけじゃないのかもしれないわよ!?」
「ど、どーゆー意味でござる!!?」
「だからさあ、あの女の子が横島を誘ったのかもしれないってことよ」
「そ、そんな事、先生に限ってないでござる!!」
「どーして?アイツだったら、女の子に誘われたら、すぐについて行くと思うけど」
「先生を好きになるのは、先生のそばにいなければ無理でござる!!」
「さ〜、どうかしらねえ!?あの女の子の様子、どう見える!?」
「別に普通でござろうが!!」
「そ〜お?すっごく嬉しそうに笑ってるでしょ!?」
「それがどうしたでござる!!」
「だって、あんな風に笑うなんて、普通好きな人の前だけじゃない?」
「う・・・それはそうでござるが・・・」
「アイツも嬉しそうだしさ、アンタもいい加減、アイツの事、諦めたら!?」
「な、何を言うでござる!!先生だって、拙者の事を好きなはずでござる!!」
「あ〜あ、随分思いこみが激しいわね〜」
「どーゆー意味でござる!?」
「だってよく考えてみなさいよ。アイツ、あのままだと美神さんとくっつくでしょ!?」
「で、でも・・・うまくいかなければ、拙者にもチャンスが・・・」
「甘い!!もしうまくいかなければ、次は間違いなくおキヌちゃんでしょ!?それも駄目だったら、隣のアパートの花戸小鳩って子がいるし。それにアイツ妖怪でもOKそうだし、だったらアイツの学校の、愛子っていう机妖怪もいるのよ!?それにおキヌちゃんに聞いたところだと、おキヌちゃんの学校って、霊能科があるでしょ。そこだと、アイツすごい人気らしいわよ!?こんなにライバルがいるのに、どうやってアイツに好きになってもらうの!?」
「せ、拙者にはプリチーな魅力が・・・」
「よく自分のことプリティーなんて言えるわね・・・」
「べ、別にいいでござろうが!!」
「まあ、百歩譲ってあんたがそうだとして、それでうまくいくと思ってんの!?」
「ど、どーゆー意味でござる!?」
「だって、美神さんには大人の魅力があるでしょ。それにおキヌちゃんやあの娘は女子高校生なのよ!?それ