とら! 第10節 異世界へ・・・


   
 
 
■4月1日 タイガー除霊事務所■
 
エミの事務所や魔鈴の店などがある町より、電車で1時間ほど離れた町の片隅、
築20年、5階建てビルの2階の1室にそれはあった―――

リポート49 『新章!新入所員3人娘!』
【タイガー寅吉除霊事務所】と書かれた南面の窓をバックに大柄の男、タイガーが座っている。
彼の隣りに高校生アルバイトの少女、目の前には3人の新入所員がならんで立っており、
3人共丈の短いスカートをはき、どこで用意したのか同じオフィス服を着ていた。
 
 
魔理 「 六道女学院卒業! 一文字魔理です!
 
 
一文字魔理、18歳。 3年前のクリスマス合コンをきっかけにタイガーと知り合う。
その後タイガーの最も親しい女友達として、現在に至る―――
 
 
水樹 「 同じく六道女学院霊能科卒業、神野水樹です!
 
 
神野水樹、18歳。 心理攻撃を得意とした、もと1年G組の長い黒髪の少女。
高2から1年近く、タイガーと共に実家の神野神社で修行を行った。 時折の逆境には弱い。
 
 
洋子 「 右に同じく、御剣洋子です!
 
 
御剣洋子、19歳。 普段は前髪で目を隠している、もと1年D組の少女。 
当時のクラス対抗戦では、あの美神に唯一強いと言わせ、驚かせた少女である。
人付き合いがよく、普段は極めて明るい彼女だが、戦闘時やたまに見せる怒りはちょっと怖い。
 
するとタイガーの隣にいた長い髪の金髪少女が、魔理の服装を見て―――
 
 
「 魔理の事務服・・・くくっ、似合わねー!(笑)
魔理 「 よけーなお世話だ、あかね!
 
 
その少女は白石茜、高校3年生の17歳。
タイガーの暴走を封じる笛、“獣の笛”を吹くことができることをきっかけに彼の最初の助手となる。
一文字魔理とは中学時代に幾度となくケンカをし、おキヌには幽霊の時に体を貸した経歴がある。
 
一通り挨拶が終わると、タイガーは立ちあがって3人に頭を下げた。
 
タイガー 「 まーとにかく、何かいまさらって気もするんじゃが、こちらこそよろしく頼みます。
  特に魔理サンと洋子サンはワシより1年早くGS免許をとっとるし、3人共除霊の名門六道女学院出身。
  むしろワシのほうこそ、教えてもらうことが多いはずジャ。
  まだ事務所おこして半年もたっとらん、依頼もたまにしか入ってこんような幸先の見えん所じゃが、
  給料のほうもなるべく頑張らしてもらうケエ、皆さん長い目でつきあってやってツカーサイ!!
  年も一つしか違わんケン、呼びかたも所長でなくて今までどおりでええから。
 
魔理 「 そうかー。 そんじゃそうさせてもらうぜタイガー!
 
と、魔理が軽く了解する。
 
タイガー 「 それじゃあさっそく除霊の仕事がはいっとるケン、皆サン霊衣にきがえてツカーサイ!
魔理 「 きがえるったってどこできがえるんだ?
タイガー 「 はっ!!
 
タイガーの除霊事務所は10畳程の広さしかなく、パテーションで区切られた2畳ほどの台所、
そしてトイレがあるだけで、別室というものがなかった。
 
洋子 「 だいたいここ所員の机も置いてないようなとこやしな。
「 あ 机ならとりあえず2つ注文してるぜ。 この狭い所に3つは無理だしな。
 
辺りを見回す洋子に茜が答えた。
 
水樹 「 あのー 台所で着がえましょうか?
魔理 「 そこしかねえだろ。
 
水樹の提案に魔理が同意する。
するとタイガーは顔を赤くして部屋の入口のほうへと向かった。
 
タイガー 「 ワ ワシ先に隣りの駐車場で待っとるケン、準備できたら降りてきてツカーサイ!
 
がちゃんっ・・・タイガーは事務所を出た。
 
水樹 「 ・・・なんか悪いわね。
魔理 「 ひょっとしてこれから私達が着がえるたびにあいつ、外に出るつもりじゃないのか?
洋子 「 寅吉ならありえるな・・・
 
 
        ◆   ◆   ◆
 
 
タイガーが駐車場で待つこと10分、魔理たちが降りてきた。
 
榊の枝を持ち、巫女服を着た水樹。
木刀を持ち、特攻服にサラシを巻いた魔理。
獣の笛を持ち、Gパンにトレーナーの茜。
神通棍を持ち、オフィス服のままの洋子。
 
タイガー 「 ・・・みんな個性的な格好ジャノー。
  魔理サンやあかねサンはまだいいとして、洋子サンはそのまんまじゃ・・・(汗)
洋子 「 着がえ持ってきとらんし うちは無信教やしええやろ。
魔理 「 着がえるのが面倒なだけじゃねーのか? おめえ対抗試合の時も1人だけ制服のまま戦ってたろ。
タイガー 「 明日からは服装は好きにしていいケエ、除霊の時はなるべく動きやすい格好にしてツカーサイ。
洋子 「 オッケー!
 
洋子は軽く了解した。
 
タイガー 「 ・・・まあええか。 そいじゃあ行こか!
 
 
 
■除霊現場 県道のトンネル■
 
車で移動すること2時間。 タイガーは現在通行止めになっているトンネルの前に車をとめ、
車から魔理たちが降りてくると、タイガーは今回の仕事の内容を再度説明した。
 
タイガー 「 車の中で説明したからわかっとると思うが、今回の除霊はトンネル内にたむろする複数の霊ジャ。
  はじめは1体だけだったようじゃが、その霊が周りの霊を呼んで今は数は5・6体になっとるらしい。
  ここを通った車は必ず事故に遭わされてノー、そのせいでここは通れんようになったんジャ。
  霊力は高いが特殊な攻撃はなし、普通の除霊措置で成仏可能ジャ。 除霊の難易度はB。
 
「 えっ? Bランク以上の除霊はダメなんじゃ―――
タイガー 「 エミさんとのその期限は3月までジャ。
  今日の所はとりあえず3人でやってツカーサイ。
  まあ大丈夫だと思うが、もし危なくなったらワシとあかねサンも加勢するケエノ。
 
タイガー除霊事務所にとって、Bランク以上の除霊を行ったことは1度しかない。
その際の除霊は失敗に終わり、タイガーは大怪我を負うことになってしまった。
つまり除霊仕事を始めてまだ日が浅い茜にとって、Bランク以上の除霊を成功させた例はないのである。
 
魔理 「 おもしれえ、そいじゃ一丁やってみるか!!
洋子 「 それじゃあうちと魔理が前衛で攻撃するから、水樹ちゃんは後方支援でええか?
水樹 「 わかりました!
 
 
魔理たちはトンネルの中へと入った。
トンネル内は封鎖されており、中にはドクロの姿をした5・6体の霊が蠢(うごめ)いている。
そしてひときわ大きい、ボスらしき霊が魔理たちに気づいた。
 
 
ボス悪霊 ≪≪ ヌ・・・・そのチカラ、キサマラGSカッ!! 者ドモ、カカレ―――!! ≫≫
 
悪霊たち ≪≪≪ ギイ―――ッ!! ≫≫≫
 
魔理・洋子 「 んじゃやるか洋子、最初からとばしていくぜ!  「 ホーイ。
 
タイガーと茜はトンネルの外から魔理達の除霊を見守っていた。
 
( ・・・そういや魔理が除霊するとこ見るの中学のとき以来だよな。
  どんだけ強くなったのか知らねえが、GSの力って奴を見せてもらうぜ。
 
ばっ!
水樹 「「「  霊体心理攻撃!!!
 
水樹は榊の枝を降り、心理攻撃で幻影を魅せた!
魔理と洋子のマボロシを複数魅せられた悪霊たちは戸惑っている。
 
悪霊たち ≪≪≪ !!?? ≫≫≫
 
魔理・洋子 「「「 うおりゃあっ!!!  「「「 ハアア―――ッ!!!
 
ズバッ スパッ ザンッ!
 
魔理と洋子は、木刀と神通棍で次々と霊に斬りかかる!
そして2人が次々と斬りつけると、霊は徐々に動きを鈍らせていった。
そしてトンネル内にいた悪霊5体の霊が動かなくなってきた頃―――
 
魔理 「 水樹!!
 
魔理が合図すると、水樹がもつ榊の枝が光だす!
 
 
水樹 「「「  神霊よ 邪を祓え!! 御霊代(みたましろ)!!
 
 
パア――――−−−‐ッ
 
 
悪霊たち ≪≪≪  グガ―――――−−‐ッ!!!  ≫≫≫
 
 
御霊代―――かつてタイガーと共に修行していた頃に習得した技であり、
精神攻撃を主体とする神野家が対悪霊との戦いに開発した技である。
悪霊はボスを除き、5体とも全て祓われ成仏していった。
 
「 うそだろ・・・破魔札も結界札も吸印札も、お札を1枚も使わずに5体も祓いやがった!
タイガー 「 なるほどー 弱らせた弱体の霊を、水樹サンの神霊の力をもってすれば、
  吸印札使って専門の人に祓ってもらう手間も省けるかー。 経費の節約にもなるノー。
 
茜は驚き、タイガーは感心した。
 
ボス悪霊 ≪≪ ソンナバカナ・・・! ≫≫
 
水樹 「 くっ・・・ザコ霊は祓えても さすがにボス霊は祓えないみたいね!
魔理 「 充分だぜ水樹! さあ残るはてめえだけだ!
 
ボス悪霊 ≪≪ ヂクショオオオ〜〜〜!! ≫≫
 
 
とまどうボス霊は、半ばヤケクソ気味に魔理たちに襲い掛かってきた!
水樹は榊に霊力を込めてナギナタ状の霊気剣を作りだし、洋子は神通棍に霊気を込める!
そして魔理は木刀を置き、右手の黒いグローブをはめなおし、コブシに霊力を込めると―――
 
 
水樹洋子魔理 「 成仏―――  「 冥府へ―――  「 あの世へ―――
 
 
キラン☆キラン☆キランッ☆
 
 
 して―――――
       落ちい―――――
              逝きやがれ―――――!!!!!!!
 
 
 
ズガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!
 
 
 
ボス悪霊 ≪≪  グギャアアアアアアッ!!!  ≫≫
 
 
 
水樹は榊のナギナタを、洋子は神通棍を、魔理は霊気拳をボス霊に同時に叩きこんだ!
そして魔理はお札を取りだし―――
 
魔理 「 吸印!!  <シュポンッ>
 
―――ボス霊はお札に吸引された。
 
魔理 「 よっしゃ! 初仕事終わりっ!!
 
魔理のもとに水樹と洋子が集まり ハイタッチをして微笑み合う所に、タイガーと茜が歩いてきた。
 
タイガー 「 皆サンお疲れさん!
魔理 「 へへっ どうだ私たちの戦いは?
タイガー 「 ああ びっくりジャ! 想像以上にみんな強くなっとるノー!
洋子 「 まあ今回はただ霊力が強いだけの悪霊やったからな。
  特別妙なワザもっとらんだけに、倒すのも苦労せんかったわ。
 
( あたいにでもわかる。 3人ともマジで強えー、これがゴーストスイーパー・・・・・・
 
3人の実力に驚愕する茜であった。
 
 
こうして所員数が一気に増え戦力も増したタイガー除霊事務所は、次々と除霊の仕事をこなしていくこととなる。
そうして数週間がたったある日、エミの事務所に1人で訪れる茜の姿があった。

リポート50 『魔鳥召喚!』
■エミの事務所■
 
ある日タイガーの除霊事務所でアルバイトをしている茜は、エミの事務所を訪ねていた。
そこにはソファに座り、ひとり本を読んでいる、エミの助手の仙香がいた。
 
「 ちわーっす。
仙香 「 あら 茜さん久しぶりね。
 
―――黒髪を肩まで伸ばし揃えている女の名は峯仙香。
霊体触手の能力を持つ、一文字と同期の六道女学院卒業生の1人である。
かつて水樹と同じクラスであり、学生時代は弓と並び学年で1・2を争っていた実力者である。
1年前からエミの助手をしており、現在はそのままエミの事務所に就職していた。
 
「 エミさんいるー?
仙香 「 いま春華と呪いの仕事にいってるわ。
「 呪い?
仙香 「 あなたも知ってるでしょ。 エミおねーさまの特技は呪術に黒魔術。
  本業はGSだけどここはちょっと特殊でね。
  たまに政府や国際機関の依頼で悪党に呪いをかけたりしてるのよ。
「 呪いって・・・(汗)
仙香 「 といっても そんな悪いことしてるわけじゃないわよ。
  今回の依頼者も警察からで、ヤクの売人をちょっとこらしめる程度だから。
  この前の○○暴力団の組長の逮捕もおねーさまが関わっているのよ。
  いやーあの時の組長の顔といったらもーおかしくておかしくて・・・あはははっ!
 
それを聞いた茜は、あの人に逆らうのだけはやめておこうと再認識した。
 
仙香 「 あ このこと他の人に話したら駄目だからね。
「 言わねーよ。
仙香 「 エミおねーさまは夜まで帰らないわよ。 どうする?
 
茜は少し考えた後―――
 
「 なあ ちょっと聞いていいか?
仙香 「 あら何かしら?
「 あんた六女で結構強いほうだったんだろ?
仙香 「 結構強いほうとは心外ね。 実技の成績は弓と並んで学年トップだったわよ。
  それにあなたのところの所長、タイガーにも勝ったことあるわよ。
「 え!?
仙香 「 2年前の資格試験で、タイガーに勝ったのこの私よ。 聞いてなかった?
 
そのことについて初耳だった茜は、仙香にいっきに詰めよって頼みこんだ。
 
「 なあ、霊力を強くするにはどうしたらいいんだ!?
 
 
―――茜は仙香に事の次第を話した。
 
魔理たち3人が入所してからというもの、自分の出番がすっかりなくなってしまったこと。
はじめ数日は事務仕事なんかを教えてはいたが、それさえ覚えたらあとは実践力のみのこの世界。
もともと自分はタイガーの精神制御のために呼ばれたのだが、
その彼の出番もないくらい魔理たちは強いということ。
認めたくはないが、認めざるを得ない心境を仙香に語った―――
 
 
 
仙香 「 ・・・なるほどね。 まあ確かに半年前に力に目覚めたあなたと
  3年間除霊専門の高校に通ってた一文字さん達じゃあ力の差はあって当然だわ。
「 だからよー 強くなる方法をエミさんに聞きに来たんだ!
  なるべく簡単で ぱーっと一気にレベルアップするやつ!
きっぱり
仙香 「 んなもんないわよ。
  まあそうよねえ〜 3人とも六女の中でもベスト10に入る強さだからね。
  水樹も実力は充分にあるから今年は楽に資格をとれるでしょうし・・・
「 それよ!!
仙香 「 え!?
 
「 その資格、あたいも取る!!
 
仙香 「 ・・・・・・・・・・・・・
 
仙香は表情には出さなかったが、その沈黙から茜は仙香の考えを読みとり、顔を赤くそめた。
 
「 あ―――っ、いま無理だと思ったろ!!
仙香 「 あはははっ ごめんなさい、まあ受けるのは自由だから。
「 むかっ! 帰る! これだからエリートってヤツは嫌いなんだよ!
仙香 「 待ちなさいよ。 いきなり霊力が高くなる方法は知らないけど、
  あなたの能力でレベルの高い霊を退治する方法なら知ってるわよ。
ぴくっ
「 それホントか!?
仙香 「 え ええ・・・(汗)
 
茜は仙香に詰めより、目を輝かせていた。 とりあえず仙香は落ちついたあと―――
 
こほん‥
仙香 「 ・・・聞くけど、あなたの使う“獣の笛”はどういう効果があるの?
「 だから所長の精神コントロールだろ。
仙香 「 他には?
「 ・・・なんかあったか?
仙香 「 あなたねー 動物霊を操れるってこと忘れてない?
「 ・・・・・・・・・・・<ぽんっ> おおーっ!
 
茜は納得して手を打った。
 
仙香 「 あなた本気で忘れてたわね。 ちゃんと“獣の笛の魔導書”は読んでるの?
「 いや〜 ははは!
 
 
獣の笛とは、エミがタイガーに使ってた笛のことで、
獣の笛の魔導書とは、エミが茜に渡した獣の笛の説明書のことである。
仙香はひとつため息をついた後、淡々と話しだした。
 
 
仙香 「 ・・・いい、獣の笛はもともと動物を操るためのもので、
  動物霊などをコントロールし、悪霊と戦わせたり身を守ったりすることができるものなの。
  氷室さんのネクロマンサーの笛や悪魔パイパーの笛(ラッパ?)なんかもそうだけど、
  音の支配というものは、少量の霊力で強力なパワーを発揮することが可能なものよ。
  なぜなら音波攻撃は、基本的に聴覚のあるものなら全てに反応するものだからね。
 
「 ・・・で、具体的にどうすりゃ動物を操れるんだ?
仙香 「 そのための魔導書でしょ。 ちゃんと読んで勉強しなさい。
「 うっ・・・(汗)
仙香 「 魔導書は持ってきてるの?
「 一応かばんの中に―――
 
茜は仙香に獣の笛の魔導書を渡した。 仙香はしばらく読んだあと本をとじた。
 
ぱたむ・・・
仙香 「 なるほどね。 エミおねーさまが訳してくれてるとはいえ、
  専門用語が多く書かれていて、霊能の知識のないあなたが取得するには少し難解なものね。
「 だろ〜〜〜!!
仙香 「 でもこの程度なら英文を訳すみたいに、ちょっと辞書を引く程度で理解できると思うけど。
むかっ・・・
「 どーせあたいはバカだよ!!
仙香 「 ごめんごめん。 ・・・明日あいてる?
 
「 ?
 
仙香 「 私でよければ特訓に付き合ってあげるわよ。
「 いいのか?
仙香 「 あなたの霊力を最初に見つけたのも私だしね。 ただし厳しくいくわよ。
「 へっ 望むところだ。
 
 
その日から茜は事務所に休暇をとり、獣の笛をマスターするための特訓を行い、仙香も仕事がオフの時に茜に協力をしてあげていた。
 
 
―――そして10日後。
 
 
 
■タイガー除霊事務所■
 
その日、事務所には所員の魔理と水樹がいた。
水樹は事務所に2つしかない所員用の机に座ってお札の整理をしており、
魔理は来客用の椅子に座り、書類に目を通しながらあくびをしていた。
 
魔理 「 ふあ〜〜〜っ・・・そういやあ最近あかねの奴見ねえな。 週3日は来てたのに。
水樹 「 茜ちゃん長期休暇とってるわよ。
魔理・水樹 「 なんで?   「 さあ。
魔理・水樹 「 もしかして!   「 もしかして?
にやっ
魔理 「 ひろい食いして腹でも壊したな。
チョップ!
「 んなわけねえだろ。
 
茜は後ろから魔理の頭に軽くチョップをくらわした。 魔理は驚いて振りかえる。
 
魔理 「 あかねいつの間に!?
「 事務所の入り口の扉、開けっ放しにしといて何いいやがる。
 
仙香 「 はあ〜い♪
水樹 「 仙香!!
 
水樹は、茜の後ろから出てきた仙香に驚き、席から立ちあがる。
 
魔理 「 なんだなんだ? 珍しい組合せじゃねーか。
仙香 「 まーね。 タイガーは?
魔理 「 洋子と厄珍堂に買出しに行ってるぜ。 これからBランクの仕事が入ってるからな。
 
茜と仙香は顔を見合してうなづく。
 
仙香 「 その仕事、茜さんに先陣を任せてみない?
魔理 「 は?
 
仙香の突然の無謀な要望におどろく魔理。 すると水樹は―――
 
水樹 「 なに言ってんのよ仙香! 茜ちゃんにんはまだ――
仙香 「 ま 意見はいろいろあると思うけど、とりあえずまかせてみてよ。
  それでダメだったらすぐ交代させて頂戴。
 
魔理・水樹 「「 ・・・・・・・・・・・・
 
 
その後タイガーと洋子が事務所に戻り、事情を聞くとタイガーは了解した。
タイガーの車は5人用だが、この日は仙香も加わり6人という狭さのなかで現場に向かう。
その途中、茜はこの10日間動物霊を操る練習をしていたこと、その間仙香に手伝ってもらっていたことも話した。
 
 
 
■除霊現場 工事中の建物■
 
タイガー達は、3階建ての建物の中に入った。
 
タイガー 「 相手は強力な悪霊ジャケエ、ちょっとでも危なくなったら皆で一気にかかるケエノ。
  水樹サンはいつでもあかねサンに防御結界がかけられるよう準備しておいてツカーサイ。
「 大丈夫だって。 あたいにまかせときな!
魔理 「 あかねの奴、結局何の動物霊を操ったのか言わなかったな。
仙香 「 ・・・霊じゃないんだけどね。
 
仙香がつぶやきに、魔理は「?」だった。
 
仙香 「 ま、見ればわかるわ。
水樹 「 それにしても仙香ったら、最近外出が多いかと思ったら茜ちゃんのところにいたのね!
仙香 「 ごめんね水樹。 あのコがちゃんと獣の笛をマスターするまで口止めされてたから。
 
 
―――六道女学院を卒業した彼女たちは、その後女子寮を離れていた。
魔理と洋子は事務所の近くの同じアパートに住んでおり、
仙香と水樹は、エミとタイガーの事務所の中心に位置するマンションに一緒に移り住んだ。
同じクラスであり、女子寮にいた時も同じ部屋であった2人は仲がよく、
とくに水樹は仙香を1番の親友だと思い、頼りにしていた。
仙香も最初は嫌がっていたが、水樹が1人暮らしは怖いとか言いだしてあまりにも自分に頼るため、
家賃も半分ですむことも考慮し、結局はまた一緒に住むこととなったのである―――
 
 
ゴオオオ―――ッ
悪霊 ≪ オノレGS! マタモ私ノネムリノ邪魔ヲスルノカー!! ≫
 
 
3メートル以上の大きな悪霊が姿を現すと、茜は口に獣の笛を近づけて呪文を発した。
 
 
<  鳥よ! 鳥よ!  ぬばたまの夜の沼に漆黒と羽ばたいて!!
 
   そも、 いかなる不死の翼、 はたは眼の造りしか、 汝がゆゆしき―――
 
 
魔理 「 おい、今【鳥】って言わなかったか?
仙香 「 そう、【鳥】よ。 それもこの世界の生き物じゃない。
 
 
<  我が命により時空の扉を開き、 再び降臨するがいい!!  鳥よ!! 鳥よ!!
 
ピュルルルルルルルルルルルッ
 
茜が笛を吹くと、彼女の目の前に50センチ程度の黒い球体状の歪みができ、そこから黒い物体が飛びだした!
 
ばさばさばさばさっ
≪≪  ギェギェギェギェ―――ッ!!!  ≫≫
バシュンッ
悪霊 ≪≪ グオオオッ!! オノレヨクモ・・・!!  ≫≫
 
体長50センチぐらいの黒い鳥が、悪霊の霊体を貫く!
 
魔理 「 何だあの鳥は!? 一瞬で悪霊の腹を貫きやがった!!
洋子 「 前に授業で習ったことがある! 禿鷲(ハゲワシ)に似た外見を持ち、
  肉食で獰猛(どうもう)な猛禽類(もうきんるい)、魔界の沼地に住む魔鳥!!
魔理 「 難しい言葉ばっか使うなよ・・・。(汗)
 
聞きなれない言葉を使って説明する洋子、困惑する魔理。 そして仙香が言った。
 
 
 
仙香 「 そう スカベリンジャーよ!!
 
 
 
ピュルルルルルルルルルルルッ
 
ばさばさばさばさっ
≪≪  ギェギェギェギェ―――ッ!!!  ≫≫
 
バシュバシュバシュンッ
茜の呼びだしたスカベリンジャーは高速で悪霊の周囲を飛び回り、
悪霊の霊体を次々と喰い破って霊力をけずっていった。
 
水樹 「 すごい・・・本当に1人で倒しちゃう勢いよ。
 
感心する水樹。 スカベリンジャーの登場に疑問をもった洋子は仙香に聞いた。
 
洋子 「 でも何であの魔鳥なん? もっと品のある奴を呼べんかったん?
仙香 「 いやーそれがね、魔導書に書かれてあることはいろいろやってみたのよ。
  生きてる動物・死んだ動物霊・動物妖怪・・・そして魔界生物。
  その中で唯一制御できたのがあのスカベリンジャーよ。 しかも召喚能力のオマケつき♪
水樹 「 召喚ってまさか茜ちゃんが!?
仙香 「 まあ確かにあの子には信じがたい能力だけど、現にこうして召喚してるわけだし。
水樹 「 だけどスカベリンジャーは肉食なんでしょ!? もし人を襲ったら!
仙香 「 大丈夫よ水樹。
  肉食といっても死肉しか食べないし、特にあのスカベリンジャーは人にになついてるわ。
  茜さんがコントロールしている限り、人を襲うってことは・・・
 
ガッガッガガッ
≪≪  ギョワワーッ!!!  ≫≫
タイガー 「 い、痛いっ!! わっしの頭を喰うのはやめてクレ―――!!
 
いつのまにかスカベリンジャーは悪霊を攻撃するのをやめ、タイガーの頭をつついていた。
 
水樹 「 仙香、言ってるそばから人を襲ってるわよ。
仙香 「 ・・・・・・えーと。(汗)
 
魔理 「 茜のコントロールが甘くなってきてる!! 行くぞ洋子!!
洋子 「 ホイ。
 
 
―――魔理と洋子は悪霊と戦い、1分としないうちに吸印札に封じることができた。
悪霊はスカベリンジャーの攻撃で、大半の霊力を奪われていたのである―――
 
 
だんっ
「 ちくしょう! もうちょっとだったのに! もうちょっとであたい1人であの悪霊を祓えていたのに!
タイガー 「 除霊はチームで行うもんジャ、あかねサンはよう頑張ったよ。
「 所長・・・
 
地面を叩いて悔しがる茜に、タイガーは優しく声をかけた。
 
タイガー 「 みんなあかねサンの成長ぶりは認めとるし、そう焦ることないケン。
魔理 「 ま いいんじゃねーか、あかねに似て品のない鳥で。
「 あんだと魔理ー! てめえに言われたかねーよ!!
魔理 「 そりゃどういう意味だ!!
「 言葉通りの意味だバカ!!
 
水樹・洋子 「 やめなさいよ2人共!  「 ほっとき、面白いから。
 
水樹はオロオロし、洋子は笑っていた。
 
タイガー 「 ・・・・・・・・・
仙香 「 どうしたのタイガー?
 
考え込むタイガーに、仙香がたずねた。
 
タイガー 「 いやーあの鳥、前にどっかで見たことあるんじゃが・・・
仙香 「 そんなまさか!? あのスカベリンジャーは魔界に生息する鳥で、
  実際に目撃された例はほとんどないわ。 いったいどこで?
 
 
タイガー 「 魔界・・・・・・異界・・・・・・<ハッ>!? あ、そうか!!
 
 
 
 
 
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 
■異界■
 
≪≪≪ ギァギァギァギァ――ッ!!  ≫≫≫
 
数百羽ものスカベリンジャーが、髑髏(どくろ)の形をした山の上に屯(たむろ)っている場所。
ここは異界。 毒の沼地が広がるスカベリンジャーの群生地である。
そんな地獄を思わせるような場所に、1件の西洋風の古いレンガの家がポツンと建っていた。
 
ヴュン!
 
その家の中にテレポートしてきた1人の魔女がいた。
 
「 ただいま小鳥(ことり)さん。 今日はいい死肉がはいったわよ。
 
ゲップ・・・
≪ ・・・・・・・・・ ≫
 
「 あら? いつもはお腹をすかしているのに変ねー、どこかで拾い食いでもしたのかしら?
 
 
―――彼女の名は魔鈴めぐみ。 中世魔法技術を現代に蘇らせている、世界屈指の魔女である。

リポート51 『魔鈴の家』
 
■翌日の昼 タイガー除霊事務所■
 
こんこんっ☆
 
タイガーが座ってる所長席の後ろ、【タイガー寅吉除霊事務所】と書かれた窓の外で、
ホウキに乗った魔鈴が出前の料理を持ってやってきた。
 
魔鈴 「 タイガー君お待たせー! ランチセット5人前、お届けに参りましたー!
タイガー 「 すまんノー こんな遠い所まで出前させて。
魔鈴 「 いいんですよ、空に渋滞はありませんから! 遠慮なさらずにどんどん出前してくださいね!
 
タイガーの事務所は5階建てビルの2階にあり、魔鈴はホウキに乗ったまま料理を手渡した。
 
「 おい・・・浮かんでるぞ。(汗)
洋子 「 茜は魔鈴さんが箒に乗るとこ見るの初めてなんやな。
  前来た時は玄関から入っとったし。 魔鈴さんは魔女なんよ。
 
洋子が答える。
 
「 それで店の名前が“魔法料理”だったのか・・・まあ今更魔女が出てきた所で別に驚かねえがよ。
魔理 「 さっき窓の外の人影に、一番びびってたじゃねえか。
「 び、びびってねえよ!!
魔理 「 ムキになる所があやしいぜ。
「 なってねえよ!! ケンカ売ってんのか!!
 
喧喧とする魔理と茜。 その様子をみた魔鈴は微笑んで言った。
 
魔鈴 「 仲いいわねー。 親友は大切にするものね♪
 
 
魔理・茜 「「  だれが親友だ!!
 
 
洋子 「 息 合っとるやん♪
 
洋子がつっこむ。 魔鈴はニコニコしながら―――
 
魔鈴 「 タイガー君いいわねー、こんなかわいい娘たちを4人もはべらしちゃってー!
タイガー 「 は はべらすなんてとんでもない!! たまたまなりゆきでこうなってしまったわけで・・・!
魔鈴 「 ふーん、なりゆきね♪
 
微笑を浮かべる魔鈴。
 
タイガー 「 そ、それよりも今日はちょっと聞きたいことがあったんジャ。
魔鈴 「 あら、なにかしら?
 
 
―――タイガーは昨日茜が召喚したスカベリンジャーについて、魔鈴に聞いてみた。
 
 
魔鈴 「 そう、あなただったのねー。 “小鳥さん”にエサを与えてたのは。
魔理 「 “小鳥さん”って?
魔鈴 「 私になついているスカベリンジャーの名前よ。
 
『『『 ・・・さすが魔女。 』』』
 
スカベリンジャーの名前を“小鳥さん”にするあたり、魔鈴の人柄がうかがえる。
 
タイガー 「 ワシは前に一度、魔鈴サンの自宅がある異界に招待されたことがあったケン、
  その鳥のことを覚えとったんジャ。
  でもあかねサンが召喚した鳥がまさか、魔鈴サンが飼っとったものじゃったとはノー。
魔鈴 「 あのコ、死肉しか食べないと思ったら、霊の霊力そのものまで食べちゃうなんて・・
  きっと私がいろんな死肉を食べさせているうちにヘンな能力を持っちゃったのね。
水樹 「 え? 死肉って・・・
魔鈴 「 ○○の内臓とか××のモモ肉とか・・・あ、○○の内臓は胃を強くする効果があってね―――
水樹 「 魔鈴さんその話はいいです・・・(汗)
 
水樹は聞いたことを後悔した。
 
魔鈴 「 あ そうそう、茜さんの召喚能力のことなんだけど、正確には小鳥さんの能力なのよねー。
「 え?
魔鈴 「 あの子にはお使いさせるために、私が異空間とのチャンネル能力を与えているのよ。
  おそらく偶然茜さんの笛の音が聞こえて、それ以降エサ(霊力)につられて呼ばれてたわけね。
  さすがに魔方陣もなしに笛の力だけで召喚するのは、ちょっと難しいからね。
 
それを聞いた魔理は―――
 
魔理 「 な〜んだ、結局ほとんどスカベリンジャーの能力だったわけか。
「 そんな・・・
 
さすがに茜は少し落ち込んでいた。 すると魔鈴が―――
 
魔鈴 「 あ でも勘違いしないでね。
  異空間移動はそれなりの霊力使うから、その分の霊力を茜さんが肩代わりしているってこと。
  少なからずあなたの努力と能力があの子を呼べたことに繋がったのよ。
  それは間違いなくあなたの才能なんだから。 だから自信もっていいことなのよ。
「 そ そうか。
 
魔鈴のフォローに、茜は少し自信を取り戻した。 
 
タイガー 「 才能といえば魔鈴サンも魔法使いの才能をもっとるケンノー。
魔鈴 「 あら タイガー君の精神感応力もすごいじゃない!
タイガー 「 いやー精神感応者は結構多いケン、水樹サンの心理攻撃もそうじゃし、
  仙香サンの霊体触手も一種の精神感応じゃし・・・
水樹 「 でも確かに“魔法使い”ってなると魔鈴さん以外の名前は聞かないわね。
 
水樹が言うと、魔鈴は少し真面目な顔をしながら―――
 
魔鈴 「 そうね・・・今でも“魔女”という存在は社会的にあまりうけはよくないし、
  たとえいたとしてもみんな隠してると思うわ。 力に気づかないままの人も多いでしょうし・・・
 
そこまで話した魔鈴は少し暗い顔をしたが、すぐにもとの明るい魔鈴に戻って―――
 
魔鈴 「 そうだ! 明日は定休日だし、せっかくだから私の家に来てみませんか?
洋子 「 !!
 
驚く洋子。 魔理と水樹がたずねた。
 
魔理 「 魔鈴さんの家ってことは“異界”にってことですか!?
水樹 「 いいんですか!?
魔鈴 「 もちろん! 是非みなさんでいらしてくださいね!
 
 
喜ぶタイガー・魔理・水樹・茜。
しかし洋子だけは神妙な顔をしていたのだが、前髪で顔が半分隠れているせいもあり、
タイガー達はその表情の変化に気がつかなかった・・・
 
 
 
 
 
■魔法料理 魔鈴 本日定休日■
 
翌日、タイガー除霊事務所のタイガー・魔理・水樹・洋子・茜の5人は、魔鈴の店にやってきた。
そして魔鈴は、タイガー達を中央に集めると―――
 
魔鈴 「 じゃ、行きますよー。  <パチッ>
 
グュンッ
 
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 
■異界 魔鈴の家■
 
魔鈴が指を鳴らすと、一瞬で異世界にある魔鈴の家に到着した。
レンガ建ての家に数々の骨董品や、いかにも魔女が使いそうな実験用具がずらりと並んでいる。
 
水樹 「 す・・・すごいインテリアのおうちですね・・・
洋子 「 拷問器具に死神の肖像画、そして謎の生物のホルマリン漬けがずらり・・・さすが魔女の家やな。
「 おい 外見ろ外! 空の色がなんか変だぞ!!
魔理 「 本当にここ、“異界”なんだな。
 
ここにはじめて訪れる水樹・洋子・茜・魔理は、興味深そうに周りを見回していた。
 
ガッガッガガッ
小鳥さん ≪ ギョワワーッ!! ≫
タイガー 「 い、痛い!! だからわっしの頭を喰うのはやめてクレ―――!!
 
「 あ! あたいが召喚したスカベリンジャーだ!!
魔鈴 「 まあ・・・♪ めったに人に馴れない【小鳥さん】が、タイガークンを気に入ったみたい!
  横島クンに続いて2人目ね!
魔理 「 気に入ったって・・・それは美味そうだっていう意味か?(汗)
 
 
魔鈴はタイガー達を居間へと案内し、異界のハーブを使用した紅茶とお茶菓子をさしだした。
体長50センチ近い漆黒の魔鳥スカベリンジャーは、茜の肩の上に乗っている。
 
 
タイガー 「 あ あかねサン、ちゃんとそいつを捕まえておいてツカーサイ。
「 大丈夫だって。 こいつあたいの言うことは聞くからよ。 なー小鳥。
ばさばさっ
小鳥さん ≪ ギェギェ――ッ!! ≫
 
翼を羽ばたかして返事をするスカベリンジャー。
そして窓の外の様子をうかがっていた水樹が魔鈴に聞いた。
 
水樹 「 あのーここって“魔界”なんですか?
魔鈴 「 う〜ん正確には違うけど、一応魔界と呼ばれる世界とはつながってますよ。
  でもここは魔界から離れてるし、この辺りまで魔族が足を延ばすことなんて滅多にないわ。
  それでもたまに妖怪や魔獣が侵入することがあるけど、
  スカベリンジャー達が事前に教えてくれるからそれほど危険なとこでもないわ。
 
魔理 「 でもすごいよなー 異界と行き来できる人間なんてそうざらにはいないし。
水樹 「 ホント 魔法が使えちゃうなんて羨ましいですねー!
 
魔理と水樹がうらやましがると、魔鈴は神妙な顔つきになり―――
 
魔鈴 「 う〜ん 確かに横島クンの“文珠”とか 美神さんの“時間移動”ほどじゃないけど、
  “魔法”はわりと貴重な能力でしょうね。
  その力の使い方次第でかなり危険な代物になっちゃうから。
  それ故に神族や魔族、時の権力者から狙われることも少なくないのよ。
 
タイガー 「 てことは魔鈴サンも狙われたことがあるんカイノー。
魔鈴 「 神族からのお誘いはないけど魔族からのスカウトは何度かありましたよ。 
  もちろんお断りしてますけどね。
洋子 「 魔族の誘いを断って危なくないん?
魔鈴 「 実は先週もお誘いがありましたけど丁重にお断りしましたわ。
黒猫 《 ・・・力づくで追い返してたニャ。
 
にこやかに答える魔鈴に対し、いままで黙って床で寝ていた魔鈴の使い魔である黒猫が言った。
 
魔鈴 「 こら、人聞きの悪いこと言わないの!
  相手の魔族が聞き分けのない子だったから、ちょっと魔法で脅かしてやっただけじゃない。
魔理 「 なあやっぱり“魔族”って危険な奴らなのか?
タイガー 「 そういえばあかねサンはまだ魔族と会ったことがなかったんカイノー。
水樹 「 タイガーさんはあるんでしょ?
タイガー 「 ああ、エミさんの所におった時はレベルの高い依頼ばかり引き受けてたからノー、
  必然的に妖怪や悪魔、ときには魔族と戦ったこともあった。
  じゃがワシ一人で倒せたことはないケン、基本的に悪霊とはレベルが違うしノー。
「 ふーん・・・・・・
 
茜は小鳥の頭をさすりながらなんとなく納得した。
 
魔理 「 魔鈴さん、魔法って誰にでも使えるものなのか?
魔鈴 「 いいえ一文字さん。 まず“魔力”を持ってない人は使えないわ。
魔理 「 魔力? 霊力とどう違うんだ?
魔鈴 「 うーん基本的に魔力は魔族の力のことを指すんだけど、この場合ちょっと違うのよね。
  結局は特別な力ってことだけど――
ばさばさばさっ
小鳥さん ≪ ギェギェギェギェ――ッ!! ≫ 
「 ど どうした小鳥!?
 
魔鈴が突然立ち上がると、スカベリンジャーが急に騒ぎだした。 

リポート52 『ハーピー襲来』
タイガー・洋子 「 この妖気は!!  「 外に何かいる!!
 
タイガーや洋子も、異様な気配に反応する。 するとそこに―――
 
 
   ≪ 出てこい魔鈴めぐみ! この前はよくも部下をやってくれたな!
     これが最後通告じゃん! その力を我々魔族のために役立てるじゃん! ≫
 
 
家の外から女性の声が聞こえてきた。 魔鈴は黒い三角帽子を手にすると―――
 
魔鈴 「 ・・・どうやら魔族が来たようね。 あなたたちはここにいて。
タイガー 「 魔鈴サン!
にこっ
魔鈴 「 大丈夫です。 すぐに終わらしますから。
 
魔鈴は笑顔でこたえたあと、三角帽子をかぶり、ホウキを持って家の外へ。
タイガー達は窓から外の様子を見ると、沼地の上空に人型の女性系妖怪が空に浮いていた。
 
魔理・洋子 「 あれは―――!  「 人面鳥ハーピー!?
 
ハーピーは茶褐色の翼と髪の毛をしており、後ろ髪の一部が尻尾のように長くのばしていた。
そのハーピーが魔鈴をにらむと―――
 
ばさっばさっばさっ
ハーピー ≪ ほう・・・キサマが魔鈴めぐみか!
 
 
家の中・・・おキヌからハーピーとの戦いのことを聞いたことのある魔理が―――
 
魔理 「 あの魔物って確か美神さんが倒したんじゃなかったのか?
タイガー 「 別にハーピーが1羽とは限らんじゃろ。 魔界にはそれこそハーピーの里があるかもしれん。
  まあなんらかの処置により復活した可能性もあるしノー。
 
ばさっばさっばさっ
ハーピー ≪ もう一度言う! その魔法の力を我々魔族のために役立てるじゃん!
魔鈴 「 何度も言わせないで! 私は魔族の誘いには乗らないわ!
ハーピー ≪ なるべく自分の意思で連れてくるようにとの命令だけど仕方ない・・・
  このハーピーの瑠羽(ルウ)様が力づくであんたを連れていくじゃん!!
 
そう言うとハーピーは猛スピードで急降下し、足の爪で魔鈴を攻撃をする!
魔鈴はかろうじて足の爪を横にかわすが・・・!
 
魔鈴 「 くっ・・・言ってもわからないようね!
 
ビュンッ
魔鈴は箒に乗り、ハーピーに向かって霊波攻撃を放つ! だがハーピーも魔鈴の攻撃をかわす!
 
 
ハーピー ≪ 空中戦であたいに勝てると思ってるのかー!!
 
 
お互い高速で飛び回りながら空中で激しい戦いを繰り広げていた。
だがスピードはハーピーのほうが幾分早く、魔鈴は苦戦しているように見えた。
 
「 すげえ・・・だけど魔鈴さん、おされてんじゃねーのか?
洋子 「 ああ ハーピーのほうが早いし強い!
魔理 「 やばいんじゃないのか!?
  あの魔物って確か、美神さんとお母さんの美智恵さんが2人ががりで倒したんだろ!?
タイガー 「 しかもあのハーピーはかなり強そうジャ! いくら魔鈴サンでも1対1じゃあ分が悪い!
「 いこうぜ! あたいらも加勢しよう!!
 
茜の言葉に全員がうなづいた。
 
魔鈴 ( くっ・・・このハーピー強い!! この前来たハーピーとはレベルが違う・・・!
 
苦戦を強いられていた魔鈴。
ハーピーは自分の翼から1枚の羽根をもぎ取り、霊力を込めると―――
 
ハーピー ≪≪  これでもくらえ!! 羽根の弾丸(フェザー・ブレッド)!!!!!
ドガアッ!
魔鈴 「「「  キャアッ!!  ―――しまった!!―――
 
パーピーの放った羽根が、魔鈴の身に着けているレザービスチェを直撃する!
その衝撃で魔鈴は箒から手を放し、十数メートルの上空から地面に落とされるが―――
 
がしっ!
 
―――そこにタイガーがとびこみ、地上に落ちてきた魔鈴を受け止める!
 
ハーピー ≪ なに!? 他にも人間が!?
 
タイガー 「 魔鈴サン大丈夫か!?
魔鈴 「 ええ なんとか・・・
 
そして上空にいるハーピーの前に魔理・洋子・水樹・茜が立ちふさがると―――
 
魔理 「 よくも魔鈴さんを! 降りてきて勝負しやがれ!!
 
ハーピー ≪ フッ! 降りてこいだと? 何でわざわざ人間の言うことを聞く必要があるんだ?
  だけど勝負ならしてやるじゃん! これでもくらえ!!
 
バッ!
 
ハーピーが羽根を投げようとした時、とっさに水樹はハーピーとの間に結界をはろうとする!
すると魔鈴が―――
 
 
水樹 「 神の結界(かみのけっかい)!!!! 
 魔鈴         「 いけない!! みんなよけて―――
  ハーピー                ≪ ―――羽根の弾丸(フェザー・ブレッド)!!!!
 
 
異界の空に、聖なる防御結界を張る水樹と魔鈴の叫ぶ声、
そして羽根を投げるハーピーの声がほとんど同時に響き渡る!
 
ズガアッ!!!!!
 
そして高速で放たれた羽根は、水樹の張った結界に一瞬衝突したかと思いきや、結界をつらぬき、
白いロングスカートをはいていた水樹の左足をかすめた!
 
水樹 「 きゃっ!!!!!
 
水樹はスカートの上から左足を押さえながらしゃがみこむと、白かったスカートがみるみる赤く染まりだした。
 
タイガーたち 「「「「  水樹(サン)!!!!
 
洋子はすばやく水樹のスカートを太ももまでまくり、スネの辺りから血が流れているのを見ると、
すかさずヒーリングを行った。 水樹は目に涙を浮かべながら足をおさえている。
 
水樹 「 ・・・いつったぁ〜〜!!
洋子 「 だいじょうぶ骨にはいっとらん!
魔理 「 私も手伝う!
 
魔理も水樹にヒーリングを行った。
 
タイガー 「 どういうことジャ!? 水樹サンの結界がいとも簡単に―――
魔鈴 「 ここは異界よ。 人間界のように、聖と魔の力がバランスよく繋がってるわけじゃない。
  この世界では魔界からの力の影響が大きいのよ。
  だから魔族のハーピーの力は増し、神野さんの扱う聖の力はここでは半分以下に落ちるのよ。
タイガー 「 そんな・・・!
‥キッ
「 ・・・てめえよくも水樹さんを!
 
青ざめるタイガー。 話を聞いて水樹に目をやった茜は、獣の笛を手にし口にあてた!
 
ピュルルルルルルルルルルルッ
< 鳥よ!! 鳥よ!!
 
ばさばさばさばさっ
小鳥さん ≪  ギェギェギェギェ――ッ!!!  ≫
 
茜は「小鳥」と呼ばれたスカベリンジャーを操り、ハーピー向かって飛びださせたが―――
 
ハーピー ≪ フッ! 同じ鳥族でも格上のあたいに勝てると思っているのかー!! <カッ>
 
ハーピーの目が光る! 
するとスカベリンジャーは反転して茜のほうに向かって飛び込んできた!
 
「 そんなっ!?
 
ズザッ―――茜は瞬時にしゃがみこみ、スカベリンジャーの攻撃をかわす!
どうやらハーピーがスカベリンジャーを操っていたようだ。
 
ハーピー ≪ ここはあたいと同じ鳥族、スカベリンジャーのテリトリー!
  人間(ザコ)が何人いようとわけないじゃん! ピ―――ピピピピ―――ッ!!
 
ばさばさばさばさばさばさばさっ
≪≪≪  ギェギェギェギェギェギェギェギェ――ッ!!!  ≫≫≫
 
ハーピーは口笛を吹きだすと、山にたむろしていた数百羽のスカベリンジャーの群れが反応し、
こちらに向かって飛んできた!
 
魔鈴 「 スカベリンジャーたちを操ってる! あんな群れに襲われたらひとたまりもないわ!
「 ちくしょう! あたいの笛じゃあ効きそうにねえし!
洋子 「 あそこじゃうちの神通棍じゃ届かん! 霊体ボウガンも事務所に置いたまんまやし・・・!
 
その横で、水樹にヒーリングを行ってた魔理は、魔鈴の落とした箒(ホウキ)を見つけると―――
 
魔理 「 洋子! 水樹をまかした!
洋子 「 どうするつもりや魔理!
魔理 「 魔鈴さん ホウキ借りるよ!!
 
魔理はホウキを拾いまたがると、そのままハーピー目掛けて一直線に飛んでいった!
 
タイガー・洋子・魔鈴 「 魔理サン!!  「 一人じゃ危ない!!  ( あのコ・・・!!
 
タイガーと洋子が叫ぶ中、魔鈴は驚いた表情を見せていた・・・
 
 
ビュンッ!
魔理 「 スカベリンジャーの群れが来る前にてめえを倒してやるぜ!! ハーピー!!
 
 
魔理は左手でホウキをつかんだまま、霊力を込めたコブシをくりだした! ・・・しかし!
 
 
ハーピー・魔理 ≪ その程度の力で・・・<フッ>  「 消えた!?
 
・・・バッ!
 
ハーピー・魔理 ≪ あたいに勝てると思ったかー!!  「 いっ!!??
 
 
<<<どごっ!>>> 「「「「「  !!!!!  」」」」」
 
 
一瞬のスキに魔理のすぐ横に現れたハーピーは、魔理の腹部を殴りつけて気絶させた。
 
 
茜・タイガー 「 魔理―――!!!!  「 魔理サ―――ン!!!!
 
 
茜とタイガーが叫ぶ。 ハーピーは気絶した魔理の両肩を、両足の爪で捕まえた。
 
ハーピー ≪ 魔鈴めぐみ!! ちょうどいい人質が入ったじゃん!
  ここにいる人間全員殺されたくなければ、黙ってあたいら魔族に協力するじゃん!!
魔鈴 「 ・・・・・・
ハーピー ≪ ぐずぐずしてると、スカベリンジャーのエサになるじゃん!!
  あたいはこれでも手加減してやってるんだ!
魔鈴 「 くっ・・・わかったから一文字さんを放しなさい!
ハーピー ≪ ダメじゃん、あんたがちゃんとあたいらに協力する気になるまで、この人間は帰さないじゃん!
  殺されたくなかったら、大人しくあたいについてこい!!
 
スカベリンジャーの群れはすぐそこまできている。
 
魔鈴 「 ・・・わかったわ! あなたの言う通りにするから今すぐあのコ達を止めて!
にっ・・・
ハーピー ≪ ―――ピピピ――ピピ―――ッ
 
スカベリンジャーの群れは、ハーピーの口笛によりタイガー達の手前で山のほうへと戻っていった。
 
ばさっばさっばさっ
ハーピー ≪ それじゃああたいに付いて来るじゃん!
 
ハーピーは魔理を連れたまま、飛び去っていった。
 
タイガー 「 魔理サ―――ン!!
魔鈴 「 タイガー君、私にまかせて。 彼女は必ず連れて帰るから。
タイガー 「 スマンです魔鈴サン、ワシらのために・・・!
 
黒い三角帽子をかぶり直し、魔理の落とした自分のホウキを拾いながら言った。
 
魔鈴 「 いいのよ もとはといえば私のせいなんだし。
  それに大事な所員を人質にとられちゃってこちらのほうこそごめんなさい。
  必ず連れて帰るからそれまで大人しく待っててね。
 
魔鈴は真剣な顔つきで言う。 すると茜は―――
 
「 あたいにもホーキを貸してくれ!! あんたばっかりに危ない目に合わせられねえ!!
魔鈴 「 ダメよ茜さん。 この世界はあなたが思ってる以上に危険な所なの。
  それに私の箒は そう簡単には扱えないわ。
「 え? でもさっき魔理の奴が乗ってたけど?
にこっ
魔鈴 「 それじゃあ行ってくるわね!
         <びゅんっ>
            ――――――家の事はうちの猫に聞いてねー!!
 
魔鈴は微笑むとホウキに乗り、ハーピーの後を追いかけていった。
残されたタイガー達はしばし呆然としていた。
 
「 ・・・なあ所長、あたいらも追いかけなくていいのかよ。
  あいつら無事に帰ってくる保障なんてどこにもないんだぜ!
タイガー 「 じゃがここは異世界。
  ハーピーがどこにいったかわからんし、空を飛べんワシらじゃあ到底追いつけん。
「 待つしかねえのか・・・
 
するとタイガーは、水樹をヒーリングしている洋子のところにいき―――
 
タイガー 「 それより水樹サンの具合はどうじゃろーか?
洋子 「 傷はそれほど深くないけど、とりあえず医者に見せてやったほうがええやろーなー。
タイガー 「 そうジャノ、それじゃあ病院へ――――――
 
とそこでタイガー達はあることに気づく。
しばらく4人が沈黙した後、ケガを負ってた水樹が発言する。
 
 
 
水樹 「 ひょっとして私たち、魔鈴さんが戻るまでこの世界から出られないの?
 
 
 
付近の枯れ木の枝にとまっていたスカベリンジャーが羽ばたいた―――

リポート53 『鳥族の城へ』
■異界の空■
 
ばさっばさっばさっ
ハーピーは2時間以上飛び続けていた。
キィ――――ン
魔鈴も箒(ホウキ)に乗って、その後を追っている。
 
魔理 「 ・・・・・・・・・んあ?
 
ハーピーの足の爪で、両肩をつかまれていた魔理が目を覚ました。
 
ハーピー ≪ お目覚めかい、人間。
びくっ!
魔理 「 ハーピー!! うわっ! なんだここは!? 空の上!?
 
魔理は辺りの様子を見回すと、はるか下方に広がる地上には一面森で覆われていた。
後ろから魔鈴が近づく。
 
キィ――――ン
魔鈴 「 気がついたの、一文字さん!!
魔理 「 魔鈴さん!?
 
ハーピー ≪ フッ お前は人質じゃん! おまえをエサに魔鈴をあたいらのボスに会わせるじゃん!
魔理 「 ・・・・・・人質?
ハーピー ≪ そうとも、人質じゃん!
魔理 「 ・・・・・・・・・・・・おまえバカか?
ハーピー ≪ なっ!?
 
がしっ!
魔理はハーピーの片足を左手で掴んだ!
 
ハーピー・魔理 ≪ な なにをする!?  「 こうするのさ!! <ガンッ>
 
魔理は右手でハーピーのスネをおもいっきり殴った!
 
!!!!!
ハーピー ≪ イッ・・・・・タア――――――――――――!!!!! (涙)
 
ハーピーはあまりの痛さに、両足で掴んでいた魔理の肩を放した!
 
魔理 「 ははは バーカ! 所詮はトリの頭だってことだな!!
ハーピー ≪ てめーぶっころす!!(泣怒)
 
ひゅう―――っ 
アッカンベーしながら地上の森に落ちてく魔理。
キィ――――ン  がしっ!
そこに魔鈴がハイスピードでホウキを飛ばし、魔理を捕まえる!
 
魔理 「 サンキュー 魔鈴さん!
魔鈴 「 このまま森に入って姿を隠すわ! しっかりつかまってて!!
 
ハーピー ≪ オノレ人間め! よくもあたいに一撃を・・・・・・許さん、許さんぞ!!
 
・・・涙目のハーピーだった。
 
 
 
■名も無き森■
 
ずざざざざっ
魔鈴はその勢いのまま森の中へ入り、上空からは見えない大きな木の下に身を隠した。
 
魔鈴 「 はあっはあっはあっ・・・・・・しばらくここで休みましょう。
  もう少し魔力が回復しないと、2人分の“瞬間移動(テレポート)”はできないから・・・・くっ!
 
魔鈴は腹部をおさえた。
 
魔理 「 ど どうしたんだよ魔鈴さん!?
魔鈴 「 ハーピーと戦った時に受けた羽根のダメージが・・・
魔理 「 おい黒服であんまり目立たねーが血がにじんでるんじゃないのか? ちょっと服脱げよ!
 
魔鈴はレザービスチェをはずし、黒衣を脱いで下着姿になる。 
彼女は脇腹を中心に怪我を負っていたが、出血はすでに止まりかけていた。
 
魔理 「 水樹よりひでえじゃねーか! どこかに水はねえのか!?
魔鈴 「 この“魔法のローブ”と“ビスチェ”は霊的防御力は高いんだけど、
  ハーピーの羽根攻撃のほうが強くて、直接内部にダメージが伝わったんだわ。
 
魔理は魔鈴にヒーリングを行った。
 
魔理 「 ヒーリングはあんまり得意じゃないけどせめて止血ぐらい・・・
  あーもう ヒーリングの授業もっと真面目に受けときゃよかった!
  すまねえ! 私が余計なことして奴に捕まったばっかりに!
魔鈴 「 私のほうこそ・・・私のせいであなたたちまで巻き込んでしまって・・・
魔理 「 あ! そういやタイガー達は!?
魔鈴 「 大丈夫、私の家で待ってるはずよ。
魔理 「 そっかー・・・それにしてもここどこなんだ?
 
魔理は辺りを見回すと、人間界ではあまり見られない奇妙な木々がうっそうと茂っていた。
さらに奇妙な鳥や生物の鳴き声が、時折聞こえてくる。
 
魔鈴 「 名も無き異界の森よ。 ここにはよく魔法の調合薬なんかを探しに来てるけど、
  特に危険な妖魔は住んでないから、下手に刺激しなければ大丈夫のはずよ。
  ・・・ただ、あんまり長い時間は隠れていられないでしょうね。
魔理 「 えっ? 
魔鈴 「 ハーピーがここで私たちを探して、いないと思ったらまた私の家に向かうでしょう。
  そしたら今度はタイガー君達が危ないわ。
  あのハーピーは人面鳥族の中でもかなり強いほうよ。
  しかもあのエリアであれだけのスカベリンジャーを操られたら、タイガー君達に勝ち目は無いわ。
魔理 「 どうすりゃいいんだ?
 
そして魔鈴は一つの決断を下した。
 
魔鈴 「 ・・・・・・私、ハーピーと一緒に行くわ。
魔理 「 本気かよ!?
魔鈴 「 ここまでされて私も黙ってられないわ。
  一度ハーピーの上司とやらに会ってちゃんと話し合わないとね。
  あなたは私とハーピーが出ていったあと、私の箒に乗って私の家に戻ってて頂戴。
魔理 「 なっ 嫌だぜ! 魔鈴さんが行くなら私も行く! 仲間を見捨てて私だけ逃げれるわけねえだろ!!
 
そう言った魔理に、魔鈴は笑みを浮かべる。
 
魔鈴 「 ・・・仲間か。 私ももう少し若かったら、あなたと友達になれたかもしれないのにね。
魔理 「 何言ってんだよ、私ら友達だろ。 年が10や20違ったって関係ねえさ。
ぴくっ
魔鈴 「 失礼ねえ〜そんなに違わないわよ〜
魔理 「 あ いや、そういう意味じゃ・・・(汗)
 
微笑んだまま、重いオーラを放つ魔鈴。 だがそれもすぐに消える。
 
魔鈴 「 フフフッ わかってるわ。 私、学生の頃まで友達いなかったからあなた達が羨ましくて。
魔理 「 え? 魔鈴さんが?
 
 
一文字魔理は、この時初めて魔鈴の過去について触れることとなる。
魔鈴はこの力のせいで、小さい頃からいろいろと気味悪がられていたこと。
イギリスの大学に通っていた時も、中世魔法技術の研究に賛同してくれたのは結局西条だけで、
今でも魔女という存在は社会的にあまり好意的なのもではないということ。
いつも笑顔でおいしい料理を作ってくれていた魔鈴に そのような過去・事情があったこと、
彼女は知らなかった。
 
 
魔理 「 魔鈴さん、何でそんな話を私に・・・
魔鈴 「 さあ・・・多分あなたと私が、結構似ているからかもしれないわね。
魔理 「 似てるって・・・似てないですよー、私は魔鈴さんみたいにおしとやかじゃないし料理できないしー
 
あわてて否定する魔理をみた魔鈴は、クスッと笑うと―――
 
魔鈴 「 一文字さん、あなたにこれをあげるわ。
 
魔鈴は自分の服の上につけていた赤い宝石の入った首飾りを取り、それを魔理の首につけてあげた。
 
魔理 「 これは・・・
魔鈴 「 お守り。 なにかあった時はこれに―――!? あぶない!!
 
魔鈴はとっさに魔理をつきとばした!
ズガアンッ!!!!
次の瞬間2人の間に羽根が飛びこみ、巨木に突き刺さると霊気爆発をひきおこした!
羽根を投げられた方向を見ると、怒りの形相をしたハーピーが猛スピードで魔理にむかって飛んできていた。
 
ハーピー ≪≪  ブッコロ―――ス!!!!!
 
ドガアッ!
魔理はハーピーの真正面からの強烈な蹴りを、両腕をクロスさせて受けとめた!
苦痛に歪む魔理!
痛むヒマもなくハーピーは瞬時に体勢を整え、魔理の頭に回し蹴りにはいる!
魔理はとっさにガードするが、ハーピーに両腕ごと頭を蹴りとばされて数メートルふっとばされた!
 
ズザアアアッ!
魔鈴 「 一文字さん!!
 
ハーピーは再び気を失った魔理の服をつかみ、爪でトドメを刺そうとすると―――
 
魔鈴 「 待ちなさい!
ハーピー ≪ 邪魔するな! コイツは殺す!!
魔鈴 「 そのコに手をかけたら私は、今後なにがあっても一切あなた方に協力はしないわよ!
  そうなって困るのはあなたのほうじゃなくて!?
ハーピー ≪ うむむむ・・・!!
 
魔理を突き刺そうとしているハーピーの指先が震えている・・・
 
魔鈴 「 魔族であるのあなた方が、わざわざ人間に力を借りに来るとはよっぽど重要なことなんでしょ!?
ハーピー ≪ ・・・・・・!
魔鈴 「 ・・・任務に失敗してもいいんですか?
 
焦りを見せず、静かに言い放つ魔鈴。 ハーピーは・・・
 
ハーピー ≪ ・・・では協力するというのだな?
魔鈴 「 その子に手を出さなければ。
ハーピー ≪ ・・・・・・
 
ハーピーはゆっくりと腕を下ろし、魔理の服を離した。
 
ハーピー ≪ ・・・いいだろう、大人しく協力するなら問題ないじゃん。
  ただしコイツは連れていく。 貴様がちゃんとあたいらに協力するまでの保険だ、いいな!
 
魔鈴 「 ・・・・・・
 
ハーピーをにらみながら頷く魔鈴。
 
こうしてハーピーは再び気絶した魔理をつかみ、自分達のアジトに向けて飛び立った。
魔鈴も受けた傷を応急処置した後、再びホウキに乗り後を追った。
 
そして飛ぶこと14時間後―――
 
 
 
■古城■
 
荒野を抜け大きな門をくぐり抜け、更に突き進むと、ようやくハーピーの目的地、
中世ヨーロッパ風の古びた城にたどり着いた。 すでに空は暗く、星一つ見えない。
城の中では所々にロウソクの火が立ちならび、人面鳥(ハーピー)族を中心とした
複数の妖魔がうごめいている。
そんななか、魔鈴と魔理を連れてきた茶褐色の毛色のハーピー、名を瑠羽(ルウ)というが、
同じ人面鳥族の若いハーピーに魔理をわたすと―――
 
ハーピー(ルウ) ≪ そいつを地下牢にぶち込んどけ!
ハーピー兵 ≪ ハッ!
 
今だ気を失っている魔理を、2羽のハーピーが抱え連れていった。
 
ルウ ≪ ボスは?
ハーピー兵 ≪ はいルウ様、謁見の間に・・・ 
 
魔鈴 「 あなた方のボスって誰なの?
ルウ ≪ 会えばわかる。 ボスはもと上級魔族で人間界では神としてもあがめられていたからな!
 
魔鈴 ( ・・・上級魔族・・・・・私の魔法の力で何を・・・
 
ルウ ≪ ついて来い! ボスに合わせてやる。
 
深刻な顔をする魔鈴。
魔鈴はハーピーに連れられ、薄暗い城の廊下を歩いていった―――
 
 
 
    ―――――そして物語は タイガーのいる魔鈴の家からはじまる―――――
 
 
 
第10節・完

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