とら! 第11節 異界の旅


   
[ 4月25日金曜日 ]
 
ハーピーの襲来により、一文字魔理と魔鈴めぐみが連れていかれて3日―――
残されたタイガー・洋子・水樹・茜の4人は、魔鈴の家で2人を待ち続けていた。
家の中でじっとしてられなかった洋子と茜は、近くを歩いて探索して戻ってきた所だった。
 
■異界 魔鈴の家■
 
がちゃっ
「 ただいまー
水樹 「 茜ちゃん洋子さんおかえりなさい、どうだった?
洋子 「 特になにも、半径5キロ程度は沼地ばっかでなんもないわ。 そっちも変化なしみたいやな。
水樹 「 ええ、タイガーさんも落ち込んじゃって・・・
 
テーブルのイスに座り、左足に包帯を巻いていた水樹は、奥のソファに座っているタイガーのほうを見た。
うつむいていたタイガーに茜が近づき―――
 
「 所長、元気だせよ。 あいつ(魔理)がそう簡単にくたばるかよ。
タイガー 「 ・・・・・・もう3日経つノー。
「 ああ、遅いよな・・・
タイガー 「 このままじゃあとりかえしのつかん事になるかもしれん。
「 そうだな、なんとかしねえといけねえよな。
タイガー 「 一刻も早くもとの世界へ戻らんと!
「 ・・・・・・・・・・え?
 
タイガー 「 だってもう3日も事務所閉めたままじゃぞ!!
  契約していた除霊もすっぽかしとるし、
  今日までに支払わんといかん金とかも払えんですジャ!!
  このまま元の世界に帰れんかったら、事務所の存続が―――信用が―――!!
 
両手で頭を押さえて、イヤイヤしながら涙を流すタイガー。
 
「 バカヤロー! 今考えるのはそういうことじゃねえだろ!
  そりゃ所長にとっては事務所も大切だろうけどよ、今は魔理達を助けることのほうが重要だろ!
はっ!
タイガー 「 そ そうジャ、魔理サンがさらわれたというのにワシは何を・・・!!
ごんっ!がん!ごんっ!がんっ!
  魔理サン スマンです!! 魔鈴サン スマンです!!
  こんな大変なときに金や事務所のことを考えてしまって、わしはわっしは―――!!
 
洋子 「 ・・・重症やな。(汗)
水樹 「 タイガーさんそれぐらいで!
 
レンガの壁に頭をガンガンぶつけ、額から血を流しながら大泣きするタイガーであった―――

リポート54 『旅立ち』
洋子 「 ・・・まあ確かに元の世界と連絡がつかんのはちょっといけんな。
  一人暮らしのうちらはともかく、茜は自宅に住んどるから親が心配してるやろ。
「 ケッ あたいの親が心配なんかするかよ。 むしろいなくてせいせいしてらあ。
 
洋子と茜が話してるところに、先ほどまで床で丸まって寝ていた魔鈴の使い魔が声をかけてきた。
 
黒猫 《 ニャア・・・電話すればいいニャ。
洋子 「 それが繋がらんのや。
  うちのケータイずっと圏外になったまんまやし。 異世界やから当たり前やけど。
黒猫 《 だからうちの電話を使うんだニャ。 そこにある電話なら人間世界の回線と繋がってるニャ。
 
 
 
「「「「  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  」」」」
 
 
 
ずごごごご―――っ!!!!
洋子 「 なんやとクロネコ―――!!!!(怒)
   茜    「 そういうことはもっと早く言え―――!!!!(怒怒)
 
 
黒猫 《 フミャミャ〜〜〜ッ!!
 
 
威圧する洋子と茜。 一方で電話を調べていた水樹は―――
 
水樹 「 でもこの電話どうやって使ったらいいの?
タイガー 「 こりゃまた古い電話ジャノー。
「 どう使うんだ、猫!!
 
茜はじたばたする黒猫の首ねっこを掴んでいた。
 
黒猫 《 わかったから放すニャ〜!
 
 
 
タイガー達は魔鈴の家の電話を使い、仕事のキャンセルや 茜の自宅への連絡などを行った。
そのあとタイガーはエミに連絡をいれ、これまでのいきさつを話した。
 
 
 
エミ < そう、それはちょっと困ったわね・・・
タイガー 「 エミさん、なんとかならんかノー。
エミ < ・・・結論を言うと、はっきり言って私らがそっちにいくことはほぼ不可能なワケ。
タイガー 「 えっ!?
エミ < GS界広しと言えども、異界と行き来できる人間なんてそうそういないワケ。
  魔族にしても、人間界に自由にやってこれるものは限られている。
  おそらくそういった能力も、魔族が魔鈴を狙う理由の一つでしょうね。
タイガー 「 じゃあやっぱりワシらは、魔鈴サンが帰ってくるまでそっちの世界には帰れないとゆーことか・・・
 
エミは少し考えると―――
 
エミ < ・・・あんた、3日も待ってるワケよね。
タイガー 「 そ そうじゃが。
エミ < 助けに行く気はないワケ?
タイガー 「 そりゃもちろんあるがどこいったのかもわからんし、
  魔鈴サンの話じゃあこの異界は魔界にも通じとると言っとった!
  もしハーピー以上に力をもった魔族に出くわしたりでもしたら―――!!
エミ < ―――そんなトコに魔鈴達は連れていかれたワケよね。
  はっきり言って、そんなトコから無事に戻ってくる確立は低いわよ。
タイガー 「 !!
エミ < 待ってるだけじゃなにも解決しないわ。
  いま2人を助けられる可能性があるのは、同じ世界にいるあんたしかいないのよ。
  ・・・・・・・・・どうするワケ、タイガー。
 
タイガーはしばらく沈黙した後―――
 
タイガー 「 ・・・エミさん、ワシー魔理サン達を助けたい・・・助けにいく!
 
力強いタイガーの言葉に少し微笑んだエミは、出来る限りタイガー達に助言をした。
ハーピーの行き先については、ハーピーも鳥の妖怪だということから、
習性により元にいた場所にまっすぐ帰るであろうと予測。
そしてタイガーに方位磁石が有効かどうかを試させ、ハーピーの飛び去った方角を進むよう促した。
 
エミ < ―――問題はその距離ね。
  時速100キロ以上で飛ぶハーピーや魔鈴に対して、人の歩きじゃせいぜい5キロ。
  下手したら何十日も異界を歩くことになるワケ。 魔鈴の家に何か使えるものはないワケ?
タイガー 「 ・・・使い魔サン、なんか魔鈴サンの道具でいい乗り物はないかノー。
黒猫 《 そうだ二ャ〜〜〜・・・・・・あ、アレなら使えるかも!
 
 
 
■物置■
 
黒猫は家の裏側にある物置部屋に案内した。
そこには怪しげな道具が並んでおり、その奥にとりわけ目立つ、木製のタイヤをつけた大きなかぼちゃがあった。
かぼちゃの中はくりぬかれたように、4人座れる座席がついている。
 
水樹 「 これってもしかして・・・かぼちゃの馬車!?
洋子 「 そういや出てきたなあ、“シンデレラ”にも魔女が。
黒猫 《 5・6年前かニャ。 イギリスでシンデレラの公演をみて感動した魔鈴ちゃんは
  三日三晩かけて魔法の馬車を作ったニャ。
 
黒猫は昔を懐かしみながら説明した。
 
タイガー 「 でも肝心の馬がいないようじゃが?
黒猫 《 魔鈴ちゃんは魔法で動かしてたけど、“精霊石”でも可能ニャ。
  そこのくぼみに精霊石をはめるんだニャ。
「 “精霊石”って小さいのでも1個何千万もするっていう、あの有名な石のことか!?
 
彼女は精霊石を超高価なものだと把握しており、実物にさわったことがなかった。
 
洋子 「 ああ エミさんや美神さん、魔鈴さんもいつも耳や首に身につけとったやろ。
  特に美神さんの身につけてる大きいのは、3億か5億ぐらいするやろーな。
「 5億・・・どうやって元とってんだ?(汗)
タイガー 「 いや、あれは護身用でふつうの除霊では滅多に使わんし、
  ワシもエミさんが使った所を見たのはあんまりないケン。
水樹 「 でも肝心の精霊石がないんじゃあしょうがないわ。
洋子 「 神通棍に埋めこまれたやつじゃあムリやろうしなー。
 
水樹と洋子が肩を落としてるところに、黒猫が―――
 
黒猫 《 確か魔鈴ちゃんの部屋にストックが何個かあったニャ。
「 ほんとか猫!!
 
黒猫と水樹は魔鈴の自室に行き、精霊石が入ったケースを持ってきた。
水樹がケースを開くと小さめの精霊石が5個入っており、茜は興味深そうに精霊石を手にした。
 
「 初めて触るぜ・・・
洋子 「 この大きさやと1個2・3000万ってとこやな。
  精霊石の中では小さいほうやけど、魔族との戦いには充分役に立つな♪
水樹 「 でもこんな高価なもの、勝手に使っちゃっていいの?
黒猫 《 おいらに聞かないでほしいニャ。
タイガー 「 ・・・まあ今は2人を助けることが先決ジャ。
  お金のことは後でワシが何とかしよう。 さ、旅の準備をしよう!
 
 
◆   ◆   ◆
 
 
そしてタイガー達は、魔鈴の家にあった食料などを馬車に詰め込み、旅の準備を整えた。
そしてかぼちゃの馬車に精霊石をはめ込むと、運転席の前に2頭の半透明の形をした馬が現れた。
使い魔の話によると、詳しい理屈はわからないがこれも魔法技術の1つらしい。
 
タイガー 「 この精霊石1個でいつまで持つかノー?
「 まさか12時までじゃねえだろな。
洋子 「 どっちにしろ燃費のかかる乗り物には違いない。
 
水樹 「 本当に気をつけてね。
タイガー 「 わかっとりますジャ。 水樹サンも気をつけて、魔族がやってこんとも限らんしノ。
うるっ
水樹 「 タイガーさん・・・
 
 
神野水樹は魔鈴の家に残ることとなった。
彼女はハーピーに受けた足の傷がまだ完治しておらず、歩く分には問題ないが戦いとなると厳しい状態だった。
さらに水樹の得意とする神霊の力は、魔界からの影響を強く受けるこの世界では、その力は半減される。
そしてもし魔鈴や魔理が戻ってきた時のことも考え、留守番を1人残したほうがいいという判断から彼女を残すこととなった。
 
代わりになるかどうかはわからないが、異界の案内役として魔鈴の使い魔が同行することに―――
 
洋子 「 あんたも来るんやろ?
黒猫 《 当然だニャ。 使い魔としてご主人サマの身を護るのは当然のことだニャ!
洋子 「 ハーピーの襲撃があったとき、グースカ寝とったクセにな♪
黒猫 《 ニャッ! そ それは言わない約束だニャ!
 
「 準備はいいな! それじゃ行くぜ! ハイッ!!
 
前方の運転席に座る茜がタヅナを叩くと、半透明の馬が走り始めた。
 
水樹 「 ちゃんと戻ってきてよー!! 本当に気をつけてよねー!!
 
 
水樹を残し、タイガー達は旅立つ。
 
タイガー・洋子・茜・使い魔の3人と1匹の異界の旅が今、始まる―――

リポート55 『星無き夜』
タイガーたち一行はハーピーに連れ去られた魔理・魔鈴を救うべく、
魔鈴の家にあったかぼちゃの馬車に乗りハーピーの飛び去った方向へまっすぐと進んでいった。
かぼちゃの形をした馬車の中には4人まで乗れ、最大時速は50km。
前面の運転席となる座席を含めば最大6人まで乗ることが可能である。
スカベリンジャーの群生する沼地を抜けると、やがて森へとたどりついた。
この森は魔鈴と魔理が一時的にハーピーから逃れ、身を隠していた森である―――
 
■名も無き森・入口付近■
 
「 どうする、これ以上馬車じゃ進めねえぜ。 歩いてくか? それとも回り道するか?
 
タヅナを持ち運転していた茜は馬を止め、馬車の中にいるタイガー達に聞いた。
 
タイガー 「 ハーピーがどこまで飛んでいったかもわからんし、やっぱりどこか馬車が通れる所を探そう。
  歩きと馬車とではスピードが10倍違うしノー。
「 よし、じゃあまず左側からまわって見ようぜ!
洋子 「 ちょいまち! もう大分暗くなったし今日はこの辺にしよ。
  エミさんも言っとったやろ。 異界の夜は下手に動きまわらん方がええて。
タイガー 「 うーんそうジャノ、今日はここで休もう。
 
厚い雲でおおわれ、太陽の姿が見えないこの異界にも夜というものは存在していた。
茜は運転席の座席に寝ころぶと―――
 
「 予想はしてたけどやっぱり野宿かよ〜。
黒猫 《 馬車の中で寝れるだけましニャ。
 
うなだれる茜に黒猫が言った。
そしてタイガー達は、馬車の中で魔鈴の家から持ってきたもので食事をとりながら、
夜の見張りについて話し合っていた。
 
洋子 「 エミさんもゆーてたけど、見張り立てといたほうがえーやろ。
タイガー 「 ああ、強い妖魔が襲ってこんとも限らんしノー。
洋子 「 じゃあ2時間ごとに交代な。 もちろん黒猫、あんたもやで。
フニャッ
黒猫 《 オイラもか!?
 
 
見張りの順番は茜・洋子・タイガー・使い魔の順で行うことにした。 そして深夜―――
 
 
ゆさゆさっ
洋子 『 寅吉・・・・・・・・・・・寅吉!
タイガー 「 ・・・・・・・・・・・んあ? 洋子サン・・・・・・?
ひそひそ・・
洋子 『 見張りあんたの番やで。
 
馬車の中、向かいで眠っている茜と使い魔を起こさないように、洋子は小声で話した。
 
タイガー 「 ふあああっ・・・・・・・・あ、そうか・・・
 
 
タイガーは前面の運転席に座り、真っ暗闇のなか見張りをおこなった。
異界の夜はかなり冷えるため、タイガーは毛布を身にまとっている。
魔物の鳴き声がたまに聞こえてくるだけの静かな夜だった―――
 
 
≪≪≪ フキィーフキィーフキィー ≫≫≫
 
タイガー ( 魔理サンと魔鈴サン、無事じゃろーか・・・・・・
 
がちゃっ・・・時折聞こえる魔物の鳴き声を聞きながら魔理達の安否を心配してると、
馬車の扉が開き、タイガーと交代し眠ったはずの洋子が出てきた。
 
タイガー 「 どうしたんジャ、洋子サン。
洋子 「 なんだか眠れなくてな。 隣り座っていいか?
タイガー 「 ああ・・・・
 
洋子は隣りに座ると、タイガーがおおっている毛布を取り、ためらいなくいっしょの毛布にくるまった。
 
タイガー 「 ちょ ちょっと洋子サン!!///
洋子 「 ええやん、寒いから♪
 
ピシッ・・・ タイガーは硬直している。
タイガーの腕には洋子の肩が多少触れているのが感じられた。
 
どきどきどき・・
タイガー ( な なんジャこのシチュエーションは!? ワシのキャラじゃありえんぞ・・・!!
 
洋子 「 ・・・・・・星、見えへんな。
タイガー 「 あ ああ。(汗)
 
≪≪≪ フキィーフキィーフキィー ≫≫≫
 
洋子 「 何の妖魔が鳴いとるんやろな。
タイガー 「 そ そうジャノー・・・・・ハーピーとか!?
洋子 「 あはは、まだまだボケが甘いなあ寅吉。
タイガー 「 そ そうかー・・・
洋子 「 ・・・・・・・・・・・・
タイガー 「 ・・・・・・・・・・・・
 
 
沈黙してしまう2人。 タイガーは心臓の鼓動をおさえるので精一杯だった。
 
 
どっくんっどっくんっどっくんっどっくんっどっくんっ
 
 
タイガー ―――どーゆーつもりなんジャ…?
   前髪なごうて(長くて)表情が読み取れんし!!
   わからん!! おなごの考えることはさっぱりわからん!!
   も、もしかして誘っとるのか!?
   考えろ!! 考えるんジャ、寅吉!!
   洋子サンは確かにワシの部下じゃが、仕事が終わればこのとおりフツーのおなご!!
   せっかく向こうから寄って来とるとゆーのに…!!
   ワシの人生で、こんな美人とどーにかなることが何回あるのだろーか!?
   確かめもせず捨ててっていーのか!? できん!! ワシの人生のためにも捨てきれんっ!!
 
心の中で荒波をイメージするタイガーであった―――
 
   いや 洋子サンのことジャ、きっと友達感覚でおるに違いない。
   確かに毛布なしじゃあ寒いしノー・・・
 
ふぁさぁーっ―――そのとき風で、洋子の髪がなびくと―――
 
   うう・・・洋子サン、いい匂いするノー。 <ごくっ>・・・・・・はっ!
   いかんいかん! 精神感応使っとらんのに暴走する所やった!!
   魔理サンたちが大変な時にわっしは何を考えとるんジャ!!
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ワシ、こんなに節操ない男じゃったカイノー・・・?―――
 
 
理性と本能の狭間でゆれ動くタイガー。
 この寒いのに、頭からは湯気すらも見られるぐらい熱くなっていた。
そんな妄想や煩悩を働かせている男に、洋子は突然彼の名前を呼んだ。
 
 
洋子 「 寅吉。
どきっ
タイガー 「 はっ!? えっ!? な、何ジャ!?
 
顔を真っ赤にして慌てているタイガーとは違い、洋子は真面目な顔をして星一つない空を見上げていた。
 
洋子 「 うちなー 実は前に一度、異世界に来たことあるんよ。
 
タイガー 「 は・・・えっ!?
 
洋子 「 5・6年前かな、うちが地元の中学校に通ってた頃のことや。
  ある日近所の骨董品屋で古い魔導書を見つけたんよ。
  その本にはいろんな魔方陣や、魔界の魔物のことなんか書かれてて、
  興味本位でうちはその魔方陣の一つを描いてしもうたんや。
 
タイガー 「 ・・・それで異界に?
 
洋子 「 正確には魔物を召喚しかけたんやけど、その時わずかに開いた異空間の隙間から
  魔物の片腕だけがでてきて、うちを捕まえてその異空間の中に引きずり込まれたんや。
  気がついたら見たことのない空と荒野が広がっとった・・・
  そして隣りにはうちを引きずり込んだ魔物がおったんよ。
  その魔物はうちを切り裂いて喰おうとした・・・うちは必死で逃げた・・・
  その魔物の霊力は桁違いで今戦っても勝てんやろ。
  うちが逃げきれたのは、だれがやったか知らんけどその魔物の体中に封印が施されとったからや。
  結局うちが異界から元の世界に帰るのに1年もかかったしな。
 
タイガー 「 い、1年!? よく無事じゃったノー。
 
洋子 「 まーな。 自分でもそう思うわ。
  あの頃のうちは全然大したことなかったからな。
  周りは魔物だらけだし、食べるモンものうて自暴自棄になっとったわ。
  ・・・・・・でもそんなとこでも、うちのような人間を助けてくれる魔族もおったんや。
 
タイガー 「 ほうー、どんな魔族なんジャ?
 
洋子 「 ・・・寅吉も知ってる魔族や。
 
タイガー 「 え?
 
 
洋子 「 ―――魔界第2軍所属特務部隊大尉、ワルキューレ!
 
 
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 
 
■人間界 深夜 港の倉庫■
 
人気の少ない港近くの倉庫の中で、直径2メートル程度の小さな魔方陣を描いて
コウモリの姿をした使い魔を呼びだしていたエミの姿があった。
魔方陣の外には所員の仙香と春華が見守っている。
 
エミ 「 それじゃあこの手紙を魔界軍本部のワルキューレに届けるワケ。
使い魔 ≪≪ キュイッ! ≫≫
 
手紙を両足で掴んだ使い魔は異空間へ姿を消し、エミは春華と仙香に魔方陣を消すよう指示した。
2人はモップを持って、コンクリートの床に書かれていた魔方陣を消している―――
 
ゴシゴシゴシ・・・
春華 「 エミさん、ワルキューレと知り合いだったんですか?
仙香 「 春華ほらー、アシュタロス事件のときにいっしょに参加してたっていってたじゃない。
エミ 「 参加してたのは事実だけど、ワルキューレとはもっと昔からの知り合いなワケ。
仙香 「 えっ?
エミ 「 昔ちょっとあってね・・・まあ強力な助っ人にはちがいないワケ。
  いくらタイガーたちでも、魔族の世界での戦いとなるとかなりきびしいからね―――
 
 
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 
 
■再び魔界■
 
タイガー 「 ワルキューレじゃと!?
 
洋子 「 ああ、魔物から逃げていたとき重傷やったうちは彼女に助けられた。
  最初はなんで魔族が人間のうちを助けてくれたのか不思議やったけどな。
  話してみたら規律にはうるさかったけど、ほかの魔族に比べたらなんぼか話のわかるヤツやった。
  んで結構気が合ってな、彼女はうちを鍛えてくれ、魔界で生きるすべを教えてくれた。
  しばらくしてうちがある程度の霊力をもってきた頃、
  彼女は突然人間界へ帰るゲートを教えてくれたんよ。
  その辺の記憶ちょっと消された感じであいまいなんやけどなー、
  もとの世界に戻ったときはもう1年近く経ってたんよ。
  うちが六道女学院に入学するきっかけにもなった出来事やったな。
 
タイガー 「 そうかー でも親御さんや友達は心配しとったやろーのう。
 
洋子 「 まーな、おかげで中学生で留年もしちゃったしな。
 
タイガー 「 ・・・え? てことは洋子サンいま・・・19歳?
 
洋子 「 そ、今年でハタチになる。 履歴書の生年月日見とらんかったか? 
  実際には寅吉と同じ学年で、魔理や水樹は1コ下ってことやな。
 
タイガー 「 同級生とは知らんかった・・・しかし洋子サンにそんな過去があったとはノー。
 
洋子 「 まあうち自身2度と異世界に来ることはないやろうと思うとったしな、
  ここ数年は誰にも話したことないんよ。
  ま、実際にこうやって異界に来ちゃったことだし、寅吉になら知っておいてほしくてね。
 
タイガー 「 洋子サン・・・
 
洋子 「 正直言ってこれでも結構不安なんよ。
  異界の魔物の恐ろしさは身にしみてわかっとるしな。
 
洋子はタイガーと一緒の毛布から出て、運転席から地面に降りた。
 
洋子 「 でもうちはいくよ、友達も助けたいしな。 それに・・・
 
キンッ
洋子は懐から神通棍を取り出し霊気をこめると、森の茂みのほうをにらむ!
 
ばっ
洋子 「 たとえ記憶を取り戻しても、あんたらといっしょなら怖いもんはないってな!!
バシイッ
ボガート ≪ キュル!! ≫
 
洋子は茂みに隠れていた、角をはやした身長60センチ程度の2頭身の子鬼を払いのけた!
 
ボガート ≪ キルッ!! ≫ ≪ キュルルッ!! ≫
 
すたたたーっ
他にも何匹か石の槌をもった子鬼がいたが、洋子の払った子鬼を連れて逃げていった。
 
タイガー 「 なんジャ!? ゴブリンか!?
洋子 「 いや、あれは【ボガート=性悪な妖精】よ。
  イタズラ好きの小物妖怪で、イギリスなんかによく出る奴やな。
タイガー 「 よくわかったノー。
 
キンッ
洋子は神通棍をしまうと―――
 
洋子 「 まーな、あの程度の魔物なら脅しかけとくだけで充分やろ。
  仲間連れてやってきてうちらと争うほど、あいつらにリスク背負う理由もないからな。
タイガー ( さすが洋子サン、うちの事務所のエース・・・・
  じゃがその強さのもとは魔界で身につけたものじゃったとは・・・
洋子 「 そんじゃ見張りの続きをしようか。
タイガー 「 あ、・・・ああ。
 
 
星一つない異界の夜。
再び同じ毛布に包まれた2人は、使い魔と交代することなく、朝まで話をしていたのである―――

リポート56 『渚のマーメイド』
魔理・魔鈴を救うべく、タイガー達が旅立って2日目―――
名も無き森を迂回し、ハーピーの飛び去った方向に向かって進んでいた。
今日はタイガーが前面の座席に座り、馬のタズナを持って運転していた。
 
ぱからぱからぱからぱからっ
タイガー 「 ・・・・・・・・・ふあああっ、眠いノー。
 
馬車の中では洋子が寝ていた。
 
ZZZ‥‥
洋子 「 くー‥‥‥‥くー‥‥‥‥
「 洋子さん爆睡だな。
 
向かいに座っている茜が、洋子の寝顔を見ながら微笑ましく言った。
 
黒猫 《 昨日妖怪が襲ってきたみたいで、タイガーとずっと見張りをしてたみたいニャ。
「 おめえは何で見張りをやんなかったんだよ?
黒猫 《 知らないニャ、起こされなかったんだニャ!
( あのふたりー 何かあったのか・・?
 
う〜んと考え込む茜。 とそこに、馬車の窓から明るい日差しが差し込んできた。
 
にゃ〜〜っ
黒猫 《 それにしてもなんだかぽかぽかしてきて、おいらも眠くなってきたニャ〜。
「 確かになんかやけに暑くなってきたな・・・・・・・・・あっ!!
 
茜は外開きの窓を開けて頭を出して周囲の様子を見ると、馬車の進む先に青い海が見えてきた。
その上には厚い雲の隙間から、大きめの太陽が顔をのぞかしていた。
 
「 異界に太陽が・・・!
タイガー 「 じゃがこっちは海かー・・・反対方向を迂回するべきじゃったノー。
「 一応このまま行って見ようぜ! なんかあるかもしれねえ!
タイガー 「 そうじゃの。 ま、行くだけいって見るか。
 
 
 
■異界の海岸■
 
タイガー達は砂浜の手前で馬車を降りた。
 
「 暑いなーこりゃ30℃あるぞ。 上着脱ごっと。
タイガー 「 本当に異界は気温差が激しいノー。
 
 
タイガーと茜は身軽な服装になり、砂浜の様子を見にいった。
するとそこには、人間界と変わらないように水着姿の男女が海水浴を楽しんでおり、屋台も何軒か立ち並んでいた。
人間界と違う所は太陽の大きさと空の色だけである。
 
 
「 お おい、ここは異界だろ?
  なんで人間がこんなにいるんだよ。 見えるだけで100人はいるぜ。
タイガー 「 いや違う、あいつら全員妖気を感じる・・・・・・あ、あれ見てクレ!
 
タイガーが指差す先の海には、下半身魚の女と人の形をした魚がじゃれあっていた。
 
「 あれってもしかして、【人魚】と【半魚人】か!?
 
黒猫 《 思い出したニャ! 確かこの辺は海妖怪のテリトリー!
  毎年この時期になると、海妖怪は人間界からこのビーチに集まるんだニャ!
 
「 つまりこの砂浜にいる奴らは、全部人魚と半魚人が人間に化けたものだってのか!?
タイガー 「 人魚といえば、人間界でも人に混じって生活しとるもんもおるくらい
  人間と密接な妖怪じゃからノー、うまくいけば何か情報がはいるかもしれん。
「 ちょっと待てよ、てえことは人魚達は人間界へ渡る方法を知っているってことか?
黒猫 《 そのはずだニャ。 でも・・・・
ばっ
「 あたいちょっと聞いてくるぜ!
タイガー 「 あかねサン、ワシもいく!
黒猫 《 あ 2人とも待つだニャ〜!
 
 
タイガー達は、砂浜で肌を焼いている1人の人魚のもとへ向かった。
その人魚は水色の長い髪が特徴的なハタチ前後の若い人魚であり、
今は人間に化けて青いビキニの水着を身につけている。
 
 
「 あの〜ちょっと教えてほしいことがあるんだけどいいっスか?
人魚 《 あら、何かしら?
「 人間界へ行く方法を教えてほしいんだけど。
人魚 《 あなた人間界へ行ったことないの?
「 いや、あるにはあるんだけど、帰り道がわからなくて・・・
 
どたどたどたっ
半魚人(ナミコのダンナ) 《 おーい ナミコー!! サザエのつぼ焼き買ってきたで〜!!
 
茜と人に化けた人魚が話していたとき、屋台のほうからタイガーと同じくらいの大男(人間に化けてる半魚人)が走ってきた。
 
ダンナ 《 ん? なんだべこいつらは?
人魚ナミコ 《 ああこのコ達人間界への道がわからないんだって。
 
その半魚人は、じ〜〜〜っとタイガーや茜を見ると―――
 
ダンナ 《 ・・・・・・ナミコ、こいつら人間だべ。
ナミコ 《 えっ!? そうなの!?
タイガー 「 実はそうなんジャ。
ナミコ 《 だってこっちの女の子はわかるけど、こっちの男はどうみても妖怪でしょ。
  こんな奴人間にはいないわよ!! ある意味あなたといい勝負じゃない!!  <ぷちっ>
 
 
ぐおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!
タイガー 「「「「「  悪かったな――― わっしはこれでも人間ジャ――――!!!!!!!!
 
 
ナミコ 《 ひいいっ!!
ぐすん・・・
タイガー 「 妖怪にも妖怪扱いされたワシって・・・_| ̄|○↓ズ〜ン
「 まあまあ、元気だせよ所長。
 
タイガーの肩をたたいて、笑いをこらえながらなぐさめる茜だった。
 
ダンナ 《 ナミコ謝れ、いくらなんでも失礼だべ。
ナミコ 《 う・・・・ごめんなさい。
ダンナ 《 お詫びといってはなんだが悩み事ぐらいなら相談にのるべ。
  ささ 立ち話もなんじゃし座ってけれ。 ジュースぐらいだすでな。
( い いい人だ・・・・・あ、妖怪か。(汗)
 
 
―――タイガーと茜、使い魔はこれまでのいきさつを話した―――
 
 
ダンナ 《 そうかー それは大変だったべなー。
ナミコ 《 私達は海妖怪だから、空を飛ぶ鳥妖怪のことはほとんど知らないのよねー。
 
ナミコのダンナ(半魚人)とナミコ(人魚)が言った。
 
「 でも人間界への道は知ってるんだろ!?
ナミコ 《 知ってるけど・・・ゲートは海中にあるし、人間が潜れる深さじゃないわ。
  私たちも帰してあげいとは思うんだけど・・・・
タイガー 「 いや、帰る方法は魔鈴サンが知っとるケン、
  ワシらは人間界から応援を呼ぶ方法を知りたいんジャ。
  魔理サン達を助けるにはワシらだけじゃ心もとないケン。
 
そこに、ナミコのダンナが答えた。
 
ダンナ 《 だったらおら達にはなおさら教えれねえべ。
「 何でだよ!
 
ダンナ 《 人間界にとってはワシらのような妖怪は異物として排除されやすいし、
  この魔界にとっては人間のほうが異物として排除されやすいんだべ。
  特にこの世界では力こそ正義の世界だ。
  ワシらがいつも使っとる人間界へのゲートは、魔界の上層部が監視しとる。
  悪いけんどおらにも家族があるし、危ないことはできないべ。
 
タイガー 「 そうかーそれなら無理には頼めんノー。 だったら道だけでも教えてくれんかの。
ダンナ 《 ああ この海岸沿いにそっていけばええ。 そしたら森を迂回して先の荒野に進めるべ。
  ただそこにはちょっと凶暴な魔獣がすんどるから、気いつけて進んでけれ。
タイガー 「 わかった、ありがとう。
 
とそこで茜がナミコに聞いた。
 
「 ところで、なんでおめえらみんな人間に化けてんだ?
ナミコ 《 私たち人魚は陸に上がる時は足がないと不便だし―――
ダンナ 《 ―――オラたち半魚人は人魚に合わせて人間に化けとるだけだべ。
「 そっかー。
 
ダンナ 《 さーさーおふたりとも、サザエのつぼ焼きを冷めないうちにどーぞ。
「 あ ありがと・・・・・・
 
サザエのつぼ焼きを茜に差し出すナミコ。
 
( ほっ・・・なーんだ、妖怪といってもあたいらと大してかわらんじゃんか。
 
安心する茜。 ところがナミコはサザエのつぼ焼きを素手で持つと・・・
 
 
 
 
 
ばりっぼりっばりっごきっ!
ナミコ 「 ああ・・・サザエって歯ごたえがたまりませんわ♪
 
 
 
 
 
ずどしゃーっ  =☆
茜はおもいっきり横に倒れた。
 
 
ナミコ 《 どうかしました?
よろっ‥
「 い・・・いえ・・・・・・
  ( サザエをまるごとボリボリ食う女、
    サザエをカラごとがじがじかみくだく女! やっぱりこいつらバケモンだ!!(汗)
 
 
≪≪ キャアアアッ!! ≫≫
 
 
なごやかな雰囲気の中、突然海にいた人魚の1人が悲鳴をあげた。
タイガー達が見ると、半魚人の首をしめようとする若い人魚の姿が―――
 
 
ぐぎぎっ
半魚人 《 や やめろ!! なにするだっ!!
人魚 《 わたしじゃない!! 体が勝手に・・・!!
 
「 なにやってんだあいつら!?
 
ダンナ・ナミコ・タイガー 《 おら止めてくるだ!!  《 私も行く!!  「 あっ、お2人サン!!
 
ナミコとダンナの後を追うタイガーと茜。
ぱしゃぱしゃぱしゃっ
ナミコのダンナとナミコは海に入ると、人間の姿から半魚人と人魚へと変化した!
 
ダンナ 《 ケンカはやめるだ! あんたら恋人同士だべ!?
ギュウーッ
人魚 《 違うっ!! 体が勝手に動くのよー!!
 
泣きながら半魚人のカレシの首を絞める若い人魚。
 
ナミコ 《 体が勝手に!? どういうことよ!?
ダンナ 《 はっ!・・・そうか!!
 
ばりっ
ナミコのダンナは若い人魚のビキニのブラを掴み、破りとった!
(ちなみに下半身は魚のため、何もはいていない!)
 
人魚 ≪ キャアアアッ!!
 
その人魚はあわてて胸を両手で隠すが―――
 
ぶしゅ―――っ
タイガー 「 うおおおおおおおっ!!!!!!
ばきっ☆
「 おめえは見んなっ!!!!!
 
目を血ばらせ、鼻血を流すタイガーに殴りつっこむ茜。
 
どごっ =☆
そしてナミコはダンナをグーで殴っていた。 
 
ナミコ 《 あんたって魚人は・・・!!(怒)
ダンナ 《 ま、待ってけれ!! 水着だ!! あの水着がこのコを操ってただ!!
 
 
 
≪ グフフフ・・・その通りだぎゃー!! ≫ (?)
 
 
 
ザパ―――ン!!
海中から体長4メートルはある醜い怪物が現れた!!
 
茜・タイガー 「 げっ!!  「 なんジャこいつは―――!?
 
 
 
ふしゅるるる―――っ!
コンプレックス ≪ おでの名は【コンプレックス】!!
  夏の陽気のカゲにひしめく陰の気をすする妖怪だぎゃー!! ≫
 
 
 
◆   ◆   ◆
 
 
 
その頃、かぼちゃの馬車の中で眠ってた洋子は―――
 
かさっ、かさかさかさっ
≪ ん? なぜこんな所にかぼちゃが・・・?
 
甲羅に人の顔がうかんでるカニは、横歩きで馬車をよじ登り、窓の中を覗いて見た。
 
≪ 人魚じゃない、あれは人間!
  しかしなんでこんな所に・・・ん?  あの女どこかで・・・・・・<ハッ>! あの女は!
 
ぴゅ〜〜〜 ぼとっ
窓から落ちるカニ。
 
≪ 大変だ! みんなに知らせんと・・・!
 
 
そのカニの名は【平家ガニ】。
3年前六道女学院の臨海学校で、妖怪コマンド部隊としてGS軍と戦った平家ガニの生き残りである。 

リポート57 『コンプレックス』
タイガー 「 コンプレックス!? そんな妖怪聞いたことないぞ!!
 
ダンナ 《 夏になるとカップルに嫌がらせするという、はた迷惑な奴らしいだ。
  最近になって生まれた妖怪でおらも会うのは初めてだべ。
 
人魚ナミコの夫の半魚人が答える。
 
タイガー 「 はた迷惑な嫌がらせ妖怪・・・なんかあいつみたいジャノー。(汗)
 
タイガーはこの妖怪とはまったくタイプの違うある学校妖怪を思い浮かべた。
 
ぞっ・・・
ナミコ 《 それにしても、なんてブサイク妖怪なの!?
「 ああ、見てるだけで気持ち悪いぜ!
ダンナ 《 おらより醜悪なツラだべ。
タイガー 「 さすがのワシもちょっと同情するノー。
 
人魚ナミコと茜だけならともかく、あの半魚人とタイガーまでもが彼の醜悪な面構えに同情した。
 
わなわな・・
コンプレックス ≪ おみゃーら好き勝手なこと言うんでねえ―――!!!
  みにくくて悪かったにゃ―――!! 暗くてゴメンよ―――!!
  どーせおではよ―――!! う・・・・・・うおおおおおおおおおおおおん!!
 
大泣きするコンプレックス。 茜はコブシにを握りながら―――
 
「 ・・・なあ、こういう奴見るととりあえずぶっとばしたくならねえか?
タイガー 「 あかねサン・・・(汗)
黒猫 《 エライ言われようだニャ。(汗)
 
少し離れた場所で、コンプレックスを哀れむ黒猫だった。
 
コンプレックス ≪ 人間も妖怪もどいつもこいつもいちゃいちゃしやがってー!!
  おでは夏をエンジョイする者の陰にひそむ、無数の怨念の気によって生まれた妖怪!! 
びしっ
  たとえばおみゃー!!
 
タイガーを指差すコンプレックス。
 
タイガー 「 え、ワシ!?
 
コンプレックス ≪ おみゃーモテねーだぎゃ!?
タイガー 「 よ 余計なお世話ジャ!!
 
コンプレックス ≪ おみゃーカップルを見たらいつも羨ましい目で見とるだぎゃ!!
  こいつら不幸になれといつも思ってただぎゃ!?
タイガー 「 う うそジャ!! 認めんぞ!! ワシはそんなこと思ったこともない!!
 
コンプレックス ≪ 夏だけでなく、クリスマスもバレンタインも血の涙を流しとっただぎゃ―――!!
  世間ではこんなにも太陽がいっぱいなのに―――!!(泣)
タイガー 「 うるさい―――!! やめろ―――!! ほっといてクレ―――!!(泣)
 
うおーんおーんおーん!!
コンプレックス ≪ 夏なんか―――っ!! 明るい太陽なんか―――っ!!(大泣)
タイガー 「 嫌いジャ―――畜生―――!! バカヤロ―――ッ!!(大泣)
 
コンプレックスと一緒に、海に向かって大泣きするタイガー。
 
うおおおおおんっ!
タイガー 「 というわけで、おなごを操って明るい青春に水を差してやりたかったんジャ―――!!
「 洗脳されるな大バカヤロ―――ッ!!!!
 
精一杯タイガーにつっこむ茜。
 
コンプレックス ≪ ん!? くんかくんか・・・・・・おい、おみゃー女の匂いがするだぎゃー。
タイガー 「 え? そうかノー?
 
コンプレックスは再度タイガーの匂いをかいだ。
 
コンプレックス ≪ くんかくんか・・・・・・・・・・・・やっぱり!! おみゃー昨晩、女と寝たな!!
 
 
 
 
ずど―――――――――――――――ん!!!!!!!!!!!
 
 
 
 
ざわっ
「 所長、おめえ・・・!!(汗)
黒猫 《 まさか洋子ちゃんと!?(汗)
 
茜と黒猫は1歩引いた。
 
タイガー 「 いや ちがっ、わ ワシは・・・!
コンプレックス ≪ ウソつけ!! おみゃーの体中から女の匂いがするだぎゃ―――!! 
  どう嗅(か)いでも、一晩同じ布団の中におった匂いしか感じられん!!
 
それを聞いた茜は、タイガーのむなぐらのTシャツををつかむと―――
 
「 どういうつもりだ所長!!
  魔理が捕まって殺されるかもしれないって時に、おめえという奴は・・・!!
黒猫 《 オイラを起こさなかったのもそのせいかニャ!!
タイガー 「 ご 誤解ジャ!!
  確かに同じ毛布に包まれとったが話をしとっただけジャ!! ワシは指1本手えだしとらん!!
 
ざぱあ――――――んっ!
コンプレックス ≪ そぎゃーこったあどーでもええ―――!!! おでは数年前のおでとは違う!!
  幽霊だけじゃなく、妖怪や人間も水着でコントロールできるんだぎゃ!!
  これでもくらうだぎゃ―――――!!! <カッ>
 
コンプレックスの目が光ると、砂浜にいた人魚と半魚人のカップルがあちこちでケンカを始めた!
 
ダンナ 《 ナミコやめてけれ―――!!
ナミコ 《 か、からだが勝手に動くのよ―――!!
 
ダンナの首をしめるナミコ。
 
茜・タイガー 「 これは!!  「 さっきと同じ、水着で操っとる!!
 
コンプレックス ≪ ほっだらおみゃーもだぎゃ――!!!<カッ>
 
茜・タイガー 「 うわあっ!!  「 あかねサン!! 
 
 
バシイィッ!
茜は光に包まれると、今まで着ていた白いTシャツと青いGパンは形を変え、
白と青のストライプ模様のビキニの水着へと変化した!
 
 
かああっ///
「 な・・・なんじゃこりゃ―――っ!?
黒猫 《 茜ちゃん!?
タイガー 「 あかねサンのフトモモ・・・・<ブッ!>
  こ、これは新鮮だっ・・・!! じゃない大変だっ!! でも新鮮っ!!
「 ジ、ジロジロ見るなー!!///
 
茜の水着姿におろおろどきどきするタイガーだった。
 
コンプレックス ≪ さあ、おみゃーの一番好きな男を攻撃するだみゃ――!!
 
コンプレックスの支配下におかれた茜は、突然タイガーに向かって殴りかかった!
茜の必死の抵抗力もあってか、タイガーは紙一重で茜のパンチをかわした!
 
タイガー 「 あかねサン!?
「 ぐぎぎっ! しょ、所長!! なんとかしてくれ!!
 
コンプレックスの支配に抵抗しようとしている茜に対し、タイガーは息を飲むと―――
 
 
タイガー 「 あかねサンワシのこと好きじゃったか―――!!
 
 
ばしゃっ  =☆
まっ逆さまに、海にこける茜。
 
 
タイガー 「 そうだったのかー・・・しかしまさかあかねサンがノー・・・///
くあっ!
「 アホか―――!!
  ここにいる男はおめえ以外全部半魚人だろ!! 選択肢もクソもあるか―――!!
 
もっともな発言をする茜。 そしてナミコのダンナがタイガーに近づくと―――
 
ダンナ 《 タイガーさん、この状況を切り抜けるには一つしかねえだ!
タイガー 「 どうするんジャ魚人サン!?
 
どぱあ――――――ん!!!!!(←波の音)
ダンナ 《 水着を剥ぎ取る!! それしか女達を正気に戻す手段はないべ!!
タイガー 「 おお、確かに!!
 
力説するナミコのダンナに同意するタイガー。
 
どきどきどき・・
タイガー ( 奴は水着でおなごをコントロールしとるんジャ!!
  この状況下ではそれも仕方ない!!
  やむをえない事態として、あかねサンも納得してくれるはずジャ!!
 
「 ―――というわけであかねサン、かくごして <ゴンッ☆> ぐぶっ!!!!!
 
「 ・・・死ね!!
ばきっ
ナミコ 《 あんたのバカ!!
 
タイガーに回し蹴りする茜とダンナに肘鉄(ひじてつ)くらわすナミコ。
2人は一瞬にしてズタボロにされた。
 
コンプレックス ≪ ぎゃぎゃぎゃ―――っ!! 全てのカップルよ、別れるがいいだぎゃ―――っ!!
 
( くそ・・・所長は頼りになんないし、どうすりゃいいんだ!?
 
とそこに、黒猫は茜の耳に注目する。
 
黒猫 《 はっ! 茜ちゃん! その耳の精霊石を使うんだニャ!
「 そうか!!
 
茜は魔鈴の家にあった精霊石を1つ、耳につけていた。
 
( いや、しかしこれは1個数千万円の代物。
  あと4個しかないのに、こんなところで使っていいのか!?
タイガー 「 あかねサン、やっぱり水着を剥ぎ取るしか・・・
キッ
「  黙れ スケベ野郎!!<ぼかっ☆>
 
タイガーを蹴飛ばす茜。
 
タイガー 「 ひ ひどい・・・(泣)
 
「 えーい仕方ない! 精霊石よ!!
 
カッ―――−−‐
 
茜は首を振り、コンプレックスに向けて精霊石を放った!
 
 
コンプレックス ≪≪≪  うぎゃああああああああああああっ!!!!!  ≫≫≫
 
 
コンプレックスはもがき苦しむと、砂浜にいた人魚達の呪縛が解かれ、茜の水着ももとの服装に戻った!
 
ばっ
「 よし! これで決着をつけてやる!!
 
ピルルルルルルルルルルルルルッ
 
<  鳥よ! 鳥よ!  ぬばたまの沼に以下略!!
 
 
茜は獣の笛で小鳥(スカベリンジャー)を召喚し、コンプレックスを攻撃した!
小鳥は高速でコンプレックスの体を食い破り、妖力を奪っていく、そして―――
 
 
コンプレックス ≪ ぎゃああああああっ!! ぐふっ!!
  お、おでは必ずまたよみがえる…! 夏が来るかぎりおでは… がふっ
 
「 最後までうっとーしい奴!! だまって消えろっての!
タイガー 「 やったノー あかねサン!!
 
茜はタイガーに冷たい視線を送ると―――
 
「 今回所長は結局なんも役にたってないな。
タイガー 「 うっ、で でもあかねサン、はじめて妖怪を退治したんジャ! 喜んでツカーサイ!!
「 そ そうだ、でも初めて倒した妖怪が“あれ”じゃあ自慢になんねーな・・・(汗)
ダンナ 《 いやーあんたらのおかげで、わしら魚人族のカップルの仲は救われただ! ありがとう!
「 あ ああ・・・あたいは別に・・・・・・あっ!!
黒猫 《 どうかしたニャ?
 
茜はなにかを思いだしたように、タイガーのむなぐらをつかむと―――
 
「 所長!! おめえ昨日の晩、洋子さんと何してやがった! まさかマジで洋子さんと・・・
タイガー 「 ほ ほんとに何もなかったんジャ! 嘘じゃないケン! 洋子サンに聞いてクレ!
 
 
 
◆   ◆   ◆
 
 
 
タイガー達が洋子の寝てる馬車に戻ると、そこに馬車はなかった。
 
「 ど、どういうことだ!? 確かここにとめておいたはずだろ!?
タイガー 「 まさかさっきの騒ぎの間に盗まれたんじゃ・・・!?
黒猫 《 たいへんだニャ!!
  馬車の中には旅の道具も全部入ってるだニャ!! それに洋子ちゃんも・・・!!
 
タイガーは地面の砂を見ると―――
 
タイガー 「 これを見てクレ。 馬車のタイヤの跡と何かが無数に通った跡がある。
  これをたどっていけばその先に洋子サンがおるはずジャ。 ・・・・・・・洋子サン。
 
 
タイガー達はその跡の先にある岩場を目指した。

リポート58 『平家ガニの・・・逆襲?』
■岩場の洞窟■
 
タイガー達が妖怪コンプレックスと戦っていた頃―――
馬車の中で寝ていた洋子は、平家ガニの集団により住処としている岩場の洞窟まで運ばれていた。
岩場に寝かされ、ロープで両手を縛られていた洋子は、周囲の異様な気配により目を覚ました。
 
洋子 「 ん・・・なんか床が冷たい・・・・・・・・・・・・ハッ!?
長老ガニ ≪ ・・・気がついたか人間の女。
 
洋子が前髪のスキマから辺りを見回すと、そこには数多くの甲羅が人の顔をしたカニがいた。
 
洋子 ( ・・・・・・平家ガニ!?
 
洋子の周りには、体長10センチ前後の平家ガニ(別名:人面ガニ)が500匹以上取り囲んでおり、
彼女は上半身を起こして長老ガニと対面した。
 
洋子 ( しまった! うちとしたことが爆睡しとったか・・・!?
 
体長30センチの平家ガニの長老が横歩きして洋子に近づいてきた。
 
洋子 「 ・・・寅吉たちはどこや?
長老ガニ ≪ ? 知らんな。 馬車の中におったのはおまえだけじゃ。
洋子 「 ・・・よくうちを運んでこれたな。
長老ガニ ≪ 近くの半魚人をバイトさせたんじゃ。
 
カキンカキンカキンッ
長老ガニがはさみをカチカチさせていた。
 
長老ガニ ≪ 3年前、六道女学院の臨海学校実習の戦いを覚えておるか?
 
洋子 「 ・・・・・ああ、覚えとるけど。
 
長老ガニ ≪ あのときワシらは海坊主の指揮の下、妖怪コマンド部隊として敵陣の奥地へと忍び込んだ。
  じゃがワシらはたった1人の女子高生に全滅させられた・・・・・そう、
びしっ
  おまえじゃ――― 神通棍女――――――!!!!!
 
長老ガニは洋子にはさみを向けた!
 
洋子 「 ・・・あのなあ、何でうちが森の中1人であんたらを相手にしとったかわかるか?
 
長老ガニ ≪ ? ・・・・・・なんでじゃ?
 
 
 
洋子 「 あんたら弱すぎやからや。
 
 
 
ど――――――ん!
 
ショックを受ける平家ガニたち。
 
長老ガニ ≪ ななな・・・なんじゃと!?
洋子 「 “メロウ”や“船幽霊”を相手するより、あんたら相手しとったほうが楽なんやもん。
  だってあんたら普通のカニに人の顔つけただけの妖怪やろ。
 
ずど――――――――ん!!
 
更にショックを受ける平家ガニたち。
 
洋子 「 霊力も大したことないし動きも遅い。 ハサミにさえ気をつければ無傷でいけるしな。
  さあ、うちを怒らせる前にさっさと縄をほどき。 今なら許したるから。
長老ガニ ≪ じゃかあーしい!! 今こそあん時の恨みを晴らしてやる!!
 
かさかさかさっ
数百匹の平家ガニが、洋子に少しづつ近づく。
 
洋子 「 やれやれ、しゃーないな。<きっ!> はあっ!!
 
ずごごごごっ
洋子は霊気を放出させ、周辺の平家ガニを吹っ飛ばすと同時に一気に両手の縄を振りほどいた!
そして洋子はすっと立ち上がる。
 
長老ガニ ≪ ひ ひるむな! 数では圧倒的にワシらのほうが上じゃ!!
洋子 「 だから数でどうこうの問題やないてゆうとるやろ。
長老ガニ ≪ ぐぬぬぬ・・・!!
じゅる・・
洋子 「 それにしてもあんたらうまそうやな・・・
  ゆでてカニ鍋にして、ほじほじしてそのままぱくっと・・・カニシャブもいいな〜♪
たじっ
長老ガニ ≪ 東洋人の感覚って・・・(汗)
 
洋子 「 さ、黙って道を開けるかカニ鍋にされるか、好きな方を選び。
 
長老ガニ ≪ ワシらカニは1歩も後ろには引けんのじゃ! ものども、横にかかれ―――!!
 
 
かさかさかさかさっ
平家ガニ達は横に歩き、洞窟の出口への道を開けた。
 
 
ささっ
平家ガニ ≪ 神族を倒す石、“魔霊石(まれいせき)”です。 どうかこれでお引取りを・・・
洋子 「 へえ〜精霊石と対をなす石か。 こりゃ珍しいもん持っとるやんか。
 
長老ガニ ≪ こらー!! お前ら何しとるか―――!!(怒)
 
洋子に貢ぐ平家ガニに怒る長老ガニ。
 
平家ガニ ≪ 長老ー やめましょうよ。 この女にはワシらが千匹おっても勝てそうにないけん。
平家ガニ ≪ ザコ妖怪はザコらしくいきましょうよ。
長老ガニ ≪ お前らそれでも妖怪の端くれかー!!
洋子 「 ほんじゃさいなら〜。
 
洋子は洞窟を出た。
 
長老ガニ ≪ 二度とくんな バカ―――!!
 
洞窟の中からむなしく聞こえる長老ガニの声。
 
洋子 「 自分で連れ込んだくせに。
  ふう・・・にしても暑いなー ここどこや? ・・・お、馬車みっけ!
 
 
その後洋子はタイガー達と合流し、一路、ハーピーのいる場所へと向かったのであった―――
 
 
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
 
 
 
■人間界 美神除霊事務所■