とら! 第13節 侵入


   
■魔鈴の家■
 
洋子たちがスライムと戦っていた頃―――
魔鈴の家に残ったタイガー除霊事務所所員の1人、神野水樹はエミと電話で話をしていた。
彼女がハーピーに受けた左足の傷は、自分で行ったヒーリングの効果もあって、ほぼ完治していた。
 
水樹 「 ・・・ええ、それで魔鈴さんたちもタイガーさんたちも、まだ戻ってこないんです。
エミ < まあ素直に道を教えてくれる魔族なんてそうそういないワケだし。
  あっ それから魔鈴を狙ってた魔族の正体と目的がつかめたわ。
水樹 「 えっ!?
エミ < それについて魔族の知り合いと連絡がついてね。 今そっちに向かってるわ。
水樹 「 向かってるって・・・
 
どんどんっ!  「 ! 」
突然玄関の扉を叩く音に、水樹はビクッとする。
がちゃっ‥
おそるおそる扉を開けると、そこにベレー帽を被った人型の魔族が敬礼していた。
 
ジーク 《 失礼! 神野水樹さんですね?
  私は魔界軍情報士官ジークフリード小尉です! よろしく!
 
水樹は扉に隠れて様子をうかがっている。
 
水樹 「 ジークフリードって・・・!?
ジーク 《 エミさんから事情は聞きました。 あなたは私と一緒に来てください。
  これからタイガーさんたちと合流し、魔鈴さんたちの救出に向かいます。
水樹 「 え!? 場所がわかるんですか!?
ジーク 《 はい、おおよその見当は・・・
  魔鈴さんは以前からかなり強力な魔族に目をつけられていたみたいですから―――

リポート64 『ハーピーの森』
[ 5月1日木曜日 ]
 
ハーピーにさらわれた魔理・魔鈴を救うべく、タイガーたちが魔鈴の家を旅立って7日目。
かぼちゃの馬車で異界・魔界を旅してきた彼らはついに、ハーピーたち鳥族の住まう森
へとやって来たのである。
 
 (旅の道筋)
   魔鈴の住む異界
 【魔鈴の家】→【沼地】→【名も無き森(手前で迂回)】→【砂浜】→【岩場】→【魔獣の荒野】→【魔界の門】
 
   魔界
 →【草原】→【森の泉】→【草原】→【鳥族のナワバリ(森→川→湖→城)】
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
ぱからっぱからっぱからっぱからっ
 
黒猫 《 見えた! あれがハーピーの住む森だニャ!!
洋子 「 寅吉、このへんで馬車を降りよう! 魔物をあまり刺激せんほうがええ!
 
洋子の意見に同意したタイガーは、森の手前で馬車を止め、茂みに隠した。
そしてタイガーはいつものマダラ模様の服を着ると、必要最小限のものだけを手にした。
 
タイガー 「 わ 忘れもんはないカイノー?
「 ああ、ばっちりだぜ!
 
洋子と茜は前回、私服をスライムに溶かされたため、魔鈴の家から持ってきた変わりの服、
“魔法のローブ”と“ビスチェ”を身にまとっていた。
魔鈴が普段着として着ていた魔女用の黒服のことであるが、
2人は動きやすいようスカートの片側に、太もものつけね辺りまでのスリットを入れた。
2人共あまり意識してないようだが、タイガーはちょっぴりドキドキしていた。 悲しい男の性か・・・
 
洋子 「 鳥は気配には敏感や。 一度森に入ったらうちらの侵入なんてすぐにバレるやろ。
  なんとかダマしダマし、魔理たちのいるトコまで行くしかない。
「 つまりいきあたりばったり、でたとこ勝負ってことだな。
洋子 「 あかねー、元も子もないような言い方やめてーや。(汗)
タイガー 「 とにかく行こう!! 魔理サンたちはすぐそこジャ!!
 
 
 
■鳥族の住む森■
 
ざっざっざっ・・・
緑の深い森の中、タイガー・洋子・茜・使い魔の3人と1匹は歩いていた。
 
タイガー 「 洋子サンこの気配・・・
洋子 「 ああ、やっぱりもう見つかっとるわ。 ・・・来る!
 
ばさばさばさっ!
タイガーたちの前方の木々の枝に、槍を持った10数羽のハーピーが現れた!
 
洋子 「 えらい歓迎ぶりやな。
「 あっ! あのハーピーは!!
 
その中の1羽が地上に降り立った。
茶褐色の羽毛をしたそのハーピーこそ、魔理をさらったハーピーのルウである―――
 
ルウ ≪ やはりお前たちか・・・人間がよくここまでこれたじゃん!!
 
タイガーが一歩前にでると―――
 
タイガー 「 ワシらはあんたに連れていかれた仲間に会いに来た!
  ここにおるんなら会わしてくれんかノー!
ルウ ≪ 会ってどうする?
タイガー 「 ・・・かえしてほしい。
ルウ ≪ それはできない相談じゃん!
タイガー 「 何故ジャ!?
ルウ ≪ 人間ごときに答える義務はない。
  それとキサマらの目的は、あたいらの計画の邪魔にしかならないじゃん!
 
カチャッ・・・槍を構えるハーピー兵たち。
 
ルウ ≪ キサマらはあたいらのために奴隷として働いてもらうじゃん! かかれっ!!
 
ルウの合図と共に、槍を持った4羽のハーピーがタイガーたちに向かい襲いかかってくる!
 
「 結局戦うしかねえのか!!
洋子 「 気いつけよ!! こいつら下っ端なんやろうけど霊力だけなら全員うちらより上や!!
ビュッ
ハーピー兵 ≪ はあああっ!!
 
ハーピー兵が槍でタイガーを突き刺しにかかる!
カキィ――――ン!
タイガー版栄光の手である“虎の爪”で槍を受け止め、そのまま力で払いのけた!
 
タイガー 「 ちょっと待ってクレ! ワシらはあんたらと争うつもりはないんジャ!
ルウ ≪ 戦っても勝ち目がないから話し合いで事を収めようとでも言うのか?
タイガー 「 ・・・ああ、もとよりワシらに勝ち目のない戦いジャ。
  じゃがワシらはそれを承知でここまで来た! 頼むから魔理サンと魔鈴サンを―――
ルウ ≪ 甘いな! ここは魔界、あたいらは魔族じゃん! ほしいものは「力」で奪うんだな!
 
そうこうしているうちに他のハーピー兵が、洋子や茜たちを取り囲む!
 
黒猫 《 フニャ! 囲まれただニャ!?
洋子 「 やるしかないよ寅吉!!
 
バッ! 茜は獣の笛をかまえると―――
 
「 あたいだってもうシロウトじゃないんだ!!
 
ピルルルルルルルルルルルルルルッ
 
<  鳥よ! 鳥よ!  ・・汝ら 我が命により従え!!
 
ピシッ!
ハーピー兵 ≪ ウッ・・・!!  ≪ グアアアアッ!!  ≪ こ、この音は・・!!
 
茜の吹く笛の音を嫌うかのように、ハーピーたちが耳を押さえだした。
 
洋子 「 そうか、ハーピーも半分は鳥! 魔鳥スカベリンジャーを操れる茜なら不可能やない!
    ( 茜もやるようになってきたな・・・だけど・・・
 
洋子は神通棍を構えると―――
 
洋子 「 ハアッ!
 
ガキィ―――ン!
茜に攻撃してきたハーピー兵の槍を払いのけた!
 
洋子 ( 今の茜の力じゃガラスを爪で引っかいた程度のダメージにしかならん!
  全部で13羽・・・うちらが勝てる数やない!
 
ルウ ≪ この程度の精神攻撃でコントロールされるあたいじゃないじゃん!!
 
ルウが笛を吹いてる茜に殴りかかろうと急降下する!
 
タイガー 「 そうはいかん! <カッ> ジャングルフィールド!!!!!
 
ハーピー兵 ≪≪≪  !!??  ≫≫≫
 
タイガーはトラ男になり、精神感応でハーピーたちにジャングルの幻覚を魅せる!
もともと周囲は森だったため景色はあまり変わってない・・・だが、
【ジャングルの邪精霊】の幻を3体出現させ、ハーピーに向かって襲わせた!
 
邪精霊 ≪≪≪  キィイイイッ!!  ≫≫≫
 
ハーピー兵 ≪ なんでこんな所に邪精霊が!?
ハーピー兵 ≪ 奴の針を受けるな! 体が縮むぞ!!
ハーピー兵 ≪ そ それよりやつらが消えた・・・!?
 
タイガーは同時に、自分たちをハーピーたちの目から見えないよう幻覚させた!
 
ルウ ≪ チッ・・・精神感応者がいるのか!? 生意気じゃん!
 
じっとして周囲の気配を探るルウ。 タイガーは茜のもとに近づくと、
 
タイガー 『 行くぞあかねサン! 今のうちの逃げるんジャ!!
『 え!?
タイガー 『 まともに戦って勝てる相手じゃないしワシの幻覚は長くもたん!
  それにこれが幻覚だと知れたら効果は半減する!!
  洋子サンも早く!! ヤツらには今ワシらの姿が見えてないはずジャ!!
バシィッ
洋子 『 わかった!!
 
洋子はハーピーの槍を神通棍ではじいた後、走っていくタイガーたちの後を追った。
しかしルウの目にだけはタイガーたちの姿がわずかに映っていた!
 
ルウ ≪ フハハハッ! あたいからは逃げられないじゃーん!
 
ルウは洋子に向かって猛スピードで飛んできた!
洋子がルウに気づき、ふりかえったときにはすでに10メートル後ろに迫っている!
そして1枚羽根を取り、投げつけようとしたその時―――
 
タイガー 「 洋子サンしゃがんでツカサイッ! ハァゴオッ!!!!
 
タイガーのとっさの合図により洋子がしゃがみこむ!
ルウの目には洋子のかわりにタイガーの霊波砲『咆哮波』が映り、瞬時に羽を投げようとするが・・・!
 
ドゴオォォォォォォォン!!!!!
 
ルウ ≪ グアアアアッ!!!!
 
ルウの投げ遅れた羽根とタイガーの霊波砲が、彼女の寸前で衝突してしまい霊気爆発を起こした!
そしてルウがダメージを受け、ひるんだスキを洋子は見逃さなかった!
 
キランッ☆ ―――前髪で隠れた洋子の目が光る!
 
洋子 「 チェストオオオ!!!!  <ズバッ!>
 
タイガーと洋子のコンビネーション攻撃! 神通棍で斬りつけられたルウはあえなくその場に倒れた。
 
洋子 「 よっしゃ!
 
洋子は神通棍を構え、トドメをさしにかかるが―――
 
タイガー 「 洋子サンほおっておくんジャ! トドメさすこともなかろう!
洋子 「 ・・・・・・わかった!
 
数秒考えた洋子は、タイガーたちと共にその場から離れていった。
地面に倒れたルウは、意識が遠のく中、遠くで聞こえるハーピー兵の声を聞きながら―――
 
ルウ ( クッ・・・あの人間ども許さん・・・絶対・・・ぜったい殺してやる!
 
 
 
◆   ◆   ◆
 
 
■川沿い■
 
タイガーたちは森の中をしばらく走り続けた。
しばらくすると、幅数十メートルもある大きな川にたどりつく。
その上流には城の塔らしきものが一部、木々の間から見えていた。
 
「 あそこじゃねーのか!? 鳥族の城っていうのは!!
洋子 「 化猫が言うには湖の中心にあるって話やったな!!
「 所長ー早くこいよー!
ぜーっ ぜーっ ぜーっ‥
タイガー 「 そんなこといったって・・・2人とも足がはやすぎる・・・
黒猫 《 しっかり走るニャ! そんなんじゃ魔鈴ちゃん助けられないニャ!
 
使い魔はタイガーの肩の上に乗っているため、疲れている気配はない。
タイガーは 「 お前も走れ 」 と言いたくなったが、あえてつっこまない。
 
洋子 「 相変わらず走るの苦手なんやなー。
「 早く湖のほうに行ってみようぜ!
 
湖のほうへ駆けだそうとする茜。 その上空で一瞬光ったのが洋子の目に映る―――
 
洋子 「 あかねー!!
 
洋子は茜に飛びかかり、空から振ってきた羽根をかわす!
 
ドゴォンッ!!
 
羽根は地面にぶつかり小爆発をおこした!
 
タイガー 「 これは“羽根の弾丸(フェザー・ブレット)”!! 2人とも大丈夫か!?
洋子 「 なんとかな・・・・・・それより!
 
ばさばさばさばさばさっ
タイガーたちの上空には、30羽以上のハーピーが羽ばたいていた。
 
黒猫 《 さっきより多いニャ!(汗)
タイガー 「 シャレにならんノー・・・(汗)
バッ
ハーピー兵 ≪≪  全体構え!! ・・・撃て―――――――――!!!!!
 
1羽のハーピーの合図と共に、ほかのハーピーたちはいっせいに羽根を飛ばしてきた!
 
タイガー 「 いかん! あかねサン精霊石!!
「 精霊石よ!!! <カッ>
 
 
ズドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
 
 
茜は耳につけてた精霊石を投げて結界を作り、羽根の弾丸の雨を防いだ! ―――しかし!
ピシッ パキッ ポキッ・・・無数の弾丸攻撃により、精霊石の結界にヒビが入りだした!
 
洋子 「 くそー、“霊体ボウガン”さえありゃ少しは反撃できるのに・・・!
 
神通棍を握りしめ悔しがる洋子。 そして結界が破られようとしたそのとき・・・!
 
パアアアアアッ・・・・・・ピキ―――ンッ!
 
精霊石の結界にかぶさるように、別の新たな結界が張られた!
 
タイガー 「 この神聖結界はまさか・・・!
 
 
 
 
 
 
キイイイイイイ――――ンッ
 
水樹 「 タイガーさ―――ん!! 御剣さん、茜ちゃん、みんな無事―――!?
 
タイガー 「 水樹サン!?
 
魔族ジークフリードの背中に乗って叫んだのは、魔鈴の家に残っていたはずの水樹だった。
彼女は巫女服を着て、背中にリュックを背負っている。
ハーピーたちはひと目で魔族軍のものだとわかる服を着たジークフリードを見て驚いている。
 
ハーピー兵 ≪ あの格好は魔界正規軍か!? なぜ人間を・・・!?
 
水樹は地面に近づくと、ジークの背中から飛び降りて、タイガーたちのもとへ走っていった。
すると洋子は、水樹におもいっきり抱きついてきた。
 
水樹 「 よかったー! もう心配したんだから・・・きゃっ!
洋子 「 水樹ー 久しぶりやな〜! 何ヶ月ぶりやろ?
水樹 「 ちょっとー まだ1週間しかたってないじゃない!
 
洋子に抱きつかれた水樹の顔は嬉しそうである。 そしてジークはタイガーに近づくと―――
 
ジーク 《 お久しぶりですね、タイガーさん。 
  アシュタロス事件で一度お会いしましたが、こうしてあなたと会話するのははじめてですね。
タイガー 「 あ あんたは確かジークフリードさん!? どうしてここに・・・!?
ジーク 《 エミさんから姉上の所に使い魔をよこされたんです。 あなた方を助けてほしいと。
  だけど姉上は別件の任務があって・・・それで私が代わりにきました。
タイガー 「 エミさんが・・・
ジーク 《 ここは私がくい止めます!
  あなた方は急いで魔鈴さんたちの救出に向かってください!
タイガー 「 ど どういうことジャ!?
ジーク 《 話は神野さんに聞いてください! さあ早く!!
タイガー 「 わ わかった! 恩にきますジークさん!!
 
 
タイガー達はジークを残し、湖のある上流のほうへと走っていった。
そしてたった1人残ったジークは、ベレー帽を取りだして被ると―――
 
 
ジーク 《 ・・・さて、お前達の相手は私がしよう。
ハーピー兵 ≪ 何故魔界軍が人間に味方する!!
ジーク 《 ・・・貴様らに言ってもわかるまい。
  人というものとまともに向き合おうとしない貴様らにはな!!
 
ジークは穏やかな表情から顔つきが変わっていた。
 
ジーク 《 いくぞ鳥共!! まとめて相手してやる!!
 
魔族ジークフリード、30羽のハーピーと対峙する―――

リポート65 『不死の甘露』
タイガー・洋子・茜・水樹・魔鈴の使い魔の4人と1匹は、魔理たちがいる
湖上の小島にある城をめざして、川沿いの道を上流に向かって歩いていた。
その川沿いを進みながら、タイガーたちは水樹から事情を聞いていた。
 
「 あのジークフリードって奴、大丈夫なのか?
  いくらなんでもあの数のハーピーに勝てんのかよ!?
 
タイガー 「 といってもワシらより断然強いしノー、ワシらじゃあ足手まといになるだけジャ。
  それにジークさんの言っとったことも気になる。
  水樹サン、魔鈴サンが危ないとはいったいどういうことなんジャ?
 
水樹 「 今ここのハーピーたちが、隣国の魔族たちと戦争してることは知ってる?
 
タイガー 「 ああ なんでも鳥族の王・ガルーダが寿命で弱ってきたことをチャンスだと思って、
  前からここをほしがっとった魔族たちがガルーダを倒そうとしとるらしいノー。
 
水樹 「 私がジークフリードさんに聞いた話はこうよ。
  ここ数千年、ここは魔鳥系魔族の住む、魔界の中でも割と安定していた所だったそうよ。
  ところが数年前からガルーダの霊力が急激に落ちだした・・
  原因は神話の時代に口にしたといわれる、
  “不死の甘露(ふしのかんろ)=アムリタ”の効果が切れたからみたいなの。
 
洋子 「 ガルーダが神話の時代に天界から盗み出したってやつやな。
 
水樹 「 うん、そのことを知った周囲の力を持ってる魔族たちが、
  自分がこの地の王になろうと何度も進入を試みた。
  そしてそのたびに鳥族と激突し、鳥族は命をかけてこの地を守った・・
  今じゃその数も激減して、ハーピーも若い子達ばかりになったそうよ。
 
タイガーは周囲の森や川を見まわしながら―――
 
タイガー 「 ハーピー達も必死になるわけか・・確かにここは木と水に囲まれてて
  鳥達が生きてくのに最高の環境じゃからノー。 ・・・そうかそれでー
 
水樹 「 え?
 
タイガー 「 さっきハーピーと一戦交えたんじゃが、
  魔界のハーピーにしては思ってたより簡単にあしらえたんジャ。
  あのルウとかいう魔理サンをさらったハーピーは別格としてな。
  ワシの幻覚攻撃もそのハーピー以外は見事にかかってくれたしの。
 
洋子 「 だけどハーピーはハーピー。
  さっきみたいに大軍で攻撃されたらうちら一発で終わりやけどな。
 
水樹 「 この魔界では力が正義だし、魔界軍は手を出すつもりはないみたい。
  ジークフリードさんは特別に、有休休暇をとって駆けつけてくれたのよ。
「 有休・・・魔族にもあるのか?(汗)
 
洋子 「 それよりジークフリードっていったら、ヨーロッパじゃ神の地位にいた奴やで。
  よくそんな奴の背中に乗ってこれたな。
水樹 「 でも結構いいひとだったわよ。 ベレー帽被ったらちょっと怖いけど・・・
洋子 「 魔族がいいひとか?
 
洋子が怪訝そうに言った。
 
タイガー 「 魔族といっても全部が全部悪い奴らじゃないケン、人間と友好的なのも結構おるしノー。
「 それより魔鈴さんだよ! 奴ら魔鈴さんの魔法でいったい何をするつもりなんだ!?
 
水樹 「 それはおそらく、“不死の甘露=アムリタ”の再生・・・
 
不死の甘露=アムリタ・・・かつてガルーダが天界から盗み出したものであり、
ガルーダはヒンズー教の神・ヴィシュヌにそれと同等のものを授かり受けたことがある。
 
洋子 「 不死の甘露!? ガルーダは魔鈴さんに不老不死の薬を作らしとるんか!?
「 もし魔鈴さんがその薬を作ったらどうなるんだよ!
 
水樹 「 ・・・もし魔鈴さんが不死の甘露を完成したとして、
  ガルーダが飲んで不老不死になって、再び上級魔族の力を取り戻しでもしたら
  まず周辺の名のある魔族は黙ってはくれないでしょうね。
  ここの土地を狙えなくなった魔族たちの怒りの矛先は魔鈴さんに向かうことになるわ。
 
黒猫 《 そんニャ・・・!
 
水樹 「 もしくは自分も不老不死になろうとする魔族もいるはずだから、
  最悪魔鈴さんを狙って、人間界・魔界問わず争いが起こるわ。
  下級・中級魔族だけじゃなく、上級魔族の下のほうに位置する魔族も出てくるかも・・・
  そうなってしまったら、コトを手っ取り早く解決するにはひとつしかない・・・
 
洋子 「 ―――魔鈴さん抹殺か?
 
洋子の言葉に、水樹は黙ってうなづいた・・・
 
水樹 「 ジークフリードさん言ってたわ。
  魔界軍も神族の目があることだし、人間界で大きな争いを起こすつもりはないから
  保護・軟禁するか、最悪魔鈴さんを暗殺するだろうって。
  これは人間界のGS協会上層部も同じ判断だろうって。
 
黒猫 《 ひどいニャ! 魔鈴ちゃんの1人損だニャ!
「 でもなんで魔鈴さんなんだ!? 魔族で他に作れるヤツはいねーのかよ!?
 
水樹 「 実際に完璧な不老不死の薬を作れる魔族なんて魔界にもいないのよ。
  もともとそういった研究をしなくたって魔族は長命だし、
  魔神クラスや天界神クラスだったら作れるかもしれないけど・・・神々自身
  半永久の命は持ってるし、わざわざそんな魔族に不死の命を与えるわけないしね。
  だからそういった不死に対しての研究・・・
  調合や錬金術なんかじゃむしろ寿命の短い人間のほうがよっぽど長けてるのよ。
  そのエキスパートが中世の魔法使い・魔女。
  魔鈴さんは人間界最高の魔女だと、魔族の中でもけっこう有名らしいわ。
 
タイガー 「 確かに魔女は、不老不死の薬を作れたといわれとるが、いくら魔鈴サンでも
  そう簡単にそんなもん作れんと思うがノー。
 
水樹 「 ガルーダは一度、“不死の甘露”かそれと同等のものを口にしてるのよ。
  もしガルーダの体内から、わずかに残ったその効力のみを魔鈴さんが
  引き出せたとしたらどう? そして一文字さんを人質に脅されてたら?
 
タイガー 「 ・・・・・・
洋子 「 ・・・ちょっと待って、魔界軍はそれを知っときながらなんでガルーダに手をださんのや?
 
水樹 「 詳しいことはまだ魔界軍の上のほうにはまだ伝わってないみたい。
  このこと知っているのは、実情を調べたワルキューレさんとジークフリードさんだけ。
  魔鈴さんがそんな研究を完成させたと知れば、即刻永遠のおたずね者になっちゃうからね。
 
黒猫 《 だけどそれじゃあ、ガルーダも同じことじゃニャいか?
 
水樹 「 そうね・・・でも、全盛期のガルーダは本当に強いらしいわ。
  そのガルーダを止められるほど強力な魔族はほとんどいないみたい。
  上級魔族となると、そう簡単に魔族同士のイザコザに動けないみたいなの。
 
「 そんなのありかよ! それじゃあ魔鈴さんの1人損じゃねーか!
洋子 「 しゃーないわ、それが魔界のルールなんやから。 強いものこそが正義というここのな。
「 魔族は人間よりずっと長生きしてんだろ! ウン万年も生きてりゃ充分じゃねーか!!
水樹 「 長く生きてるからこそなの。 それが強力な魔族であれば、尚更簡単には死ねないのよ。
洋子 「 だから薬が完成する前にうちらが助けるしかないんやな!
 
洋子の言葉に水樹は力強くうなづく。
 
タイガー 「 ・・・じゃが魔鈴サンたちをワシらが助け出したら、ここのハーピーはどうなるんカイノー?
  今でさえかなりの数がヤラレとるんじゃろ?
洋子 「 しゃーないやろ、今までガルーダという強い魔族の下でのほほんと暮らしとったんやから。
  それにもともとうちらには関係のないことやんか。
タイガー 「 それはそうじゃが・・・
「 お、見えてきたぜ!! 湖の真ん中に城がある!!
 
タイガー達はついに、鳥族の城のある湖へとたどり着いた。
半径数キロはある大きな湖の中心に、中世の城を思わせる古い城があり、
そこに向かって幅7・8メートル、長さ1キロ近くある古びたボロボロの木の橋がかかっていた。
 
水樹 「 あ そうだ。
 
水樹は背中のリュックから、10数枚のお札と1組の霊体ボウガンを取りだした。
 
洋子 「 霊体ボウガン! いったいどこから持ってきたん!?
水樹 「 エミさんが使い魔に持たせてワルキューレさんの所に持ってきてくれたの。
  それをジークフリードさんが受けとって、わたしに・・・
タイガー 「 水樹サン、このお札は?
水樹 「 私だってただ待ってただけじゃないのよ、ちょっとした破魔札ぐらいなら私にも作れるわ。
  さっきみたいに魔界で神聖結界張れたのも、お札に霊力をチャージしてきたからなの。
  でもお父さんほどうまくはないから、あんまり期待はしないでね。
 
洋子は霊体ボウガンを持つと、ニヤッと微笑んだ。
 
洋子 「 これでハーピーに少しは対抗できるな、なにせ除霊に必要な
  お札や霊体ボウガンなんかなしにここまできたもんな。
タイガー 「 あははは、いやーホントに大変な旅じゃったからノー。
洋子 「 あとで水樹にも教えちゃる! 化猫と寅吉&クロネコのラブラブ話とかな!
水樹 「 え?
タイガー・黒猫 「 よ、洋子サン!!  《 それは忘れたい過去なんだニャ!
 
焦るタイガーと使い魔。 水樹がなんのことなのか問いただそうとすると―――
 
「 何グズグズやってんだ!! 早く行くぞ!!
 
茜はすでに一足先に橋のほうへ向かっていた。
 
水樹 「 ・・・なんだかんだいって、茜ちゃんがいちばん一文字さんのこと心配してるみたいね。
洋子 「 まったくやな。
タイガー 「 おしゃべりはあとジャ、ワシらも行こう!!
 
タイガーたちは、城に向かってまっすぐ伸びる橋を駆けだしていった―――

リポート66 『セイレーンは歌う』
■鳥族の城 屋上■
 
ガルーダは城の屋上で椅子に座り本を読んでいた。 どこからもってきたのか
安奈みらの【花の女子高三人娘ラブラブミステリーツアー殺人事件】を手にしている。
そのガルーダのもとに、ハーピー兵が状況報告のため飛んできた。
 
ばさばさっ
ハーピー兵 ≪ ガルーダ様ーッ!!
ガルーダ ≪ なんだ騒々しい。 読書中だぞ。
 
ハーピー兵はガルーダの前でヒザをつき頭を下げた。
 
ハーピー兵 ≪ 我々のナワバリに人間が4人ほど侵入しまして・・・
ガルーダ ≪ 人間などお前たちだけで充分だろ。
ハーピー兵 ≪ それが魔界軍の兵が1人、加勢に来まして・・・
 
ギロッ‥ガルーダは目線を本からそらし、ハーピー兵を睨んだ。
 
ガルーダ ≪ 魔界軍だと?
ハーピー兵 ≪ はい、着てる服装からして少尉のものだと思われます。
ガルーダ ≪ 問題ない、小尉1匹程度ならお前たちでも充分やれる。 生け捕りにして連れてこい。
ハーピー兵 ≪ 人間のほうはどうしますか?
  どうやら魔鈴の仲間らしく、魔界の門を抜けてここまで来た様子で・・・
ガルーダ ≪ それこそお前たちだけで充分だろ! 人間ごときに私の手をわずわらすんじゃない!!
ハーピー兵 ≪ は、はいっ!!
ガルーダ ≪ 物語が佳境へと入ってきた所なんだ。 邪魔しないでくれまったく・・・
 
再び本を読み出すガルーダ。
 
ハーピー兵 ( しかしなぜその本を・・・!?(汗)
 
ガルーダ ≪ 何をしている、早く行け!
ハーピー兵 ≪ は はいっ!!
 
ばさばさばさっ‥! 飛び去るハーピー兵。
 
ガルーダ ( フオフオフオ・・・人間が仲間のためにここまで来るか・・・面白い。
  だが我ら鳥族のためにも、私は何としても死ぬわけにはいかんのだ。
  そう、魔女、魔鈴めぐみが造りし、“アムリタ”を口にするその時まで・・・・・・
ぱらっ・・
「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!
がばっ!
  そうか、こいつが犯人だったのか――――――――――!!!!!
 
 
・・・・・・ガルーダは本に夢中だった。(汗)
 
 
 
■鳥族の城に続く橋■
 
湖の中心にある鳥族の城に向かうタイガー達は高さ10メートル、長さ1キロ近くある
木製の橋の上を渡ろうとしていた。
そこでハーピーたちと遭遇し、ハーピー・グレムリン・スカベリンジャーの混合群と戦っていた。
タイガーたちの目に見える範囲で合計30体以上はうかがえる。
 
ズダンッ!ズダンッ!ズダンッ!
洋子 「「「  うおおお! 道を開け―――!!
 
ピルルルルルルルルルルッ
<  鳥よ! 汝 我が命に従え!!
 
ヴルアアアアアッ!
タイガー 「「「  幻惑精神感応・重力攻撃!!
 
パア――――――ッ!
水樹 「「  神の結界!!
 
洋子は霊体ボウガンで橋の前方にいるグレムリンを攻撃し、
茜は獣の笛で魔界のスカベリンジャーの動きを封じる!
トラ男変化のタイガーは、グラヴィトンの幻覚を魅せてハーピーを湖に沈めて溺れさせ、
水樹はその3人に防御結界を張っていた!
 
黒猫 《 みんながんばるだニャ〜〜〜!
 
使い魔は防御結界の中心、水樹という安全地域の下で応援している。
 
洋子 「 この結界よく効くで水樹! ハーピーの“フェザーブレッド”を完全にふせいどる!
タイガー 「 ははっ、防御を気にせんでええからずいぶん攻撃がしやすいしノー
  こんなことなら最初からいっしょについてきてもらったらよかったノー!
水樹 「 そ、そんなこと・・・///
 
照れる水樹。
事実、水樹の防御結界はタイガーの予想以上の効果があった。
この魔界において、魔族の力は人間界のそれより霊力が高まるが、
逆に神族側の霊力はゼロに等しくなる。
と同時に、魔界から出たことのない魔物にとって、神族側の霊気は感じたことのない脅威。
水樹は1週間かけてお札に霊力を貯えていたおかげで、一時的に神聖霊力を扱えていた。
これも実はタイガーたちが旅立った後、エミがもしもの時のために水樹に支持した結果である。
 
ぷはっ
「 ムダ口たたくんじゃねえ!! さっさと城に進まねえとまた援軍が来るぞ!!
 
はーっ
ピルルルルルルルルルルルルッ
 
そして一息つくと、すぐさま笛を吹きなおす!
 
水樹 「 ・・・茜ちゃん真剣ね。 それになんか強くなってるみたい。
洋子 「 茜はこの旅で一番成長したからな。 ぼやぼやしとると抜かれてしまうで!!
ガルルルルッ
タイガー 「 ワシらもやるケン!! いくぞ水樹サン!!
水樹 「 ええ!!
 
 
 
■鳥族の城■
 
そのタイガー達が戦う様子を、鬼神ガルーダは、城の屋上から双眼鏡で覗いていた。
 
ガルーダ ≪ フオフオ・・・なるほど、人間にしてはやるな。
  さすが魔鈴の仲間。 人間界で言うゴーストスイーパーという奴らか。
 
とそこに、マイクを持ったセイレーンが近づく。
 
セイレーン ≪ 読書の時間は終わりですか?
ガルーダ ≪ うむ、1時間読んだら30分休む、これが私のポリシーだ。
セイレーン ≪ はあ・・・・・・ ( これだけはよくわからないわ・・・(汗)
 
内心呆れるセイレーンであったが、キリッ顔を引き締めると―――
 
セイレーン ≪ ガルーダ様、私が出ましょう。 これ以上仲間を減らすのは得策ではありませんわ。
ガルーダ ≪ セイレーン、やってくれるか。
セイレーン ≪ もちろん♪ 私も鳥妖怪の一員ですよ。
  私はこの祖国を守るために、人間界の海からここにきたのですから。
 
自信たっぷりのセイレーンを見たガルーダは、ニヤリと笑った。
 
ガルーダ ≪ 600年ぶりに聞くお前の美声を楽しみにしているぞ。
セイレーン ≪ はっ、お任せを!!
 
セイレーンはタイガー達のいる場所へと飛んでいった。
 
 
 
 
 
         ―――そしてセイレーンは歌った―――
 
 
ひゅーっ
 
セイレーン   ≪≪  トゥールルルル〜ル〜ル〜♪  ル〜ルルルラ〜ラ〜ラ〜♪  ≫≫
 
 
 
■鳥族の城に続く橋■
 
グレムリン ≪≪  ウギャッ!! ギャギャッ!!  ≫≫
 
歌が聞こえると同時に、グレムリン達は突然苦しみだした。
 
タイガー 「 なんジャ!? グレムリンの様子がおかしい!?
水樹 「 タイガーさん、あれ!!
 
水樹の指さす先には、上空に浮かぶセイレーンの姿があった。
 
セイレーン ≪ みんなさがってて頂戴、特にグレムリン、私の歌声はあなたたちにとって天敵ですからね♪
ばさばさばさっ!
グレムリン ≪≪ ギャギャーッ!! ≫≫
 
城のほうへ退散していくグレムリンたち。 ハーピーとスカベリンジャーは遠巻きに様子を見ている。
 
タイガー 「 なにもんジャ! あんたは!?
 
セイレーン ≪ フフフフ・・・私はセイレーン、聞いたことぐらいあるでしょ?
 
水樹 「 セイレーン!?
洋子 「 あんたが海の魔女、セイレーンか!!
 
水樹と洋子が驚く中、タイガーはエミに聞いた話を思いだした。
 
タイガー 「 あんた、3年前に美神サンに負けて、海に沈んだんじゃなかったんカイノー?
セイレーン ≪ うっ・・! なぜそのことを!?(汗)
タイガー 「 ワシ、エミさんの弟子じゃったからノー( ・・・じゃがなんでエミさん、
  あの時ワシもセイレーン退治に連れてってくれなかったんじゃろーか?
  ワシがあの時資格持っとらんかったからか? ピートサンが来とったからか?
  1話で収めるにはよけいなキャラはいらんかったからか?
  ひょっとして作者にまで忘れられとったんじゃ・・・(汗)
  どーせワシが出ても歌う前に、マイク取り上げられて終わりなんじゃろーがなー(泣)
 
心の中で、あの頃の自分を振り返っていたタイガーの目に涙が・・・
 
セイレーン ≪ ・・・なぜ泣く?
タイガー 「 うるさい! あんた、なんでも歌い続けてのどを痛めて自爆したらしいノー。
セイレーン ≪ よ よけいなお世話よ! あの時は美神とか言う女がズルしたから・・・!
  とにかく! 私の美声であなた達を湖に沈めてあげるわ!!
 
セイレーンはマイクを構えた!
 
タイガー 「 こいつを倒すには歌で負かすしかないケン! ここはワシが―――
洋子・茜 「「  却下!!
 
どたっ☆ 茜と洋子の声により、思わずこけるタイガー。
 
タイガー 「 な なしてジャ!?
洋子 「 だって・・・なあ。
「 見るからに歌、下手そうじゃねーか。
水樹 「 ちょっと2人共・・・(汗)
むか・・
タイガー 「 な、何をいうか! ワシはこれでも歌は結構なもんじゃぞ!!
洋子 「 わかったわかった、せやけどうちらには音のスペシャリストがおる。 茜!
「 おうよ!!

リポート67 『魔界の歌合戦!!』
★1番手 白石 茜★
 
ピルルルルルルルルルルルルッ 
 
茜は獣の笛を吹き、スカベリンジャーをコントロールする!
 
洋子 「 歌も笛も、音に魔力を乗せて攻撃することにかわりはない!
  今の茜なら充分にやれんことはない!
 
フフフフ・・・
セイレーン ≪ その程度の力でこの私に勝てると思ってるの? 私の歌声を聞かせてあげるわ♪
 
セイレーンはマイクを持ってスーッと息を吸いこむと、
 
 
セイレーン   ≪≪ ♪ 海に恋する男たち・・・  いとしい私の生命たち・・・! ♪  ≫≫
 
ピルル・・
「 ・・ウッ!!
水樹・洋子 「 茜ちゃん!  「 笛を止めるんやない!!
 
茜の笛の音が止まり、セイレーンが微笑む。
 
セイレーン   ≪≪  死という名の、 キスをあげるわ♪  ≫≫
 
ぴしっ ぴきぱき・・・  どごっ! ―――!!??―――
木製の橋が、茜の足元の部分だけヒビが入っていき、・・・そして崩れた。
 
「「「  うわああああああぁぁぁっ!!!!!
タイガー 「「「  あかね(サ―――ン)!!!
 
 <どっぼーんっ> 茜は10メートル下の湖に落ちた。
 
タイガー 「 あかねサン、大丈夫かー!?
「 ぷはっ、ああ、なんとかー!!
 
橋をささえる柱にしがみつく茜。 そこに数羽のハーピーが茜を捕まえにかかる。
 
ばしゃばしゃばしゃっ
「 こら! 離しやがれ!! なにすんだよ!!
 
2羽のハーピーが茜の両脇を支えて、水上数十メートルの所で止まった。
 
フフフフフ・・
セイレーン ≪ 水にさえつかれば、飛べないあなたたちを捕まえることなんてわけないわ♪
  このままこのコを人質にするって手もあるけど、それじゃあつまんないわ。
  さあ、次は誰が歌うつもり?
 
タイガー 「 よし、今度こそワシが――
洋子 「 水樹頼むわ!!
水樹 「 うん、わかったわ!
 
ひゅうううぅぅぅぅ〜〜〜
タイガーに乾いた風が吹く。 彼のやる気とは裏腹に、洋子は水樹に2番手を期待した。
 
タイガー 「 ・・・無視せんでクレ洋子サン。(汗)
洋子 「 少しでも勝てる確率の高いもんが歌ったほうがええやろ!
 
 
★2番手 神野 水樹★
 
セイレーン ≪ フッ、これは餞別よ。
 
水樹はセイレーンから投げ渡された予備のマイクを受けとった。 
 
水樹 「 それじゃあ、私の故郷の歌を歌いまーす!!
 
水樹は息を吸いこむと―――
 
水樹 「  この子の可愛さ限りない♪  山では木の数 かやの数♪
 
   尾花かるかや 萩ききょう♪  七草千草の 数よりも♪
 
   大事なこの子が ねんねするー♪  <ピシッ> 
 
 
どこかで聞いたことのあるこの歌は、以前おキヌが歌っていたもの。
ちなみに水樹の実家は氷室神社の近くにある。(3・4節参照)
 
 
水樹 「  星の数よりまだ可愛♪ <ピキピキッ>
 
   ねんねや ねんねや おねんね・・ <バコッ>
 
   やゃああああああぁぁぁぁっ!!!!! <どっぼーんっ>
 
タイガー 「 水樹サン!?
 
水樹の歌唱力はイマイチだった・・・
 
セイレーン ≪ フフフ・・・これであと2人、さあどうする?
 
タイガー 「 洋子サン!! 今度こそワシに―――
洋子 「 ああ まかした。
タイガー 「 え? ああ・・・( 自分が歌うと思ったんじゃがノー・・・
 
 
★3番手 タイガー寅吉★
 
タイガーは心の中でリズムをとり、そして歌う!
 
タイガー 「「  すぅぅてぇたあ おんなぁあのほお〜♪ なみだぁああざけええ〜〜〜っ♪
 
 
   ―――演歌!?―――
 
 
セイレーン ≪ なにっ!? この歌は・・!?
 
苦しみだすセイレーン。 幽霊演歌歌手、ジェームス伝次郎が死後にだした歌である。
 
黒猫・洋子 《 意外と上手いニャ!  「 歌の選曲もええ! これならいける!
 
歌で反撃しないとやられると感じたセイレーンは、マイクを持ってスーッと息を吸いこむと、
 
セイレーン   ≪≪ ♪ 海に恋する男たち・・♪  いとしい私の生命たち・・ ♪  ≫≫
 
ずざざざざざざざざざっ!
セイレーンとタイガーのすさまじい霊波の衝突により、湖の水面が揺れだした!
 
水樹 「 歌うと同時に精神感応で攻撃してる!
「 いける、いけるぜ所長!
 
ハーピーに捕まり、上空で捕えられていた2人もセイレーン撃退に期待した。
 
セイレーン ( く! こいつ意外と霊波を送るのがうまい!
タイガー ( よし・・あと少しジャ! ここはひとつこの歌で!!
 
ここでタイガーは選曲を変えた!
歌はゴーストシンガー、ジェームス伝次郎の生前の歌である!
 
タイガー 「 ハイウェイをつっぱしーる♪  マイラブ・レボリューションッ! ♪
 
  おーいえっ♪  あすふぁーと じゃんぐ〜〜〜っ♪
 
洋子 「 いかん寅吉! その歌は――― 
 
洋子が止めようとするが時すでに遅く・・・
 
タイガー  コンクリ〜 じゃんぐ〜〜〜 <バコッ>
 
 ぐぶぉおおおおおおなしてじゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!! <どっぼーんっ!>
 
タイガーはあえなく湖に落ちた。
数羽のハーピーがタイガーを捕まようとするが、重くて水面から持ち上がらない。
そこで―――
 
ばしゃばしゃばしゃっ!
タイガー 「 何をするんジャ!!
ハーピー兵 ≪ 重いからロープで縛るんだよ!
ハーピー兵 ≪ 連行するまで水の上でじっとしてろ!!
 
ハーピー兵はロープを持ち出し、5人がかりで水面上に浮かぶタイガーを縛った。
 
水樹 「 タイガーさん、歌は結構上手なんだけど・・・(汗)
「 ロック系・・ぜんっぜん似合ってねーな、選曲ミスだ。(汗)
 
黒猫 《 ・・・どうでもいいけど何で歌に負けたら橋に穴が開くんだニャ?
洋子 「 そこつっとんだらあかんとこや。(汗)
 
・・・船が沈む要領だと考えてほしい。
 
セイレーン ≪ ウフフフフフッ、あとはあなただけね。
 
洋子 「 ・・・いや、まだおるで。 クロネコ出番や!!
黒猫 《  ニャッ!?
 
 
★4番手 使い魔黒猫★
 
「 文字通りネコの手も借りやがった・・・
水樹 「 そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!
 
黒猫 《 オイラ歌なんて・・・!
洋子 「 あんたも魔女の使い魔やろ! やるだけやってみ!!
 
タイガー ( 洋子サンなんで自分で歌おうとせんのジャ? まさか・・・
 
黒猫 《 わ わかったニャ! やってみるニャ!
セイレーン ≪ あのネコになにか特別な力が・・?(汗)
 
警戒するセイレーン。 そして黒猫は歌いだす・・・
 
 
 
こほん・・ すーっ
 
黒猫 《 にゃーにゃーにゃにゃにゃにゃにゃーっ♪ にゃーにゃにゃにゃーっ♪
 
 
 
ずだだだだだだだっ! =☆
全員盛大にこける。
 
 
 
黒猫 《 ふにゃ〜〜〜っ!  <ぼちゃんっ>
洋子 ( わずかな可能性に期待したうちがアホやった・・・!
 
必死に立ち上がる洋子。
 
セイレーン ≪ た、ただのネコじゃない。 とにかくこれで本当にあと1人ね。
 
 
★5番手ラスト 御剣 洋子★
 
「 ヨーコさん! 何でもいいから思いっきり歌え!!
水樹 「 きっと大丈夫よ! 洋子さんはうちの事務所のエースなんだから!
 
ガタガタッ!  ―――!?―――
 
木の板が折れ、洋子は一瞬湖に落ちそうになるが、間一髪で橋にしがみついた。
ただでさえボロボロの橋、その上セイレーンによって何度も木の橋の床が
抜けてしまったため、今にも橋全体が崩れ落ちそうになっていた。
 
洋子 ( くっ・・・精霊石使った所で全員は助けられんし・・・!
 
セイレーン ≪ フフフフ 他の方法を考えたってムダよ♪
  声以外、あなたの攻撃は私には届かないわ♪ さあ、ラストライブいくわよ!!
 
洋子 ( こうなったらもーヤケや!!///
 
 
 
そしてセイレーンが歌いだしたその時!
 
 
 
 
 
 
セイレーン   ≪≪ ♪ 海の世界は―――♪
洋子 「「「「「  〜〜〜♪♪♪〜〜〜♪♪♪〜〜〜♪♪♪〜〜〜
 
       〜〜〜♪♪♪〜〜〜♪♪♪〜〜〜♪♪♪〜〜〜
 
 
    キィ――――――――ン!!!!!
 
セイレーン ≪≪≪  !!!!!?????  ≫≫≫ 
 
 
洋子はその細身の体から予想だにしない大音響の声を張り上げ、
周囲数十メートルにいる者の耳を攻撃した!
その音量(フォント?)は、ケルベロスの咆哮より更に大きい!
 
ビリビリビリビリッ!
 
セイレーン ≪≪≪  ぐわ――――――っ!?  やっ…やめろおおおっ!?
 
      なぜだ!! なぜ同じ歌でここまでひどい声が出せるんだ―――っ!!??
 
両手で耳を押さえ苦しむセイレーン。
彼女だけではない、その場にいるものすべてが耳を押さえ苦しんでいた。
水樹と茜を抱えてた4羽のハーピー兵は思わず手を離しそうになるが、
声から離れようと高く飛びあがることで回避していた。
セイレーンの苦しむ顔は、ピートのピアノを聞いた某ピアノ妖怪と瓜二つである。
 
タイガー 「 やっぱり!! しかもこれは、ピートサンとメゾピアノの時と同じパターン!!
  メゾピーがひどい音を嫌うのと同じく、
  セイレーンもまた、洋子サンのびどい声にダメージを受けとるんジャ!!
 
セイレーン ≪≪≪  こんな音、耐えられなーい!!!
 
セイレーンが泣きながら城のほうへ逃げ去っていく中、
 
洋子 「 よっしゃ――― 勝った―――!!!///
 
真っ赤になってガッツポーズする洋子。 半ばヤケ気味である。
 
ぐわーんぐわーん
水樹 「 す・・・すごい声・・・
き―――ん
「 ヨーコさんでも欠点があったんだな。
 
耳に響いてる水樹と茜。 
 
タイガー ( じゃがワシも含め、洋子サン以外はみんなハーピーに捕まっとるケンどうしようも・・・
  ・・・この状況をなんとかするには・・・<ゾクッ>!!
 
嫌な気配を感じたタイガーが後ろを振り返るとそこに・・・!
 
 
 
ばさっ ばさっ ばさっ‥
 
ガルーダ ≪ フオフオフオ、なかなかおもしろい余興だったぞ。
 
 
背中に黄金の翼を持った鳥人が、タイガーたちの上空に現れた。
 
 
ガルーダ ≪ 我が名はガルーダ。 この地を統べる者だ。

リポート68 『御剣洋子VS鬼神ガルーダ
「「「「「  ガルーダ!!??  」」」」」
 
セイレーンと戦いの直後、その様子を見ていたガルーダがついにタイガー達の前に姿を現した。
現在、水樹・茜・黒猫はハーピーに捕まり、上空で支えられている。
タイガーは体重が重いため、ロープで縛られ水面に浮かんでおり、
セイレーンを打ち破った洋子のみハーピーに捕まっておらず、今にも崩れそうな橋の上にいた。
 
洋子 ( こいつがこの騒ぎの張本人、もと上級、現・中級魔族の鬼神ガルーダ・・・!
タイガー ( いかん! この状況は明らかに不利ジャ! 奴の強さは底がしれん!!
 
ガルーダは空中で留まっている。
 
ガルーダ ≪ フオフオフオ・・・我らの同胞たちの数が減ってるとはいえ、自力で
  この湖まで侵入してくるとは大したものだ。
  だがさすがに城まではたどり着けなかったようだがな。
洋子 「 アホ言うな!! うちらはまだ負けとらんわ!!
  ボスキャラがこんな所に出てくるんやない、城で待っとれ!!
タイガー 「 よ 洋子サン!!(汗)
ガルーダ ≪ フオフオフオ・・・なるほど、おまえがこいつらのリーダーか。
  私を前にしてさすがに肝が座ってるな。 さすがセイレーンを退けただけのことはある。
洋子 「 うちがリーダーやない。 うちらのリーダーはそこの寅吉や。
ガルーダ ≪ なに?
 
ガルーダは湖に浮かんでるタイガーを見た。
 
ガルーダ ≪ ・・・妖怪か?
タイガー    「「「  人間ジャ!!!
 
即座に反論するタイガー。 そして唯一身動きの取れる洋子は、ガルーダと対峙した。
 
洋子 「 ガルーダ、うちらの目的ぐらいわかっとんのやろ?
ガルーダ ≪ フォ・・・魔鈴を助けに来たのだな。
洋子 「 そうや、うちらは魔鈴さんと魔理の2人を返してほしいだけや。
  あんたら魔族のイザコザに、うちらを巻き込まんでほしいわ。
ガルーダ ≪ それはすまないな。 だが私にも事情があってな。
洋子 「 “不死の甘露”か。
ガルーダ ≪ ほう、知っておるのか。
洋子 「 ああ、もし完成でもさせたら、魔鈴さんの身が危ないことはな。
ガルーダ ≪ その分報酬ははずんでおる。 魔鈴も了解済みだ。
 
それを聞いた魔鈴の使い魔の黒猫は、怒りの形相でガルーダに反論する。
 
黒猫 《 そんなわけないニャ!! きっと脅して作らしてるんだニャ!!
洋子 「 ・・・そうなんやろ、ガルーダ。
 
洋子は長い前髪のスキマからガルーダを睨む。
 
ガルーダ ≪ フオフオ・・・このまま黙って帰れば、見逃してやってもいいのだぞ。
洋子 「 魔族と約束なんか出来るかい! <キンッ>
 
洋子は神通棍に霊気をこめた。
 
ガルーダ ≪ ・・・私とやる気か?
タイガー 「 待つんジャ洋子サン!!
洋子 「 寅吉!?
タイガー 「 ガルーダ! ようするにあんたの一番の目的は、長生きしたいんじゃのーて
  この場所を他の魔族から守りたいってことじゃろ!?
  そのためにあんたが生きてここにおらんと、鳥族を守れないってことじゃろ!!
ガルーダ ≪ ・・・その通りだ。
タイガー 「 じゃああんたのかわりにここを守れる奴がおればええんじゃな!!
  なんならワシがジークサンに頼んで、魔界軍に応援を呼んでもらって・・・
ガルーダ ≪ 不可能だ、魔界軍はこんなことでは動かん。
  弱肉強食がここ(魔界)のルールだ。 己の種族は己の力で守らねばならん。
「 おいガルーダ!! てめえそこまで仲間を守る気持ちがあるんなら、
  あたいらの気持ちだってわかるだろ!!
  あたいらだって仲間を助けたい気持ちは一緒なんだよ!!
水樹 「 茜ちゃん・・
ガルーダ ≪ そう、理解はしている。 だから大人しく帰れば見逃してやると言っているんだ。
  しかしここは魔界・・・強さが正義の世界だ。
  我らの生きる邪魔をするというなら・・・阻止せねばならんな。
 
 
ヒュオオオオッ‥
 
一陣の風が吹く。
ガルーダは橋の上に降りると、背中の黄金の翼がフッと消える。 そして洋子と対峙した・・・
 
ガルーダ ≪ さあ、残るはお前だけだ。 お前たちの勇気ある行動に対し、この私自らが相手になろう。
洋子 「 ・・・身に余る光栄やな!
 
洋子はガルーダに向かって飛び出した!
 
茜・水樹 「「  洋子さん!!
 
洋子 「「  はあああああああああっ!!!
 
 
 
御剣洋子・・・
 
彼女は中学生のとき、古い魔導書に書かれていた魔方陣の一つを描いてしまったことがある。
その際に開かれた時空の隙間から現れた魔物によって、魔界へと引きずり込まれた。
そこでワルキューレに助けられた彼女は、しばらくそこで暮らすこととなる。
人間界へ戻る際の記憶はワルキューレに封じられたようだが、
元の世界に戻った時には1年もの時が流れており、霊能力を身につけていた。
それがきっかけとなり、彼女は六道女学院に入学した。
 
彼女は学校の授業意外にも、朝練・放課後の特訓も欠かさず行い、その結果
入学当時の実技試験では平凡だった彼女の成績は、時を追うごとに上がっていき、
わずか半年たらずでクラス対抗戦の代表に選ばれるほどの実力を身につけた。
その2回戦、B組との戦いに出場した時間はわずか数十秒しかなかったが、
春華のキョンシー4鬼を一瞬で粉砕し、おキヌを追い詰めたその秘めた力は
あの美神に、六道の女子の中で唯一“強い”と言わせるほどであった。
 
それから1年後のGS資格試験。
彼女はタイガーが2回戦敗退で終わる中、3位という好成績を残したのである。
その際の準決勝の対戦相手が雪之丞でなければ・・・
おそらく彼女がその時の首席合格となっていたであろう―――
 
 
 
 
ガキ――――――ン!!! 「 !! 」
ガルーダは、洋子の振り下ろした神通棍を軽く右手の爪でうけとめた。
 
 
ガルーダ ≪ いい太刀筋だ。 だがこの私には―――
 
洋子 「「「  水樹の破魔札!!! <バッ>
 
ガルーダ ≪≪  ぬおおっ!!!
 
洋子 「「「  最後の精霊石よ!!! <カッ>
 
ガルーダ ≪≪  ぐあああっ!!!
 
 
洋子は持ってた武器をすべて使い、連続攻撃を行った!
そしてガルーダが一瞬ひるんだスキに、後ろに回り、ガルーダの首に神通棍をあてた。
 
洋子 「 ハーピー!! うちの仲間を橋に下ろせ!! でないとガルーダを殺す!!
 
ざわっ‥うろたえるハーピー達。
 
洋子 「 いくら力の差があっても、この状況じゃあガルーダが動く前にうちはやれるで。
ニヤッ‥
ガルーダ ≪ いい判断だ。 人間にしとくのはもったいないな。
洋子 「 黙らんかい!!
ガルーダ ≪ フ・・・だがおしいな。<ヒュッ>
洋子 「 !?
ガルーダ ≪ <ヒュッ> お前が考えるより、私は速い!
洋子 「 !!
 
ガルーダが消えたかと思えば、一瞬の間に洋子の後ろに回りこんでいた!
 
洋子 「 ・・・ちっ!
 
洋子は胸の内ポケットの中の“魔霊石”を握る!
 
水樹・タイガー 「 テレポート!?  「 いや、“超加速”ジャ!!
 
水樹とタイガーがそう発言した次の瞬間・・・!
 
ガルーダ ≪≪ フォオオオッ!!!
 
ザンッ−−−−− フシュウ―――――ッ
ガルーダは洋子の背中を爪で鋭く切り裂いた! 洋子の背中から大量の鮮血がふきだす!
 
 
水樹 「「「  イヤアアアアアアッ!!!!!
 
黒猫・茜 《 洋子ちゃん!!  「 あのヤロー!!
 
タイガー 「「「「「  洋子サ――――――ン!!!!!
 
 
水樹が目をそらして叫び、黒猫、茜、そしてタイガーが叫んだ。
 
洋子 「 クッ!
 
洋子は歯を食いしばり、倒れそうになる所をかろうじて踏みとどまった。
そして再びガルーダに向かって神通棍を構える。
 
タイガー 「 やめるんジャ洋子サン、いくらなんでも相手が悪すぎる!!
  ガルーダもやめてクレ!! この勝負あんたの勝ちジャ!!
よろっ‥
洋子 「 寅吉・・・
タイガー 「 洋子サン!!
洋子 「 人間界に帰ったら・・・みんなでまた・・・悪霊退治しような。
 
タイガーは湖から橋の上にいる洋子を見上げていた。
一瞬風が吹き、洋子の長い前髪が吹き上げられ、久々に洋子の素顔があらわれた。
その表情はまるで、すべてが吹っ切れたようであり、まるで・・・
 
タイガー ( ―――まさか刺し違える気じゃ―――
 
それは、これまで感じたことのない嫌な予感―――
 
洋子 ( こうなったら、この魔霊石にかける!
  ガルーダも元は神族側におった神や、ちったあ効果あるやろ!
 
洋子は再び胸の内ポケットの魔霊石を握った。
黒色のローブで目立ちはしないが、背中からは絶えず鮮血が流れおちている。
洋子はここで目を閉じ、霊力を神通棍に集中させた。
 
 
 
ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ ・・・・・カッ!!
 
 
 
洋子 「「「  うおおおおおおおおおおっ!!!!!
 
 
 
洋子は目を開き、再びガルーダに斬りかかろうとする! ―――とその時!
 
タイガー 「「「  幻惑精神感応!!!! <カッ> ―――!!??―――
 
ナイトメア ≪≪  ブヒヒヒィィィィッ!  ≫≫
 
洋子 「 とら・・・・・・き・・・ち・・・・
 
バタッ
タイガーは洋子に向けて、悪魔ナイトメアの幻覚を魅せて彼女を眠りに落とした。
 
ガルーダ ≪ 仲間を眠らすか・・・これもまたよい判断だ。
タイガー ( ・・・じゃがこれでワシら全員捕まってしもうた・・・
  残るはハーピーたちと戦こうとる、ジークさんだけじゃが・・・
 
しかし、タイガーのわずかな希望もむなしく、ハーピーのルウが現れた。
 
ルウ ≪ ボス、遅くなって申し訳ありません。 魔界軍の兵1匹、捕えました。
 
ルウの後ろでは、ボロボロになってハーピーに捕えられてるジークフリードの姿があった。
 
ルウ ≪ こいつなかなか強くて、あたいが加勢に加わった時にはもう半分以上やられてしまって・・
ガルーダ ≪ よい、お前達は休め。 他のものはこいつらを城に連行しろ。
ハーピー兵 ≪≪  はいっ!!
 
タイガー ( クッ・・・・・ワシらの戦いもここまでか・・・
 
タイガーがそう思ったその時!
 
ずごごごごごごごっ!
セイレーンとの戦いで既にボロボロだった橋が、せきをきったように突然崩れ始めた!
 
黒猫・茜 《 なんだニャ!?  「 やべ!! ヨーコさんが落ちる!!
 
ずどどどどどどどっ!
橋と共に、気絶してる洋子も湖の中に落ちていった。
 
タイガー・ハーピー兵 「 洋子サン!!  ≪ 大人しくしろ!!
 
タイガーを縛ってるロープを掴むハーピー兵であったが・・・
 
キッ!
タイガー 「「「  邪魔ジャ!! 放さんかい!! <ブチッ>
 
タイガーはその瞬間、ハーピー2羽を振り払うと同時にロープを振りほどき、崩れていく橋の下へ泳ぎ水中へ潜っていった。
 
茜・水樹 「 所長!!  「 タイガーさん!!
 
 
 
どぼどぼどぼどぼっ‥
千メートルある橋の真ん中あたり、木製の橋は数十メートルに渡り、湖の中へと姿を消してしまった。
・・・そして5分経っても2人は浮かんでこなかった。
 
ガルーダ ≪ ・・・我ら鳥族は水中は苦手だからな。 あとで死体をセイレーンに捜させよう。
 
・・・そして水樹・茜・使い魔・ジークフリードは、ハーピー達に捕まったまま、城へと連行された。
 
 
 
■鳥族の城 地下牢■
 
がしゃんっ!
鳥族との戦いに負けた水樹・茜・黒猫・ジークフリードは、地下の牢屋に閉じ込められた。
 
「 おいてめえら、ここから出しやがれ!
黒猫 《 魔鈴ちゃんに会わせるニャ!!
ルウ ≪ うるさいじゃん! 静かにするじゃん!
セイレーン ≪ フフフ・・・無様なものね♪
 
鉄格子をにぎり文句を言う茜と黒猫に、ハーピーのルウとセイレーンはあざけ笑った。
 
セイレーン ≪ フフフッ! それじゃあ私は2人の死体を確認してくるわ♪
ルウ ≪ ああ、頼むじゃん! あたいら普通のハーピーは水中はもぐれないからな。
  ちっ・・・でもあの目隠し女とトラ人間だけはこのあたいの手で殺したかったじゃん!
 
森での一件を根に持っていたルウ。 不意をつかれたとはいえ、
一時動けなくなるほどのダメージを喰らったことはこの1年、彼女にはなかったことだ。
 
「 てめえら覚えてやがれ! このおとしまえ、絶対つけてもらうからな!!
ルウ ≪ フッ! 魔鈴がアムリタを完成させるまで、ここで大人しくするじゃん!
 
そう言うとルウたちはその場を離れ、見張りのハーピー兵2羽だけが残った。
茜は床に座りこむ。 その横では水樹がジークにヒーリングを行っていた。
 
「 ちくしょーマジむかつくぜ! 獣の笛もとられちまったしよ!!
水樹 「 ほんとにどうしよう・・・ジークフリードさんもまだ目を覚まさないし・・・
黒猫 《 ・・・?
 
すると使い魔は、なにかに気づいたかのように牢の奥にある毛布の上に近づき、匂いをかいでみた。
 
黒猫 《 ! この匂いは魔理ちゃんのものだニャ!
「 なんだって!?
水樹 「 一文字さんの!? ・・・まさかここにいたってこと!?
 
茜が毛布を手に取ってみると、見るからにハーピーの毛並みの色とは違う
朱色と金色がまざった人の髪の毛が何本かついていた。
茜はオリに捕まると、見張りのハーピーに向かい叫んだ。
 
「 おいそこのハーピー! ここに魔理がいたのか!?
ハーピー兵 ≪ まり? ああ、消えた人間のことか。
水樹 「 消えた!?
ハーピー兵 ≪ 昨日ここの見張りのヤツが後ろ頭殴られてて気絶してたんだ。
  食事当番のヤツがここに来た時には、もう中の人間はいなくなっていたのさ。
水樹 「 いなくなったって・・・脱走したの?
ハーピー兵 ≪ さあね、あたいらにしたら魔鈴さえここにいてくれればいいんだ。
  あの人間は魔鈴に薬を作らすための人質(きっかけ)にすぎなかったしな。
  まあ仮に脱走できたとしても、この魔界の真ん中、人間ひとりのたれ死ぬしかないけどな。
 
水樹・茜 「「 ・・・・・・
 
水樹と茜、使い魔は魔理の身を案じた。
 
湖の中心にぽつんと浮かぶ島に建てられている城の地下・・・
数十センチもある石の壁と鉄のオリの中は、窓がないため明かりもほとんど射し込むことはない。
水面ギリギリの位置するこの場所には、どこからか水の揺らぐ音が聞こえてくる。
その牢から少し離れた場所・・・
薄暗い廊下の片隅に、直径2・3メートルほどの穴が開いており水が張られていた。
水の底は深く、見えない・・・まるで周囲の湖に繋がってるようであった・・・
 
 
 
第13節・完

※この作品は、ヴァージニアさんによる C-WWW への投稿作品です。
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