とら! 最終節 未来へのすごいプロローグ


   

リポート78 『通常業務復活?』
■タイガー除霊事務所■
 
8月1日晴れ。
5階建てビルの2階の1室にあるタイガーの除霊事務所。
タイガーは自分のイスに座り、うれしそうな顔をしながら手を組んでいた。
 
タイガー 「 さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・ってっと!!
  通常業務復活ッ!! 日常ってステキジャノー!! 」
 
じーんとするタイガー。
 
タイガー 「 一時はもう戻れないと思ったケン!!
  異世界編って思ってた以上に長くなってしまったしノー!!
  気になる伏線は多少残った感じがせんこともないが、
  これからは平和に平凡に、さわやかな気持ちで働けるんじゃのー!! 」
 
洋子 「 ・・・・・・ギリギリの発言やな。(汗) 」
 
わくわくするタイガーに洋子がつっこむ。
 
タイガー 「 今日からまた、じゃんじゃん悪霊相手に仕事が出来ると思うとワシ―――♪ 」
水樹 「 でもあの・・・仕事の依頼一件もありませんよ・・・ 」
 
そう水樹が言うと、タイガーは水樹のほうを見たまま固まった。 約6秒。
 
 
 
タイガー 「「「 なじぇじゃあ――――ッ!?(大泣) 」」」
 
 
 
水樹 「 しっ・・・知りませ―――んっ!!(泣) 」
 
タイガーは大きな顔して大泣きし、水樹に凄(すご)むタイガー。
 
「 あんな事件のあとじゃあ仕方ねえだろ? 」
タイガー 「 あかねサン・・・! 」
「 異世界に10日、所長とヨーコさんの入院に70日・・・
  3ヶ月近くも事務所休業状態だったんだぜ。
  それまで引き受けてた依頼は全部キャンセルしたし、そりゃ客足も遠退くだろ。 」
タイガー 「 う・・・まあそうじゃの。(汗) 」
 
すると魔理が、タイガーの肩にポンと手を置いた。
 
魔理 「 ま 心配は無用だぜ。 異世界を切り抜けたメンツがそろってるんだ。
  私らの実力からしたら、1ヶ月もすりゃもとの状態に戻せるぜ! 」
「 ・・・おめえ大して役に立ってなかったくせに。 」
魔理 「 うっせえ! 」
 
喧喧とする魔理と茜。 2人の間でオロオロする水樹。 面白がってる洋子。
そんな様子をタイガーはぼーっと眺めていた。
 
 
―――よかったノーみんな無事で・・・
 
一文字魔理サン・・・
3年前のクリスマス合コンで初めて出会って以降、ワシと最も親しくしてくれた女友達・・・
異世界じゃあワシのせいで大ケガさせてしまって・・・ホントスマンかった・・・
 
御剣洋子サン・・・
当初女子寮で嫌われとったワシに、魔理サン同様ワシと親しくしてくれた。
中学生の時に1年も魔界におったことがあり、魔物の傷などが原因で魔族化したらしい。
ワシはその姿を見ておらんが・・・まあ無事でよかった。
 
神野水樹サン・・・
エミさんの第2の修行の場が、水樹サンの実家のある神野神社じゃった。
そして神野師匠の下、1年近くも一緒にワシの修行につきあってくれた。
じゃが試験でワシに負けて・・・恨まれても仕方ないのに
それでもワシの事務所に来てくれた、ホントに心の優しい娘ジャ。
 
白石 茜サン・・・
ワシの暴走を止める笛を、エミさん以外に唯一吹くことができる最初のパートナー。
最初は除霊の知識も何もない全くのシロウトじゃったが、魔界の鳥“スカベリンジャー”を
召喚することが出来るようにもなって、その成長速度には驚かされる・・・
 
・・・みんなそれぞれすごい才能や力を持っとって、
そのうち3人は六道女学院の卒業生やし専門知識もワシより豊富ジャ。
水樹サンも今年は試験受かるじゃろーし、あかねサンももしかしたら・・・
そうするとこの事務所にGSは5人、普通一つの事務所に5人は多いじゃろうノー。
大抵の除霊事務所はGS1人に助手が1人か2人ぐらいが普通じゃし、
資格をもっとらん水樹サンは別として、魔理サンも洋子サンも個人で事務所を
開くぐらいの実力はあると思うんじゃが・・・・・・
 
 
 
少し考えこんだタイガーは、茜と口ゲンカしていた魔理に話しかけた。
 
タイガー 「 ・・・なあ、魔理サン。 」
魔理 「 ん? 」
タイガー 「 魔理サンは独立する気はないかノー 」
 
ピシッ!
魔理・洋子・水樹・茜の動きが止まる。 数秒の沈黙ののち、洋子が口を開く。
 
洋子 「 ・・・リストラか? 」
魔理 「 ちょっとまてよ!! 私なんか悪いことしたか!?
  前に依頼主の贈り物の高級ヨウカンを勝手に食っちまったことか!?
  それとも入院中におめえの車を勝手に借りてちょっとぶつけたのを黙ってたことか!? 」
タイガー 「 いや、そんなことじゃのーて・・・( そんなことしとったんか・・・ ) 」
 
魔理と洋子と水樹、3人とも高校卒業後に車の免許は取っていた。
 
タイガー 「 洋子サンもそうじゃが、もう2人共GSの免許持っとるし実力も充分にある。
  ワシの下でじゃのーて自分の事務所を構えたほうがええんじゃないかと思うての。
  そのほうが名前も売れるし収入も多いはずジャ。 厳しいのは最初のうちだけじゃしの。 」
魔理 「 別にいーよ、そんなこと考えたこともねーし、今のこの生活で満足してるから。 」
タイガー 「 しかしいずれは独立するんじゃろから――― 」
ムカッ‥
魔理 「 いいっつってんだろ!! 私は当分辞める気ねーよ!! 」
 
大声を出す魔理。 そして水樹も、タイガーの提案には反対だった。
 
水樹 「 ・・・タイガーさん、私達ここに入所してまだ4ヶ月しかたってないのよ。
  なのに辞めろとか独立しろとかいうのはちょっとひどいんじゃない? 」
タイガー 「 み 水樹サン・・・ 」
 
魔理はタイガーに詰めよると―――
 
魔理 「 そうだよ、私らは好きでここに就職してるんだ。
  それともおめえは、私らがここにいるのは邪魔だと言いたいのか? 」
タイガー 「 め めっそうもない! 皆サンがここに来てくれて本当に助かっとるんジャ! 」
魔理 「 ならいいじゃんか。 独立して知らない奴を助手にするより、
  こうやってダチ同士で仕事するほうが断然楽しいんだからよ! 」
タイガー 「 魔理サン・・・ 」
 
魔理や水樹に押されるタイガー。 しかし洋子は少し、タイガーの言葉に思うところがあった。
 
洋子 ( ・・・ま、確かに寅吉の言葉も一理あるな、“自分の道”か・・・ )
 
魔理 「 あっ そうだタイガー! 」
 
あることを思いだした魔理は、タイガーの机に両手を置き再び詰めよると―――
 
魔理 「 おめえ魔鈴さんの家で勝手に借りた、精霊石の金を全額払うとか言ったそうじゃねーか! 」
タイガー 「 え・・・あ、じゃがー 」
魔理 「 聞いたよ、魔鈴さん逆に悩んでたぞ。
  “元はといえば、私のせいで争いに巻き込まれたのに、
  お見舞いに行くたびにその話を持ってこられてホント困った人ね”って! 」
タイガー 「 う・・・(汗) 」
魔理 「 で 結局あんまりタイガーがしつこいもんだから、これ以上その話をすると
  今後2度と口をきかねえし、料理の出前もしないって言われたらしいぜ。 」
洋子 「 あはは、魔鈴さんらしいわ。 」
 
洋子が笑う。
 
タイガー 「 ま〜それはええとして、とにかく仕事がないんじゃどうしようもないノー 」
魔理 「 仕事がなければひとつ提案があるぜ。 」
 
魔理は洋子たちと顔を見合わせてニヤリと笑う。
 
「 すぐに仕事もないことだし 」
洋子       「 うちら事務所の慰安旅行も兼ねて 」
水樹              「 “海”に行くことが決定しました―――! 」
 
 
 
タイガー 「 ・・・・・・は??? 」

リポート79 『サマー・タイム・ブルース』
ざざ〜〜〜ん・・・
 
真夏の太陽。 白い砂浜。 水着の人々。
とあるパラソルの下には、海パンにTシャツ姿でサングラスをかけたタイガーの姿があった。
 
タイガー 「 ありえん・・・ 」
 
タイガーはボーゼンと海を眺めていた。
彼のサングラスに映っているのは、砂浜でビーチバレーを楽しんでいる水着の女性たち。
魔理・水樹・洋子・茜である。
 
タイガー 「 ありえん! これは新手のドッキリか!? それとも災厄の前ぶれか!? 」
 
少し前までの彼にとって完全にありえなかった展開に、彼自身が一番驚いていた。
 
海水浴客 「 ねえーあの人・・・ 」
海水浴客 「 バカ、目あわすな! インネンつけられるぞ! 」
 
巨体でグラサン姿、高揚と戸惑いで異様な気配をかもしだすタイガー。
彼の周囲を通行する海水浴客は、みな避けて通っていたが、
そんな中、1人の若い男がタイガーに近づいてきた。
 
タイガー 「 ハッ わかったぞ!! きっと最終回が近いから――― 」
「 なにやってんだタイガー こんな所で。 」
タイガー 「 あ・・・ 」
 
海パン姿で、頭には赤いバンダナをした見覚えのあるその男―――
 
タイガー 「 横島サン!? 」
横島 「 よお、元気そうじゃねーか。 」
 
横島は去年の秋に、美神の事務所をやめて小竜姫の下へ修行に行っていた。(※リポート40参照)
 
タイガー 「 横島サン妙神山へ行ってたはずじゃ・・・ 」
横島 「 毎日毎日修行ばっかじゃ飽きちまうだろ、たまにはこうして息抜きしないとな。 」
タイガー 「 それでナンパ活動カイノー? 」
横島 「 もちろん! だがこの海はダメだ! ここの女見る目がねえぞチクショー!! 」
タイガー ( ナンパ全滅したんかー・・・ )
 
海のナンパで、人間相手に一度も成功したことのない男の悲痛な叫びだった。
 
横島 「 ところでお前もこんな所でなにしてんだ? ナンパか? ムリだろ。 」
タイガー 「 いや、ワシは・・・( ムリだろってまあそうじゃが・・・ ) 」
 
とそこに―――
 
洋子 「 あー のど乾いたー 」
「 さっきのは絶対ネットに触ってた! 」
魔理 「 っせえなー 遊びなんだから細かいこと気にすんなよー 」
水樹 「 あら? 」
 
ビーチバレーを終えてやってきた魔理たちは、タイガーの横に立っている横島に気づいた。
 
魔理 「 横島じゃねーか、修行に行ってたんじゃねえのか? 」
水樹 「 いつ戻ったんですか? 」
横島 「 ・・・・・・ 」
 
横島は硬直したままなにも答えない。 タイガーもつられてじっとしている。
 
横島 「 ・・・おい。 」
タイガー 「 なんジャ? 」
 
次の瞬間―――
 
横島 「 これはどーゆー事だっ!? 」
タイガー 「 ワ ワシもこの展開には驚いてる次第で――― 」
横島 「 水着のねーちゃんたちとここにいる理由を10字以内で説明しろっ!!!!! 」
タイガー 「 たっ ただの所員旅行ジャー!! 」
 
タイガーのシャツをつかみ、ものすごい剣幕で揺さぶる横島。
 
横島 「 じゃあなんで海で水着なんだ!? てめえスケベにもほどがあるぞ!!!!! 」
タイガー 「 よ 横島サンに言われたくないノー!! 」
横島 「 くっ・・タイガーのくせに生意気だぞ!!!!! 」
タイガー 「 ワシはの●太くんかっ!!!! 」
パコン
魔理 「 落ちつけっ! 」
 
横島の頭を軽く叩く魔理。
 
魔理 「 私らが誘ったんだよ、タイガーの退院祝いも兼ねてよ。 」
横島 「 退院祝い? 」
魔理 「 おめえは知らねえだろうけどよ、こいつ2度も大ケガしてさー、今年の半分は
  病院のベットで過ごしてたんだぜ。 」
横島 「 退院祝いが何で、水着でエンジョイドキドキハッピー旅行になるんだよ!! 」
 
すると水樹は、昼食の弁当の準備をしながら―――
 
水樹 「 まあまあ、詳しい話はお昼を食べながらにでもしましょ。 」
横島 「 ・・・・・・ 」
洋子 「 そやな、あんたの修行の話も聞きたいしな。 」
水樹 「 横島さんもいっしょにどうですか? 」
 
水樹が提案するが、うつむいてた横島に声は届いていなかった。
 
横島 「 なぜだ・・・くる日もくる日も修行に明け暮れて小竜姫様の入浴を命がけで覗こうとして覗けなくて、ねーちゃんとの触れ合いをガマンしてガマンしてガマンしきれなくてたまに下界に下りてきてみれば、ここの女どもは昆虫より頭が悪いくせに魚の腐った生ゴミを見るような目で俺を見下しやがって〜 この俺がこんなに頭を下げてコビているというのに〜 しかもタイガーですらねーちゃんはべらしとるのに〜〜〜海がっ!! この海が俺の青春を全て洗い流してしまうんや〜〜〜!!!!! 」
 
海に向かって号泣する横島。
 
魔理 「 ・・・おーい。(汗) 」
洋子 「 あかん、ぜんぜん聞いてないわ(汗) 」
 
とその時―――
 
タイガー 「 !? 」
魔理 「 なんだこの妖気は!? 」
 
タイガーたちの前方の海から、突然妖気が感じられた。
洋子はカバンから神通棍を取りだし、茜も獣の笛を取りだす!
 
ザッパアアアアアン!!!!!!
 
そして海から出てきたものは―――
 
ふしゅるるる―――っ!
コンプレックス ≪ おでの名はコンプレックス!!
  夏の陽気のカゲにひしめく陰の気をすする妖怪だぎゃー!! ≫
 
突然現れた怪物に、周囲の海水浴客はみな逃げていく。
そんな中、この妖怪の顔に見覚えのあった茜が―――
 
「 またおめえか、しつこいヤツだな!! 」
魔理 「 異界であかねとタイガーが戦ったヤツか!? 」
 
ふしゅるるる―――っ!
コンプレックス ≪ オデはいままでのオデとは違うだみゃー!!!
  今しがた強い陰の気を感じてオデはパワーアップしたんだみゃー!! ≫
 
魔理 「 強い陰の気って・・・ 」
 
魔理たちはいっせいに横島を見た。
 
魔理 「 おまえか―――!!!!! 」
横島 「 不可抗力だ―――!!!!! 」
 
ふしゅるるる―――っ!
コンプレックス ≪ さあ、カップルバスター始めるだみゃー!! ≫
 
そして魔理と洋子が真っ先にコンプレックスに向かっていくが、突然2人の動きが止まる!
 
洋子 「 う 動けん!? 」
魔理 「 ヤツの力か!? 」
水樹 「 どうしたの2人とも!? 」
「 水着だ! 水着で操ってるんだ!! 」
 
うろたえる女性陣に対し、男性陣は―――
 
タイガー 「 横島サン、この状況を切り抜けるには一つしかないですジャ! 」
横島 「 それはもしや!! 」
どぱあ――――――ん!!!!!(←波の音)
タイガー 「 水着を剥ぎ取る!! それしか魔理サンたちを正気に戻す手段はない!! 」
横島 「 おお、確かにそれしかない!! 」
 
迷うことなく同意する横島だったが―――
 
どごばきっ!
水樹 「 却下です!! 」
「 てゆーかそれは前にもやった!! 」(※リポート57参照)
 
当然のごとく、水樹と茜に殴られる横島とタイガー。
 
ふしゅるるるるる‥
コンプレックス ≪ おではパワーアップして、“美男美女の顔を醜い顔にする”力を身につけた!!
  この力ですべてのカップルを別れさせ、モテモテのヤツをモテなくさせるだみゃー!! ≫
 
ほえるコンプレックス! 水樹は榊の枝を構え、タイガーも戦闘体制に入る!
 
水樹 「 こうなったら遠距離から御霊代攻撃よ! 」
タイガー 「 これは本気で戦わんといけんノー! 」
横島 「 俺がやる。 」
タイガー 「 え? 」
 
横島はタイガーの肩をおさえ、つかつかとコンプレックスのほうに近づいていった。
 
タイガー 「 横島サン・・・? 」
 
コンプレックスはこちらに近づいてくる横島に気づく。
 
コンプレックス ≪ おみゃーは陰の気の元!! ≫
横島 「 だれが陰の気だよ、悪いけど俺はお前ほどネガティブじゃねーよ。 」
コンプレックス ≪ うるさいだみゃー!!
  だったらおみゃーを体内に取り込んで、直に陰の気を吸収してやる!! ≫
 
コンプレックスは腕を伸ばし、横島をつかみにかかるが―――
 
ヒュッ!
横島 「 悪いが美人のねーちゃんまでブスにされたら、ナンパの楽しみがなくなるんだよ!! 」
 
横島は伸びてきた腕をすばやくかわし、右手に光を蓄えはじめた!
 
洋子 「 あれはまさかウワサに聞く――― 」
 
 
 
          ―――「 文珠!! 」―――
 
 
 
横島は文字を込めた文珠を、コンプレックスに投げつけた!
 
コンプレックス ≪≪≪ グオオオオオオオオ!!!!!!!!! ≫≫≫
 
文珠は輝き、コンプレックスの体が徐々に透明になっていく!
 
コンプレックス ≪ お おで、もう消えるのか!? いったい何のためにおでは生まれて・・・ ≫
タイガー 「 ・・・! 」
 
シュウウウウ――――−−‐
横島 「 成仏してくれ、邪な心よ。 」
コンプレックス ≪ やっぱり、おでのような妖怪とお前ら光を浴びた人間とじゃ相容れな・・・ ≫
 
バシュウウウ―――ッ
・・・コンプレックスは消えた。 
 
横島 ( 勝った・・・見てるかねーちゃんたち、俺のかっこよさに惚れたか? )
 
ポーズを決めた横島は、ゆっくり振り返ると―――
 
水樹 「 一文字さんだいじょうぶ!? 」
魔理 「 ああ もう動ける。 」
洋子 「 ・・・・・・ 」
 
タイガーたち以外の海水浴客はみな砂浜から非難しており、横島の除霊を見ているものはほとんどいなかった。
 
横島 「 どーせおれは・・・! 」
 
ひとり嘆こうとしていたところに、洋子が近づいてきた。
 
洋子 「 あんたやるなあー ウワサどおりの強さや。 」
横島 「 ああ 文珠の事? いやあ照れるなあ〜! 」
洋子 「 それもやけど、この足場の悪い砂浜でよくあれだけの動きができたもんや。
  しかも実力を全然だしとらん・・・あんた、恐ろしく強いな。 」
 
洋子の鋭い視線に、横島も真面目な顔になる。
 
洋子 「 相当修行してきたんやろーな、うち あんたのこともっと知りたくなってきたわ。 」
どきどきどき‥
横島 「 そ それは・・・!(知りたい→お付き合いしたいねーちゃんゲット!)  」
 
横島の脳内には、ありあまる欲望と煩悩が駆けめぐっていた。
 
横島 「 よろこんでボクと――― 」
 
横島が洋子の手を握った瞬間―――
 
ずごごごごご!
《 なにをやっているんですか〜横島さん? 》
横島 「 !! 」
 
横島の背後に、怒りに震えている女性が現れた。
 
横島 「 しょ 小竜姫さまっ!!?? 」
洋子 「 小竜姫!? 」
魔理 「 この人が!? 」
 
ミニスカートをはき、下界専用の服を着た彼女は、どうみても普通の人間の少女にしか見えない。
頭のツノを除けば・・・
 
小竜姫 《 修行の途中で勝手に逃げだしてどこにいったのかと思えば・・・! 》
横島 「 ま 待ってください! これには海より深い事情が・・・! 」
 
怯える横島。 タイガーたちも小竜姫の登場に驚いている中、洋子は―――
 
洋子 「 あんたがこいつの修行の先生か? 」
小竜姫 《 そうですが・・・ 》
 
初対面にもかかわらず、気後れすることなく小竜姫にたずねた。
 
洋子 「 ちょうどええ、うちもこいつといっしょに修行させてくれませんか? 」
タイガー 「 !! 」
洋子 「 御剣洋子といいます。 うちを弟子にさせてください。 」
 
まっすぐ見つめあう洋子と小竜姫。 洋子の発言に、その場にいたものはみな驚いていた。
 
小竜姫 《 ―――ああ あなたが御剣さんね、エミさんから紹介状を受けてるわ。 》
魔理 「 紹介状って・・・洋子 本気なのか!? 」
洋子 「 ああ、この旅行が終わったらちゃんとみんなに話そう思ってた。 」
魔理 「 なんだって急に・・・! 」
洋子 「 前々からいつか行こうと思っとったけど、決定づけたのは異世界のことがあったからかな。 」
 
魔理たちは、異世界で洋子が魔族化したときのことを思い浮かべた。
 
洋子 「 エミさんが言うに、この呪いを完全に消し去るには神族側の聖なる霊気に
  長時間触れとったらええらしい。
  妙神山なら神界からの霊気が直接通じているし、修行もできるしな。 」
「 でも洋子さんの呪い、日常生活にはなんの影響もないんじゃー・・・ 」
水樹 「 確かに呪われてるからって、魔霊石を自分の意思で使うことはしないでしょう。
  第一人間界に存在しないものなんだし。
  でもひょっとしたら、子供生んだときになにも影響しないとは限らない・・・ 」
「 そ そうかー・・・ 」
 
子孫への影響を考えると即座に納得してしまうのだが、洋子の考えは少し違っていた。
 
洋子 「 まあそれもあるけど・・・どっちかっていうと、うちがどこまで強くなれるのか
  試してみたいっていう気持ちのほうが強いかな?
  上にはいくらでも強いもんがおる・・・異世界でそれが改めてわかったからな。 」
 
洋子はガルーダとの戦いで、力の差を痛感していた。
凄腕のGSでも、上位の神族魔族相手では実力差は明らかだということを。
そしてそれだけではない、彼女は飽くなき強い好奇心と向上心をもっていた。
 
洋子 「 もちろん今の生活に不満はない、今の強さでもそこそこの除霊活動はできるしな。
  だけどこの先、自分より強い悪霊や妖怪と戦うときのことを考えたら、
  成長期が終わる前にもっともっと強くなっておくべきやと思う。
  なにより噂に聞く神剣の使い手、小竜姫様に剣の相手をしてほしいと思ってたしな。 」
小竜姫 《 ―――! 》
 
―――自分と剣術の相手をてほしい・・・
一瞬驚いた表情をする小竜姫だったが、ニコッと微笑むと―――
 
小竜姫 《 ふふっ そうですか、それは楽しみですね。 》
 
洋子はそのあと、事務所に無期限の長期休暇をとって妙神山へ向かうこととなる。
タイガーは、自分の先を行く洋子の決意を、ただ見守ることしかできなかった―――

リポート80 『精神感応者として』
海から帰ってきて2週間後の盆明け、タイガー除霊事務所もぼちぼち除霊活動を開始した頃―――
 
魔理 「 吸印!! 」
 
バシュウウウ―――ッ
吸印札を使用する魔理。
 
魔理 「 よっし終わり! じゃ帰るぞ。 」
「 ああ・・・ 」
 
気の入らない返事を返す茜。 今回は魔理と茜の2人だけで除霊を行っていた。
 
魔理 「 なんだあ〜気のない返事しやがって、そんなにトドメの吸印やりたかったのか? 」
「 ちげーよ、所長と水樹さんだ。 あいつらいったいいつ帰ってくるんだ? 」
魔理 「 さあな。 」
 
魔理はさっさと撤収作業を進めていた。
 
「 まさかこのまま帰ってこないつもりなんじゃ・・・ 」
魔理 「 ばーか帰ってくるさ。 メンバーそろって本格的に大きな仕事が受けられるよう
  こーして私らが残って、地道に除霊活動してるんだからな。 」
 
 
 
―――2日前―――
 
水樹 「 えっ!? お母さんが!? 」
 
その日事務所にかかってきた一本の電話。
それは水樹の母が病に倒れ、病院に運ばれたというおキヌの義姉、氷室早苗からの知らせだった。
それを聞いた水樹は、タイガーの運転する車で御呂地村の北にある、神田町へと向かったのである。
 
水樹 「 お母さん!! 」
 
病院に駆けこむタイガーと水樹。
水樹の母の病室には、早苗と早苗の両親、そしてタイガーの第2の師匠である神野父がいた。
 
神野父 「 おお水樹、来たか!! 」
水樹 「 お父さん! お母さんは――― 」
早苗 「 大丈夫だべ、今手術が終わって休んでるとこさ。 」
水樹 「 早苗お姉ちゃん・・・ 」
 
           ◇
 
―――その日の夜、水樹は病院で母の付き添いを、タイガーと神野父は神野神社へと戻り、
2人はスーパーで買ってきた弁当を食べていた。
 
神野父 「 事務所はうまくやっとるんか? 」
タイガー 「 まあー それなりに・・・ 」
神野父 「 そうかー・・・ 」
タイガー 「 ・・・・・・ 」
神野父 「 ・・・なあ? 」
タイガー 「 はい? 」
神野父 「 ・・・タイガーよ、この神社を継ぐ気はないか? 」
 
・・・タイガーの箸が止まる。
 
タイガー 「 スマンですけどワシには事務所がー それに所員たちもおるし・・・ 」
神野父 「 そうかー・・・ 」
 
以前は騒々しかった神野父だったが、妻のことが気になるのか以前の気迫は感じられなかった。
 
神野父 「 タイガー、お前“心理の書”は読むことはできたのか? 」
タイガー 「 あーいやーそれが全然・・・ 」
神野父 「 そうかー・・・わしの見込み違いだったかのう・・・ 」
 
神野父はため息をつきながら言葉を漏らした。
 
タイガー 「 あの本はいったいなんですカイノー 」
神野父 「 ・・・すべての心を見通せる神が降臨され、そして大いなる力を授けてくれるのだ。
  いわばこの神社の神様を降臨させる神器じゃ。 」
タイガー 「 神器・・・ 」
神野父 「 昔、わしとかあちゃんが持ってて、その神に大いなる力をもらったもんさ。 」
 
神野父は昔を懐かしみ、縁側の外の山の景色を眺めていた。
 
神野父 「 ひょっとしたら、お前には必要のないものだったかもしれんなー 」
タイガー 「 ・・・・・・ 」 
神野父 「 タイガーよ、スマンがお前に渡した分、水樹に渡しておいてくれないか? 」
タイガー 「 えっ!? じゃあワシ、ダメってことカイノー? 」
神野父 「 いやそういう意味ではない、
  あの本はひとつ同じ場所にそろっていたほうが都合がいいというだけのことじゃ、
  かあちゃんの病気が治るのにかなり長くかかるらしい、
  わしが言わんでもあいつはここに残ることになるじゃろう、だから・・・ 」
タイガー 「 ・・・わかりました、本はお返しします。 」
 
                 ◇
 
翌日、タイガーは病院のロビーで水樹と会った。
病院の担当の先生の話によると、水樹の母は長期の入院が必要だと言われたらしい。
 
水樹 「 タイガーさん、私・・・ 」
タイガー 「 わかっとる、ここに残るんじゃろう。 」
 
コクッ‥ 水樹はうつむいたまま無言でうなづく。
 
水樹 「 お母さんの治療かなり時間がかかりそうなの、1年か2年、それ以上か・・・ 」
タイガー 「 しょうがないケン、水樹サンは優しいからノー 」
 
とそこに、早苗がやってきた。
早苗の話は、除霊の仕事につきあわないかという話だった。
 
早苗 「 な! せっかくきたんだし、そんなに強い霊でもないから気晴らしに手伝うべ。 」
タイガー 「 ワシはいいが水樹サンは・・・ 」
水樹 「 いいよ、行こう。 」
 
水樹も笑顔で了承した。
 
早苗 「 よっしそれじゃあさっそくいくべ! 」
タイガー 「 なんか除霊委員が復活したみたいジャノー 」
 
ビクッ‥ 早苗は『除霊委員』の言葉にイヤな予感を感じた。
 
早苗 「 やめてけれ、そんなこと言ってるとアイツが――― 」
《 ほう〜復活するのかい? 》
早苗 「 !! 」
 
すると早苗の後ろに、ウェーブのかかった、紫色の髪をしたタキシードの男が現れた。
 
タイガー 「 メゾピー!! 」
 
カッ!
「 !? 」
どこからともなく、メゾピアノにスポットライトが当てられ、彼の周囲にバラの花びらが降りそそいだ。
 
メゾピアノ 《 フッフッフッ‥ 待っていたよこの時を!!
  まだかまだかとはや1年、ついに美しき僕の時代がやって来た!! 》
 
メゾピーことメゾピアノは、高々と一輪のバラを頬リ投げた。
 
メゾピアノ 《 全国八千万のファンの皆様、おーまたせしました!!
  ディス イズ マイ ビューティフルピアニストティーチャー!!
  長き沈黙をえて、学校妖怪メゾピアノ、華麗に復活したことをここに宣言す・・・ 》
 
ぴと‥ 早苗はメゾピアノの顔面に、50円の退魔札を貼った。
 
シュウウウウウ〜〜〜〜〜
メゾピアノ 《《《  ぎょわあああああああ!!!!!!!!  》》》
 
病院のロビーをのたうちまわるメゾピアノ。
メゾピアノに貼られたお札は、高熱を帯びているかのように煙が上がっていた。
 
ぜーっ ぜーっ
メゾピアノ 《 な なんてことするんだマイシスター!!
  あやうく消滅してしまう所だったじゃないか!! 》
早苗 「 たかが50円の退魔札で死にかける妖怪がなにを言うべ! 」
メゾピアノ 《 無論だ! なぜなら僕は美しいほどに“弱い”妖怪なのだから! 》
早苗 「 自慢するなボケ妖怪!! 」
 
そんな2人のやりとりを、懐かしく思うタイガーだった。
そしてメゾピアノは、隣にいた水樹が幾分元気なさそうに笑っているのに気づくと―――
 
メゾピアノ 《 む? どうした水樹クン、元気だしていこうではないか? 》
水樹 「 う うん・・・ 」
メゾピアノ 《 仕方ない、ここは水樹クンに元気を出してもらうために――― 》
早苗 「 ために? 」
メゾピアノ 《 ミズキタンとチュ〜〜〜〜 》
水樹 「 !? 」
 
シュバババッ!
水樹に唇を伸ばしてきたメゾピアノを、早苗は瞬時に呪縛ロープでぐるぐる巻きにした。
 
ハアーッ ハアーッ……
早苗 「 ・・・・・・(怒) 」
メゾピアノ 《 ゴメン・・・ゴメンしてマイシスター・・・ 》
 
                  ◇
 
こうして久しぶりに再結成された除霊委員。
水樹と早苗が巫女服に着替えたあと、タイガーの運転する車で、Cランクの悪霊のひそむ
林へと向かったのである。
 
オオオオオオオ!!!!!!!
悪霊 ≪ 死ニタクネエ〜〜〜ツイテネエ〜〜〜部長ノバッキャロ〜〜〜!!!
  アケミ〜〜〜オレガ悪カッタ〜〜〜頼ムカラ帰ッテキテクレ〜〜〜!!! ≫
 
1体でわめいているドクロ姿のその悪霊、タイガーたちが到着した時からこんな調子だった。
 
水樹 「 根は浅そうだし、霊力もそんなに強くなさそうなんだけど・・・ 」
タイガー 「 こりゃまたややこしい悪霊ジャノー 」
メゾピアノ 《 うむ、大した霊力を持たない霊のくせになんてワガママな悪霊だ、
  こういうのが一番タチが悪いのだ。 》
早苗 「 お前が言うか。 」
 
ジト目でメゾピアノをにらむ早苗。
そのあと早苗は、悪霊が逃げないようタイガーと水樹に側面に回りこませた。
そのあとの除霊作業は滞りなく行われ、悪霊は除霊されたのである―――
 
                  ◇
 
―――そして早苗とメゾピアノと別れたあと、タイガーと水樹は神野神社へと向かった。
タイガーの運転する車の中にて・・・
 
水樹 「 今日除霊した悪霊、どう感じた? 」
タイガー 「 どう感じたって、特に・・・ 」
水樹 「 よくあるタイプの自縛霊よね、早苗お姉ちゃんひとりでも簡単に払えるぐらいのー 」
タイガー 「 ああ、除霊に5分もかからんかったノー 」
水樹 「 でも本当は、あの悪霊ももっと愚痴を言いたかったと思う、
  私、もう少し聞いてあげればよかったって、ちょっと後悔してる。 」
タイガー 「 水樹サン・・・ 」
 
水樹は少し間をおくと―――
 
水樹 「 早苗お姉ちゃんから聞いたんだけど、
  おキヌちゃん、説得だけで悪霊を成仏させたことがあったらしいの。 」
タイガー 「 ほう〜 」
水樹 「 悪霊に対して、言葉だけで成仏させることができるなんて信じられる?
  想念だけの存在を、力技一切使うことなく祓うことができるなんて・・・
  私、その話聞いたときおキヌさんにはかなわないって思った、私にはできない、
  私にはせいぜい霊に通用しにくいマボロシをみせることぐらいだって・・・ 」
 
タイガーや水樹の精神感応は、想念だけの霊に対しては効果が薄い。
精神感応者がGSとして活動しにくい理由のひとつである。
 
水樹 「 でもね、せっかく相手の心と繋げられる能力を持っているんだもの、
  幻覚だけじゃない、全力で悪霊の心と向き合えば、その霊の本当の苦しみを
  感じることができるかもしれない、一歩間違えばかなり危険なことになりそうだけど・・・
  そう考えたら、私たち精神感応者にしかできないことってあるんじゃないのかな? 」
 
キキィ―――−‐
タイガーは神社へと向かう石階段の前で車を止め、水樹は車から降りた。
 
タイガー 「 ワシらにしかできないこと・・・ 」
水樹 「 言葉だけの除霊も 力技も 心を繋げるやり方も、
  まあ最終的には魂を天に帰すんだから結果は同じなんだけどね。 」
 
タイガー ( 心をつなげる、か・・・ワシは全く逆のやり方でやったことあったな・・・ )
 
タイガーはふと、異世界でのハーピー・ルウとの戦いを思いだした。
 
 
        ―――『 精神の“破壊”攻撃!!!!!  』―――
 
 
水樹 「 じゃあね、みんなによろしく! 資格試験の時には必ず東京へ行くから!! 」
タイガー 「 ああ、今度こそ受かるといいの! 」
水樹 「 そうね! 」
 
笑顔をかえす水樹、タイガーはその場を去ろうとすると―――
 
タイガー 「 あ そうジャ これー 」
 
タイガーは心理の書・下巻を水樹に渡した。
 
タイガー 「 師匠に言われとったもんジャ、水樹サンに渡してやってくれって。 」
水樹 「 そう・・・ 」
タイガー 「 じゃあ水樹サンこれで、お母さん元気になるといいノ!! 」
水樹 「 ・・・うん! 」
 
こうしてタイガーは、車で東京へと向かっていった。
しばらく笑顔で見届けていた水樹は、車が見えなくなると悲しい表情をしてうつむいていた。
 
水樹 「 ・・・・・・ 」
 
そして何気なく、タイガーから渡された心理の書をパラパラとめくってみた。 すると―――
 
水樹 「 ・・・これは! 」
 
               ◇
 
水樹は急いで階段を駆け上がり、自宅の自分の部屋へと向かう。
そして自分のカバンから心理の書・上巻を取りだし、ページをめくってみた。
 
水樹 「 文字が・・・書かれている? 」
 
ついこの間までは全くの白紙だった古びた本。
それが水樹には、上下巻とも青白い文字がぼんやり浮かびあがっているのが見えていたのだ。
その中で、上巻と下巻の円形の同じ紋様のページを合わせるという文章が載っていた。
 
水樹 ( 下巻の同じページ数を重ねればいいのかな? )
 
水樹はそっと、2冊の本を広げたまま重ね合わせてみた。 すると―――
 
パアアアアアア――――――ッ 
 
水樹 「 な・・・なに!? 」
 
本から光があふれ、その光は2冊の本の上で人の形を象っていく・・・!
 
バシュ―――ッ
《 よっと! おじゃましまーす!! 》
 
光の中から出てきたのは、大きなトランクを持ち、竜のウロコのような服を纏い
全身に目のようなものが見られた美しい女性だった。
 
水樹 「 ・・・!? 」
《 ・・・・・・ふ〜ん 》
 
その女性、水樹のことをジロジロ見回していた。
水樹はいきなりの出来事に驚き、あぜんとしている。
 
水樹 「 あ あの〜 」
 
その女性は、フッと微笑むと―――
 
《 そう、神野さんの娘さんだったのねー 》
水樹 「 えっ!? なんで私のことを!? 」
《 フフ・・・ お父さんから詳しいこと聞いてなかったみたいね。 》
 
女性は水樹の机のイスに座り、足を組んで水樹と対面した。
 
ヒャクメ 《 私はヒャクメ、神族の調査官であると同時に、ここの神様も受けもっているのね。 》
水樹 「 ・・・あなたが神様?? 」
ヒャクメ 《 不満? 》
 
にっこり微笑むヒャクメに対し、水樹はブルブルと頭をふって否定した。
 
ヒャクメ 《 私は全身に100の感覚器官があって、いろんなことを見通せるのね。
  人の心も過去も全てを見通し、そして心も繋げることができる・・・
  私を呼ぶ条件は、“悪霊とも心を繋げようとする意思の強さ”
  タイガー君もおしいとこまでいったみたいだけど
  彼は別の道いっちゃってるみたいだし、私を必要としてなかったのよねー 》
水樹 「 別の道って? 」
ヒャクメ 《 フフッ それより20年ぶりに心理の書が重ねられたんだし、
  ちょっとの間だけあなたに精神感応の応用、教えてあげるわね♪ 》
 
 
                  ◇
 
 
―――その頃タイガーは、車を運転しながらここ最近の出来事を思い返していた。
 
 
   ≪ お おでもう消えるのか!? いったい何のためにおでは生まれて・・・ ≫
   ≪ 死ニタクネエ〜〜〜ツイテネエ〜〜〜部長ノバッキャロ〜〜〜!!! ≫
 
確かに妖怪も悪霊も、もっと別の解決手段があるじゃろう・・・
異世界でのあの戦いも、最初にもっと言葉でちゃんと話し合っていれば、
ガルーダのクローンを引き渡すなりして、それで済んでおったかもしれん・・・
 
   「 でも本当は、あの悪霊ももっと愚痴を言いたかったと思う、
     私、もう少し聞いてあげればよかったって、ちょっと後悔してる。 」
 
精神感応者にしかできないこと・・・
確かに意識を共有することもできるが、それは諸刃の剣。
相手も望まなければ、ハーピーのときみたいに互いの心を壊して暴走するだけ。
じゃがそれは、ワシの力不足だっただけのこと・・・
もっと相手のことを考えれば、精神感応を使わずとも相手と共感することができたかもしれん・・・
 
   「 自分より強い悪霊や妖怪と戦うときのことを考えたら、
     成長期が終わる前にもっと強くなっておくべきやと思う。 」
 
修行熱心な洋子サンなら、素質もあるしまだまだ強くなれるじゃろう。
エミさんの推薦も納得できるし、エミさんや美神サン級のGSになることも夢じゃない。
 
ワシももう20歳、霊力の成長をこれ以上望むのは難しいじゃろーし、
精神感応者としての能力も、神野師匠に引き出せるとこまで引きだしてもらった。
あとは経験を積むことと能力のコントロールや応用、
技のバリエーションを増やすことぐらいしかないと思ってる・・・
 
今の生活に不満はないし、危険な仕事を引き受けてみんなに危険な目に遭わせるつもりはない。
正直な所、ワシはこれ以上負荷のかかる生活を望んではいない。
じゃが危ない橋を渡ろうとしなくても、いつ何が起こるかわからない。
そんなときのために、水樹サンも洋子サンも
自分のやるべきことを見つけてどんどんワシの前を進んでいっとる・・・じゃがワシは・・・
 
 
 
―――向上心を持ち、自分の成長を望む洋子。
精神感応者として、能力の使い道を模索する水樹。
タイガーは、彼女たちに置いていかれるような気持ちになりながら、
まだ先が見えない未来への不安を感じはじめていた―――
 
 
―――それからしばらくして、正式にタイガーの事務所を辞めた水樹は、
実家の神社を手伝いながら、早苗と共同で除霊仕事をするようになったのである―――

リポート81 『漆黒の悪魔』
カトリックの総本山ヴァチカンは、ローマ法王を元首とする独立国家である。
ヨーロッパの精神世界に絶大な影響力を持ち、当然GSとも重要な関わりを持つ。
そしてこの宮殿の地下には、長いヨーロッパの歴史上、人類が出会ったさまざまな災厄・・・
破壊不可能な魔具や、除霊不能な悪魔などが封印されている。
その中のモノが1つでももれれば、文明が滅びる可能性もあるという―――(原作より抜粋)
 
 
■ヴァチカン宮殿 結界の牢獄■
 
全世界で最強の結界を誇るこの封印の牢獄の一室に、1匹の漆黒の悪魔が収容されていた。
その漆黒の悪魔、体長3〜4メートルあり、尻尾だけで2〜3メートルはある。
全身鋼のように鋼鉄で、長い舌・露出した牙を持ち、頭には1メートル以上の長く鋭い角が2本ある。
手の甲から肘にかけては盾のように硬く、4本の鋭い爪は全てのものを貫くはずだが・・・
 
≪≪ 人間!! キイイイッ!! 喰わせろ―――ッ!! ≫≫
 
その漆黒の悪魔、毎日のように結界の牢をガタガタいわせ、同じセリフを発している。
そしてたまに人間が通ると、腕を伸ばして人間を捕まえようとしていた。
 
枢機卿 「 ・・・キミもいい加減諦めたらどうかね? 」
神官 「 いきましょう枢機卿、相手する必要はないですよ! 」
 
2人の宮殿関係者は、廊下を通り過ぎ牢屋を出て行った。
 
≪ キイイイ―――ッ! ニンゲン・・・! ≫
 
その漆黒の悪魔、歯をギリギリ噛みしめていると、
 
≪ うるせいよ、バカ。 ≫
 
2つとなりの牢屋にいる子鬼の姿に似た悪魔が声をかけてきた。
その悪魔、髪の毛はほとんどなく、短い角、長い耳、長めの鼻をもち、
右手には自分で作り出したのか、タバコのようなものを吸っていた。
 
≪ キイッ! なんだと!? ぶっ殺すぞアセト!! ≫
アセト ≪ 何年同じことやってんだ、いい加減諦めろ。 この牢獄から逃れた悪魔はいないんだよ。 ≫
 
この子鬼に似た悪魔、通称アセト、正式名称は【アセトアルデヒド】。
以前唐巣が彼と同種のアセトアルデヒドを祓ったことがあったが、このアセトはそれより
はるかに強い力を持っていた。
除霊不能な悪魔としてここに封印されていることから、彼の力量を知ることが出来るだろう。
 
 
 
■ヴァチカン宮殿入口■
 
GS本部の依頼でやってきたエミと、助手の仙香と春華。
あ然としている2人に、エミは声をかけた。
 
エミ 「 ? 何してるの? 行くわよ。 」
仙香 「 お おねーさま ここって・・・(汗) 」
 
とそこに、数名の宮殿関係者が来た。
 
枢機卿 「 お待ちしていました、ミス・小笠原。 」
エミ 「 お久しぶりです枢機卿。 」
 
エミと枢機卿が話をしている間、仙香と春華はヒソヒソ話をしていた。
 
春華 『 仙香、ひょっとして私たちって今 とんでもない所にいるんじゃないの? 』
仙香 『 そ そうね、フツーならとても私たちが入れるような場所じゃないわ。 』
春華 『 さすがエミ所長ね・・・ 』
 
               ◇
 
そしてエミ・仙香・春華・枢機卿と数名の部下は、厳重な結界の地下へと向かった。
枢機卿に案内された部屋には、数々の封印された魔具がずらりと並んでいる。
そのひとつひとつから、強力な力が感じられた。
 
枢機卿 「 それでは後をよろしくお願いします。 」
 
そういうと枢機卿はその場を離れ、部下も荷物を置いて部屋から出ていった。
 
春華 「 あのー エミ所長? 」
エミ 「 フフフ 驚いた? 」
春華 「 そりゃ驚きますよ! 行き先教えてくれなかったんですから! 」
エミ 「 ごめんごめん♪ 」
仙香 「 でもおねーさま、いったい仕事の内容は何なのですか? 」
エミ 「 この魔具の再封印よ。 」
仙香 「 再封印? 」
 
ここにあるもの全ては、破壊不可能と言われている呪われた道具。
中には魔界でしか手に入らないものまでここにはある。
それらひとつひとつに超強力な封印が施されているが、その封印も永遠には続かない。
よって何年かに一度、こうして呪いのアイテムを再封印し、結界で閉じ込めないとならない。
今回はGS本部からの推薦で、エミにその役目がきたのである。
 
春華 「 それって世界中のGSの中から選ばれたってことでしょ!? 大役じゃないですか!! 」
エミ 「 ま そういうことね。 」
仙香 「 さすがエミおねーさま・・・ 」
 
うっとりする仙香。
そしてエミは、枢機卿の部下がおいた荷物から封印の道具を取りだす。
中には億単位のお札や、普段は滅多に使われない超高価な結界用具がぎっしりと入っていた。
 
春華 「 ・・・いったいこれ全部でいくらになるのよ。(汗) 」
エミ 「 さあね、じゃあさっそく始めるわよ。 2人共準備して。 」
仙香・春華 「「 は はいっ! 」」
 
エミたちは結界封印の準備をし、再封印にとりかかった―――
 
 
               ◇
 
 
―――その作業も3時間ほどで終了した。
そしてエミたちは、宮殿関係者に休憩室のほうへ案内され、高級そうなソファに座りくつろいでいた。
仙香と春華は緊張気味だったが・・・
そしてエミがゆっくりとコーヒーを飲んでる所に、枢機卿がやってきた。
 
枢機卿 「 お疲れ様でした。 どうぞゆっくりされて帰られてください。 」
 
エミは立ち上がると―――
 
エミ 「 枢機卿。 」
枢機卿 「 はい? 」
エミ 「 地下の結界の牢獄に行かせてもらいたいのですが。 」
 
枢機卿は人差し指でメガネを上げる。
 
枢機卿 「 ・・・普通は宮殿の関係者でも、ごく一部のみが許される絶対進入禁止エリアなのですが。 」
エミ 「 私が以前ここに封印させてもらった悪魔に会わせてもらいたいの。
  なんなら今回の報酬を20%減らしてくれても結構よ。 」
枢機卿 「 あの悪魔ですか・・・わかりました。 報酬は結構です。
  あなたを信頼できる人物と信じ、ご案内しましょう。 」
 
すると仙香も立ち上がり―――
 
仙香 「 あのー私たちも―― 」
枢機卿 「 いや キミ達は・・・ 」
エミ 「 2人はここで待ってて。 すぐ戻ってくるから。 」
 
エミはそう言うと、枢機卿と2人で再び地下へと向かっていった。
そして残された仙香と春華は・・・
 
春華 「 ・・・それにしても、エミ所長が封印した悪魔っていったいなんなのかな? 」
仙香 「 さあ・・・でもここに封印しないといけないぐらいの悪魔なら、よっぽど強力な
  悪魔なんでしょうね・・・ 」
 
 
 
■結界の牢獄■
 
エミと枢機卿は、牢獄の入口に来ていた。
 
枢機卿 「 ・・・時間は10分です。 それまでには出てきてください。 」
エミ 「 オーケー わかったわ。 」
 
そうするとエミは1人、牢獄の中に入っていった。
そしてしばらく進んだエミは、とある独房の前で立ち止まる。
オリの中には、床に寝そべっていた漆黒の悪魔がいた。
 
≪ キイイッ!? てめえは・・・! ≫
 
悪魔はすぐに飛び起きる。
 
 
エミ 「 ・・・ひさしぶりね、ベリアル。 」
 
 
ベリアル―――
かつてエミが師匠から譲り受け、18歳まで使い魔として共に行動していた悪魔である。
 
 
がしゃん!
ベリアル ≪ エ〜〜〜ミ〜〜〜!! ≫
 
その悪魔、エミを見るや否や、結界のオリにしがみつき、鋭い目でエミを睨みつけた。
 
エミ 「 6年ぶりかしら? おたくと会うのは。 」
ベリアル ≪ るせえ! 長年使えてやった恩も忘れやがってキィ!! ≫
エミ 「 だから1度は魔界に返してあげたじゃない。 」
ベリアル ≪ ああ、体中に呪縛封印を施されてな!! ≫
 
しかしベリアルは、束縛されたまま自力で人間界へと舞い戻ってきた。
その頃エミはGSの資格を取ったばかりの頃で、内密に処理しないと立場も危うい上、
ベリアルほどの悪魔を他に閉じ込める場所も限られたのだ。
エミは極秘裏にベリアルを封じるため、それまで稼いできたお金をかなり使ったのである。
 
ベリアル ≪ キイッ! だからどうした!? そんな昔話をしにきたのか!? ≫
エミ 「 ここに来たのは別の仕事があったからよ。 魔具の再封印のね。
  せっかくの機会だし、たまにはおたくの醜悪な顔を見るのも悪くないかなって思ったワケ。 」
ベリアル ≪ なんだと!? ≫
エミ 「 そういえばおたく、魔界にいたとき一度人間界に召喚されかけたでしょ? 」
ベリアル ≪ ・・・それがどうした? ≫
エミ 「 あんたを召喚した少女に偶然あってね。 そのコ今、GSをしてるわ。 」
ベリアル ≪ キイッ! そいつはめでたいことだな! ≫
 
ベリアルはエミに背を向けた。 彼にとってはさほどその話は興味のなかったらしい。
そんなベリアルに、エミは少し微笑みながら―――
 
エミ 「 フッ あんたも相変わらず元気そうでなによりね。 」
 
それを聞いたベリアルは、興奮が少し冷める。
 
ベリアル ≪ ・・・エミ、おまえ変わったか? ≫
エミ 「 そう? 」
ベリアル ≪ 10年前、殺し屋をやってた頃のおまえの目はもっと輝いていたキィ。
  それがなんだ、いまはすっかりフヌケになっちまってるじゃねーか! ≫
エミ 「 フヌケね・・・まあ、あんたから見ればそう思われても仕方がないわね。
  でも私は満足してるわ。 弟子にも友人にも・・・ライバルにも恵まれたしね・・・ 」
 
エミは、タイガーに仙香・春華、冥子・・・そして美神を思う。
 
ベリアル ≪ ・・・・・・ ≫
エミ 「 そろそろ時間ね、じゃあ私行くわね。 」
ベリアル ≪ 待ちなエミ!! ≫
 
ガシャンッ! ベリアルはオリをつかむと―――
 
ベリアル ≪ 俺はてめえを許したわけじゃねーぜ! いつかてめえを喰ってやるからな!! ≫
 
それを聞いたエミは振りかえり、ベリアルに向かって微笑んだ。
 
エミ 「 ・・・ええ、何十年かしたら喰わせてあげるわ・・・地獄でね。 」
 
そう言うとエミは、牢屋を出て行った。
 
ベリアル ≪ キイッ! くそっ! ≫
 
ベリアルは壁を背にし、あぐらをかくようにして座りこんだ。
するとベリアルの2つ隣の独房にいる、悪魔アセトアルデヒドが声をかけてきた。
 
アセト ≪ ・・・あれがキサマのマスターだった女か。
  なるほど人間にしてはやるようだ、キサマが捕まったのも納得できる。 ≫
ベリアル ≪ るせえ! おいラプラス!
  てめえエミが今日来ること知ってたろ! なぜ教えなかったキィ!? ≫
 
ベリアルは、一番奥の特殊な房にいる、別名前知魔と呼ばれる悪魔ラプラスに声をかけた。
 
ラプラス ≪ くっくっく、前にもいったじゃないか。
  全てを語ってはつまらないと。 未来は意外性のあるほうが面白い・・・ ≫
ベリアル ≪ キッ! ≫
ラプラス ≪ ベリアル、おわびに一ついいことを教えてやろうか? ≫
ベリアル ≪ もういい!! エミのことを考えるのも面倒だ!! 俺は寝る!! ≫
 
ベリアルはそう言うと、横になって眠ってしまった。
 
ラプラス 「 ・・・・・・ 」
 
しばらくして、ラプラスはふと、なにもない天井を見上げていた・・・
 
ラプラス ( くっくっく・・・キミ次第なのだよ。
  キミとエミの運命の輪は、意外と早く動きだすかもしれない・・・
  そしてもし、動きだしたときは、多くの者たちの運命も動かしてしまうだろう。
 
  エミが好意を寄せているオカルトGメンのバンパイアハーフ、
  そして今だ未来を見定めていないエミの弟子だった男・・・
  キミがこの牢獄を脱出したとき、彼らは命をかけてエミを守りにくるだろう。
 
  くっくっく・・・ベリアル君、キミの中に眠る“魔王”の血が目覚めるか否か・・・
  キミの未来は、今は霧の中ということにしておこう。 )
 
 
ラプラスが予知するベリアルとエミの未来。
この運命の輪が動きだすのか否か、そのときがくれば明らかになるかもしれない―――

リポート82 『資格試験再び』
■試験会場前広場■
 
「 よっしゃ―――やるぞ―――!! 」
 
気合を入れる茜。 
 
10月上旬、ゴーストスイーパー資格取得試験の初日。
試験会場にやってきたタイガー・魔理・茜の3人は、試験会場前で水樹と合流した。
 
魔理 「 お いたいた! 」
水樹 「 みんなー!! 」
 
大きく手を振る水樹。 母の病がきっかけで実家に戻ってから1ヶ月半ぶりの再会であった。
 
「 洋子さんはやっぱこねえのかー 」
タイガー 「 ああ 妙神山での修行のほうに熱中しとるんじゃろーな。 」
 
タイガーと魔理はすでに免許を取っており、残る2人、
水樹と茜が免許取得するため、今回試験を受けにやってきたのである。
会場には多くの受験希望者・関係者でごったがえしていた。
 
タイガー 「 久しぶりジャノー この雰囲気は。 」
魔理 「 ああ 去年はおめえが大活躍したんだよな。 」
 
タイガーと魔理が懐かしむ。
一方で水樹は、遠くを眺めながらどよ〜んとした雰囲気で呟いていた。
 
水樹 「 ふっ そうよね〜 私負けたのよね〜 誰かさんったら容赦なかったし〜〜〜 」
タイガー 「 み 水樹サン・・・! 」
 
後ろで慌てているタイガーを確認すると、水樹は振り向き笑顔で答える。
 
水樹 「 ―――なーんてね! ま 去年は仕方なかったんだし、今年は絶対取るわよー♪ 」
タイガー 「 あ ああ頑張っての! 」
 
ホッとするタイガー。 とそこに―――
 
「 あら? あなた・・・ 」
水樹 「 え? 」
 
振り向いて相手の顔を見ると、水樹は恐怖で体が硬直してしまう。
 
水樹 「 あっ あなたは!!! 」
「 うふふふふ。 またお会いしましたね。 2年ぶりかしら? 」
 
 
「「「 九能市 氷雅 !!!!! 」」」
 
 
黒装束にマントを羽織った、その女の名は九能市氷雅―――
魔理やおキヌといった、六女の生徒たち初めての受験の時、
2回戦で水樹が対戦し、敗れた対戦相手である。(※リポート30参照)
 
水樹 「 ど どーしてあなたがここに!? あなた資格はもう取ったはずでしょ!? 」
氷雅 「 それがですね、あの後ちょ〜っと事件を起こして免許取り上げられてしまいまして。
  それで1年出場停止の後、こうして再試験を受けることとなったのですわ。 」
よろっ‥
水樹 ( それじゃああの時私が負けた意味は・・・(汗) )
 
氷雅 「 それではお互いに頑張りましょう♪ 」
 
氷雅は立ち去ろうとした所で、足を止めて振り返った。
 
氷雅 「 あ そうそう、あなた前回の試験でかなり活躍したんですってね。
  あなたとはまた是非とも対戦してみたいですわね。
  その時はよろしくお願いしますわ★ うふふふふふ・・・・・・ 」
 
さ――――――っ
氷雅が去ったあと、血の気が引き真っ青な顔をする水樹を、タイガーが心配そうな顔をして覗き込む。
 
タイガー 「 み 水樹サン? 」
 
 
水樹 「「「 いやああああああ わたし帰る―――!!!!!! 」」」
 
 
号泣する水樹。
 
魔理 「 おい! まだ一次試験もまだだろ! 」
水樹 「 だってだってー!! あの人が言うとホントにそうなりそうなんだもん!! 」
魔理 「 そう簡単に当たるかよ!( こいつそこまでトラウマ持ってたのかー! ) 」
 
とそこに、別の女性2人がやってくる。
 
聖羅 「 一文字さーん! 」
魔理 「 お 聖羅とアンか。 」
 
魔理に声をかけたその女性は、六道女学院卒業生の聖 聖羅18歳とアン・ヘルシング17歳。
2人とも現在は唐巣の弟子になっている。
 
魔理 「 おめえも来てたのか。 」
聖羅 「 ええ アンの付き添いでね。 」
きょろきょろっ
タイガー 「 エミさんとこはヨーロッパに出張中じゃし、他に知っとる人は来とらんようジャノー 」
魔理 「 ああ 美神さんとこも仕事でこれないって言ってたしな。 」
 
魔理が答える。 その向こうでは、取材陣が1人の大男を取り囲んでいた。
 
リポーター ≪ ―――それで今回4年連続の試験となるわけですが、そのことについて何か一言。 ≫
 
ぐおおおおっ!!!!
蛮 玄人 「 今年こそは100%の力で勝―――つ!!!!! 」
 
リポーター ≪ え〜以上、蛮 玄人 選手のインタビューでした。 ≫
 
             ◇
 
タイガー 「 それじゃあそろそろ時間ジャ。 あかねサン、水樹サン、頑張ってきてツカーサイ! 」
「 まかせろ! 」
水樹 「 うっ うっ・・・ 」
 
ガッツポーズする茜とうつむいてまだ泣いている水樹。
そんなタイガーたちの動向を、白いコートに帽子を被ったサングラスの女性が試験会場の
屋根の上からじっと見ていた。
 
《 ・・・やっと見つけた、トラの男! 》
 
怪しく笑みを浮かべたその女性は、スッとその場から姿を消したのである―――
 
 
             ◇
 
 
―――そして試験会場内にて、一次試験が始まった。
 
試験官 「 それでは次のグループ、入ってきなさい! 」
 
一次試験は霊力の審査。
50人ごとに審査を行い、それを5人の審判員が審査をする。
13番の水樹と14番の茜、そして44番のアンは白いラインに沿って並び霊力を放出する。
 
 
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオッ!!!!!!!!!!
 
 
試験官 ≪ 3番、15番、22番、36番失格! ≫
試験官 ≪ 8番、23番、31番もだ! 帰っていい! ≫
 
( ひええええ! こりゃ厳しいな! ホントにマジになんねえと!! )
 
全力で霊力を放出する茜。 しかし―――
 
試験官 「 14番もダメですね。 霊力が基準値に達していない。 失格にしましょう。 」
唐巣 「 待ちたまえ、彼女はタイガー除霊事務所に所属している。 」
試験官 「 え? 去年首席合格をした・・・!? 」
唐巣 「 もう少し様子を見ようではありませんか。 」
 
その審査員は唐巣和宏。 今年は一次審査の審判も行っていた。
 
( こんな所で落ちるわけにはいかねえ・・・・・・
  しかも神父の見ている前で・・・あたいは負けねえ!! 神父!! )
 
カッ
「「「  ぬああああああ―――――――――っ!!!!!  」」」
 
ズゴオオオオオオオオオオッ!!!!!
 
試験官 「 おっ! 14番の霊力が上がった!! 」
試験官 「 基準値をクリアしたぞ!! 」
「 はあっ はあっ はあっ・・・ふふっ 」
唐巣 ( ・・・しかしなぜでしょう、身の危険を感じるのは・・・(汗) )
 
目をキランと光らせながらこっちを見ている茜を見て、唐巣は額から汗を流していた。
 
試験官 ≪ そこまで!! 13番、14番、27番、44番!
  キミたちは合格だ! 二次試験会場へ向かってくれ! ≫
 
「 よっしゃ―――っ!!!! 」
水樹 「 やったわね! 茜ちゃん! 」
「 ふふふ‥ 愛の力さ。 」
水樹 「 は? 」
 
―――というわけで一次試験を無事終えた水樹たち。
タイガーたちと喜びをわかちあったあと、彼女たちは二次試験会場へと向かったのである―――
 
 
               ◇
 
ざわざわざわざわ‥
 
■実況席■
 
ヒラカタ ≪ まもなく本年度、GS資格取得試験第1回戦が行われようとしております。
  実況は私、毎度おなじみ、GS協会記録部広報課の枚方亮、解説は・・・ ≫
厄珍 ≪ 創業43年!!
  親切ていねい、魔法のアイテムなら何でもそろう厄珍堂!!
  信頼のブランド厄珍堂店主、厄珍がお送りするあるよっ!! ≫
ヒラカタ ≪ あのー、だからテレビじゃないってー・・・・ ≫
厄珍 ≪ 厄珍厄珍やくちんどおおー♪ 魔法のことなら厄珍堂ー♪ ≫
ヒラカタ ≪ おっさん! ≫
厄珍 ≪ あいててよかった厄―― ≫  ぼかっ =☆
 
・・・・・・厄珍リタイア。
 
ヒラカタ ≪ ―――と言いたいところですが、
  今年は解説者2人が急に来られなくなってしまったため――― ≫
厄珍 ≪ 厄珍堂の厄珍がお届けするアルー!! ≫
ヒラカタ ≪ ―――で、お届けさせていただきます。(汗) ≫
 
復活の早い厄珍であった。
 
ヒラカタ ≪ さあ、1800人のなかから選びぬかれた128名、64試合が行われます。
  今年の審判長も去年に引き続き、唐巣和宏氏。 GS界屈指の聖職者でもあります。
  今回もあらゆる霊的干渉を受けない、“ラプラスのダイス”で組合せを決めます! ≫
 
タイガー 「 唐巣神父、頼みますジャー!! 」
魔理 「 神父頼んだぞー!! 水樹対茜みたいなことするんじゃねーぞ!! 」
聖羅 「 弟子のアンとも当たらないようにしてくださいねー! 」
 
2階の客席からタイガー、魔理、聖羅が唐巣に向けて声をかける。
 
唐巣 ( プレッシャーが・・・ああ、やっぱり断ればよかったですねえー )
 
引き受けたことを後悔する唐巣。
 
( 頼むぜ神父! )
水樹 ( どうかあの人とだけは当たりませんように!! )
 
茜と水樹が願った。 そして―――
 
       ・
       ・
       ・
 
「 あたい4番コートだ。 」
アン 「 私5番。 」
水樹 「 私は8番・・・よかったー 1回戦はみんなバラバラみたいね! 」
 
茜、アン、水樹が言う。
それを聞いた唐巣やタイガーたちはとりあえずほっとした。 だが―――
 
 
―――8番コート
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「 おほほほほほ。 また会いましたわね★ 」
 
 
 
 
 
 
水樹 「 い・・・・・・
 
 
 
  いやあああああああああああっ!!!!!!!! 」」」
 
 
 
 
      [ 8番コート第1試合  神野水樹 対 九能市氷雅 ]

リポート83 『最強のライバル』
水樹 「「「 おうちに帰る――――――!!!!!(号泣) 」」」
 
 
試合会場の端のほうで、会場を出ようとしていた神野水樹。
号泣する彼女を、同じ受験者の茜とアンに取り押さえられていた。
 
「 ここまできて何言ってんだ! 」
アン 「 絶対3人いっしょに合格しようねって約束したじゃない! 」
水樹 「 いや〜〜〜〜〜!!!! 」
「 まだ戦ってもいねえうちに! やるだけやってみろよ!
  それでダメだったらギブアップすりゃあいいじゃねーか! 」
水樹 「 それがあの人にはギブアップ出来ないのよ〜〜〜!! 」
 
その様子を観客席から見ていたタイガーと魔理、聖羅は―――
 
タイガー 「 水樹サン・・・ 」
聖羅 「 重症ですわね、彼女ただでさえ気が弱いのに・・・ 」
魔理 「 あれが前回の試験で、首席のタイガーと互角近い戦いをした奴の姿かよ。 」
聖羅 「 こういう結果になってしまったのも――― 」
 
ジロッ‥ 聖羅は近くを通りかかった唐巣を見た。
 
唐巣 「 わ 私のせいじゃないですよ! そのための“ラプラスのダイス”なんですから! 」
 
あわてて全面否定する唐巣。 そして今だ水樹の体を抑えている茜とアンは―――
 
「 あたいら魔界でハーピーの大群とかと戦ってきただろ!
  今さら人ひとりにそんなに怯える必要もねえだろ! 」
水樹 「 イヤ! あの人と戦うぐらいなら、ハーピーやガルーダと戦ったほうがマシ!! 」
アン 「 そこまで対戦を嫌がるあの九能市って人いったい・・・(汗) 」
 
はっきりと断言する水樹に、九能市氷雅という人物を気にするアン。
駄々をこね続ける水樹に対し、次第にイラつきだした茜は突然水樹の体を離した。
 
「 ああ だったらやめろよ。 」
水樹 「 ・・・!? 」
アン 「 あかねさん!? 」
「 そんなにイヤならここから出ていきゃあいいだろ。
  でもな、せっかく応援に来てくれてる所長や魔理たちは水樹さんのこと、どう思うだろうな。 」
水樹 「 ・・・・・・ 」
 
水樹は観客席で見守るタイガーたちを見た。 タイガーたちもこちらのほうを見ている。
 
審判 ≪ 神野水樹選手! 何をしている? 出ないつもりかね!? ≫
 
コート内ではすでに九能市氷雅が待ち構えている。
 
アン 「 ほら、水樹さん審判が呼んでるわよ! 」
水樹 「 ・・・・・・ 」
 
水樹はしばらくうつむき、巫女服の裾で涙をぬぐうと、黙ってコートのほうに歩いていった。
見送っていたアンは茜に声をかけた。
 
アン 「 ・・・逆療法ってやつ? 」
「 まあそんなところだ。
  ったく、あたいはこれから自分の初試合のことを心配しなくちゃなんねえってのに!
  あたいより何倍も実力がある奴の心配なんかしてられるかってんだ! 」
 
茜は頭をかき、照れながら言った。 観客席にいたタイガーたちは―――
 
魔理 「 ―――水樹、行ったみたいだな。 」
タイガー 「 ああ。 」
魔理 「 タイガー、なんで降りていかなかったんだ? 」
タイガー 「 え? 」
魔理 「 おめえが励ましたら、一発でやる気だしてたと思うんだけどなー 」
 
魔理はそう言いながらタイガーを横目で見ると、タイガーは少し考えて言った。
 
タイガー 「 ・・・まあ試験を受けるのは本人の自由じゃし、それに無理に強要はしたくないしノー 」
 
それを聞いた聖羅は―――
 
聖羅 「 そう聞くとなんだか冷たい男みたいですわね。 」
タイガー 「 えっ!? 」
魔理 「 ああ さすが前回あれだけ水樹を叩きのめした奴のセリフだな。 」
タイガー 「 なっ 魔理サンまで! 」
 
聖羅と魔理はタイガーを挟むような形で座っており、
2人共タイガーとは反対のほうを見て、顔を合わせようとはしなかった。
 
タイガー 「 ワシはただ、水樹サンなら絶対資格がとれると信じとるからこそ――― 」
 
焦るタイガーを後ろに、魔理の口もとは笑っていたりする。
 
タイガー 「 ・・・? 」
 
タイガーはふと、客席の一番上にいる、白いコートに帽子を被ったサングラスの女性に注目した。
その女性もこちらを見ており、タイガーに視線を送ったまま、スッと会場の外へと出ていった。
 
魔理 「 どうしたタイガー? 」
タイガー 「 あ いや・・・ 」
 
タイガーは少し考えると、席を立ち―――
 
タイガー 「 ワシー ちょっとジュース買ってくるケン。 」
魔理 「 おい 水樹の試合もう始まるぞ! 」
タイガー 「 すぐ戻ってくるケエー! 」
 
 
そう言いながらタイガーは会場の外へと出ていった。 一方、試合は―――
 
 
ヒラカタ ≪ ではまず、注目の一戦。
  2年前の試験で準首席合格(2位)となった後、とある事件で資格剥奪。
  今回再試験を受けることとなった九能市氷雅選手の試合をみてみましょう! ≫
厄珍 ≪ ありゃ? タイガーんとこの嬢ちゃんあるな。 ≫ 
 
実況のヒラカタに対し、解説の厄珍が答える。
 
ヒラカタ ≪ タイガーと言いますと・・・前回首席合格のタイガー寅吉!? ≫
厄珍 ≪ そうある! ≫
ヒラカタ ≪ そういえばそうでした!
  神野水樹選手は2年前の2回戦、九能市氷雅選手と対戦し敗れています!
  そして去年の2回戦で、首席のタイガー寅吉と対戦し惜しいところで負けました!
  そして今回は2年前同様、九能市氷雅選手との因縁の対決!!
  いきなり燃える展開です。
  運命の女神は何を思ってこの対戦を仕組んだのでしょう!! ≫
 
氷雅 「 うふふふふふ・・・ 本当になんて運命のめぐり合わせでしょう! 」
 
水樹 ( 運命の女神のばか―――っ!! )
 
心で泣く水樹。
 
ヒラカタ ≪ ・・・しかし今は辞めたそうですが、
  神野選手はなぜ、敗れた対戦相手の事務所に入所したのでしょう? ≫
厄珍 ≪ ああ それはアルな、あの嬢ちゃんがタイガーのことをラブラ――― ≫
水樹 「 だまれそこ――――――!!!!! 」///
 
実況席にいる厄珍に向かって、顔を真っ赤にしなっがら叫ぶ水樹。
そして氷雅は、霊刀ヒトキリマルを抜いた―――
 
ちゃきっ☆
氷雅 「 ふふっ 覚悟はよくて? 」
水樹 「 うっ・・・! ( や やっぱりこの人怖い・・・! ) 」
 
審判 ≪ 試合始め!! ≫
 
怯えながら榊の枝を構える水樹に氷雅が斬りかかる!
 
水樹 「 ひっ!! 」
 
ガキィ―――ン!!!!!
水樹は榊の枝に霊波をこめ、霊気の長刀を創り出して氷雅の霊刀を受けとめた!
 
氷雅 「 ほほほほ・・・ やりますわね、今回は少しは楽しませてくれそうね。 」
水樹 「 ・・・クッ! 」
 
両者は離れ、元の位置に戻る。
 
ハアッ ハアッ ハアッ……
水樹 ( この人に精神攻撃は通用しない、でも今年は・・・今年は絶対に資格をとるんだから!! )
 
氷雅への恐怖心を耐え、水樹の目つきが変わる。
そして、水樹対氷雅の本当の試合が始まった―――
 
               ◇
 
別のコートでは、全身鎧のイージス・スーツ・ダビデ号を装着したアンの試合が始まろうとしていた。
 
ヒラカタ ≪ さて、次の注目の試合です。 去年は公共物破損という異例の反則負けをくらった
  アン・ヘルシング選手。 今年の1回戦の相手は――― ≫
 
その小柄なアンの前に立ちふさがったのは、2メートル以上の大男だった・・・
 
蛮 玄人 「 ふっふっふっ・・・・・・女とはツイてるぜ。
  100%だ! 100%の力で勝負してやろう! もうハンデはナシだ・・・! 」
 
ヒラカタ ≪ おーっと出ました! 蛮 玄人選手、100%宣言です!
  さすがに4年連続の敗退は避けたいようです! ≫
 
審判     ≪ 試合開始!! ≫
 
ヒラカタ ≪ さあ5番コートの試合が始まりました。 解説の厄珍さん、注目のこの対決どうみます? ≫
 
厄珍はその試合には興味ないかのように、セクシーな衣装の女性選手に注目していた。
 
厄珍 ≪ どうもこうもないね、3年前に令子ちゃん、2年前に魔理ちゃん、去年はおキヌちゃん、
  んで今年がアンちゃん、クジ運が悪いとしかいいようがないね。 ≫
ヒラカタ ≪ はあ・・・ ≫
 
ワ―――ッ!
実況のヒラカタが目を離したスキに、5番コートでは・・・
 
審判 ≪ 勝者 ヘルシング!! ≫
 
蛮はアンの盾からの怪光線一撃の下、ズタボロになってコートに沈んでいた。
 
蛮 玄人 「 ま・・まて・・・最後なのに試合シーンもないとはひどすぎやしないか・・・ 」
ヒラカタ ≪ 宿命です、これが彼の生きる道なのでしょう! ≫
 
 
一方、水樹がまだ別コートで試合をしている中、4番コート近くの客席には―――
 
 
うおおおおおおお!!!!!
由布子 「 センパーイ!! いてこましてやってくださーい!! 」
弥生 「 優勝っス、それしかないっス!! 」
「 おう!! 」
 
客席で大旗を持って応援する後輩たちに右腕を上げて返事をする茜。
茜はコートの中に立ち、対戦相手と向かい合っていた―――
 
 
―――1年前、あたいには何も目標がなかった・・・
未来への希望なんて持とうともしなかったあの頃、
毎日が退屈の日々で、ただ学校の気のあうツレと時間を潰していた。
それがまさか、あたいに霊能力があって今ここに立っているなんてな・・・
 
エミさんはあたいに力(笛)をくれた。
仙香さんはあたいの力を見いだし、笛の使い方を教えてくれた。
唐巣神父はあたいに人の道を・・・優しさを与えてくれた。
所長はあたいに除霊の知識と経験をくれた。
 
力に目覚めて約1年・・・あたいにはこの笛で小鳥(スカベリンジャー)
を呼んで霊力を喰らいつかせるしか攻撃手段はないけど、
少なくても今、あたいは2000人近い受験者の中のベスト128人の中に入ってる。
いまのあたいなら充分勝てるチャンスがあるはず、あとは気合の問題だ。
あたいがここまでこれた恩人たちのためにも、この勝負、負けるわけにはいかねえ―――
 
 
―――獣の笛を握る茜の手に力が入る。
 
 
( あたいはゴーストスイーパーになるんだ!! )
 
 
彼女たちの戦いが始まる―――
 
 
     ・
     ・
     ・
 
 
■会場近くの公園■
 
水樹と茜がゴーストスイーパーの資格をかけた、最初の試合が行われようとしていた頃・・・
タイガーは、試験会場で見かけた白いコートの女を追いかけていた。
そして公園のほうにいた白いコートの女は、公園内にある林の中へと入っていく。
タイガーも彼女の後を追っていった・・・
 
タイガー ( ワシに殺気をぶつけてきおったあの女、あいつは・・・ )
 
しばらく進んだ所で、コートの女を見失うタイガー。
 
( ・・・タイガーとらきち・・・ )
 
しかし白いコートの女は、木の枝の上に潜んでいた!
タイガーが真下を通り過ぎようとすると―――
 
ガサッ!
タイガー 「 !? 」
「 死ねっ!! 」
 
タイガーは飛び降りてきたその女の蹴りを、かろうじてかわした!
 
タイガー 「 おっ お前は――― 」
 
しかし女は、すぐさま素早い動きでタイガーを殴りにかかる!
 
タイガー 「 ま 待て、話を・・・! 」
「 ハアッ!! 」
 
ドゴッ! 女の突き上げるような蹴りがタイガーの腹部にヒットする!
 
タイガー 「 グッ!! 」
 
タイガーはよろけながら、なんとか倒れずに立ち止まった。
 
「 今のはあいさつ代わりだ、次は本気でやる! 」
タイガー 「 待て・・・その前に理由ぐらい話したらどうジャ・・・! 」
「 黙れ!! あたいはキサマをやらないと帰れないんだよ!! 」
 
女は再びタイガーに殴りかかる! だが!
バッ!
真正面からの攻撃もあってか、タイガーは女のパンチを手の平で受けとめた!
 
タイガー 「 こんな真っ昼間から、ゴーストスイーパーだらけのこの場所に紛れてくるとは・・・
  どうやら目的は、ワシに復讐しにきただけじゃないらしいノー 」
「 ・・・クッ 」
 
女は後ろへさがりタイガーと距離を置くと、被ってた帽子とサングラスをとった。
 
「 あたいも理不尽じゃん、なぜキサマなのかをな・・・ 」
 
肩まで伸ばした茶褐色の髪、目じりの上がった鋭い眼光・・・
見た目ハタチすぎのキャリアウーマンにも見られたが、
タイガーにはこの女性の顔に見覚えがあった―――
 
 
 
タイガー 「 鳥族の城での戦い以来か、ハーピー・・・いや、ルウ・・・ 」
 
 
 
サアアアアアアア――――――−−‐
 
 
 
あの戦いから5ヶ月・・・
 
両者の動向を見守るかのように、周囲の木々の葉が揺れていた―――
 
 
 
―――これよりちょうど3年前のゴーストスイーパー資格試験―――
審判 ≪ 勝者横島!! 横島選手、GS資格取得!! ≫
 
 
ワ――――――ッ!!!!!!!
 
 
どよめく館内。 恐るべき戦闘能力を持つ氷雅の攻撃を、奇抜な動きでかわし続けた横島。
解説者も観客も会場すべての注目を浴びる中、横島が見事資格取得を果たしていた頃―――
 
タイガー 「 ハアッ ハアッ ハアッ ハアッ・・・ 」
 
会場内の反対側のコートでは、タイガーが2回戦の試合を行っていた。
タイガーは額から血を流しており、すでに立っているのがやっとの状態だった・・・
 
陰念 「 キヒヒヒ・・・ 弱えーなーテメー、もう終わりなのかい? 」
 
対戦相手は、雪之丞や勘九郎と同じ白龍会の陰念。
彼は右手に霊気を溜めながら、余裕の表情でタイガーを挑発していた。
 
陰念 「 最初の幻覚攻撃はちょいとてこずったが、幻覚ってわかってりゃあなんてこたねえ、
  しかも、もう時間切れで使えねえときた。
  よくその程度のレベルでゴーストスイーパーになろうって気になれたな。 」
タイガー 「 うっさい、ワシはこの試合に勝ってエミさんに恩返しするんジャ・・・ 」
ニヤッ‥
陰念 「 そいつはムリだな、この俺がいる限りテメーはここで落ちるんだ。 」
 
ふらつきながら必死に立ち留まっているタイガーに、陰念はニヤリと笑った。
 
タイガー 「 だめかどうか・・・ 」
 
タイガーは左腕を強く握ると―――
 
タイガー 「 やってみんとわからんジャロー!!!!! 」
 
陰念に向かい霊気拳で殴りにかかる!
 
陰念 「 へっ いくらデカくて腕力があっても・・・ 」
 
陰念は右手に溜めてた霊気を―――
 
陰念 「 この世界じゃ通用しねえんだよ!!!!! 」 ゴオオッ!
 
―――放出した!!
 
ドゴオォォン!!!!
タイガー 「 グアアアアアッ!!!!! 」
 
タイガーの右腕に直撃! 陰念は更に霊気弾をタイガーに向け連続で放つ!
 
ズババババババババ!!!!!
ぎゃはははは!!!!!
陰念 「 弱え、弱えよてめえ!! てめえは一生ゴーストスイーパーになれねえよ!!!!! 」
 
勝負は最初の一撃で決まっているにもかかわらず、攻撃を休めない陰念。
タイガーは意識が薄れていく中、陰念勝利の言葉を発する審判の声を聞いていた・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――それから1年後、物語は始まった―――
 
 
 
 
 
 
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     リポート83 『最強のライバル』
 
 
 
 
 
 
 
 
              ・
              ・
              ・
         そして最終話―――
 
 
 
 
 
 
 
 

リポート84 『未来へのすごいプロローグ』
サアアアアアアア――――――−−‐
 
 
 
周囲の木々の葉が風でゆれる中、対峙する2人の男女がいた・・・
 
タイガー 「 ・・・・・・ 」
ルウ 「 ・・・・・・ 」
 
1人はタイガー。 もう1人は妖怪、ハーピーのルウ。
今は人間バージョンに化けているが、白いコートに茶褐色の髪、目じりの上がった鋭い眼光・・・
翼は見えないが、その顔は間違いなく、魔界の鳥族の城で生死をかけて戦った相手だった。
 
ルウ 「 フッ・・ タイガー寅吉! キサマに復讐できるこのときをどんなに待ったことか・・・ 」
 
ルウは、タイガーを睨みつけながらコブシを握りしめていた・・・
 
タイガー 「 ・・・なぜジャ、ワシに復讐するだけなら、こんな目立つ場所を選ばずに、夜中に
  狙うなり他に方法あったはずジャ。 それもわざわざ人間に化けて――― 」
ルウ 「 黙れ!! キサマよくもぬけぬけと・・・ 」
 
タイガーの言葉がひっかかったのか、ルウは急に大声をだし、怒りで震えていた。
彼女はタイガーに向けて、人差し指をさすと―――
 
ルウ 「 キサマ! あたいにどんな仕打ちをしたか覚えているのか! 」
タイガー 「 そ それは・・・ 」
 
タイガーはルウとの戦いの際、精神感応を酷使し彼女と意識を混合させたせいで、
後半部分の記憶がなく、そのときの状況は魔理たちから聞いた範囲でしかなかったのだ。
 
タイガー 「 ・・・実はワシ、あんたと意識を混合させたあとのことは覚えとらんのジャ。
  あんたを倒したことも、暴走して羽根を引き裂いたことも・・・ 」
ルウ 「 それさ・・・これを見ろ!! 」
 
するとルウは突然白いコートを脱ぎ、上着を脱ぎだした。
 
タイガー 「 ちょっ・・・なにを!? 」///
 
スカートはそのままで、上半身裸になると、タイガーに背中を向けて腕を広げた。
そしてもとの妖怪本来の姿に戻るが・・・
 
タイガー 「 ・・・・・・! 」
 
彼女の翼は本来両腕に連なり、広げれば大きく美しい形のはずだったが、
今は肩に近い部分にちょこんと生えているだけで、とても鳥の妖怪とは思えない姿だった。
 
ルウ 「 ・・・最初はすぐに回復すると思ってたこの傷は、想像以上に深かった・・・
  なにせ鳥妖怪の命ともいえる翼を、根本から引き裂かれたのだからな。 」
タイガー 「 ・・・・・・ 」
ルウ 「 妖力をほとんど使い切ってたし、美神親子にやられた時より傷が深い・・・
  半年近くたってこれだから、完全に元通りになるにはあと数年はかかるだろう。 」
 
ルウはそれだけ言うと、再び人間の姿へと戻り、上着を着なおした。
 
ルウ 「 こんなみっともない姿をさらけ出しとくぐらいなら、人間に化けてたほうがよっぽどマシじゃん!
  おまけに空を飛べなくなるわ 妖力が衰えるわ 隊長の任から離れることになるわ・・・ 」
 
鳥妖怪のハーピーにとって、翼は妖力の貯蔵庫のようなものであり、翼がなければ羽根に
妖力をためることができず、力は衰えてしまう。
彼女は力のないハーピーが隊長でいる必要はないと思い、自ら隊長の任を離れたのである。
 
ルウ 「 それだけ・・・それだけでも許せないのに、なぜあたいが・・・ 」
 
―――ルウのコブシに力が入る。
 
タイガー 「 ど どうしたんジャ? 」
ルウ 「 なぜあたいがキサマの・・・ 」キッ!
 
それまで呟くように言ったルウは、急にタイガーをにらみつけると―――
 
ルウ 「 キサマやっぱり死ね―――っ!!!!! 」
ドゴッ!
タイガー 「 のわっ!! 」
 
敵意むき出しのルウは、再びパンチと蹴りによる連続攻撃をくりだす!
 
シュッ! バシュッ!
タイガー 「 キサマのなんジャ!? ちゃんと言わんとわからんぞ!! 」
ルウ 「 だまれ!! キサマのせいであたいの人生ムチャクチャなんだよ!! 」
 
タイガーは反撃せず、ガードし続けるが―――
 
ルウ 「 ハアッ!! 」
バシッ
タイガー 「 グッ!! 」
 
ルウの攻撃は何割かタイガーにヒットしていた。
 
タイガー ( クッ・・・さすがに強い・・・! )
 
ハーピーは基本的に、空中・遠距離攻撃を得意とし、接近戦は苦手とされているのだが、
さすがに最強のハーピーとうたわれただけのことはあり、
異世界の戦いで見せた接近戦の強さを、ここでも健在させていた。 しかし・・・
 
タイガー ( ・・・じゃが、やっぱり魔界のときより攻撃が軽い・・・ )
 
彼女の攻撃は、圧倒的な力の差を見せつけた魔界のときよりも弱く、動きも遅かった。
ここが魔界の瘴気が届きにくい人間界だということと、翼を失ったことが大きな原因だろう。
 
ルウ 「 翼を失った鳥がどんなに惨めなものかキサマにわかるか―――!! 」
 
ルウが連続攻撃する中、タイガーは両手で彼女の両腕をつかみ、攻撃を止める!
 
ルウ 「 く・・・! 」
タイガー 「 ワシは覚えとらんが、ワシが翼を奪ったことは事実ジャ。
  じゃがあの戦いは絶対勝たんといけんかった、みんなを助けるために・・・ 」
 
ルウは、その細腕からは考えられないぐらいの力で、タイガーを振り払おうとするが・・・
 
ルウ 「 ・・・くっ はなせ・・・・・・! 」
タイガー 「 ・・・・・・ 」
 
・・・タイガーの怪力がわずかに勝り、ルウは振りほどくことができない。
 
タイガー 「 ・・・ワシ恨む理由もわかる、
  死を覚悟で意識を繋げたあの技で、あんたの過去はだいたいわかったからな・・・
  あんたがどんな人生を送ってきたのか、どれだけその翼を大切にしとったか――― 」
カッ!
ルウ 「 うるさい!! 」
ドゴッ!
タイガー 「 ぐっ!! 」
 
ルウはタイガーの腹部にヒザ蹴りをくらわした!
タイガーはたまらず手を離し、腹をおさえながら膝をつく。
 
タイガー 「 ぐおおお効いた〜〜〜! 」
ルウ 「 フンッ! 」
 
ルウはコブシを振りあげ、倒れているタイガーに襲いかかろうとするが―――
 
ルウ 「 ・・・あたいにもキサマの意識が流れこんできた。
  キサマの人生、キサマが守ろうとしていた意思もな・・・ 」
タイガー 「 ・・・・・・ 」
 
ルウはコブシを強く握ったまま、ゆっくりと腕を降ろした。
 
ルウ 「 それはあたいが鳥族を守ろうとする意思となにも変わらなかった。
  その点について少しは共感してやってもいい。 だが――― 」
 
歯を食いしばりながら、タイガーを強くにらみつけると―――
 
ルウ 「 両翼を奪ったキサマをあたいは許さない、絶対!! 」
 
殺したくても殺せない、タイガーは彼女のそんなイラ立ちを感じはじめていた・・・
 
タイガー 「 ・・・ルウ、ここにきた本当の理由はなんジャ、なにかあってここにきたんじゃろ。 」
ルウ 「 ・・・・・・・・・・・ 」
 
ルウは大きくため息をつくと、ポケットから取りだした封筒をタイガーに投げつけた。
 
ルウ 「 いちおー命令だからな、ガルーダ様からの手紙じゃん。 」
タイガー 「 ガルーダの・・・? 」
 
受けとったタイガーは、封筒を開けて手紙を読みだした。
 
タイガー 「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」
 
・・・すると徐々にタイガーの額から汗が流れだす。
 
チラッ‥
タイガー 「 ・・・・・・ 」
 
ルウを見ると、彼女は横を向いて頭をかきながら、困ったような表情をしていた。
するとタイガーは、自然と口もとが緩む・・・
 
タイガー 「 ・・・ふふっ 」
ルウ 「 なにを笑ってる。 」
タイガー 「 いや・・・ガルーダに先を越されたなと思っただけジャ、あんたはどうなんジャ? 」
ルウ 「 どうもこうも、ガルーダ様の命には逆らえん。
  それがあたいら鳥族の未来のためになるなら尚更な・・・ 」
 
手紙を読んだタイガーは、ゆっくりと立ちあがり、ルウのほうを見た。
 
タイガー ( まさか魔族のほうからワシがやるべき道を示してくれるとは・・・
  じゃがこいつは手強いぞ、一度はブチキレて本気で戦った相手じゃしノー )
 
意識を共有したからこそわかる、彼女の魔族としての資質・凶暴性・暗殺者としての経歴。
タイガーは、彼女を受けいれることを不安に感じずにはいられなかったが―――
 
タイガー ( ゴーストスイーパーの仕事は悪霊・妖怪を退治してくこと。
  じゃが退治することが全てじゃない、誠意を持って交流を深めれば
  起こりうるはずの悪・・・もしくは事故を未然に防ぐことができるはず・・・ )
 
今までボンヤリと見えていた、自分が歩んでいくべき未来―――
タイガーはこのとき、はっきりと自分のやるべきことが見えた気がした。
 
タイガー ( ・・・ワシはゴーストスイーパーとしては二流かもしれんが、
  ワシはワシにできるやり方で、こいつと精一杯つきあってみよう。 )
 
スッ‥ そしてタイガーは右手をだして、ルウに握手を求めた。
 
 
 
タイガー 「 魔界・鳥族代表のルウ、ガルーダからの手記確かに受けとった。
  あんたの人間界への留学先として、このタイガー寅吉が全て引き受けよう。 」
 
 
 
まっすぐルウを見つめるタイガー。
彼女は差しだされた大きな右手を、しばらくの間じっと見ていたが―――
 
ルウ 「 ・・・よろしく 」
 
そう言ってタイガーの右手を握り返した。
するとタイガーは、緊張の糸が切れたのかホッとした表情になるが、次の瞬間!
 
ルウ 「 ・・・って調子に乗るな!!!!! 」
ドゴッ!
タイガー 「 ッ!!!!!! 」
 
タイガーは再び腹に膝蹴りをくらい、その場に倒れた。
 
タイガー 「 のおおおお さっきと同じところを・・・! 」
ルウ 「 いいか!! あたいは好きでここに来たんじゃない!!
  命令で仕方なくだ、キサマを殺す準備はいつでもできてると思え、いいな!! 」
タイガー 「 りょ、了解・・・ 」
 
 
前途多難・・・
 
洋子と水樹が抜けた今、正社員が魔理しかいないタイガー除霊事務所にとって、彼女の
来訪は心強い戦力には違いない。
しかし、オカルトGメンへの対応など、彼女を引き受けることは数々のリスクを伴うだろう。
だがそれらを全てクリアしたとき、得られるものが大きいことは2人とも想像できていた。
はたしてルウの来訪が、タイガーたちにとって、吉と出るか凶と出るか・・・
その結果は彼ら次第、いや、タイガーのがんばり次第なのかもしれない。
 
 
ルウ 「 じゃあ行こうか。 」
タイガー 「 い 行くってどこへ? 」
ルウ 「 資格試験じゃん、あたいもエントリーしているからな。 」
タイガー 「 エントリーって・・・!? 」
ルウ 「 キサマの所で除霊活動はじめるからには、あったほうがなにかと都合がいいだろ。 」
タイガー 「 そりゃあるにこしたことはないがー 」
 
 
彼女が言うには、アサシンをやってたときに偽造で戸籍を作っており、不幸中の幸いか、
妖力の貯蔵庫とも言える両翼を失ったおかげで、一次試験をパスできたらしい。
ルウは最初からそのつもりで資格を取りに来ていた所を見ると、タイガーは少しだけ、
彼女との交流に希望を見ることができた。
ルウは自分のコートを拾って着なおし、怪しく笑うと―――
 
 
フフフフフフ…
ルウ 「 そんでもって資格取ったら、真っ先に美神親子をブッ倒しにいくじゃん! 」
タイガー 「 ・・・それはやめといたほうがええ、ホントに祓われるぞ(汗) 」
 
 
本気でちょっかい出しかねない彼女に、大きな不安を抱くタイガー。
しかし彼には、彼女を迎える上で最大の問題があった―――
 
 
タイガー ( ・・・魔理サンやあかねサンたちになんて説明しようかノー・・・ )
 
 
完全に敵視するはずの彼女たちをどう説得するのか・・・
タイガーは頭を悩ませながら、
仲間たちが戦う試験会場へと向かったのであった―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
      ・
      ・
      ・
 
 
■数日後 妙神山■
 
 
 
ひとり庭石に座り、手紙を読んでる洋子がいた。
 
洋子 「 ・・・ふ〜ん、水樹はやっぱり資格取ったかー 」
 
それはタイガーからの手紙で、主に資格試験の結果について書かれた内容だった。
 
洋子 「 茜は2回戦落ちかー・・・
  まあ初試合で1回勝てただけでも大健闘やな、それにしても・・・ククッ・・・ 」
 
洋子がニタニタしながら手紙を読んでるところに、横島とパピリオがやってきた。
 
パピリオ 《 なに読んでいるんでちゅかー? 》
洋子 「 ん 寅吉からや、今年の資格試験の結果も送ってくれおった。 」
 
洋子は手紙といっしょに同封されていた、二次試験の試合のトーナメント結果表を横島に渡した。
 
横島 「 ・・・水樹ちゃん3回戦落ちでアンちゃんが4回戦落ち・・・
  へえ〜 あの2人にしては、思ったより勝ち進めなかったんだなー 」
洋子 「 組み合わせが悪かった見たいや。 」
 
横島は2人の対戦相手を見てみると―――
 
 
            ――― 『 鳥野 瑠羽 』 ―――
 
 
横島 「 2人とも同じ相手に負けてる、しかもそいつ首席になってるじゃねーか。
  えーと、とり・・鳥の る・・・はね? 知らねえ名前だなー なんて読むんだ? 」
洋子 「 さあ・・・でも・・・ 」
 
洋子は手紙の後半に書かれていた、事務所の新しいメンバーについての一文を見た。
 
 
 
洋子 「 これからまた、大変な生活がはじまりそうやな、寅吉・・・ 」
 
 
 
ニヤニヤしながら青い空を見上げる洋子。
 
―――同刻、タイガーは事務所の窓を開けて、同じ青い空を見上げていた。
 
 
 
 
 
タイガー 「 ・・・さーて、今日も一日、がんばるかノー! 」
 
 
 
 
 
ゴーストスイーパー タイガー寅吉20歳。
 
彼の未来はこれからも遠く、果てしなく続いていく―――
 
 
 
 
 
〜FIN〜
 
 
 
 
 
 
 
 
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
☆最後の後書き☆
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
全84話………1話からずっと読んでくださった方々、長編全読破、本当におつかれさまでした。
このお話を考えはじめて1年半、長かったタイガーのお話もこれにて終了しますが、
最後のタイトルに“プロローグ”とついてるように、タイガー自身の物語はこれからも続いていくことでしょう。
 
 
1、完結の経緯
 
終わらそうと思えばタイガーが資格を取る6節や9節、14節で終わらせることもできたわけですが、主人公が生きている限りお話そのものはいくらでも続いていく上、創作すればするほどお話は膨らみます。 去年の冬頃は異世界編で完結させようと思いましたが、散らばった伏線回収やタイガーのその先の人生を追ってみようと思い、更なる続編を予定していました。
 
……ところが、煩悩の部屋の投稿の締め切りが7月だということを直前に知りました。(汗) 管理人のFukazawaさんが仰るに、7月の締め切りは新規投稿に対してのもので、現在シリーズで続いているものに関してはお話が完結するまでは投稿を受けつけるそうなので、急いで完結させずに16節・17節と続けることもできました。 ですがこれ以上Fukazawaさんに負担をかけるのも心苦しいですし、なにより一作品に対してこれ以上時間をとられるのも悩み所でした。 この最終節も7話分を1つにまとめている上、タグを付けたり名前ふったりしないといけませんから、期間も1ヶ月以上かかりました。 時間が無限にあればもっと書きたいところですが、有限である限り他にやりたいことはいっぱいありますし新しく見つけていきたいですからね。 結論として、煩悩の部屋新規投稿締め切りを機会に、今回多くの伏線を拾い、タイガーや他のメンバーたちのこれまでとこれからをまとめた形でこのお話を完結させることにしました。
 
一応想定として発表しますと、ルウを向かえた“新・事務所編”とその先、いわゆる“ベリアル編”まで考えていましたが、これはもう脳内補完ということで……実はリポート81は、ベリアル編の1話目として予定してた話を修正したものだったりします。 全部をまともに書いてたら、完結は半年以上先でリポート120ぐらいいってるかも……(汗)
 
 
 
2、主要登場人物について
 
タイガー寅吉―――もともと原作でもSSでも滅多に使われないような、人や妖怪を活躍させたいと思ったのがこのお話です。 そんな1・2度しか使われない希少キャラをまとめられるのは、原作で出番がないと嘆いていた微妙な立ち位置の彼しかいません。 資格を持たない出番もない悲運の男、タイガー寅吉。 原作の中でどんどん成長していき、ついには美神を超えた(?)と思えるエピソードまであった横島とは違い、原作の中でほとんど成長過程が描かれなかったタイガーなら、新しい仲間を向かえて、彼ならではの新しい物語ができると思いました。 惜しむらくは、タイガーが誰ともくっつかなかったということでしょうか? 親密になりかけた話もいくつかありましたが、不器用な彼にとっては愛情より友情が深まってしまったようです。
 
一文字魔理―――タイガー四天王のひとり(笑)(今思いついた) 最終節ではあまり目立ちませんでしたが、今後はルウとの絡みでかなり活躍する予定でした。
 
神野水樹―――序盤のヒロイン。 彼女は氷雅と絡むと原作の味が出やすいです。 神野神社の神様関係については、やっぱり1話で収めるには難しかったですね。(汗)
 
御剣洋子―――異世界編のヒロイン。 初期の頃から、彼女の強さは主人公のタイガー以上としてきたので、異世界での戦いはその実力が存分に発揮されました。 彼女の呪い関連も“ベリアル編”まで続く予定でした。
 
白石茜―――原作4巻に初登場の名もなき不良少女。 一文字の回想でケンカ相手として数コマ出演していたのがきっかけで、この話にレギュラー入り。 恋敵・聖羅と唐巣争奪話を一度くらいやってみたかったかも(笑)
 
ルウ―――原作12巻に登場したハーピーのことで、ルシオラ的存在(えー)……に、なる可能性を秘めた妖怪。 最後に彼女を持ってきたのも、これから起こるであろうすごい展開へのはじまりにすぎません。 
 
ガルーダ―――原作23巻に登場したガルーダのオリジナル。 リポート72の、メドーサ・ハーピー・アシュタロスまで含めた過去話を繋げるのはものすごく難しかったです。
 
メゾピアノ―――原作11巻に登場の学校妖怪。 このお話の中で一番ブレイクした妖怪かも。 リポート80の彼の言動は某アニメの某ステージ妖精が元ネタです。 外見も声もイメージがぴったりなんですよね〜 
 
氷室早苗―――メゾピアノの相方(笑) リポート34で見せたヒミコ憑依能力、“日本の魔女”と言われたヒミコ関連の話は、今後書く予定だったエピソードのひとつです。
 
エミ―――タイガーにとって永遠の師匠ですね。 エミはとにかくかっこよさをクローズアップさせました。
 
 
 
3、最後に
 
過去にも同じぐらい夢中になった作品もありましたが、一作品の創作にこれだけ熱を入れこんだのは稀でした。 
しかもWeb上では初作品で、この話を作るためにHTMLも覚えました。
そんな思い出深いこのお話も、これにて終了します。
 
自由に創作できて楽しかったです。
たくさんの感想いただけてうれしかったです。
 
GS美神で私が書きたかったことは、すべてこの話に注いだつもりですので、GS美神の小説を書くのも
これで最後かと思います。
今後GS美神については、読者として、ほかの作家さんたちのお話を読んで楽しむことにします。
 
これまで私のつたない創作話に、最後までお付き合いしていただき、本当にありがとうございました。
今まで感想をくださった方、読んでくださったすべての皆様に心よりお礼を申し上げます。
 
 
 
これからは、展開予測ショー(GTY)で、6月7日から投稿を続けている
『百貨店パーティー』(全10〜11話予定)の執筆に再びとりかかります。
興味をもたれた方、こちらのほうも読んで頂けたら幸いです。
 
 
―――それでは、展開予測ショーのほうでお会いしましょう。
2004年8月10日

※この作品は、ヴァージニアさんによる C-WWW への投稿作品です。
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