とら! 第4節 卒業


   
 
■神御呂地高校 3年B組■
 
年が明けた1月、3学期始業式の放課後。
タイガーのクラスメイト達が帰宅する中、同級生の氷室早苗がタイガーに声をかけた。
   
早苗 「 タイガークン 水樹ちゃんはまだこっちにいるんだべか?
タイガー 「 ああ そうじゃが。
早苗 「 あのコ確かー 3学期になったら東京さ戻るって言ってなかったか?
タイガー 「 そういやそんなこと言っとったが、なんだかそのへんうやむやになっとるようジャ。
  多分オヤジさんの神野師匠に 残って修行するよう止められとるんジャロー。
  転校届も親の許可がいるようじゃしノー。
早苗 「 ふーん・・・・・・
 
ぴんほんぱんぽ〜ん
 
≪ 除霊委員のみなさん、至急音楽室に集合してください。 ≫
 
早苗・タイガー 「「 ・・・・・・・・・
 
校内放送の男の呼びかけに黙り込む2人。
 
男子生徒 「 なんだべ? 除霊委員って?
男子生徒 「 そんな委員あっただか?
 
クラスに残ってたほかの生徒は、そんな話をしていた。
すると早苗は、急いで自分のかばんに荷物を片付けだすと―――
 
早苗 「 タイガークン さっさと帰るべ!
≪ 除霊委員のみなさん、至急音楽室に集合してください。 ≫
 
タイガー 「 早苗サン これひょっとしてー
早苗 「 なにしてるだ! あんたもさっさと荷物まとめて―――
 
再び同じ放送が流れる。 早苗は急いで片付け終え、教室を出ようとした。 しかし―――
 
≪ 除霊委員のタイガー寅吉クン 氷室早苗クン 神野水樹クン、至急音楽室に集合してください。 ≫
 
タイガー 「 おもいっきりワシらを呼んどるがー
早苗 「 ・・・・・・キッ! あんのナルシス野郎!
 
怒りに震える早苗は 教室を飛び出していった―――

リポート18 『新生除霊委員 始動!』
■放送室■
 
マイクの前に、タキシードを着てウェーブがかかった紫色の髪をした、美形の男が座っていた―――
 
メゾピアノ ≪ あー 早苗クン早苗クン 委員長の早苗クン 至急音楽室に来てください。
  早く来ないと キミの幼き頃からの数々の思い出話でもしてしまいますよ?
  ・・・・・・そう、あれは早苗クンが6歳の時でした。
  小学校に入学した早苗クンは それはそれは活発な女の子でした。
  ある日早苗クンが友達と校庭でボール遊びをしていた時 同じクラスのヤマちゃんが・・・・・・ ≫
 
 
 
ドヴォオオオオオオオオッ!!!!!
早苗 「「「「「   こんのバカキザ妖怪―――!!!!!!!
メゾピアノ 《《《《《   はんぶぉじあっ!!!!!
 
 
 
突然放送室に侵入した早苗は、マイクの前にいたタキシードの男を盛大に殴り飛ばした!
そしてすかさず放送用のスイッチを切ると―――
 
早苗 「 ふざけるのもタイガイにせんと わたすもしまいには怒るべ!!
タイガー 「 もう怒っとるようじゃが・・・・・・
メゾピアノ 《 さ 早苗クン・・・集合場所は音楽室のはずだが?
早苗 「 やかましい! どう考えてもおめえを止めるのが先やろ メゾピー!
 
ヨロヨロと起きあがったこの男は、学校妖怪メゾピアノ。 通称メゾピー。
彼はこの神御呂地高校の教師でもあった。
 
メゾピアノ 《 フッ なかなかいいパンチしてるね早苗クン
  だがこれでも僕はここの教師だよ。 先生を殴るとはひどいじゃないかー
早苗 「 生徒のプライベートを学校中に公開することのほうがよっぽどひどいわ―――!!
タイガー 「 まあまあ メゾピーも悪気があったわけじゃ―――
早苗 「 あったに決まっとるべ!!
メゾピアノ 《 ひどいなあ早苗クン。 僕がそんな妖怪に見えるかい?
早苗 「 見える!
 
間髪入れず、どきっぱしという早苗。
 
タイガー 「 と とにかくジャ いったいワシらに何のようなんジャ?
メゾピアノ 《 それはだね・・・・・・あ 水樹クンが音楽室で待ってるようだからそこで話そう。
タイガー 「 わかるのか?
メゾピアノ 《 フッ 僕はピアノの近くにいる人の気配ぐらいは 離れててもわかるようになったのさ。
  早苗クン これもキミの霊媒体質の力で パワーアップさせてもらったおかげだよ。
ギロッ
早苗 「 その割には感謝の心が足りてないようだべな。
タイガー 「 まあまあ早苗サン。 とにかく音楽室で話を聞いてみよう―――
 
 
 
 
■音楽室■
 
タイガーが早苗をなだめた後、3人は音楽室へと移動した。 
そこにはメゾピーの言うとおり、神野水樹がいた。
 
水樹 「 みんな! さっきの放送なんだったの?
早苗 「 こんのバカがバカしただけだ。
 
あごでメゾピーをしめす早苗。
 
メゾピアノ 《 ははは ひどいなー早苗クン。 ちょっとしたイタリアンジョークではないか。
早苗 「 やかましい!
 
タイガー・早苗・水樹の3人はパイプ椅子に、メゾピーはピアノの椅子に座った。
 
タイガー 「 ・・・・・・それでワシらを呼んでいったい何の用なんジャ?
メゾピアノ 《 うむ 我が神御呂地高校除霊委員としての活動内容としてだねー
早苗 「 ちょっと待つだ!
メゾピアノ 《 なんだね委員長。
早苗 「 だから委員とか委員長とか勝手に決めんな! わたすらは誰も委員に入ったわけではねえべ!
 
メゾピアノ 《 これは大いなる意思なのだよ早苗クン。 キミ達は運命の中にいるのさ。
  そう これは運命! ベートーベン交響曲にも匹敵する我が魂のディスティニ―――!!
早苗 「 バカなのかキザなのかはっきりしろ!
 
酔いしれるメゾピーに、早苗はつめたく突っ込む。
 
水樹 「 早苗姉ちゃんもういいじゃない。 とにかく聞くだけ聞きましょう。
早苗 「 ふんっ!
メゾピアノ 《 ふむ 話を元に戻そう。 本日キミ達に集まってもらったのは他でもない。
  除霊委員としての活動内容は悪霊を除霊することにある。 ・・・・・・だが!
  この学校付近には、倒さなくてはならないほどの悪霊の存在は確認出来ないのだ!
 
更に酔いしれながら熱弁するメゾピー。 
 
水樹 「 まあ村だからね。 人も少ないし 死んで悪霊になりそうな人は都会に多く出てくるものよ。
早苗 「 それにだ。 去年おキヌちゃんがここら辺の悪霊連れて東京さいったもんだから、
  ここら辺に潜んでいた自縛霊やらなんやら全部ついていっちまったんだべ。
メゾピアノ 《 そうなのか?
早苗 「 たまに悪霊が出ても わたすの父っちゃが退治してくれるしな。
  そーいうわけだから除霊委員なんて必要ないんだべ。
メゾピアノ 《 そ そうだったのか・・・・・・
ぱんぱんっ
早苗 「 というわけでおひらきおひらき! さっさと帰って神社の掃除でもするべ!
 
手をたたいて帰ろうとする早苗。 するとそこに、校長先生があわてて入ってきて―――
 
校長 「 メゾピー先生! 校庭に悪霊が!!   ―――!!―――
メゾピアノ 《 除霊委員! 出動!!
 
校長の話を聞いた途端メゾピーは立ち上がり、
メ胸のポケットに入ってたバラの花を、意味なく天井に放り投げた。
 
 
 
 
■校庭■
 
悪霊 ≪≪  クオオオオオオオン!! そのカラダヨコセ―――――!! ≫≫
生徒達 「「「   いやあああ―――っ!!!
 
タイガー達が外に出ると、ドクロの姿をした悪霊の魂が、校庭に残ってた生徒を追い掛け回していた。
かけつけたメゾピーは、タイガー達に指示をだす。 だが・・・
 
メゾピアノ 《 さあ行くんだ! タイガークン早苗クン水樹クン!
タイガー 「 ワシらはちょっと・・・
水樹 「 早苗姉ちゃんお願いね。
早苗 「 え?
メゾピアノ 《 どうしたんだねキミ達。
タイガー 「 ワシら師匠に修行中の間は霊力使うこと禁止されとるんジャ。
水樹 「 一度でも使うと今までためてきた霊力がリセットされちゃうから。
  あれぐらいの霊なら メゾピーと早苗姉ちゃんだけでも充分でしょ?
早苗 「 しょうがねえなーわたすにまかせろ。
メゾピアノ 《 フッ 早苗クン 残念ながら僕の力では―――
早苗 「 誰もおめえに期待なんかしてないから安心しろ!
 
そう言うと早苗はカバンからお札を取りだし、悪霊に向かって飛び込んだ!
 
早苗 「 はああああああ! 悪霊退散!!   ―――カッ―――
悪霊 ≪ ソンナ・・・・・・せっかく戻ってきたのに・・・・・・!! ≫
 
悪霊はあっさり吸引された。
実はこの悪霊、以前おキヌの体を乗っ取ろうとしていた霊団のボスで、
美神たちにこっぴどくやられたことがあった。
ほとんどの力を失い、かろうじて元いたこの学校へと戻ってきたのだが・・・
・・・今となってはもうどうでもいいことだろう。
 
バシュウ―――ッ
 
早苗 「 よっし 秒殺だべ♪
水樹 「 さっすが早苗姉ちゃん!
タイガー 「 す・・・すごいノー 一発でしとめた!
メゾピアノ 《 見事だ! ビューティフルだ早苗クン!
 
早苗がタイガー達のところに戻ってくる。
 
タイガー 「 まさか一瞬で倒すとは思わなんだ! さすがおキヌちゃんのお姉さんジャノー!
早苗 「 へへへっ まーな♪
メゾピアノ 《 さすがだ早苗クン 僕の目に狂いはない。
 
メゾピーの目が怪しく光った。
 
 
 
 
 
■翌日の昼休み 3年B組■
 
ぴんほんぱんぽ〜ん
 
≪ 除霊委員のみなさん。 至急音楽室に集合してください。 ≫
 
タイガー 「 早苗サンまた・・・
早苗 「 はあーっ 無視すっとまた何言われるかわかったもんでないからな。 ・・・行くべ。
 
ため息をつき、あきらめの表情の早苗。 だがさらに校内放送が続く。
 
メゾピアノ ≪ 我が除霊委員は、氷室早苗クンの除霊のサポートをしてくれる生徒を募集します。
  学年、性別は問いません。 霊能力がなければ 後ろで応援してくれるだけでかまわない。
  いま入会すれば 早苗クンの特大ポスターをプレゼント!
  なお、入会のお問い合わせは、ビューティフルピアニストティーチャー、
  【ピエール・ザ・ジェントルマン・ミッシング・リトルボーンフイッシュ・
  ガングニール・リップクリーム・パーフェクト・13世・オア・ジュルビエール―――――】 ≫
 
するとタイガーの横にいた、早苗の肩がふるえだし―――
 
早苗 「 あんのバカキザ妖怪・・・・・・!(怒)
 
 
 
■放送室■
 
メゾピアノ ≪ ―――――そうだ、僕の演奏も聞かせてあげようではないか!
  そう 僕と早苗クン 教師と生徒の禁断の愛のシンフォニー!
  あ―――っ はははははははははははははははははははは!! ≫
 
ずごごごごごごごごごごごごごご!!!!!
 
メゾピーの背後には鬼神と化した早苗がいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・数分後、放送室には見るも無残にボロ雑巾と化したメゾピーが横たわっていたという―――
 
 
 

リポート19 『新技』
時は流れ、エミとの約束の期日まであと2日となった、2月27日。
高校3年生のタイガーは、3月1日に卒業式をむかえていた。
 
タイガーはあれからずっと神野神社で修行を続けていた。
そして3ヶ月以上にわたる精神修行によって、過負荷状態となった霊力を開放し、
潜在能力を引き出す時がついにやってきたのだ。
 
■神野神社 本堂前■
 
神野父 「 2人共気を抜くな。 力を引き出せなかったら この数ヶ月は無駄になるものと思え。 ええな!
水樹・タイガー 「「 はいっ!!
 
雪降る中、いつもの迷彩ふくを着たタイガーと巫女の衣装を着た神野水樹は、
竹刀を手にした神野父の前に立っていた。
本堂にはタイガー達を見守る早苗と神野母、そしてなぜかメゾピーもいた。
 
神野父 「 2人共 霊力を開放しろ!
ゴゴゴゴゴゴッ
水樹・タイガー 「「 は―――――っ!!
 
タイガーと水樹の体から、凄まじいまでの霊力が放出される―――
 
メゾピアノ 《 ほうーこれはこれは。
早苗 「 なんて霊力だべ!
 
タイガー 「 こ これがワシの霊力!
神野父 「 ・・・・・・いくぞ!!   ――フッ――    !?
 
バキィ――――――――ッ!!!!  『 グオッ!! 』  ――――ズザ―――ッ!!!!
 
水樹 「 タイガーさん!!
 
神野父の姿が消えたかと思うと、霊気のこもった竹刀で胴に一閃! タイガーを吹き飛ばす!
すると水樹は、手にした榊(さかき)の枝で精神攻撃を行う!
 
水樹 「 永久氷河!!
 
水樹は父に、巨大な氷づけにする幻覚をリアルにみせた!
 
神野父 「 海外に出たこともねえおめえが永久氷河じゃと!?
  テレビ・雑誌で仕入れた程度の情報で この父に勝てると思ったか!! <カッ!>
 
神野父は逆に無数の虫に囲まれた幻覚をみせる!
 
水樹 「「「   い いやあ――――――っ!!!!(泣)
 
 
 
―――タイガーと水樹は神野父と戦った。
2人は得意の精神感応を駆使し、神野父に幻覚をみせるが全くといっていいほど、通用しなかった。
一時的にとはいえ、霊力の増している2人を相手に、余裕の神野父。
そして、2人の体力・霊力が限界に近づいてきた頃、水樹の力が開花する・・・・!
 
 
水樹 ( これが終わったら東京へ・・・みんなのいるところに・・・!  「 えいっ!! 
 
水樹振りかざした榊の枝が光を放ち、その波動が神野父をはじき飛ばした!
 
水樹 「 えっ? これって・・・
 
いまだ榊の枝が光を放っている。
 
神野父 「 そ・・・それぞ神野家に伝わる 榊に神霊が宿る御神体【御霊代(みたましろ)】!
  精神攻撃を主体とする神野家が 対悪霊との戦いに用いた技だ。
  その光を解き放てば どんな悪霊をも撃滅させることができるだろう。
タイガー 「 エミさんの霊体撃滅波みたいなことが出来るってことカイノー。
 
早苗 「 なしてもっと早く教えてやんないべ?
メゾピアノ 《 フッ 自力で習得してこそ価値があるというものさ。
 
神野父 「 さて 残るはおめえだけだ。 このまま終わるか? 3ヶ月の苦労を無駄にすて。
タイガー ( そうジャ ワシはこのために・・・この日の為に頑張ってきたんジャ!
  そう エミさんに認めてもらうため・・・エミさんのお役に立つためにワシは!!
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!
 
タイガーの霊力が、強く握りしめた両コブシに集中され、両手が光りだす!
そして徐々に形づくっていく・・・・!
 
 
タイガー 「 幻覚じゃない・・・これはまるで 横島サンの【栄光の手】(ハンズ・オブ・グローリー)!!
 
タイガーが手をひろげて精神を集中すると、指先1本1本から爪のように
20センチぐらいの霊気の爪が伸びていた。 そして神野父は戦いの構えを解き―――
 
神野父 「 いままで霊力の塊で殴りつけるだけの攻撃しかできんじゃったろーが、精神集中により
  その攻撃力ははるかに増したはずだ。
  その感覚を忘れるな! さすれば精神感応を多用しようと必ずコントロール出来る!
タイガー 「 は、はいっ!!
神野父 「 その技、 【虎の爪】(タイガークロー)と呼ぶがいい!
タイガー 「 ははっ!!
 
神野父に頭を下げるタイガー。
 
早苗 「 やったなタイガークン、水樹ちゃん!
ぱぱらぱ〜♪
メゾピアノ 《 成長した君たちに祝福の曲を贈ろう。
 
水樹に飛びつく早苗とラッパを吹くメゾピー。
 
タイガー 「 ヨッシ! これでエミさんに顔向けできる!!
 
 
 
翌日早朝―――タイガーと水樹は、電車に乗り東京へと向かった。

リポート20 『一文字のライバル』
■東京の道端■
 
水樹 「 ねえ あれ一文字さんじゃない?
タイガー 「 ほんとジャ なにしとるんジャロー?
 
女子寮に向かう途中、一文字と同じ年ぐらいの金髪の女子高校生が言い争っていた―――
 
一文字 「 だからしつこいんだよ!!
金髪の少女 「 なんだとてめえ!!
一文字 「 だいたい中学の時に決着はついてるだろ!
金髪の少女 「 あんなのは無効だ! あんときは悪霊が足を引っぱったからじゃねえか!
一文字 「 バカ! だから私が助けた時点で決着がついてんだろ!!
  いいか 私はもうあの頃の私じゃないんだ。
  GS試験にも合格したし ケンカなんかやってる場合じゃないんだよ。
ムカーッ
金髪の少女 「 な なんだとー!
一文字 「 ―――ったくこれからダチを迎えにいこうと思ってたのに・・・
  あーあ 完全に遅刻じゃんかよー。
 
とそこにタイガーと水樹が一文字に声をかけた。
 
タイガー 「 一文字さんどうしたんカイノー。
一文字 「 タイガー! 水樹も!
水樹 「 ただいまー お久しぶり。
一文字 「 元気そうじゃねーか! いま行こうとしてたところなんだぜ! 修行のほうはばっちりなのか!?
水樹 「 ええ なんとかね。
タイガー 「 まあみててくだされ!
一文字 「 それじゃあみんなも待ってるし 寮に帰ろうぜ。
ピシッ
金髪の少女 「 あ あたいを無視するな―――!!
 
ばしいっ!
タイガーは、一文字になぐりかかった金髪の少女のパンチを片手でうけとめた。
 
金髪の少女 「 !?
タイガー 「 危ないノー。 一文字サンに何をするんジャ。
金髪の少女 「 うっせえんだよ!! <どすっ>
 
金髪の少女のパンチがタイガーのみぞおちに入る・・・がしかし、タイガーはほとんど動じない。
 
タイガー 「 うっ・・・やめてツカーサイ。 おなごがすることじゃないケン。
たじっ
金髪の少女 「 なっ、あたいのパンチを・・・ばけもんかこいつ!
 
すたたたーっ
おぼえてろよ―――! ・・・と月並みなセリフをはきつつ、金髪の少女は去っていった。
 
タイガー 「 何なんじゃ、あのおなごは。
一文字 「 むかしのライバルだよ。
  さっきひさびさに会ってよ、あの頃はよく町のシマを争っていたもんさ。
水樹 「 町のシマって、一文字さんいったい・・・(汗)
 
遠い目をする一文字。 水樹はそれ以上聞かないことにした。

リポート21 『タイガー対六女7人』
女子寮に向かう間、2人は一文字から自分達がいない間におこった出来事を聞いていた。
仙香と春華がGS見習いとして、エミの助手になったこと。
ピートが高校卒業後、唐巣神父のもとを離れ、イギリスに半年間研修にいくことなど。
数ヶ月の間に、皆それぞれの道を歩みだしているんだということを知ったタイガーであった―――
 
■六道女学園女子寮 霊的格闘グラウンド■
 
ここは以前、ネズミのネクロマンサーと戦ったことがあった場所であり、
半径5メートルの特殊な結界魔法陣が常に張られており、このなかではすべての物理攻撃が無効になる。
霊的格闘グラウンドにはすでに多くのギャラリーが集まっており、その中にはエミがいた―――
 
エミ 「 来たわね タイガー。
タイガー 「 エミさん・・・・・・
 
いつもの迷彩霊衣に着替えたタイガーは、エミの事務所復帰をかけて最終試験に挑む!
 
エミ 「 仙香、ここにGS試験合格者は何人いるワケ?
仙香 「 え? えーと かおりがいないから7人です。
エミ 「 いいわ。 その7人魔方陣に入ってもらえる? タイガーの精神感応の相手になってもらうワケ。
 
すると一文字が―――
 
一文字 「 ちょ ちょっとまってくれよ! まさか7人同時を相手にするのか!?
エミ 「 そうよ。 そのかわり これはあくまでタイガーの精神感応の効力と時間を試す試験だから
  あなたたちは攻撃せずにタイガーの幻覚に耐えるだけでいいワケ。
タイガー 「 一文字サン ワシは大丈夫ですケン協力してツカーサイ!
一文字 「 タイガー・・・
 
 
 
GS試験合格者の一文字・仙香・亜美・春華・洋子・小町・昴の7人は
それぞれの霊衣(洋子だけはジャージ姿)に着替えた後、
半径5メートルの結界魔方陣に入り、タイガーを中心に等間隔で円形に囲んだ。
エミは腕を組んで、ルールを説明する。
 
 
エミ 「 ルールは簡単!
  おたくらはただ ひたすらタイガーの精神感応攻撃を耐えるだけ!
  タイガーはひたすら念波を送って 7人全員を気絶もしくは戦意喪失、戦闘できない状態にするか、
  600秒間暴走せずに この7人に幻覚を魅せ続けられるかのどちらかを達成させればいいワケ。
  おたくらも手を抜こうなんて考えないことね。 これはおたくらの訓練もかねてるワケ。
 
すると準備運動で体をほぐしていた洋子達が―――
 
洋子 「 そんなこと言わんでも ウチは本気でやらせてもらうよ。
春華 「 そうね。 でもまあ トラ男なんかに負ける気なんてしないけど。
仙香 「 私も。 資格試験の時よりどれだけパワーアップしたか 試させてもらうわ。
 
彼女達はこの試験を楽しむかのように、やる気満々である。
 
一文字 「 お おまえら・・・(汗)
春華 「 あら? 魔理は本気でやらないつもりなの?
一文字 「 そ それは―――
春華 「 いくら彼のこと心配だからって 甘やかしちゃためにならないわよ。
一文字 「 わ わかってるよ。 ‥‥彼って言うな///
 
後半の方は、顔を少し赤くしながら、ボソッと吐き捨てて言う一文字であった―――
 
エミ 「 それじゃあタイガー 始めなさい!
タイガー 「 ウッス!
 
タイガーは考えた。
以前ここでネズミのネクロマンサーと戦った時は2分弱で暴走・・・
いくら修行したとはいえ、ただ単に幻覚を10分間魅せるだけというのは無謀だろう。
しかし今回は、一文字達が攻撃できないことが条件であり、自分は幻覚攻撃に集中できる。
よって早期決着で一文字達を幻惑させた方が、効果的だという判断をしたタイガーは―――
 
タイガー ( おなごたちを10分間パニックにさせる程度ならこの幻覚で充分ジャ!
 
「「「  幻惑精神感応――――――ッ!!!!!    ―――カッ―――
 
トラ男と化したタイガーは、結界内にいる7人に幻覚を魅せた! その幻覚とは・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
‥‥‥‥かさ
 
 
 
――――――――― !?!?!?!?!?!?!? ―――――――――
 
 
うぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞっ
 
 
――――――――― キャア―――――――――ッ!!!!!!! ―――――――――
 
 
 
一文字たちの足元、周囲一面に、数千数万のクモ・ケムシ・ヒル・ミミズ・ムカデ・ネズミ・ヘビ・ゴキブリ‥‥
おぞましいほどの虫の大群がわさわさしていた。
幻覚だとわかっていても、ほとんどのものが生理的に嫌がらないはずがない。
 
聖羅 「 ・・・いったい何の幻覚をみているのかしら?
水樹 「 う〜〜〜ん 多分私たちが入ってたら 一発で気絶してるようなものだと思うわ。
 
タイガーの幻覚は半径5メートルの結界内にいる7人に絞られ、結界の外にいる彼女達には
何の幻覚を魅せられているのかわからなかった。
すると幻覚を魅せられていた7人のうちの1人、春華が―――
 
春華 「「「   やめんか―――――――――っ!!!!!  <がつんっ☆>
 
タイガーの頭を後ろから思いっきり殴った! タイガーは驚いて幻覚を解くと―――
 
タイガー 「 な なにするんジャ! 攻撃しない約束ジャ―――
春華 「 やかましい! あんな気持ち悪い幻覚見たくないわよ!!
 
ほかの6人も精神的ダメージに違いはあるが、あまり見たいと思う光景ではなかったらしい。
特に仙香においては、顔面蒼白、身をかがめて頭を抑えながら―――
 
仙香 「 ゴキブリ・キライ・・・・ゴキブリ・たくさん・・・・・・
 
よほどショックだったのか、今だ精神汚染が抜けきってないようだ。
 
タイガー 「 はっ! エミさん 今のはなしジャ!
エミ 「 それはいいけどあんた・・・<ちらっ> いまので激しく好感度下がったわね。
 
     「 汚いわよ―――!!
     「 サイテー!!
     「 それでも男―――っ!!
 
どんな幻覚だったかを聞いた、寮生たちのブーイングの嵐。
 
タイガー 「 いいじゃろーがっ!! ワシはどうしても勝たんといかんのジャ―――!!
 
一文字 「 ・・・さすがに今のはなあ〜(汗)
タイガー 「 ! 一文字サンまで!?
洋子 「 でもやりかたとしちゃ いいとこついてるんやない?
 
その言葉を聞いたエミは―――
 
エミ 「 そうね。 相手の苦手なものを魅せて幻惑させる・・・これも立派な精神感応者の戦い方よ。
  でもね 相手が幻覚だとわかっている時点で 精神汚染効果はすでに半減しているワケ。
  資格試験を合格した娘なら すぐに落ちつきを取り戻しているわ。 1人の例外を除いてね。
 
エミの視線の先には、水樹に肩を支えられて怯えている仙香の姿があった―――
 
水樹 「 エミさん! 仙香の精神汚染抜けるまで時間がかかりそうですー!
仙香 「 ゴキブリ・キライ・・・・ゴキブリ・仲間・・・・・・
聖羅 「 もし資格試験のときに魅せられていたら仙香さん、タイガーさんに負けてたかもしれませんわね・・・
 
エミ 「 それが幻覚だとわかってる上で相手を幻惑させるためには、
  相手が何に対して最も恐怖を抱いているのか 何に動揺するのか・・・それを瞬時に読み取り
  相手が一番見たくないものを魅せるワケ。 対悪霊にもこれは重要なことよ。
タイガー 「 は はあ・・・
エミ 「 それじゃあもう一度やり直し! みんなもとの位置に戻って!
 
 
再びタイガーは結界の中央へ、そしてその周囲を6人の試験合格者が囲んだ。(仙香はリタイア)
 
 
タイガー ( じゃが相手の苦手なものって・・・
エミ 「 タイガー 早くはじめなさい!
タイガー 「 あ はいっ! 仕方ない・・・とりあえず!  ―――カッ―――
 
タイガーは再びトラ男と化すと、一文字たちにジャングルの幻覚を魅せると、茂みの中から
6体の【ジャングルの邪精霊】が姿を現し、爪で攻撃を仕掛けさせた!
 
小町 「 正攻法で来たか!
洋子 「 そうこないと面白ないな!
春華 「 イー・アル 出ておいで! 『『 キィ―――ッ!! 』』
 
一文字=木刀、春華=キョンシー2鬼、洋子=神通棍、小町=扇、昴・亜美=素手で応戦する!
だが相手は幻覚。 斬っても殴り倒しても再び復活するのでキリがない。
しかし、それを魅せるのはタイガー1人。
6人を相手に、6体の邪精霊の細かな動きまでコントロールできるわけはずもなく、一文字達に
邪精霊の攻撃は一度もヒットしなかった。
このままでは、自分のほうが先に限界が来ること、タイガーはすぐに感じとった。
 
タイガー ( イカン・・・このままじゃ倒すことも10分持たすこともできん!
  相手の心が読めるほどの強力な精神感応者なら、深層心理に触れてその幻を魅せればいいことなんじゃが、
  仮に読み取れたとしても プライベートに関わることじゃからノー、そこまでしとうはない・・・
  なんにせよ、やっぱり1人ずつ集中して幻惑させるしか・・・でもどうすれば・・・・・・
 
タイガーは一文字達を1人ずつ見回した。
 
タイガー ( 一文字サンと洋子サンにはよくしてもらっとるが、苦手なものって知らんしー
  桂木(春華)サンは怖いものなんてあるんじゃろーか?
  ほかの3人のおなごはほとんど口きいたことないし・・・・・・ハッ!
 
タイガーは、視線を仮面の少女・昴(すばる)に合わせた。
 
タイガー ( そういえば、ワシこのおなごの顔一度も見たことない・・・試す価値はある!
 
するとタイガーは、昴に新しい幻覚を魅せた! 以下昴視点。
 
 
 
 
 
『 ・・・・・・なんだ 急に真っ暗に!? これも幻覚だな! 
 
すると昴の周りに、目元が陰ってて見えない数百数千の子供が現れ、口々に―――
 
《 仮面を取って・・・ 《 顔を見せて・・・ 《 見せてよ素顔を・・・
 
と言う。 そして何人かの子供がすばるの足にまとわりつき、頭の位置を下げようとしてきた・・・
 
『 な なにするんだ! やめろ!
 
昴にまとわりつく子供の数は増えていき、やがて昴はひざをついてしまう。
そして少年らしき子がクスクス笑いながら、昴の仮面にすっと手をかけて―――
 
《 見せてよ・・・素顔を・・・
『 やめろぉおおおおっ!!!!! 仮面をとるなああああああっ!!!!!
 
 
 
 
―――現実世界。 昴は仮面を押さえながら地面に伏せて苦悩していた。
 
タイガー 「 ヨッシ これで10分は精神汚染抜けんジャロ! 次は・・・!
 
タイガー以外、彼女がどんな幻覚を見ていたのかはわからなかったが、仙香と同じように
最も見たくないものを魅せられたんだということは理解できていた。
そして次にタイガーは、着物姿の小町に目を向けた。 以下小町視点。
 
 
 
 
 
小町 『 ど どこだここは? なんで鎖が―――てゆーかなんでピンク!?(汗)
 
小町は保健室のベットの上で、下着姿のまま両手両足を鎖で繋がれていた。
するとそこに、六道女学院の女生徒が5・6人入ってきて―――
 
小町 『 おまえら・・・!
《 センパーイ 私たちの愛 どうして受けとってくれなかったんですかー?
《 センパイのこと こんなに愛しているのにー
小町 『 愛って・・・おまえら女だろっ! ・・・てお前何してる!?///
 
1人の女生徒が小町のブラの上から触ってきた。
 
《 フフフ・・・愛に男も女も関係ないのよ・・・
《 愛しているのは 小町センパイだけ・・・
《 小町センパイ・・・スキです・・・
 
ほかの彼女達も小町の体にまとわりついてきた。 そしてブラのホックをはずし・・・
 
小町 『 やめろっ! 私は女だっ! だいたいなんなんだこのシチュエーションは!!!!!
 
 
 
 
 
―――現実世界。 小町は地面で悶えていた。
乱れた着物姿に、また何人かの同級生が魅了されたことをここに付け加えておこう。
小町が下級生に人気があるということは、一文字や洋子から聞いていたのである。
トラ顔のままでありながら、顔を真っ赤にしている様子を見たギャラリーは―――
 
水樹 「 タイガーさん がんばってるね。 これでA組の2人が落ちたみたい。
聖羅 「 ええ あの顔かなり力が入っているようですわ。
エミ ( ・・・あのバカ またなんかヘンなこと考えてるわね。(汗)
 
呆れた顔をしたエミだけは、真意をついていた。
 
タイガー 「 ハアッ ハアッ・・・(ドキドキ) あと4人!! じゃが・・・
 
邪精霊の攻撃をかわし続けてる一文字・亜美・春華・洋子―――
この4人を幻惑させるほど、コンプレックスに感じているものをタイガーは知らない。
幻惑開始から2分半・・・すでにタイガーの精神にも限界が近づいていた―――
 
タイガー ( どうする・・・どうすれば・・・!
 
ゾゾッ・・・タイガーの必死の気配に、一瞬ビクッとする獣化能力者亜美。
それを見たタイガーは、恐怖感だけでも幻惑できるのではと思い―――
 
タイガー ( とにかく恐ろしいもの・・・角が生えていて翼がある、強力な殺気を放つ魔物・・・
 
邪精霊の幻覚を消し、代わりに自分がイメージできる限りの殺気を放つ魔物を想像して魅せた。
 
一文字 ( くっ・・・恐怖感が伝わってくる!
春華 ( そんな見せ掛けの恐怖に負けるもんですか・・・!
 
恐怖感に耐える一文字と春華。
亜美はタイガーの思惑通り、恐怖感にすくんでいたが―――
 
ドックン・・・
洋子 「 ・・・いや・・・ うちを見るな・・・・・・
 
真っ暗闇の中、心臓の鼓動だけが聞こえてくる。
その魔物、洋子と視線を合わせたまま、じっと睨み続けていると―――
 
 
 
 
 
洋子 「「「  いやあああああああああああっ!!!!!!!
 
 
 
 
 
洋子は突然、悲鳴と共にその場に倒れた。
タイガーはもちろん、初めて聞く洋子の悲鳴に驚く寮生たちであったが、タイガー自身、
今ここで中断させるわけにもいかず、このまま幻惑を続けた―――
 
タイガー ( あとは一文字サンと桂木サンの2人! じゃがもう精神汚染させてるような時間はないし、
  邪精霊での攻撃なら 2人ぐらいいけるかもしれんが、タイムオーバーの可能性が高い!
  ここは一気に勝負をつける!!
 
そしてタイガーが魅せた最後の幻覚は―――
 
グラヴィトン ≪ うふふふふふ♪ 重力増加♪
 
ぐぐぐぐぐぐぐぐっ
一文字 「 ! からだが重いっ! なんだコイツは!?
春華 「 エミさんに聞いたことがある・・・フンドシ姿のデブで一つ目、この悪魔は・・・
 
【悪魔グラヴィトン】・・・かつて美神に重力の呪いをかけたことのある、古代フトール帝国の魔神。
 
タイガー ( スマン2人共! 沈んでクレ・・・!!
 
ずごごごごごごごごごごごごっ
幻覚だとわかっていても、タイガーの精神感応力はやはり並ではない。
その力、重さに変換され、更に重力が増していく! 一文字は苦痛で顔をゆがめながら―――
 
一文字 ( くっ・・・さすがにもう立ちつづけられない!
春華 「 ・・・魔理。
 
一文字がひざをつきそうになった時、いっしょに重力攻撃に耐えてる春華が声をかけてきた。
 
春華 「 その程度の根性でよく試験に合格できたわよね。 それともお情けでギブアップしてあげるつもり?
一文字 「 そんなこと―――
春華 「 私は負けないわよ。 あんなトラ男なんかに・・・負けはしない!!
一文字 「 ・・・・・・!
 
苦しい表情はなるべく隠そうとしていた春華であったが、雰囲気的に一文字より辛そうに見える。
一文字は情けでギブアップしようとしていたことを、わずかながら考えていたのかもしれない。
 
一文字 ( 私も・・・もう少し耐えてみせる!
 
タイガー対一文字・春華。 その気力勝負は、そう長くは続かなかった―――
 
タイガー ( くっ・・・もう限界ジャ 頭が真っ白に・・・!
 
 
 
フッ・・・ タイガーの意識が遠のいたその時、エミはマダラ模様の笛を取りだして吹いた!
 
 
ピュルルルルルルルルルルルルルルルッ
エミ      <  虎よ! 虎よ! ぬばたまの夜に燦爛と燃えて―――  >
 
タイガー 「 グルウ――ッ・・・
 
人獣化が解け、タイガーはひざをついた。
 
タイガー 「 ・・・・・・エ エミさん 結果は!
 
エミがあごをやった先には、重力攻撃に耐えぬいた一文字と春華が立っていた―――
 
 
 

リポート22 『タイガーとエミ』
時計を見るエミ。
 
エミ 「 3分47秒。 結局半分も達成できなかったワケ。
  残念だけど 今日限りでうちの事務所を正式に辞めてもらうわ。
タイガー 「 ま まってクレ エミさん! もういちど・・・もういちどだけチャンスを!
 
エミは契約書の紙を取りだすと、鎌を持ち、フードをかぶった目つきの怪しいモノが出現する!
 
契約の神 ≪ はあーっ 私は契約の神【エンゲージ】なるぞぞお!!
  はーっ けけ契約は絶対いいいいいっ!! そむく者には死と地獄ううううううっ!!!!!
 
うるっ
タイガー 「 エ エミさん・・・・・・・・・・・・ぐ・・・
  ぐおおおお――――――んっ!!!!!
  イヤジャアアアア―――ッ!!!!!  わ わっし がんばったじゃろ―――!!!!!
  この半年間 エミさんの期待にそえるべく いっしょけんめにやったのに!!!
  わっしを 見捨てんでクレ――――――!!! エミさん!! なあなあ!!
 
タイガーは、顔中から液体をたれながしてエミの足にすがりついた。
そしてエミの顔を見上げているが、エミは何も言わない。
 
一文字 「 やめねえかタイガー!! それじゃあ半年前となんも変わんねえじゃねーか!!
 
一文字が答える。 一方で、一部の寮生たちがクスクスと笑いだす。
 
「 なにあれ。
「 バカみたい!
「 エミ様に触んないでよ!
「 サイテー!
 
一文字 「 おめえらいい加減に―――
春華 「 静かにしなさい!!!!!
 
 
 
し――――――ん
 
 
 
一文字 「 春華・・・・
春華 「 ・・・・・・・・・・
 
春華は一文字の言葉をかぶせるように言い、その場を静めた。
 
タイガー 「 エミさん なあ わっしはエミさんに助けられて以来 毎日が楽しかったですジャ。
 
  エミさんがわっしをひろってくれなんだら 
 
  わっしは今でも女性恐怖症のままでトモダチもおらんかった !!
 
  横島サンやピートサン 愛子サンや雪之丞サン メゾピーや早苗サン
 
  ここにおる六女のみんなとも出会えんかった !!
 
  エミさんに恩返ししたくても わっしには才能もないし なんも役にたてんかった !!
 
  試験に2度も落ちたせいで 事務所の評判も悪くなったのはわかっとります !!
 
  女子寮の修行も 神野神社での修行も
 
  エミさんの要求どおりのことができんかったこともわかっとります !!
 
 
  それでも・・・・・・
 
 
  それでも・・・・・・・・・・・・
 
 
  それでもわっしは・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
エミさんのことが すぅきなんジャアアアアアアア!!!!!!!
 
 
 
―――――!!!!!―――――  
 
 
 
タイガー 「 じゃから じゃからきっといつか強いオトコになりますケエ
 
  タダ働きでもいいケン! 丁稚でもいいケン!
 
  わっしを わっしを事務所においてください!!  お願いします!!
 
一文字 「 タイガー おめえ・・・・・・
 
土下座してエミに頼みこむタイガー。 しばらく沈黙が続いた後、エミの口が開く。
 
エミ 「 タイガー。
タイガー 「 は はいっ!!
エミ 「 私もあんたのこと嫌いじゃないわ。 むしろ好きよ。
タイガー 「 エミさん!!
エミ 「 でもね、このままじゃだめなのよ。
タイガー 「 えっ!?
エミ 「 私はあんたの能力を最初から高くかってたわ。
  この私がわざわざ外国までいって、資格すらとってない高校生をスカウトしたのよ。
  それこそあんたより腕のいいGSなんてくさるほどいるのにね。 どうしてだと思う?
タイガー 「 ?
エミ 「 “素質”と“根性”“可能性”よ。
  私は誰よりも あんたが成長してくれるものだと信じていたワケ。
  でも横島がどんどん成長していくに対して あんたは差をつけられる一方だった。
  そこで私は考えた。 2度目のGS試験に落ちたらあんたを追い出そうと。
タイガー 「 エ エミさぁん!!
エミ 「 話は最後まで聞きなさい!
  その横島があれだけ強くなれたのは あいつなりに逆境に追いこめられたからなのよ。
  そしてあいつはその度に乗り越えてきた・・・・・・
  それで私は無茶な課題をあんたに押しつけ、精神的にも肉体的にもギリギリまで追い詰め、
  あんたがそれを乗り越えてくれることを信じていたわ。
 
  ・・・・・・・・・・・・そして私の目に狂いはなかった。
 
  あんたは間違いなく成長したわ。 よくあれだけ多種の幻覚攻撃を持続できたわね。
  相手が最も見たくないものを魅せ 相手を混乱させる・・・
  普通の悪霊退治や対戦試合にも充分応用できるはずよ。
  あんたならいずれ、世界でも指折りの精神感応能力者として 活躍することもできるワケ。
 
ざわざわっ
エミの言葉を聞いた寮生たちは、騒然とする。
その中で、うずくまってるタイガーの肩にエミは手を乗せると―――
 
 
 
 
 
エミ 「 だからあんたは 今年のGS試験に合格したら 自分で事務所を持ちなさい。
 
 
 
 
 
タイガー 「 え? ・・・・・・事務所!?
エミ 「 そう タイガー寅吉除霊事務所よ。
タイガー 「 そ そんな! ワシは―――
エミ 「 おだまり! おたくはいつまでもそうやって オンナの私の下で働く気?
  オトコなら自分の城ぐらい持ちなさい!
タイガー 「 ワシが事務所・・・
エミ 「 自信を持ちなさい! あんたはこの私がはじめて認める最初の弟子なんだから!
タイガー 「 わ・・・わかった! わっしは今年こそ試験を合格して 自分の事務所を建ててみせますジャ!!
エミ 「 その意気よ。
 
 
 
タイガーとエミのやりとりをずっと見ていた一文字は、地面でへばっている春華に近づき―――
 
一文字 「 さっきのおめえの一喝 かっこよかったぜ。 それにナイス根性♪
春華は黙ったまま顔をそむけた。 そんな彼女に一文字は手を差し伸べて―――
 
一文字 「 立てるか?
春華 「 ・・・フン 当たり前じゃない。 この私がトラ男の幻覚なんかに―――ああっ!!
 
どさっ!
重力攻撃による精神汚染がまだ抜けきってないせいか、まだまともに立つことができない春華であった。
 
一文字 「 あはは♪ ムリすんなって!
春華 「 うっさいわねー!!///
 
 
 
エミ 「 ―――それであんたは今後どうする気なワケ?
タイガー 「 とりあえず明日 神御呂地高校で卒業式に出ようと思うとるんじゃが。
エミ 「 そう・・・なんなら妙神山の小竜姫の所にでも案内してあげるけど。
タイガー 「 いや どうせ修行するなら神野神社でやり直したい。 今一度基本から鍛えなおしたいんジャ!!
エミ 「 そ がんばってね。
タイガー 「 はいっ!!
 
そこでエミは、タイガーの耳に顔をよせると―――
 
エミ 『 それにしてもあんた 意外とモテてるのね。 あんたのこと好きそうな子結構いるじゃない。
タイガー 「 だ 誰ですジャ!? そないなおなごは!?
エミ 「 あら 嬉しそうね。 もうそっちのほうに乗りかえる気なワケ?
タイガー 「 あ、あ、い、いや、それはーそのー!!
エミ 「 いいわよ別に。 それに私は―――
 
 
―――とそこに、ピートと横島、おキヌがやってきた。
 
 
おキヌ 「 遅れてすみませーん! あれ? もう終わったんですか?
横島 「 うが〜〜〜っ! じょおすぃりょ〜〜〜!!!!! わおんわおんわお〜〜〜んっ!
 
犬のように女子寮生に向かっていく横島犬。 一文字はおキヌに話しかける。
 
一文字 「 なんであいつ(横島)を呼んだんだ?
おキヌ 「 だ だってー もとクラスメートだし、久しぶりに会う友達だから・・・・・・
一文字 「 あれが友達に会いにきた奴か?
 
横島      「 ねえねえカ〜ノジョ! デートしない!?
横島      「 あ キミカワイイねー。
横島      「 そこの君 電話番号教えてよー!!
 
次々とナンパする横島。
 
おキヌ 「 ・・・あう〜〜〜
一文字 「 おキヌちゃんもまだまだあまいな。
 
 
一方でエミは、ピートのもとに飛び込んだ。
 
エミ 「 ピィートォ〜〜〜 !! <だきっ☆>
ピート 「 ちょ ちょっと エミさん!?///
エミ 「 ピィートォ! これからどこかにいきましょうよ!
ピート 「 は 離してくださいよー! 皆さんがみてるじゃないですかー!
エミ 「 あら私は平気よ。 デジャヴーランドに行きましょ!! それがいいわ!!
ピート 「 エ エミさん 僕まだタイガーと話ししてないし・・・!
 
ピートをひっぱるエミの足が止まり、振り返って手を振った。
 
エミ 「 タイガー!! わたしはピートを愛してるのー!!
  あなたの期待にはこたえられないワケー!!
  だからあきらめて他の子でも探しなさ―――い!!
 
そう言うとエミは無理矢理ピートを引っぱっていき、寮を出てしまった。
寮生達はあっけにとられ、タイガーは涙を滝のように流していた。
そんなタイガーに、一文字は慰めの言葉をかけようと近づこうとした時―――
 
ずざっ・・・
仙香 「 タイガー。
 
タイガーの背後に、精神汚染が抜けたばかりの仙香・昴・小町が睨んでいた―――
 
ずごごごごごごごごごご!!!!!
仙香 「 よくもあんなゴキブリだらけの幻覚をみせてくれたわね・・・
「 私の仮面を・・・!
小町 「 私の…を・・・/// きさまそれでも男か―――っ!!!!!
 
タイガー 「「「   ふぎゃああああああああああっ!!!!!!!
 
どかばきぼこぐしゃっ!!!!
失恋の傷も癒えぬうちに、肉体的にも痛めつけられるタイガー。
一文字も、ここまで怒らせる幻覚を魅せられた、彼女らの心情を察すると何もいえなかった・・・
 
聖羅 「 ・・・大丈夫ですか洋子さん。
洋子 「 ああ・・・なんとかな。
 
同じく精神汚染され、地面に座り込んでいた洋子に、同じクラスの聖羅が声をかけていた。
 
聖羅 「 でも驚きましたわ。 最初のムシの大群を魅せられた時は一番動揺してなかった洋子さんが、
  あんな悲鳴をあげるような恐ろしい幻覚って・・・
洋子 「 ちょっとな それより・・・
 
洋子は仙香たちにシバかれているタイガーを見ると―――
 
洋子 「 何で寅吉ボコられとるん?
聖羅 「 さあ・・・(汗)
 
 
 
 
 
 
 
横島 「 そこのカ〜ノジョ! お茶しない?
おキヌ 「 横島さん!! いい加減にしてください!!
 
横島を呼んでしまったことを後悔するおキヌであった。
 
 
 

リポート23 『卒業式』
タイガーと水樹は神野神社に日帰りし、翌朝、神御呂地高校の卒業式に出席した。
山あいのため、雪はまだ溶けずに残っている―――
 
    〜〜〜〜〜 ほ〜たあ〜るの〜 ひ〜か〜あり〜い ♪ 〜〜〜〜〜
 
メゾピーのピアノに合わせて、タイガー・早苗達3年生が歌う。
 
 
■卒業式後の教室■
 
早苗 「 あーあ これで長かった学校生活も終わりだべかー。
タイガー 「 横島さん達も今頃卒業式やってる頃カイノー。
早苗 「 あの男卒業できたんだべか?
タイガー 「 そうじゃが・・・・・・なんかイヤそうじゃの。
早苗 「 べぇつにー。
 
早苗は話題を変えた。
 
早苗 「 大体のことは水樹ちゃんに聞いたけど、あんたまたここで修行するんか?
タイガー 「 ああ 昨日の夜 神野師匠に頼んだ。
  GS資格試験の日まで 住み込みで修行させてくれるような!
早苗 「 そっかー・・・そういえば水樹ちゃんも東京に戻らんとこっちにおるようじゃない。
タイガー 「 やっぱ親子じゃし 一緒に修行したいんじゃろノー。
早苗 「 ・・・・・・
( ・・・あの子中学の時から、あんなに東京の学校さ行きたがってたのに。
  なのに『東京でかっこいいカレシ連れて帰ってくるべ!』とか言いながら、
  こんなの連れて帰ってくるし。
 
タイガーは窓の外を見ていた。
 
タイガー 「 あー また雪が降りだしたノー。
早苗 ( にぶそだしな、こいつ。
 
ぷぽぽん♪ ぺぽぽん♪ ぷっぽこぽっぽっぽ――ん♪
 
早苗 「 うっ!? この音は!!
がらがらっ
メゾピアノ 《 ま〜〜い しぃすた―――早苗クン!! 卒業するキミに最後の曲を贈らせてもらうよ♪
 
扉を勢いよく開けるメゾピー。
しかし教室には早苗とタイガーの姿はなく、数人の卒業生が残っており、
ただ、開いたままの窓から雪が吹雪いていた。
 
メゾピアノ 《 あら? 早苗クンは?
男子生徒 「 窓から帰りましたよ。
 
 
  すたたた〜〜〜っ☆
  タイガー     「 早苗さんまってクレ〜!
  早苗     「 卒業式まであいつの曲を聴いてられっか!!
 
 
メゾピアノ 《 ん―――なぜだ!?
  なぜわかってくれない早苗クン! 僕は日々こんなに成長してるというのに!
  キミを嫌がらせることにこんなに喜びを感じているのに!!
男子生徒 「 やっぱからかってたんだべ。(汗)
男子生徒 「 これって“すとーか”じゃねえべか?
メゾピアノ 《 予言するよ 早苗クン。 いつかキミと僕が運命の出会いをすることを。
  それまでに僕は自分の音をみがいているよ!! あははははははははははははは!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
早苗 「「「   いや――――――っ!!!!!
 
タイガー 「 さ 早苗サン! いきなり耳をおさえてどうしたんジャ!?
早苗 「 わたすの霊媒地獄耳体質の力で奴の声が―――!!!!!
 
 
―――こうして、タイガーと早苗は無事? 高校を卒業した。
 
・・・そして時は流れ、半年が経過する―――
 
第4節・完

※この作品は、ヴァージニアさんによる C-WWW への投稿作品です。
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