「あははは。ヨコシマ、おっかし〜」
「そんなに変か? フツーだと思うが……」
「え〜? おっかしいけどな〜。それとも、アタシがそう思うだけで、本当はフツーなの?」
「う〜ん……フツーではないかもしれん」
「わかんないの?」
「わからん」
「なにそれ? おっかし〜」
きゃははと、闇色の少女―――ほたるは笑った。腹を抱えて、心底おかしそうな笑い声を上げる。
とくにおかしな事はない。ただ、横島が自分が変かどうかがわからなかった、それだけだ。
だが、ほたるにとっては面白い。ほたるにとってはすべてが面白い。今まで自身を持たなかったほたるには、身体を持たなかったほたるには、見て、聞いて、話すことすべてが面白い。
そんなことで喜びを感じられる少女を、横島は愛しく、同時に哀しく思った。
こんななんでもないことで、こんな普通のことで幸せそうに笑えるほたる。それは今までがどれだけ無味乾燥な生だったかを暗に示している。
「……なぁ、ほたる」
「なに、ヨコシマ?」
「……別に。呼んでみただけだ」
「なにそれ? おっかし〜」
きゃははと、ほたるは笑う。幸せそうに笑う。
「ほたる」
「なぁに?」
「……なんでもない」
「も〜。また〜?」
ほたるは苦笑したあと、嬉しそうに、幸せそうに。
「……えへへ♪」
横島の膝に、頭を乗せた。
「ほたる?」
「ん〜?」
「どうしたんだ?」
「ん〜? なんでもな〜い」
「そっか……」
「………ヨコシマ〜」
「なんだ、ほたる?」
「……もっかい」
「は?」
「もう一回、呼んで。ほたるって、呼んで」
「……ほたる」
「もう一回」
「ほたる」
「もう一回」
「ほたる」
「もういっか」
なおも呼びかけを欲するほたるの頭を、ヨコシマの手の平が撫でる。
「ほたる、ほたる、ほたる」
「………もっと」
名前を呼ぶ声から感じる愛しさに、手の平から伝わる心地よさに、ほたるはさらにそれを求める。
「ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる」
「もっと」
「ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる」
「もっと♪」
「ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる、ほたる」
「もっと〜♪」
心の奥底、魂の髄から幸せそうなほたる。そんな彼女を横島は愛しく思い、その名を呼びつづけた。
白く、光に包まれた空間。
闇より産まれた少女は、闇を払った少年の腕の中で、心地よい眠りについていた。
※この作品は、桜華さんによる C-WWW への投稿作品です。
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