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織田信長〜歴史に学ぶリーダーの条件!(インチキビジネス書系挨拶)
そんな訳で、ついにサンデーで椎名先生の新連載が始まりました。尾張が生んだ味噌カツと並ぶ特産物・織田信長と愉快な仲間達のおもしろおかしな戦国時代の生き様を描いた、「MISTER ジパング」というマンガです。
それでこの前サンデーに掲載された第一話は、日頃から「椎名高志マンガの肝はガキとオヤジである」と主張している私としては、とりあえず歴史に名高いイカすオヤジ・斎藤道三の三段ブチ抜き+仁王立ちショットが出てきていたり、竹千代(=家康)がヒストリカル無視のボケ担当の関西風マセガキだったりしたので、ンもうそれだけで大満足だったのですが、でも斯様にオヤジやガキキャラ見て喜んでいるような奴がこの世の中にどれほどいるかと申せば、圧倒的に数が少ないのは必至であります。
というか、斯様にオレ的主観のレアな意見ばっかり取り上げていては、本来世間一般のマンガ読者の素朴な意見を汲み上げて紹介して「その時、椎名高志氏のマンガがどう読者に受け入れられ、読まれていたのか」をライブで記録するのがこのサイトの存在理由であり使命なのだ! そういう時代をオレ達は生きた! というカッコ良い趣旨で作られたこのページの運営方針に反する訳であり、あんまり個人的な主観でオヤジオヤジガキオヤジと書き連ねていたんじゃ、ファンサイトの名折れであります。
と深く反省したので、今回は私周辺の人とかネットやチャットで聞かれた「MISTER ジパング」に対する素朴なご意見ご感想のいくつかをここで紹介してみよう、という方針でつかまつりたい所存です。
私の知り合いの何気ない言葉。「ちょっと嬉しい」という辺り、素朴な喜びに溢れていて良いですね。胸に染みました。
本来、マンガの新連載ってのは、「ちょっと嬉しい」って言葉に象徴されるように、「日々の生活にちょっとした潤いをもたらすものが増えて嬉しいな〜」程度に捉えるべきものなのだ、と思いました。日頃オタクっぽく掲示板やチャットでマンガに関してギャーギャー言ってる我々も、初めてマンガの面白さを感じた時のような、こんな素直な感性をもう一度思い出すべきではないのでしょうか。
もっとも、この知り合いは、その後「で、サンデーで次に終わるマンガは何だと思います? 『デビデビ』と『烈火』って、かなりヤバイですよねー」と、マンガオタク的な話題を自ら振り、全てを台無しにしてしまいましたが。ホント、いい年してサンデー読んでる奴って、こんなのばっかりなのな!(結局)
そこかしこで見られる感想。これを筆頭に、「信長は美神に似ている」「日吉は横島に似ている」「主役三人のポジションが『GS美神』のソレに似ている」等、「MISTER ジパング」と「GS美神」との類似性を指摘する意見は多いです。
まず帰蝶姫とルシオラの類似性ですが、確かに容姿はそれとなく似ていますね。髪型はともかくとして、目の上の睫毛が隈みたいになっているところまで似ています。……が、まぁこれは「意図的に似せた」というよりも、「椎名氏の絵柄であの手の女性キャラを描くと、結局ああなってしまうのだ」と取るべきでしょう。
今回、帰蝶姫はガンアクション映画によくある「トリガーを引くよりも早く激鉄に指を突っ込む」シーンをパロったアクションを行って、その度胸の良さと勝ち気っぷりを提示することに成功しましたが、そんな彼女にルシオラ顔のテクスチャをマッピングした(間違った表現)という事は、「椎名マンガでは、ああいう顔は勝ち気で活発な女性に割り当てられる」という記号化ができつつあるのかも知れませんね。
この分だと、おそらく帰蝶姫は乳もルシオラと同じく小さめでしょう。良かったですね(誰が?)。
あと、キャラのポジショニングの類似性に関しても、「信長は美神に似ている」のは立場がヒーローキャラであり、「日吉は横島に似ている」のは立場が読者からの視点キャラなのだから、似ているのは当然といえば当然である、という事で説明は付くと思われます。ヒーロー・ヒロイン・視点キャラ(専門用語で言うところの「メガネ君」)は少年マンガにおける基本要素であるので、同じ作者が似たようなポジションに立つキャラを作れば、まぁどーしても似てきてしまうってのは致し方ない事なのでしょう。多分。
個人的には、むしろ初期の「GS美神」には存在しなかったポジションにいる「ライバル」明智十兵衛光秀、および「トリックスター」竹千代の二人をこれからどう運用していくのか? という点に興味がありますね。特に竹千代については、もはや歴史上の家康とは似ても似つかないお笑いキャラに変化していますが、これは逆に言えば竹千代は「このマンガは歴史に囚われない」という作者の精神の象徴であるとも取ることができます。
このマンガが目指しているのはおそらく普通の「歴史のパロディマンガ」ではなく、「歴史を椎名ワールドに取り込んだマンガ」だと思われますが、そういう意味でもまったくの椎名オリジナルである竹千代の存在は、このマンガのポリシー的には重要なのではないのでしょうか。
我々としては、「GS美神」のフィルターを通して「MISTER ジパング」を読むのではなく、あくまで別の独立した新しい作品として、先入観なしで「MISTER ジパング」を読む、気持ちの切り替えが必要だと思います。そうじゃないとわざわざ作者が「GS美神」というドル箱マンガをあえて終了させてまで新作を作った意味がありません。
でも、きっと信長の妹の「お市」は美神令子の幼児時代みたいなキャラで、日吉の将来の嫁さんになる「ねね」はおキヌちゃんみたいになるんじゃないかと思います(結局)。
椎名氏は欄外のコメントでこの作品は『歴史物語』ではなく『歴史パロディー』です
と言ってはいますが、あくまで「MISTER ジパング」は歴史に登場するキャラを使った歴史マンガに分類されることは間違いないので、ある程度はヒストリカルに話を進めるのではないかと思われます。
そこで気になるのが、「このマンガは、歴史のどの部分まで話を進めるつもりなのか?」という点でしょう。「MISTER ジパング」を読んだ人なら、誰もがこのことを考えると思います。
第一話では、早くも信長と光秀の間に帰蝶姫を巡る確執が起こりそうな話の流れになっていますが、信長最大のクライマックスと言ったら、何と言っても信長が光秀に討たれる「本能寺の変」で決まりです。信長を出したからには、お約束として「本能寺の変」はやらなければいけないネタの一つなのです。信長の死に様が今から楽しみでなりません(ドクロ)。
また、そこに至るまでの間には、信長の家督の相続と尾張統一、信長を一気にメジャーにした桶狭間の戦い、秀吉の一夜城のエピソードで有名な美濃攻略、反信長を大名に呼びかけた将軍・足利義昭との争い、京への上洛と畿内平定、同盟関係にあった浅井氏との対立、西進を始めた武田信玄との戦い、一向一揆との死闘と、ネタにするに十分なエピソードが詰まっており、これらを消化するだけでも十分面白い戦記物マンガを構築することが可能です。
ただ、これらの戦記モノをやる上で大きな障害となり得るのが、「マンガの中で時間が流れるので、キャラが物理的に成長してしまう」という点です。前作「GS美神」では、季節は変わるけど時間そのものは流れず、キャラクターもまったく成長しないという、いわゆる「サザエ時間」が採用されていましたけど、今回のように時間が流れるマンガではこの手は通用しません。戦国時代は少年マンガの題材としては優れていますが、「同じキャラで延々とエピソードを積み重ねていく」という典型的な長編マンガ作成技法とは相容れないものなのです。
もし、今のおじゃる丸みたいな格好した竹千代がそのまま家康となり、ヤングな信長と一緒にオヤジキャラの武田信玄と戦うようなストーリーになったら、いくら何でも「歴史マンガ」じゃなくなってしまいます。椎名氏ならやりかねないってのが怖いのですが(笑)。
ですので、多分しばらくの間は今の年代設定のまま、普通のマンガのようにエピソードを積み重ねていく手法を取るのではないか? という気がします。
とりあえず、このマンガは当面は「信長と帰蝶姫との関係を軸に、信長と弟・信行、および道三と嫡男義龍の間の内部抗争を経て帰蝶姫との結婚に至る」までの1548年〜1553年頃を扱う事になるのではないのでしょうか。この頃ならまだ日吉(秀吉)は歴史上にはほとんど登場していませんのでオリジナルのエピソードを作ることも可能ですし、扱う期間も割と短いのでキャラの成長とかもそんなに気にせずに済みます。それでも竹千代の問題は完全にはクリアされませんが、でもまぁマンガだしな(禁句)。
それより何より、「帰蝶姫を巡って信長と光秀が争う」という少年マンガ的なラブコメ展開をやってもまったく無理が生じないのが大きく(当時、光秀は帰蝶姫と結婚して道三の後継者になることを目指しており、それ故この婚約を破棄しようと画策した――という話もあるらしい)、笑いあり戦いありラブコメありなマンガにするにはオールオッケーな舞台が揃っているのです。おそらく、この時代までは確実にストーリーを進めるでしょう。
で、これが終わった時点で評判が良ければ、話を十数年後に移してキャラを一新、道三の死後、信長が美濃攻めを行って秀吉が数々の手柄を立てる辺りから話が始める「MISTER ジパング第二部・熱闘編」をリニューアルスタート! 戦国マンガの醍醐味である、前述の信長戦国バトルもマンガの中で存分に扱えますよ! という事になり、更には信長死亡後の秀吉・家康が主役の「MISTER ジパング第三部・天下統一編」まで連載を引っ張れる算段も付くって奴ですよ。
ここまでやれば、「GS美神」が持つサンデー最長連載記録8年を破ることはほぼ確実です。多分このマンガ、十年以上連載続きますよ。十年ですよ十年。人生50年と申しますが、その5分の1をこのマンガと共に過ごすことになりかねませんよ?
皆さん、今から十年後の事を想像して見て下さい。十年経ってもなお、あなたはきっと「MISTER ジパング」を懲りもせずに読み続けており、「帰蝶姫萌え〜」とか「お市の方萌え〜」とか「ねね萌え〜」とか「淀君萌え〜」とかやってるに違いないんですよ? たかが1本のマンガと付き合うことが、あなたの人生を狂わせることになるかも知れないんですよ? 怖い考えになりましたか? これからの人生に絶望しましたか?
っつう訳で、我々椎名ファンとしては、今のうちに『オレはこれからの人生を「MISTER ジパング」一本で狂わされても構わねぇ!』という覚悟を決めておくか、もしくは「MISTER ジパング」の連載が「GS美神」程の長期連載にならないことをマンガの神と小学館に祈るか、そのどちらかを選択しておく必要があると思います。
迫り来る未来への選択! 歴史は我々に何をさせようとしているのか! 君ならどうする!(無意味なアオリ)
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